(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は、腐食抑制金属陽イオンおよび共役化合物を含む組成物を対象とする。特定の実施形態においては、この組成物は水性媒体等の担体をさらに含み、それにより、この組成物は、金属陽イオン、共役化合物および/または他の組成物の成分が担体中に溶解した溶液または分散した分散液の形態となる。このような組成物は、基材を「塗装(coat)」することにより基材上に層を形成することができるので、本明細書においては塗料/塗膜(coating)と称する場合もある。この層は連続であっても不連続であってもよい。
【0006】
本発明に従い使用される金属陽イオンとしては、耐食性に寄与する任意の金属陽イオンでありうる。例えば、金属陽イオンは、セリウム、イットリウム、プラセオジム、ネオジム等の希土類元素またはこれらの組合せとすることができる。他の金属陽イオンとしては、ジルコニウム、第IA族金属陽イオン(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびフランシウム等)または第IIA族金属陽イオン(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムおよびラジウム等)、第2B族金属イオン(亜鉛等)、第IVB族金属(チタン等)ならびに3価のクロムが挙げられる。本明細書において用いられる「希土類金属」という語は、15個のランタノイド(原子番号57から71までのランタンからルテチウムまでの15元素)にスカンジウムおよびイットリウムを加えた周期律表の17個の化学元素を指す。適用可能な場合は、金属そのものを使用することもできる。特定の実施形態においては、希土類金属の供給源として希土類金属化合物が使用される。本明細書において用いられる「希土類金属化合物」という語は、上に定義した希土類元素である少なくとも1種の元素を含む化合物を指す。本発明による特
に好適な金属陽イオンとしては、セリウム、イットリウム、プラセオジム、ジルコニウム、リチウムおよび亜鉛が挙げられる。
【0007】
特定の実施形態においては、本組成物中に使用される金属陽イオンは金属塩の形態にある。「塩」という語は、イオン結合している無機化合物および/または1種以上の無機化合物が溶液中でイオン化した陰イオンおよび陽イオンを意味する。好適な塩としては、例えば、硝酸塩、塩化物および硫酸塩に加えて炭酸塩および水酸化物が挙げられる。その例として、塩化プラセオジム、硝酸プラセオジム、硫酸プラセオジム、塩化セリウム、硝酸セリウム、硫酸セリウム(3価)、硝酸セリウム、塩化イットリウム、硝酸イットリウム、硫酸イットリウム、フッ化亜鉛、ヘキサフルオロジルコン酸塩、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよびこれらの組合せが挙げられる。
【0008】
特定の実施形態においては、金属陽イオンは、組成物中に、少なくとも10ppm金属(少なくとも100ppm金属または150ppm金属等)(金属元素として測定)、および5000ppm金属以下(300ppm金属以下または250ppm以下金属等)の量で存在する。金属陽イオンの量は、ここに列挙したいずれかの数値の間の範囲(列挙した数値を包含する)とすることができる。
【0009】
本明細書において用いられる「共役化合物」は、当業者に理解されるように、単結合で分離された2本の二重結合を有する化合物、例えば、2本の炭素−炭素二重結合およびこれらの間の1本の炭素−炭素単結合を有する化合物を指す。本発明により、任意の共役化合物を使用することができる。特定の「インジケータ」または「インジケータ化合物」は、例えば、金属イオン等の化学種の存在や組成物のpH等を示唆する(indicate)のでこのように呼ばれるが、これらは共役化合物である。本明細書において用いられる「インジケータ」、「インジケータ化合物」等の語は、何らかの外部刺激、変数もしくは条件(金属イオンの存在等)に応答して、または特定のpHもしくはpH範囲に応答して色が変化する化合物を指す。
【0010】
