(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722981
(24)【登録日】2020年6月25日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金クラッド材
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20200706BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20200706BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20200706BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20200706BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20200706BHJP
C22F 1/053 20060101ALI20200706BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20200706BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20200706BHJP
C22F 1/043 20060101ALN20200706BHJP
B23K 101/14 20060101ALN20200706BHJP
B23K 103/10 20060101ALN20200706BHJP
【FI】
C22C21/00 D
C22C21/00 E
C22C21/00 J
B23K1/00 S
B23K1/19 F
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22F1/053
F28F21/08 D
!C22F1/00 614
!C22F1/00 623
!C22F1/00 627
!C22F1/00 630M
!C22F1/00 640A
!C22F1/00 651A
!C22F1/00 682
!C22F1/00 683
!C22F1/00 685Z
!C22F1/00 686Z
!C22F1/00 691A
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 692A
!C22F1/00 692B
!C22F1/043
B23K101:14
B23K103:10
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-105401(P2015-105401)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-216791(P2016-216791A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年12月21日
【審判番号】不服2018-14058(P2018-14058/J1)
【審判請求日】2018年10月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000176707
【氏名又は名称】三菱アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】石上 翔
(72)【発明者】
【氏名】江戸 正和
【合議体】
【審判長】
亀ヶ谷 明久
【審判官】
中澤 登
【審判官】
池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−6784(JP,A)
【文献】
特開2012−1748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/00-25/00,27/00-28/00,30/00-30/06,35/00-45/10
B23K 1/00- 3/08,31/02,33/00
B23K 35/00-35/12,35/16-35/22,35/24-35/40
C22F 1/00- 3/02
F28F 21/00-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材の一方または両方の面にろう材層がクラッドされており、前記ろう材層が質量%でSi:2.5〜6.5%、Zn:2.0〜6.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、ろう材層には円相当径で1μm程度のSi粒子が多数存在する、アルミニウム合金クラッド材であって、
上記アルミニウム合金クラッド材を、同室温から400℃の到達時間が6分、400℃から550℃の到達時間が1分30秒、550℃から目標温度までの到達時間が4分となるような昇温速度で加熱し、600℃の目標温度で3分間保持し、その後、300℃まで約100℃/minで冷却した後、室温まで空冷を行なうろう付相当熱処理を施してろう付けすると、
