【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において%は特に断らない限り質量%を示す。
【0033】
キシラン含有物の製造
[実施例1]
<ソーダ蒸解>
2.4L容の回転型オートクレーブに絶乾重量300gのユーカリのチップを入れ、水酸化ナトリウム23%(対チップ重量)、液比3L/kgとなるように水酸化ナトリウムを水に混合した蒸解薬液を添加して、160℃、Hファクター=800でソーダ蒸解を行い、パルプと黒液を得た。
【0034】
<リグニンの粗精製>
・二酸化炭素処理:黒液(固形分22%)をビーカーに入れ、80℃に予熱した後、二酸化炭素0.3MPaで加圧した耐圧容器内で撹拌しながら、30分処理し、pH7.5に調整した。ガラスフィルター(GS−25、ADVANTEC社製)を用いて吸引脱水し、固液分離した後、ガラスフィルター上に残った固形分に黒液の半量の水を加えて、再度スラリー化した。
・酸処理:スラリーに硫酸を加えpHを2に調整した。スラリー(固形分濃度:約10%)を80℃に予熱した後、ガラスフィルター(GS−25、ADVANTEC社製)を用いて吸引脱水し、固液分離した後、ガラスフィルター上に残った固形分を黒液の半量の熱水(80℃)で洗浄し、さらに吸引脱水した。ガラスフィルター上に残った固形分を風乾し、粗精製リグニンを得た。
【0035】
<有機溶媒を用いた固液分離(アセトン抽出)>
得られた粗精製リグニンに10倍量(mL/g)のアセトンを加えよく撹拌した後、一晩室温で静置した。ろ紙(No.2、ADVANTEC社製)を用いて固液分離し、50倍量(mL/g)のアセトンで洗浄した後、得られた固形分を風乾してアセトン抽出残渣(キシラン含有物)を得た。
【0036】
[実施例2]
蒸解において、蒸解薬液に、テトラヒドロアントラキノン(1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンジナトリウム、川崎化成工業株式会社製、商品名:SAQ)を0.1%(対チップ重量)となるように加え、Hファクター=400でソーダ・アントラキノン蒸解を行った点を除いて、実施例1と同様にしてアセトン抽出残渣(キシラン含有物)を得た。
【0037】
[実施例3]
二酸化炭素処理を行わない点を除いて、実施例2と同様にしてアセトン抽出残渣(キシラン含有物)を得た。具体的には、ソーダ・アントラキノン蒸解で得られた黒液(固形分濃度:約22%)に対して硫酸を添加してpHを2に調整し、酸処理を行った。
【0038】
[実施例4]
2.4L容の回転型オートクレーブにユーカリのチップ絶乾量200gを入れ、水酸化ナトリウム40%(対チップ重量)、テトラヒドロアントラキノン0.02%(対チップ重量)、液比10L/kgとなるように水酸化ナトリウムとテトラヒドロアントラキノンを水に混合した蒸解薬液を添加して、160℃、Hファクター=800でソーダ・AQ蒸解を行い、パルプと黒液を得た。得られた黒液を90℃で10倍に濃縮した後、実施例1と同様にリグニンの粗精製およびアセトン抽出してアセトン抽出残渣を得た。
【0039】
[実施例5]
チップ絶乾量33gに水酸化ナトリウム120%(対チップ重量)、テトラヒドロアントラキノン0.02%(対チップ重量)、液比30L/kgとなるように蒸解薬液を添加した点を除いて、実施例4と同様にソーダ・AQ蒸解し、得られた黒液を90℃で30倍に濃縮した後、実施例1と同様にアセトン抽出残渣を得た。
【0040】
[実施例6]
温度170℃でソーダ・AQ蒸解を行った点を除いて、実施例4と同様にしてパルプと黒液を得た。得られた黒液を90℃で10倍に濃縮した後、実施例1と同様にしてアセトン抽出残渣を得た。
【0041】
[実施例7]
蒸解において、水酸化ナトリウム40%(対チップ重量)、テトラヒドロアントラキノン0.02%(対チップ重量)を添加し、Hファクター=800とした点を除いて、実施例2と同様にしてパルプと黒液を得た。得られた黒液から実施例1と同様にしてアセトン抽出残渣を得た。
【0042】
[比較例1(針葉樹)]
蒸解において、2.4L容の回転型オートクレーブに絶乾重量300gのスギのチップを入れ、水酸化ナトリウム23%(対チップ重量)、テトラヒドロアントラキノン(1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンジナトリウム、川崎化成工業株式会社製、商品名:SAQ)0.1%(対チップ重量)、液比3L/kgとなるように水酸化ナトリウムとSAQを水に混合した蒸解薬液を添加して、170℃、Hファクター=1500でソーダ・アントラキノン蒸解を行った。蒸解で得られた黒液を実施例1と同様に処理し、アセトン抽出残渣(キシラン含有物)を得た。
【0043】
[比較例2(針葉樹/クラフト蒸解)]
