特許第6723570号(P6723570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6723570
(24)【登録日】2020年6月26日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】モイスチャーミストの噴霧装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 11/00 20060101AFI20200706BHJP
【FI】
   A61M11/00 K
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-558442(P2018-558442)
(86)(22)【出願日】2018年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2018021071
(87)【国際公開番号】WO2018221687
(87)【国際公開日】20181206
【審査請求日】2019年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2017-107258(P2017-107258)
(32)【優先日】2017年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513077162
【氏名又は名称】株式会社坪田ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】坪田 一男
【審査官】 小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−245841(JP,A)
【文献】 特開2016−077598(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0199225(US,A1)
【文献】 特開平07−308608(JP,A)
【文献】 特開平08−052193(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3151465(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼の周囲の局所領域に微小液体を含む霧状物を噴霧できる装置であって、
体原料、又は、該液体原料と固体原料との混合物、からなる原料を収容する収容部と、微細孔を有し、前記原料から前記霧状物を発生させる超音波発振板と、前記原料を加熱することができる電気抵抗素子と、前記局所領域内の温度や湿度を測定することができる湿度センサー又は温度湿度センサーとを有
前記原料が前記超音波発振板の前記収容部側の面に接触し、
接触した前記原料が前記微細孔を通過し、
通過した前記原料が前記霧状物として前記局所領域内に噴霧され、
噴霧された前記霧状物に含まれる前記微小液体の一部気化して前記局所領域内で気体となる、残りの前記微小液体気体にならず
前記霧状物は、前記局所領域内の湿度が測定されて、前記超音波発振板の動作制御により間欠動作制御又はパルス制御し、前記微小液体が多い洗いモード、気体が多い潤いモード、及び、前記微小液体及び前記気体を併用するハイブリッドモード、から選ばれるモードに調整され、前記微小液体と前記気体とを任意の割合となるように噴霧される、ことを特徴とする噴霧装置
【請求項2】
前記液体原料が、メントール、鎮痛剤、抗生物質、抗アレルギー薬、ステロイド、眼圧低下薬等から選ばれる薬効添加物を含有する、請求項1に記載の噴霧装置
【請求項3】
前記収容部が、着脱可能なカートリッジ容器である、請求項1又は2に記載の噴霧装置
【請求項4】
ムとテンプルで構成されるめがね型の噴霧装置であって、前記収容部及び前記超音波発振板が前記テンプルに設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の噴霧装置
【請求項5】
口部を有するカップを利用したカップ型の噴霧装置であって、前記カップの底面に穴を開けて前記超音波発振板を設置し、さらにその裏面に前記収容部を設置する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の噴霧装置
【請求項6】
子のつばに装着される帽子装着型の噴霧装置であって、前記超音波発振板は、円形部材の中央部の開口から、記霧状物が噴霧するように設けられており、前記収容部は、前記超音波発振板部に連結されて一体的に設けられている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の噴霧装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼に少なくとも微小液体を供給するモイスチャーミストの噴霧装置及び噴霧方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、眼の近くの狭い局所領域に微小液体や微小固体を噴霧して、眼に少なくとも微小液体を供給することにより、ドライアイ症状の軽減、ドラッグデリバリー、アレルギー予防、リラクゼーション等に利用できる装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイは、様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり、眼の不快感や視機能異常を生じ、眼表面の障害を伴うことがある。ドライアイ患者は、日本で約2200万人もいると言われており、コンピューターやスマートフォンをより多くの人が使う現代社会において、その患者数は増加し続けている。ドライアイ患者は、健常者と比べて、涙の量が少ない又は涙が蒸発し易く、その結果、眼がドライな状態になってしまう。その治療には、通常、点眼や涙点プラグが用いられるが、それらに代わる症状軽減の方策が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水分の蒸散の抑制と促進をバランス良く制御し、湿気を長時間安定的に供給することができるドライアイ用眼鏡が提案されている。このドライアイ用眼鏡は、眼鏡枠のテンプルの内側に、湿気を蒸散させる湿気蒸散体と、眼鏡装着時側頭部と接して側頭部の熱の伝達を受ける受熱体と、当該受熱体の熱を湿気蒸散体に伝達する熱伝導体とを備えており、装着時の側頭部の体温によって水分の蒸散が促進するというものである。
【0004】
また、特許文献2には、デザイン上優れ且つ保湿効果の高いドライアイ用眼鏡フレーム及びこれを備えたドライアイ用眼鏡が提案されている。この眼鏡フレームは、レンズを左右に装着可能に構成されたフロント部と、装着者の耳にかけられる左右一対のテンプル部とを備え、少なくともリムの下部の内部が空洞で、そのリムの下部の上面に複数の蒸散穴が開いており、リムの側部にある注入口から保湿用の液体を空洞に注入し、その液体の水分を蒸散穴から蒸散させることによって眼の周囲を加湿するものである。
【0005】
また、特許文献3には、フレームの内部に配され、液体を貯留する空洞が形成されている液体貯留部を備えた眼鏡が提案されている。この眼鏡が備える液体貯留部は、空洞から、フレームが顔部に装着された場合に顔部に対向するフレームの内側の面まで、気体を透過させるが液体を透過させない気体透過部を有しており、気温に応じた蒸気圧によって加湿がされるというものである。
【0006】
なお、非特許文献1に記載のドライアイと湿度の関係によると、涙の蒸発率は湿度の上昇と共に減少するが、中程度の湿度(40%)ではドライアイ患者と健常者では差があり、高い湿度(70%)になるとドライアイ患者も健常者も共に蒸発率がゼロとなり、高湿度がドライアイに良い影響を与えることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−253100号公報
【特許文献2】特開2012−73615号公報
【特許文献3】特開2012−137694号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Louise C. Madden, et.al., Eye & Contact Lens, 39(2), p.169-174(2013).
