【文献】
UniProt[online], Accession No.A0A068QPC1,01-Oct-2014 uploaded,[retrieved on 28-Aug-2019],Definition: putative L-proline cis-4-hydroxylase[Xenorhabdus doucetiae], <https://www.uniprot.org/uniprot/A0A068QPC1.txt>
【文献】
HARA, R. et al.,Identification and characterization of 2-oxoglutarate-dependent dioxygenases catalyzing selective ci,Journal of Biotechnology,2014年,Vol.172,p.55-58,ISSN 0168-1656, 特に第57頁Fig.2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
L−ピペコリン酸に、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させて、cis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を生成させることを特徴とする、cis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法であって、
前記2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素が、以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチドを含む、cis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法:
(A) 配列番号4、又は11で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B) 配列番号4、又は11で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド;又は
(C) 配列番号4、又は11で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド。
前記2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAが以下の(D)、(E)又は(F)に示すDNAを含む、請求項1に記載のcis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法:
(D) 配列番号1、又は10で表される塩基配列を有するDNA;
(E) 配列番号1、又は10で表される塩基配列において1〜30個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列を含み、かつ2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;又は
(F) 配列番号1、又は10で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含み、かつ2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオ
ンの存在下、前記L−ピペコリン酸に作用させる、請求項1又は2に記載のcis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このように、L−ピペコリン酸から、生物学的な方法によりシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を製造する方法は知られているが、いずれもシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の生産性が低く、また、シス−3−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸をある程度生産するものである。したがって、高い純度が要求される医薬品の中間体等の製造方法として、より効率的に、高純度のシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を製造する方法が望まれている。
【0012】
本発明は、シス−3−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の生成が少なく、より効率的に、光学純度の高いシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を製造する新規な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、キセノラブダス・ド
ーセティエ(Xenorhabdus doucetiae)FRM16株由来のタンパク質(以下「XdPH」と称することがある。)及びキセノラブダス・ロマニ( Xenorhabdus romanii)
PR06−A株由来のタンパク質(以下「XrPH」と称することがある。)が、高いL−ピペコリン酸のシス−5位水酸化酵素活性を有することを見出した。そして、これらのタンパク質をコードするDNAを用いて形質転換体を作製し、該形質転換体細胞、その調製物及び/又は培養液をL−ピペコリン酸に作用させることにより、高い光学純度かつ高濃度で、シス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を製造することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]L−ピペコリン酸に、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させて、cis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を生成させることを特徴とする、cis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法であって、
前記2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素が、以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチドを含む、cis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法:
(A) 配列番号4、又は11で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B) 配列番号4、又は11で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド;又は
(C) 配列番号4、又は11で表されるアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド。