蒸解において、2.4L容の回転型オートクレーブに絶乾重量300gのスギのチップを入れ、蒸解薬液として水酸化ナトリウム18%(対チップ重量)、硫化ナトリウム4.5%(対チップ重量)、テトラヒドロアントラキノン(1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンジナトリウム、川崎化成工業株式会社製、商品名:SAQ)0.1%(対チップ重量)0.1%(対チップ重量)、液比3L/kgとなるように水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、SAQを水に混合した蒸解薬液を用いて、Hファクター=800でクラフト蒸解した点を除き、実施例1と同様に処理し、アセトン抽出残渣(キシラン含有物)を得た。
【0044】
[比較例3(クラフト蒸解)]
蒸解において、2.4L容の回転型オートクレーブに絶乾重量300gのユーカリのチップを入れ、蒸解薬液として水酸化ナトリウム12%(対チップ重量)、硫化ナトリウム4%(対チップ重量)、テトラヒドロアントラキノン(1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンジナトリウム、川崎化成工業株式会社製、商品名:SAQ)0.1%(対チップ重量)、液比3L/kgとなるように水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、SAQを水に混合した蒸解薬液を用いて、Hファクター=800でクラフト蒸解した点を除いて、実施例1と同様に処理し、アセトン抽出残渣(キシラン含有物)を得た。
【0045】
[参考例]
2.4L容の回転型オートクレーブに絶乾重量300gのユーカリのチップを入れ、水を加えて液比を3L/kgとした。170℃で30分間保持して前加水分解処理した後、固液分離し、前加水分解チップと前加水分解液を得た。前加水分解チップに蒸解液(水酸化ナトリウム23%(対未処理チップ重量、液比3L/kgとなるように水酸化ナトリウムとSAQ(川崎化成工業製)を混合して調製した)を添加して、160℃、Hファクター=800でソーダ蒸解を行って、パルプと黒液を得た。
【0046】
生成物の分析
上記の実験で得られた粗精製リグニン、アセトン抽出残渣、パルプについて、下記の項目を測定した
【0047】
<キシラン純度(%)>
300mgの乾燥した試料(粗精製リグニン、アセトン抽出残渣、パルプ)を72%硫酸3mL中で30℃1時間反応した後、硫酸濃度が4%になるよう希釈し、さらに121℃で1時間加熱し、加水分解反応によって単糖溶液を得た。得られた溶液を適宜希釈し、イオンクロマトグラフィー(Dionex社製DX-500、カラム:AS-7、溶離液:水、流速1.1mL/min)にて単糖を定量した。酸加水分解溶液に含まれるキシロース量から、下式によってキシラン純度をもとめた。
・キシラン純度(%)=[キシロース量(mg)×0.88/サンプル重量(mg)]×100
【0048】
なお、参考例の前加水分解処理で得られた前加水分解液についても、キシラン純度を測定した。前加水分解液1mLを4%硫酸20mLに加え、121℃で1時間加熱し、加水分解反応によって単糖溶液を調製した。得られた単糖溶液について、上記のようにイオンクロマトグラフィーにて単糖を定量し、比較例4の前加水分解液のキシラン純度を算出した。
【0049】
<リグニン純度(%)>
粗精製リグニンに関しては、リグニン純度(リグニンの重量割合)も測定した。キシラン純度の測定の際に、加水分解反応液をろ別して得られた残渣を乾燥し、重量を測定してクラーソンリグニン重量(mg)をもとめた。また、ろ液については、ろ液を適宜4%硫酸で希釈して205nmの吸光度(A
205)を測定し、下式によって酸可溶リグニン重量を求めた。
・酸可溶リグニン重量(mg)=A
205×希釈倍率×溶液量(mL)/110
リグニン純度は、クラーソンリグニン重量(mg、残渣)と酸可溶性リグニン重量(mg、ろ液)から下式によって求めることができる。
・リグニン純度=(クラーソンリグニン重量+酸可溶性リグニン重量)/アセトン抽出残渣×100(%)
【0050】
<その他の成分(%)>
粗精製リグニンに含まれるその他の成分の重量割合(%)は、下式によって計算した。
・その他の成分(%)=100−(リグニン純度(%)+キシラン純度(%))
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示されるように、実施例1〜7の方法にて得られたアセトン抽出残渣はキシラン純度が高いキシラン含有物であり、木材より高純度のキシランを得られることが確認された。
【0053】
なお、木材チップを前加水分解した参考例では、前加水分解液からも高純度のキシラン含有物が得られた(前加水分解液のキシラン純度:約47%、パルプのキシラン純度:約4%、黒液のキシラン純度:約1%)。しかしながら、前加水分解液は、低濃度の液体であり(固形分:約5%)、実用上はさらに濃縮する工程が必要となるため、本発明の方が有利である。