特許第6724306号(P6724306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6724306-熱転写受像シート 図000003
  • 特許6724306-熱転写受像シート 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724306
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】熱転写受像シート
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20200706BHJP
【FI】
   B41M5/52 400
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-154880(P2015-154880)
(22)【出願日】2015年8月5日
(65)【公開番号】特開2017-30294(P2017-30294A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】加藤 了嗣
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−142043(JP,A)
【文献】 特開平09−024676(JP,A)
【文献】 特開2000−108527(JP,A)
【文献】 特開平08−276671(JP,A)
【文献】 特開2006−130892(JP,A)
【文献】 特開2005−205694(JP,A)
【文献】 特開平10−324072(JP,A)
【文献】 特開平02−235792(JP,A)
【文献】 特開2014−069361(JP,A)
【文献】 特開2005−096344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/382 − 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面に少なくとも染料受容層を設け、他方の面に少なくとも背面層を設けてなり、昇華性熱転写記録媒体の昇華性染料を、サーマルプリンタを用いて前記染料受容層に熱転写することにより画像を形成し、印画物を得るための熱転写受像シートであって、
前記背面層は、バインダ樹脂とシリカと電荷制御剤とを含有しており、かつ、この電荷制御剤がスチレンアクリル系ポリマーからなり、
前記電荷制御剤の添加量は、バインダ樹脂100部に対して0.1部以上1.0部以下の範囲であることを特徴とする熱転写受像シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサーマルヘッド等を介して昇華性染料を熱転写することにより画像を記録し、印画物を作成するために用いられる熱転写受像シートに関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等で撮影した画像を印刷する方式としては、インクジェット方式、昇華転写記録方式が主流である。昇華転写記録方式はインクジェット方式と比して階調表現に優れるという利点がある。
【0003】
昇華性熱転写方式は、プリンタの高機能化と併せて各種画像を簡便に形成できるため、身分証明書などのカード類を始め、アミューズメント用出力物等に広く利用されている。このように用途の多様化と供に、得られる印画物への耐久性を求める声も大きくなり、最近では上記のような昇華性熱転写記録媒体により形成された画像等の上に熱転写保護層を転写し、耐久性をより向上させる方法が普及してきている。
【0004】
このような熱転写保護層を有する昇華性熱転写記録媒体においては、近年、高速化という観点から、プリンタにより印画されて排出されてくる多量の印画物の捌き性を向上させたいという要求も一段と強くなってきている。
【0005】
また、多量に印画した際に静電気の帯電によってプリンタの紙詰まりが発生することがある。このような課題を解決するために熱転写保護層の帯電量の低減や微粒子の添加、熱転写受像シートの帯電列の調整方法について検討がなされている。
【0006】
例えば、そうした帯電の調整のため、四級アンモニウム塩からなる界面活性やアンチモン酸亜鉛等の導電性金属酸化物を含有させてなる、帯電防止機能を付与した熱転写保護層を有する昇華性熱転写記録媒体が提案されている(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、帯電防止機能を十分に発現させるためには、熱転写保護層に帯電防止剤を多量に添加する必要があり、製造コストの上昇と印画物の保存性能、透明性の低下という問題がある。また、熱転写受像シートの背面については帯電防機能を付与していないため、捌き性が悪化してしまう。