[2]前記2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAが以下の(D)、(E)又は(F)に示すDNAを含む、[1]に記載のcis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法:
(D) 配列番号1、9、又は10で表される塩基配列を有するDNA;
(E) 配列番号1、9、又は10で表される塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列を含み、かつ2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA;又は
(F) 配列番号1、9、又は10で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含み、かつ2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
[3]2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を、2−オキソグルタル酸及び2価の鉄イオンの存在下、前記L−ピペコリン酸に作用させる、[1]又は[2]に記載のcis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法。
[4]L−ピペコリン酸に作用してcis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を生成する活性を有し、かつ、以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチドを含む、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素タンパク質:
(A) 配列番号4又は11で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B) 配列番号4又は11で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド;又は
(C) 配列番号4又は11で表されるアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するポリペプチド。
[5]配列番号11で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、L−ピペコリン酸から、より効率的に光学純度の高いシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を製造することができる。さらに、シス−3−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の生成が少ないため、工業的な規模の製造において、低コストで、高純度のシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、「L−ピペコリン酸をシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸に変換する能力」とは、2−オキソグルタル酸依存的にL−ピペコリン酸の5位の炭素原子にヒドロキシ基を付加する能力を意味する。
【0019】
「L−ピペコリン酸をシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸に変換する能力」を有するか否かは、例えば、L−ピペコリン酸を基質として含有し、さらに2−オキソグルタル酸を補酵素として含有する反応系において、L−ピペコリン酸に、測定の対象とする酵素を作用させ、L−ピペコリン酸から変換されたシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の量を直接的に測定することにより確認することができる。
【0020】
また、本明細書における「酵素」には、精製酵素(部分的に精製した酵素を含む。)や、公知の固定化技術を用いて固定化したもの、例えば、ポリアクリルアミド、カラギーナンゲル等の担体に固定化したもの等も含まれる。
【0021】
本明細書において、「L−ピペコリン酸をシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸に変換する能力を有する微生物若しくは細胞」(以下、「本発明の微生物若しくは細胞」と称することがある。)とは、「L−ピペコリン酸の5位の炭素原子にヒドロキシ基を付加しうる能力」を有していれば特に制限はなく、内在的に前記能力を有する微生物若しくは細胞であってもよいし、育種により前記能力を付与した微生物若しくは細胞であってもよい。育種により前記能力を付与する手段としては、遺伝子組換え処理(形質転換)や変異処理など、公知の方法を採用することができる。形質転換の方法としては、目的とする遺伝子を導入する、染色体上でプロモーターなどの発現調節配列を改変することなどにより目的の遺伝子の発現を強化するなどの方法を用いることができる。
【0022】
なお、「微生物若しくは細胞」の種類としては、後述の宿主生物若しくは宿主細胞に記載のものが挙げられる。また、本明細書において、「L−ピペコリン酸の5位の炭素原子にヒドロキシ基を付加しうる能力を有する微生物若しくは細胞」としては、生きている微生物若しくは細胞に限られず、生体としては死んでいるが酵素能力を有するものも含まれる。
【0023】
本明細書において、「宿主生物」とする生物の種類は特に限定されず、大腸菌、枯草菌、コリネ型細菌、シュードモナス属細菌、バチルス属細菌、リゾビウム属細菌、ラクトバチルス属細菌、サクシノバチルス属細菌、アナエロビオスピリラム属細菌、アクチノバチルス属細菌等の原核生物、酵母、糸状菌等の菌類、植物、動物等の真核生物が挙げられる。中でも、好ましくは、大腸菌、酵母、コリネ型細菌であり、特に好ましくは大腸菌である。
【0024】
本明細書において、「宿主細胞」とする細胞の種類は特に限定されず、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等を用いることができる。
【0025】
本明細書において、「発現ベクター」とは、所望の機能を有するタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを組み込み宿主生物へ導入することにより、所望の機能を有するタンパク質を前記宿主生物において複製及び発現させるために用いられる遺伝因子である。例えば、プラスミド、ウイルス、ファージ、コスミド等が挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、発現ベクターはプラスミドである。
【0026】
本明細書において、「形質転換体」とは、前記発現ベクターなどを用いて目的の遺伝子が導入され、所望の機能を有するタンパク質に関連する所望の形質を表すことができるようになった微生物又は細胞を意味する。
【0027】
