(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記吸収層は、前記反射層上に形成され且つ誘電材料からなる誘電体層と、前記誘電体層上に形成され且つ前記光吸収性材料からなる光吸収層と、からなる、請求項1から3いずれかに記載の偏光板。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳しく説明する。なお、第2実施形態以降の説明において、第1実施形態と共通する構成については同一又は対応する符号を付し、その説明を省略する。
【0024】
<第1実施形態>
[偏光板]
本発明の第1実施形態に係る偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する無機偏光板であって、透明基板と、使用帯域の光の波長よりも短いピッチ(周期)で透明基板上に配列されて所定方向に延在する格子状凸部と、を備える。格子状凸部は、透明基板側から順に、反射層と、吸収層と、を有する。また、第1実施形態に係る偏光板は、格子状凸部の表面及び格子状凸部間に形成される溝の底面部の表面を覆う保護膜を備える。
【0025】
図1は、第1実施形態に係る偏光板1を示す断面模式図である。
図1に示すように、偏光板1は、使用帯域の光に透明な透明基板10と、透明基板10の一方の面上に使用帯域の光の波長よりも短いピッチPで配列された格子状凸部11と、を備える。格子状凸部11は、透明基板10側から順に、反射層12と、吸収層13と、を有する。即ち、偏光板1は、反射層12、吸収層13が透明基板10側からこの順に積層されて形成された格子状凸部11が、透明基板10上に一次元格子状に配列されたワイヤグリッド構造を有する。
【0026】
ここで、
図1に示すように格子状凸部11の延在する方向(所定方向)を、Y軸方向と称する。また、Y軸方向に直交し、透明基板10の主面に沿って格子状凸部11が配列する方向を、X軸方向と称する。この場合、偏光板1に入射する光は、透明基板10の格子状凸部11が形成されている側において、好適にはX軸方向及びY軸方向に直交する方向から入射する。
【0027】
偏光板1は、透過、反射、干渉及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、Y軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、X軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。従って、Y軸方向が偏光板1の吸収軸の方向であり、X軸方向が偏光板1の透過軸の方向である。
【0028】
偏光板1の格子状凸部11が形成された側から入射した光は、吸収層13を通過する際に一部が吸収されて減衰する。吸収層13を透過した光のうち、偏光波(TM波(P波))は高い透過率で反射層12を透過する。一方、吸収層13を透過した光のうち、偏光波(TE波(S波))は反射層12で反射される。反射層12で反射されたTE波は、吸収層13を通過する際に一部は吸収され、一部は反射して反射層12に戻る。また、反射層12で反射されたTE波は、吸収層13を通過する際に干渉して減衰する。以上のようにして、偏光板1は、TE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性が得られる。
【0029】
格子状凸部11は、
図1に示すように各一次元格子の延在するY軸方向(所定方向)から見たとき、つまり所定方向に直交する断面視で、矩形状に形成される。本実施形態の偏光板1では、グリッド先端部は矩形状の吸収層13で構成され、グリッド脚部は矩形状の反射層12で構成される。
【0030】
ここで、偏光板1を格子状凸部11の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、格子状凸部11のX軸方向の繰り返し間隔をピッチPと称する。格子状凸部11のピッチPは、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、格子状凸部11のピッチPは、例えば、100nm〜200nmが好ましい。この格子状凸部11のピッチPは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチPを測定し、その算術平均値を格子状凸部11のピッチPとすることができる。
【0031】
透明基板10としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm〜810nm程度の可視光が挙げられる。
【0032】
透明基板10の主面形状は特に制限されず、目的に応じた形状(例えば、矩形形状)が適宜選択される。透明基板10の平均厚みは、例えば、0.3mm〜1mmが好ましい。
