(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本実施形態の容積式ポンプについて、図面を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、本発明の容積式ポンプの構成例を模式的に示す断面図である。
図1に示す容積式ポンプは、一軸偏心ねじポンプ10である。一軸偏心ねじポンプ10は、ポンプ室となるアウター部材30(以下、「ステータ」ともいう)と、運動部材であるインナー部材20(以下、「インナーロータ」ともいい、単に「ロータ」ともいう)とを備える。ステータ30は、アウター部材であり、その内周面30aが雌ねじ型に形成されている。ロータ20は、雄ねじ型であり、動力を受けて偏心回転する。このようなロータ20およびステータ30は、ケーシング11の内部に収容されている。そのケーシング11は、金属製の筒状部材であり、長手方向の先端に第一開口部11aが設けられている。この第一開口部11aは、一軸偏心ねじポンプ10の吐出口として機能し、その吐出口には、ノズル、配管等が装着される。
【0030】
また、ケーシング11の外周には、第二開口部11bが設けられている。第二開口部11bは、ケーシング11の長手方向の中間においてケーシング11の内部空間とつながっている。このような第二開口部11bは、一軸偏心ねじポンプ10の吸込口として機能し、例えば、流体が貯留されたタンクと配管を介して接続される。
【0031】
ステータ30は、例えば、ゴム等の弾性体または樹脂からなる。ステータ30の内周面30aは、n条の雌ネジ形状であり、1つまたは複数のねじ山を有する。これに対し、ロータ20は、金属製の軸体である。そのロータ20は、n−1条の雄ネジ形状であり、1つまたは複数のねじ山を有する。
【0032】
図1に示す一軸偏心ねじポンプ10において、ステータ30の内周面は、2条の雌ねじ形状であり、複数のねじ山を有する。そのステータ30の内周面の断面形状は、長手方向のいずれの位置でも、長円状となる。一方、ロータ20は、1条で偏心した雄ねじ形状であり、そのロータ20の断面は、長手方向のいずれの位置でも、真円状となる。ロータ20は、ステータ30の内周面30aによって形成される空間に挿通された状態で、偏心回転可能とされている。
【0033】
ロータ20を偏心回転可能とするため、ロータ20は第一自在継手12を介してロッド13と連結され、そのロッド13は第二自在継手14を介してドライブシャフト15と連結されている。ドライブシャフト15は、詳細な説明は省略するが、ケーシング11との隙間をシールした状態でケーシング11に回転可能に保持されている。このようなドライブシャフト15は、モーター16の主軸16aと連結されている。このため、モーター16の動作によって主軸16aが回転するのに伴い、ドライブシャフト15が回転し、自在継手(12、14)およびロッド13を介して連結されているロータ20が偏心回転する。
【0034】
このようにロータ20を偏心回転させると、ロータ20およびステータ30の内周面30aにより仕切られた空間が、ステータ30内を回転しながらステータ30の長手方向に進む。このため、ステータ30の一端側から流体を吸い込むとともに、吸い込んだ流体をステータ30の他端側に向けて移送して吐出させることが可能である。
図1に示す一軸偏心ねじポンプ10は、ロータ20を正方向に回転させることにより、第二開口部11bから吸い込んだ流体を移送し、第一開口部11aから吐出できる。
【0035】
続いて、ロータの偏心回転運動に伴う、ステータの横断面におけるロータの運動について、図面を参照しながら説明する。
【0036】
図2は、ステータの横断面におけるロータの運動を模式的に示す断面図であり、
図2(a)は開始時、
図2(b)は回転角度が90°の時、
図2(c)は回転角度が180°の時、
図2(d)は回転角度が270°の時をそれぞれ示す。
図2は、前記
図1のA−A位置での断面図に相当する。また、
図2(a)の破線矢印は、センサ部41がマイクロ波を送信する方向を示す。
【0037】
図2に示すように、ロータ20は、断面形状が円形状である。また、ステータ30は、その内周面の断面形状が長円状であり、外周面の形状が円形状である。ステータ30の内周面の断面形状は、対向する直線状部30bと、それらの端点を繋ぐ半円の弧状部(30c、30d)とを有する。このような内周面の断面形状は、長円方向(直線状部30bに沿う方向、
図2(a)のハッチングを施した矢印参照)に平行な対称線30eと、長円方向と垂直な対称線30fとを有する(
図2(a)参照)。
【0038】
開始時(回転角度が0°である時)、ロータ20は、
図2(a)に示すように、2つの弧状部(30c、30d)のうちで第1の弧状部30cと接する状態である。以下では、この状態を「右ストロークエンド」ともいう。この場合、ロータ20が偏心回転を開始すると、ステータ30の横断面において、ロータ20は長円方向に沿って、内周面(長円)の第2の弧状部30dに向かって移動する。回転角度が90°に達した時、
図2(b)に示すように、内周面(長円)の第1および第2の弧状部の中央に位置する。また、回転角度が180°に達した時、
図2(c)に示すように、内周面(長円)の第2の弧状部30dと接する状態となる。以下では、この状態を「左ストロークエンド」ともいう。
【0039】
回転角度が180°に達した時にロータ20の移動方向が反転し、その後は、ロータ20は長円方向に沿って、内周面(長円)の第1の弧状部30cに向かって移動する。回転角度が270°に達した時、
図2(d)に示すように、内周面(長円)の第1および第2の弧状部の中央に位置する。また、回転角度が360°に達した時、開始時(
図2(a))と同様に、内周面(長円)の第1の弧状部30cと接する状態となる。
【0040】
このようにロータ20は、横断面において、ステータ30の長円状の内周面によって形成される空間内を往復運動する。なお、往復運動の方向は、
図2に示すような左右方向(水平方向)に限らず、ポンプの配置方向によって変化する。また、同じポンプであっても、ステータの長手方向の位置(横断面の位置)によって往復運動の方向が変化する。
【0041】
本実施形態の容積式ポンプは、前記
図1に示すように、異常運転を検出する手段40をさらに備える。その異常運転検出手段40は、センサ部41と、判定部42とを含む。センサ部41は、マイクロ波を運動部材(ロータ)20に向けて送信するとともにその反射波を受信する。センサ部41によるマイクロ波の送受信は、正常運転において、センサ部41と運動部材(ロータ)20との間に、ポンプ室(ステータ)30内の流体が介在する状態で行う。すなわち、マイクロ波は、正常運転時に、センサ部41から運動部材(ロータ)20に向かう途中で、ポンプ室(ステータ)30内の流体を経由する。