本明細書において、「微生物若しくは細胞の処理物」とは、微生物若しくは細胞を培養し、当該微生物若しくは細胞を、1)有機溶媒等により処理したもの、2)凍結乾燥したもの、3)担体などに固定化したもの、4)物理的又は酵素的に破壊したものであり、かつ、所望の機能を有するタンパク質を含有するもの等を意味する。
【0028】
本明細書において、「微生物若しくは細胞を培養して得られた酵素を含む培養液」とは、1)微生物若しくは細胞の培養液、2)微生物若しくは細胞の培養液を有機溶媒等により処理をした培養液、3)微生物若しくは細胞の細胞膜を物理的又は酵素的に破壊してある培養液を意味する。
【0029】
<2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を用いたシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法>
本発明のシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法は、L−ピペコリン酸に、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させることを特徴とする。本発明の製造方法は、後述するように、2−オキソグルタル酸及び2価鉄イオンの存在下、行なうことが好ましい。
【0030】
本発明で使用される2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素(以下、「本発明のL−ピペコリン酸水酸化酵素」と称することがある。)は、L−ピペコリン酸を水酸化する際の位置選択性及び立体選択性が高いため、これを用いることにより、効率よく、光学純度の高いシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を得ることができる。
【0031】
本発明の2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素は、L−ピペコリン酸をシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸に変換する能力を有する酵素であれば特に制限はないが、配列番号4又は11に記載のアミノ酸配列を有するもの、又は該アミノ酸配列のホモログであって2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素活性を有するものであることが好ましい。即ち、本発明のL−ピペコリン酸水酸化酵素は、以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチドを含むものであることが好ましい。
(A) 配列番号4又は11で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B) 配列番号4又は11で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を有するポリペプチド;又は
(C) 配列番号4又は11で表されるアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を有するポリペプチド。
【0032】
本発明において使用しうる、配列番号4又は11に記載のアミノ酸配列を有する2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素のホモログとしては、前記(B)に記載の通り、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を保持する限り、配列番号4又は11に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列を有するものが挙げられる。ここで「1又は数個のアミノ酸」とは、例えば、1個〜100個、好ましくは1個〜50個、より好ましくは1個〜20個、さらに好ましくは1個〜10個、特に好ましくは1個〜5個のアミノ酸である。
【0033】
また、上記ホモログは、前記(C)に記載の通り、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を保持する限り、配列番号4又は11に示されるアミノ酸配列全長と少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有するタンパク質であってもよい。
【0034】
配列番号4に記載のアミノ酸配列は、キセノラブダス・ド
ーセティエ(Xenorhabdus doucetiae)FRM16株の公知のゲノム情報に基づくものである。
配列番号11に記載のアミノ酸配列は、キセノラブダス・ロマニ( Xenorhabdus romanii)
PR06−A株からPCRを用いた公知の方法によってクローン化された遺伝子情報に基づくものである。
【0035】
配列番号4又は11のアミノ酸配列、及びそのホモログを含む本発明のL−ピペコリン酸水酸化酵素は、L−ピペコリン酸の5位の炭素原子を選択的に水酸化するので、高効率でシス−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を生成することができる。
【0036】
なお、本発明の製造方法において、複数の2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を併用してもよい。
【0037】
本発明に使用しうる2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素は、キセノラブダス・ド
ーセティエ(Xenorhabdus doucetiae)FRM16株又はキセノラブダス・ロマニ( Xenorhabdus romanii)
PR06−A株から精製して得ることもできるが、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAをPCRやハイブリダイゼーションなどの公知の方法で当該遺伝子をクローン化し、それを適当な宿主で発現させることによって得ることもできる。
【0038】
配列番号4又は11に示されるアミノ酸配列を有する2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAとしては、それぞれ、配列番号1、9又は10の塩基配列を含むDNAが挙げられ、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1、9又は10の塩基配列を含むDNAのホモログでもよい。即ち、本発明のL−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAとしては、以下の(D)、(E)又は(F)に示す塩基配列が挙げられる。
(D) 配列番号1、9又は10で表される塩基配列を有するDNA;
(E) 配列番号1、9又は10で表される塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列を含み、かつ2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を有するポリペプチドをコードするDNA;又は
