(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724270
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】高濃度塗工機用乾燥装置及び乾燥方法
(51)【国際特許分類】
F26B 15/12 20060101AFI20200706BHJP
F26B 3/30 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
F26B15/12 A
F26B3/30
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-18132(P2017-18132)
(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-124027(P2018-124027A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2018年10月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】507259213
【氏名又は名称】株式会社 ノサカテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087169
【弁理士】
【氏名又は名称】平崎 彦治
(72)【発明者】
【氏名】野阪 幸代
【審査官】
沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−049021(JP,A)
【文献】
特開2014−119226(JP,A)
【文献】
特開2000−035279(JP,A)
【文献】
特開2001−330368(JP,A)
【文献】
特開平08−192089(JP,A)
【文献】
特開2001−012848(JP,A)
【文献】
特開2002−162163(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F26B 15/12
F26B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に塗工液を塗工して形成したワークの塗工層を乾燥する為の乾燥装置において、上記ワークを載せて一定速度で移動するコンベヤを有し、ヒート時間の短縮を目的として平板状遠赤外線ヒータを乾燥装置の入口側に配置すると共に、該遠赤外線ヒータの照射による温度ムラを除去する目的で空気流境界層を形成する傾斜ノズルを設け、該傾斜ノズルは吹き付け角度をワーク面に対して30°〜60°とし、噴射するエアーの衝突による2次流が遠赤外線の外乱とならないように排気ダクトを設け、乾燥装置の中間部位には、蒸発潜熱に失われた熱量を塗工液内部に補給する為に反射板を組み合わせた棒状遠赤外線ヒータを配置すると共にエアーを噴射するノズルを配置し、さらに、乾燥装置の出口側には熱風のみを噴射するノズルを配置したことを特徴とする塗工機用乾燥装置。
【請求項2】
基板の表面に塗工液を塗工して形成したワークの塗工層を乾燥する乾燥方法において、上記ワークは入口から出口にかけてコンベヤに載って移動し、入口側では遠赤外線ヒータから放射する遠赤外線をワークに当てて加熱すると共に過加熱を抑制する為に吹き付け角度を30°〜60°とした傾斜ノズルからエアーを吹き付け、噴射したエアーの衝突による2次流が遠赤外線の外乱とならないように排気ダクトから排気し、中間部位では、蒸発潜熱に失われた熱量を塗工液内部に補給する為に反射板を組み合わせた棒状遠赤外線ヒータから遠赤外線を上記反射板を介して照射し、そしてノズルからエアーを吹き付けてワーク表面に当て、出口側ではノズルから吹き付ける熱風をワークに当てて乾燥することを特徴とする塗工層の乾燥方法。
【請求項3】