前記ろう付け前のろう材層の厚さをA、前記ろう付後の残存ろう材層の厚さをBとした時、B/Aが0.8以上となり、前記ろう付後のろう材層内に円相当径3μm〜8μmのシリコン粒子が8×10〜8×102個/mm2の範囲で分散し、かつ、前記ろう付後のろう材初晶と前記芯材間の孔食電位差が100〜200mVであり、
前記ろう付後の前記残存ろう材層の板厚中心から該残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率が5〜30%の範囲になること、を特徴とするアルミニウム合金クラッド材。
【請求項2】
前記ろう材層は、質量%でMn:0.05〜1.0%、Cr:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Sr:0.005〜0.1%から選択される1種または2種以上をさらに含有することを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金クラッド材。
【請求項3】
全体板厚が0.1〜0.5mmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項記載のアルミニウム合金クラッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車熱交換器用部品等に用いられるアルミニウム合金クラッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車や燃料電池車に代表される環境対応車の登場により、自動車用熱交換器には従来よりも高性能化や形状の複雑化の要求が高まっている。この自動車用熱交換器の部品等にブレージングシートと称されるアルミニウム合金クラッド材が用いられている。
このアルミニウム合金クラッド材は、芯材の両面に皮材がクラッドされた構成であり、皮材の一方が犠牲材層、他方がろう材層として機能している。
【0003】
このアルミニウム合金クラッド材において、従来では耐食性確保のため犠牲材が適用されていた熱交換器冷却水側についてもろう付を実施する例が増えており、高い耐食性を有するろう材が求められている。
【0004】
特許文献1では、ろう材の耐食性を向上させるため、皮材に亜鉛(Zn)を添加しており、Si:3〜6%、Zn:2〜8%を含有し、さらにMn:0.3〜1.8%、Ti:0.05〜0.30%の1種または2種を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金により皮材を構成している。この亜鉛添加により、ろう付時に皮材中のZnが芯材中へ拡散し、芯材の板厚方向にZnの濃度勾配を形成し、これにより皮材が芯材より電位的に卑となり犠牲陽極材として作用するため、板厚方向への腐食の進展を抑制できると記載されている。
特許文献2〜4でも、皮材となるろう材に亜鉛を含有したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−255012号公報
【特許文献2】特開2014−054656号公報
【特許文献3】特開2014−055326号公報
【特許文献4】特開2014−074226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ろう材に亜鉛を添加した場合、ろう付熱処理の際にろう材が流動することで、材料表面に均一に亜鉛が分布しないことや、ろう材共晶部へ局所的に腐食が進行することが問題となっている。
【0007】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、溶融ろうの流動を制御して、腐食の進行を抑制し、耐食性に優れるアルミニウム合金クラッド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルミニウム合金クラッド材は、芯材の一方または両方の面にろう材層
がクラッド
されており、前記ろう材層が質量%でSi:2.5〜6.5%、Zn:2.0〜6.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、
ろう材層には円相当径で1μm程度のSi粒子が多数存在する、アルミニウム合金クラッド材であって、上記アルミニウム合金クラッド材を、同室温から400℃の到達時間が6分、400℃から550℃の到達時間が1分30秒、550℃から目標温度までの到達時間が4分となるような昇温速度で加熱し、600℃の目標温度で3分間保持し、その後、300℃まで約100℃/minで冷却した後、室温まで空冷を行なうろう付相当熱処理を施してろう付けすると、前記
ろう付け前のろう材層の厚さをA、
前記ろう付後の残存ろう材層の厚さをBとした時、B/Aが0.8以上となり、前記
ろう付後のろう材層内に円相当径3μm〜8μmのシリコン粒子が8×10〜8×10
2個/mm
