(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。全図を通じて同一の要素には同一の符号を付す。
【0020】
(複合磁性体100の構造)
本発明の一実施の形態に係る複合磁性体100は、典型的には、斜視図である
図1(a)に示すように、電気電子機器Pに搭載される素子Qに固定され、素子Qから放射さられる電磁ノイズを抑制するための部材である。素子Qは、
図1(a)に示すように、例えば基板Rに設けられて、電気電子機器Pに搭載される。
図1(a)に示していないが、基板Rには、通常、素子Q以外の素子、回路、配線などが設けられる。
【0021】
ここで、電気電子機器Pは、電力によって動作する機器であって、家電機器、産業用電気機器、医療機器、情報機器、デジタル機器などを含む。
【0022】
複合磁性体100は、シート状に成形加工されている。
【0023】
ここで、「成形加工」とは、予め定めた形状を維持し得る態様で、当該形状に形を整えられていることを意味する。「予め定めた形状を維持し得る態様」とは、外力、自重などで容易には変形しない態様や、外力、自重などで変形したとしても元の形状に復元できる態様などを意味している。
【0024】
「成形加工」される物は、例えば、実質的に変形しない物を含む他、変形したとしてもその変形の原因となる力を除けば元の形状に復元できる弾性体を含む。「成形加工」される物の例として、ゴム、樹脂を挙げることができる。これに対して、「成形加工」される物は、外力、自重などで容易に塑性変形する粘性体(例えば、粘土、粘土状の物)を除く。
【0025】
複合磁性体100の厚さは、適宜定められてよいが、本実施の形態では70μm(マイクロメートル)以上、1mm(ミリメートル)以下である。
【0026】
なお、
図1(a)では、分かり易くするため、複合磁性体100の厚さを厚く表しているが、素子Q、基板R、複合磁性体100の寸法の比率は適宜変更されてよい。
【0027】
本実施の形態では複合磁性体100は、可撓性を有する。そのため、
図1(a)に示すように、湾曲或いは屈曲した状態で素子Qに両面テープ、接着剤などによって固定することができる。
【0028】
本実施の形態に係る複合磁性体100は、その厚さ方向と平行な面における部分拡大断面図である
図1(b)に示すように、分散して含有される軟磁性金属粉101及び難燃剤102と、これらを結着する結合剤103とを含む。
【0029】
軟磁性金属粉101は、複合磁性体100に分散して含有される球状の粉末である。
【0030】
軟磁性金属粉101の材料は、電磁ノイズの抑制に適した軟磁性の金属粉末である。軟磁性金属粉101の材料として、Fe−Si−Al合金、純鉄、Fe−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Ni−Fe合金、Mo−Ni−Fe合金、アモルファス合金など採用することができ、特にFe−Si−Al合金が好ましい。
【0031】
軟磁性金属粉101の表面は、絶縁層で覆われてもよい。絶縁層は、例えば、金属粉末の表面を酸化させることで設けられる酸化被膜、有機物コートなどである。
【0032】
軟磁性金属粉101の平均粒径は、10μm未満が好ましく、特に、4μm以上、8μm以下が好ましい。ここで、平均粒径は、メジアン径(D50)であって、以下においても同様である。
【0033】
また、軟磁性金属粉101の体積占有率は、45vol%以上、68vol%以下であり、好ましくは、55vol%以上、68vol%以下である。
【0034】
難燃剤102は、複合磁性体100に分散して含有される球状の粉末であって、その平均粒径は、2μm未満である。
【0035】
なお、難燃剤102は、球状以外の適宜の
形状であってもよく、また球状である場合には、平均粒径が2μm以上であってもよい。
【0036】
難燃剤102の材料は、難燃性を有するものであればよいが、300度(℃)以上の分解温度を有する窒素系化合物が好ましい。難燃剤102の材料に好適な窒素系化合物には、例えば、テトラゾール系化合物、メラミン系化合物、或いは、これらの混合物を挙げることができる。難燃剤102に特に好ましい材料の例として、テトラゾール系化合物ではビステトラゾール・ジアンモニウム(C