上記出口側に設けたノズルによる熱風吹き付けの代わりに、遠赤外線ヒータにて加熱するようにした請求項2記載の塗工層の乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高濃度で塗工した塗工層を効率良く乾燥する為の乾燥装置並びに乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高濃度で塗工されたワークを乾燥する場合、従来のバッチ式熱風オーブンではゆっくり時間をかけて乾燥ムラを無くすように乾燥する必要がある。例えば、熱風を吹き付けて乾燥する場合、表面からしか熱が伝わらないので、表面だけが過乾燥して被膜化し、内部に低沸点溶剤まで閉じ込めてしまうことが多い。
したがって、熱サイホンによる温度差の影響や温風との接触の良いところと悪いところがあるなかで、一番悪いところに焦点を当ててゆっくり時間をかけて乾燥しないと乾燥ムラを増長することになる。
【0003】
図11はセラミック基板の表面を塗工した状態の断面を表しているが、塗工液(固形分)濃度が例えば70%の状態では溶剤が表面に現れないで内部に点在して固形分が露出している状態と成っている。
このような高濃度で塗工されたワークに熱風を吹き付けて乾燥する場合を
図12に表しているが、吹き付ける熱風にて表面の溶剤は吹き飛ばされ、同時に露出している固形分の表面は被膜化(硬化)する。溶剤は炉外(大気中)でも乾燥し易く、長時間おいているワークの一部被膜化が進み、製品の乾燥度にバラツキを招く。
【0004】
また、熱風を吹き付ける乾燥は、乾燥効率が良過ぎることによって、固形分内部の蒸発物質の表面への移動が間に合わず、表面の被膜化が進むことから、表面上には問題がなくても固形分内部に溶剤が残留していることで、後工程で品質上のバラツキの影響が出る可能性がある。その為に、従来の熱風乾燥では低風速の熱風循環によって乾燥効率を下げ、約60分バッチで溶剤が表面まで移動するに必要な時間をかけている。
【0005】
図13は遠赤外線を照射して乾燥する場合を示している。波長が長い遠赤外線を用いることで、ワーク内部に熱量を与えることが出来る。塗工液内部から温めて乾燥させることで固形分内部の溶剤が表面に移動する時間を早くする効果を得ることは出来る。固形分内部の溶剤が表面へ移動したことで蒸発物質にて覆われた状態となり、最も乾燥が促進される。
ただし、遠赤外線効果だけでは表面からの乾燥効率は悪いので、その為に熱風強制対流乾燥との併用が必要となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、熱風を吹き付ける乾燥及び遠赤外線照射による乾燥には、それぞれ上記の問題がある。本発明が解決しようとする課題はこの問題点であり、熱風と遠赤外線を併用して立ち上がり時間を早めて乾燥時間を大幅に短縮することが出来る高濃度塗工機用乾燥装置及び乾燥方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る乾燥装置は遠赤外線乾燥と熱風乾燥を併用することで、両方の利点を併せ持って構成している。すなわち、遠赤外線によって前記
図13に示す状態を作り、表面に移動した溶剤を最も乾燥効率の良い熱風で表面の溶剤を飛ばすことによって乾燥時間を短縮している。
【0008】
そこで、本発明の高濃度塗工機用乾燥装置は、その入口側に平板状遠赤外線ヒータを単列又は複数列配置し、発熱部表面と被乾燥ワークとの間を所定距離にセットしている。例えば、3列構造とした場合に発熱部表面と被乾燥ワークとの距離を一定でなく、段階的に変えることも可能である。
そして、遠赤外線が照射される乾燥表面に安定した空気流境界層を作る為に、遠赤外線ヒータの両サイドに空気吹き付けノズルを設け、該ノズルの吹き付け角度を例えば30°〜60°とし、空気の衝突後の2次流の干渉を最小に抑えると同時に、出口ノズルの入口部近傍で速やかに下部へ排気吸引することが出来る構造としている。
これをなくして近距離照射の遠赤外線は熱サイホンによる大きな温度ムラで均一乾燥不能となる。
【0009】
上記吹き付けノズルから吹き付ける風速は塗工表面温度をコントロールするように制御され、かつ遠赤外線照射によるワーク表面温度が過加熱されないように抑えることが出来る。そして、乾燥装置の中間部位には放射線型反射板付きの棒状ヒータを使用し、棒状ヒータからワーク乾燥表面までを所定の距離としている。