【0042】
判定部42は、センサ部41から出力される信号に基づいて異常運転を判定する。同図に示す判定部42は、センサ部41から出力される信号を受信するため、センサ部41とケーブルを介して接続される。なお、例えばセンサ部41を無線発信機と接続するとともに、判定部42を無線受信機と接続することにより、判定部42が、センサ部41から出力される信号を無線通信で受信してもよい。
【0043】
マイクロ波は、金属製の部材で反射する性質を有し、ゴムや樹脂等に対しては透過率が大きい。したがって、マイクロ波を運動部材で反射させ、その反射波をセンサ部41で受信するために、金属製のケーシング11のみに穴を開ければ、ゴム等からなるステータ30に穴を開ける必要はない。このため、
図1に示すように、センサ部41は、ケーシング11に設けられた貫通穴に配置してもよい。
【0044】
ただし、ゴム等からなるステータ30の材質や、その厚みによっては、ステータ30でマイクロ波が減衰する。この場合は、例えば、ステータ30に適当な深さの穴を開け、その穴にセンサ部41を配置する等の処置を行えばよい。これにより、マイクロ波を運動部材で反射させ、その反射波をセンサ部41で受信できる。
【0045】
また、無線通信によって判定部42がセンサ部41から出力される信号を受信する場合等は、後述の
図10の構成例のように、ステータ30(アウター部材)の内部やその外側に配置される部材の内部に、センサ部41を配置してもよい。
【0046】
センサ部41には、ドップラ方式のセンサ、パルスレーダ方式のセンサ、または、FMCW方式(連続波周波数変調方式)のセンサを採用できる。以下に、各方式のセンサを用いる場合の異常運転の検出について、それぞれ説明する。
【0047】
図3は、ドップラ方式のセンサから出力される信号の波形例を示す模式図である。
図3は、縦軸が信号強度、横軸が経過時間である。
図3には、正常運転での信号強度の波形と、空運転(異常運転)での信号強度の波形とを示す。また、
図3に示す出力信号の波形例は、前記
図1に示す構成例において、ドップラ方式のセンサを用いた場合の出力信号の波形である。なお、
図3に示す信号の波形例は、ドップラ方式のセンサから出力された信号に、ハイパスフィルタの処理(直流成分をカットする処理)と、全波整流の処理とをその順に施したものである。
【0048】
図3に示す信号を出力するドップラ方式のセンサは、マイクロ波を送受信し、ドップラ周波数に応じた信号を出力する。ここで、ドップラ周波数は、送信したマイクロ波の周波数と受信したマイクロ波の周波数の差である。より具体的には、ドップラ方式のセンサは、ドップラ周波数に応じ、正弦波の信号を出力し、その信号の周波数はドップラ周波数に応じて変化する。また、信号の強度(振幅)は、原則として、反射波のエネルギーに応じて変化する。ただし、ドップラ周波数が0(ゼロ)である場合、反射波のエネルギーに拘わらず、信号の強度(振幅)は0(ゼロ)となる。
【0049】
このようなドップラ方式のセンサを用いる場合、正常運転では、信号強度が0で平坦な部分と、シャープな山型の部分Sとが周期的に交互に出現する。信号強度が0で平坦な部分は、ドップラ方式のセンサが動体を検出していないことを示し、すなわち、マイクロ波がステータ(ポンプ室)内の流体に吸収されていることを示す。より具体的には、ロータ(運動部材)が右ストロークエンド以外に位置していることを示し、前記
図2(b)〜(d)に示すような状態であることを示す。これは、ステータ内(ポンプ室内)の流体に進入して前進する際に、マイクロ波が流体によって吸収され、ロータ(運動部材)への到達やロータ(運動部材)での反射が妨げられることによる。
【0050】
シャープな山型の部分Sは、ドップラ方式のセンサが動体を検出していることを示し、すなわち、マイクロ波がステータ(ポンプ室)内の流体に吸収されることなく、運動部材で反射していることを示す。より具体的には、前記
図2(a)に示すようにロータが右ストロークエンドを通過していることを示す。これは、右ストロークエンドでは、ロータ(運動部材)とステータ(ポンプ室)が接していることから、マイクロ波がステータ内(ポンプ室内)の流体で吸収されることなく、ロータ(運動部材)に到達して反射されることによる。また、右ストロークエンドの前後でも、センサ部とロータ(運動部材)との間に介在する流体が薄膜状であることから、マイクロ波がステータ内(ポンプ室内)の流体を透過し、ロータ(運動部材)に到達して反射されることによる。
【0051】
このようにドップラ方式のセンサを用いる場合、正常運転では、信号強度が0で平坦な部分に基づいてポンプ室内の流体の状態、すなわち、ポンプ室内に流体が充満していることを把握できる。また、シャープな山型の部分Sに基づいて運動部材の運動(動作)を把握できる。
【0052】
なお、信号強度が0で平坦な部分では、送信したマイクロ波の一部が流体とステータ(ポンプ室)の界面で反射し、その反射波が受信される。この反射波の周波数は、送信したマイクロ波の周波数と同じであることから、この反射波は出力信号に反映されない。
【0053】
これに対し、空運転では、信号の波形が変化する。
図3に示すように、信号の波形は、信号強度が0で平坦な部分がない。すなわち、ドップラ方式のセンサが常に動体(ロータ)を検出する。
図3に示す信号の波形では、ブロードな山型の部分Bが周期的に出現し、この山型の部分Bのピークは、ロータが右ストロークエンドを通過していることを示す。
【0054】
また、空運転でのブロードな山型の部分Bのピーク値は、正常運転でのシャープな山型の部分Sのピーク値と比べ、大きい。これは、センサによるマイクロ波の送受信が、面積を有さない点で行われるのでなく、一定の面積を有する領域内で行われることによる。
【0055】
図4は、正常運転におけるステータ内の状態を模式的に示す断面図であり、
図4(a)は前記
図1のA−A位置、
図4(b)はB−B位置、
図4(c)はC−C位置での状態をそれぞれ示す。B−B位置およびC−C位置は、前記
図1に示すように、A−A位置からロータ20の長手方向に僅かにずれており、B−B位置は第一開口部11a側(吐出側)、C−C位置は第二開口部11b側(吸込み側)にそれぞれずれている。
【0056】
図4(a)に示すようにロータ20が右ストロークエンドに位置すれば、ロータ20とステータ30の間に流体60が介在することなく、ロータ20とステータ30が直接接触する。この場合、マイクロ波はロータ20に到達して反射し、その反射波はセンサ部41で受信される。一方、位置がロータ20の長手方向に僅かにずれれば、