本発明の特定の実施形態に従い使用されるインジケータ化合物は、化学種の存在や特定のpH等を示す、当該技術分野において知られている任意のインジケータとすることができる。例えば、好適なインジケータは、特定の金属イオンと一緒になって金属イオン錯体を形成すると色が変化するものであってもよい。一般に、金属イオンインジケータは、高度に共役した有機化合物である。また、インジケータ化合物は、pHが変化すると色が変化するものであってもよい。例えば、この化合物は、酸性または中性のpHにおいてはある1色を呈し、アルカリ性のpHで色が変化するものであってもよいし、その逆であってもよい。この種のインジケータはよく知られており、広く市販されている。したがって、「アルカリ性のpHに曝されると色が変化する」インジケータは、酸性または中性のpHに曝された場合は第1の色(または無色)を有し、アルカリ性のpHに曝されると第2の色に変化する(または無色から有色になる)。同様に、「酸性のpHに曝されると色が変化する」インジケータは、pHがアルカリ性/中性から酸性に変化すると、第1の色/無色から第2の色/有色に移行する。
【0011】
この種のインジケータ化合物の例としては、メチルオレンジ、キシレノールオレンジ、カテコールバイオレット、ブロモフェノールブルー、グリーンおよびパープル、エリオクロムブラックT、セレスチンブルー、ヘマトキシリン、カルマガイト、ガロシアニンならびにこれらの組合せが挙げられる。一実施形態によれば、インジケータ化合物は、金属イオンインジケータである有機インジケータ化合物を含む。例示的なインジケータ化合物として、表Iに示すものが挙げられる。特定の条件下で発光するであろう蛍光インジケータも本発明に従い使用することができるが、特定の実施形態においては、蛍光インジケータの使用は特に除外される。すなわち、特定の実施形態においては、蛍光を発する共役化合
物が特に除外される。本明細書において用いられる「蛍光インジケータ」およびこれに類する語は、紫外光または可視光に曝されると蛍光を発するか、または蛍光を発しない場合は呈色するであろう化合物、分子、顔料および/または染料を指す。「蛍光を発する」とは、光または他の電磁放射を吸収した後に光を放出することと理解されるであろう。「標識(tag)」と称されることも多いこの種のインジケータの例としては、アクリジン、アントラキノン、クマリン、ジフェニルメタン、ジフェニルナフチルメタン、キノリン、スチルベン、トリフェニルメタン、アントラシン(anthracine)ならびに/またはこれらのいずれかの部分および/もしくはこれらのいずれかの誘導体を含む分子(ローダミン類、フェナントリジン類、オキサジン類、フルオロン類、シアニン類および/またはアクリジン類等)が挙げられる。
【0013】
一実施形態によれば、共役化合物は、表Iに示すカテコールバイオレットを含む。カテコールバイオレット(CV)は、ピロカテコール2モルをo−スルホ安息香酸無水物1モルと縮合させることにより製造されるスルホンフタレイン染料である。CVはインジケータ性能を有し、金属イオンを含む耐食性組成物中に混合すると、錯体を形成して、キレート試薬として有用なものになる。一般に、CVキレート金属イオンを含む組成物として、青〜青紫色が観察される。
【0014】
他の実施形態によれば、表Iに示すキシレノールオレンジが本発明の組成物に使用される。キシレノールオレンジが金属イオンインジケータの性質を有しており、金属イオンを含む耐食性組成物中に混合すると錯体を形成し、キレート試薬として有用になることが見出された。キシレノールオレンジを含む組成物は金属イオンとキレートを形成するので、キシレノールオレンジの溶液は一般には赤色から青色に変化する。
【0015】
共役化合物は、組成物中に0.01g/1000g溶液〜3g/1000g溶液、例えば、0.05g/1000g溶液〜0.3g/1000g溶液等の量で存在することができる。
【0016】
本発明の幾つかの実施形態においては、本組成物を使用すると、共役化合物が特定の外部刺激に応答して色が変化する場合、基材が本組成物によって処理されたことが分かる目印の役割を果たすことができるという点で有利である。例えば、基材中に存在する金属イオンに接触すると色が変化するインジケータを含む組成物は、その基材中の金属イオンと錯体を形成することによって色が変化するであろう。それにより、基材が組成物と接触したことを使用者が視認できるようになる。基材上にアルカリ性層または酸層を堆積させておき、アルカリ性または酸性のpHに曝すと色が変化する本発明の組成物をこの基材に接触させることにより、同様の利点を得ることができる。
【0017】