【非特許文献2】T. Quallo, et.al., Nature Communications, 6:7150 doi:10.1038/ncomms8150(2015).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
乾燥した部屋では眼も乾燥し易く、ドライアイ症状を悪化させてしまう。部屋の乾燥を防ぐためには、加湿器やエアーコンディショナー(エアコン)で湿度調整するのが便利であり、湿度40%〜60%が最適と一般に言われている。しかし、その湿度では、上記非特許文献1によればドライアイ症状を示す眼には十分ではない。ドライアイ症状を軽減させるために、部屋の湿度を増そうとして加湿器やエアコンの加湿機能を使うと、部屋全体の湿度が増すことになり、多くの電力が必要になる。さらに、湿度を嫌う家具や電気器具等を湿らせて、例えばテレビ画面が水分で曇ったり、内部の電気回路や配線部に水分が浸みてしまったりするおそれもある。
【0010】
また、特許文献1〜3に記載のドライアイ用めがねでは、ドライアイ症状を抑えるにはまだ不十分である。
【0011】
本発明の目的は、眼に少なくとも微小液体を供給して、ドライアイ症状の軽減、ドラッグデリバリー、アレルギー予防、リラクゼーション等に利用できるモイスチャーミストの噴霧装置及び噴霧方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ドライアイ症状を効果的に軽減できる手段として、眼の周辺の局所領域に蒸気(モイスチャーともいう。)を噴霧する手段を検討している。その検討過程で、蒸気と一緒に又は蒸気とは別に微小液体の霧状物(ミストともいう。)を噴霧することにより、局所領域の環境湿度を上げて潤いを付与できるとともに、眼に微小液体を到達させて涙液量を増すことができることを見いだした。こうした手段を基にしてさらに検討した結果、微小液体に薬効添加物等を含ませることにより、眼に対するドラッグデリバリー手法として有効であることも見いだした。本発明は、こうした知見に基づいて完成したものである。なお、本願において、「モイスチャーミスト」とは、少なくとも微小液体を含む霧状物を意味する。
【0013】
(1)本発明に係る噴霧装置は、少なくとも微小液体を供給する装置であって、局所領域に前記微小液体を含む霧状物を噴霧する噴霧素子を有することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、局所領域に微小液体を含む霧状物を噴霧する噴霧素子を有するので、この装置(詳しくは、噴霧素子からの噴霧方向)を眼に向けて装着することにより、眼の周囲に局所領域を形成し、その局所領域に微小液体を含む霧状物を噴霧できる。噴霧された微小液体を含む霧状物の一部は局所領域内で気化して気体(例えば蒸気)になるが、残りの微小液体を含む霧状物は気体になることなく眼に供給される。その結果、局所領域の気体濃度が増した状態で微小液体を含む霧状物を眼に到達させることができ、種々の用途(ドライアイ症状の軽減、ドラッグデリバリー、アレルギー予防、リラクゼーション等)に利用できる。
【0015】
本発明に係る噴霧装置において、前記微小液体を含む霧状物の原料を収容する収容部を有する。この発明によれば、収容部に収容された原料が、噴霧素子で微小液体を含む霧状物となって噴霧される。
【0016】
本発明に係る噴霧装置において、前記収容部が、着脱可能なカートリッジ容器であってもよい。この発明によれば、微小液体を含む霧状物の原料を収容したカートリッジ容器を交換するだけでよいので、便利な使用形態とすることができる。
【0017】
本発明に係る噴霧装置において、前記原料が、薬効添加物を有していてもよい液体原料又は固体原料であることが好ましい。この発明によれば、原料に薬効添加物を含有させることにより、眼に薬効物質を供給するドラッグデリバリーとして機能させることができる。薬効添加物としては、噴霧治療用物質であることが好ましく、メントール、鎮痛剤、抗生物質、抗アレルギー薬、ステロイド、眼圧低下薬等を挙げることができる。例えばメントールを薬効添加物として含有させれば、眼にメントールを飛ばすことができ、角膜に存在している冷刺激受容体であるTRPM8が活性化され、清涼感を与えるとともに、身体は逆に温めようとする。非特許文献2によれば、TRPM8は瞬き(まばたき)にも関連している可能性が示唆されており、メントールを噴霧することが瞬きを促進し、その結果ドライアイ症状を低減することができる。
【0018】
本発明に係る噴霧装置において、前記原料が、生理食塩水を含有することが好ましい。この発明によれば、生理食塩水を含む原料を微小液体として噴霧し、眼に供給するので、眼が沁みることなく供給することができる。
【0019】
本発明に係る噴霧装置において、前記噴霧素子は、超音波発振素子及び/又は霧吹き素子を備える。この発明によれば、超音波発振素子は、原料を振動させて少なくとも微小液体を発生させることができ、霧吹き素子は、気流を利用した減圧状態を発生させて液体を霧状の微小液体にすることができる。なお、原料を加熱可能な電気抵抗素子を併用してもよい。
【0020】
本発明に係る噴霧装置において、前記噴霧素子で噴霧させた少なくとも微小液体を含む霧状物を加熱する加熱素子を備えてもよい。この発明によれば、噴霧素子で噴霧させた霧状物を加熱することができるので、適度な感応温度に制御できる。
【0021】
本発明に係る噴霧装置において、前記局所領域がめがねのリムとテンプルで構成されるめがね型の噴霧装置であることが好ましい。この場合において、前記噴霧素子が前記テンプルに設けられていることが好ましい。
【0022】
本発明に係る噴霧装置において、前記局所領域が開口部を有するカップ型の噴霧装置であることが好ましい。この発明によれば、微小液体を含む霧状物をカップの開口部から眼に向けて噴霧することができる。
【0023】
(2)本発明に係る噴霧方法は、上記本発明に係る噴霧装置を用いて、眼に少なくとも微小液体を噴霧することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、眼の周囲に局所領域を形成し、その局所領域に微小液体を含む霧状物を噴霧できるので、噴霧された微小液体の一部は局所領域内で気化して気体(例えば蒸気)になるが、残りの微小液体は気体になることなく眼に供給される。その結果、局所領域の気体濃度が増した状態で微小液体を眼に到達させることができ、種々の用途(ドライアイ症状の軽減、ドラッグデリバリー、アレルギー予防、リラクゼーション等)に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る噴霧装置及び噴霧方法によって噴霧する微小液体と気体についての模式図である。