(F) 配列番号1、9又は10で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含み、かつ2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【0039】
ホモログとしては、例えば、前記(E)に記載の通り、配列番号1、9又は10の塩基配列において1又は数個の塩基が置換、欠失もしくは付加された塩基配列を含むものが挙げられる。ここでいう1又は数個の塩基とは、例えば、1個〜300個、好ましくは1個〜150個、より好ましくは1個〜60個、さらに好ましくは1個〜30個、特に好ましくは1個〜15個、の塩基である。
なお、配列番号1は、配列番号4のアミノ酸配列をコードするキセノラブダス・ド
ーセティエ(Xenorhabdus doucetiae)FRM16株の遺伝子を大腸菌発現用にコドンを最適化した塩基配列である。このように形質転換対象の宿主に応じてコドンが最適化されたDNAも当然に本発明に使用し得る2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAに包含される。
【0040】
さらに、上記DNAのホモログは、前記(F)に記載の通り、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化活性を有するタンパク質をコードする限り、配列番号1、9又は10の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列」とは、DNAをプローブとして使用し、ストリンジェントな条件下、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、又はサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味する。ストリンジェントな条件としては、例えば、コロニーハイブリダイゼーション法及びプラークハイブリダイゼーション法においては、コロニーあるいはプラーク由来のDNA又は該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7mol/L〜1.0mol/Lの塩化ナトリウム水溶液の存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSCの組成は、150mmol/L塩化ナトリウム水溶液、15mmol/Lクエン酸ナトリウム水溶液)を用い、65℃の条件下でフィルターを洗浄する条件を挙げることができる。
各ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989.等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0041】
当業者であれば、配列番号1、9又は10のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res.10,pp.6487(1982)、Methods in Enzymol.100,pp.448(1983)、Molecular Cloning、PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991))等を用いて適宜置換、欠失、挿入及び/又は付加変異を導入することにより、上記のようなDNAホモログを得ることが可能である。
【0042】
また、配列番号4又は11のアミノ酸配列又はその一部や、配列番号1、9又は10で表される塩基配又はその一部をもとに、例えばDNA Databank of JAPAN(DDBJ)等のデータベースに対してホモロジー検索を行って、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素のアミノ酸情報又はそれをコードするDNAの塩基配列情報を手に入れることも可能である。
【0043】
本発明のヒドロキシ−L−ピペコリン酸の製造方法においては、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を直接反応に使用してもよいが、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を含む微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を用いることが好ましい。
【0044】
2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を含む微生物若しくは細胞としては、もともと2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を有する微生物若しくは細胞を用いてもよいが、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードする遺伝子で形質転換された微生物若しくは細胞を用いることが好ましい。
【0045】
また、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を含む微生物若しくは細胞の調製物としては、例えば、該微生物若しくは細胞をアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン等の有機溶媒や界面活性剤により処理したもの、凍結乾燥処理したもの、物理的又は酵素的に破砕したもの等の微生物若しくは細胞の調製物、微生物若しくは細胞中の酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等に代表される担体に固定化したもの等を用いることができる。
【0046】
2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を含む微生物若しくは細胞を培養して得られた培養液としては、例えば、該微生物若しくは細胞と液体培地の懸濁液や、該微生物若しくは細胞が分泌発現型微生物若しくは細胞である場合は該微生物若しくは細胞を遠心分離等で除去した上清やその濃縮物を用いることができる。
【0047】
上記のようにして単離された、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAを公知の発現ベクターに発現可能な形態で挿入することにより、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素発現ベクターが提供される。そして、この発現ベクターで宿主細胞を形質転換することにより、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAが導入された形質転換体を得ることができる。形質転換体は、宿主の染色体DNAに2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAを相同組み換えなどの手法によって発現可能な状態で組み込むことによっても得ることができる。
【0048】