【0008】
また、受容層または背面層にイオン液体を含有させてなる、帯電防止機能を付与した熱転写受像シートが提案されている(特許文献2)。
【0009】
しかしながら、イオン液体は常温で液体であることから、搬送部材への汚染が懸念される。また、低温低湿度環境下や連続で印画を行うことによりプリンタ内に静電気が蓄積することで帯電防止機能が低下し、捌き性が悪化してしまう。
【0010】
また、熱転写受像シートの背面層にスチレンアクリル共重合樹脂を含み、プリンタのローラー表面部材がポリオキシメチレン樹脂を含むことで、印画物の帯電を調整する熱転写システムが提案されている(特許文献3)。
【0011】
しかしながら、上記提案では、熱転写受像シートの帯電量を調整することができるが、背面層の材料とプリンタのローラーの帯電列から使用できる材料が限定されてしまうことにより、背面層に要求される特性を損なうことがある。また、連続で印画を行うことによりプリンタ内に静電気が蓄積することで捌き性が悪化してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平11−105437号公報
【特許文献2】特開2014−69361号公報
【特許文献3】特開2014−65246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明はこのような事情を鑑みて成されたものであり、熱転写受像シートの背面層に要求される機能を損なうことなく、印画物の帯電量を抑制することで、良好な捌き性および排紙性が確保できる熱転写受像シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、基材の一方の面に少なくとも染料受容層を設け、他方の面に少なくとも背面層を設けてなり、昇華性熱転写記録媒体の昇華性染料を、サーマルプリンタを用いて前記染料受容層に熱転写することにより画像を形成し、印画物を得るための熱転写受像シートであって、
前記背面層は、バインダ樹脂とシリカと電荷制御剤とを含有しており、かつ、この電荷制御剤がスチレンアクリル系ポリマーからなり、
前記電荷制御剤の添加量は、バインダ樹脂100部に対して0.1部以上1.0部以下の範囲であることを特徴とする熱転写受像シートである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高速プリンタによる高速連続印画によって排出されてくる印画物でも、背面側の帯電量が抑えられ、良好な捌き性および排紙性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の熱転写受像シートの一形態に係る概略の断面構造を説明する概念図である。
図2】本発明における、他の形態の熱転写受像シートを用いた印画物を説明した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の熱転写受像シート1の一例を示す模式的な断面図である。熱転写受像シート1は基材2と、基板2の一方の側に設けられた染料受容層3と、基材2の他方の側に設けられた背面層4を備えている。
【0020】
図2は、本発明の他の形態の熱転写受像シート1を用い、昇華性熱転写記録媒体から、サーマルプリンタ用いて、昇華色素を印画した印画物6を示しており、基材2と染料受容層3の間に中間層5を設け構成を示している。
【0021】
<基材2>
基材2としては上質紙、コート紙、各種合成紙、レジンコート紙等を適宜用いることが可能である。とりわけ、セルロース繊維紙の表裏をポリエチレンやポリプロピレン樹脂で被覆したレジンコート紙は白色度、光沢度に優れるため好適に用いられる。
【0022】
<染料受容層3>
本発明の熱転写受像シート1においては、基材2の背面層4を形成した側ともう一方の側に昇華性染料を受容する染料受容層3が形成される。染料受容層3は、例えばバインダ樹脂と離型剤を含有する塗布液を用いて形成される。
【0023】
受容層のバインダ樹脂としてはアクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂等を適宜用いることが可能であるが、染料受容性と離型性のバランスに優れた塩化ビニル・アクリル共重合体もしくは塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体が好適に用いられる。
【0024】
