(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722994
(24)【登録日】2020年6月25日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】レーザ加工機
(51)【国際特許分類】
B23K 26/064 20140101AFI20200706BHJP
G02B 6/32 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
B23K26/064 K
G02B6/32
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-205943(P2015-205943)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-77567(P2017-77567A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】小市 真樹
(72)【発明者】
【氏名】酒川 友一
【審査官】
岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−227686(JP,A)
【文献】
特開2012−155159(JP,A)
【文献】
特開平07−009172(JP,A)
【文献】
特開2012−179612(JP,A)
【文献】
特開2000−138409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザ光を照射して加工を施すためのレーザ加工機であって、
シングルモードまたは低次マルチモードレーザを発振するレーザ光源と、
入射端を前記レーザ光源に接続したシングルモードまたはマルチモード光ファイバである供給用光ファイバと、
前記レーザ光源から発振され前記供給用光ファイバを介して供給されるレーザ光を集光する集光レンズと、
前記集光レンズにより集光したレーザ光の入射を受けてレーザ光を伝送するマルチモード光ファイバである伝送用光ファイバと、
前記集光レンズにより集光したレーザ光の前記伝送用光ファイバの入射端に対する入射角度を変化させることを通じて、伝送用光ファイバの出射端から出射するレーザ光のビームプロファイルを変化させることができる操作機構とを具備し、
前記集光レンズを支持するとともに、前記供給用光ファイバの出射端を接続し、供給用光ファイバを介してレーザ光源から供給されるレーザ光を集光レンズに通した上で前記伝送用光ファイバの入射端に向けて出力することのできる可動のユニットを設け、
前記ユニットを前記伝送用光ファイバの入射端に対して相対的に変位可能とすることで前記操作機構を構成しているレーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物にレーザ光を照射して加工を施すためのレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
被加工物にレーザ光を照射することで、穿孔や切削、溶接、文字や図形の描画その他の加工を実行するレーザ加工機が公知である。
【0003】
通常のレーザ光のビームプロファイルは、中心部の強度が最も強く、周辺に向かうにつれて漸次強度が弱くなる、ガウシアン分布に近い不均一な強度分布となっている。このようなレーザ光を用いてレーザ加工を行う場合、加工中心部においてビーム強度が過剰となって被加工物に無用の損傷を与え、または、ビーム外縁部においてビーム強度が不足して十分な加工がなされずバリや加工残滓が生ずるといった問題を惹起するおそれがある。
【0004】
目的によっては、レーザ加工に用いるレーザ光は、光強度分布が均一な、いわゆるトップハット型のビームプロファイルを持つことが望ましい。そこで、従来より、光ファイバやビームホモジナイザ等を使用して、レーザ光の強度分布の均一化を図ることが行われている(例えば、下記特許文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−297781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ光源から供給されるレーザ光の波長やビームプロファイルその他の特性によっては、光ファイバを使用しても光強度分布が必ずしも均一とならず、ビームスポット内で局所的に強度の強いところと弱いところとが発生する。レーザ光を通過させる光ファイバのコア径を大きくすれば、ビームプロファイルがトップハットに近づくが、反面フルーエンス(単位面積あたりのエネルギ量)が小さくなるため、レーザ加工機の用途即ち加工目的によっては所望の加工を実現できなくなる。
【0007】
また、レーザ光の強度分布を均一化する手段としてビームホモジナイザを採用する場合には、コストが高くなる上に自由度の低い光学系が構築されてしまう。
【0008】
本発明は、簡単かつ安価な構成で、被加工物に照射するレーザ光の強度分布を均一化、または目的の加工に対するプロファイルの制御性を向上して加工品位を向上させることを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、被加工物にレーザ光を照射して加工を施すためのレーザ加工機は、
シングルモードまたは低次マルチモードレーザを発振するレーザ光源と、
入射端を前記レーザ光源に接続したシングルモードまたはマルチモード光ファイバである供給用光ファイバと、前記レーザ光源から発振され
前記供給用光ファイバを介して供給されるレーザ光を集光する集光レンズと、前記集光レンズにより集光したレーザ光の入射を受けてレーザ光を伝送する