形質転換体の作製方法としては、具体的には、微生物などの宿主細胞において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクターやウイルスベクター中に、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素をコードするDNAを導入し、構築された発現ベクターを該宿主細胞中に導入するか、もしくは、直接宿主ゲノム中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる方法が例示される。このとき、宿主において適当なプロモーターをDNAの5'−側上流に連結させることが好ましく、さらに、ターミネーターを3'−側下流に連結させることがより好ましい。このようなプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する細胞中において機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば特に限定されず、例えば、「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに宿主微生物において利用可能なベクター、プロモーター及びターミネーターが詳細に記述されている。
【0049】
2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素を発現させるための形質転換の対象となる宿主微生物としては、宿主自体がL−ピペコリン酸の反応に悪影響を与えない限り特に限定されることはなく、具体的には以下に示すような微生物を挙げることができる。
【0050】
エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属などに属する宿主ベクター系の確立されている細菌。
【0051】
ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属などに属する宿主ベクター系の確立されている放線菌。 サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属などに属する宿主ベクター系の確立されている酵母。
【0052】
ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などに属する宿主ベクター系の確立されているカビ。
【0053】
形質転換体作製のための手順、宿主に適合した組換えベクターの構築及び宿主の培養方法は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Molecular Cloningに記載の方法)。
【0054】
以下、具体的に、好ましい宿主微生物、各微生物における好ましい形質転換の手法、ベクター、プロモーター、ターミネーターなどの例を挙げるが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0055】
エシェリヒア属、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとしては、pBR、pUC系プラスミドなどが挙げられ、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PRなどに由来するプロモーターなどが挙げられる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどが挙げられる。
【0056】
バチルス属においては、ベクターとしては、pUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどを挙げることができ、また、染色体にインテグレートすることもできる。プロモーター及びターミネーターとしては、アルカリプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、α−アミラーゼ等の酵素遺伝子のプロモーターやターミネーターなどが利用できる。
【0057】
シュードモナス属においては、ベクターとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで確立されている一般的な宿主ベクター系や、トルエン化合物の分解に関与するプラスミド、TOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240(Gene,26,273−82(1983))などを挙げることができる。
【0058】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、ベクターとしては、pAJ43(Gene 39,281(1985))などのプラスミドベクターを挙げることができる。プロモーター及びターミネーターとしては、大腸菌で使用されている各種プロモーター及びターミネーターが利用可能である。
【0059】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、ベクターとしては、pCS11(特開昭57−183799号公報)、pCB101(Mol.Gen.Genet.196,175(1984))などのプラスミドベクターが挙げられる。
【0060】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、ベクターとしては、YRp系、YEp系、YCp系、YIp系プラスミドなどが挙げられる。また、アルコール脱水素酵素、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素、酸性フォスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、エノラーゼといった各種酵素遺伝子のプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0061】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、ベクターとしては、Mol.Cell.Biol.6,80(1986)に記載のシゾサッカロマイセス・ポンベ由来のプラスミドベクターなどを挙げることができる。特に、pAUR224は、タカラバイオ株式会社から市販されており容易に利用できる。
【0062】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリジー (Aspergillus oryzae)などがカビの中で最もよく研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trendsin Biotechnology 7,283−287(1989))。
【0063】
また、上記以外でも、各種微生物に応じた宿主ベクター系が確立されており、それらを適宜使用することができる。
【0064】
また、微生物以外でも、植物や動物において様々な宿主・ベクター系が確立されており、特に昆虫(例えば、蚕)などの動物中(Nature 315,592−594(1985))や、菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系や、大腸菌無細胞抽出液や小麦胚芽などの無細胞タンパク質合成系を用いた系が確立されており、好適に利用できる。