2H
8N
10)を挙げることができ、メラミン系化合物ではメラミンシアヌレートを挙げることができる。
【0037】
難燃剤102の体積占有率は、12vol%以上、20vol%以下である。なお、難燃剤102の体積占有率は、これに限られず、適宜変更されてもよい。
【0038】
結合剤103は、上述のような軟磁性金属粉101及び難燃剤102を分散した状態で結着する。結合剤103の材料は、ハロゲンを含有せず粉末充填性が高い樹脂が望ましく、コストなどを考慮して適宜選択されるとよい。
【0039】
具体的な結合剤103の材料の例として、アクリル樹脂、アクリルゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、或いは、アクリロニトリルブタジエンゴム、或いは、例示した材料のうちの2種以上の材料の混合物を挙げることができる。架橋基を含まないアクリルゴムは、結合剤103の材料として特に望ましい。
【0040】
結合剤103の体積占有率は、軟磁性金属粉101及び難燃剤102の残部であればよい。なお、複合磁性体100が、他の添加物を含む場合には、軟磁性金属粉101、難燃剤102及び添加物の残部であればよい。
【0041】
これまで、本発明の一実施の形態に係る複合磁性体100の構成について説明した。ここから、一実施の形態に係る複合磁性体の製造方法について説明する。
【0042】
(複合磁性体の製造方法)
本実施の形態に係る複合磁性体の製造方法は、複合磁性体100を製造するための方法であって、
図2に示す工程を含む。複合磁性体の製造方法は、軟磁性金属粉101、難燃剤102、結合剤103を準備した後に開始される。
【0043】
図2に示すように、予め定められた配合率で軟磁性金属粉101と難燃剤102と結合剤103とが混錬機で混錬される(工程1)。これによって、結合剤103の中に軟磁性金属粉101と難燃剤102とが概ね均一に分散した混錬物が作製される。なお、軟磁性金属粉101及び難燃剤102以外の他に例えば添加剤を複合磁性体100に含有させる場合、添加剤は、工程1において添加されて混錬されるとよい。
【0044】
工程1で作製された混錬物が、予め定められた厚さのシート状に成形される(工程2)。これによって、成形体が作成される。詳細には例えば、工程1で作製された混錬物を溶剤で溶解したスラリ(塗液)を基材に塗布し乾燥させることによって、予め定められた厚さのシート状に成形される。
【0045】
工程2で作製された成形体が、例えば加熱プレス成形機によって、加熱しながら加圧される(工程3)。これによって、軟磁性金属粉101と難燃剤102とが分散して結合剤103に結着されてシート状に成形加工された複合磁性体100が作製される。
【0046】
工程3で作成される複合磁性体100において、軟磁性金属粉101の体積占有率は、45vol%以上、68vol%以下であり、好ましくは、55vol%以上、68vol%以下である。また、難燃剤102の体積占有率は、例えば、12vol%以上、20vol%以下である。軟磁性金属粉101及び難燃剤102の残部は、結合剤103である。なお、添加剤が含まれる場合、軟磁性金属粉101、難燃剤102及び添加剤の残部が、結合剤103であればよい。
【0047】
工程3における加熱条件は、適宜設定されてよく、例えば200度(℃)である。加圧条件は、適宜設定されてよく、例えば、設定された加熱条件の下で複合磁性体100を70μm以上、1mm以下の厚さのシート状に成形加工できる圧力が設定されるとよい。
【0048】
このように、本実施の形態に係る複合磁性体の製造方法によって、複合磁性体100を容易に製造することができる。
【0049】
これまで説明したように、本発明の一実施の形態に係る複合磁性体100によれば、以下の作用・効果を奏する。
【0050】