図2】本発明に係る噴霧装置及び噴霧方法で実現する態様の説明図である。
図3】本発明に係るめがね型(閉鎖タイプ)の噴霧装置の一例を示す模式図である。
図4】本発明に係るめがね型(開放タイプ)の噴霧装置の一例を示す模式図である。
図5図3に示すめがね型の噴霧装置を装着したときの模式図である。
図6】収容部を着脱可能にした場合の例を示す模式図である。
図7】湿度センサーを装着した場合の例を示す模式図である。
図8】本発明に係るカップ型の噴霧装置の一例を示す模式図である。
図9】めがねと眼との間の湿度と、めがね型噴霧装置の作動時間との関係を示すグラフである。
図10】超音波発振素子をON/OFF制御したときの湿度と作動時間との関係を示すグラフである。
図11】ON=30ミリ秒、OFF=100ミリ秒のサイクルで水を噴霧した時の右眼前空間の湿度変化を示すグラフである。
図12】実験3で得られた結果を示すグラフである。
図13】実験4で得られた結果を示すグラフである。
図14】実験5で得られた結果を示すグラフである。
図15】実験9で得られた結果を示すグラフである。
図16】帽子のつばに噴霧装置を設けた例を示す写真である。
図17図16の噴霧装置を実施したときの相対湿度の変化(A)と温度の変化(B)のグラフである。
図18】めがね型噴霧装置の一例を示す写真である。
図19図18のめがね型噴霧装置で行う実験形態の例である。
図20】噴霧スケジュールと、到達湿度とOn Time/Period比の関係を示す模式図である。
図21】湿度の上昇が速く(20秒以下)、安定的に90%超まで上昇する場合のグラフである。
図22】涙液層破壊時間(BUT)の結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る噴霧装置及び噴霧方法について図面を参照しつつ説明する。本発明は、本願記載の要旨を含む限り以下の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の態様に変形可能である。
【0027】
[噴霧装置及び噴霧方法]
本発明に係る噴霧装置及び噴霧方法は、ドライアイ症状の軽減等に効果のある手段であって、図1に示すように、眼の周辺の局所領域に微小液体を含む霧状物(ミスト)を噴霧し、少なくとも微小液体を眼に供給する手段である。噴霧は、微小液体だけであってもよいし、微小液体と蒸気(モイスチャー)の両方であってもよいし、微小固体を含む微小液体であってもよい。微小液体に薬効添加物等を含ませることにより、眼に対するドラッグデリバリー手法として有効である。なお、本願において、「モイスチャーミスト」とは、少なくとも微小液体を有する霧状物を意味する。本発明の噴霧装置及び噴霧方法は、図2に示すように、微小液体(ミスト)を含む霧状物を噴霧できるし、又は、微小液体と気体(モイスチャー)とを任意の割合で噴霧することもできる。こうした噴霧によって、眼に対して種々の効果を付与することを可能にすることができる。
【0028】
すなわち、本発明に係る噴霧装置(1,31)は、図3図8に示すように、眼に少なくとも微小液体を供給する装置であって、局所領域50に微小液体を含む霧状物を噴霧する噴霧素子を有する。この装置(1,31)は、局所領域50に微小液体を含む霧状物を噴霧する噴霧素子を有するので、この装置を眼に向けて装着することにより、眼の周囲に局所領域50を形成し、その局所領域50に微小液体を含む霧状物を噴霧できる。噴霧された微小液体は眼に供給されるので、種々の用途(ドライアイ症状の軽減、ドラッグデリバリー、アレルギー予防、リラクゼーション等)に利用できる。なお、噴霧された微小液体の一部が局所領域内で気化して気体(例えば蒸気)になった場合には、局所領域50の気体濃度が増した潤い状態で微小液体を眼に到達させることができるという利点もある。
【0029】
こうした噴霧装置では、局所領域50がめがねのリムとテンプルで構成されるめがね型の噴霧装置(図3図7を参照)や、局所領域50が開口部を有するカップ型の噴霧装置(図8を参照)を好ましく例示できる。
【0030】
以下、噴霧装置をめがね型とカップ型に分けて、各構成要素を詳しく説明する。
【0031】
<めがね型の噴霧装置>
めがね型の噴霧装置1は、図3図7に示すように、めがねに収容部11と噴霧素子16とが設けられたものである。
【0032】
(めがね)
めがねの基本構造は、図3に示すように、一般的には、レンズ2、リム3、ヨロイ4、テンプル6、モダン7、ノーズパッド8で構成されている。なお、めがねには通常、ヒンジが存在するが、図3に示すように張り出し部分3aが大きい場合には、テンプル6をヒンジで折りにくい。そのため、めがねは、図3に示すように、ヒンジは設けられていなくてもよい。
【0033】
本発明に係るめがね型の噴霧装置1では、局所領域50に微小液体を含む霧状物を噴霧して、少なくとも微小液体を眼に到達させることができる。局所領域50とは、めがねと眼との間の囲まれた空間を意味し、したがって、図5に示すように、めがねと顔面との隙間を生じ難くする閉鎖タイプのめがね構造であることが好ましい。そうした構造形態としては、図3に示すように、リム3から顔面方向に張り出している張り出し部分3aを設けたり、ヨロイ4とテンプル6の間の部分を顔面方向に張り出したりすることが好ましく、その結果、顔面を覆って隙間を生じ難くすることができる。また、ヨロイ4に近い側のテンプル6を大きくしてもよく、その結果、顔面との隙間を生じ難くすることもできる。顔面との隙間を小さくするためにテンプル6を大きくした場合は、そのテンプル6に噴霧素子16と収容部11とを装着することができるので便利である。
【0034】
本発明に係るめがね型の噴霧装置では、図4に示すように、開放タイプのめがね構造であってもよい。開放タイプのめがね構造は、図3に示す閉鎖タイプのめがね構造に比べて、張り出し部分3aが設けられておらず、さらに、ヨロイ4とテンプル6の間の部分を顔面方向に張り出す形態になっていない。こうした開放タイプのめがね構造であっても、本発明に係るめがね型の噴霧装置は、噴霧素子16から眼に方向に向かって霧状物を噴出させることができる。そのため、少なくとも微小液体を眼に供給することができる。
【0035】
レンズ2は、ガラス製レンズでもプラスチック製レンズでもよく、レンズメーカー又はガラスメーカーから所望の波長をカットできるレンズを入手すればよい。レンズ2、リム3、ヨロイ4、ヒンジ、テンプル6、モダン7及びノーズパッド8の材質も特に限定されないが、加工性のよいプラスチック製を好ましく挙げることができ、透明(無色透明又は有色透明を含む。)であっても、着色した不透明であってもよい。
【0036】
(噴霧素子)