さらに、乾燥装置の最後(出口側)には熱風のみのノズルを設け、低沸点溶剤乾燥後に高沸点溶剤を乾燥させない温度で、表面からしか熱が伝わらない対流の良さを生かし、表面を過乾燥・被膜化し、乾燥後の質量の経時変化を抑えることが出来るようにしている。ただし、温度制約がない塗工剤に関しては従来の管型遠赤外線を使用しても構わない。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高濃度塗工機用乾燥装置は、連続で塗工層の内部を加熱することが出来る遠赤外線の良さで、蒸発物質の表面までの移動を促進させると同時に、プレヒートゾーンでは遠赤外線表面温度を同一に抑えながら大容量にし(一般的には平板状遠赤となる)、室温から低沸点溶剤湿球温度プラスα、例えば50℃まで20〜30℃を熱風と併せて、瞬時に立ち上げることは、乾燥時間を短縮する為に絶対必須条件である。
【0011】
また、遠赤外線表面温度が低いほど内部を加熱する長い波長(例えば、3.5μ以上)の分布が増加する。しかし、遠赤表面温度が下がると伝熱効果は落ちる。そこで、効果を落とさない為には照射距離を近づけて輻射熱の吸収効率を上げる必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】セラミック基板の表面に塗工液を塗工して塗工層を形成したワークを示す具体例。
【
図4】セラミック基板の表面に塗工した塗工層に遠赤外線を照射すると共に過加熱を抑制する為にエアーを吹き付けている工程。
【
図5】セラミック基板の表面に塗工した塗工層に遠赤外線を照射することで乾燥溶剤が表面側へ移動し、そして過加熱を抑制する為にエアーを吹き付けている工程。
【
図6】セラミック基板の表面に塗工した塗工層に反射板を介して遠赤外線を照射することで乾燥溶剤が表面側へ移動して内部が固化し、そして過加熱を抑制する為にエアーを吹き付けている工程。
【
図7】セラミック基板の表面に塗工した塗工層に反射板を介して遠赤外線を照射することで乾燥溶剤が表面側へ移動して内部がさらに固化し、そして過加熱を抑制する為にエアーを吹き付けている工程。
【
図8】セラミック基板の表面に塗工して遠赤外線を照射して乾燥した塗工層に熱風を吹き付ける工程で、この部分は温度制約がなければ従来の遠赤外線表面温度、例えば800℃を使用してもよい。
【
図10】反射板を組み合わせた棒状ヒータを示す具体例。
【
図11】セラミック基板に塗工液を塗工して溶剤が点在している状態。
【
図12】セラミック基板に塗工液を塗工して形成した塗工層に熱風を吹き付けて表面が被覆化した状態。
【
図13】セラミック基板に塗工液を塗工して形成した塗工層に遠赤外線を照射して内部が一部固化している状態。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は高濃度塗工機用乾燥装置の概略図を示す実施例であり、同図の1a,1b,1c・・・は塗工して乾燥される対象物(以下、ワークという)を示し、2c、2d,2e・・・はノズル、3c,3dは平板状遠赤外線ヒータ、4e,4fは棒状ヒータ、5e,5fは反射板をそれぞれ表している。
そして、上記ワーク1a,1b・・・はコンベヤ6に載っていて、コンベヤ6の動きに伴って一定速度で移動することが出来る。
【0014】
ところで、本発明の乾燥装置は熱風とヒータを用いて表面が塗工されたワーク1a,1b・・・を短時間で乾燥することが出来るように構成している。
図2は乾燥装置に入る前で塗工されていない場合(
図1のA部)のワーク1aを示す断面図であり、塗工前のワーク1aは所定の縦横寸法及び厚さを有すセラミック基板である。ただし、ベースとなるワーク1aの材質はセラミックに限定するものではない。
【0015】
図3に示すワーク1bはワーク1aのセラミック基板7の表面に塗工液8が塗工されて、塗工層9を形成しているB部での状態であり、塗工された塗工液8は乾燥溶剤が塗工層9の表面及び内部に分散している。
そこで、表面が塗工されたワーク1bは本発明の乾燥装置の内部をコンベヤに載って移動することで、上記塗工層9は短時間で乾燥することが出来る。
【0016】