さらに、本発明による特定の共役化合物を使用することにより、続いて適用される塗膜層に対する基材の接着力を改善することができる。これは、共役化合物がヒドロキシル官能性を有する場合に特に当てはまる。したがって、幾つかの実施形態においては、本組成物は、本発明に従い処理された基材上に、プライマー層を必要とすることなく、続いて施される塗膜層を堆積させることができる。このような塗膜層としては、ウレタン塗膜およびエポキシ塗膜を挙げることができる。
【0018】
幾つかの実施形態においては、米国特許出願第13/235,317号明細書に記載されており、カリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーション(PRC−DeSoto International,Inc.)より入手可能なアルカリ性脱酸素剤等のアルカリ性脱酸素剤で基材を処理することができる。処理された基材(アルミニウムを用いることができる)のpHは、残留物に由来するアルカリ性となるであろう。次いで、インジケータ化合物および腐食抑制金属イオンを含む本発明による組成物が脱酸素された金属表面に接触するように配置されると、金属表面の色は濃紫/青色へと変化するであろう。この耐食性組成物自体は、金属表面と接触すると、金属部分の流出等により紫色に変化するであろう。この反応が「完了」したら、溶離剤である組成物は赤色に戻り、上記部分は紫/青色を維持する。さらに、特定の実施形態においては、堆積した抑制剤化合物は堆積後も基材表面上で活性を維持している。腐食性環境に曝された場合、腐食抑制剤は金属間のカソード域に移行することによって耐食を助けることができる。これは、基材表面を基材が腐食性環境に曝されたか否かを確認するための検査を行う場合にさらなる利点となる。特定の実施形態においては、腐食部位がより明るい赤色になる一方で、保護された範囲は赤色が薄くなるであろうインジケータを使用することができる。その結果として、全体として見ると、腐食部位をインジケータの赤色によって容易に視認することができる。したがって、腐食部位を容易に観察することができるので、表面を腐食しにくい状態に維持するようにその部分の使用寿命を延長するべくさらなる処理が施される。
【0019】
腐食抑制金属陽イオンおよび共役化合物に加えて、本組成物は、異なる陰イオンおよび/または陽イオンを有する2種以上の金属塩の組合せを含むことができる。この組成物は、様々な金属のハロゲン化物、炭酸塩、水酸化物およびリン酸塩等の他の塩をさらに含むことができる。他の実施形態は、場合により、H
2O
2等の酸化剤を含むことができる。さらに、この組成物は、金属基材の耐食性または金属基材に対する接着性または続いて施される塗膜の接着性を高める1種以上のさらなる添加剤をさらに含むことができ、さらに、所望の美的効果または機能的効果を付与する添加剤をさらに含むことができる。添加剤(使用される場合)は、塗料組成物の総重量の約0.01重量パーセントから約80重量パーセントまでを構成することができる。好適な添加剤としては、組成物の1つ以上の特性に影響を与える目的で本組成物と混合される固体または液体成分を挙げることができる。添加剤の例としては、金属基材の濡れを促すことができる界面活性剤および粗面や平滑面等の特定の表面性の発達を促すことができる他の添加剤が挙げられる。好適な添加剤の他の例として、流動性調整剤、チキソトロピー剤(ベントナイトクレー、ゼラチン、セルロース等)、脱ガス剤、脱脂剤、消泡剤、湿潤剤、有機共溶媒、触媒、染料、アミノ酸、
尿素系化合物、錯形成剤、原子価安定剤(valence stabilizer)、米国特許出願公開第2013/0034742号明細書の第[0035]段落および第[0036]段落に記載されているものなどの反応促進剤およびフィラー(これらの段落を本明細書の一部を構成するものとしてここに援用する)に加えて、他の慣用の助剤が挙げられる。他の任意的な成分としては、アラントイン、ポリビニルピロリドン、キレート剤(EDTA、TEA、クエン酸、ヘキサメチレンテトラミン、チオ尿素等)および/またはアルコール類(エタノールおよび/またはイソプロパノール等)またはアゾール類(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、1H−ベンゾトリアゾール、1H−1,2,3−トリアゾール、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾールおよび2−アミノ−1,3,4−チアジアゾール等)が挙げられる。本開示を参照することにより当業者に理解されるように、表面塗料処方の技術分野において知られている他の好適な添加剤も本発明による組成物にさらに使用することができる。