噴霧素子16は、後述する収容部11に収容された原料を霧状物にして噴霧する素子である。「霧状物(モイスチャーミスト)」は、少なくとも微小液体を含むものである。噴霧素子16としては、原料を振動させて少なくとも微小液体を発生させることができる超音波発振素子、気流を利用した減圧状態を発生させて液体を霧状の微小液体にすることができる霧吹き素子、等を好ましく挙げることができる。なお、原料を加熱可能な電気抵抗素子を併用してもよい。これらの噴霧素子16は、原料が固体であるか液体であるかを問わず、その原料を微小液体又は微小固体として霧状に噴霧し、最終的に眼に到達させるときに少なくとも微小液体になっていればよい。したがって、噴霧時に微小液体になっていることに限定されるものではないが、到達時には微小液体になっている。
【0037】
噴霧素子16の構造形態は特に限定されないが、図3図7に示すようにテンプル6に設ける例では、テンプル6に装着できる大きさと形状とすることが望ましい。なお、テンプル6以外に装着する場合も、その装着箇所に応じた大きさと形状にすることが望ましい。
【0038】
超音波発振素子は、原料(例えば固体原料や液体原料)を超音波霧化分離で数μm程度(例えば1μm〜10μm程度)の微小液体(ミスト)を生じさせることができる各種のものを適用できる。超音波発振素子の動作電圧は特に限定されないが、5V程度のバッテリ電圧で作動可能なものであることが好ましい。なお、上記のように、この超音波発振素子は、原料が固体であるか液体であるかを問わず、その原料を微小液体又は微小固体として生じさせ、最終的に眼に到達させるときに少なくとも微小液体にさせるものであればよい。
【0039】
霧吹き素子は、空気等の気流を利用し、液体の供給路を減圧状態として、その減圧状態によって気流路から霧状の微小液体を噴霧する構造原理を利用したものである。噴霧素子16は、こうした霧吹き素子を備えたものであってもよい。また、超音波発振素子と霧吹き素子とを複合させたものであってもよい。
【0040】
噴霧素子16が超音波発振素子17である場合に、超音波発振素子17の動作制御を目的に応じて任意に設定することができる。例えば、間欠動作(ON/OFF動作や強弱動作)させるようにしたり、出力パターンをパルス状に設定したりしてもよく、図2に示すような「洗いモード」、「ハイブリッド」、「潤いモード」に調整できる。後述の実験例でも説明するように、噴霧素子16の超音波発振素子17を間欠動作させることにより、微小液体と気体(水蒸気)の供給を制御してめがねが曇らないように調節することもできる。
【0041】
なお、こうした噴霧素子16とともに、原料を加熱することができる電気抵抗素子を設けてもよい。電気抵抗素子は、市販されている各種のものを適用することができ、必要に応じて省電力タイプの電気抵抗素子を用いることができる。電気抵抗素子は、加熱によって原料(例えば液体)を気体(蒸気)に変えるのが容易であるので、他の噴霧素子16と併用して用いてもよい。また、ファン等を内蔵させたスチームファン式としてもよく、加熱された蒸気はファンによって特定方向に流すことができる。
【0042】
(収容部)
収容部11は、噴霧素子16で霧状物にするための原料を収容する部分である。収容部11は、原料を噴霧素子16に供給できる機能を有するように構成されていれば、その構造形態は特に限定されない。図3の例では、テンプル6にプラスチック製の容器が装着されている形態となっている。その容器には、液体や固体がそのまま入っていてもよいし、液体を染みこませたスポンジやフェルト等の吸液材又は保液材が入っていてもよい。収容部11を構成する容器構造は、めがねに一体化して設けられていてもよいし、図6に示すようにめがねから着脱可能なカートリッジ容器であってもよい。いずれの場合も、原料を補給する補給口を有するように構成してもよいし、原料を交換可能な開口部を有するように構成してもよい。
【0043】
収容部11は、図3図7に示すように、テンプル6に設けられていることが好ましいが、テンプル6以外のめがね部位に設けられていてもよい。また、場合によっては、別体容器とし、めがねにチューブ等で連結する形態であってもよい。この収容部11から噴霧素子16に供給された原料は、噴霧素子16から両眼の近傍の局所領域50に霧状物を噴霧することができる。
【0044】
原料は、液体原料であっても固体原料であってもそれらの混合物であってもよい。原料は、噴霧素子16によって微小液体又は微小固体として噴霧するものであり、最終的に眼に到達させるときに少なくとも微小液体になるものであればよい。一般的には液体を用いることが好ましい。液体以外では、眼に到達するまでの間に微小液体になるものであればよく、例えば、噴霧素子16で微小固体を噴霧したり、又は、微小液体と微小固体との混合物を噴霧したりしてもよい。
【0045】
液体原料は、本発明では便利に用いられるものであり、水、水溶液、有機溶媒等の液体であるが、これらに限定されない。水溶液は、水溶性物質を含む水や、含水エタノール等の水性溶媒であり、水溶性物質としては、水に溶解又は分散する無機物質又は有機物質を挙げることができる。水は、清浄な水であれば特に限定されず、水道水や市販のミネラルウォーター等であってもよいし、蒸留水やイオン交換水であってもよい。有機溶媒についても特に限定されず、本発明の効果を阻害しないものであれば、各種の有機溶媒を適用してもよい。
【0046】
固体原料としては、例えば超音波発振素子で微小固体になって霧状物になるもの、ナノ粒子等の微小固体粒子、等を挙げることができる。こうした微小固体は、固体のままの霧状物、微小液体中にナノ分散した状態の霧状物となっていてもよい。
【0047】
原料は、添加物を含んでいてもよい。添加物としては、例えば、生理食塩水を構成する塩分であってもよいし、香料、清涼化剤、防腐剤、殺菌剤、pH調整剤、安定化剤、薬効添加物等であってもよい。これらの添加物の含量は、種々の用途に使用される本発明の効果を阻害しない範囲内で任意に含まれていればよく、特に限定されない。
【0048】
添加物として薬効添加物を含有させる場合、薬効添加物を有する液体原料少又は固体原料であることが好ましい。原料に薬効添加物を含有させることにより、眼に薬効物質を供給するドラッグデリバリーとして機能させることができる。薬効添加物としては、噴霧治療用物質であることが好ましく、メントール、鎮痛剤、抗生物質、抗アレルギー薬、ステロイド、眼圧低下薬等を挙げることができる。例えばメントールを薬効添加物として含有させれば、眼にメントールを飛ばすことができ、角膜に存在している冷刺激受容体であるTRPM8が活性化され、清涼感を与えるとともに、身体は逆に温めようとする。非特許文献2によれば、TRPM8は瞬きにも関連している可能性が示唆されており、メントールを噴霧することが瞬きを促進し、その結果ドライアイ症状が低減することができる。これら以外の薬効添加物としては、例えば、薬理活性成分、生理活性成分等を挙げることができる。このような成分の種類は特に制限されず、例えば、充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分、収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分、抗アレルギー薬成分、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌薬成分、糖類、高分子化合物又はその誘導体、セルロース又はその誘導体、局所麻酔薬成分、緑内障治療成分、白内障治療成分等を挙げることができる。こうした薬効添加物を、微小液体とともに眼に供給することにより、それぞれの薬効が期待できる。
