(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6724265
(24)【登録日】2020年6月26日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】ナノワイヤ付きフィルム及びナノワイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B82B 1/00 20060101AFI20200706BHJP
B82B 3/00 20060101ALI20200706BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20200706BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20200706BHJP
【FI】
B82B1/00
B82B3/00
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2020-1840(P2020-1840)
(22)【出願日】2020年1月9日
【審査請求日】2020年1月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 宗和
(72)【発明者】
【氏名】平田 肇
【審査官】
山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−216548(JP,A)
【文献】
特開2013−006761(JP,A)
【文献】
特開2009−021400(JP,A)
【文献】
特表2007−528451(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0136995(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82B 1/00
B82B 3/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂からなる基材と、
前記基材上に直接成長した金属酸化物からなるナノワイヤと
を備えたナノワイヤ付きフィルムであって、
前記基材の表面に、大きさが2〜100nmで、深さが5〜30nmの微細な凹凸構造が形成され、該凹凸構造から前記ナノワイヤが直接成長している、ナノワイヤ付きフィルム。
【請求項2】
前記結晶性樹脂は、ポリイミドまたはポリエステルからなる、請求項1に記載のナノワイヤ付きフィルム。
【請求項3】
前記ナノワイヤは、酸化亜鉛または酸化チタンからなる、請求項1または2に記載のナノワイヤ付きフィルム。
【請求項4】
結晶性樹脂からなる基材を用意する工程(a)と、
前記基材の表面に、大きさが2〜100nmで、深さが5〜30nmの微細な凹凸構造を形成する工程(b)と、
前記基材を水熱合成溶液に浸漬させて、金属酸化物からなるナノワイヤを、前記基材の表面に形成した前記凹凸構造の上に直接成長させる工程(c)と
を含むナノワイヤの製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、前記基材を表面処理する工程からなる、請求項4に記載のナノワイヤの製造方法。
【請求項6】
前記結晶性樹脂は、ポリイミドまたはポリエステルからなる、請求項4または5に記載のナノワイヤの製造方法。
【請求項7】
前記ナノワイヤは、酸化亜鉛または酸化チタンからなる、請求項4〜6の何れかに記載のナノワイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上にナノワイヤが成長したナノワイヤ付きフィルム、及び基材上へのナノワイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛等の金属酸化物からなるナノワイヤ(ナノロッド)の製造方法として、化学気相法、レーザー堆積法、水熱合成法など、様々な方法が知られている。
【0003】
これらのうち、水熱合成法は、比較的簡単にナノワイヤを製造することができる。例えば、特許文献1には、表面にシード層が形成された基材を、硝酸亜鉛とヘキサメチレンテトラミンとを混合した水溶液に浸漬して、30℃〜100℃の温度で、酸化亜鉛ナノワイヤを成長させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−36995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のナノワイヤの製造方法は、例外なく、基材の上に、予め、ナノワイヤを成長させるためのシード層を形成する必要があった。そのため、製造コストが高くなるという問題があった。また、シード層上に成長したナノワイヤを剥離回収する際、ナノワイヤにシード層の不純物が混入するという問題があった。
【0006】
然るに、今まで、基材上にシード層を形成することなく、直接ナノワイヤを成長させる方法はなかった。従来技術においては、余計な粉末層の形成、並びに粉末の落下及びスキージにおける非効率的な作動を改善する方法については何ら提言が行われていない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は、基材上にナノワイヤが直接成長したナノワイヤ付きフィルム、及び基材上に直接ナノワイヤを成長させるナノワイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るナノワイヤ付きフィルムは、結晶性樹脂からなる基材と、基材上に直接成長した金属酸化物からなるナノワイヤとを備え、基材の表面に、微細な凹凸構造が形成され、この凹凸構造からナノワイヤが直接成長している、