【0065】
本発明の製造方法では、2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を、2−オキソグルタル酸の存在下、反応基質であるL−ピペコリン酸に作用させることにより、cis−5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を製造することができる。
【0066】
本発明の製造方法は、L−ピペコリン酸に、2−オキソグルタル酸、及び2−オキソグルタル酸依存型L−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を作用させることができれば特に制限はないが、通常、水性媒体中、もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合物中で行われることが好ましい。本発明の製造方法は、さらに、2価の鉄イオンの存在下で行なうことが好ましい。
【0067】
前記水性媒体としては、例えば、水又は緩衝液が挙げられる。
【0068】
また、前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶媒、アセトン、ジメチルスルホキシド等の反応基質の溶解度が高いものを使用することができる。前記有機溶媒としては、また、反応副産物の除去等に効果のある、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n−ヘキサン等を使用することもできる。
【0069】
反応基質となるL−ピペコリン酸は、通常、基質濃度が0.01%w/v〜90%w/v、好ましくは0.1%w/v〜30%w/vの範囲で用いられる。反応基質は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素の基質阻害があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点からすると、連続的もしくは間欠的に添加することが望ましい。
【0070】
2−オキソグルタル酸は、通常、基質と等モル又はそれ以上、好ましくは等モル〜1.2倍モルの範囲で添加する。2−オキソグルタル酸は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素への阻害作用があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点からすると、連続的もしくは間欠的に添加することが望ましい。または、2−オキソグルタル酸の代わりにグルコース等の宿主が代謝可能な安価な化合物を添加し、宿主に代謝させ、その過程で生じる2−オキソグルタル酸を反応に使用させることも可能である。
【0071】
本発明の製造方法は、2価の鉄イオンの存在下で行なうことが好ましい。2価の鉄イオンは、通常0.01mmol/L〜100mmol/L、好ましくは0.1mmol/L〜10mmol/Lの範囲で用いることが好ましい。2価の鉄イオンは、硫酸鉄などとして、反応開始時に一括して添加することができるが、反応中に、添加した2価の鉄イオンが3価に酸化されたり、沈殿を形成して減少してしまったりした場合には追添加することも効果的である。また、本発明のL−ピペコリン酸水酸化酵素、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液に既に充分な量の2価の鉄イオンが含まれている場合は必ずしも添加しなくてもよい。
【0072】
反応は、通常4℃〜60℃、好ましくは15℃〜45℃、特に好ましくは20℃〜40℃の反応温度で、通常pH3〜pH11、好ましくはpH5〜pH8で行われる。反応時間は通常、1時間〜72時間程度である。
【0073】
反応液に添加する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液の量は、例えば細胞を添加する場合は反応液にその細胞の濃度が通常、湿菌体重で0.1%w/v〜50%w/v程度、好ましくは1%w/v〜20%w/vとなるように添加し、処理物を用いる場合には、酵素の比活性を求め、添加したときに上記細胞濃度になるような量を添加する。
【0074】
本発明の製造方法により生成するヒドロキシ−L−ピペコリン酸は、反応終了後、反応液中の菌体やタンパク質などを遠心分離、膜処理などにより分離した後に、1−ブタノール、tert−ブタノールなどの有機溶媒による抽出、蒸留、イオン交換樹脂やシリカゲル等を用いたカラムクロマトグラフィー、等電点における晶析や一塩酸塩、二塩酸塩、カルシウム塩等での晶析等を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
【0075】
[実施例]
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
2−オキソグルタル酸依存型ピペコリン酸水酸化酵素遺伝子のクローニング キセノラブダス・ドーセティエ( Xenorhabdus doucetiae )FRM16株由来の推定上のL−プロリン cis−4−ヒドロキシラーゼXdPH(GenBank Accession No. CDG16639、配列番号4)をコードする大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列(xdph_Ecodon、配列番号1)をDNA2.0社にて人工合成し、pJExpress411(DNA2.0)に挿入されたプラスミドpJ411XdPHを作製した。
同様に、公知のピペコリン酸5位水酸化活性を示す代表的な酵素遺伝子のクローニングも行った。セグニリパラス・ルゴサス(Segniliparus rugosus)NBRC101839 株由来のL−ピペコリン酸 cis−5−ヒドロキシラーゼSruPH(GenBank Accession No. EFV12517、配列番号6)と、シノメゾビウム・メリロチ(Sinorhizobium meliloti)1021株由来のL−プロリン cis−4−ヒドロキシラーゼSmPH(GenBank Accession No. CAC47686、配列番号5)をコードする大腸菌発現用にコドン最適化された遺伝子配列である、それぞれsruph_Ecodon(配列番号3)とsmph_Ecodon(配列番号2)をDNA2.0社にて人工合成し、それぞれpJexpress411(DNA2.0)とpJexpress401に挿入されたプラスミドpJ411SruPH、pJ401SmPHを作製した。smph_Ecodonに対してはプライマーsmph_f(配列番号7)とsmph_r(配列番号8)を合成し、それらを用いてプラスミドDNAを鋳型とし常法に従ってPCR反応を行い、約1.0kbpのDNA断片を得た。得られたDNA断片を制限酵素NdeI、HindIIIにより消化し、NdeI、HindIIIにより消化したpET24a(Novagen)に常法に従ってライゲーションすることにより、それぞれpET24SmPHを得た。
【実施例2】
【0077】