【0049】
薬効添加物の含量は、その薬効添加物の種類に応じ、本発明の効果を阻害しない範囲内で含まれていればよい。
【0050】
(加熱素子)
めがね型の噴霧装置1は、加熱素子(図示しない)をさらに備えていてもよい。この加熱素子は、上記した電気抵抗素子とは異なるものであり、噴霧素子16で生じさせた霧状物をさらに温めた状態で眼に供給するための素子である。例えば原料が気体になったり、微小液体が気体になったりするときに気化熱によって温度低下が生じるが、この加熱素子により、眼又は眼の周囲で感じる温度を適度な温度に加温することができる。
【0051】
(その他)
局所領域50内(例えばめがねの内側)には、図7に示すように、湿度センサー18や温度センサーを設けてもよい。湿度センサー18は、霧状物を噴霧する空間の湿度を測定するものであり、測定した湿度を利用した噴霧素子16の動作制御に応用することができる。また、温度センサーは、霧状物を噴霧する空間の温度を測定するものであり、測定した温度を利用した噴霧素子16の動作制御や上記加熱素子の動作制御に応用することができる。なお、温度と湿度を同時に測定できる温度湿度センサーであってもよい。
【0052】
<カップ型の噴霧装置>
カップ型の噴霧装置31は、図8に示すように、少なくとも噴霧素子16がカップに設けられているように構成できる。カップ型の噴霧装置31では、通常、カップの底部33に原料収容部11及び噴霧素子16が設けられていることが好ましく、カップの開口部32を眼に当てる又は眼を近づけて、眼の近傍の局所領域50に霧状物を供給できる。
【0053】
カップの材質は特に限定されず、プラスチック製が好ましく適用できる。なお、収容部11及び噴霧素子16の構造や素子については、めがね型の噴霧装置1の説明欄で記載のものと同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0054】
<その他の噴霧装置>
上記では、めがね型(閉鎖タイプ、開放タイプ)の噴霧装置、カップ型の噴霧装置を具体的な実施形態として説明したが、眼に少なくとも微小液体を供給できるものでれば、それ以外の形態の噴霧装置であってもよい。例えば、後述の図16に示すように、帽子のつばに噴霧素子16と収容部11を設け、噴霧素子16から噴霧した霧状物が眼に向かうように構成されたものも本発明に含まれる。このとき、噴霧素子16は、帽子のつばに設けられていなくても、アームを介して帽子に取り付けられたものであってもよい。また、いわゆるヘッドセットのような形態で、アームの先端に噴霧素子16が設けられたものであってもよい。なお、収容部11は、噴霧素子16の近くに一体的に設けられていてもよいが、帽子型やヘッドセット型の場合は、噴霧素子16にチューブ等で連結されたものであってもよく、大きな収容部1を別の部位に設けることができるので有利である。
【0055】
<利用形態>
本発明に係る噴霧装置及び噴霧方法は、空間的に狭い領域(局所領域50)に微小液体を含む霧状物を噴霧することができるが、それ以外の空間にはあまり影響を与えない。そのため、装着者が仮に動き回ったとしても、個人レベルの小空間、例えば目の周りや顔の周りだけに微小液体を含む霧状物を供給でき、周囲には影響を及ぼさなくて済み、局所的な個人レベルの空間を提供することができる。
【0056】
この発明の主なターゲットの代表例はドライアイ患者であるが、特に限定されない。例えばドライアイ患者に対しては、少なくとも微小液体を眼の近傍の局所領域50に送り込むので、眼に優しいより快適な湿度環境を提供することができる。さらに副次的な効果として、眼の周囲の皮膚に潤いを与えることもでき、目尻や目元の皺の発生防止にも役立てることができる。また、薬効添加物としてメントール等を配合することにより、種々の効果を実現できる。
【0057】
さらに、本発明に係る噴霧装置及び噴霧方法は、例えば、湿度保持医療器具としても活用でき、日常の生活業務をしながら使用でき、さらに後述の実験例で確認したように、噴霧素子16を制御することによりめがねの曇りも抑制できる。また、装着中は、局所領域50の湿度を希望に応じて上げることもでき、装用中はドライアイ等を改善でき、その装用はいつでも中止することもできる。特に、この噴霧装置及び噴霧方法は、噴霧素子の作用により即効性があり、患者自身が差異を感じられる自覚性もあり、環境湿度の制御も容易で安全性も高い。そして、BUT改善とドライアイ症状改善という効果がある。また、薬効添加物を含有させることにより、アレルギー症状改善への期待と、ドラッグデリバリーによる効果にも大いに期待できる。
【0058】
また、図2に示すように、噴霧素子16の作動を制御することにより、微小液体が多い「洗いモード」、微小液体と気体とを併用した「ハイブリッド」、気体(水蒸気等)が多い「潤いモード」に任意に調整できるという利点がある。こうした制御のし易さは、新しいドラッグデリバリーの可能性が期待でき、微小液体の噴霧量を増すことで洗眼の代用にもなり、水膜を作ることによってアレルゲンが目に入るのを防ぐことができ、眼の周りの湿度を保つことにより眼の周りの保湿を行うこともできる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、各核実験での被験者は、その実験での被験者の番号を意味するだけであり、「被験者1」や「被験者2」が全ての実験で同一人物を意味するものではない。
【0060】
[実験1]
図3に示すめがね型の噴霧装置(「1号機」)を作製した。めがねフレームは、JINS MOISTURE(品番:MST−13A−003、株式会社ジェイアイエヌ)を使用し、左側のテンプル6の水タンクを外してできた空間に収容部11と噴霧素子16とを装着した。収容部11として、水を染みこませたスポンジを入れたプラスチック容器(容量約5mL)を用い、適度な量が噴霧素子16に接触するように噴霧素子16に接触するスポンジの面積を調整した。噴霧素子16は、透液型の超音波振動板(発信周波数120kHz、電源5V・500mA)を用いた。この超音波発振板は、微細孔を有しており、一方の面に接触した水を微細孔に通過させてミストにすることができる。この1号機により、発生したミストを、めがねと眼の間に空間に送り込んだ。