【0020】
上述したように、本組成物は水性塗料組成物とすることができる。一実施形態においては、本組成物は、場合により1種以上の有機溶媒を含む水性担体を含む。好適な溶媒としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、低分子量アルコール等が挙げられる。
【0021】
一実施形態においては、本組成物は、組成物中に約0.02重量パーセントの量で存在する界面活性剤、界面活性剤の混合物または洗浄性を有する水溶液である媒体をさらに含む。
【0022】
一実施形態においては、本組成物は、界面活性剤、界面活性剤の混合物または洗浄性を有する水溶液を含み、この組成物は、金属基材洗浄ステップおよび化成皮膜処理ステップを1回の工程で行うために使用するのに適している。他の実施形態においては、界面活性剤、界面活性剤の混合物または洗浄性を有する水溶液を含む化成皮膜処理用組成物は、本明細書において上述した酸化剤をさらに含む。
【0023】
特定の実施形態においては、本組成物は、クロム酸塩および/または重金属リン酸塩を実質的に含まないかまたは場合によっては全く含まない。本明細書において用いられる「実質的に含まない」という語は、前処理組成物中にクロム酸塩および/または重金属リン酸塩(リン酸亜鉛等)が存在しないことに関連して用いられる場合は、これらの物質が、当該組成物中に、環境に負荷を与える程度には存在しないことを意味する。すなわち、これらは実質的に機能を果たさず、リン酸亜鉛をベースとする処理剤を用いる場合に生成するリン酸亜鉛等のスラッジは生成しない。本発明において、1重量パーセント未満のクロム酸塩および/または重金属リン酸塩を含む前処理組成物(重量パーセントは前処理組成物の総重量を基準とする)は、クロム酸塩および/または重金属リン酸塩を「実質的に含まない」ものと見なされる。クロム酸塩および/または重金属リン酸塩を含まない組成物は、この種の化合物を「全く含まない」。
【0024】
さらに本発明は、基材を処理するための方法を対象とする。この方法は、一般に、基材の少なくとも一部に上述した組成物のいずれかを適用することを含む。本発明に従い任意の基材を処理することができる。基材は、外観および/または色彩に何らかの効果を付与することなどを目的として、何らかの方法で既に処理されたものであってもよい。
【0025】
特に好適な基材は非金属および/または金属基材である。好適な非金属基材としては、高分子、プラスチック、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、セルロース誘導体、ポリスチレン、ポリアクリル系樹脂、ポリ(エチレンナフタレート)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、EVOH、ポリ乳酸、他の「グリーンケミストリー由来の(green)」高分子基材、ポリ(エチレンテレフタレート)(「PET」)、ポリカー
ボネート、ポリカーボネートアクリロブタジエンスチレン(「PC/ABS」)、ポリアミド、木材、単板、複合木材、パーティクルボード、中密度ファイバーボード、セメント、石材、ガラス、紙、厚紙、繊維製品、皮革(天然および合成)および他の非金属基材が挙げられる。本発明に使用するのに好適な金属基材としては、自動車車体の組立て、自動車部品、航空宇宙用部品および他の物品(締結具、すなわち、ナット、ボルト、ネジ、ピン、釘、クリップ、ボタン等の小型の金属部品等)によく使用されているものが挙げられる。好適な金属および合金基材の具体例としては、これらに限定されるものではないが、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼、金属亜鉛、亜鉛化合物または亜鉛合金で被覆した鋼(電気亜鉛メッキ鋼、溶融亜鉛メッキ鋼、合金化溶融亜鉛メッキ鋼および亜鉛合金メッキ鋼等)も挙げられる。同様に、アルミニウム合金、アルミニウムメッキ鋼およびアルミニウム合金メッキ鋼も基材として使用することができる。他の好適な非鉄金属として、銅およびマグネシウム等に加えてこれらの金属の合金が挙げられる。さらに、特定の実施形態においては、基材は、地金基材(通常であれば残りの面が処理および/または被覆されている、基材の切り口等)であってもよい。本発明の方法に従い処理される金属基材は、例えば、金属のシートまたは加工部品の形態であってもよい。