2の範囲で分散し、かつ、前記
ろう付後のろう材初晶と前記芯材間の孔食電位差が100〜200mVであり、前記
ろう付後の前記残存ろう材層の板厚中心から該残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率が5〜30%の範囲
になる。
【0009】
本発明では、亜鉛含有ろう材へ添加されるシリコン(Si)量を制御することで、ろう付熱処理時に流動するろう材量を適正化し、材料表面に残存するろう材層の厚さおよびろう共晶組織の制御を行なっている。
【0010】
ろう材層成分のSiは、材料の融点を低下させるので、ろう付時に溶融して他部材と接合する機能を付与してろう付性を向上させる効果があり、2.5質量%未満では、その効果が十分に発揮されず、6.5質量%を超えると、ろう付時の溶融ろうの流動性が高くなり過ぎて、ろう付後に残存するろう材層の厚さが低下する。
【0011】
Znは、材料の電位を卑にするので、ろう材層の電位を卑にして芯材を防食する効果がある。2.0質量%未満では、その効果が十分発揮されず、6.0質量%を超えると、腐食速度が速くなり過ぎて、ろう材層が早期に腐食、消耗することで耐食性が低下する。
【0012】
ろう付前のろう材層の厚さをA、ろう付相当熱処理後の残存ろう材層の厚さをBとした時、ろう付相当熱処理前後のろう材層の厚さの比率B/Aは耐食性に影響し、B/Aが0.8以上で耐食性が良好である。B/Aが0.8未満ではろう付相当熱処理後にろう材表面で防食層として作用するろう材層が減少し、ろう材層が早期に腐食、消耗することで耐食性が低下する。
【0013】
また、シリコン粒子が所定の大きさで所定量分散していることは、耐食性を向上させる効果があり、ろう初晶内に分散するシリコン粒子の大きさを上記のように制御することで、ろう初晶内のシリコン固溶度を低下させることや、これらがAl―Mn―Si系化合物等の金属間化合物の析出サイトとなり、初晶内への分散粒子の析出を促進させることで、ろう初晶内の孔食電位を卑とすることができる。これより、ろう共晶部への局所的な腐食の進行を抑制し、腐食形態を面状に近い形態にすることで冷却水側での耐食性に優れるブレージングシートとすることができる。
【0014】
シリコン粒子の円相当径が3μm未満、あるいは個数が8×10個/mm
2未満では、ろう材層内のSi固溶度低下やろう初晶内への分散粒子の析出促進が不十分で、耐食性向上の効果が十分に発揮されず、円相当径が8μmを超え、あるいは個数が8×10
2個/mm
2を超えると、ろう付性が低下するおそれがある。
【0015】
ろう付相当熱処理後のろう材初晶と芯材間の孔食電位差は、この電位差による犠牲陽極効果が発揮されるため、ろう材側からの腐食による貫通孔の発生を防ぐことができる。孔食電位差が100mV未満ではその効果が十分発揮されず、200mVを超えると腐食速度の増加を招く。
【0016】
なお、ろう付相当熱処理は、基準となる例を挙げれば、室温から400℃の到達時間が6分、400℃から550℃の到達時間が1分30秒、550℃から目標温度までの到達時間が4分となる昇温速度で加熱し、600℃の目標温度で3分間保持し、その後、300℃まで100℃/minで冷却した後、室温まで空冷を行なう熱処理である。
ただし、通常のろう付に要する熱処理であれば、必ずしも、この条件に厳密に一致したものでなくてもよい。
【0018】
腐食はろう材組織の共晶部分から優先的に進行するため、残存ろう材層の板厚中心からろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶が多いと、腐食が早期に芯材にまで到達する。したがって、その領域内におけるろう共晶の面積占有率は、小さいほど耐食性が向上するが、その面積占有率が5%未満ではろう付性が低下する。面積占有率が30%を超えると耐食性が低下する。
【0019】
本発明のアルミニウム合金クラッド材において、前記ろう材層は、質量%でMn:0.05〜1.0%、Cr:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Sr:0.005〜0.1%から選択される1種または2種以上をさらに含有するとよい。
【0020】
Mn、Cr、Ti、Zrは、アルミニウムと化合物を形成して、孔食を分散させることにより、耐食性を向上させる効果がある。Srは、Si粒子の分散を均一にする効果があり、耐食性を向上させる。いずれも、その含有量が下限値未満では、効果が十分に発揮されず、上限値を超えて含有しても効果は飽和する。
【0021】
本発明のアルミニウム合金クラッド材において、全体板厚が0.1〜0.5mmの範囲であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、腐食の進行を抑制し、耐食性に優れるアルミニウム合金クラッド材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るアルミニウム合金クラッド材の実施形態を説明する。
