特許第6724317号(P6724317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724317
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20200706BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   B60C11/03 100C
   B60C11/03 200A
   B60C11/12 D
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-176021(P2015-176021)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-52327(P2017-52327A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】小石川 佳史
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−134575(JP,A)
【文献】 特開2014−180948(JP,A)
【文献】 特表2015−504808(JP,A)
【文献】 特開2015−134580(JP,A)
【文献】 特開2011−011695(JP,A)
【文献】 特開2013−151235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在する周方向主溝と、前記周方向主溝に区画された陸部とを備える空気入りタイヤであって、
前記陸部が、第一溝、第二溝および第三溝を一組として構成された複数組の溝ユニットを備え、
前記第一溝、前記第二溝および前記第三溝が、相互に交差することなく配置されて90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔で放射状に延在し、
前記第一溝が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝であり、一方の端部にて前記周方向主溝あるいはタイヤ接地端に開口すると共に他方の端部にて前記陸部内で終端するセミクローズド構造を有し、
前記第一溝のタイヤ周方向に対する傾斜角θ1が、30[deg]≦θ1≦60[deg]の範囲にあり、
タイヤ接地端上にある前記陸部と当該陸部に隣り合う他の前記陸部とが、複数組の前記溝ユニットをそれぞれ備え、且つ、
一方の前記陸部に配置された前記第一溝の傾斜方向と、他方の前記陸部に配置された前記第一溝の傾斜方向とが、相互に逆方向であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第二溝が、0.6[mm]以上1.2[mm]以下の溝幅を有する細溝あるいはサイプであり、左右の端部にて前記陸部内で終端するクローズド構造を有する請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第二溝のタイヤ周方向に対する傾斜角θ2と、前記第一溝のタイヤ周方向に対する傾斜角θ1および前記第三溝のタイヤ周方向に対する傾斜角θ3とが、θ2<θ1かつθ2<θ3の関係を有する請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第二溝のタイヤ周方向に対する傾斜角θ2が、0[deg]≦θ2≦30[deg]の範囲にある請求項1〜3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第三溝が、0.6[mm]以上2.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝、細溝あるいはサイプであり、一方の端部にて前記周方向主溝に開口すると共に他方の端部にて前記陸部内で終端するセミクローズド構造を有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第一溝のタイヤ幅方向の延在長さL1と、前記陸部の幅Wとが、0.4≦L1/W≦0.8の関係を有する請求項1〜5のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第二溝のタイヤ周方向の延在長さL2と、前記陸部の幅Wとが、0.2≦L2/W≦0.5の関係を有する請求項1〜6のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記第一溝の溝幅Wg1と、前記第二溝の溝幅Wg2および前記第三溝の溝幅Wg3とが、Wg2<Wg1かつWg3<Wg1の関係を有する請求項1〜7のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記第一溝と前記第二溝との距離Da、ならびに、前記第一溝と前記第三溝との距離Dbが、1.0[mm]≦Da≦5.0[mm]かつ1.0[mm]≦Db≦5.0[mm]の関係を有する請求項1〜8のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記周方向主溝の溝深さH0と、前記第一溝の溝深さH1とが、0.5≦H1/H0≦0.9の関係を有する請求項1〜9のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記第一溝の溝深さH1と、前記第二溝の溝深さH2および前記第三溝の溝深さH3とが、H2<H1かつH3<H1の関係を有する請求項1〜10のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記周方向主溝に区画されたタイヤ幅方向内側の前記陸部を内側陸部として定義し、タイヤ幅方向外側の前記陸部と外側陸部として定義し、
前記内側陸部および前記外側陸部が、複数組の前記溝ユニットをそれぞれ備え、
前記内側陸部の前記溝ユニットが、前記内側陸部のタイヤ幅方向外側のエッジ部に開口する前記第一溝を有し、
前記外側陸部の前記溝ユニットが、前記外側陸部のタイヤ幅方向内側のエッジ部に開口する前記第三溝を有し、且つ、
