特許第6722904号(P6722904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722904
(24)【登録日】2020年6月25日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】ビソクラミス属に属する菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6895 20180101AFI20200706BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20200706BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20200706BHJP
   C12N 15/60 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C12Q1/6895 ZZNA
   C12Q1/6813 Z
   C12Q1/686 Z
   C12N15/60
【請求項の数】2
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-125301(P2015-125301)
(22)【出願日】2015年6月23日
(65)【公開番号】特開2017-6053(P2017-6053A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】591116036
【氏名又は名称】アヲハタ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507234438
【氏名又は名称】公立大学法人県立広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】有馬 寿英
(72)【発明者】
【氏名】枳穀 豊
(72)【発明者】
【氏名】中川 弘之
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−250746(JP,A)
【文献】 特開2010−004880(JP,A)
【文献】 木下哲史、外4名,「PCR法を利用したTalaromyces属の検出について」,日本食品微生物学会学術総会講演要旨集,2014年 9月 1日,Vol.35,p.116,[D-2-12]欄
【文献】 木下哲史、外2名,「PCR法によるカビ検出技術に関する遺伝子領域の検討」,日本食品微生物学会学術総会講演要旨集,2012年10月25日,Vol.33,p.76,[1D10]欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビソクラミス属に属する菌を属レベルで検出する検出方法であって、
配列番号1に記載の塩基配列表されたオリゴヌクレオチド、及び配列番号2に記載の塩基配列表されたオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも一方のオリゴヌクレオチドを、検体に含まれる核酸にハイブリダイズさせ、
前記オリゴヌクレオチドが前記核酸にハイブリダイズした場合に、前記検体に、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのうちの少なくとも一つが含まれていると判定する
ことを特徴とする
ビソクラミス属に属する菌の検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のビソクラミス属に属する菌の検出方法であって、
前記核酸にハイブリダイズさせる工程では、配列番号1に記載の塩基配列表されたオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列表されたオリゴヌクレオチドとをプライマー対としてPCR法により前記検体のイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子領域における少なくとも一部を増幅し、
前記遺伝子領域の少なくとも一部が増幅された場合に、前記検体に、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのうちの少なくとも一つが含まれていると判定する
ビソクラミス属に属する菌の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性を有するカビの一種であるビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌を検出するために用いられるオリゴヌクレオチド及びプライマー対、並びにビソクラミス属に属する菌の検出キット及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カビを含む菌類は、自然界に広く分布しており、食品・清涼飲料水などの製造上問題となるような耐熱性を有する菌株や、発ガン性を有する有害なマイコトキシン等を産生する菌株等を含む。特に、100℃以下で低温殺菌する果実缶詰やジュース、ジャムなどにおいては、耐熱性菌の殺滅が困難である。したがって、原料や製造環境などからの耐熱性菌の混入を防止するとともに、混入の可能性を客観的に評価することにより、これらの菌の管理や制御を行うことが極めて重要となる。