【0061】
(湿度測定1)
図9は、めがねと眼との間の湿度と、1号機の作動時間との関係を示すグラフである。湿度計は、Sensiron社製温湿度計評価キット(EK−H4)を用い、温湿度センサーも同社のSHT−21を使用し、めがねに内側に取り付けてデータを取得した。図9に示すように、1号機を20秒間作動させることにより、47%だっためがね内の相対湿度が93%まで上昇し、飽和状態になった。計30秒間動作させた後に超音波発振素子をOFFにしたが、その後もしばらく湿度の飽和状態は続いた。時間の経過とともに、めがねと顔の隙間から湿気が逃げていくに伴い、湿度が緩やかに下がっていき、5〜6分かけて元の環境湿度に戻っていくのが観測された。湿度の時間変化の測定結果を以下に示す。
【0062】
(湿度測定2)
図10は、超音波発振素子をON/OFF制御したときの湿度と作動時間との関係を示すグラフである。図10に示すように、湿度を80%±10%の範囲に湿度を収めることができた。
【0063】
[実験2]
めがね型の噴霧装置(「2号機」)を作製した。この2号機は、噴霧素子16には透液型の超音波発振板(振動周波数は100kHz、電源:5VDC、micro−USB接続)を用い、収容部11には容量約5mL容器を用い、この容器と超音波発振板を左右のテンプル6に噴霧可能に装着した。超音波発振板を電気的にON/OFF時間を設定し、ON/OFFが左右交互になるように作動させた。それ以外は、1号機と同様とした。
【0064】
(湿度測定)
図11は、ON=30ms、OFF=100msのサイクルで水を噴霧した時の右眼前空間の湿度変化を示すグラフである。実験1に比べて超音波発振板での発振が弱めであり、当初からフレーム周囲の隙間からミストが逃げがちであったが、図11中の矢印で示すように、4分30秒頃に隙間を少しふさぐことにより、約70%の湿度となり、湿度を安定させることも可能であった。
【0065】
[実験3]
実験1で用いた1号機を用い、水のミストを眼前の空間に噴射し、前後でのドライアイの指標である涙液層破壊時間(Tear film break-up time/BUT)を評価した。実験は、超音波発振板を作動して90%を超える程度に湿度を上げ、その状態を30秒間維持し、その前後でBUTを測定した。なお、1号機は左眼のみに容器と超音波発振板が設けられているので、左眼のみ測定した。BUTの測定方法は、フルオレセイン染色液(0.5%)約1μLを点眼し、涙液層が破壊されるまでの時間を測定した。正常は10秒以上、異常は5秒以下とされている。
【0066】
2名の被験者で評価した。被験者1は、BUTが3秒から5秒になり、被験者2はBUTが3秒から10秒になり、両者ともBUTが上昇してドライアイ症状の軽減が見られた。特に被験者2のBUTは10秒と正常値まで顕著に上昇した。図12は、この結果をまとめたグラフである。
【0067】
[実験4]
実験2と同様の2号機を用い、水のミストを眼前の空間に噴射し、前後でのドライアイの指標であるBUTを評価した。実験は、フレーム周りをテープで覆って湿気が逃げるのを防いだ後、超音波発振板を作動して、30ミリ秒ON、100ミリ秒OFFの繰り返しで、ON/OFFが左右交互になるように5分間作動させた。その前後でBUTを測定した。BUT測定は、上記実験3と同じ方法で行った。評価は、スタート前から終了まで、1分ごとに眼の気持ち良さについて官能評価した。官能評価は、スタート時を0(ゼロ)とし、1(少し気持ち良いような感じがする)、2(少し気持ち良い)、3(気持ち良い)、4(結構気持ち良い)、5(最高に気持ち良い)の5段階とした。
【0068】
2名の被験者で評価した。被験者1は、「左/右」のBUTが3秒/3秒から5.7秒/4秒になり、官能評価もスタート時の0から4になった。被験者2も、「左/右」のBUTが3秒/1秒から4秒/2秒になり、官能評価もスタート時の0から1/4になった。図13は、この結果をまとめたグラフである。被験者1はBUT及び官能評価の改善が見られた。一方、被験者2は、ドライアイ症状のひどい左眼の官能評価は0から1への僅かな改善のみであったが、これは2号機が水のミスト噴射の程度が弱いためであり、その程度の改善により解決できる。
【0069】
[実験5]
実験2と同様の2号機を用い、実験2よりも長いON時間にして、1回のミスト噴射量を増やした。水のミストを眼前の空間に噴射し、前後でのドライアイの指標であるBUTを評価した。実験は、フレーム周りをテープで覆って湿気が逃げるのを防いだ後、超音波発振板を作動して、1024ミリ秒ON、10ミリ秒OFFの繰り返しで、ON/OFFが左右交互になるように15分間作動させた。その前後でBUTを測定した。BUT測定は、上記実験3と同じ方法で行った。評価は、スタート前から終了まで、1分ごとに眼の気持ち良さについて官能評価した。官能評価は、スタート時を0(ゼロ)とし、1(少し気持ち良いような感じがする)、2(少し気持ち良い)、3(気持ち良い)、4(結構気持ち良い)、5(最高に気持ち良い)の5段階とした。
【0070】
1名の被験者で評価した。被験者1は、「左/右」のBUTが3秒/3.3秒から5分後には4秒/4秒になり、10分後には4.7秒/4秒となった。図14は、この結果をまとめたグラフである。官能評価もスタート時の0から10分後には4になった。被験者1ではBUT及び官能評価の改善が見られた。また、めがねレンズは曇ることがなかった。
【0071】
[実験6]
実験2と同様の2号機を用い、超純水で500倍希釈のメントール(株式会社北見ハッカ通商、「ハッカ油セット」)を使用し、そのミストを眼前の空間に噴射し、前後での官能評価のみ行った。実験は、フレーム周りをテープで覆ってメントール湿気が逃げるのを防いだ後、超音波発振板を作動して、実験2と同様、30ミリ秒ON、100ミリ秒OFFの繰り返しで、ON/OFFが左右交互になるように5分間作動させた。官能評価は、スタート前から終了まで、1分ごとに眼の気持ち良さについて官能評価した。官能評価は、スタート時を0(ゼロ)とし、1(少し気持ち良いような感じがする)、2(少し気持ち良い)、3(気持ち良い)、4(結構気持ち良い)、5(最高に気持ち良い)の5段階とした。
【0072】
1名の被験者で評価した。官能評価は、スタート時の0から、1分後から5分後まで4であったが、涙はあまり出なかった。2号機は、1号機に比べて噴霧量が弱いため、爽快感はあるが最高度ではなく、涙も出るほどではなかった。
【0073】
[実験7]