マルチモード光ファイバである伝送用光ファイバと、前記集光レンズにより集光したレーザ光の前記伝送用光ファイバの入射端に対する入射角度を変化させることを通じて、伝送用光ファイバの出射端から出射するレーザ光のビームプロファイルを変化させることができる操作機構とを具備
し、前記集光レンズを支持するとともに、前記供給用光ファイバの出射端を接続し、供給用光ファイバを介してレーザ光源から供給されるレーザ光を集光レンズに通した上で前記伝送用光ファイバの入射端に向けて出力することのできる可動のユニットを設け、前記ユニットを前記伝送用光ファイバの入射端に対して相対的に変位可能とすることで前記操作機構を構成しているものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、簡単かつ安価な構成で、被加工物に照射するレーザ光の強度分布を均一化、または目的の加工に対するプロファイルの制御性を向上して加工品位を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のレーザ加工機の構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態のレーザ加工機の構成を模式的に示す図。
【
図3】同実施形態のレーザ加工機が被加工物に照射するレーザ光のビームプロファイルを例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。本実施形態のレーザ加工機1は、被加工物0にレーザ光を照射することで、穿孔、切削、溶接、文字や図形の描画等のうちの何れかの加工を実行するものである。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のレーザ加工機1は、レーザ光を発振するレーザ光源(または、レーザ発振器)2と、レーザ光源2から発振されたレーザ光を集光する集光レンズ3と、集光レンズ3により集光したレーザ光の入射を受けてレーザ光を伝送する伝送用光ファイバ4と、集光レンズ3により集光したレーザ光の伝送用光ファイバ4の入射端41に対する入射角度θを変化させることができる操作機構5と、伝送用光ファイバ4の出射端42から出射するレーザ光を被加工物0に照射するべく集光する対物レンズ6とを少なくとも具備する。
【0016】
レーザ光源2が出力するレーザ光は、シングルモードレーザでもよく、低次マルチモードレーザでもよい。レーザ光の波長や、連続波レーザであるかパルスレーザであるか等も任意である。
【0017】
レーザ光源2と集光レンズ3との間には、レーザ光を集光レンズ3へと導くための供給用光ファイバ7を介在させている。供給用光ファイバ7は、シングルモード光ファイバであってもよく、マルチモード光ファイバであってもよい。供給用光ファイバ7の入射端71は、レーザ光源2に接続している。一方、供給用光ファイバ7の出射端72は、集光レンズ3を支持する可動のユニット5に接続している。但し、レーザ光源2から集光レンズ3の近傍までを必ず光ファイバ7で接続しなければなわないわけではなく、レーザ光がシングルモードレーザまたは低次マルチモードレーザである場合にはこれを集光レンズ3まで空間伝送することも許される。
【0018】
ユニット5は、供給用光ファイバ7を介してレーザ光源2から供給されるレーザ光を、集光レンズ3に通して集光した上で、伝送用光ファイバ4の入射端41に向けて出力するものである。集光レンズ3の像側NA(Numerical Aperture)は、例えば0.03とする。集光レンズ3は、これを支持するユニット5とともに、伝送用光ファイバ4の固定の入射端41に対して相対的に変位可能である。そして、
図1及び
図2に示しているように、当該ユニット5の相対変位を通じて、集光レンズ3で集光された後伝送用光ファイバ4の入射端41に向かうレーザ光の光軸Lの、伝送用光ファイバ4の入射端41の光軸Aに対する交差角度θを変化させることができる。このとき、集光レンズから伝送用光ファイバ4の入射端41までの距離は、入射角度θによらず殆どまたは全く変化させない。また、レーザ光は常に集光レンズ3の光軸即ち集光レンズ3の中心またはその近傍を通る。換言すれば、集光レンズ3を通過するレーザ光の光軸Lと集光レンズ3の光軸とが常時一致している。
【0019】
伝送用光ファイバ4は、ユニット5から出力されたレーザ光を被加工物0の近傍へと導く。本実施形態では、伝送用光ファイバ4として、マルチモード光ファイバを想定している。伝送用光ファイバ4の入射端41のNAは、集光レンズ3の像側NAよりも大きく、例えば0.2とする。上記のユニット5は、伝送用光ファイバ4の入射端41の最大受光角θ
max、即ちレーザ光が伝送用光ファイバ4のコア内で全反射する最大の入射角度の範囲内で、集光レンズ3を通過したレーザ光の光軸Lを傾動させ、レーザ光の光軸Lと伝送用光ファイバ4の入射端41の光軸Aとの交差角度θを増減させる。
【0020】
レーザ光源2が発するレーザ光は元来ガウシアン分布に近い不均一な強度分布を持つが、レーザ光を光ファイバ4に入射させ、光ファイバ4内を伝搬させることにより、光ファイバ4の出射端42ではより均一な強度分布を得ることができる。
【0021】
その上で、レーザ光の光軸Lと伝送用光ファイバ4の入射端41の光軸Aとの交差角度θを大きくすると、伝送用光ファイバ4のコア内でレーザ光が反射する回数が増し、またコア内でのレーザ光の光路長即ち伝搬経路の距離も延長される。この間、レーザ光の強度分布がより一層均一化される。さらに、伝送用光ファイバ4がマルチモード光ファイバであるので、高次モードが立ちやすく、適度にモードが分散する。これにより、伝送用光ファイバ4の出射端42では、トップハット型に近いビームプロファイルを得ることができる。