【0003】
耐熱性菌は、一般的には、ビソクラミス(Byssochlamys)属、ハミゲラ(Hamigera)属、ネオサルトリア(Neosartorya)属、タラロマイセス(Talaromyces)属など、子のう菌に属するものが挙げられる。ビソクラミス属に属する菌のうち、ビソクラミス ファルバ(Byssochlamys fulva)、ビソクラミス ニベア(Byssochlamys nivea)、ビソクラミス ヴァールコサ(Byssochlamys verrucosa)及びビソクラミス ゾレルニア(Byssochlamys zollerniae)等は、実際に果実缶詰やジュース、ジャムなどの酸性食品から検出され、問題となる。特に、ビソクラミス ファルバとビソクラミス ニベアは、耐熱性が高いことが知られている。
【0004】
そこで、特許文献1には、ビソクラミス ニベア及びビソクラミス ファルバの双方を検出可能なオリゴヌクレオチド及びプライマー対等が記載されている。また、特許文献2には、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ラガンクラリエ(Byssochlamys lagunculariae)をそれぞれ種特異的に検出可能な複数のオリゴヌクレオチド及びプライマー対等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−4880号公報
【特許文献2】特開2011−250746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、実施例に係るプライマー対が、50ng/μlに調整されたDNA溶液をDNAテンプレートとしたPCR法に用いられる旨が記載されているが(段落[0045][0050])、このプライマー対の検出限界については明記されていない。
また、特許文献2に記載の複数のオリゴヌクレオチドは、上記4種のビソクラミス菌を特異的に検出することができるが、その一方で、1つの検体について、各種の菌について検出処理を行わなければならず、迅速性が問題であった。
そこで、食品衛生管理を徹底するため、酸性食品等から検出され得るビソクラミス属に属する菌を、より迅速かつ精度よく検出できる方法が望まれている。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ビソクラミス属に属する菌を迅速かつ精度よく検出できるオリゴヌクレオチド及びプライマー対、並びにビソクラミス属に属する菌の検出キット及び検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。その結果、ビソクラミス属に属する菌であるビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアを特異的に、かつ感度よく検出することが可能なオリゴヌクレオチド、プライマー対、検出キット及び検出方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)ビソクラミス(Byssochlamys)属に属する菌の検出に用いられるオリゴヌクレオチドであって、
ビソクラミス ファルバ(Byssochlamys fulva)、ビソクラミス ニベア(Byssochlamys nivea)、ビソクラミス ヴァールコサ(Byssochlamys verrucosa)及びビソクラミス ゾレルニア(Byssochlamys zollerniae)のイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子領域にハイブリダイズすることが可能なオリゴヌクレオチド。
(2)(1)に記載のオリゴヌクレオチドであって、
配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列、及び配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列のうちの一方の塩基配列で表され、かつビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアの検出が可能なオリゴヌクレオチド。
(3)ビソクラミス属に属する菌の検出に用いられるプライマー対であって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドとからなり、PCR法により、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアの検出が可能なプライマー対。
(4)(3)に記載のビソクラミス属に属する菌の検出に用いられるプライマー対であって、
配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対。
(5)ビソクラミス属に属する菌の検出用キットであって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチド、及び配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも一つのオリゴヌクレオチドを含む