図4(b)および(c)に示すように、ロータ20とステータ30の間に流体が介在する。これらの場合、マイクロ波は、流体60内を前進する際に吸収され、ロータ20へのマイクロ波の到達やロータ20でのマイクロ波の反射が妨げられる。その結果、A−A位置の反射波のみがセンサ部で受信されることとなり、反射波のエネルギーが弱くなる。
【0057】
図5は、空運転におけるステータ内の状態の一例を模式的に示す断面図であり、
図5(a)は前記
図1のA−A位置、
図5(b)はB−B位置、
図5(c)はC−C位置での状態をそれぞれ示す。空運転では、いずれの位置でも、
図5(a)〜(c)に示すように、ステータ30内に流体が存在しない。このため、ロータ20の長手方向の位置に拘わらず、マイクロ波はロータ20に到達して反射し、その反射波はセンサ部41で受信される。その結果、反射波のエネルギーが強くなる。
【0058】
このようにドップラ方式のセンサを用いる場合、空運転では、信号強度が0で平坦な部分が存在しないことに基づき、ポンプ室内の流体の状態、すなわち、ポンプ室内に流体がほとんどまたは全く存在しないことが把握できる。また、ブロードな山型の部分に基づいて運動部材の運動(動作)を把握できる。
【0059】
準空運転では、ポンプ室内に存在する流体の体積が減少する。このため、正常運転と比べて、信号強度が0で平坦な部分の割合が減少し、シャープな山型の部分の割合が増加する。また、シャープな山型の部分におけるピーク値が大きくなる。これらに基づいて、準空運転でも、運動部材の運動とともに、ポンプ室内の流体の状態を把握できる。
【0060】
閉塞運転では、ステータ(ポンプ室内)に過剰に流体が流入した状態となる。このため、右ストロークエンドで、ステータとロータの間に流体が介在する領域の面積が増加する。逆に言えば、マイクロ波を反射可能な領域の面積が減少する。したがって、信号波形が変化し、正常運転と比べて、シャープな山型の部分におけるピーク値が小さくなる。これに基づいて、閉塞運転でも、運動部材の運動とともに、ポンプ室内の流体の状態を把握できる。
【0061】
異物混入では、異物として、流体とは誘電率や表面での反射率が異なる物質(例えば金属)が混入すれば、信号波形が変化する。異物として、例えば、誘電率が流体と比べて小さい液体が混入した場合、マイクロ波の吸収率が減少することにより、信号波形が変化する。これに基づいて、異物混入でも、運動部材の運動とともに、ポンプ室内の流体の状態を把握できる。
【0062】
図6は、パルスレーダ方式およびFMCW方式のセンサから出力される信号の波形例を示す模式図である。
図6は、縦軸がパルスレーダ方式またはFMCW方式のセンサから出力される信号の強度、横軸が経過時間である。
図6には、正常運転での信号強度の波形と、空運転(異常運転)での信号強度の波形とを示す。また、
図6に示す出力信号の波形例は、前記
図1に示す構成例において、パルスレーダ方式またはFMCW方式のセンサを用いた場合の出力信号の波形である。
【0063】
図6に示す信号を出力可能なパルスレーダ方式のセンサは、マイクロ波パルスを送受信し、マイクロ波パルスの送信から受信までに要した時間に応じた信号を出力する。この出力信号から、センサとロータ(運動部材)との距離を算出できる。
【0064】
FMCW方式のセンサは、マイクロ波の連続波を送受信し、その連続波は周波数が所定の周期および形状で変化する。また、FMCW方式のセンサは、受信信号と送信信号とを混合したビート信号を生成する。この出力信号から、センサとロータ(運動部材)との距離を算出できる。
【0065】
このようなパルスレーダ方式およびFMCW方式のセンサを用いる場合、正常運転では、
図6に示すように、信号強度が変化する部分Cと、信号強度が一定な部分とが交互に出現する。以下に、その理由を説明する。
【0066】
センサ部41と運動部材(ロータ)20との間にステータ(ポンプ室)内の流体が介在することなく、運動部材で反射する場合、具体的には、前記
図2(a)に示すような右ストロークエンドの場合、ロータ(運動部材)での反射波に基づいてセンサ部とロータ(運動部材)との距離に応じた信号がセンサ部から出力される。また、センサ部41とロータ(運動部材)20との間に薄膜状の流体が介在する場合、具体的には、右ストロークエンドの前後である場合、マイクロ波がステータ内(ポンプ室内)の流体を透過し、ロータに到達する。ロータに到達したマイクロ波は、反射してセンサ部に到達する。このため、ロータでの反射波に基づき、センサ部とロータとの距離に応じた信号がセンサ部から出力される。このような右ストロークエンドやその前後における出力信号により、信号強度が変化する部分Cが出現する。なお、信号強度が変化する部分Cの波形は、反射波のエネルギーが微弱であることから、不明瞭になり易い。
【0067】
センサ部41とロータ(運動部材)20との間に所定の厚さ以上の流体が介在する場合、具体的には、前記
図2(b)〜(d)に示すように、センサ部41とロータ(運動部材)20との距離が所定の距離以上である場合、センサ部41とロータ(運動部材)20との間に介在する流体により、マイクロ波のロータ(運動部材)への到達やロータ(運動部材)での反射が妨げられる。このため、流体とステータ(ポンプ室)の界面での反射波に基づいてセンサと流体との距離に応じた信号がセンサから出力される。この出力信号により、信号強度が一定な部分が出現する。
【0068】
このようにパルスレーダ方式およびFMCW方式のセンサを用いる場合、正常運転では、信号強度が一定である部分が存在することに基づき、ポンプ室内の流体の状態、すなわち、ポンプ室内に流体が充満していることを把握できる。また、右ストロークエンドやその前後でマイクロ波がロータに到達して反射し、その反射波に基づく信号がセンサから出力されるので、運動部材の運動(動作)を把握できる。
【0069】
これに対し、空運転では、ステータ内(ポンプ室内)にガスが流入していることから、流体とステータ(ポンプ室)の界面での反射が発生しない。また、流体によるマイクロ波の吸収も発生しない。これらから、ロータ(運動部材)の位置に拘わらず、ロータ(運動部材)で反射したマイクロ波に基づく信号が出力される。すなわち、センサとロータ(運動部材)との距離に応じた信号が出力される。このため、信号の波形が変化し、
図6に示すように、山部と谷部が交互に出現する。
【0070】
このようにパルスレーダ方式およびFMCW方式のセンサを用いる場合、空運転では、信号強度が一定な部分が存在しないことに基づき、ポンプ室内の流体の状態、すなわち、ポンプ室内に流体がほとんどまたは全く存在しないことを把握できる。さらに、交互に出現する山部および谷部に基づき、運動部材の運動(動作)を把握できる。
【0071】