本実施の形態に係る複合磁性体100では、従来は高充填が困難と考えられていた球状の軟磁性金属粉101が、45vol%以上の高い体積占有率で含有され、難燃剤102とともにも結合剤103で結着されている。
【0051】
軟磁性金属粉101は、従来の扁平粉(扁平形状の粉末)ではなく、球状粉(球状の粉末)である。これにより、3GHz以上の帯域を含むGHz帯域の高周波電磁ノイズを良好に抑制することができる。これは、軟磁性金属粉101が扁平粉である場合よりも軟磁性金属粉101間の誘電率が小さくなり、球状粉の方が磁化が外部磁場へ追従し易く透磁率が向上し、その結果、3GHz以上の帯域を含むGHz帯域の高周波電磁ノイズが複合磁性体100を透過し難くなるためと考えられる。
【0052】
また、軟磁性金属粉101が45vol%以上の高い体積占有率で高充填される。これによっても、3GHz以上の帯域を含むGHz帯域の高周波電磁ノイズの抑制効果を向上させることができる。ここで、軟磁性金属粉101を高充填できる理由は、球状粉では比表面積が扁平粉よりも小さくなるため、扁平粉よりも少ない結合剤103で軟磁性金属粉101の各々の周囲を覆って十分に結着することができるためと考えられる。
【0053】
このように、3GHz以上の帯域を含むGHz帯域の高周波電磁ノイズを良好に抑制することが可能になる。
【0054】
これに加えて、本実施の形態に係る複合磁性体100は、難燃剤102を含む。複合磁性体100では、難燃剤102の体積占有率を従来より小さくしても、従来と同程度或いはそれ以上の難燃性を達成することができる。そのため、比較的少ない難燃剤102で、実用上十分な優れた難燃性を有する複合磁性体100を提供することが可能になる。この理由は、比表面積が扁平粉よりも小さい球状粉では、軟磁性金属粉101の表面の酸化に伴う反応熱の総量が比較的小さくなるためと考えられる。
【0055】
このように、優れた難燃性を有する複合磁性体100を提供することが可能になる。
【0056】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100では、球状の軟磁性金属粉101の含有率が68vol%以下である。これにより、上述の通り優れた難燃性が得られる程度の難燃剤102を含めつつ、結合剤103で十分に結着して、成形加工すること(成形後の形状を維持するような成形性をもたせて、予め定めた形状に形を整えること)ができる。そして、複合磁性体100は、シート状に成形加工されている。
【0057】
シート状に成形加工されていることにより、本願発明に係る複合磁性体100は、両面テープによる張り付け、接着剤による接着などで、配置箇所に容易に固定することができる。また、固定した後に、変形する可能性も低く、抑制対象とする電磁ノイズを確実に抑制することができる。
【0058】
このように、優れた取付性を有し、GHz帯域の高周波電磁ノイズを確実に抑制することが可能になる。
【0059】
従って、優れた難燃性及び取付性を有し、GHz帯域の高周波電磁ノイズを良好かつ確実に抑制することが可能になる。
【0060】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100では、軟磁性金属粉101が球状である。これによって、複合磁性体100の表面を滑らかにすることができる。従って、優れた外観を有する複合磁性体100を提供することが可能になる。
【0061】
さらに、実施の形態にて説明したように、複合磁性体100における軟磁性金属粉101の体積占有率は、55vol%以上、68vol%以下が好ましい。このように、球状の軟磁性金属粉101は、55vol%以上の体積占有率で高充填することができる。これによって、より一層良好に抑制することが可能になる。
【0062】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100は、可撓性を有する。
【0063】