ビソクラミス属に属する菌の検出用キット。
(6)(5)に記載のビソクラミス属に属する菌の検出用キットであって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対を含む
ビソクラミス属に属する菌の検出用キット。
(7)ビソクラミス属に属する菌の検出方法であって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチド、及び配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも一方のオリゴヌクレオチドを、検体に含まれる核酸にハイブリダイズさせることにより、前記検体に含まれた、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのうちの少なくとも一つを検出することを特徴とする
ビソクラミス属に属する菌の検出方法。
(8)(7)に記載のビソクラミス属に属する菌の検出方法であって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドとをプライマー対としてPCR法により前記検体のイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子領域の少なくとも一部を増幅することを特徴とする
ビソクラミス属に属する菌の検出方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ビソクラミス属に属する菌を迅速かつ精度よく検出できるオリゴヌクレオチド及びプライマー対、並びにビソクラミス属に属する菌の検出キット及び検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】グリオキシル酸回路の反応を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る実施例を用いた試験例1のPCR法による増幅産物の電気泳動像である。
図3】本発明の実施形態に係る実施例を用いた試験例1のPCR法による増幅産物の電気泳動像である。
図4】本発明の実施形態に係る実施例を用いた試験例1のPCR法による増幅産物の電気泳動像である。
図5】本発明の実施形態に係る実施例を用いた試験例1のPCR法による増幅産物の電気泳動像である。
図6】本発明の実施形態に係る実施例を用いた試験例1のPCR法による増幅産物の電気泳動像である。
図7】本発明の実施形態に係る実施例を用いた試験例1のPCR法による増幅産物の電気泳動像である。
図8】本発明の実施形態に係る実施例を用いた試験例2のPCR法による増幅産物の電気泳動像であり、図8Aは検体としてビソクラミス ファルバの菌株を用いた結果、図8Bは検体としてビソクラミス ニベアの菌株を用いた結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
<本発明の特徴>
本発明は、ビソクラミス属に属する菌を迅速かつ精度よく検出できるオリゴヌクレオチド及びプライマー対、並びにビソクラミス属に属する菌の検出キット及び検出方法を提供するものである。従来は、ビソクラミス属に属する菌を、網羅的に、精度よく検出することが難しかった。そこで、本発明の発明者らは、微生物の一部と植物が保持するイソクエン酸リアーゼ遺伝子に着目することで、ビソクラミス属に属する菌を属のレベルで迅速に識別・同定が可能な技術を見出した。
【0014】
<ビソクラミス属>
ビソクラミス属は、耐熱性を有するカビの一種であって、子のう菌に属する。子のう菌は、子のう胞子という、硬い種子がさらに硬い殻に包まれたような強固な状態で土壌中に広く存在する菌である。ビソクラミス属のカビの中には、90℃以上でも耐熱性を有するものがいるため、100℃以下の低温で殺菌することが一般的な果実缶詰やジャム等の果実加工食品、あるいはジュースや緑茶飲料等の清涼飲料水の製造上、問題となる。
【0015】
<ビソクラミス属に属する菌>
ビソクラミス属に属する菌は、具体的には、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニア、ビソクラミス ラガンクラリエ等が挙げられる。
なお、本発明において、「菌」とは、真菌のことをいうものとする。
また、以下の説明において、「ビソクラミスに属する菌」を単に「ビソクラミス属菌」ともいうものとする。
【0016】
<ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニア>
本発明では、ビソクラミス属に属する菌である、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアを検出する技術を提供する。これらの菌は、いずれも果実缶詰やジャム等の果実加工食品、あるいはジュースや緑茶飲料等から検出され、パツリン等のカビ毒を産生して食品のカビ汚染の原因となる。さらに、これらの菌は耐熱性を有しており、特にビソクラミス ファルバ及びビソクラミス ニベアは耐熱性が高く、低温加熱による殺滅が難しい。