【0033】
透明基板10の構成材料としては、屈折率が1.1〜2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、サファイア等が挙げられる。コスト及び透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。
【0034】
また、熱伝導性の観点からは、熱伝導性が高い水晶やサファイアを用いることが好ましい。これにより、強い光に対して高い耐光性が得られ、発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光板として好ましく用いられる。
【0035】
なお、水晶等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行方向又は垂直方向に格子状凸部11を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)の屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0036】
反射層12は、透明基板10上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた金属膜が配列されてなるものである。より詳しくは、反射層12は、透明基板10から垂直に延びている。この反射層12は、ワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、反射層12の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、反射層12の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0037】
反射層12の構成材料としては、使用帯域の光に対して反射性を有する光反射性材料であれば特に制限されず、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。中でも、反射層12は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されることが好ましい。なお、これらの金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で反射層12を構成してもよい。反射層12の膜厚は、特に制限されず、例えば、100nm〜300nmが好ましい。本実施形態では、反射層12の幅は吸収層13の幅と同一に設定されている。
【0038】
吸収層13は、反射層12上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びて配列されたものである。吸収層13の構成材料としては、金属材料や半導体材料等の光学定数の消衰定数が零でない、光吸収作用を持つ光吸収性材料の1種以上が挙げられ、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β−FeSi
2、MgSi
2、NiSi
2、BaSi
2、CrSi
2、CoSi
2、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板1は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。中でも、吸収層13は、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0039】
吸収層13として半導体材料を用いる場合には、吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、バンドギャップエネルギーが使用帯域以下であることが必要である。例えば、可視光で使用する場合、波長400nm以上での吸収、即ち、バンドギャップとしては3.1ev以下の材料を使用する必要がある。
【0040】
吸収層13の膜厚は、特に制限されず、例えば、10nm〜100nmが好ましい。吸収層13は、蒸着法やスパッタ法により、高密度の膜として形成可能である。
【0041】
また、吸収層13は、光吸収性材料と誘電材料の混合層からなるものでもよい。光吸収性材料と誘電材料の混合比を変更することにより光吸収性を変更できるため、光反射率の抑制が可能である。光吸収性材料と誘電材料は、膜厚方向に均一に混合されていてもよく、両者の混合比(含有比率)が膜厚方向に変化するように構成してもよい。このときの組成勾配は、線形的に変化するものであってもよく、非線形的(例えば、ステップ式)に変化するものであってもよい。光吸収性材料の含有比率が反射層12から離隔するに従って増加するように吸収層13を構成するのが好ましく、これにより、偏光板1の吸収軸反射率Rsを低下させて透過軸透過率Tpを高めることができる。
