(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記環状ロープが、トップロープとアンダーロープとによって構成され、前記トップロープとアンダーロープとが、掛けつなぎによって締結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両固縛システム。
前記サイドロープが、前記トップロープと前記アンダーロープとの掛けつなぎ箇所において、前記環状ロープと前記固定材との間を締結していることを特徴とする請求項3又は4に記載の車両固縛システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば特定の施設内において使用される車両について、防災の観点からこれを固定しておきたいという要請がある。地球温暖化の影響もあるとされる台風や竜巻等の規模や強さの強大化に伴い、車両が飛ばされるという事態も想定しておく必要があるからである。特に重要インフラにおいては、車両が飛ばされることによってインフラが破壊される事態も考えられ、これを抑止するための方策が求められている。
しかしながら、これまでは上記特許文献1で例示されるような車両運搬のための固定をする方策はあったが、防災の観点に基づいた車両の固定方法はあまり見受けられないものであった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、防災の観点、特に風によって車両が飛んでしまうことを防止するために、車両を繋ぎ止めるための車両固縛システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
少なくとも1箇所で掛けつなぎされ、車両の周囲を1周する環状ロープと、前記環状ロープを固定材に締結するサイドロープと、を備えることを特徴とする車両固縛システム。
【0007】
(構成2)
前記サイドロープが、前記環状ロープと前記固定材の間を、余長を持って締結していることを特徴とする構成1に記載の車両固縛システム。
【0008】
(構成3)
前記環状ロープが、トップロープとアンダーロープとによって構成され、前記トップロープとアンダーロープとが、掛けつなぎによって締結されていることを特徴とする構成1又は2に記載の車両固縛システム。
【0009】
(構成4)
前記トップロープが、分割された複数本のロープが掛けつなぎによって締結されることによって構成されていることを特徴とする構成3に記載の車両固縛システム。
【0010】
(構成5)
前記サイドロープが、前記トップロープと前記アンダーロープとの掛けつなぎ箇所において、前記環状ロープと前記固定材との間を締結していることを特徴とする構成3又は4に記載の車両固縛システム。
【0011】
(構成6)
前記サイドロープと前記固定材が、掛けつなぎによって締結されていることを特徴とする構成1から構成5の何れかに記載の車両固縛システム。
【0012】
(構成7)
前記掛けつなぎをするロープが、スーパー繊維によって形成されたロープであることを特徴とする構成1から構成6の何れかに記載の車両固縛システム。
【0013】
(構成8)
車両の角部と前記環状ロープとの間にエッジ保護材が備えられることを特徴とする構成1から構成7の何れかに記載の車両固縛システム。
【0014】
(構成9)
前記エッジ保護材が、スーパー繊維によって形成された織物が複数枚重なったものであることを特徴とする構成8に記載の車両固縛システム。
【0015】
(構成10)
前記エッジ保護材が、前記複数枚重なった織物が湾曲した状態で、樹脂で相互に接着されたものであることを特徴とする構成9に記載の車両固縛システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両固縛システムによれば、車両の周囲を1周する環状ロープを備え、当該環状ロープがサイドロープによって固定材に締結される。従って、環状ロープによって車両がしっかりホールドされ、風によって車両が飛んでしまうことが効果的に抑止される。
また、環状ロープは少なくとも1箇所で掛けつなぎされているため、当該掛けつなぎを解くことにより、容易に固縛を解くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施態様について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施態様は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0019】