このため、これらの菌を網羅的に、かつ精度よく検出することは、食品の安全性を確保する上でもきわめて重要である。
【0017】
<オリゴヌクレオチド>
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、例えば、DNAが10塩基〜30塩基、15塩基〜25塩基、さらに18〜20塩基結合したものをいう。本発明に係るオリゴヌクレオチドは、ビソクラミス属に属する菌の検出に用いられるオリゴヌクレオチドであって、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアの検出が可能なオリゴヌクレオチドである。より具体的には、本発明のオリゴヌクレオチドは、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子領域にハイブリダイズすることが可能なオリゴヌクレオチドである。
なお、「ハイブリダイズする」とは、本発明のオリゴヌクレオチドが目的遺伝子領域内の特定の配列と相補的に結合することをいうものとする。
本発明のオリゴヌクレオチドは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法のプライマー、ハイブリダイゼーション法の核酸プローブ、固相担体に結合された捕捉プローブ等、分子生物学的な種々の検出方法に用いることができる。また、核酸プローブの一例としては、本発明のオリゴヌクレオチドが基板上に高密度に配置されたDNAチップ(DNAマイクロアレイ)を挙げることができる。
なお、本発明のオリゴヌクレオチドをPCR法に用いる場合には、少なくとも一方のプライマーに本発明に係るオリゴヌクレオチドを用いればよく、他方のプライマーを他のオリゴヌクレオチドとすることも可能である。
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、標識化されずに用いられてもよいし、放射性物質や蛍光・発光物質、酵素や酵素基質等の標識物によって標識化して核酸プローブやプライマーとして用いることもできる。
【0018】
<イソクエン酸リアーゼ>
イソクエン酸リアーゼは、グリオキシル酸回路の反応を触媒する酵素の一つであり、グリオキシル酸回路に特有の酵素である。グリオキシル酸回路は、微生物の一部や植物に見られる代謝回路であり、イソクエン酸からリンゴ酸とコハク酸を生成し、さらにオキサロ酢酸を生成することができる。("Life and death in a macrophage: role of the glyoxylate cycle in virulence" Eukaryotic Cell, 2002, vol.1 (5) , pp.657-662 参照)
図1は、グリオキシル酸回路の反応を示す図である。同図に示すように、イソクエン酸リアーゼ(Isocitrate Lyase)は、イソクエン酸(Isocitrate)からグリオキシル酸(Glyoxylate)を生成する反応を触媒する。
【0019】
<イソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子領域>
イソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子領域は、本発明に係るオリゴヌクレオチド及びプライマー対がハイブリダイズすることが可能な遺伝子領域である。なお以下の説明において、「イソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子」を単に「イソクエン酸リアーゼ遺伝子」ともいうものとする。
【0020】
<オリゴヌクレオチド:塩基配列>
本発明のオリゴヌクレオチドは、配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列、及び配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列のうちの一方の塩基配列で表される。
配列番号1及び2に記載の塩基配列は、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのイソクエン酸リアーゼ遺伝子内の所定の塩基配列と相補的な塩基配列である。
配列番号1,2に記載の塩基配列は、以下のように探索された。
まず、ビソクラミス属に属する菌のイソクエン酸リアーゼ遺伝子領域と予測される領域をPCR法によりそれぞれ増幅し、シーケンス解析等によりその増幅産物の塩基配列を解析した。続いて、解析された塩基配列がアスペルギルス(Aspergillus)属、フサリウム(Fusarium)属、ニューロスポラ(Neurospora)属等のイソクエン酸リアーゼ遺伝子と比較的高い相同性を示すことを確認し、増幅産物がそれぞれビソクラミス属に属する菌のイソクエン酸リアーゼ遺伝子であると推認した。続いて、解析された塩基配列に基づいて配列番号1,2の塩基配列のプライマーを含む複数のプライマー対を設計し、これらのプライマー対がPCR法によりビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアを特異的に検出可能か否か検討した。その結果、後述するように、上記プライマー対により上記ビソクラミス属に属する菌が特異的に検出されることが確認され、配列番号1,2に記載の塩基配列を見出した。