<離型剤>
受容層塗布液に用いる離型剤としては、シリコーンオイル、フッ素系化合物、リン酸エステル系化合物等を適宜用いることが可能である。本発明の水系塗布液においてはポリエーテル変性したシリコーンオイルがより好適に用いられる。
【0025】
<中間層5>
本発明の熱転写受像シート1において、染料転写時の熱により基材2がダメージを受けることを避けるため、基材2と染料受容層3の間に中間層5を設けることが可能である。中間層5としてはバインダ樹脂に中空粒子を分散させたもの、あるいは発泡処理を施した高分子膜、例えば発泡ポリプロピレン等が好適に用いられる。
【0026】
<背面層4>
本発明の熱転写受像シート1は、少なくともバインダ樹脂とシリカ、電荷制御剤を含有する塗布液を用いて形成された背面層4を有する。塗布液としては水系、溶剤系の双方を用いることが可能であるが、環境負荷の少ない水系塗布液が好ましく用いられる。
【0027】
また、本発明の熱転写受像シート1における背面層4にはブロッキング性、インキ定着性を向上させるために各種フィラーを併用することが可能である。フィラーとしてはゲル法シリカ、コロイダルシリカ、さらには高分子フィラー等を適宜用いることが可能である。
【0028】
<バインダ樹脂>
背面層4のバインダ樹脂としては、ガラス転移温度が70℃以上のエマルジョンが好適に用いられる。ガラス転移温度が70℃以上のエマルジョンを用いることで、耐ブロッキング性を損なわない背面層4を形成することができる。エマルジョンは、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、およびアクリル・スチレン樹脂からなる群より少なくとも1種以上を含むものが好ましい。
【0029】
<電荷制御剤>
本発明における背面層4は、搬送時の剥離帯電を制御するために電荷制御剤を有することを特徴とする。電荷制御剤としては、正帯電用の電荷制御剤としては、スチレンアクリル系ポリマー、アジン系化合物、4級アンモニウム塩、アゾ含金属化合物、負帯電用の電荷制御剤としては、スチレンアクリル系ポリマー、アゾ含金属化合物、サリチル酸系化合物などが挙げられ、特にスチレンアクリル系ポリマーを使用した場合に良好な特性を得ることができる。
【0030】
電荷制御剤は背面層4と搬送部材の剥離帯電の帯電符号によって適時選択して使用する
ことが好ましい。
【0031】
電荷制御剤は背面層4を形成するバインダ樹脂100部に対して0.1部以上1.0部以下の範囲で添加するのが好ましく、0.3部以上0.8部以下の範囲で添加することがより好ましい。添加量が0.1部未満の場合、電荷制御剤の効果が十分得られず、背面層4の帯電量が大きいままになってしまい、捌き性が悪化してしまう。添加量が1.0部以上の場合、電荷制御剤と同符号の帯電が発生し、捌き性が悪化してしまう。
【0032】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
<熱転写受像シート1の作製>
基材2としてレジンコート紙(フェリックス・シェラー社製)を用い、基材2の一方の面に背面層4をグラビアコーターにて形成し、もう一方の面に染料受容層3を形成することで熱転写受像シート1を得た。
【0034】
<背面層4の形成>
背面層4は、コロナ処理を施した前記レジンコート紙上に背面層塗布液を乾燥後の塗布量が0.8g/cmになるようにグラビアコーターで塗布し、90℃で1分間乾燥させることにより、背面層4を形成した。
【0035】
<背面層塗布液>
背面層塗布液の組成は、
ポリエステル系エマルジョン 55.00質量部
MD‐1200(東洋紡社製 固形分34%)
シリカ粒子CX−400(東ソー・シリカ社製) 0.90質量部正帯電電荷制御剤 スチレンアクリル系ポリマー 0.09質量部
FCA−201−PS(藤倉化成社製)
純水 22.00質量部イソプロピルアルコール 22.00質量部である。
【0036】
<染料受容層3の形成>
染料受容層3は前記基材2の背面層4を形成していない側にコロナ処理を施した後、乾燥後の塗布量が2.0g/cmになるようにグラビアコーターで塗布し、90℃で1分間乾燥させることにより、染料受容層3を形成した。
【0037】
<染料受容層塗布液>
染料受容層塗布液の組成は
塩化ビニル・アクリル共重合体 81.80質量部
ビニブラン701(日信化学社製 固形分30%)
ポリエーテル変性シリコーンオイル KF‐354L(信越化学社製) 2.50質量部純水 15.70質量部である。
【実施例2】
【0038】
背面層塗布液を下記としたこと以外は、実施例1と同様に、実施例2の熱転写受像シートを得た。