準空運転では、ポンプ室内に存在する流体の体積が減少する。このため、正常運転と比べて、信号強度が一定である部分の割合が減少し、信号強度が変化する部分の割合が増加する。また、信号強度が変化する部分におけるピーク値が大きくなる。これらに基づいて、準空運転でも、運動部材の運動とともに、ポンプ室内の流体の状態を把握できる。
【0072】
このような異常運転による波形の変化を、本実施形態の容積式ポンプでは、判定部で、センサ部から出力される信号に基づいて検知し、異常運転について判定する。
【0073】
ここで、従来のステータの温度に基づく空運転の検出では、ポンプ室内の流体の状態を直接的に把握することなく、ステータの温度に基づいてポンプ室内の状態を間接的に把握する。また、従来のモーターのトルクに基づく異常運転の検出も、ポンプ室内の流体の状態を直接的に把握することなく、モーターのトルクに基づいてポンプ室内の状態を間接的に把握する。
【0074】
これに対し、本実施形態の容積式ポンプは、センサ部41によってポンプ室内の流体の状態を直接的に把握できる。これにより、異常運転の際に、前記
図3および
図6に示すように、センサ部からの出力信号が、即座に変化する。このため、異常運転を速やかに検出することができ、例えば5秒以内に検出することができる。
【0075】
また、異常運転を検出する際にステータ(ポンプ室)の温度を用いないことから、流体の温度上昇が発生した場合に、異常運転と誤判定することがない。また、異常運転を検出する際にモーターのトルク(駆動装置の負荷)を用いないことから、流体の性質の変化や、モーターの回転数の変更、ポンプと接続する配管(経路)の変更等の場合に、異常運転と誤判定することがない。したがって、本実施形態の容積式ポンプは、異常運転を正確に検出できる。
【0076】
本実施形態の容積式ポンプは、センサ部41に、前述のドップラ方式のセンサ、パルスレーダ方式のセンサ、または、FMCW方式(連続波周波数変調方式)のセンサを採用できる。なお、センサ部41が送信するマイクロ波の周波数は、例えば、0.3GHz〜3THzとすることができる。
【0077】
判定部42は、センサ部41から出力される信号に基づき、運動部材20の運動とともに、ポンプ室30内の流体の状態を把握するのが好ましい。運動部材20の運動を把握すれば、例えば、異常運転時のみならず、正常運転時にも、運動部材の回転数等を求めて活用できる。また、運動部材20の運動を把握することにより、運動部材20の動作が正常または異常であるかを検出することもできる。運動部材20の動作が異常とは、例えば、ジョイントの破損、モーターの不良、コントローラーの不良等による運動部材の異常な動作が該当する。
【0078】
さらに、運動部材(ロータ)やポンプ室(ステータ)の摩耗によってストロークエンドでセンサ部と運動部材(ロータ)の位置関係が変化すると、それに応じて信号が変化することがある。具体的には、山形のピーク値が小さくなったり、ピーク値が検出できなくなったりすることが考えられる。この信号の変化を利用すれば、運動部材(ロータ)やポンプ室(ステータ)の摩耗の検出も可能となる。加えて、ポンプ停止時における運動部材20の位置の制御に利用することもでき、例えば、ポンプ停止時におけるロータの回転角度を一定に制御することもできる。
【0079】
前記
図2に示すステータ30(アウター部材)の外周面の横断面形状は円形状であったが、アウター部材の外周面の横断面形状を多角形状としてもよい。また、前記
図2に示すステータ30(アウター部材)の内周面の横断面形状は、長円状であったが、アウター部材の内周面の横断面形状を、後述の
図9に示すような形状としてもよい。
【0080】
図9は、アウター部材の内周面の横断面形状例を示す模式図であり、
図9(a)は曲線状部を有する場合、
図9(b)は楕円状である場合を示す。
図9(a)に示すアウター部材の内周面の横断面形状は、前記
図2に示すアウター部材と同様に、第1および第2の半円の弧状部(30c、30d)を有する。
図9(a)に示すアウター部材の内周面の横断面形状は、前記
図2に示すアウター部材と異なり、第1の弧状部30cと第2の弧状部30dが2つの曲線状部30gでつながれる。その曲線状部30gは、いずれも内側に凸な形状であり、長円方向と垂直な対称線30fに近づくのに伴い、内周面の幅Wが狭くなる。なお、曲線状部30gは、いずれも内側に凹な形状としてもよい。この場合、長円方向と垂直な対称線30fに近づくのに伴い、内周面の幅Wが広くなる。
【0081】
図9(b)に示すアウター部材の内周面の横断面形状は、楕円状である。このように横断面形状が楕円状である場合、長円方向は長軸30hと平行な方向とし、長円方向と平行な対称線は長軸30hとする。
【0082】
前記
図1に示す構成例では、容積式ポンプをアウター部材が回転不能である一軸偏心ねじポンプとしたが、本実施形態の容積式ポンプは、このタイプの一軸偏心ねじポンプに限定されない。すなわち、ポンプ室およびマイクロ波を反射可能な運動部材を備える容積式ポンプであれば、適用できる。例えば、アウター部材が回転可能である一軸偏心ねじポンプ、ロータリーポンプ、ピストンポンプ等に適用することもできる。
【0083】
アウター部材が回転可能である一軸偏心ねじポンプでは、アウター部材としてステータに代えてアウターロータが用いられる。アウターロータは、前記
図1に示すステータと同様に、ゴム等の弾性体または樹脂からなり、アウターロータの内周面は、n条の雌ネジ形状である。このアウターロータは、前記
図1に示すステータと異なり、例えば滑り軸受、転がり軸受等によって回転可能に保持される。より具体的には、アウターロータは、金属製のアウターロータケーシングに固定され、そのアウターロータケーシングが軸受等によって回転可能に保持される。この場合、アウターロータとアウターロータケーシングは、一体となって回転する。
【0084】
また、インナーロータは、前記
図1に示すインナーロータ20と同様に、金属製の軸体であり、雄ネジ形状である。インナーロータは、前記
図1に示すインナーロータ20と異なり、例えば自在継手およびロッドを介することなくモーターの主軸と直接連結することにより、回転可能である。また、インナーロータをアウターロータに対して相対的に偏心回転させるため、インナーロータの回転軸は、アウターロータの回転軸と所定の距離を設けて配置される。
【0085】
このようなアウター部材が回転可能である一軸偏心ねじポンプでは、モーターの回転により、それと連結されたインナーロータが回転する。そのインナーロータの回転に連動し、アウターロータの回転軸とインナーロータの回転軸が偏心した状態でアウターロータがインナーロータの1/2の回転数で回転する。このようにしてインナーロータが、アウターロータに対して相対的に偏心回転する。アウター部材が回転可能である一軸偏心ねじポンプでは、インナーロータ(モータ)が720°回転(2回転)する間に、アウターロータの横断面の略長円状の空間をインナーロータが1往復する。