【0021】
<相補配列>
本発明に係る相補配列とは、ある塩基配列の相補鎖となり得る塩基配列をいう。配列番号1及び2に記載の塩基配列の相補配列は、配列番号1及び2に記載の塩基配列と同様に、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのイソクエン酸リアーゼ遺伝子領域に特異的にハイブリダイズすることが可能である。
したがって、本発明に係る相補配列は、本発明に係るオリゴヌクレオチド及びプライマー対として用いられ得る。
【0022】
<塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列>
本発明において「塩基配列若しくはその相補配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列」とは、当該塩基配列若しくはその相補配列と実質的に相同な塩基配列をいう。より具体的には、1〜3個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列をいうものとする。
【0023】
<プライマー対>
本発明に係るプライマー対は、2本のオリゴヌクレオチドの組み合わせであり、PCR法におけるプライマー対として用いられるものである。本発明に係るプライマー対は、ビソクラミス属に属する菌の検出に用いられるプライマー対であって、より具体的には、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアの検出が可能なものである。
本発明に係るプライマー対は、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのイソクエン酸リアーゼ遺伝子領域の少なくとも一部をPCR法により増幅することが可能なものである。
すなわち、本発明に係るプライマー対の各プライマーは、イソクエン酸リアーゼ遺伝子領域内の増幅予定領域の、2本鎖DNAの両鎖の3´側にハイブリダイズすることが可能に構成される。
本発明に係るプライマー対は、典型的には、そのままプライマー対として使用されるが、標識物で標識化して用いることもできる。また、本発明のプライマー対は、例えば、5〜20μM、さらに8〜12μMの濃度に調製し、PCR法に用いることができる。なお、PCR法の詳細については後述する。
【0024】
<プライマー対:塩基配列>
本発明に係るプライマー対は、配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドとからなる。
さらに、本発明に係るプライマー対は、配列番号1に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列で表されるオリゴヌクレオチドからなるプライマー対であってもよい。当該プライマー対により、ビソクラミス属に属する菌を迅速かつより精度よく検出することが可能となり、例えばテンプレートDNAの濃度が100pg/μl〜1ng/μlであっても検出することが可能となる。
【0025】
<プライマー対:フォワードプライマー/リバースプライマー>
本発明に係るプライマー対を用いてPCR法による増幅反応を行う場合は、例えば、配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドをフォワードプライマーとし、配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドをリバースプライマーとすることができる。
【0026】
<検出用キット>
本発明に係るビソクラミス属に属する菌の検出用キットは、検体に含まれた、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのうちの少なくとも一つを検出することができる。
すなわち、本発明に係る検出キットは、配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチド、及び配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも一方のオリゴヌクレオチドを含む。
本発明の検出用キットは、これらをプライマーや核酸プローブとして含み、PCR法に用いるキットや、ハイブリダイゼーション法に用いるキット等、分子生物学的な種々の検出方法に用いるキットとして構成され得る。
具体的に、本発明に係る検出用キットは、配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドとからなるプライマー対を含むものであってもよい。本発明の検出用キットを用いてPCR法により検体の増幅反応を行うことにより、ビソクラミス属に属する菌を簡便に検出することができる。
【0027】
<検出方法>
本発明に係るビソクラミス属に属する菌の検出方法は、配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチド、及び配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも一方のオリゴヌクレオチドを、検体に含まれる核酸にハイブリダイズさせることにより、前記検体にビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのうちの少なくとも一つが含まれているか否か検出することを特徴とする。