【0042】
光吸収性材料としては上述のものが挙げられ、誘電材料としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。中でも、誘電材料としてはSi酸化物が好ましく用いられる。
【0043】
偏光板1は、上述のような微細なワイヤグリッド構造を有する無機偏光板であるため、使用環境の影響を受け易く、耐酸化性や耐湿性等の高い耐久性が求められる。そのため偏光板1は、耐久性向上のため、格子状凸部11の表面及び格子状凸部11間に形成される溝の底面部の表面を覆う保護膜20を備える。保護膜20は、有機材料からなる有機膜を含む2種類以上の保護膜で構成される。具体的には
図1に示すように、保護膜20は、第1保護膜21と、第2保護膜22と、第3保護膜23と、を備える。
【0044】
第1保護膜21は、反射層12の表面を覆うように形成される。より詳しくは、第1保護膜21は、格子状凸部11間に形成される溝の側面部を構成する反射層12の側面を覆うように形成される。この第1保護膜21は、有機材料又は無機材料からなる膜で構成される。具体的には、第1保護膜21としては、ホスホン酸系撥水膜又はアルミニウム系酸化膜からなるものが好ましく用いられる。
【0045】
ホスホン酸系撥水膜としては、FOPA(perfluoro−n−octylphosphonic acid)からなる撥水膜やODPA(Octadecylphosphonic acid)からなる撥水膜が好ましく例示される。ホスホン酸系撥水膜は、CVD(Chemical Vapor Deposition)やALD(Atomic Layer Deposition)、ディッピング等により形成可能である。
【0046】
また、アルミニウム系酸化膜としては、アルミナ膜が好ましく例示される。アルミニウム系酸化膜は、アルミニウムからなる反射層12を熱処理することで、その表面にアルミナ膜を形成可能である。このアルミニウム系酸化膜は、撥水性は無いが反射層12表面の酸化を防止して保護する機能を有する。
【0047】
第2保護膜22は、格子状凸部11間に形成される溝の底面部の表面を覆うように形成される。より詳しくは、上記溝の底面部を構成する透明基板10の表面と、反射層12の透明基板10側の端部における側面を覆うように形成される。この第2保護膜22は、有機材料からなる有機膜で構成される。具体的には、第2保護膜22としては、有機シラン系材料からなる有機シラン系撥水膜が好ましく用いられる。中でも、フッ素系シラン化合物のFDTS(パーフルオロデシルトリエトキシシラン)や非フッ素系シラン化合物のOTS(オクタデシルトリクロロシラン)が好ましく用いられる。
【0048】
溝の底面部を構成する透明基板10としてガラスを用いた場合、上記有機シラン系撥水膜はSiとOが結合して自己組織化することで、ガラス表面に強固に密着して形成される。例えば、FDTSは可視光での屈折率が1.4程度でガラスの屈折率に近いため、光学特性上、悪影響を及ぼすことがない。この第2保護膜22は、CVDやALD、ディッピング等により形成可能である。
【0049】
第3保護膜23は、吸収層13の表面を覆うように形成される。より詳しくは、グリッド先端部を構成する吸収層13の上面及び側面を覆うように形成される。この第3保護膜23は、有機材料からなる有機膜で構成される。具体的には、第3保護膜23としては、上述の第2保護膜22と同様に、有機シラン系材料からなる有機シラン系撥水膜が好ましく用いられ、中でも、フッ素系シラン化合物のFDTSや非フッ素系シラン化合物のOTSが好ましく用いられる。この第3保護膜23は、CVDやALD、ディッピング等により形成可能である。本実施形態の第3保護膜23は、第2保護膜22と同一の材料で構成されることが好ましい。
【0050】
ここで、アルミニウムからなる反射層12と、(Fe5%)Siからなる吸収層13と、SiO
2からなる透明基板10(即ち、溝の底面部)の各表面に対して、FDTS膜を形成したときの撥水性について説明する。具体的には、これらの各表面にCVD法によりFDTS膜を形成したときの撥水性について、以下の測定条件により接触角を測定して評価した。評価結果を表1に示す。
[接触角測定条件]
測定機器:共和界面科学株式会社製接触角測定器「DM700R」
測定条件:液滴法(液体:水、液量:2〜3μl、測定までの待ち時間:1秒)
解析方法:θ/2法
【0052】
表1中、「FDTS処理前」とはFDTS膜を形成する前のものを意味し、「FDTS処理後」とはFDTS膜を形成した後のものを意味し、「300℃アニール後」とはFDTS膜を形成した後に300℃のアニール熱処理を実施したものを意味する。また、表1中の接触角(°)は、上述の接触角測定条件による測定結果を示している。