カップ型の噴霧装置31を作製した。カップ型の噴霧装置は、小林製薬株式会社の「アイボン(登録商標)」を購入し、付属のアイカップを利用して、図8に示す形態のものを試作した。超音波発振素子は、実験1で用いた超音波発振板と同じ120kHzタイプのものを用いた。付属のアイカップの底面に穴を開け、そこに超音波発振板を設置した。図8に示すように、超音波発振板の裏面にプラスチック容器(スポンジが中に入っている)を当てることで、カップ内にミストが噴霧されるようにした。
【0074】
アイボン(登録商標)の原液を使用し、さらにその原液を超純水で種々の倍率に希釈したものを用い、そのミストを眼前の空間に噴射し、前後での官能評価(爽快感、痛み、涙が出たかどうか)を行った。実験は、カップの開口部を眼の周囲に押し当てた後、超音波発振板を作動して、30秒間噴霧した。爽快感は、−3(不快最大)、−2、−1、0(変化無し)、1、2、3(爽快最大)のランクで相対評価した、痛みは、0(無し)、1(少し痛い)、2(痛い)、3(とても痛い)のランクで相対評価した。
【0075】
1名の被験者で評価した。官能評価の結果を表1に示した。表1に示すように、原液での通常使用ほどの爽快感ではないが、希釈液でも爽快感が得られることがわかった。薄める度合いが低いと、原液での洗浄と比べて、ミストだと痛みと共に涙が出た。ことから、ある程度薄めての使用が必要であることがわかった。
【0076】
【表1】
【0077】
[実験8]
実験7のカップ型の噴霧装置を用い、超純水でメントール(株式会社北見ハッカ通商、「ハッカ油セット」)の希釈倍率を変えて、そのミストを眼前の空間に噴射し、前後での官能評価(爽快感、痛み、涙が出たかどうか)を行った。それ以外は、実験7と同じである。
【0078】
2名の被験者で評価した。官能評価の結果を表2に示した。表2に示すように、メントールは刺激が強く、爽快感は高いが、涙も出る(ドライアイ症状の人は、涙が出ることが爽快だと感じる傾向にある)。それに加えて、薄める度合いが低いと痛みが起こる。10倍希釈(一番濃い)では、被験者1は爽快(3)だが、痛い(3)と評価した。一方、被験者2は痛みが強く(3)、爽快ではない(0)と評価した。
【0079】
【表2】
【0080】
[実験9]
実験2と同様の2号機を用い、超音波発振板のパワーを4倍に上げて水の噴射量を増した実験を行った。超音波発振板の作動は、59ミリ秒ON、41ミリ秒OFFの繰り返しで、ON/OFFが左右同時になるように5分間作動させた。その前後でBUTを測定した。なお、BUT測定では、前もって測定(BEFORE測定)し、5分間作動させた後にメガネをかけたまま測定(AFTER測定)し、めがねを外してさらに5分後に再度測定(最終測定)した。評価は、スタート前から終了まで、1分ごとに眼の気持ち良さを官能評価した。官能評価は、スタート時を0(ゼロ)とし、1(少し気持ち良いような感じがする)、2(少し気持ち良い)、3(気持ち良い)、4(結構気持ち良い)、5(最高に気持ち良い)の5段階とした。4名の被験者で評価した。
【0081】
被験者1はドライアイ症状のある被験者である。「左/右」のBUTは、BEFORE測定=2.3秒/3.0秒、AFTER測定=7.0秒/7.0秒、最終測定=6.3秒/5.0秒であり、AFTER測定及びメガネを外した最終測定でも良い状態であった。そこで、さらに5分後にBUT測定したところ、3.7秒/3.3秒となって元の値に戻りつつあった。官能評価は、0(BEFORE測定)、4(AFTER測定)、4(最終測定)、3(さらに5分後の測定)になった。
【0082】
被験者2はドライアイ症状のない被験者である。「左/右」のBUTは、BEFORE測定=5秒/8秒、AFTER測定=10秒以上/10秒以上(健常者はBUTが10秒以上になるので10秒まで測定して停止した)、最終測定=10秒以上/10秒以上であった。官能評価は、0(BEFORE測定)、4(AFTER測定)、3(最終測定)になった。この被験者2は、元々ドライアイではないので「濡れた」という感覚はあったが、それ以外に、角膜のキズが癒されているような感覚はわからなかった。
【0083】
被験者3はドライアイ症状のある被験者である。「左/右」のBUTは、BEFORE測定=4秒/5秒、AFTER測定=7秒/10秒、最終測定=5.5秒/4.0秒であった。官能評価は、0(BEFORE測定)、3(AFTER測定)であり、最終測定は行わなかった。
【0084】
被験者4はドライアイ症状のある被験者である。「左/右」のBUTは、BEFORE測定=10秒/7.3秒、AFTER測定=10秒以上/10秒以上、最終測定=6.7秒/8.3秒であった。官能評価は、0(BEFORE測定)、1(AFTER測定)、4(最終測定)であった。AFTER測定では、化粧が眼に入って眼が沁みたとのことであったが、AFTER測定後にめがねを外すと目の沁みも引き、爽快さが残った。
【0085】
図15は、これらの結果を示すグラフである。被験者1〜4の4人のBUTの平均値は、BEFORE測定が5.6秒であり、AFTER測定が8.9秒であった。t検定(t−test)を行ったところ、p値は0.009と小さく、有意差があることが認められた、
【0086】
以上説明したように、大量の液体を使うのではなくほんの僅かな量の液体をもってして局所的な小空間を必要なミストで満たし、狙った効果を得ることができ、十分な原理確認ができた。上記した実験結果から、水を超音波発振素子でミスト化して眼前の局所空間に飛ばすことで、眼は心地良さを感じ、ドライアイの指標であるBUTも改善の傾向を明らかに示した。機器として、1号機は湿度が短時間で90%を超えるほど噴霧のパワーは十分ではあるが、ON/OFFしかできないために湿度の制御が容易ではない。2号機はON/OFF時間をそれぞれ制御できる優位性があるが、噴霧パワー自体が比較的弱く、湿度が70%程度までしか上がらない(よって、めがねが曇ることもない)。めがねフレームと顔の隙間から湿気が漏れることも明らかになり、フレーム周囲に漏れをガードするための覆いを付けると効果的なことが分かった。また、パワーアップした2号機では、噴霧量を増すことができ、効果があった。
【0087】
また、ドラッグデリバリーへの応用の可能性を見た結果、アイボンをミスト化して眼に飛ばすことで、希釈の必要はあるが爽快感を得ることができた。アイボン(登録商標)を原液で通常の様に使うときのような洗浄力を得るには、噴射のパワーを強める必要がある。メントール希釈液は濃いと爽快感よりも痛みが先行するため、500倍まで薄める必要があった。500倍まで薄めると痛みも軽減し、メントール固有の爽快感を得ることができた。
【0088】
[実験10]