例えば、本発明に係る検出方法は、配列番号1に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドと、配列番号2に記載の塩基配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドとをプライマー対としてPCR法により検体のイソクエン酸リアーゼをコードする遺伝子領域の少なくとも一部を増幅することを特徴としてもよい。これにより、ビソクラミス属に属する菌を簡便に検出することができる。
【0028】
<検出方法:PCR法>
本発明に係るPCR法は、例えば、テンプレートとしてDNAを用いたPCR法(以下、通常のPCR法とする)、RT−PCR法、real−time PCR法等を用いることができるが、通常のPCR法が好ましい。
PCR法は、まず、テンプレートの核酸(DNA又はRNA)、プライマー対、DNAポリメラーゼ、dNTP、PCR用反応バッファー、及び滅菌蒸留水等を混合したPCR増幅用反応液を調製する。次に、サーマルサイクラー等を用いて熱変性反応、アニーリング反応、及び伸長反応を連続して行い、これを所定サイクル繰り返すことにより、PCR法による増幅反応を行う。そして、その反応後の反応液中の増幅産物を確認し、所望のDNA断片が増幅されているか否か確認する。テンプレートの核酸としては、後述する検体から直接核酸を抽出した溶液や、培養した菌から核酸を抽出した溶液を用いることができる。
本発明に係るPCR法におけるプライマー対は、少なくとも一方のプライマーに本発明に係るオリゴヌクレオチドを用いればよく、他方のプライマーを他のオリゴヌクレオチドとすることも可能である。より好ましくは、プライマー対として、本発明に係るプライマー対を用いることができる。上記反応液に含まれる他の要素も、濃度と量とを適宜決定することができる。PCR法における反応条件等も、使用するポリメラーゼの種類等を考慮して、適宜決定することができる。
増幅産物の確認方法も特に限定されず、例えば、アガロースゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法、シーケンス解析による塩基配列を決定する方法等を適用することができる。このうち、アガロースゲル電気泳動法及びキャピラリー電気泳動法が簡便に増幅産物を確認でき、より好ましい。
【0029】
<検出方法:検体から抽出された核酸を用いて検出する方法>
本発明に係る検出方法は、検体から抽出された核酸を用いて、ビソクラミス属に属する菌を検出することができる。すなわち、検体から抽出された核酸に、配列番号1に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチド、及び配列番号2に記載の塩基配列若しくはその相補配列、又は当該塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加されている塩基配列で表されたオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも一方のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせる。
また、検体からの核酸の抽出方法は特に限定されず、例えば、製造原料等の検体から菌を培養し、培養した菌からDNA等の核酸を抽出してもよい。あるいは、製造原料等の検体から直接核酸を抽出してもよい。
また、PCR法においては、上記抽出された核酸をテンプレートとして用いることができる。当該核酸がDNAの場合、テンプレートDNAの濃度は、100pg/μl〜100ng/μlであってもよく、好ましくは10ng/μl〜50ng/μlであってもよい。
【0030】
<検出方法:検体>
本発明に係る検体としては、ビソクラミス属菌の可能性がある菌株や、ビソクラミス属菌を含んでいる可能性がある製造原料等が挙げられる。製造原料等は、食品の製造原料等が挙げられる。当該食品は、例えば、ビソクラミス属菌による汚染が問題となる、果実缶詰やジャム等の果実加工食品、ジュースや緑茶飲料等の清涼飲料水等であってもよい。
【0031】
<本発明の作用効果>
本発明に係るオリゴヌクレオチド及びプライマー対は、ビソクラミス属菌のイソクエン酸リアーゼ遺伝子領域に特異的にハイブリダイズすることにより、ビソクラミス属菌を属のレベルで識別・同定することができる。これにより、ビソクラミス属菌各々に対して検出を行う手間を省き、検体に、ビソクラミス属菌のうちの少なくとも一種が含まれているか否か、迅速に判定することが可能となる。
また、上述のように、ビソクラミス属菌は、果実加工食品や清涼飲料水から検出される可能性が高く、特にビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベアは、耐熱性が高く殺滅が難しい。したがって、ビソクラミス属菌が検出された場合は、加熱殺菌工程の見直しだけでなく、製造原料の除去や製造環境の見直し等の処置を迅速に行う必要が生じる。本発明によれば、ビソクラミス属菌を迅速に検出することができるため、上記処置の実行を迅速かつ適切に判断することが可能となり、汚染の拡大を防止することができる。