前記内側陸部の前記第一溝が、前記外側陸部の前記第三溝の延長線上にある請求項1〜11のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記周方向主溝に区画された左右の前記陸部が、複数組の前記溝ユニットをそれぞれ備え、且つ、
一方の前記陸部に配置された前記第一溝と、他方の前記陸部に配置された前記第一溝とが、タイヤ周方向にオフセットして配置される請求項1〜12のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
タイヤ接地端上にある前記陸部と当該陸部に隣り合う他の前記陸部とが、複数組の前記溝ユニットをそれぞれ備え、且つ、
タイヤ接地端上にある前記陸部に配置された前記第二溝のタイヤ周方向の延在長さが、前記他の陸部に配置された前記第二溝のタイヤ周方向の延在長さよりも長い請求項1〜13のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
タイヤ周方向に延在する周方向主溝と、前記周方向主溝に区画された陸部とを備える空気入りタイヤであって、
前記陸部が、第一溝、第二溝および第三溝を一組として構成された複数組の溝ユニットを備え、
前記第一溝、前記第二溝および前記第三溝が、相互に交差することなく配置されて105[deg]以上135[deg]以下の配置間隔で放射状に延在し、且つ、
前記第一溝が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝であり、一方の端部にて前記周方向主溝あるいはタイヤ接地端に開口すると共に他方の端部にて前記陸部内で終端するセミクローズド構造を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項16】
タイヤ周方向に延在する周方向主溝と、前記周方向主溝に区画された陸部とを備える空気入りタイヤであって、
前記陸部が、第一溝、第二溝および第三溝を一組として構成された複数組の溝ユニットを備え、
前記第一溝、前記第二溝および前記第三溝が、相互に交差することなく配置されて90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔で放射状に延在し、
前記第一溝が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝であり、一方の端部にて前記周方向主溝あるいはタイヤ接地端に開口すると共に他方の端部にて前記陸部内で終端するセミクローズド構造を有する、且つ、
前記第二溝の溝幅Wg2と、前記第一溝の溝幅Wg1および前記第三溝の溝幅Wg3とが、Wg2<Wg3かつWg2<Wg1の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、タイヤのウェット性能とドライ性能とが両立できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な空気入りタイヤは、陸部がラグ溝を備えることにより、タイヤのウェット性能やスノー性能を確保している。かかる構成を採用する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−151235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、陸部の溝面積が増加すると、溝の排水作用が増加してタイヤのウェット性能が向上するが、一方で、陸部の剛性が低下してタイヤのドライ性能が低下する傾向にある。
【0005】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、タイヤのウェット性能とドライ性能とを両立できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在する周方向主溝と、前記周方向主溝に区画された陸部とを備える空気入りタイヤであって、前記陸部が、第一溝、第二溝および第三溝を一組として構成された複数組の溝ユニットを備え、前記第一溝、前記第二溝および前記第三溝が、相互に交差することなく配置されて90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔で放射状に延在し、前記第一溝が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝であり、一方の端部にて前記周方向主溝あるいはタイヤ接地端に開口すると共に他方の端部にて前記陸部内で終端するセミクローズド構造を有し、前記第一溝のタイヤ周方向に対する傾斜角θ1が、30[deg]≦θ1≦60[deg]の範囲にあり、タイヤ接地端上にある前記陸部と当該陸部に隣り合う他の前記陸部とが、複数組の前記溝ユニットをそれぞれ備え、且つ、一方の前記陸部に配置された前記第一溝の傾斜方向と、他方の前記陸部に配置された前記第一溝の傾斜方向とが、相互に逆方向であることを特徴とする。
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在する周方向主溝と、前記周方向主溝に区画された陸部とを備える空気入りタイヤであって、前記陸部が、第一溝、第二溝および第三溝を一組として構成された複数組の溝ユニットを備え、前記第一溝、前記第二溝および前記第三溝が、相互に交差することなく配置されて105[deg]以上135[deg]以下の配置間隔で放射状に延在し、且つ、前記第一溝が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝であり、一方の端部にて前記周方向主溝あるいはタイヤ接地端に開口すると共に他方の端部にて前記陸部内で終端するセミクローズド構造を有することを特徴とする。