本発明に係るナノワイヤの製造方法は、結晶性樹脂からなる基材を用意する工程(a)と、基材の表面に、微細な凹凸構造を形成する工程(b)と、基材を水熱合成溶液に浸漬させて、金属酸化物からなるナノワイヤを、基材の表面に形成した凹凸構造の上に直接成長させる工程(c)とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基材上にナノワイヤが直接成長したナノワイヤ付きフィルム、及び基材上に直接ナノワイヤを成長させるナノワイヤの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(A)、(B)は、ナノワイヤが成長した試料の明視野−走査透過型電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図2(A)は、ナノワイヤが成長した試料のエネルギー分散型X線分析による元素分析を行った結果を示したグラフで、
図2(B)は、元素分析を行った試料の断面の走査透過型電子顕微鏡写真である。
【
図3】ZnOナノワイヤが成長した試料の断面の走査透過型電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4(A)〜(D)は、ZnOナノワイヤの製造方法を示した工程図である。
【
図5】ポリイミドフィルムを固定する治具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を説明する前に、本発明を想到するに至った経緯を説明する。
【0012】
本願発明者は、シリコンウエハを基材に用いて、この基材上にナノワイヤを成長させる技術の開発を行っていた。なお、シード層は、シリコンウエハの表面に、クロムをスパッタ蒸着して形成していた。
【0013】
しかしながら、シリコンウエハは高価なため、製造コストを低減する目的で、樹脂フィルム(ポリイミド)を基材に用いて、この基材上にナノワイヤを成長させる技術の検討を行った。
【0014】
しかしながら、樹脂フィルム上に、直接、クロムをスパッタ蒸着してシード層を形成することは難しいため、樹脂フィルム上に、スパッタ蒸着でシリコン酸化膜を形成し、このシリコン酸化膜上に、クロムをスパッタ蒸着してシード層を形成する必要があった。そのため、シリコン酸化膜の形成プロセスが新たに加わるため、製造コストの低減には至らなかった。
【0015】
そこで、本願発明者等は、樹脂フィルム上に、シード層を形成することなく、直接ナノワイヤを成長させることができないかと考えた。
【0016】
本願発明者等は、長年、樹脂フィルムに表面処理を施して、表面状態を変えることによって、母材とは異なる機能を付与する技術(表面改質技術)の研究を行っていた。例えば、樹脂フィルムに表面処理を施すことによって、樹脂フィルム上に形成する膜との密着性を向上させる技術の開発を行っていた。
【0017】
本願発明者等は、この表面改質技術に着目した。すなわち、表面改質技術を利用することによって、樹脂フィルムの表面に、ナノワイヤを成長させるようなシード性を発現させることができないかと考えた。例えば、樹脂フィルムに表面処理を施して、樹脂フィルムの表面に何らかの活性化を付与することによって、この活性化した状態が、ナノワイヤ成長の核になる可能性があると考えた。
【0018】
そこで、本願発明者等は、結晶性の樹脂材料であるポリイミドフィルムを用いて、実験を行った。具体的には、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン製「カプトンV」)に表面処理を施した後、このポリイミドフィルムを、硝酸亜鉛(Zn(NO
3)
2/6H
2O)と、ヘキサメチレンテトラミン(C
6H
12N
4)とを混合した水溶液に浸漬して、酸化亜鉛(ZnO)のナノワイヤを成長させた。なお、ここで用いた水熱合成法によるナノワイヤの成長は、公知の方法を用いた。
【0019】
表面処理の条件を種々変えて実験を行ったところ、ある条件で表面処理を施したポリイミドフィルムの表面に、直接、ZnOナノワイヤが成長しているという驚くべき事実を発見した。
【0020】
図1(A)、(B)は、ナノワイヤが成長した試料の明視野−走査透過型電子顕微鏡(BF−STEM)写真で、
図1(A)は平面写真、
図1(B)は断面写真である。
【0021】
図1(A)、(B)に示すように、ポリイミドフィルム10上に、柱状のナノワイヤが成長しているのが確認できる。
【0022】
また、
図2(A)は、
図2(B)に示すように、ナノワイヤが成長した試料の断面の領域Aを、矢印Pの方向に沿って、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析を行った結果を示したグラフである。ここで、
図2(B)において、符号10はポリイミドフィルム、符号20は成長したナノワイヤを示す。また、
図2(A)において、矢印Qで示した位置が、ポリイミドフィルム10とナノワイヤ20の界面を示す。
【0023】
図2(A)に示ように、ナノワイヤ20が存在する領域において、亜鉛(Zn)、及び酸素(O)が存在していることが分かる。一方、ポリイミドフィルム10が存在する領域においては、炭素(C)、及び窒素(N)が存在していることが分かる。なお、界面Qの近傍において、上記以外の元素は検出されていない。この分析結果から、ポリイミドフィルム10の上に、ZnOナノワイヤ20が直接成長していることが分かる。
【0024】
ところで、表面処理を施したポリイミドフィルム10には、ZnOナノワイヤが成長したのに対し、表面処理を施さなかったポリイミドフィルム10には、ZnOナノワイヤが全く成長しなかったという事実から、次のことが考えられる。
【0025】
すなわち、ポリイミドフィルム10に表面処理を施すことによって、ポリイミドフィルム10の表面が、ZnOナノワイヤが成長できるような状態に変化していると考えられる。
【0026】