【0053】
表1の結果から明らかであるように、アルミニウム、(Fe5%)Si及びSiO
2いずれにおいても、表面にFDTS膜を形成することにより接触角が飛躍的に大きくなり、撥水性が大きく向上することが分かる。また、(Fe5%)Si及びSiO
2いずれにおいても、高温での熱処理後も高い撥水性が維持されており、高い耐久性(耐熱性)を有することが確認できる。
【0054】
これに対してアルミニウムにおいては、FDTS膜形成直後は高い撥水性を示すが、高温で熱処理すると撥水性は極端に低下し、FDTS処理前よりも撥水性が低下することが分かる。これは、アルミニウム表面とFDTS膜との密着性が低いため、高温での熱処理によりFDTS膜が剥離してアルミニウム表面が酸化し、アルミナ膜が形成されているものと考えられる。この結果から、アルミニウムからなる反射層12の表面にFDTS膜を形成しても、高い耐久性が得られないことが確認できる。この対応策として、FDTS膜を形成する前に偏光板上にシリカ膜をコートすることが考えられるが、この場合には偏光板自体の膜厚が増すことになり、光散乱等により偏光板の光学性能が低下する原因になるため好ましい対応策とは言えない。
【0055】
そこで本実施形態では、保護膜20を形成する対象の構成材料に応じて、保護膜20の種類を変更し、少なくとも2種類以上の保護膜を偏光板1の最外層に形成することを特徴とする。より詳しくは、上述したように、例えばアルミニウムからなる反射層12の表面には第1保護膜21としてFOPA膜やODPA膜を形成し、例えばガラスからなる溝の底面部(透明基板10)の表面やFeSiとSiO
2の混合物からなる吸収層13の表面には第2、第3保護膜22,23として有機膜のFDTS膜を形成する。これにより、熱処理後も良好な撥水機能や酸化防止機能を維持でき、高い耐久性を有する偏光板1が実現可能となっている。なお、保護膜20の形成方法については、後段で詳述する。
【0056】
[偏光板の製造方法]
本実施形態に係る偏光板1の製造方法は、反射層形成工程と、吸収層形成工程と、エッチング工程と、保護層形成工程と、を有する。
【0057】
反射層形成工程では、透明基板10上に反射層12を形成する。吸収層形成工程では、反射層形成工程で形成された反射層12上に、吸収層13を形成する。これらの各層形成工程では、例えばスパッタリング法や蒸着法により、各層を形成可能である。
【0058】
エッチング工程では、上述の各層形成工程を経て形成された積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板10上に配列される格子状凸部11を形成する。具体的には、例えばフォトリソグラフィ法やナノインプリント法により、一次元格子状のマスクパターンを形成する。そして、上記積層体を選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板10上に配列される格子状凸部11を形成する。エッチング方法としては、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0059】
ここで、
図2A〜
図2Cは、本実施形態に係る偏光板1の製造方法を説明するための図である。より詳しくは、これら
図2A〜
図2Cは、本実施形態に係る偏光板1の製造方法における保護膜形成工程を示している。これら
図2A〜
図2Cを参照して、以下、本実施形態の保護膜形成工程を説明する。
【0060】
保護膜形成工程では、先ず、
図2Aに示すように、CVDやALDにより第2保護膜22を格子状凸部11間の溝の底面部の表面に形成する。次いで、
図2Bに示すように、反射層12及び吸収層13の表面を酸素プラズマやArイオンエッチング等でクリーニングした後に、CVDやALDにより第1保護膜21を反射層12の表面に形成する。次いで、
図2Cに示すように、吸収層13の表面を酸素プラズマやArイオンエッチング等でクリーニングした後に、CVDやALDにより、第3保護膜23を吸収層13の表面に形成する。これにより、残膜の影響を最小限化できる。
【0061】
また、例えば第1保護膜21としてアルミナ膜を形成する場合には、先ず、偏光板作製後に酸素含有雰囲気で加熱することにより、反射層12の表面にアルミナ膜を形成する。次いで、CVDやALDにより、第2保護膜22を格子状凸部11間の溝の底面部の表面に形成する。そして、吸収層13の表面を酸素プラズマやArイオンエッチング等でクリーニングした後に、CVDやALDにより、第3保護膜23を吸収層13の表面に形成する。
【0062】
以上の各工程を経ることにより、本実施形態に係る偏光板1が製造可能である。
【0063】