図16は、帽子のつばに噴霧装置を設けた実施形態を示す写真である。この実施形態で用いた噴霧装置は、帽子のつばに噴霧素子部と収容部とが設けられている。噴霧素子部は、円形部材の中央部の開口から、霧状物が眼に向かうように噴霧する噴霧素子を備えている。噴霧素子として円形の超音波発振素子が用いられている。この超音波発振素子は、実験1と同じ透液型の超音波振動板(発信周波数120kHz、電源5V・500mA)を用いた。収容部は、噴霧素子部に連結されて一体的に設けられている。噴霧素子である超音波発振素子への給電は、図16の例では、バッテリー(図示しない)からリード線を介して行っている。
【0089】
図17は、図16の噴霧装置を実施したときの相対湿度の変化(A)と温度の変化(B)のグラフである。この図からわかるように、噴霧装置をONにして40秒程度経過すると、顔の鼻部に取り付けた湿度・温度センサーでの測定では、当初の相対湿度40%・温度32.3℃程度から相対湿度90%・温度28℃程度に変化し、相対湿度の上昇を確認できた。また、顔の顎部に取り付けた湿度・温度センサーでの測定でも、当初の相対湿度40%RH・温度31.5℃程度から相対湿度60%・温度28.5℃程度に変化し、相対湿度の上昇が確認できた。なお、いずれの箇所でも、温度が低下していた。室内の測定環境は、相対湿度35%、室温28℃であった。
【0090】
[実験11]
図18は、めがね型噴霧装置の実施形態例を示す写真である。図19は、図18のめがね型噴霧装置で行った実験形態の例である。このめがね型噴霧装置は、実験1で用いた1号機及び2号機をさらに改良したものであり、具体的には、図19(A)(B)に示すように、めがねフレームは、JINS MOISTURE(品番:MST−13A−003、株式会社ジェイアイエヌ)を使用し、左側のテンプル6の水タンクを外してできた空間に収容部と噴霧素子とを装着している。バッテリは、これまでの有線でモバイルバッテリーやAC電源につないでいたものから、薄型のリチウムポリマー電池(電力容量400mAh)に替え、充電タイプに改良した。収容部についても、1.5mL容量に小型化し、取り外しができるカートリッジ方式へと変更した。さらに、1号機及び2号機で使っていたスポンジの使用もやめ、水が素子に直接導入される形態とした。電気系については、バッテリからの5Vの入力電圧を±25Vまで昇圧し、発信周波数108kHzで振動する超音波圧電トランスデューサ(材質:チタン酸ジルコン酸鉛)で振動させた。こうした噴霧装置により、図19(C)に示すように、微小液体を発生させ、眼に向けて供給することができる
【0091】
なお、装着は、図19(D)のマネキンへの装着形態のように被験者に装着することができる。湿度測定は、実験1と同様、Sensiron社製温湿度計評価キット(EK−H4)を用い、温湿度センサーも同社のSHT−21を使用し、めがねに内側に取り付けることにより、データを取得することができる。
【0092】
図20は、噴霧スケジュールと、到達湿度とOn Time/Period比の関係を示す模式図である。超音波振動素子は、それぞれ「Period」(周期)で繰り返し「On Time」時間振動し、微小液体を噴霧する。左右の素子は、互い違いに振動し、「Period」の半分位相がずれている。図19(D)に示すマネキンを用いた予備実験から、「On Time」と「Period」の比が、眼前空間が到達する湿度を決定することが分かった。
【0093】
図21は、湿度の上昇が速く(20秒以下)、安定的に90%超まで上昇する場合のグラフである。On Time=8.4ms、Period=250msの条件より、On Time/Period=3.4%である。図21の結果より、湿度の上昇が速く(20秒以下)、安定的に90%超まで上昇しているのが確認された。
【0094】
図22は、涙液層破壊時間(BUT)の結果の説明図である。噴霧条件は、「噴霧強レベル」(On Time/Period=8.4ms/250ms=3.4%)とし、モイスチャーミストを10分間装用し、装用前後で眼科検査及び問診票での回答を得た。2回実施(水ありケースとコントロール(水なしのAirケース)の2回)した。被験者数は5人(男性3名、女性2名、平均年齢44.6歳±12.7歳)で行った。主要眼科検査項目として、細隙灯顕微鏡検査(涙液層破壊時間(BUT)、角結膜上皮障害程度(フルオレセイン染色スコア))、涙液浸透圧検査、実用視力(FVA(logMARスケール))、視力(VAS)とした。図22の結果より、涙液層破壊時間(BUT)は、10分の装用で優位に上昇し、その10分後も値は下がらず、有効性が示された。
【0095】
次に、実用視力(FVA(logMARスケール))と毎分あたり瞬き回数の結果を表3に示した。表3の結果より、実用視力(FVA(logMAR))と瞬き回数(1分間での)は共に改善し、有効性が示された。
【0096】
【表3】
【0097】
次に、視力(Visual Analog Scale=VAS)の結果を表4に示した。表4の結果より、視力に優位な改善が見られ、有効性が示された。
【0098】
【表4】
【0099】
次に、フルオレセイン染色スコアを表5に示した。表5の結果より、スコアに変化がなく、安全性の保持が示された。
【0100】
【表5】
【0101】
以上のように、本発明に係る噴霧装置は、ピエゾ素子を逆圧電効果によって超音波振動させ、水のミスト(微小液体)として飛ばし、眼前空間を加湿する。そして、湿度の電気制御回路や水導入カートリッジ(収容部)等を備えるので、通常のめがねと変わらない外観に仕上げることができる。油・水・ムチンという三層構造をしている涙は、そのどれかが問題を起こすと涙液層全体が不安定となり、角結膜が露出され、瞬きで表面に傷が付くため、涙液層の安定が肝要である。涙液層破壊時間(Tear film break−up time/BUT)という涙液層の安定度を計る定量的な指標では、ドライアイ患者はこのBUTが短い。しかし、本発明に係る噴霧装置では、上記した各実験で示すように、眼前領域の湿度が上がり、BUTが長くなり、ドライアイの自覚症状の軽減が確認された。
【0102】
さらに、本発明に係る噴霧装置は、眼球の渇きを軽減するだけではなく、同じ設定下で眼の周囲の皮膚に潤いや張りを与え、目元・目尻を気にする使用者にはエステ効果を与えることができる。加えて、同じ水を飛ばすにしても、その量や勢いを増すことで、洗眼の代わりとすることもできる。水以外のもの、例えば溶液状の薬剤を飛ばせば、これは新しいタイプのドラッグデリバリーにもなる。
【符号の説明】
【0103】
1 めがね型噴霧装置(めがね)
2 レンズ
3 リム
3a 張り出し部分
4 ヨロイ
6 テンプル
7 モダン
8 ノーズパッド
11 収容部
16 噴霧素子
17 超音波発振素子
18 湿度センサー
31 カップ型噴霧装置(カップ)
32 開口部
33 底部
50 局所領域
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