【0026】
本発明の方法に従い処理される基材は、油脂、汚れまたは他の外来物質を除去するために最初に清浄化することができる。これは多くの場合、金属の前処理プロセスに従来使用されている市販の洗浄剤等の穏和または強力なアルカリ性洗浄剤を用いて行われる。本発明に使用するのに好適なアルカリ性洗浄剤の例として、ケムクリーン(CHEMKLEEN)163、ケムクリーン(CHEMKLEEN)177、ケムクリーン(CHEMKLEEN)2010LPおよびケムクリーン(CHEMKLEEN)490MX(それぞれピー・ピー・ジー・インダストリーズ・インコーポレーテッド(PPG Industries,Inc.)より市販)が挙げられる。この種の洗浄剤は、多くの場合、使用後および/または使用前に水による濯ぎが行われる。
【0027】
特定の具体的な実施形態においては、本方法は、アルカリ脱脂ステップを行った後に、任意選択的な濯ぎステップを行うことを含み、その後に本発明の組成物が適用される。このような実施形態においては、インジケータ化合物である共役化合物、特に、酸性/中性のpHからアルカリ性のpHに移行すると色が変化する共役化合物を使用することができる。この方式においては、基材上にアルカリ性脱脂組成物が存在する部分は本塗料組成物を適用すると色が変化することになる。これにより、使用者は、基材のどの部分がアルカリ性脱脂剤および本組成物の両方で被覆されており、どの部分が被覆されていないかを見分けることが可能になる。
【0028】
アルカリ性脱脂剤が使用される特定の一実施形態について上述したが、本発明の範囲内で他の多くのステップを用いることができる。例えば、アルカリ脱脂の後に任意選択的な濯ぎステップを行うことができ、次いでアルカリエッチングステップ、任意選択的な濯ぎステップおよび化成皮膜処理を適用することができる。アルカリエッチングステップは当業者に知られている任意の方法で行うことができ、例えば、濯ぎを行わない7〜10分間の滞留時間を経た後、任意選択的な濯ぎステップを行うことを含むことができる。化成皮膜処理は、当該技術分野において知られている、陽極酸化処理、希土類金属化成皮膜処理、過マンガン酸塩化成皮膜処理、ジルコン酸塩、チタン酸塩、または3価クロムをベースとする化成皮膜処理等の任意の化成皮膜処理とすることができる。別法として、アルカリエッチングステップの替わりに酸による脱酸素(acidic deoxidation)を行うことができる。化成皮膜処理ステップの後に任意選択的な濯ぎステップおよび封孔(シーリング)ステップを行うことができる。封孔ステップは、本発明のいずれかの組成物(例示的な処方を下の表IIに示す)を適用することを含むことができる。表IIに示す処方は例示のみを目的とするものであって、本開示を参照することにより当業者らに理解されるように、他の金属イオンを本発明による組成物に使用することができる。
【0030】
上に示した処理ステップの任意の1つ以上を、当該技術分野において知られているように、浸し塗り、吹き付け、刷毛塗り、ペン塗り(pen)等で実施することができる。本組成物を適用した後の残留物の膜の塗布量は、一般に、1〜1000ミリグラム毎平方メートル(10〜400ミリグラム毎平方メートル等)である。組成物の厚みは変化させることができるが、一般には薄付きとし、多くの場合、厚みは1マイクロメートル未満、場合によっては1〜500ナノメートルであり、さらに他の場合においては10〜300ナノメートルである。
【0031】
本発明の組成物と接触させた後、基材は、所望により、水で濯いで乾燥させることができる。
本発明の特定の実施形態においては、本組成物を基材と接触させた後に、皮膜形成樹脂を含む塗料組成物と接触させる。基材にこの種の塗料組成物を接触させるために、例えば、刷毛塗り、浸し塗り、流し塗り、吹き付け等の任意の好適な技法を用いることができる。特定の実施形態においては、この種の接触は、電着可能な組成物を電着により金属基材上に堆積させる電気塗装ステップを含む。電着の過程においては、電極の役割を果たす被処理金属基材と導電性を有する対電極とが、イオン性を有する電着可能な組成物と接触す
るように配置される。電着可能な組成物と接触させたまま電極と対電極との間に電流を流すと、金属基材上に電着可能な組成物の接着性を有する膜が実質的に連続な形で堆積するであろう。電着塗装の方法も当該技術分野においてよく知られている。