2−オキソグルタル酸依存型ピペコリン酸水酸化酵素遺伝子発現菌体の取得と発現量の確認 次に、得られた各プラスミドを用いて大腸菌(Escherichia coli)BL21(DE3)(インビトロジェン製)を常法に従い形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pJ411XdPH、BL21(DE3)/pJ411SruPH、そしてBL21(DE3)/pET24SmPHを得た。導入した遺伝子を発現する菌体を得るために、各組換え大腸菌について、カナマイシン及びlacプロモーター誘導物質を含む液体LB培地を用いて、28℃で4時間〜6時間培養後、15℃でさらに約40時間培養した後に集菌した。
得られた組換え大腸菌を濁度OD
630が約10となるように、pH7の50mmol/L MES(2−Morpholinoethanesulfonic acid)バッファーに懸濁した。その懸濁液0.5mLを氷上で超音波破砕処理を行い、その後12,000rpmの回転数で遠心分離することにより上清と残渣に分離した。得られた上清を可溶性画分とし、残渣を不溶性画分とした。
得られた可溶性画分と不溶性画分を常法に従って処理した後、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動法により発現されたタンパク質発現量を確認した。結果を
図1に示した。
【実施例3】
【0078】
2−オキソグルタル酸依存型ピペコリン酸水酸化酵素の活性確認
プラスチックチューブ内で5mmol/L L−ピペコリン酸、10mmol/L 2−オキソグルタル酸、1mmol/L L−アスコルビン酸、0.5mmol/L 硫酸鉄、そして、実施例2で得られた各粗酵素液を約2mg/mLのタンパク質濃度で添加された液0.2mLを、30℃で1時間振盪させた。
反応産物を1−fluoro−2,4−dinitrophenyl−5−L−alaninamide(FDAA)により誘導体化し、その後UPLC‐MS(Waters製)により分析した。その結果、
図2に示す通り、各粗酵素液を用いた反応後の液から5−ヒドロキシピペコリン酸標準品の保持時間5.3分に一致する化合物を生成することが確認された。各酵素液の示した5−ヒドロキシピペコリン
酸生成活性(U/g)は、タンパク質量(g)当りそれぞれ4.1U/g、8.9U/g、3.1U/gと算出された。ここでのユニット(U)は1分間に1μモルの基質を生成する能力を表す。
また、SmPH反応生成物からは、シス−3−ヒドロキシピペコリン酸と考えられる保持時間6.0分の化合物が生成することが確認された。クロマトグラム上のヒドロキシピペコリン酸ピークの面積値から全ヒドロキシピペコリン酸量に占めるシス−3−ヒドロキシピペコリン酸の割合を比較した結果を表2に示した。XdPH反応生成物中には0.17%しかシス−3−ヒドロキシピペコリン酸が生成されなかったことが示されている。
なお、HPLCによるヒドロキシピペコリン酸の分析条件は、以下の表1に示す通りである。
【実施例4】
【0079】
水酸化反応の温度依存性の確認 各酵素反応の温度依存性を確認するため、各水酸化酵素の粗酵素液を種々の温度で1時間30分インキュベートした後に、30℃で1時間反応させた後の5−ヒドロキシピペコリン酸生成量を測定した。得られた結果を、各酵素の最高の活性値を100(%)とした際の相対活性として、
図3に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【実施例5】
【0082】
2−オキソグルタル酸依存型ピペコリン酸水酸化酵素遺伝子のクローニング
キセノラブダス・ドーセティエ(Xenorhabdus doucetiae)FRM16株、及びその類縁種であるキセノラブダス・ロマニ( Xenorhabdus romanii)
PR06−A株由来の染色体DNAを鋳型とし、推定上のL−プロリン cis‐4−ヒドロキシラーゼXdPH遺伝子(XdPHori:GenBank Accession No. FO704550−XDD1_0936、配列番号9)を増
幅させるプライマーであるXdPHfus‐f(配列番号12)とXdPHfus‐r(配列番号13)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりそれぞれ約1kbpのDNA断片を増幅した。得られた2種のDN
A断片を In−fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社製)を用いて、制限酵素NcoI、HindIIIにより消化したpQE60(QIAGEN)に常法に従って挿入し、それぞれpQEXdPHori、pQEXrPHoriを得た。
【0083】
次に得られた各プラスミドを用いて大腸菌(Escherichia coli)JM109を常法に従い形質転換し組換え大腸菌JM109/pQEXdPHori、及びJM109/pQEXrPHoriを得た。常法に従って、pQE60に挿入された遺伝子配列を確認し、キセノラブダス・ロマニ( Xenorhabdus romanii)str.PR06−A株由来のアミノ酸水酸化酵素の遺伝子配列(xrph_ori、配列番号10)とアミノ酸配列(XrPH、配列番号11)を決定した。XrPHはXdPHに対し、99%の同一性を有するものであった。
【0084】
導入した遺伝子を発現する菌体を得るために、各組換え大腸菌についてアンピシリンを含む液体LB培地を用いて一晩培養した後に集菌した。
プラスチックチューブ内で20mmol/L L−ピペコリン酸、15mmol/L 2−オキソグルタル酸、10mmol/L Tris(2−carboxyethyl)phosphine hydrochloride(TCEP)、0.5mmol/L 硫酸鉄、10mmol/L クエン酸ナトリウム、1%Nymeen、及び得られた組換え大腸菌JM109/pQEXdPHori、及びJM109/pQEXrPHoriの培養液0.4mlから得た菌体をpH6.5の50mmol/L Bis(2−hydroxyethyl)iminotris(hydroxymethyl)methaneバッファーで懸濁した液0.2mLを加えて、全容量1mLの反応液とし、これを20℃で20時間振盪させた。
反応後の液を、AccQ・Tag(ウォーターズ社製)を用いて誘導体化した後、下記条件のHPLC条件にて分析して、生成した5−ヒドロキシ−L−ピペコリン酸を測定した。
【0085】
カラム:XBridge C18 5μm(2.1×150mm)(ウォーターズ社製)
溶離液A:10 mmol/L酢酸アンモニウム(pH5)
溶離液B:メタノール(0〜0.5min(0%⇒1%), 0.5〜18min(1%⇒5%), 18〜19min(5%⇒9%), 19〜29.5min(9%⇒17%), 29.5〜40min(17%⇒60%), 40〜43min(60%))
流速:0.3mL/min
検出:蛍光検出器
温度:30℃
【0086】
測定結果を表3に示す。キセノラブダス・ドーセティエ(Xenorhabdus doucetiae)FRM16株由来の水酸化酵素XdPHだけでなく、キセノラブダス・ロマニ( Xenorhabdus romanii)
PR06−A株由来の水酸化酵素についても、ピペコリン酸5位水酸化活性を保持していることが確認された。
【0087】
【表3】