本願発明に係る複合磁性体では軟磁性金属粉101は、上述の通り、球状であるため、扁平形状のものよりも少ない結合剤103で十分に結着される。その結果、軟磁性金属粉101が扁平粉である場合とは異なり、軟磁性金属粉101を高充填しても、折り曲げにも耐え得る程度に柔軟で、層間剥離も生じ難い複合磁性体100を得ることができる。
【0064】
複合磁性体100は、可撓性を有するので、湾曲又は屈曲した面に沿って容易に配置し、両面テープ、接着剤などで容易に固定することができる。
【0065】
従って、複合磁性体100を配置する箇所の形状に伴う制約が低減し、より優れた取付性をもたせることが可能になる。
【0066】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100に含まれる難燃剤102は、窒素系化合物である。窒素系化合物は、優れた難燃性を有する物質である。また、ハロゲン及びリンを含まないので、環境負荷も低い。従って、優れた難燃性をもたせつつ、環境負荷を低減することが可能になる。
【0067】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100に含まれる結合剤103は、アクリルゴムである。アクリルゴムは、耐熱性に優れ、柔軟性を有する。また、アクリルゴムは、ハロゲンを含まないので、環境負荷が低い。さらに、アクリルゴムは、ケイ素(Si)を実質的に含まないので、電子部品の接点障害の原因の1つとして考えられているシロキサンが生成される可能性も殆どない。
【0068】
従って、優れた耐熱性及び取付性をもたせつつ、環境負荷を軽減し、接点障害発生の可能性を低減することが可能になる。
【0069】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100に含まれる軟磁性金属粉101の平均粒径は、10μm未満である。
【0070】
軟磁性金属粉の平均粒径を10μm未満とすることによって、誘電率を低くし、透磁率を向上させることができる。その結果、GHz帯域の高周波電磁ノイズを、より良好に抑制することが可能になる。
【0071】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100に含まれる難燃剤102の平均粒径は、2μm未満である。
【0072】
難燃剤102の平均粒径を小さくすることで、複合磁性体100中で難燃剤102を均一に分散させることができる。また、複合磁性体100の単位体積当たりに含まれる難燃剤102全体の表面積をより大きくすることができる。
【0073】
従って、より優れた難燃性をもたせることが可能になる。
【0074】
さらに、本実施の形態に係る複合磁性体100は、厚さが70μm以上、1mm以下である。複合磁性体100が薄いシート状に成形加工されていることで、柔軟な複合磁性体100を得ることができる。従って、取り付ける箇所の形状に伴う制約をより一層低減させて、より優れた取付性をもたせることが可能になる。
【0075】
本実施の形態に係る電機電子機器Pは、複合磁性体100を含む。複合磁性体100によれば、上述した通り、優れた難燃性及び取付性を有し、GHz帯域の高周波電磁ノイズを良好かつ確実に抑制することが可能になる。従って、優れた難燃性を有し、製造が容易で、GHz帯域の高周波電磁ノイズの放射を良好かつ確実に抑制された電機電子機器Pを提供することが可能になる。
【0076】
また、本実施の形態に係る電機電子機器Pでは、上述したようなその他の複合磁性体100の作用・効果に伴う作用・効果を奏する。
【0077】
これまで、本発明の一実施の形態に係る複合磁性体100について説明したが、本発明は、これらに限定されず、適宜変形されてもよい。
【0078】
例えば、実施の形態では、複合磁性体100が素子Qに固定される例を説明したが、素子Qは、抑制対象となる電磁ノイズを放射するノイズ発生源の一例である。
【0079】
ノイズ発生源は、素子Qに限られず、例えば、基板Rに設けられる素子、回路、配線などであってもよく、導線などの電気部品であってもよい。また例えば、複合磁性体100は、ノイズ発生源に直接的に固定されるだけでなく、その周囲の部材などに固定されてもよい。さらに例えば、ノイズ発生源が導線である場合には、複合磁性体100は、その導線の周囲に巻き回して固定されてもよい。複合磁性体100は、上述のように優れた取付性をもつので、このような箇所にも容易に配置して固定することが可能になる。