図1は、本発明に係る実施形態の車両固縛システムの使用状態を示す図であり、
図1(a):使用状態を示す全体斜視図、
図1(b):構成を説明するための概略図である。
本実施形態の車両固縛システム1は、車両Vを固定材であるアンカーAに繋ぎ止めるものであり、防災の観点、特に風によって車両が飛んでしまうことを防止するために車両Vを固縛するものである。
車両固縛システム1は、少なくとも1箇所で掛けつなぎされ、車両Vの周囲を1周する環状ロープ11と、環状ロープ11をアンカーに締結するサイドロープ12と、を備える。また、環状ロープ11と車両Vの角部との間にエッジ保護材14が設けられる。
【0020】
環状ロープ11は、トップロープ111とアンダーロープ112とによって構成され、トップロープ111とアンダーロープ112とが、掛けつなぎ13bによって締結される。
また、トップロープ111は、メイントップロープ1111とつなぎロープ1112によって構成され、メイントップロープ1111とつなぎロープ1112とが、掛けつなぎ13aによって締結される。即ち、トップロープ111は、分割された複数本のロープが掛けつなぎによって締結されることによって構成されている。
【0021】
サイドロープ12は、トップロープ111とアンダーロープ112とを締結する掛けつなぎ13b部分において、環状ロープ11とアンカーAとの間を、余長を持って締結している。また、サイドロープ12とアンカーAは、掛けつなぎ13cによって締結されている。
【0022】
以下、車両固縛システム1を構成する各部材について図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図2(a)は、メイントップロープ1111を示す図であり、
図2(b)は、メイントップロープ1111の長さ調節に関する説明図である。
本実施形態のメイントップロープ1111は、スーパー繊維であるアラミド繊維で形成されたスーパー繊維ロープを、シリコンで被覆することで難燃性、紫外線耐性、柔軟性を持たせたロープ1111aを使用して、両端の端末加工をしたものである。
ロープ1111aの断面の概念図を
図14に示した。ロープ1111aは、内層ロープR1、中層ロープR2及び外層R3の3層構造となっている。内層ロープR1がスーパー繊維であるアラミド繊維で形成された2×8打ちのロープ、中層ロープR2がポリエステル繊維で形成された3×24打ちのロープであり、これにシリコン被覆による外層R3が形成されることにより、ロープ1111aが形成される。
ロープ1111aは、自己消炎性(自己消火性)を有するシリコンを被覆することにより、難燃性を備えるロープとなっている。
なお、内層ロープR1は、その素材として、ナイロン、ポリエチレン、ポリエステル、あるいは、高強力ポリエチレン、ポリエステル、高強力ナイロン、アラミド、超高分子量ポリエチレン、芳香族ポリエステルなどの原糸ないしヤーンを用いることができ、その構造としても三打ち、四打ちなどの撚り構造とするか、あるいは、1×8、2×4、2×6、2×8、2×16打ち構造のように組み構造としてよい。
同様に、中層ロープR2は、その素材として、ナイロン、ポリエチレン、ポリエステル、あるいは、高強力ポリエチレン、ポリエステル、高強力ナイロン、アラミド、超高分子量ポリエチレン、芳香族ポリエステルなどを用いることができ、1×16、1×24、2×16、2×24などのブレード構造として構成できる。
外層の被膜としてはシリコン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、テフロン(登録商標)等の合成樹脂を用いることができ、被覆の厚さは2〜3mmとすることが好ましい。本実施形態では難燃性、耐候性、柔軟性に最も優位性があるシリコン樹脂を選定している。
【0024】
ロープ両端の一端側(
図2中の左側)の端末加工は、ロープ1111aのシリコン被覆を一部除いた上でアイスプライス加工し、シリコン被覆を除いた部分をシリコン製の熱収縮チューブ1111bによって再度被覆した。
他端側(
図2中の右側)の端末加工は、ロープ1111aのシリコン被覆を一部除いた上でズボ差し加工とした。ズボ差し加工は、ストレートタック加工等とも呼ばれ、特開2004−124376において、長さ調節部7として説明されている加工法と同様である。ズボ差し加工により、
図2(b)に示されるように、長さを調節することが可能となる。