【0086】
図10は、アウター部材が回転可能である一軸偏心ねじポンプにおける構成例を模式的に示す断面図であり、
図10(a)はアウターロータケーシングにセンサ部を配置する場合、
図10(b)はアウターロータにセンサ部を配置する場合を示す。
図10(a)および
図10(b)に示す一軸偏心ねじポンプは、ケーシング11と、滑り軸受18と、アウターロータケーシング17と、アウターロータ31と、インナーロータ20とを備える。このようなアウター部材が回転可能である一軸偏心ねじポンプでは、アウター部材が回転不能である一軸偏心ねじポンプと同様に、アウターロータ31(アウター部材)がポンプ室となり、アウターロータ31に対して相対的に偏心回転するインナーロータ20が運動部材となる。
【0087】
図10(a)および
図10(b)に示す一軸偏心ねじポンプは、前記
図1に示す構成例と同様に、異常運転検出手段40をさらに備える。その異常運転検出手段40は、センサ部41と、判定部42とを備える。判定部42は、センサ部41から出力される信号を無線通信で受信する。
【0088】
図10(a)に示す構成例では、センサ部41は、アウターロータケーシング17の内部に配置され、より具体的には、アウターロータケーシング17に設けられた貫通穴に配置される。一方、
図10(b)に示す構成例では、センサ部41は、アウターロータ31の内部に配置され、より具体的には、アウターロータ31に設けられた非貫通穴に配置される。このようなセンサ部41は、
図10(a)および
図10(b)に示すいずれの構成例でも、アウターロータ31およびアウターロータケーシング17とともに一体で回転する。
【0089】
図7は、容積式ポンプをロータリーポンプとした場合の構成例を模式的に示す断面図である。
図7に示すロータリーポンプ50は、ケーシング51と、回転方向が異なる2個のロータ52とを備える。このようなロータリーポンプ50は、ケーシング51がポンプ室となり、回転運動する金属製のロータ52が運動部材となる。
【0090】
図7に示すロータリーポンプ50は、前記
図1に示す構成例と同様に、異常運転検出手段40をさらに備える。その異常運転検出手段40は、センサ部41と、判定部42とを備える。また、センサ部41によってマイクロ波を送受信するため、金属製のケーシング51に貫通孔51aが設けられる。ロータリーポンプ50は、貫通孔51aを封止するシール部材53、および、そのシール部材53をケーシング51に押し付ける押さえ板54を備える。シール部材53は、例えば、マイクロ波を透過可能なゴムからなる。
【0091】
ピストンポンプは、例えば、円筒状のシリンダと、ピストンとを備える。このようなピストンポンプは、シリンダがポンプ室となり、そのシリンダ内を往復運動するピストンが運動部材となる。
【0092】
運動部材は、偏心回転運動や回転運動、往復運動する。その運動過程の少なくとも一部で、センサ部が運動部材に向かってマイクロ波を送信できればよい。
【0093】
図8は、容積式ポンプを一軸偏心ねじポンプとした場合のセンサの配置例を模式的に示す断面図であり、
図8(a)はセンサ部のマイクロ波の送信方向が流体とステータの界面と垂直な場合を示し、
図8(b)はその送信方向がその界面と非垂直な場合を示す。
図8は、前記
図1のA−A位置での断面図に相当する。また、
図8の破線矢印は、センサ部がマイクロ波を送信する方向を示す。
【0094】
センサ部は、例えば、
図8(a)および(b)に示すように配置することができる。また、ロータリーポンプの場合は、前記
図7に矢印Aで指し示す位置にセンサ部を配置することができる。これらの場合、運動過程の一部で、センサ部が運動部材に向かってマイクロ波を送信することができない。しかしながら、運動部材の運動に伴い、センサ部と運動部材との間にポンプ室内の流体が介在することなく、マイクロ波が運動部材で反射する状態が周期的に発生する。その際、正常運転と異常運転とで、前記
図3および
図6を用いて説明したように、出力信号の波形が変化するので、異常運転を検出できる。
【0095】
異常運転の検出効率を向上させる観点から、運動部材の運動過程で常に、センサ部が運動部材に向かってマイクロ波を照射するのが好ましい。すなわち、センサ部と運動部材との間に運動部材内の流体が介在しない状態において運動部材がマイクロ波を常に反射する位置にセンサ部を配置するのが好ましい。具体的には、前記
図1および
図2に示すような一軸偏心ねじポンプであれば、第1および第2の弧状部(30c、30d)のうちでいずれか一方の弧状部側に配置するのが好ましい(前記
図2参照)。また、前記
図7に示すようなロータリーポンプであれば、ロータ52の回転中心に向かって配置するのが好ましい。
【0096】
また、
図8(b)に示すように、センサ部によって流体とステータ(ポンプ室)の界面と非垂直にマイクロ波を照射することができるが、
図2(a)または
図8(a)に示すように、センサ部が流体とステータ(ポンプ室)の界面と垂直にマイクロ波を照射するのが好ましい。このようにセンサ部を配置すれば、センサ部のマイクロ波の送信方向が流体とポンプ室の界面と垂直となり、ポンプ室とそのポンプ室内のガスや流体との界面でマイクロ波の一部が屈折するのを防止でき、センサ部で高強度の反射波を受信できる。また、ポンプ室とそのポンプ室内のガスや流体との界面でマイクロ波の一部が反射するのを低減でき、これによってもセンサ部で高強度の反射波を受信できる。
【0097】
より具体的には、前記
図1および
図2に示すような一軸偏心ねじポンプにおいて、センサ部を弧状部(30c、30d)側に配置するのであれば、センサ部のマイクロ波の送信方向を弧状部(30c、30d)の中心に向かうように配置するのが好ましい。また、センサ部を直線状部30b側に配置するのであれば、センサ部のマイクロ波の送信方向を長円方向と垂直な対称線30fと平行に配置するのが好ましい。
【0098】
センサ部は、前記
図2(a)および前記
図7に示すように、運動部材がマイクロ波を常に反射する位置であって、センサ部のマイクロ波の送信方向が流体とポンプ室の界面と垂直となる位置に配置されるのがより好ましい。これにより、異常運転の検出効率を向上できるとともに、センサ部で高強度の反射波を受信できる。
【0099】
判定部42は、異常運転として空運転、準空運転、閉塞運転および異物混入のうちの一つ以上を検出する。空運転を検出する場合、終端検知制御に応用することもできる。ここで、終端検知制御とは、流体の移送完了時に、ポンプを停止させる制御である。空運転を検出する場合、空運転の検出時を流体の移送完了時と判定し、ポンプを停止させれば、終端検知制御が実現できる。また、準空運転を検出すれば、正常運転から準空運転を経て空運転に至る場合に、空運転を未然に防止することができる。
