(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722969
(24)【登録日】2020年6月25日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】けい酸質肥料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C05D 9/00 20060101AFI20200706BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20200706BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20200706BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
C05D9/00ZAB
C02F11/00 C
C02F11/00 M
C02F1/58 R
B09B3/00 303A
B09B3/00 303L
B09B3/00 303Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-17342(P2016-17342)
(22)【出願日】2016年2月1日
(65)【公開番号】特開2017-137203(P2017-137203A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年11月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(72)【発明者】
【氏名】今井 敏夫
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−001095(JP,A)
【文献】
特開2001−213679(JP,A)
【文献】
特開2013−014492(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/175632(WO,A1)
【文献】
特開2006−306696(JP,A)
【文献】
特開2004−218065(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02725001(EP,A1)
【文献】
欧州特許出願公開第02857376(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05D1/00−11/00
B09B3/00
C02F1/58
C02F11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式 2CaO・xSiO
2・yP
2O
5(ただし、x>0、y≧0、0.85<x+y≦1.00かつ0.65<[x/(x+y)]≦1.00)で表される鉱物を含み、かつCaOの含有率が50〜60質量%であるけい酸質肥料であって、水−弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸が6%以上である、けい酸質肥料
であって
けい酸質肥料中の、(A)SiO2、(B)CaO、および、(C)CaOとSiO2とを除く成分の質量比が、図2に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=24/50/26〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=21/60/19〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=10/60/30〕、および、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=10/50/40〕
で囲まれる範囲内にある、けい酸質肥料。
【請求項2】
請求項1に記載のけい酸質肥料の製造方法であって、
汚泥、脱水汚泥、汚泥乾燥物、汚泥炭化物、汚泥焼却灰、汚泥溶融スラグから選ばれる1種以上と、カルシウム源とを少なくとも混合して混合原料を得る混合工程と、
該混合原料を、焼成炉を用いて1300〜1400℃で焼成して、焼成物であるけい酸質肥料を得る焼成工程と
を含む、けい酸肥料の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程において、さらに、リンを含有する排水からHAP法やMAP法を用いて回収されたハイドロキシアパタイトおよびリン酸マグネシウムアンモニウム、並びにリン酸質肥料から選ばれる1種以上を混合する、請求項2に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【請求項4】
前記焼成炉がロータリーキルンである、請求項2または3に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、けい酸の水溶性が高いけい酸質肥料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