このアルミニウム合金クラッド材は、自動車熱交換器用部品として用いられるもので、芯材の両面にろう材層がクラッドされており、ろう材層は、質量%でSi:2.5〜6.5%、Zn:2.0〜6.0%含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなる。芯材は、例えばAl−Mn系合金が用いられる。
【0024】
また、ろう付前のろう材層の厚さをA、ろう付相当熱処理後の残存ろう材層の厚さをBとした時、B/Aが0.8以上であり、ろう材層内に円相当径3μm〜8μmのシリコン粒子が8×10〜8×10
2個/mm
2の範囲で分散し、かつ、ろう付相当熱処理後のろう材初晶と芯材間の孔食電位差が100〜200mVである。
クラッド材全体の厚さは、0.1〜0.5mmの範囲である。
【0025】
ろう材層成分のSiは、ろう付性を向上させる効果があり、2.5質量%未満では、その効果が十分に発揮されず、6.5質量%を超えると、ろう付時の溶融ろうの流動性が高くなり過ぎて、ろう付後に残存するろう材層の厚さが低下する。
【0026】
Znは、ろう材層の電位を卑にして芯材を防食する効果がある。2.0質量%未満では、その効果が十分発揮されず、6.0質量%を超えると、腐食速度が速くなり過ぎて、ろう材層が早期に腐食、消耗することで耐食性が低下する。
【0027】
ろう付相当熱処理前後のろう材層の厚さの比率B/Aは耐食性に影響し、B/Aが0.8以上で耐食性が良好である。B/Aが0.8未満では耐食性が低下する。
【0028】
また、シリコン粒子が所定の径、量の範囲で分散していることは、耐食性を向上させる効果があり、シリコン粒子の円相当径が3μm未満、あるいは個数が8×10個/mm
2未満では、その効果が十分に発揮されず、円相当径が8μmを超え、あるいは個数が8×10
2個/mm
2を超えると、ろう付性が低下するおそれがある。
【0029】
ろう付相当熱処理後のろう材初晶と芯材間の孔食電位差は、この電位差による犠牲陽極効果が発揮されるため、ろう材側からの腐食による貫通孔の発生を防ぐことができる。孔食電位差が100mV未満ではその効果が十分発揮されず、200mVを超えると腐食速度の増加を招く。
【0030】
このアルミニウム合金クラッド材において、ろう付相当熱処理後の残存ろう材層の板厚中心から残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内において、ろう共晶の面積占有率が5〜30%の範囲となるとよい。
【0031】
残存ろう材層の板厚中心からろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率は、小さいほど耐食性が向上するが、その面積占有率が5%未満ではろう付性が低下する。面積占有率が30%を超えると耐食性が低下する。
【0032】
さらに、ろう材層は、質量%でMn:0.05〜1.0%、Cr:0.05〜0.5%、Ti:0.05〜0.3%、Zr:0.05〜0.3%、Sr:0.005〜0.1%から選択される1種または2種以上を含有していてもよい。
【0033】
Mn、Cr、Ti、Zrは、アルミニウムと化合物を生成して、孔食を分散させることにより、耐食性を向上させる効果がある。Srは、Si粒子の分散を均一にする効果があり、耐食性を向上させる。いずれも、その含有量が下限値未満では、効果が十分に発揮されず、上限値を超えて含有しても効果は飽和する。
【0034】
次に、このアルミニウム合金クラッド材を製造する方法について説明する。
まず、溶解鋳造により芯材用アルミニウム合金、ろう材層用アルミニウム合金を鋳造し、得られた鋳塊について所定温度で均質化処理を行う。
芯材の均質化処理は、530℃〜600℃で8時間〜16時間の範囲から選択することができる。
【0035】
ろう材の均質化処理は、400〜550℃で1〜5時間とする。通常、ブレージングシートの作製工程において、ろう材層へ均質化処理を実施しないことが一般的であり、この工程にて作製されたブレージングシートのろう材層内には円相当径で1μm程度のSi粒子が多数存在する。このろう材層内のSi粒子サイズを制御するために、均質化処理が効果的であり、400〜550℃で1〜5時間の範囲から選択することができ、480〜550℃で1〜3時間の範囲で実施するのがより好ましい。
【0036】
均質化処理を実施した芯材用アルミニウム合金及び皮材用アルミニウム合金の鋳塊は、熱間圧延を得て合金板とされる。また、鋳造工程と圧延工程とを分けずに、連続鋳造圧延を経て合金板としてもよい。
【0037】
そして、これら合金板を適宜のクラッド率でクラッドされる。そのクラッドは一般には圧延により行われる。その後、さらに冷間圧延を施すことにより、所望の厚さのアルミニウム合金クラッド材が得られる。そして、最終焼鈍を例えば360℃で3時間行うことにより、O調質のクラッド材とする。
クラッド材の構成は、例えば、ろう材層:芯材:ろう材層=10%:80%:10%とすることができるが、これに限定されるものではなく、ろう材層のクラッド率を5%や15%としてもよい。