【0080】
ここから、上述した実施の形態に係る複合磁性体100のより具体的な例(実施例)に係る複合磁性体100について説明する。
【0081】
(実施例1)
実施例1に係る複合磁性体100を構成する軟磁性金属粉101、難燃剤102、結合剤103のそれぞれの含有率は、体積占有率で、52vol%、15vol%、33vol%である。
【0082】
本実施例に係る軟磁性金属粉101は、Si(ケイ素)、Cr(クロム)、Fe(鉄)から構成され、SiとCrそれぞれの含有率が3.5±0.2mass%(質量パーセント)、4.5±0.2mass%であり、これらの残部がFeである。
【0083】
本実施例に係る軟磁性金属粉101の平均粒径は、6μmである。
【0084】
本実施例に係る難燃剤102は、平均粒径が5μm以下、緩め嵩比重0.1〜0.3g/ml(グラム/ミリリットル)、真比重が1.52g/ml(グラム/ミリリットル)のメラミンシアヌレートである。
【0085】
本実施例に係る結合剤103は、アクリルゴムである。
【0086】
本実施例に係る軟磁性金属粉101は、上述の組成物(軟磁性金属粉101、難燃剤102、結合剤103)が準備された後に、実施の形態で説明した工程1〜3を経て製造される。
【0087】
詳細には、本実施例に係る工程1では、結合剤103の中に軟磁性金属粉101と難燃剤102とが概ね均一に分散するように、準備した組成物が混錬機で混錬される。
【0088】
本実施例に係る工程2では、工程1で得られた混錬物を溶剤で溶解することでスラリが作られる。このスラリは、基材である樹脂シートに塗布される。塗布されたスラリを乾燥させた後に、乾燥したスラリから樹脂シートを剥離する。これによって、混錬物がシート状に成形されたものである成形体が得られる。
【0089】
本実施例に係る工程3では、工程2で作製された成形体を、加熱プレス成形機を用いて300度の成形温度で加熱するとともに加圧する。これによって、厚さ0.3mmのシート状に成形加工された、本実施例に係る複合磁性体100が作製される。
【0090】
(実施例2)
実施例2に係る複合磁性体100は、軟磁性金属粉101の平均粒径を除いて、実施例1に係る複合磁性体100と同様に構成される。本実施例に係る軟磁性金属粉101の平均粒径は、10μmである。
【0091】
また、本実施例に係る複合磁性体100は、準備される軟磁性金属粉101の平均粒径が10μmであり、この点を除いて、実施例1に係る複合磁性体100と同様の方法で作製される。
【0092】
(実施例1及び2に係る複合磁性体100のノイズ抑制性能の比較)
図3は、実施例1及び2に係る複合磁性体100の各々について、実験により得られた周波数特性の結果を示す図である。
図3A,3B及び3Cのそれぞれは、実施例1及び2に係る複合磁性体100の透磁率μの周波数特性、誘電率εの周波数特性、ノイズ抑制度の周波数特性を示す。
【0093】
図3A,3B及び3Cの横軸は、いずれも、周波数(単位は、[MHz](メガヘルツ))である。
【0094】
図3Aの縦軸は、透磁率μである。ここで、透磁率μは、透磁率の実部、虚部のそれぞれをμ’、μ’’とした場合に、次の式(1)から求められる値である。式(1)において、「^」はべき乗を表す。
【0095】
μ=(μ’^2+μ’’^2)^(1/2) ・・・・・ 式(1)
【0096】
図3Aでは、実施例1に係る複合磁性体100に関する透磁率μの周波数特性を実線104aで示し、実施例2に係る複合磁性体100に関する透磁率の特性を点線105aで示す。
【0097】
図3Bの縦軸は、誘電率εの実部ε’及び虚部ε’’である。
【0098】
図3Bでは、実施例1に係る複合磁性体100に関する誘電率εの実部ε’の特性を実線104bで示し、その虚部ε’’の特性を実線104cで示す。また、