環状ロープ11の長さは、対象車両の外周を計測した長さに基づいて算出する。しかし、実際にロープを固縛すると車両の突起物等で長さがバラつくため、長さ調節機能があることが望ましい。また、複数の車両に対応可能とさせる(汎用性を持たせる)ためには、長さ調節機能が必要となる。そこで環状ロープ11の中で、1箇所だけ端末をズボ差し加工することで、全体の固縛ロープの長さを調整することができるようにしている。本実施形態では、メイントップロープ1111に長さ調整機能を持たせているが、環状ロープ11を構成する任意のロープに長さ調整機能を持たせるものであってよい。また、特定の車両を特定の施設で固定するために専用のサイズで車両固縛システム1を構成するような場合等、車両固縛システム1に汎用性があまり必要ない場合には、環状ロープ11を構成するロープにおける長さ調整機能を不要とすることもできる(ズボ差し加工は不要で、全てアイスプライス加工とする)。環状ロープ11は、掛けつなぎ箇所を有しているため、当該掛けつなぎ箇所において、ある程度の長さ調整をすることも可能である。
なお、アイスプライス加工、ズボ差し加工で形成した両端のアイ部には、シンブルSを配している。シンブルSは掛けつなぎの施工性を高め、且つ、ロープの引張強度を保持するためにも有効である。ロープ径に合うシンブルを選定し使用することでロープ端末のアイ(輪)部の形状が保たれ、きれいに掛けつなぎすることが可能となる。シンブルSが無い場合、アイ部の形状を保持することができず、アイ部が先細りとなり、掛けつなぎの施工性が低下する場合がある。また、シンブルSが無いと、D/d(D:ロープを掛けるピンの径、d:ロープ径)の値が低下するため、掛けつなぎされる側のロープ(例えばメイントップロープ1111側)のアイ部で破断してしまう恐れや掛けつなぎロープの強度が低下するおそれがある。従って、掛けつなぎがされる箇所における各ロープ端末には、シンブルSを備えさせることが好ましい。
【0025】
ここで、スーパー繊維とは、厳密な定義がされているものではないが、高強度・高弾性率の性能を有する繊維のことを指し、一般には、強度で約2GPa以上、弾性率で約50GPa以上の繊維が、スーパー繊維と呼ばれる。アラミド繊維、ポリアリレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維(HMPE繊維)、PBO繊維等がある。上記説明したメイントップロープ1111のみでなく、以下で説明するつなぎロープ1112、アンダーロープ112、サイドロープ12、各掛けつなぎに使用するロープについて、スーパー繊維によって形成されたロープを用いることが好ましい。
【0026】
図3は、つなぎロープ1112を示す図である。
本実施形態のつなぎロープ1112は、スーパー繊維であるアラミド繊維で形成されたスーパー繊維ロープをシリコンで被覆することで難燃性、紫外線耐性、柔軟性を持たせたロープを使用して、これをエンドレス(輪)状に加工したものである。
ロープのエンドレス(輪)加工は、ロープのシリコン被覆を一部除いた上で、スプライス加工をしてエンドレス(輪)の形状を作成することにより行った。シリコン被覆を除いた部分をシリコン製の熱収縮チューブ1112bによって再度被覆した。
上記によって形成されたエンドレス(輪)形状のロープに対し、その直径上にシンブルSを2つ配置し、シンブル落下防止用のロープ1112aで締結することで、つなぎロープ1112を構成した。
【0027】
図4は、アンダーロープ112を示す図である。
本実施形態のアンダーロープ112は、スーパー繊維であるアラミド繊維で形成されたスーパー繊維ロープを、シリコンで被覆することで難燃性、紫外線耐性、柔軟性を持たせたロープ112aを使用して、両端の端末加工をしたものである。なお、ロープ112aは、メイントップロープ1111を構成するロープ1111aと同様のものである。
両端の端末加工は、ロープ112aのシリコン被覆を一部除いた上でアイスプライス加工し、シリコン被覆を除いた部分をシリコン製の熱収縮チューブ112bによって再度被覆した。
なお、アイスプライス加工した両端のアイ部には、シンブルSを配している。
【0028】
図5(a)は、サイドロープ12を示す図であり、
図5(b)は、サイドロープ12の取り付けを説明する図である。
本実施形態のサイドロープ12は、スーパー繊維であるアラミド繊維で形成されたスーパー繊維ロープの両端でズボ差し加工し、長さ調節が可能なエンドレス(輪)の形状としたものである。サイドロープ12は、