【0100】
異常運転の判定は、例えば、出力信号の波形のピーク値を求める処理と、そのピーク値が閾値を超える場合を異常運転と判定する処理とで構成できる。出力信号の強度は、例えば、ステータまたはシール部材の材質やその厚さ、移送すべき流体の組成によって変化する。これらの条件に応じ、閾値は適宜設定できる。
【0101】
閾値を用いる判定には、ピーク値が閾値を上回る場合に異常運転と判定する形態、および、ピーク値が閾値を下回る場合に異常運転と判定する形態がある。いずれの形態を採用するかは、出力信号の処理方式によって適宜設定できる。ピーク値が閾値を上回る場合に異常運転と判定する形態は、例えば、前記
図3に示す波形例のように、ハイパスフィルタの処理(直流成分をカットする処理)と、全波整流の処理とをその順に施す出力信号の処理方式に採用できる。また、ハイパスフィルタ、全波整流、ローパスフィルタおよび非反転増幅の処理をその順に行う方式にも採用できる。一方、ピーク値が閾値を下回る場合に異常運転と判定する形態は、例えば、ハイパスフィルタ、全波整流、ローパスフィルタおよび反転増幅の処理をその順に行う方式に採用できる。
【0102】
また、判定部42は、出力信号の波形が所定のパターンと異なる場合に異常運転と判定してもよい。この場合、事前に正常運転の出力信号の波形パターンを準備する。異常運転の判定の際には、出力信号の一部を所定のパターンと同様の周期で抜き取る処理と、抜き取った波形とパターン波形とを画像解析ソフトによって比較し、相異する場合に異常運転と判定する処理とを行えばよい。抜き取った波形とパターン波形とを比較して判定する処理では、例えば、出力信号の波形の形状や面積を基準とすることができる。なお、パターン波形を用いる形態と、前述した閾値を用いる形態とを並行して実施してもよい。
【0103】
ここで、高粘度の流体(例えばペースト、脱水ケーキ、挽肉等)を移送する場合、正常運転であっても流体の吸込み量が不足し、ポンプ室内の一部にガスが流入する場合や、ポンプ室内の一部が真空となる場合がある。これらの場合、ガスまたは真空の部分がマイクロ波の経路上に偶然位置すると、マイクロ波がほとんど減衰しないことから、ピーク値が一時的に変化する。ピーク値が閾値を超える場合を異常運転と判定する形態では、その変化を異常運転と誤って判定するおそれがある。
【0104】
また、気泡を含む流体(例えばホイップクリーム)を移送する場合、正常運転であっても気泡の部分がマイクロ波の経路上に偶然位置すると、マイクロ波がほとんど減衰しないことから、ピーク値が一時的に変化する。ピーク値が閾値を超える場合を異常運転と判定する形態では、その変化を異常運転と誤って判定するおそれがある。
【0105】
ところで、ドップラ方式のセンサは、前述の通り、ドップラ周波数に応じた正弦波の信号を出力するので、実際の信号の波形は、正弦波の山および谷を含んでいる。その正弦波の周期は、運動部材(ロータ)の往復運動の周期よりも短い。なお、前記
図3に示すドップラ方式のセンサから出力される信号の波形例では、周期が短い(微視的な)正弦波の山および谷を省略し、運動部材(ロータ)の往復運動の周期と同程度である(巨視的な)信号強度の変化のみを抽出して示している。
【0106】
図11は、ドップラ方式のセンサを用いる場合の、正弦波の山および谷を含む信号の波形例を示す模式図であり、
図11(a)は空運転時、
図11(b)は正常運転時をそれぞれ示す。
図11に示す出力信号の波形例は、前記
図1に示す構成例において、ドップラ方式のセンサを用いた場合の出力信号の波形である。なお、
図11に示す信号の波形例は、ドップラ方式のセンサから出力された信号に、ハイパスフィルタの処理(直流成分をカットする処理)と、増幅の処理と、ローパスフィルタの処理とをその順に施したものである。
【0107】
正常運転では、前記
図3を用いて説明した通り、巨視的には、動体(ロータ)を検出していない平坦な部分と、動体を検出している山型の部分Sとが周期的に交互に出現する。また、動体を検出している山型の部分Sは、ロータが右ストロークエンドを通過していることを示す。ドップラ方式のセンサは、正弦波の信号を出力するので、
図11(b)に示すように、動体を検出している山型の部分Sは、微視的には、正弦波の山(P1、P2)および谷(T1)によって形成される。
図11(b)では、動体を検出している山型の部分Sが、2つの微視的な山(P1、P2)と、1つの微視的な谷(T1)によって形成される。
【0108】
空運転では、前記
図3を用いて説明した通り、ドップラ方式のセンサが常に動体を検出することから、巨視的には、ブロードな山型の部分Bが周期的に出現する。また、ブロードな山型の部分Bのピークは、ロータが右ストロークエンドを通過していることを示す。ドップラ方式のセンサは、正弦波の信号を出力するので、
図11(a)に示すように、動体を検出しているブロードな山型の部分Bは、微視的には、周期が短い複数の正弦波の山(P1〜P7)および谷(T1〜T7)から形成される。
図11(a)では、動体を検出しているブロードな山型の部分Bが、7つの微視的な山(P1〜P7)および谷(T1〜T7)から形成される。
【0109】
準空運転では、図示を省略するが、ポンプ室内の流体量が減少することから、正常運転と比べ、ロータを検出可能な範囲が広くなる(距離が長くなる)。このため、準空運転の信号の波形は、
図11(b)に示す正常運転の信号波形と比べ、動体を検出していない平坦な部分が出現する時間が短くなるとともに、動体を検出している山型の部分Sが出現する時間が長くなる。これに伴い、微視的には、動体を検出している山型の部分Sに含まれる山および谷の数がそれぞれ増加し、前記
図11に示すケースであれば、山および谷の数が3つまたは4つ程度にそれぞれ増加する。
【0110】
この正弦波の山と谷が信号の波形に含まれる数を異常運転の判定に用いてもよい。この形態は、例えば、所定の時間範囲内の信号波形を解析して正弦波の山および谷のいずれか一方または両方の出現回数を計数する処理と、求めた出現回数が閾値(以下、特に「判定用閾値」ともいう)を超えている場合を異常運転と判定する処理とで構成できる。
【0111】
ここで、出現回数を計数すべき所定の時間(以下、「評価時間」ともいう)、および、判定用閾値の設定方法について、前記
図1に示すアウター部材が回転不能である一軸偏心ねじポンプを例にして説明する。前述の通り、ドップラ方式のセンサは、ドップラ周波数に応じた正弦波の信号を出力し、そのドップラ周波数fd(Hz)は、一般的に下記(1)式によって近似できる。
fd=2×v×fs/c ・・・(1)
ただし、vは動体の速度(m/s)、cは光速(約3×10
8m/s)、fsは送信されるマイクロ波の周波数(単位:Hz、以下、「送信周波数」ともいう)である。