図3Bでは、実施例2に係る複合磁性体100に関する誘電率の実部ε’の特性を点線105bで示し、その虚部ε’’の特性を点線105cで示す。
【0099】
図3Cの縦軸は、ノイズ抑制度であり、その単位は、[dB](デシベル)である。ここで、ノイズ抑制度は、ノイズ源から放射される高周波電磁ノイズが複合磁性体100を配置した場合に抑制される度合いを示す値である。
【0100】
図3Cでは、実施例1に係る複合磁性体100に関するノイズ抑制度の周波数特性を実線104dで示し、実施例2に係る複合磁性体100に関するノイズ抑制度の周波数特性を点線105dで示す。
【0101】
一般的に、ノイズ抑制性能の観点からは、透磁率μは大きいほど望ましい。また、誘電率εは、小さい程磁化が外部磁場へ追従し易く、透磁率μの向上につながると考えられるので、小さいほど望ましい。
【0102】
図3Aを参照すると、実施例1,2に係る複合磁性体100の透磁率μは、概ね1.5GHz未満のGHz帯域では同程度である。しかし、透磁率μは、概ね1.5GHzを超える高周波帯域では、実施例1に係る複合磁性体100の方が実施例2に係る複合磁性体100よりも大きい。
【0103】
また、
図3Bを参照すると、誘電率ε’,ε’’は、実施例1に係る複合磁性体100の方が、GHz帯域の全体で、実施例2に係る複合磁性体100よりも小さい。
【0104】
そのため、ノイズ抑制性能の観点からは、透磁率μ、誘電率ε’,ε’’のいずれについても、実施例1に係る複合磁性体100の方が、実施例2に係る複合磁性体100よりも優れている。
【0105】
そして、
図3Cを参照すると、ノイズ抑制度は、実施例1に係る複合磁性体100の方が、GHz帯域の全体で、実施例2に係る複合磁性体100よりも大きい。すなわち、ノイズ抑制度を参照しても、透磁率μ、誘電率ε’,ε’’の周波数特性から推測されるように、実施例1に係る複合磁性体100の方が、実施例2に係る複合磁性体100よりも優れている。
【0106】
このような実施例1,2に係る複合磁性体100のノイズ抑制性能を比較した結果から、軟磁性金属粉101の平均粒径が6μmの近傍である場合に、優れたノイズ抑制性能を得られることが分かる。
【0107】
従って、複合磁性体100に含まれる軟磁性金属粉101の平均粒径は、4μm以上、8μm以下が特に好ましい。これによって、誘電率をさらに低くして、透磁率をさらに向上させることができる。その結果、GHz帯域の高周波電磁ノイズを、より一層良好に抑制することが可能になる。
【0108】
(実施例3〜7)
実施例3〜7に係る複合磁性体100に含まれる結合剤103、難燃剤102のそれぞれの含有率は、体積占有率で、33vol%、10vol%であり、残部は、軟磁性金属粉101である。
【0109】
実施例3〜7に係る軟磁性金属粉101、難燃剤102及び結合剤103の詳細は、実施例1に係るそれぞれと同じである。
【0110】
実施例3〜7に係る複合磁性体100は、実施例1に係る複合磁性体100と同様の工程1〜3を経て作製される。ただし、シート状に成形加工されて最終的に製造される複合磁性体100の厚さは、実施例3〜7に係る複合磁性体100のそれぞれについて、0.1mm、0.2mm、0.3mm、
0.5mm、
1.0mmである。
【0111】
(実施例8〜12)
実施例8〜12に係る複合磁性体100は、これに含まれる難燃剤102の体積占有率が15%であることを除いて、実施例3〜7に係る複合磁性体100のそれぞれと同じである。
【0112】
すなわち、実施例8〜12に係る複合磁性体100に含まれる結合剤103、難燃剤102の含有率は、体積占有率でそれぞれ33vol%、15vol%であり、残部は、軟磁性金属粉101である。また、実施例8〜12に係る軟磁性金属粉101、難燃剤102及び結合剤103の詳細は、実施例1に係るそれぞれと同じである。
【0113】
実施例8〜12に係る複合磁性体100は、実施例1に係る複合磁性体100と同様の工程1〜3を経て作製される。ただし、シート状に成形加工されて最終的に製造される複合磁性体100の厚さは、実施例8〜12に係る複合磁性体100のそれぞれについて0.1mm、0.2mm、0.3mm、