【0038】
熱間圧延、冷間圧延、最終焼鈍は常法によって行えばよいが、冷間圧延工程時に、中間焼鈍を介在させることも可能である。その場合、中間焼鈍としては、例えば200〜400℃で1〜6時間の加熱によって行なうことができる。中間焼鈍後の最終圧延では、10〜50%の冷間圧延率で圧延を行なう。
【0039】
このようにして製造されたアルミニウム合金クラッド材は、自動車の熱交換器用部材として用いられ、その片面あるいは両面の少なくとも一部が他部品とろう付されて熱交換器に組み付けられる。この場合のろう付条件は、室温から400℃の到達時間が4分〜9分、400℃〜550℃の到達時間が1分〜2分、550℃〜目標温度までの到達時間が3分〜5分となるような昇温速度で加熱し、600℃の目標温度で3分間保持し、その後、300℃まで約100℃/minで冷却した後、室温まで空冷を行なう処理である。
【0040】
この時、ろう付時間をt、Znの拡散係数をDとした場合に√(ΣDt)により与えられる入熱量は18〜28となる。この熱処理によりろう材は、ろう付時相当の熱を受けて溶融する。この熱処理条件を変更することでろう付熱処理後の共晶組織の存在状態を変化させることができる。
【0041】
本発明でいうろう付相当熱処理は、このろう付工程における熱処理に相当するものであるが、必ずしも、上記の条件に厳密に一致したものでなくてもよく、通常のろう付に要する熱処理でよい。
【0042】
そして、ろう付後には、ろう材層が薄くなるが、前述したように、ろう付後(ろう付相当熱処理後)の残存ろう材層の厚さをBとし、ろう付前のろう材層の厚さをAとしたときに、B/Aが0.8以上となる。また、ろう材初晶と芯材間の孔食電位差が100〜200mV、残存ろう材層の板厚中心から残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率が5〜30%の範囲となる。
【実施例】
【0043】
半連続鋳造により、表1に示す組成のろう材用アルミニウム合金を鋳造した。芯材用アルミニウム合金はJIS A3003合金を用いた。得られた芯材は580℃で8時間の均質化処理を行なった。また、ろう材は480℃で1時間の均質化処理を行なった(ただし、後述の供試材No.16を除く)。
【0044】
次に、芯材の一方の面にろう材を組み合わせて熱間圧延してクラッド材とし、さらに冷間圧延を行った。その後、所定の圧延率とした冷間圧延により厚さ0.20mmとした後、最終焼鈍を360℃で3時間行い、O調質のクラッド材(供試材)を作製した。クラッド材の構成は、芯材:ろう材層の厚さ比率で90%:10%とした。このクラッド材においてろう付相当熱処理前の芯材の材料板厚は180μm、ろう材層の厚さ(A)は20μmである。また、ろう材層内のシリコン粒子の円相当径及び分布密度を測定した。
【0045】
【表1】
【0046】
この供試材について、室温から400℃の到達時間が6分、400℃から550℃の到達時間が1分30秒、550℃から目標温度までの到達時間が4分となるような昇温速度で加熱し、600℃の目標温度で3分間保持し、その後、300℃まで約100℃/minで冷却した後、室温まで空冷を行なうろう付相当熱処理を施した。後述するように、一部の供試材について、このろう付相当熱処理の条件を変更した。
【0047】
ろう付相当熱処理を施した供試材について、残存ろう材層の厚さ(B)を測定して、ろう付相当熱処理前後のろう材層の厚さの比率B/Aを算出し、ろう材初晶と芯材間の孔食電位差、残存ろう材層の板厚中心から残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率をそれぞれ測定した。また、耐食性として内部腐食性を評価した。
また、このろう付相当熱処理とは別に、供試材をフィン材にろう付して、ろう付性を評価した。
以上の測定、評価の際の条件は以下の通りである。
【0048】
<ろう材層又は残存ろう材層の厚さ>
供試材は、圧延方向平行断面を樹脂埋めし、該断面を鏡面に研磨した後、光学顕微鏡を用いて、200倍の倍率で写真を撮影した。撮影した像から各ろう材層の厚さを測定した。
【0049】
<Si粒子の円相当径及び分布密度>
供試材の断面を研磨、エッチング後、電子顕微鏡により撮影し、その撮影像を画像解析にて解析して円相当直径及び分布密度を求めた。
<ろう材初晶と芯材間の孔食電位差>
供試材のろう材初晶および芯材に対し、アノード分極測定を実施し、孔食電位を測定した。アノード分極は飽和カロメル電極を用い、窒素ガスの吹き込みにより脱気した40℃の2.67%AlCl
3水溶液中で電位掃引速度0.5mV/sで測定した。
<ろう共晶の面積占有率>
供試材は、圧延方向平行断面を樹脂埋めし、該断面を鏡面に研磨した後、光学顕微鏡を用いて、任意の30箇所にて、ろう材層を500倍の倍率で写真を撮影した。撮影した像を画像解析にて解析して、ろう共晶の面積占有率を求めた。