けい酸質肥料は、ケイカル(ケイ酸カルシウム)とケイ酸カリ(ケイ酸カリウム)肥料があり、従来、稲作等に用いられてきた。これらの肥料のうち、ケイカルは、おもにSiO
2、CaO、およびAl
2O
3を含み、土壌へのけい酸の補給、酸性土壌の矯正等の効果がある。
しかし、ケイカルからのけい酸溶出量は、塩酸水溶液中では30%を越えるものの、土壌のpHである5〜7程度では5%程度と少ないため、水田1000m
2当たり約200kgものケイカルを施肥する場合があり、手間やコストの点から農家にとって負担が大きい。また、ケイカルは肥料の三要素である窒素、燐、および加里のいずれも含まないため、通常、肥料の三要素を含む他の肥料に、多量のケイカルを混合する必要がある。例えば、中性域でも比較的けい酸溶出量が多い熔成りん肥との混合でも、ケイカルの混合量は、熔成りん肥40kgに対し200kgと多量になる。
なお、前記けい酸溶出量は、可溶性けい酸(0.5モルの塩酸水溶液中に溶け出るけい酸の量)とは異なる量である。
【0003】
そこで、ケイカルの欠点であるけい酸の低い水溶性を改善したけい酸質肥料が、いくつか提案されている。
例えば、特許文献1に記載のけい酸質肥料は、特定の粒度を有するけい酸質組成物の粉末に、特定の水への溶解速度を有する有機質結合材(蔗糖や廃糖蜜)を添加し造粒してなるけい酸質肥料である。そして、イオン交換法を用いて測定した1ヶ月以内の、該肥料のけい酸分溶出量は16質量%以上である。
また、特許文献2に記載のけい酸質肥料は、前記有機質結合材が、糊化処理されたデンプンからなる肥料である。
そして、前記いずれのけい酸質肥料も、MgOを1〜20質量%、SiO
2を30〜50質量%のほか、CaOおよびP
2O
5等を含有する非晶質物質である。
さらに、特許文献3に記載のけい酸質肥料は、主成分がSiO
2、MgO、CaO、P
2O
5からなり、SiO
2を12質量%以上30質量%未満含有し、イオン交換法で測定したときに10日以内のけい酸分溶出量が10質量%以上の肥料である。しかし、該けい酸質肥料の製造では、天然のリン鉱石である蛇紋岩を使わなければならず、またバッチ方式による熔融スラグ化であるから、エネルギー消費および生産性の点で経済的ではない。
【0004】
ところで、前記熔成りん肥等のりん酸質肥料は、天然資源であるリン鉱石を原料の一部に用いて製造される。しかし、我が国では、リンは天然資源として産出されないため、そのほぼ全てを輸入に頼らざるを得ないが、近年、天然のリンは世界的に枯渇しつつあり、リンの価格が高騰してリンの確保が難しくなっている。そこで、りん酸質肥料の製造分野では、天然のリン資源に代わるものとして、リンの含有率がリン鉱石とほぼ同じ20〜30質量%である下水汚泥焼却灰が考えられている。また、我が国において、下水汚泥およびその焼却灰は、それぞれ、年間220万トンおよび30万トンと大量に発生するため、下水汚泥等の処理は社会的要請でもあった。また、下水汚泥焼却灰は、りん酸とけい酸とを含んでいるため、本願発明のけい酸質肥料の原料として好適である。
また、下水、し尿、および畜舎廃水等のリンを含む排水から、HAP法やMAP法で回収したハイドロキシアパタイトやリン酸マグネシウムアンモニウムの有効活用も望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−068871号公報
【特許文献2】特開2002−068870号公報
【特許文献3】特開2002−047081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、汚泥やその焼却灰等を原料の一部に用いて製造したけい酸質肥料であって、けい酸の水溶性が高いけい酸質肥料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成できるけい酸質肥料を検討したところ、下記のけい酸質肥料は、けい酸の水溶性が高いことを見い出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記の構成を有するけい酸質肥料等である。
【0008】
[1]組成式 2CaO・xSiO
2・yP
2O
5(ただし、x>0、y≧0、0.85<x+y≦1.00かつ0.65<[x/(x+y)]≦1.00)で表される鉱物を含み、かつCaOの含有率が50〜60質量%であるけい酸質肥料であって、水−弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸が6%以上である、けい酸質肥料。
[2]けい酸質肥料中の、(A)SiO
2、(B)CaO、および、(C)CaOとSiO
2とを除く成分の質量比が、
図2に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=43/50/7〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=33/60/7〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=10/60/30〕、および、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=10/50/40〕