これに加えて、本発明の検出方法は、検出限界に優れている。例えば、PCR法では、後述の試験例2に示すように、テンプレートDNAの濃度が100pg/μl〜1ng/μl程度であっても上記各菌を検出することができる。したがって、製造原料からわずかな量の菌しか採取できなかった場合でも検出可能となり、衛生管理の徹底に貢献することが可能となる。
【0032】
以下、本発明を実施例等に基づき、さらに説明する。
【実施例】
【0033】
[プライマー対の作成]
配列番号1及び2の塩基配列を有するPCR増幅反応用のプライマー対を作成した。これらのプライマーは、イソクエン酸リアーゼ遺伝子をターゲットとして作成したものである。各プライマーは、オペロンバイオテクノロジー株式会社に合成依頼した。表1に、作成したプライマー対の塩基配列を示す。このプライマー対を、以下、実施例に係るプライマー対とする。
【0034】
【表1】
【0035】
[試験例1]
試験例1として、実施例に係るプライマー対を用いて、検体である菌からビソクラミス属菌(ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニア)を特異的に検出できるか否か確認した。
【0036】
(検体の調製)
まず、検体からDNAを抽出し、DNA溶液を調製した。検体としては、表2〜表5に示す菌株を用いた。このうち、表2の11〜17番はビソクラミス ファルバに属する菌株である。同表の18〜22番はビソクラミス ニベアに属する菌株である。同表の23番はビソクラミス ラガンクラリエに属する菌株である。同表の24番は、ビソクラミス属のいずれかの種に属する菌株である。同表の25番は、ビソクラミス ヴァールコサに属する菌株である。同表の26番は、ビソクラミス ゾレルニアに属する菌株である。その他の菌株は、ビソクラミス属以外の属に属する菌株である。これらの菌株は、例えば、独立行政法人 理化学研究所 バイオリソースセンター 微生物材料開発室(JCM)及び独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)等から入手した。
各菌株を、PDA(Potato Dextrose Agar)培地等にて、約25〜30℃、7〜10日間培養した。回収した菌株から、ZR Fungal/Bacterial DNA MiniPrep(ZYMO RESEARCH製)を用い、付属プロトコールに従ってDNAを抽出した。抽出したDNAは、殺菌水を用いて10〜50ng/μlの濃度のDNA溶液として調製した。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
(PCR法による遺伝子増幅)
続いて、調整した131種類のDNA溶液と実施例に係るプライマー対とをそれぞれ用いて、PCR法によりビソクラミス属菌の検出を行った。
【0042】
まず、各PCR増幅用反応液を調製した。表6に、当該反応液の組成を示す。
PCR増幅用反応液は、表6に示すように、8.4 μlの殺菌水(S.D.W)、1 μlのテンプレートDNA(Template DNA)、0.3 μlのフォワードプライマー(Primer-F)、0.3 μlのリバースプライマー(Primer-R)、10 μlのQuick Taq(登録商標)をそれぞれ含み、全体で20 μlとなるように調整された。
なお、テンプレートDNAは、「検体の調製」で調製した各DNA溶液とした。「Quick Taq(登録商標)」は、「Quick Taq(登録商標) HS DyeMix」(東洋紡株式会社製)であり、DNAポリメラーゼ(Taq DNA Polymerase)、PCR用反応バッファー、dNTPが予め混合されているPCR用試薬である。また、フォワードプライマーは配列番号1の塩基配列を有するプライマー、リバースプライマーは配列番号2の塩基配列を有するプライマーとした。なお、各PCR増幅用反応液は、テンプレートDNAの塩基配列のみ異なるものとし、その他の組成は同一である。
【0043】
【表6】
【0044】
次に、調製したPCR増幅用反応液について、サーマルサイクラーを用い、遺伝子増幅処理を行った。表7に、遺伝子増幅処理の条件を示す。
当該処理の条件は、表7に示すように、(1)94℃で2分間の熱変性反応、(2)94℃で30秒の熱変性反応、(3)64℃で20秒のアニーリング反応、(4)68℃で15秒の伸長反応、(5)68℃で5分の伸長反応とし、(2)〜(4)を25サイクル行った。
【0045】
【表7】
【0046】
(PCR増幅産物の確認)
続いて、PCR増幅用反応液から5〜10μlを分取し、1.3%(1〜1.5%)濃度のアガロースゲルで電気泳動を行った。バッファーは、1×TAEバッファーを用いた。電気泳動後、アガロースゲルを常法に従って染色し、紫外線(UV)ライトボックス上にてアガロースゲルを撮像した。撮像された画像に基づいてPCR増幅産物を確認した。
【0047】
(結果)
図2図7は、実施例の電気泳動像である。
図2は、表2の11〜26番の菌株の結果、すなわちビソクラミス属菌の結果を示し、図中のレーン番号1〜16は、それぞれ表2の11〜26番に対応する。