【0112】
アウター部材が回転不能である一軸偏心ねじポンプでは、前記
図2を用いて説明したように、ロータ20(モーター)が360°回転(1回転)するのに伴い、ステータ30の横断面の略長円状の空間を1往復する。その際のロータ20の平均速度vr(m/s)は、下記(2)式によって算出できる。
vr=2×s×N/60 ・・・(2)
ただし、sはロータのストローク量(前記
図2(a)参照)、Nはモーターの回転数(min
-1)である。
【0113】
また、ドップラ方式のセンサが出力する信号の波形において、運動部材が1サイクルの運動に要する時間内の山または谷の出現回数A(以下、「1サイクルあたりの出現回数」ともいう)は、下記(3)式によって算出できる。なお、マイクロ波の減衰がないものとし、すなわち、空運転の状態とする。ここで、1サイクルの運動に要する時間とは、一軸偏心ねじポンプのように運動部材が往復運動する場合、1往復に要する時間を意味し、前述のロータリーポンプのように運動部材が回転運動する場合、1回転に要する時間を意味する。
A=60×fd/N ・・・(3)
ただし、fdはドップラ周波数(Hz)、Nはモーターの回転数(min
-1)である。
【0114】
上記(3)式のドップラ周波数fdを上記(1)式で置き換え、さらに上記(1)式の動体の速度vを上記(2)式のロータの平均速度で置き換えると、下記(4)式が導かれる。
A=4×fs×s/c ・・・(4)
【0115】
上記(4)式のうちでロータのストローク量sは、ポンプの固有値であり、光速cは定数である。このため、送信周波数を一定とすれば、1サイクルあたりの出現回数Aは、モーターの回転数等に影響されることなく、一定である。空運転と同様に、正常運転の場合も、1サイクルあたりの出現回数Aは、モーターの回転数等に影響されることなく、一定となる。
【0116】
したがって、評価時間は、例えば、ロータ20といった運動部材が1サイクルの運動に要する時間に応じて適宜設定すればよく、より具体的には、1サイクルの運動に要する時間に整数を乗じた時間とすればよい。異常運転を早期に検出する観点では、評価時間は、短い方が好ましいため、1サイクルの運動に要する時間とするのが好ましい。
【0117】
前記(4)式に示すように、1サイクルあたりの出現回数Aは、ストローク量(ポンプサイズ)や送信周波数に応じて変化する。また、評価時間あたりの出現回数は、評価時間の長さによっても変化する。これらに応じて判定用閾値は、適宜設定すればよい。
【0118】
例えば、前記
図11に示す信号波形の条件(s=24mm、fs=24.2GHz)では、前記(4)式によれば、1サイクルあたりの出現回数Aが約7.7となる。実際の信号の波形では、前記
図11(a)に示すように、モーターが1回転する時間内に7つの山(P1〜P7)および谷(T1〜T7)が確認された。この場合、1サイクルの運動に要する時間を評価時間として設定し、山および谷のいずれか一方の出現回数を計数するのであれば、判定用閾値を3〜6の任意の値に設定すればよい。例えば、移送すべき流体が高粘度の流体や気泡を含む流体であれば、正常運転の状態で計数される出現回数が増加することから、判定用閾値を大きめの値A(例えば6)に設定すればよい。流体が中粘度または低粘度であり、気泡を含まない流体であれば、判定用閾値を値Aよりも小さい値B(例えば5)に設定すればよい。
【0119】
また、準空運転を検出したいのであれば、判定用閾値を空運転の値Aまたは値Bより小さい値C(例えば3または4)に設定すればよい。このように準空運転を検出すれば、正常運転から準空運転を経て空運転に至る場合に、空運転を未然に防止することができる。なお、判定用閾値を複数設定してもよい。例えば、判定用閾値を、空運転の値Aまたは値Bと準空運転の値Cの2段階で設定すれば、複数の異常運転、すなわち準空運転と空運転を検出することが可能である。
【0120】
また、計数される出現回数に基づいて、ポンプ室内の流体量を把握することもできる。例えば、計数された出現回数を、空運転の状態で計数される出現回数または正常運転の状態で計数される出現回数と比較することで、ポンプ室内の流体量を推定すればよい。
【0121】
出現回数の計数は、例えば、信号の強度が閾値V1(以下、特に「計数用閾値」ともいう)を越える場合に出現回数を増加させることによって行えばよい。
【0122】
評価時間は、モーターの回転数から算出してもよい。例えば、アウター部材が回転不能な一軸偏心ねじポンプであれば、モーターが1回転する時間を評価時間として設定することができる。また、アウター部材が回転可能な一軸偏心ねじポンプであれば、モーターが2回転する時間を評価時間として設定することができる。
【0123】
あるいは、信号の波形に基づいて計数を開始および終了することで評価時間を規定してもよい。信号の波形に基づいて計数を開始および終了する形態では、運動部材がセンサ部に最も近づく際に出力される正弦波において、山が最も高くなるとともに谷が最も深くなる現象を利用すればよい。
【0124】
この形態では、例えば、事前に、運動部材がセンサ部に最も近づく際に出力される正弦波の山または谷のみを検出するように、閾値V2(以下、特に「リセット用閾値」ともいう)を設定する。また、信号の強度がリセット用閾値V2を超えた場合に出現回数を0(ゼロ)に置き換える処理と、信号の強度が計数用閾値V1を超えた場合に出現回数を増加させる処理と、出現回数が判定用閾値を超えている場合に異常運転と判定する処理とを繰り返して行えばよい。このような信号の波形に基づいて計数を開始および終了する形態では、1サイクルの運動に要する時間をより正確に把握し、異常運転の検出精度を高めることができる。
【0125】
正常運転から空運転に至る過程で、信号波形に含まれる正弦波の山および谷の数が変化するのに伴い、信号波形の積分値も変化する。ここで、信号波形の積分値とは、信号波形を積分処理することによって求められ、前記
図11に示す信号波形であれば、横軸と信号波形(曲線)とで挟まれた領域の面積が該当する。このような積分値に基づいて異常運転を検出することもできる。
【0126】
この形態では、例えば、積分値が閾値を超える場合に異常運転と判定すればよい。より具体的には、異常運転の判定処理を、信号波形のうちで所定の時間範囲内を積分して積分値を算出する処理と、正常運転時より積分値が小さい場合を閉塞運転と判定する処理と、正常運転時より僅かに積分値が大きい場合を準空運転と判定する処理と、準空運転時より積分値が大きい場合を空運転と判定する処理で構成できる。このように異常運転の判定に積分値を用いれば、閉塞運転も検出できる。なお、これらの判定の基準となる積分値(閾値)は、例えば流体の組成などの条件に応じて、適宜設定することができる。また、上記の構成例では、閉塞運転、準空運転および空運転の全部を判定したが、それらのうちの1つ以上を判定してもよい。