図4は乾燥装置のC部でのワーク1cを示している。C部には平板状遠赤外線ヒータ3cと冷却用ノズル2cが配置され、セラミック基板7に塗工されたワーク1cには上記平板状遠赤外線ヒータ3cから遠赤外線を照射して、余熱を目的とした急速加熱を行う。ただし、塗工液8の部分的な過加熱を防ぐ為にノズル2cからエアーを吹き出している。
【0017】
図5は乾燥装置のD部でのワーク1dを示している。平板状遠赤外線ヒータ3dから遠赤外線が照射されて、塗工液8の内部から加熱されて乾燥溶剤10,10・・・が表面に移動する。前記
図4に示したC部の場合と同じく、ノズル2dからはエアーが噴き出して部分的な過加熱を防止している。
従来のように熱風を吹き付ける場合とは異なり、表面が被膜化(硬化)することはない。
【0018】
図6は乾燥装置のE部でのワーク1eを示している。E部には棒状ヒータ4eが配置され、該棒状ヒータ4eには反射板5eが組み合わされている。該棒状ヒータ4eから放射する遠赤外線は反射板5eにて反射してワーク1eに照射し、塗工液8内部の乾燥溶剤10は表面に移動する。そして、ノズル2eから噴射するエアーが表面に当たって、過加熱を抑制すると共に表面が被膜化しないように該表面に移動した乾燥溶剤10を乾燥する。その為に、塗工層9は内部から徐々に固化することが出来る。
【0019】
図7は乾燥装置のF部でのワーク1fを示しているが、
図6に示したE部と同じである。したがって、F部には棒状ヒータ4fが配置され、該棒状ヒータ4fには反射板5fが組み合わされている。該棒状ヒータ4fから放射する遠赤外線は反射板5fにて反射してワーク1fに照射し、塗工液8内部の乾燥溶剤10はさらに表面に移動する。
そして、ノズル2fから噴射するエアーが表面に当たって、過加熱を抑制すると共に表面が被膜化しないように該表面に移動した乾燥溶剤10が乾燥される。その為に、塗工層9の内部から硬化がさらに進む。
【0020】
図8は乾燥装置のG部でのワーク1gを示している。G部には遠赤外線ヒータはなく、2本のノズル2g,2gは両側からワーク1gに吹き付けることが出来るように、対にして取付けられている。2本のノズル2g,2gからは熱風が吹き出し、この熱風にて表面に移動した乾燥溶剤10,10・・・が乾燥される。そして、塗工液は乾燥して固化することが出来る。
このように、ワーク1はコンベヤ6に載って乾燥装置を移動する間に塗工液8は効率よく乾燥して固化することが出来る。
この部分は温度制約がなければ、一般的遠赤外線を使用してもよい。
【0021】
図9は平板状遠赤外線ヒータ3を表す実施例であり、下面から遠赤外線を放射することが出来る。そして、両端部には電気コードが接続される端子11,11を設けている。該平板状遠赤外線ヒータ3は
図1に示しているように、ワーク1との距離を調整することが出来るように、上下動可能に取付けられている。
【0022】
図10は反射板5と組み合わされた棒状ヒータ4を示している。反射板5は円弧状に湾曲し、その中心部に上記棒状ヒータ4が配置され、棒状ヒータ4から上方へ照射する遠赤外線は反射板5に当たって反射し、下方へ放射してワーク1に当たるように成っている。
そして、ワーク1の過加熱を抑制する為にエアーを吹き付けるノズル2c,2d、2e,2fは水平面からの角度が30°を成しており、出口側に設けられて熱風を吹き付けるノズル2gは水平面からの角度が60°を成して傾斜している。
【0023】
乾燥装置のC部、D部・・・にはノズル2c,2d・・・から吹き出すエアーを吸い込む為のダクト12c,12d・・・がコンベヤ6の下側に設けられている。
ところで、
図1に示す乾燥装置は、ノズル2と組合した平板状遠赤外線ヒータを2組、ノズル2と組み合わせた反射板付き棒状ヒータを2組配置し、出口側では熱風を吹き出す対を成して配置した2本のノズルを1組設けている。
本発明では、これら組数は限定するものではなく、乾燥されるワーク1の種類や大きさによって異なる。
【符号の説明】
【0024】
1 ワーク
2 ノズル
3 平板状遠赤外線ヒータ
4 棒状ヒータ
5 反射板
6 コンベヤ
7 セラミック基板
8 塗工液
9 塗工層
10 乾燥溶剤
11 端子
12 ダクト