そこで、表面処理の条件を種々変えて行った実験において、ポリイミドフィルム10の上にZnOナノワイヤが成長した試料の断面を、走査透過型電子顕微鏡を用いてさらに詳しく調べた。その結果、
図3に示すように、ZnOナノワイヤが成長した試料では、ポリイミドフィルム10の表面に、微細な凹凸構造10Aが形成されていることが分かった。
【0027】
一方、表面処理を行っても、ポリイミドフィルム10の表面に、微細な凹凸構造10Aが形成されていない試料では、ZnOナノワイヤが成長していないことが分かった。
【0028】
すなわち、詳しいメカニズムは明らかではないが、ポリイミドフィルム10の表面に形成された微細な凹凸構造10Aが、従来のシード層のように、ナノワイヤが成長する核の役目を果たしていると考えられる。
【0029】
なお、従来のシード層において、シード層の形成条件や、ナノワイヤの成長条件を変えることによって、ナノワイヤの成長状態が変わるように、本発明の微細な凹凸構造10Aにおいても、微細な凹凸構造10Aの形成条件や、ナノワイヤの成長条件を変えることによって、ナノワイヤの成長状態は変わる。
【0030】
従って、微細な凹凸構造10Aの形状は、要求されるナノワイヤの仕様に応じて適宜決めればよいが、大きさがマイクロメータ以下で、深さがナノメータレベルの形状に形成することが好ましい。典型的には、微細な凹凸構造10Aは、大きさが2〜100nmで、深さが5〜30nmに形成されていることが好ましい。
【0031】
本実施形態において、予めポリイミドフィルム10の表面に微細な凹凸構造10Aを形成することによって、ポリイミドフィルム10上に直接ZnOナノワイヤを形成することが可能となる。
【0032】
以上、説明したように、本実施形態におけるナノワイヤ付きフィルムは、結晶性樹脂からなるポリイミドフィルム(基材)10と、ポリイミドフィルム10の上に直接成長したZnOナノワイヤとを備え、ポリイミドフィルム10の表面に、微細な凹凸構造10Aが形成されている。ここで、微細な凹凸構造10Aは、大きさがマイクロメータ以下で、深さがナノメータレベルの形状に形成されていることが好ましい。また。ポリイミドフィルム10の表面に、ポリイミドフィルムの粒界が析出していることが好ましい。これにより、ZnOナノワイヤを安定して成長させることができる。
【0033】
本実施形態によれば、結晶性樹脂からなるポリイミドフィルム10の上に、直接ZnOナノワイヤを成長させることができるため、製造コストの低減を図ることができる。また、ZnOナノワイヤには、従来のシード層からの拡散による不純物が存在しないため、不純物のないZnOナノワイヤを剥離回収することができる。
【0034】
本実施形態におけるZnOナノワイヤは、
図4(A)〜(D)に示す工程により製造することができる。
【0035】
まず、
図4(A)に示すように、結晶性樹脂からなるポリイミドフィルム10を用意する。ポリイミドフィルム10の厚みは、例えば、50〜500μmである。
【0036】
次に、
図4(B)に示すように、ポリイミドフィルム10を表面処理する。なお、表面処理は、ポリイミドフィルム10の表面に、微細な凹凸構造10Aが形成される条件で行えばよい。なお、
図4(B)に示した凹凸構造10Aは、実際の寸法を示すものではない。ここで、微細な凹凸構造10Aは、大きさがマイクロメータ以下で、深さがナノメータレベルの形状に形成されていることが好ましい。
【0037】
次に、
図4(C)に示すように、ポリイミドフィルム10を、容器30に入れられた水熱合成溶液40に浸漬させて、ポリイミドフィルム10上に、ZnOナノワイヤを直接成長させる。なお、ポリイミドフィルム10は非常に薄いので、治具50に固定した状態で、水熱合成溶液40に浸漬させることが好ましい。具体的には、
図5に示すように、ポリイミドフィルム10をスライドガラス52、52で押さえ、このスライドガラス52、52を、ガラス板51、51で挟み込んで固定し、これを、ステンレス板53に載せた状態で、水熱合成溶液40に浸漬させる。
【0038】
水熱合成溶液40は、例えば、硝酸亜鉛(Zn(NO
3)
2/6H
2O)と、ヘキサメチレンテトラミン(C
6H
12N
4)とを混合した水溶液を用いることができる。なお、水熱合成溶液40の濃度や、混合比、温度、浸漬時間等は、要求されるZnOナノワイヤの仕様に応じて、適宜決めればよい。
【0039】
ポリイミドフィルム10を水熱合成溶液40に所定時間浸漬した後、ZnOナノワイヤが成長したポリイミドフィルム10を洗浄、乾燥することによって、
図4(D)に示すように、ZnOナノワイヤ20付きフィルムが得られる。
【0040】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、ポリイミドフィルム10を基材に用いて、この基材上にZnOナノワイヤを成長させたが、これに限定されず、結晶性樹脂からなる基材であればよい。結晶性樹脂としては、例えば、ポリエステル等を用いることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、ポリイミドフィルム10上にZnOナノワイヤ20を成長させたが、これに限定されず、酸化チタン(TiO)等の他の金属酸化物からなるナノワイヤを成長させることができる。
【符号の説明】
【0043】
10 ポリイミドフィルム(基材)
10A 微細な凹凸構造
20 ZnOナノワイヤ
30 容器
40 水熱合成溶液
50 治具
【要約】
【課題】基材上にナノワイヤが直接成長したナノワイヤ付きフィルム、及び基材上に直接ナノワイヤを成長させるナノワイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】ナノワイヤ付きフィルムは、結晶性樹脂からなる基材10と、基材上に直接成長した金属酸化物からなるナノワイヤ20とを備え、基材の表面に、微細な凹凸構造10Aが形成され、該凹凸構造からナノワイヤが直接成長している。
【選択図】
図4