【0127】
積分値に基づいて異常運転を検出する形態では、積分値が不規則に変動する場合を異物混入と判定してもよい。この異物混入を判定する処理は、上述の閉塞運転、準空運転および空運転を判定する処理とともに行ってもよい。異物混入を判定する処理では、例えば、所定個数の間近の積分値を用いて標準偏差を算出し、その標準偏差が閾値を超える場合に異物混入と判定すればよい。より具体的には、異物混入を判定する処理を、算出された積分値を順次記憶する処理と、記憶された積分値から間近の積分値を所定個数呼び出し、標準偏差を算出する処理と、その標準偏差が閾値を超える場合に異物混入と判定する処理で構成できる。このように異常運転の判定に積分値を用いれば、異物混入も検出できる。なお、この判定の基準となる閾値は、例えば流体の組成などの条件に応じて、適宜設定することができる。
【0128】
信号波形の積分値を用いる形態では、所定の時間分の信号の波形を積分処理することによって積分値を算出する。この所定の時間(以下、「積分処理時間」ともいう)は、出現回数を判定に用いる形態の評価時間と同様に、1サイクルの運動に要する時間に整数を乗じた時間とすることができる。異常運転を早期に検出する観点では、積分処理時間は、短い方が好ましく、1サイクルの運動に要する時間とするのが好ましい。この場合、積分処理時間は、評価時間と同様に、モーターの回転数から算出してもよく、信号の波形に基づいて開始点および終了点を決定することで積分処理時間を規定してもよい。
【0129】
積分処理時間は、1サイクルの運動に要する時間よりも短く設定することもできる。すなわち、1サイクルの運動に伴って出力される信号の波形から一部を抜き取って積分値を算出してもよい。例えば、積分処理時間を、1サイクルの運動に要する時間の1/n等に設定してもよい。この場合、抜き取りの開始位置を、1サイクルの運動に要する時間に整数を乗じた時間ごとに設定する。あるいは、前記
図11の信号波形であれば、
図11(b)のP1およびP2の山の部分だけ抜き取って積分値を算出するとともに、それに対応する
図11(a)のP1およびP7の山の部分だけ抜き取って積分値を算出してもよい。これらの形態は、閉塞運転や異物混入の検知精度の向上が期待できる。なお、積分値を用いる形態を、前述した出現回数を用いる形態と並行して実施してもよい。
【0130】
異常運転検出手段は、信号処理部43と、出力部44とをさらに備え、判定部42は、信号処理部43で処理された信号に基づいて異常運転を判定するのが好ましい。ここで、信号処理部43は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、全波整流および増幅のうちのいずれか1つ以上の処理を、センサ部41から出力される信号に施す。また、出力部44は、判定部の判定結果を表示または出力する。判定部42、信号処理部43および出力部44は、それぞれ、ケーブルを介して信号を送受信してもよく、無線通信により信号を送受信してもよい。
【0131】
出力部44は、例えば、判定結果を容積式ポンプのコントローラーに出力し、そのコントローラーは異常運転と判定された場合に容積式ポンプを停止するとともにメッセージをディスプレイに表示する。あるいは、出力部44は、異常運転と判定された場合に回転灯を動作させることにより、異常運転の発生を出力してもよい。出力部44は、異常運転と判定された場合に警告音を発することにより、異常運転の発生を出力してもよい。このような出力部44により、検出した異常運転の情報を有効に活用できる。
【0132】
出力信号の強度は、前述の通り、アウター部材またはシール部材の材質やその厚さ、移送すべき流体の組成によって変化する。信号処理部43を備えれば、出力信号の強度の変化を吸収することができ、安定して異常運転を検出できる。また、閾値を用いて判定する場合、閾値の調整を不要にできる。
【0133】
容積式ポンプは、アウター部材が回転不能または回転可能である一軸偏心ねじポンプとするのが好ましい。この場合、ポンプ室は、内周面が雌ねじ型に形成されたアウター部材(ステータまたはアウターロータ)からなり、運動部材は、アウター部材に対して相対的に偏心回転する雄ねじ型のインナー部材(ロータ)からなる。一軸偏心ねじポンプであれば、アウター部材がゴム等の弾性体または樹脂からなるため、空運転時に摩耗し易く、さらに、アウター部材の内周面が焼付く場合がある。この摩耗や焼付きを、本実施形態の容積式ポンプによって効果的に防止できる。
【0134】
容積式ポンプが回転可能または回転不能なアウター部材を備える一軸偏心ねじポンプであって、アウター部材30の内周面の横断面形状が略長円状である場合、前記
図2に示すように、センサ部41は、長円方向と平行な対称線30e上の位置から、長円方向に沿ってマイクロ波を送信するのが好ましい。これにより、センサ部41とロータ20との間にアウター部材30内の流体が介在しない状態において、運動部材のロータ20がマイクロ波を常に反射でき、異常運転の検出効率を向上できる。
【0135】
さらに、アウター部材30と内周面の流体との界面でマイクロ波の一部が屈折するのを防止でき、センサ部41で反射波を安定して受信できる。また、アウター部材30とアウター部材30内のガスまたは流体との界面でマイクロ波の一部が反射するのを低減でき、これによってもセンサ部41で反射波を安定して受信できる。
【0136】
ここで、アウター部材30の肉厚は周方向で変化し、長円方向と平行な対称線30e上の部位が最も薄肉となる。このため、センサ部41を長円方向と平行な対称線30e上に配置すれば、ステータ30にセンサ部41を埋め込むための穴等を設けることなく、センサ部41を簡便に設置できる。
【0137】
センサ部41は、ロータ20のうちでアウター部材30とともに常に閉空間を形成する部位にマイクロ波を送信するのが好ましい。すなわち、ロータ20のうちでアウター部材30とともに形成する空間がロータ20の偏心回転運動の過程で一時的に開空間となる部位を除いてマイクロ波を送信するのが好ましい。前記
図1に示す一軸偏心ねじポンプでは、ロータ20の両端からねじ山数(段数)が1.5の位置までの部位が形成する空間は、ロータ20の回転運動の過程で一時的に開空間となる。この両端の部位を除き、ロータ20の長手方向の中間部位にマイクロ波を送信すれば、常に閉空間を形成する部位にマイクロ波を送信することとなる。
【0138】
ロータ20の両端の部位では、その上流側や下流側の状況によって部位内の流体の状態が変化し易いのに対し、ロータ20の中間部位では、その上流側や下流側の状況による部位内の流体の状態変化が緩和される傾向となる。このため、異常運転を的確に判定することができる。