[光学機器]
本実施形態に係る光学機器は、上述した本実施形態に係る偏光板1を備える。光学機器としては、液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ、デジタルカメラ等が挙げられる。本実施形態に係る偏光板1は、有機偏光板に比べて耐熱性に優れる無機偏光板であるため、耐熱性が要求される液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイ等の用途に好適である。
【0064】
本実施形態に係る光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板の少なくとも1つが本実施形態に係る偏光板1であればよい。例えば、本実施形態に係る光学機器が液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側及び出射側に配置される偏光板の少なくとも一方が本実施形態に係る偏光板1であればよい。
【0065】
<第2実施形態>
図3は、第2実施形態に係る偏光板1Aを示す断面模式図である。
図3に示すように、第2実施形態に係る偏光板1Aは、吸収層13Aの形状が先細形状である点と、透明基板10上に台座10aを備える点と、第2保護膜22Aと第3保護膜23Aの構成材料が異なる点が、第1実施形態と相違し、これら相違点以外は第1実施形態と同一の構成である。
【0066】
具体的には、本実施形態の吸収層13Aは、
図3に示すようにY軸方向(所定方向)から見たとき、つまり所定方向に直交する断面視で、先細形状を有する。即ち、グリッド先端部を構成する吸収層13Aは、所定方向から見たときに、先端側(透明基板10の反対側)ほど幅が狭くなる方向に側面が傾斜した先細形状を有する。より詳しくは、本実施形態の吸収層13Aは、等脚台形状を有する。この吸収層13Aの構成材料は、第1実施形態と同様であり、光吸収性材料から構成してもよく、光吸収性材料と誘電材料の混合層(均一又は組成勾配あり)で構成してもよい。あるいは、後述する第3実施形態のように光吸収層と誘電体層の2層構造としてもよい。
【0067】
グリッド先端部を構成する吸収層13Aを先細形状とすることにより、TM波の透過率を高めることができる。このようにTM波の透過率が高まる理由としては、グリッド先端部を先細形状とすることにより、角度バラツキを持って入射してくる光に対して散乱を抑制する効果があるためと考えられる。
【0068】
台座10aは、
図3に示すようにY軸方向(所定方向)から見たとき、つまり所定方向に直交する断面視で、反射層12と幅が略同一の矩形状を有する。ただし、これに限定されず、例えば所定方向から見たときに、透明基板10側から反射層12側に向かうに従い幅が狭まるように側面が傾斜した台形状を有していてもよい。このときの台座10aの最小幅は反射層12の幅以上に設定される。台座10aの膜厚は、特に制限されず、例えば10nm〜100nmが好ましい。
【0069】
台座10aは、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が透明基板10上に配列されてなるものである。台座10aの構成材料としては、使用帯域の光に対して透明であり、透明基板10よりも屈折率の小さい材料が好ましく、中でも、SiO
2等のSi酸化物が好ましい。
【0070】
台座10aは、例えば、透明基板10上に形成された上記の誘電体からなる下地層(不図示)に対して、ドライエッチングによる等方性エッチングと異方性エッチングとのバランスを段階的に変化させ、エッチング残りを出さないようにオーバーエッチング処理することによって形成可能である。この場合、台座10aは透明基板10上に形成された下地層上に配置される。
【0071】
また、本実施形態では、第2保護膜22Aと第3保護膜23Aの構成材料が異なっている。具体的には、第3保護膜23Aは第1実施形態の第3保護膜23Aと同様の構成であるのに対して、第2保護膜22AはSOG(Spin on Glass)膜で構成されている。即ち、本実施形態の偏光板1Aは、その表面が3種類の保護膜により保護されており、各層の構成材料により適した保護膜を採用でき、耐久性をより高めることが可能となっている。
【0072】
本実施形態の偏光板1Aは、エッチング工程と保護膜形成工程の一部が相違する以外は、第1実施形態の製造方法と同様の製造方法により製造可能である。
具体的には、エッチング工程において、エッチング条件(ガス流量、ガス圧、出力、透明基板の冷却温度)を最適化することにより、吸収層13Aの側面に傾斜を持たせた先細形状を形成可能である。