【0022】
図3に、レーザ光源2としてシングルモードレーザを用い、レーザ光の光軸Lと伝送用光ファイバ4の入射端41の光軸Aとの交差角度θを変化させたときの、伝送用光ファイバ4から出射するレーザ光の強度分布を測定した結果を示す。
【0023】
図3(A)は、レーザ光源2が発振するシングルモードレーザそのもののビームプロファイルを測定したものである。当該レーザ光は、中心部の光の強度が最も強く、周辺に向かうにつれて漸次光の強度が弱くなる、ガウシアン分布に近い不均一な強度分布となっている。
【0024】
図3(B)は、交差角度θをほぼ0°に設定した状態で、伝送用光ファイバ4から出射するレーザ光のビームプロファイルを測定したものである。
図3(A)と比較して、中心部の強度が弱く、周辺部の強度が強くなっているものの、局所的に強度の強い部分と強度の弱い部分とが点在している。
【0025】
これに対し、
図3(B)の状態から交差角度θを大きく変化させた
図3(C)の状態では、中心部から周辺部に亘って光強度が均一化した、トップハット型に近いビームプロファイルを得られている。加えて、
図3(B)の状態のように、局所的に強度の強い部分や弱い部分が現れておらず、レーザ加工に非常に適したレーザ光となっている。
【0026】
このように、ユニット5を操作してレーザ光の光軸Lと伝送用光ファイバ4の入射端41の光軸Aとの交差角度θを調整することで、レーザ光源2から出力されるレーザ光の強度分布が不均一であるにもかかわらず、伝送用光ファイバ4の出射端42から被加工物0に向けて出射するレーザ光のビームプロファイルの最適化を図ることができる。しかも、伝送用光ファイバ4のコア径を徒に大きく設定する必要がなく、伝送用光ファイバ4から出射するレーザ光のスポット径を50μmないし100μm以下に縮小できるため、種々のレーザ加工用途即ち目的に叶うレーザ光を供給することが可能となる。
【0027】
なお、レーザ光の強度分布の均一化のために最適な交差角度θは、レーザ光の波長(屈折率は波長の影響を受ける)や、レーザ光源2から供給される元々のレーザ光のビームプロファイル等に応じて変動し得る。また、被加工物0に照射するべきレーザ光に要求されるビームプロファイル、即ち強度分布の均一度合いは、被加工物0の種類や加工目的等によって異なる。従って、レーザ光源2から供給されるレーザ光の波長やビームプロファイル、被加工物0の種類や加工目的等の条件に応じて、交差角度θを設定することが好ましい。
【0028】
集光レンズ3を支持するユニット5は、例えば、サーボモータやステッピングモータ等のアクチュエータにより駆動することとし、そのアクチュエータをコンピュータ等の制御部により制御する。制御部は、例えば、プロセッサ、メインメモリ、補助記憶デバイス、I/Oインタフェース等を有し、これらがコントローラ(システムコントローラやI/Oコントローラ等)によって制御されて連携動作するものである。補助記憶デバイスは、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、その他である。I/Oインタフェースは、レーザ光源2の制御回路や、ユニット5を駆動するアクチュエータの制御回路(サーボコントローラ等)と接続するためのデバイスである。プロセッサによって実行されるべきプログラムは補助記憶デバイスに格納されており、プログラムの実行の際には補助記憶デバイスからメインメモリに読み込まれ、プロセッサによって解読される。制御部は、プログラムによりハードウェア資源を作動して、以下に述べる機能を発揮する。
【0029】
即ち、制御部は、レーザ加工機1のユーザから与えられる、レーザ光の出力の開始/停止、レーザ光の出力の大きさ、レーザ光の出射のタイミング、さらにはレーザ光の光軸Lと伝送用光ファイバ4の入射端41の光軸Aとの交差角度θ等を指令する信号または操作入力を受け付ける。そして、制御部は、指令された交差角度θを実現するようにアクチュエータを駆動してユニット5の変位を制御し、併せて、指令されたレーザ光の出力の大きさや出射タイミングを実現するようにレーザ光源2を制御する。
【0030】
しかして、伝送用光ファイバ4の出射端42から出射したレーザ光は、対物レンズ6において集光され、被加工物0の所要の加工領域に照射される。
【0031】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。特に、レーザ光源2と被加工物0との間のレーザ光の伝搬経路上に、図示しない他の光学要素(レンズ、ミラー、マスク他)を追加することを妨げない。
【0032】
また、上記実施形態では、伝送用光ファイバ4の入射端41を不動とし、集光レンズ3を支持するユニット5を可動としていたが、これとは逆に、集光レンズ3側を不動とし、伝送用光ファイバ4の入射端41側を可動として、集光レンズ3で集光したレーザ光の伝送用光ファイバ4の入射端41に対する入射角度θを変化させるようにすることも考えられる。
【0033】
その他各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、被加工物にレーザ光を照射して加工を施すためのレーザ加工機に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
0…被加工物
1…レーザ加工機
2…レーザ光源
3…集光レンズ
4…伝送用光ファイバ
41…入射端
5…操作機構(ユニット)
7…供給用光ファイバ
72…出射端
θ…集光レンズにより集光したレーザ光の伝送用光ファイバの入射端に対する入射角度