【0032】
本明細書において用いられる「皮膜形成樹脂」という語は、組成物中に存在する任意の希釈剤もしくは担体を除去するかまたは室温もしくは高温で硬化させることにより基材の少なくとも水平な面に自己支持型の連続した膜を形成することができる樹脂を指す。使用可能な従来の皮膜形成樹脂は、これらに限定されるものではないが、通常、自動車OEM塗料組成物、自動車補修用塗料組成物、工業用塗料組成物、建築用塗料組成物、コイルコーティング用組成物および宇宙空間材料用塗料組成物等に使用されるものを挙げることができる。
【0033】
特定の実施形態においては、塗料組成物は、熱硬化性皮膜形成樹脂を含む。本明細書において用いられる「熱硬化性」という語は、硬化または架橋により高分子成分の高分子鎖が共有結合により結合して不可逆的に「固まる」樹脂を指す。この性質は、通常、組成物の構成要素の架橋反応が関与しており、多くの場合は、例えば熱または放射線によって誘導される。硬化または架橋反応は周囲条件で実施することもできる。熱硬化性樹脂は、一旦硬化または架橋すると熱を印加しても溶融することはなく、溶剤にも溶解しない。他の実施形態においては、塗料組成物は、熱可塑性皮膜形成樹脂を含む。本明細書において用いられる「熱可塑性」という語は、共有結合によって結合しておらず、したがって、加熱すると液体が流動し、溶剤に溶解することができる高分子成分を含む樹脂を指す。
【0034】
したがって、さらに本発明は、その上に多層塗膜系が堆積している基材を対象とする。このような多層系においては、堆積している層のうちの少なくとも1層は本発明の組成物に由来するものになる。本組成物由来の層を堆積させる前に任意の回数の処理、濯ぎおよび/または層の堆積を行うことができる。同様に、本組成物由来の層を堆積させた後に任意の数の層を堆積させることができる。例えば、本発明は、本発明の組成物のいずれかに由来する堆積層に続いて、その少なくとも一部の上に堆積した1つ以上のさらなる塗膜層を含む基材をさらに対象とする。上述したように、これらの塗膜層は、例えば航空宇宙産業を含む様々な産業分野において標準的に知られている任意の塗膜層とすることができる。これらの材料は、通常、エチレン性不飽和モノマー(ヒドロキシル基等の活性水素基を含むエチレン性不飽和モノマー等)を重合させることにより調製されるものなどの高分子ポリオールである。これらのポリマーは、従来、ヒドロキシル含有アクリル系ポリマーとして知られている。他の好適な高分子ポリオールの例は、ポリエステルポリオールおよびポリエーテルポリオールである。高分子ポリオールはポリイソシアネート硬化剤と一緒に使用することができる。高分子ポリオールおよびポリイソシアネートはいずれも(環状)脂肪族材料から調製することができる。他の塗料組成物は、ポリエポキシドをベースとし、ポリアミン硬化剤と併用されるものである。航空宇宙産業用に使用するのに特に好適な塗料の例としては、これらに限定されるものではないが、エポキシ塗料およびウレタン塗料が挙げられる。幾つかの実施形態においては、この種の塗料はトップコートを形成する。「トップコート」という語は、単層または多層塗膜系において外面が大気または環境に露出しており、内面が他の塗膜層または基材と接触している塗膜層を指す。好適なトップコートの例としては、MIL−PRF−85285Dに適合する、カリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より入手可能な品番デフト(Deft)03W127Aおよびデフト(Deft)03GY292等が挙げられる。トップコートは、例えば、カリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より入手可能な品番デフタン(Defthane)(登録商標)ELT(商標)99GY001および
99W009等の高機能トップコート(advanced performance topcoat)である。他の好適なトップコートの例は、ピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)よりデソタン(DESOTHANE)の商品名で市販されているものであり、これらに限定されるものではないが、ピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より市販されているデソタン(DESOTHANE)HS CA 8000ポリウレタントップコートのいずれかのポリウレタントップコートが挙げられる。他のトップコートおよび高性能トップコートも、本開示を参照することにより当業者に理解されるように、本発明による塗膜系に使用することができる。