図1からも理解されるように、車両Vの外周を取り囲む環状ロープ11と、アンカーAの間を締結するものであり、車両Vの高さやアンカーAと車両Vの位置関係によって必要な長さが変化し得るため、長さ調整機能を備えさせたものである。なお、このような汎用性を必要としない場合には、長さ調整機能を不要としてもよい。
エンドレス(輪)の形状であるサイドロープ12の取り付け(環状ロープ11とアンカーAの締結)は、
図5(b)に示されるように、サイドロープ12を折り畳んで2重構造とし、これを、掛けつなぎ13bにおいて複数回巻き付けられることで形成されている輪状部(ポケット)の内部に通し、掛けつなぎ13cを、長さを揃えたサイドロープ12の両端部の輪の中を通すようにしてアンカーAと巻き付けることにより行う。
このように、掛けつなぎ13bにおいてサイドロープ12を取り付けることにより、サイドロープ12が上下にスライドしてしまうことが防止される。即ち、掛けつなぎ13bがサイドロープ12の通り道(ポケット)の役目を有し、これにより、サイドロープ12が上下に移動することが防止される。このポケットがなければサイドロープ12が上下に自由に移動することが可能になってしまい、車両が回転して転倒する恐れがある。掛けつなぎ13bのポケットがあることで、サイドロープ12を通すことができ、ポケット内だけでサイドロープ12が移動するため、車両の転倒を防ぐことができる。
【0029】
図6(a)は、エッジ保護材14を示す斜視図であり、
図6(b)は、エッジ保護材14の使用状態を示す図である。
本実施形態のエッジ保護材14は、スーパー繊維である超高分子量ポリエチレン繊維(HMPE繊維)で織られたシートを複数枚重ね(本実施形態では8重)、所定の曲率で湾曲させてL字状とした状態にてアクリル樹脂で接着したものである(即ち、複数枚重なった織物(スーパー繊維によって形成された織物)が、湾曲した状態で樹脂で相互に接着されたもの)。また、エッジ保護材14は、ロープに留めるためのマジックテープ(登録商標)141が取り付けられ(縫製され)ている。
図7には、エッジ保護材14を所定の曲率で湾曲させてL字状にするためのジグ20を示した。ジグ20は、所定の曲率(本実施形態ではR50mm)で湾曲した上側プレート21と下側プレート22からなる。上側プレート21と下側プレート22の間に、アクリル樹脂に浸けて8重に折り畳んだHMPE繊維の織物を配し、錘Wをのせて硬化されることで、エッジ保護材14が形成される。
車両のエッジ(車両の最も鋭利な箇所)を想定したR3(mm)の角部に上記説明のメイントップロープ1111やアンダーロープ112を引っかけてロープの引っ張り試験を行ったところ、本実施形態のエッジ保護材14無しで引っ張った場合、ロープが168kNで破断したのに対し、エッジ保護材14を設けた場合のロープの破断荷重は405kNであった。即ち、本実施形態のエッジ保護材14を用いることで、環状ロープ11を構成する各ロープの強度を上げるためにロープが太くなることを抑止することができ、取り扱い易い固縛システムとすることができる。
【0030】
図8は、メイントップロープ1111とつなぎロープ1112の間を締結する掛けつなぎ13aを示した図である。
掛けつなぎ13aに使用されるロープRは、スーパー繊維であるポリアリレート繊維で形成されたスーパー繊維ロープを、シリコンで被覆することで難燃性、紫外線耐性、柔軟性を持たせたロープである。シリコン被膜がない場合、冬季等において濡れたロープが凍結し、柔軟性を失ってしまうおそれがある。掛けつなぎ13aは車両の固縛または固縛を解くための操作箇所となるため、柔軟性が維持されることが重要である。
掛けつなぎ自体は従来から用いられているロープによる締結方法であり、
図8に示されるように、締結するシンブルS間を複数回巻き付けた上で、垣根結びによって結ぶ(結びは垣根結びに限られるものではなく、別の結び方を用いても構わない)。この点は、掛けつなぎ13b(トップロープ111とアンダーロープ112の間を締結)、掛けつなぎ13c(サイドロープ12とアンカーAの間を締結)で同様である。なお、本実施形態では、掛けつなぎ13bと掛けつなぎ13cでは、スーパー繊維であるポリアリレート繊維で形成されたスーパー繊維ロープ(シリコン被覆なし)を使用している。掛けつなぎ13bでは、トップロープ111とアンダーロープ112の各シンブルSの中を10回程度巻いて結んでいる。掛けつなぎ13cでは、サイドロープ12とアンカーAを10回程度巻いて結んでいる。
本実施形態の車両固縛システム1では、メイントップロープ1111とつなぎロープ1112の間を締結する掛けつなぎ13aが、車両の固縛または固縛を解くための操作箇所となる。即ち、