図3は、表2及び表3の1〜10番、27〜39番の菌株の結果を示し、図中のレーン番号1〜23は、それぞれ表2及び表3の1〜10番、27〜39番に対応する。
図4は、表3の40〜62番の菌株の結果を示し、図中のレーン番号1〜23は、それぞれ表3の40〜62番に対応する。
図5は、表3及び表4の63〜85番の菌株の結果を示し、図中のレーン番号1〜23は、それぞれ表3及び表4の63〜85番に対応する。
図6は、表4及び表5の86〜108番の菌株の結果を示し、図中のレーン番号1〜23は、それぞれ表4及び表5の86〜108番に対応する。
図7は、表5の109〜131番の菌株の結果を示し、図中のレーン番号1〜23は、それぞれ表5の109〜131番に対応する。
上記各図におけるMのレーンは、いずれもサイズマーカーを示す。
【0048】
まず、図2に示すように、13番のレーンを除く全てのレーンにおいて、約200bpのバンドが確認された。1〜12、14〜16番のレーンに対応する菌株は、表2を参照し、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアのいずれかに属する菌株である。このことから、実施例に係るプライマー対が、ビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアを特異的に検出可能であることが確認された。
一方で、図2に示すように、13番のレーンにはバンドが確認されなかった。このレーンに対応する菌株は、表2を参照し、ビソクラミス ラガンクラリエに属する菌株であることから、実施例に係るプライマー対は、ビソクラミス ラガンクラリエの少なくとも一部の菌株を検出することは難しいことが確認された。
【0049】
一方、図3図7に示すように、実施例に係るプライマー対は、ビソクラミス属菌以外の菌株、すなわち、ぺシロマイセス(Paecilomyces)属、ハミゲラ属、タラロマイセス属等に属する菌株を検出できなかった。
【0050】
試験例1の結果により、実施例に係るプライマー対は、ビソクラミス属菌、特にビソクラミス ファルバ、ビソクラミス ニベア、ビソクラミス ヴァールコサ及びビソクラミス ゾレルニアを特異的に検出できることが確認された。また、実施例に係るプライマー対は、ビソクラミス属菌以外の菌株を検出することができなかったため、属レベルでビソクラミス属菌を識別及び同定できることが確認された。
【0051】
[試験例2]
試験例2として、実施例に係るプライマー対を用いたPCR法におけるビソクラミス属菌の検出限界を確認するため、検体から濃度の異なるDNA溶液を作成し、試験を行った。
【0052】
(検体の調製)
まず、検体からDNAを抽出し、濃度の異なるDNA溶液を調製した。検体としては、ビソクラミス ファルバ NBRC31767株と、ビソクラミス ニベアJCM12806株とを用いた。これらの菌株の入手元は、試験例1と同様である。
【0053】
各菌株から、試験例1と同様にDNAを抽出した。抽出したDNAは、表8に示す濃度のDNA溶液として調製し、それぞれ試料1〜5とした。すなわち、試料1は10ng/μl、試料2は1ng/μl、試料3は100pg/μl、試料4は10pg/μl、試料5は1pg/μlである。
【0054】
【表8】
【0055】
(PCR法による遺伝子増幅)
続いて、試料1〜5のDNA溶液と実施例に係るプライマー対とを用いたPCR法により、ビソクラミス属菌の検出を行った。本工程は、試験例1と同様であるため、説明を省略する。
【0056】
(PCR増幅産物の確認)
続いて、PCR増幅産物を確認するため、1.3%(1〜1.5%)濃度のアガロースゲルで電気泳動を行った。本工程も、試験例1と同様であるため、その説明を省略する。
【0057】
(結果)
図8は、試験例2の電気泳動像であり、図8Aは検体としてビソクラミス ファルバの菌株を用いた結果、図8Bは検体としてビソクラミス ニベアの菌株を用いた結果を示す。なお、図8の電気泳動像に付した各レーンの番号と、表8に示す各試料の番号とはそれぞれ対応している。Mのレーンは、サイズマーカーを示す。
【0058】
図8A図8Bにおいて、いずれも、試料のDNA濃度が薄くなるに従い、バンドの蛍光強度が低下する様子が観察された。これにより、実施例に係るプライマー対が、ビソクラミス ファルバ及びビソクラミス ニベアを特異的に検出可能なことが改めて確認された。加えて、DNA濃度がそれぞれ10ng/μl,1ng/μlの試料1,2のバンドは確認でき、DNA濃度がそれぞれ100pg/μl〜1pg/μlの試料3〜5のバンドは確認することができなかった。このことから、実施例1に係るプライマー対の検出限界は、検体から調製したDNA濃度にして100pg/μl〜1ng/μlであることが確認された。
【0059】
試験例2の結果から、実施例に係るプライマー対は、検出限界が低く、検出感度が高いことが確認された。したがって、実施例に係るプライマー対は、nested PCR法等の煩雑な処理を行うことなく、環境中に微量に存在するビソクラミス属菌を簡便に検出することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]