【0035】
他の実施形態によれば、多層塗膜系は、プライマー塗膜を含む。本発明による組成物は、カリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より入手可能な品番44GN072等の従来のクロム酸塩をベースとするプライマー塗膜と適合性がよい。別法として、プライマー塗膜にはクロメートフリーのプライマー塗膜を用いることができる。米国特許第7,601,425号明細書および米国特許第7,759,419号明細書に記載されている塗料組成物ならびに当該技術分野において知られている、軍事要件であるMIL−PRF−85582 Class
NまたはMIL−PRF−23377 Class Nに適合する他のクロメートフリーのプライマー等も本発明と一緒に用いることができる。プライマー塗膜はカリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より、品番デフト(Deft)02GN083またはデフト(Deft)02GN084として入手可能である。プライマー塗膜は、本発明により形成した層の上に、処理および/または塗膜を介在させるかまたは介在させずに堆積させることができ、このプライマーの上にトップコートまたは他の1または複数の塗膜層を堆積させることができる。
【0036】
さらなる他の実施形態においては、多層塗膜系は、プライマー不要(self−priming)トップコートまたは強化型(enhanced)プライマー不要トップコートを含む。「プライマー不要トップコート」という語は、「基材直塗り」塗料または「金属直塗り」塗料とも称され、その名が示すように、本発明の組成物で処理された基材等の基材上に、プライマーを必要とせずに堆積させることができるものである。「強化型プライマー不要トップコート」という語は、「高機能基材直塗り塗料」とも称され、全部が官能化されたフッ素系バインダー(フルオロエチレン−アルキルビニルエーテル等)の混合物であるかまたは一部が他のバインダーとの混合物であるバインダーを含む塗料を指す。プライマー不要トップコートとしては、TT−P−2756Aに適合するものが挙げられる。プライマー不要トップコートの例は、カリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より入手可能な品番03W169および03GY369である。強化型プライマー不要トップコートの例としては、カリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より入手可能なデフタン(DEFTHANE)ELT/ESPTが挙げられる。プライマー不要トップコートの例は、カリフォルニア州アーバイン(Irvine,CA)のピー・アール・シー・デソト・インターナショナル・インコーポレーテッド(PRC−DeSoto International,Inc.)より入手可能な品番97GY121である。他のプライマー不要トップコートおよび強化型プライマー不要トップコートも、本開示を参照することにより当業者によって理解されるように、本発
明による塗膜系と一緒に使用することができる。
【0037】
本発明の組成物由来の堆積層に続いて適用される、プライマー、トップコート、プライマー不要トップコートおよび強化型プライマー不要トップコート等の塗膜層を、処理された基材に、湿潤状態または「完全に硬化していない」状態のいずれか(経時的に乾燥または硬化する、すなわち溶媒が蒸発および/または化学反応する)で適用することができる。塗膜を自然にまたは加速手段(例えば、紫外光硬化系)を用いて乾燥または硬化させることにより「硬化した」塗膜を生成することができる。塗料は、半硬化または完全硬化した状態でも適用することができる。
【0038】
「化成皮膜処理」という語は、「化成処理」または「前処理」とも称されるが、金属面に塗料を適用(吹き付け、浸し塗り、ロール塗り等を介して)することを含み、それによって、溶液中の金属および金属基材の金属の両方が混ざった塗膜が得られる、金属仕上げ工程を意味する。これらの語は、金属基材の少なくとも一部を溶液(基材中に含まれる金属とは元素が異なる金属を含む水溶液であってもよい)と接触させる金属表面処理を包含する。金属元素(金属基材とは元素が異なる)を含む水溶液を金属基材と接触させることにより、基材が溶解し、その結果として塗膜が析出(場合により、金属基材上に塗膜を堆積させるために外的な推進力を用いる)することも、「化成皮膜処理」、「化成処理」および「前処理」の語の意味に包含される。