図1に示されるような車両Vの固縛状態の、最初のセッティングをした後は、掛けつなぎ13aの開放または締込みによって、車両の固縛を解いたり、固縛したりする操作が行われるものである。従って、本実施形態の車両固縛システム1は車両にロープを容易に取り付けることが可能で、また取り外しも容易である。
また、従来のロープを使用した固縛システムでは、シャックル等の金具を要していたため、これらの金具が重量物となり、取り扱い性が低下するものであった。且つ、シャックル等の金具によって車両が傷つけられてしまうおそれもある。これに対し、本実施形態の車両固縛システム1によれば、掛けつなぎを用いることによって金具が極力排除されており、取り扱い性に優れ、車両が傷つくことも抑制される。
【0031】
シャックル等の金具に替えて、ロープを用いた掛けつなぎによって、各ロープ間の接続(締結)をする場合、掛けつなぎ部分の強度不足が問題となり得る。掛けつなぎ部分の強度を得るためには、高い強度のロープを使えばよいということになるが、高強度のロープであるスーパー繊維からなるロープは、結び曲げによる強度低下が大きいため、掛けつなぎに使用できるものではないと考えられていた。
図10は、「(社)送電線建設技術研究会九州支部 平成27年4月「高張力繊維ロープ管理手引書」のP42より抜粋したものである。これによれば、高張力繊維(スーパー繊維)ロープに結び目を作ると、その引っ張り強度が20%程度しか出なくなることが示されている。
これに対し、発明者は、スーパー繊維ロープの掛けつなぎにおける引張り強さを検証し、スーパー繊維ロープを掛けつなぎに用いることが可能であることを見出し、これを本発明に利用したものである。
【0032】
図11と
図12に、掛けつなぎにおける引張り強さの試験条件等とその結果を示した。
当該試験は、
図11(a)に示されるように、つながれるロープの端末のシンブルの中を所定回数(2〜15回)巻いて掛けつなぎとし、これの引張り試験とした。
試験材料は、以下及び
図11(b)の表に示した汎用繊維ロープとスーパー繊維ロープとした。
1 汎用繊維ロープ
(イ)つながれるロープ
パラエイト(登録商標):ポリエステル繊維に撚りを加えることなく引き揃え、その外側にポリエチレンをシースし、それをストランドとしてエイトロープに編組みしたもの φ38mm 引張強さ:20.0tf
(ロ)掛けつなぎに使用したロープ
ポリプロピレン3打ちロープ φ12mm 引張強さ:1、570kgf
2 スーパー繊維ロープ
(イ)つながれるロープ
エースライン(登録商標)T008B φ22mm(エンドレス) 引張強さ:30.0tf
(ロ)掛けつなぎに使用したロープ
図11(b)に示した2種類
なお、エースライン(登録商標)は、スーパー繊維を用いたロープであり、“つながれるロープ”として使用したロープは、本実施形態のつなぎロープ1112と同じものである。また、“掛けつなぎに使用したロープ”である“エースラインV026B”は、本実施形態の掛けつなぎ13b、13cに使用したロープであり、“エースラインV026B−C”は、本実施形態の掛けつなぎ13aに使用したロープである。
【0033】
図12に、試験結果を示した。上段の表に、各ロープと、掛け回数に対応した規格強度と、試験結果、及びこれらから算出した効率を示した。また、下段に、ロープ本数(掛け回数×2)と効率の関係をグラフ化したものを示した。
当該結果から、汎用繊維ロープについては、ロープ本数(掛け回数×2)が20本を超えると強度効率が低下し、スーパー繊維ロープについてはロープ本数(掛け回数×2)が10本を超えると強度効率が低下する傾向が得られた。
上記結果から、スーパー繊維ロープで掛けつなぎをした場合、従来考えられた程の強度効率の低下(結び目を作った場合における20%程度までの低下)は生じないことがわかった。さらに、ロープ本数が所定本数以下(上記結果では10本程度以下)であれば、強度効率としてはさらに良好であることがわかった。
【0034】
以上のごとく、本実施形態の車両固縛システム1によれば、車両の周囲を1周する環状ロープ11を備え、環状ロープ11がサイドロープ12によってアンカーAに締結される。従って、環状ロープ11によって車両Vがしっかりホールドされ、竜巻等による風によって車両Vが飛んでしまうことが効果的に抑止される。
また、環状ロープ11は掛けつなぎ13aで車両の固縛を解いたり、固縛したりできるため、固縛及びその解除の作業性がよい。且つ、シャックル等の金具が極力排除されており、軽量で扱い易く、車両を傷つけるおそれ等も低減されるため、その取り扱い性に優れている。