0.5mm、
1.0mmである。
【0114】
(実施例13〜17)
実施例13〜17に係る複合磁性体100は、これに含まれる難燃剤102の体積占有率が20%であることを除いて、実施例3〜7に係る軟磁性金属粉101のそれぞれと同じである。
【0115】
すなわち、実施例13〜17に係る複合磁性体100に含まれる結合剤103、難燃剤102の含有率は、体積占有率でそれぞれ33vol%、20vol%であり、残部は、軟磁性金属粉101である。また、実施例13〜17に係る軟磁性金属粉101、難燃剤102及び結合剤103の詳細は、実施例1に係るそれぞれと同じである。
【0116】
実施例13〜17に係る複合磁性体100は、実施例1に係る複合磁性体100と同様の工程1〜3を経て作製される。ただし、シート状に成形加工されて最終的に製造される複合磁性体100の厚さは、実施例13〜17に係る複合磁性体100のそれぞれについて0.1mm、0.2mm、0.3mm、
0.5mm、
1.0mmである。
【0117】
(実施例3〜17に係る複合磁性体100の難燃性評価)
燃焼性に関する規格であるUL94規格(Tests for Flammability of Plastic Materials for Parts in Devices and Appliances.)に従って、実施例3〜17に係る複合磁性体100の各々が等級V0に相当する難燃性を有するか否かを試験した。
【0118】
UL94規格では、垂直に保持した試料の下端に10秒間ガスバーナーの炎を接炎させる、燃焼が30秒以内に止まった場合に、さらに10秒間接炎させることで、難燃性の試験が行われる。
【0119】
そして、当該試料の難燃性の等級がV0であると評価される場合は、次の(i)〜(v)のいずれかに該当する場合である。
【0120】
(i)いずれの接炎の後も10秒以上燃焼を続ける試料がない場合
(ii)5個の試料に対する10回の接炎に対する総燃焼時間が50秒を超えない場合
(iii)固定用クランプの位置まで燃焼する試料がない場合
(iv)試料の下方に置かれた脱脂綿を発火させる 燃焼する粒子を落下させる試料がない場合
(v)2回目の接炎の後に、30秒以上赤熱を続ける試料がない場合
【0121】
このような試験の結果、実施例3〜17に係る複合磁性体100のいずれも優れた難燃性を示した。特に実施例3〜4、8〜12及び13〜17に係る複合磁性体100では、上述の難燃性の等級V0の基準を満たした。
【0122】
すなわち、複合磁性体100の厚さが0.1mm〜0.2mm程度である場合には、難燃剤102の含有率が10%程度であっても、等級V0という極めて優れた難燃性を達成することができた。また、難燃剤102の含有率が15%又は20%である場合には、複合磁性体100の厚さが0.1mm〜1.0mmのいずれの場合でも、等級V0の極めて優れた難燃性を達成することができた。
【0123】
従って、複合磁性体100に含まれる難燃剤102は、体積占有率で12vol%以上、20vol%以下が好ましい。これによって、厚さが0.1mm〜1.0mmのシート状に成形加工された複合磁性体100において、等級V0或いはこれに近い難燃性を達成することができる。従って、極めて優れた難燃性をもたせることが可能になる。
【0124】
以上、本発明の一実施の形態、実施例、変形例などについて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明は、例えば、実施の形態に変更を加えた態様、実施の形態と変形例とを適宜組み合わせた態様、これらの態様に適宜変更を加えた態様などを含む。
【解決手段】複合磁性体100は、分散して含有される球状の軟磁性金属粉101と、分散して含有される難燃剤102と、軟磁性金属粉101及び難燃剤102を結着する結合剤とを含む。複合磁性体100は、シート状に成形加工されている。軟磁性金属粉101の体積占有率は、45vol%以上、68vol%以下である。