【0039】
ここに開示したすべての量は、特に明記しない限りは、25℃および1気圧における組成物の総重量の重量パーセントで与える。
本明細書において用いられる、数値、範囲、量または百分率を表すものなどのあらゆる数字は、特に明記しない限り、例えその語が明確に記載されていなくても「約」という単語で修飾されているものと解釈することができる。本明細書において引用されるあらゆる数値範囲は、その中に組み込まれているあらゆる下位範囲を包含することを意図している。複数形は単数形を包含し、その逆も同様である。例えば、本発明について「1種の」腐食抑制金属陽イオン、「1種の」共役化合物、「1種の」インジケータ化合物等に関し説明してきたが、これらと他の成分との混合物を使用することもできる。また、本明細書において用いられる「ポリマー」という語は、プレポリマー、オリゴマーならびにホモポリマーおよびコポリマーの両方を意味する。「ポリ」という接頭辞は2以上を指す。範囲を示した場合、これらの範囲の任意の端点および/またはこれらの範囲に含まれる任意の数を本発明の範囲内で組み合わせることができる。「含む」、「等」、「例えば」等の語は、「これらに限定されるものではないが、含む/等/例えば」を意味する。
【0040】
(実施例)
本発明の範囲に包含される製造可能な組成物の例を以下に開示する。これらの例が包括的なものではなく、他の組成物も本発明の範囲内に包含されることが理解されるであろう。
【0041】
実施例1
本組成物の特定の実施形態は、インジケータ化合物および1種以上の希土類元素イオンを含むことができる。この実施形態によれば、本組成物は、水性担体、インジケータ化合物ならびに第1および第2希土類元素の塩を含むことができ、塩はそれぞれ陰イオンおよび陽イオンを含み、第1塩および第2塩の陰イオンは異なっており、第1塩および第2塩の陽イオンは同一であるかまたは異なっており、各陽イオンは、個々に、希土類元素である。プラセオジム、セリウム、ネオジム、サマリウムおよびテルビウムの塩等の希土類元素の塩が化成皮膜処理組成物中に混合された場合(この塩は、ハロゲン化物イオンや硝酸イオン等の複数種の陰イオンの混合物である)、これらは結果として得られる希土類元素塗膜の堆積パラメータ(結果として得られる塗膜の形態および性能を含む)に大きく影響
することが見出されたが、本発明者はこのことに束縛されるつもりはない。この実施形態による組成物は、インジケータ化合物、少なくとも1種の希土類元素(セリウムまたはセリウムおよびイットリウムの両方)の塩ならびに硝酸イオンおよびハロゲン化物イオンの組合せならびに場合によりH
2O
2等の酸化剤を含む。この組成物のpHは中性になるであろう。
【0043】
実施例2
本発明の他の実施形態によれば、本組成物は、水性担体、インジケータ化合物およびジルコニウムイオンを含む金属イオン(硝酸ジルコニルおよびヘキサフルオロジルコン酸塩またはこれらの組合せ等)を含むことができる。他の塩、特に硝酸金属(イットリウム等)塩を本実施形態に従い組成物に加えることができる。この組成物用の添加剤としては、ハロゲン化物供給源、界面活性剤およびポリビニルピロリドンが挙げられる。本実施形態に従う組成物を下の表に示す。
【0045】
実施例3
本発明の他の実施形態によれば、本組成物は、水性担体、インジケータ化合物および第IA族金属イオン(リチウム、ナトリウムおよびカリウムまたはこれらの組合せ等)を含む金属イオンを含む。第IA族金属をベースとする塗料組成物は、水酸化物イオン、ハロゲン化物イオン、リン酸イオンおよび炭酸イオンまたはこれらの組合せ等の対イオンをさらに含むことができる。一実施形態においては、本組成物は、水性担体、インジケータ化合物およびリチウムイオン(炭酸リチウム等)を含むことができる。本実施形態による組成物は、さらにハロゲン化物供給源(フッ化物供給源、例えば、フッ化亜鉛)を含むことができる。例示的な組成物を下の表に示す。
【0047】
例示を目的として本発明の特定の実施形態について説明してきたが、添付の特許請求の範囲に定めた本発明から逸脱することなく本発明の詳細の様々な変形形態が可能であることは当業者には明白であろう。