で囲まれる範囲内にある、前記[1]に記載のけい酸質肥料。
[3]前記[1]または[2]に記載のけい酸質肥料の製造方法であって、
汚泥、脱水汚泥、汚泥乾燥物、汚泥炭化物、汚泥焼却灰、汚泥溶融スラグから選ばれる1種以上と、カルシウム源とを少なくとも混合して混合原料を得る混合工程と、
該混合原料を、焼成炉を用いて1300〜1400℃で焼成して、焼成物であるけい酸質肥料を得る焼成工程と
を含む、けい酸肥料の製造方法。
[4]前記混合工程において、さらに、リンを含有する排水からHAP法やMAP法を用いて回収されたハイドロキシアパタイトおよびリン酸マグネシウムアンモニウム、並びにリン酸質肥料から選ばれる1種以上を混合する、前記[3]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
[5]前記焼成炉がロータリーキルンである、前記[3]または[4]に記載のけい酸質肥料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のけい酸質肥料は、含有するけい酸の水溶性が高い。また、本発明のけい酸質肥料の製造方法は、(i)汚泥およびその焼却灰等の汚泥の由来物を有効利用でき、(ii)溶融肥料の製造と比べて焼成時のエネルギー消費が少ないため省エネルギーに寄与し、(iii)焼成炉にロータリーキルンを用いた場合には、連続生産が可能で生産効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のけい酸質肥料(実施例3、8および11)のX線回折チャートである。
【
図2】(A)SiO
2、(B)CaO、および(C)CaOとSiO
2とを除く成分の質量比を示す三角線図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、けい酸質肥料とその製造方法に分けて詳細に説明する。
1.けい酸質肥料
本発明のけい酸質肥料は、組成式 2CaO・xSiO
2・yP
2O
5(ただし、x>0、y≧0、0.85<x+y≦1.00かつ0.65<[x/(x+y)]≦1.00)で表される鉱物を含み、かつCaOの含有率が50〜60質量%であるけい酸質肥料であって、水−弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸が6%以上である。前記組成式で表される鉱物は、ナーゲルシュミッタイト(7CaO・2SiO
2・P
2O
5)、14.92CaO・5.65SiO
2・1.175P
2O
5、15CaO・6SiO
2・P
2O
5、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO
2)などであり、これらはけい酸の水溶性が高い。
また、けい酸質肥料中のCaOの含有率は50〜60質量%である。該含有率が50〜60質量%であれば、後掲の表2に示すように、水−弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸は6%以上になる。ここで、けい酸の水溶率とは、けい酸質酸肥料中の全けい酸に対する水−弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸の質量比(%)である。また、水−弱酸性陽イオン交換樹脂法による水溶性けい酸は、中性(pH=7)付近でのけい酸分の溶解性を評価する方法であって、以下の文献Aおよび文献Bに記載されている方法に準拠して測定する。
【0012】
文献A:加藤直人著「農林水産省・農業環境技術研究所報告」16巻,9−75頁(1998)
文献B:加藤、尾和共著 Soil Sci.Plant Nutr.,43巻,2号,351−359頁(1997)
【0013】
ここで、水溶性けい酸の測定において、イオン交換樹脂を用いるのは、けい酸質肥料から溶出するアルカリ土類金属等のアルカリ性物質が溶液に溶けて生ずるpHの上昇を、イオン交換樹脂のイオン交換能を利用して防止するためである。水田の土壌はほぼ中性でありpH緩衝能が高いため、イオン交換法を用いると、実際の水田により近い環境下でけい酸の水溶性を評価できる。なお、原料およびけい酸質肥料中の酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。
【0014】
また、本発明のけい酸質肥料は、好ましくは、けい酸質肥料中の、(A)SiO
2、(B)CaO、および、(C)CaOとSiO
2とを除く成分の質量比が、
図2に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=43/50/7〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=33/60/7〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=10/60/30〕、および、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=10/50/40〕