【0035】
また、本実施形態の車両固縛システム1によれば、サイドロープ12が、環状ロープ11とアンカーAの間を、余長を持って締結しているため、地震時等に車両が動揺しても、車両やロープに荷重がかかることが抑止される。車両の固縛のために、全ての箇所でテンションがかかった状態とすると、比較的小さな揺れの地震であっても、各部材に荷重がかかってしまい、車両や付属品等に損傷を与えるおそれや、これにより車両の機能を損失させる可能性もあるが、本実施形態の車両固縛システム1ではこれが抑止される。これに関する説明図を
図9に示した。
サイドロープ12の長さを、アンカーAと車両Vとの間隔に合わせて、余長を有しつつも、一方の側へ車両が寄った場合においても車両VがアンカーAには当たらないように調節・設定しておくことが好ましい。
【0036】
また、本実施形態の車両固縛システム1によれば、エッジ保護材14を備えていることにより、環状ロープ11を構成する各ロープの強度を上げるためにロープが太くなることを抑止することができ、取り扱い易い固縛システムとすることができる。
【0037】
図13には、車両の形状やサイズに応じた車両固縛システムのバリエーションを例示した。なお、
図1と同様の構成要素については同一の符号を使用している。
図13(a)は、車幅が狭い車両に対応させてアンダーロープの形態を変えたものの例である。車幅が狭い車両においてはロープ加工上の問題からエンドレス形状のアンダーロープ112´を用いるケースがある。
アンダーロープ112´は、アンダーロープ112に用いたロープに対して、つなぎロープ1112と同様の加工にてエンドレス形状としたものである。
【0038】
図13(b)は、車両の高さが低い場合において、車両の固縛または固縛を解くための操作箇所となる掛けつなぎ13aを、車両の上部となるようにしたものである。例えば、トラクタヘッド後方のカプラ(連結器)部分において、車両を固縛する場合等である。
トップロープ111´´は、ロープ1111´´とロープ1112´´の2本が掛けつなぎ13aで接続されることで構成される。ロープ1111´´とロープ1112´´は長さが違う以外はメイントップロープ1111と同様の構成(ただし、両端でアイスプライス加工されている)である。
車両の高さが低い場合には、車両の固縛または固縛を解くための操作箇所となる掛けつなぎ13aが、車両側面にあるよりも車両上面にある方が、アクセス性がよい場合があり、これに対応するものである。
【0039】
図13(c)は、車高が高い場合において、車両の固縛または固縛を解くための操作箇所となる掛けつなぎが、車両の下部となるようにしたものである。
図13(c)では、トップロープ111´´´を1本のロープ(長さが違う以外はメイントップロープ1111と同様)で構成し、トップロープ111´´´と、アンダーロープ112の間の掛けつなぎ13bを、車両の固縛または固縛を解くための操作箇所としている。
【0040】
上記のごとく、車両の形状やサイズによって、車両の固縛または固縛を解くための掛けつなぎ(以下「締込み用掛けつなぎ」という)の位置を変えると、作業時の作業性を向上することができる。
【0041】
なお、本実施形態(
図1(a))では、車両Vの固縛のために、4つの車両固縛システム1を用いたものを例としているが、車両固縛システム1は車両の大きさや重量、形状に応じて適当数設ければよい。
本実施形態では、固定材としてアンカーを具体例としているが、これに限るものではなく、固定材は、本発明に係る車両固縛システムを用いて車両を繋ぎ止めることができる設備であればよい。
【0042】
本実施形態では、つなぎロープ1112を、エンドレス加工によってリング状としたものを例としたが、アンダーロープ112と同様に両端末をアイスプライス加工としてもよく、また、メイントップロープ1111と同様に一端をアイスプライス加工、他端をズボ差し加工としてもよい。同様に、メイントップロープ、アンダーロープ、サイドロープのそれぞれについて、他の加工を採用して構わない。固縛対象である車両のサイズや形状、重量、及び、固定先の固定材の位置や形状等に合わせて、各ロープのサイズや加工の種類等を適宜決定すればよい。
また、本実施形態では、トップロープ111が、分割された複数本のロープ(メイントップロープ1111、つなぎロープ1112)が掛けつなぎによって締結されることによって構成されているものを例としているが、他のロープ(アンダーロープやサイドロープ等)についても、分割された複数本のロープによって構成されるものとしてもよい。