【0050】
<耐食性(内部耐食性)>
ろう付相当熱処理後の供試材から30×50mmのサンプルを切り出し、ろう材層側について、Cl
−:195ppm、SO
42−:60ppm、Cu
2+:1ppm、Fe
3+:30ppmを含む水溶液中で80℃×8時間と室温×16時間との間のサイクルで浸漬試験を4週間実施した。腐食試験後のサンプルを沸騰させたリン酸クロム酸混合溶液に浸漬して腐食生成物を除去した後、最大腐食部の断面観察を実施して腐食深さを測定した結果を内部耐食性とする。腐食深さが30μm以下であったものを◎と評価し、30μm超、50μm以下のものを○と評価し、50μm超、75μm以下のものを△と評価し、75μm超のものを×と評価した。
<ろう付性>
ろう付相当熱処理前の供試材から20×35mmのサンプルを2枚切り出した後、別途用意したコルゲート加工したフィン材(JIS A3003合金)を供試材で挟むように組み合わせ、ミニコアを作製した。このとき、フィン材に接する面は供試材のろう材側とし、フィン材との接点が50箇所存在するようにした。
このミニコアをフッ化物フラックス水溶液に浸漬し、フッ化物フラックスを5g/m
2で塗布した後、所定のろう付熱処理条件にてろう付を行なった。ろう付後のミニコアからフィンを剥がし、供試材とフィンの接点の中でフィレットが形成されていたものの数をNとし、ろう付の接合率をN/50として求めた。この接合率が95%以上であったものを◎、95%未満、90%以上のものを○、90%未満、85%以上のものを△、85%未満のものを×と評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
この表2からわかるように、供試材No.1〜9は合金成分を所定の範囲内とした供試材であり、即ち、ろう付後(ろう付相当熱処理後)の残存ろう材層の厚さをBとし、ろう付前のろう材層の厚さをAとしたときに、B/Aが0.8以上となる。また、ろう材初晶と芯材間の孔食電位差が100〜200mV、残存ろう材層の板厚中心から残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率が5〜30%の範囲となっている。このため、耐食性およびろう付性に優れる。No.10の供試材は、ろう付熱処理の加熱時に550℃〜600℃までの到達時間が5分を超えることにより、残存ろう材層の板厚中心から残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率が5〜30%の範囲より若干大きくなる例であり、ろう付性がやや低下するものの耐食性は良好となっていた。
【0053】
これらの供試材に対し、No.11の供試材は、ろう材のSi含有量が望ましい範囲より低くなり過ぎたため、ろう付性に劣る結果となった。No.12の供試材は、ろう材のSi含有量が望ましい範囲より高くなり過ぎたため、ろう付性に劣る結果となった。No.13の供試材は、ろう材のZn含有量が望ましい範囲より低くなり過ぎたため、耐食性に劣る結果となった。No.14の供試材は、ろう材のZn含有量が望ましい範囲より高くなり過ぎたため、耐食性に劣る結果となった。
No.15の供試材は、ろう付熱処理時の600℃での保持時間が8分を超えることで、ろう付後の残存ろう材層の厚さをBとし、ろう付前のろう材層の厚さをAとしたときに、B/Aが0.8未満となり、耐食性に劣る結果となった。No.16の供試材は、材料作製時にろう材へ均質化処理を実施していないことで、シリコン粒子が所定の径、量の範囲より低くなり、ろう付性に劣る結果となった。No.17の供試材は、ろう付熱処理時の入熱量√(ΣDt)が28を超えることで、ろう材初晶と芯材間の孔食電位差が100〜200mVの範囲より低くなり、耐食性に劣る結果となった。No.18の供試材は、ろう材のZn含有量が望ましい範囲より低く、ろう付後の残存ろう材層の厚さをBとし、ろう付前のろう材層の厚さをAとしたときに、B/Aが0.8未満となり、耐食性に劣る結果となった。No.19の供試材は、ろう材のZn含有量が望ましい範囲より低く、シリコン粒子が所定の径、量の範囲より低くなり、耐食性に劣る結果となった。No.20の供試材は、ろう材のZn含有量が望ましい範囲より低く、ろう材初晶と芯材間の孔食電位差が100〜200mVの範囲より低くなり、耐食性に劣る結果となった。No.21の供試材は、ろう材のZn含有量が望ましい範囲より低く、残存ろう材層の板厚中心から残存ろう材層と芯材の界面にかけての領域内におけるろう共晶の面積占有率が5〜30%の範囲より大きくなり、耐食性に劣る結果となった。No.22の供試材は、ろう付後の残存ろう材層の厚さをBとし、ろう付前のろう材層の厚さをAとしたときに、B/Aが0.8未満かつシリコン粒子が所定の径、量の範囲未満かつろう材初晶と芯材間の孔食電位差が100〜200mV未満となり、ろう付性および耐食性に劣る結果となった。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。