【0039】
背面層塗布液の組成は、
ポリエステル系エマルジョン 55.00質量部
MD‐1200(東洋紡社製 固形分34%)
シリカ粒子CX−400(東ソー・シリカ社製) 0.90質量部正帯電電荷制御剤 スチレンアクリル系ポリマー 0.06質量部
FCA−201−PS(藤倉化成社製)
純水 22.00質量部イソプロピルアルコール 22.00質量部である。
【実施例3】
【0040】
背面層塗布液を下記としたこと以外は、実施例1と同様に、実施例3熱転写受像シートを得た。
【0041】
背面層塗布液の組成は、
ポリエステル系エマルジョン 55.00質量部
MD‐1200(東洋紡社製 固形分34%)
シリカ粒子CX−400(東ソー・シリカ社製) 0.90質量部正帯電電荷制御剤 スチレンアクリル系ポリマー 0.15質量部
FCA−201−PS(藤倉化成社製)
純水 22.00質量部イソプロピルアルコール 22.00質量部である。
【実施例4】
【0042】
背面層塗布液を下記としたこと以外は、実施例1と同様に、実施例4の熱転写受像シートを得た。
【0043】
背面層塗布液の組成は、
ポリエステル系エマルジョン 55.00質量部
MD‐1200(東洋紡社製 固形分34%)
シリカ粒子CX−400(東ソー・シリカ社製) 0.90質量部正帯電電荷制御剤 スチレンアクリル系ポリマー 0.02質量部
FCA−201−PS(藤倉化成社製)
純水 22.00質量部イソプロピルアルコール 22.00質量部である。
【実施例5】
【0044】
背面層塗布液を下記としたこと以外は、実施例1と同様に、実施例5の熱転写受像シートを得た。
【0045】
背面層塗布液の組成は、
ポリエステル系エマルジョン 55.00質量部
MD‐1200(東洋紡社製 固形分34%)
シリカ粒子CX−400(東ソー・シリカ社製) 0.90質量部正帯電電荷制御剤 スチレンアクリル系ポリマー 0.19質量部
FCA−201−PS(藤倉化成社製)
純水 22.00質量部イソプロピルアルコール 22.00質量部
である。
【0046】
<比較例1>
背面層塗布液を下記としたこと以外は、実施例1と同様に、比較例1の熱転写受像シートを得た。
【0047】
背面層塗布液の組成は、
ポリエステル系エマルジョン 55.00質量部
MD‐1200(東洋紡社製 固形分34%)
シリカ粒子CX−400(東ソー・シリカ社製) 0.90質量部純水 22.00質量部イソプロピルアルコール 22.00質量部である。
【0048】
<印画物6作製>
実施例1〜5、及び比較例1にて得られた昇華性熱転写記録媒体、熱転写受像シート1を用いて、評価用サーマルプリンタにより最高濃度の全画面黒画像(黒ベタ)を印画した。
【0049】
<帯電量測定>
デジタル静電電位測定器KSD−1000(春日電機社製)を用いて、評価用サーマルプリンタより排出される印画物6の熱転写受像シート1の背面層の帯電量(Va)を測定した。
【0050】
<捌き性評価>
捌き性の評価は、評価用サーマルプリンタより排出される印画物30枚を乱雑に積み重ね、4隅のズレ量が2mm以内に整えることができるかにより判断した。
評価基準は、
○:印画物同士が貼り付かず、容易に整えることができる
△:印画物同士に軽微な貼り付きがあるが、整えることができる
×:印画物同士に貼り付きがあり、整えることができない
とし、○および△が実用上問題ないレベルである。
【0051】
<排紙性評価>
排紙性の評価は、評価用サーマルプリンタにて低温低湿度環境(10℃20%)下で連続印画を行い、排出される印画物が排紙口でつまりが発生しないか確認した。
評価基準は、
○:排紙口でつまらずに排紙することができる
×:排紙口でつまり、排紙することができない
とした。
【0052】
以上結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
背面層4に、正帯電電荷制御剤であるスチレンアクリル系ポリマーを添加することにより、捌き性、排紙性が向上することが分かった。特に、高速プリンタによる高速連続印画において、良好な捌き性および排紙性を確保できた。
【0054】
また、背面側の帯電量(Va)が、|Va|<0.20kvである実施例1〜3は良好な捌き性を示したが、範囲外の実施例4、5は軽微な貼り付きがあり、背面側の帯電量(Va)が|Va|<0.20kvの範囲にあることが捌き性にはより好適であることが分かった。
【符号の説明】
【0055】
1・・・熱転写受像シート
2・・・基材
3・・・染料受容層
4・・・背面層
5・・・中間層
6・・・印画物
7・・・熱転写部
図1
図2