また、保護膜形成工程において、まず、偏光板作製後にSOGをスピンコートによりコーティングした後、全体を酸素プラズマやF系プラズマでエッチングする。溝の底面部のSOG膜が最も厚くなるため、先にグリッド先端側のSOG膜がエッチングされ、溝の底面部にのみSOG膜を残存させることができる。次いで、第1保護膜21A、第3保護膜23Aを第1実施形態と同様に形成することで、3種類の保護膜を形成可能である。
【0073】
本実施形態の偏光板1Aによれば、第1実施形態の偏光板1と同様の効果が奏される。また、本実施形態の偏光板1Aは、第1実施形態の偏光板1と同様に種々の光学機器に適用可能である。
【0074】
<第3実施形態>
図4は、第3実施形態に係る偏光板1Bを示す断面模式図である。
図4に示すように、第3実施形態に係る偏光板1Bは、吸収層13Bの構成が第1実施形態と相違する。具体的には、第3実施形態に係る偏光板1Bの吸収層13Bは、反射層12上に形成され且つ誘電材料からなる誘電体層131と、この誘電体層131上に形成され且つ光吸収性材料からなる光吸収層132と、からなる。
【0075】
誘電体層131は、反射層12上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が配列されてなるものである。誘電体層131は、光吸収層132で反射した偏光に対して、光吸収層132を透過して反射層12で反射した偏光の位相が半波長ずれる膜厚で形成される。具体的には、誘電体層131の膜厚は、偏光の位相を調整して干渉効果を高めることが可能な1〜500nmの範囲で適宜設定される。
【0076】
誘電体層131を構成する誘電材料としては、SiO
2等のSi酸化物、Al
2O
3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、等の金属酸化物、MgF
2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、又はこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。中でも、誘電体層131は、Si酸化物で構成されることが好ましい。
【0077】
誘電体層131の屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。反射層12の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体層131の材料を選択することで、偏光板特性を制御することができる。また、誘電体層131の膜厚や屈折率を適宜調整することにより、反射層12で反射したTE波について、光吸収層132を透過する際に一部を反射して反射層12に戻すことができ、光吸収層132を通過した光を干渉により減衰させることができる。このようにしてTE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性を得ることができる。
【0078】
光吸収層132は、上述の光吸収性材料からなる。この光吸収層132は、従来公知の製膜方法により形成可能である。
【0079】
偏光板1Bは、誘電体層131と光吸収層132との間に、拡散バリア層を有していてもよい。即ちこの場合には、格子状凸部11Bは、透明基板10側から順に、反射層12と、誘電体層131と、拡散バリア層と、光吸収層132と、を有する。拡散バリア層を有することにより、光吸収層132における光の拡散が防止される。この拡散バリア層は、Ta、W、Nb、Ti等の金属膜で構成される。
【0080】
本実施形態の偏光板1Bは、吸収層形成工程が相違する以外は第1実施形態と同様の製造方法により製造可能である。
本実施形態の吸収層形成工程では、従来公知の製膜法により、誘電体層を形成した後に、光吸収層を形成する。これにより、偏光板1Bが製造可能である。
【0081】
本実施形態の偏光板1Bによれば、第1実施形態の偏光板1と同様の効果が奏される。また、本実施形態の偏光板1Bは、第1実施形態の偏光板1と同様に種々の光学機器に適用可能である。
【0082】
<第4実施形態>
図5は、第4実施形態に係る偏光板1Cを示す断面模式図である。
図5に示すように、第4実施形態に係る偏光板1Cは、吸収層及び第3保護膜を備えていない点が1実施形態と相違する以外は、第1実施形態と同様の構成である。
【0083】
本実施形態の偏光板1Cによれば、第1実施形態の偏光板1と同様の効果が奏される。また、本実施形態の偏光板1Cは、第1実施形態の偏光板1と同様に種々の光学機器に適用可能である。
【0084】
なお、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良は本発明に含まれる。
例えば本発明の偏光板の用途は、液晶プロジェクタに限られない。透過軸方向の偏光の透過率力が高い偏光板として、種々の用途に利用することが可能である。