で囲まれる範囲内にあるけい酸質肥料である。(A)SiO
2、(B)CaO、および、(C)CaOとSiO
2とを除く成分の質量比が、
図2に示す三角線図の範囲内にあれば、さらにけい酸の水溶性は向上する。なお、前記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計は100である。また、前記「囲まれる範囲内」は境界線上も含む。
【0015】
2.けい酸肥料の製造方法
本発明のけい酸質肥料の製造方法は、汚泥、脱水汚泥、汚泥乾燥物、汚泥炭化物、汚泥焼却灰、汚泥溶融スラグから選ばれる1種以上と、カルシウム源とを少なくとも混合して混合原料を得る混合工程と、該混合原料を、焼成炉を用いて1300〜1400℃で焼成して、焼成物であるけい酸質肥料を得る焼成工程とを、必須の工程として含む製造方法である。以下、混合工程と焼成工程に分けて説明する。
【0016】
(1)混合工程
該工程は、焼成物中のCaOの含有率が50〜60質量%となるように、前記原料を混合して混合原料(焼成用原料)を得る工程である。混合し易い粒度にするために、前記原料は、必要に応じてボールミル、ローラーミル、またはロッドミル等で粉砕する。
また、原料の混合方法として、例えば、各原料の一部を電気炉等で焼成した後、該焼成灰中の酸化物を定量し、該定量値と所定の配合に基づき、各原料を混合する方法が挙げられる。該酸化物の定量は、蛍光エックス線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。焼成前の原料の化学組成は、焼成後物の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であるから、CaOの含有率が50〜60質量%の焼成物を得るためには、通常、CaOの含有率が該範囲を満たす焼成用原料を用いれば十分である。ただし、正確を期すためには、該原料の一部を電気炉等で焼成して、該原料中のCaOの含有率と、該焼成物中のCaOの含有率との相関を事前に把握しておき、該相関に基づき、原料の混合割合を、目的とする焼成物中のCaOの含有率になるように修正することが好ましい。
【0017】
前記混合工程において混合する原料のうち、前記汚泥は、下水道の終末処理場における下水処理や屎尿処理場における屎尿処理、およびこれらの排水処理の過程において、沈殿やろ過等により分離して得た有機物や無機物を含む泥状物である。また、前記脱水汚泥は、前記泥状物を遠心分離等で脱水して得られたものである。
前記汚泥乾燥物は、前記下水汚泥を天日干しまたは乾燥機により乾燥して、含水率を概ね50質量%以下にしたものである。
また、前記汚泥炭化物は、汚泥を加熱して汚泥に含まれる有機物の一部または全部を炭化物にしたものである。該加熱温度は、好ましくは300〜800℃、より好ましくは500〜700℃である。該加熱温度が300℃未満では炭化に時間がかかり、800℃を超えると炭化物が燃焼するおそれがある。該燃焼を抑制するために、好ましくは無酸素または低酸素状態で加熱する。該炭化物は、本発明のけい酸質肥料の製造において燃料の一部にもなるため、その分、製造に要するエネルギーを節約できる。
前記汚泥焼却灰は汚泥を焼却して得られる残渣である。また、前記汚泥溶融スラグは、前記汚泥焼却灰を1350℃以上で溶融したものである。
前記汚泥等はその形態や含水率が異なっても、焼却または焼成した後の化学成分およびその組成は同一または実質的に同一であるため、焼成用の原料の一部として何れを用いてもよい。なお、後掲の表1に下水汚泥焼却灰の化学組成を例示した。
【0018】
また、前記カルシウム源は、けい酸質肥料中のCaOの含有率が50〜60質量%の範囲内になるように調製するために用いる原料であり、さらには、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の質量比(化学組成比)が、前記範囲内になるように調整するために用いる。該カルシウム源としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、セメント、鉄鋼スラグ、廃コンクリート、および生コンスラッジ等から選ばれる1種以上である。
【0019】
さらに、化学組成比を調整するための原料として、その他にけい酸源およびりん酸源を用いることができる。
前記けい酸源は、石炭灰、珪石、珪砂、鋳物砂、頁岩、白土、ゼオライト、珪藻土、粘土、火山灰、鉄鋼スラグ、廃コンクリート、および生コンスラッジ等から選ばれる1種以上が挙げられる。また、化学組成比の調整の容易さの観点から、SiO
2の含有率が50質量%以上のけい酸源が好ましい。なお、前記けい酸源の内、鉄鋼スラグ、廃コンクリート、および生コンスラッジ等は、カルシウム源としても機能する。
また、前記りん酸源は、下水、屎尿、および畜舎排水等のリンを含有する排水からHAP法やMAP法を用いて回収されたハイドロキシアパタイトおよびリン酸マグネシウムアンモニウム、並びにリン酸質肥料から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0020】
(2)焼成工程
該工程は、前記混合原料を、焼成炉を用いて焼成する工程である。前記混合原料は、粉末のままで焼成するか、該粉末に水を添加してスラリーにした状態で焼成するか、または脱水ケーキの状態で焼成するか、若しくは、より焼成効率を上げるために、該粉末、または該粉末のセメント固化物等を、パンペレタイザー等の造粒機や、ブリケットマシン、ロールプレス等の成形機で、それぞれ造粒や成形してから焼成する。
前記焼成工程において、焼成温度は好ましくは1300〜1400℃である。該温度が1300未満では焼成が不十分でけい酸の水溶性が低く、1400℃を超えると焼成物が溶融して溶融物になるおそれがある。また、前記焼成炉は、連続生産が可能であるためロータリーキルンが好ましい。また、焼成時間は10〜60分が好ましく、20〜40分がより好ましい。該時間が10分未満では焼成が不十分であり、60分を超えると生産効率が低下する。
【0021】
(3)粉砕および造粒工程
該工程は、前記焼成物の粒度を調整する工程であり、粉塵の発生を抑制して、肥料の取り扱いを容易にするためや、肥料効果を十分に発揮させるため、肥料の粒度を調整する必要がある場合に選択される任意の工程である。該粒度は0.1〜10mmが好ましく、0.5〜5mmがより好ましい。
粉砕手段として、例えば、ジョークラッシャー、ローラーミル、ボールミル、またはロッドミル等を用いることができる。また、造粒手段として、例えば、パン型ミキサー、パンペレタイザー、ブリケットマシン、ロールプレス、押出成型機等を用いることができる。
また、該工程において、肥料の用途に応じて、適宜、けい酸やりん酸の成分を追加したり、窒素、加里、苦土等のその他の肥料成分を、新たに添加することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.けい酸質肥料の製造
表1に示す化学組成を有する下水汚泥焼却灰、ハイドロキシアパタイト、りん酸質肥料、炭酸カルシウム粉末(宇部マテリアルズ社製)、および珪砂粉末を用い、表2に示す実施例1〜14、および比較例1〜6の配合に従い混合して混合原料を調製した。次に、該混合原料を用いて、一軸加圧成形機により成形し、直径40mm、高さ10mmの円柱状の原料を作製した。さらに、該円柱状の原料を、電気炉内に載置した後、昇温速度20℃/分で、表2に示す温度まで昇温し、該温度の下で10分間焼成して焼成物を得た。さらに、該焼成物を、鉄製乳鉢を用いて目開き600μmのふるいを全通するまで粉砕して、粉末状のけい酸質肥料(実施例1〜14、比較例1〜6)を製造した。表3に、けい酸質肥料中に同定された主要な鉱物(○印)を示し、
図1に、実施例3、8および11のX線回折チャートを示した。なお、焼成後のけい酸質肥料の化学組成は、焼成前の混合原料の化学組成と、焼成による揮発成分を除きほぼ同一であった。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
2.水溶性けい酸とく溶性りん酸の測定
水溶性けい酸の測定は、水−弱酸性陽イオン交換樹脂法を用いて以下の手順で行い、けい酸の水溶率を算出した。
すなわち、あらかじめ水酸化ナトリウム水溶液と希塩酸を用いて逆再生処理したイオン交換樹脂(商品名:アンバーライトIRC−50[登録商標]、オルガノ社製)2gと純水1リットルを入れた樹脂製のビーカー内に、前記実施例および比較例のけい酸質肥料0.2gをそれぞれ加え、マグネチックスターラーで静かに10分間撹拌した後、10日間静置した。この10日間が経過した後、再度マグネチックスターラーで静かに10分間撹拌した後、30分間静置し、上澄み液2mlをメスフラスコに分取し、塩酸(1+1)1mlを添加した後、20mlに希釈した。これをICP発光分析法により溶液中のSiの濃度を定量してSiO
2の濃度に換算した。また、く溶性りん酸の測定は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されているバナドモリブデン酸アンモニウム法により行い、りん酸のく溶率を算出した。これらの結果を表2に示す。
表2に示すように、本発明のけい酸質肥料(実施例1〜14)の水溶性けい酸は6.6%以上、水溶率は31%以上といずれも高かった。これに対し、比較例1〜6のけい酸質肥料の水溶性けい酸は4.0%以下、水溶率は20%以下といずれもと低かった。また、実施例のく溶率は、実施例14を除き、82%以上と高かった。
【0027】
以上の結果から、本発明のけい酸質肥料はけい酸の水溶性およびりん酸のく溶率が高く、下水汚泥等の再資源化により、リンの省資源に寄与することができる。また、本発明のけい酸質肥料の製造方法は、熔融肥料の製造と比べて、焼成におけるエネルギー消費が少ないため、省エネルギーに寄与することができるとともに、ロータリーキルンを用いた場合、連続生産が可能で生産効率が高くなる。