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在する周方向主溝と、前記周方向主溝に区画された陸部とを備える空気入りタイヤであって、前記陸部が、第一溝、第二溝および第三溝を一組として構成された複数組の溝ユニットを備え、前記第一溝、前記第二溝および前記第三溝が、相互に交差することなく配置されて90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔で放射状に延在し、前記第一溝が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝であり、一方の端部にて前記周方向主溝あるいはタイヤ接地端に開口すると共に他方の端部にて前記陸部内で終端するセミクローズド構造を有する、且つ、前記第二溝の溝幅Wg2と、前記第一溝の溝幅Wg1および前記第三溝の溝幅Wg3とが、Wg2<Wg3かつWg2<Wg1の関係を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、3本の溝を一組とする溝ユニットにより、タイヤのウェット性能が確保される。また、溝が相互に交差することなく配置されるので、陸部の剛性が確保されて、タイヤのドライ性能が確保される。また、溝が90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔α、β、γで放射状に延在するので、溝が偏在する構成と比較して、陸部の剛性が効率的に確保されてタイヤのドライ性能が効率的に向上する。また、第一溝がラグ溝であることにより、陸部の排水性が確保されて、タイヤのウェット性能が確保される。これらにより、タイヤのウェット性能とドライ性能が両立する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
図2図2は、図1に記載した空気入りタイヤのトレッド面を示す平面図である。
図3図3は、図2に記載したトレッドパターンの要部を示す拡大図である。
図4図4は、図2に記載したトレッドパターンの要部を示す拡大図である。
図5図5は、図2に記載したトレッドパターンの要部を示す拡大図である。
図6図6は、図4に記載した溝ユニットの変形例を示す説明図である。
図7図7は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
図8図8は、従来例の試験タイヤを示す説明図である。
図9図9は、比較例の試験タイヤを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0010】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域の断面図を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。
【0011】
同図において、タイヤ子午線方向の断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向にかかるタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0012】
空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17とを備える(図1参照)。
【0013】
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を構成する。
【0014】
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造あるいは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの長手方向の傾斜角として定義される)を有する。
【0015】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で20[deg]以上55[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの長手方向の傾斜角として定義される)を有し、ベルトコードの長手方向を相互に交差させて積層される(いわゆるクロスプライ構造)。ベルトカバー143は、スチールあるいは有機繊維材から成るベルトコードをコートゴムで被覆して構成され、絶対値で0[deg]以上10[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー143は、例えば、1本あるいは複数本のベルトコードをコートゴムで被覆して成るストリップ材であり、このストリップ材を交差ベルト141、142の外周面に対してタイヤ周方向に複数回かつ螺旋状に巻き付けて構成される。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142の全域を覆って配置される。
【0016】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されて、リムフランジに対する左右のビード部の接触面を構成する。
【0017】
[トレッドパターン]
図2は、図1に記載した空気入りタイヤのトレッド面を示す平面図である。同図は、オールシーズン用タイヤのトレッドパターンを示している。同図において、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸周りの方向をいう。また、符号Tは、タイヤ接地端である。
【0018】
図2に示すように、空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝21、22と、これらの周方向主溝21、22に区画された複数の陸部31、32とをトレッド面に備える。
【0019】
主溝とは、JATMAに規定されるウェアインジケータの表示義務を有する溝であり、一般に、4.0[mm]以上の溝幅および7.5[mm]以上の溝深さを有する。
【0020】
溝幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、溝開口部における左右の溝壁の距離の最大値として測定される。陸部が切欠部や面取部をエッジ部に有する構成では、溝長さ方向を法線方向とする断面視にて、トレッド踏面と溝壁の延長線との交点を基準として、溝幅が測定される。また、溝がタイヤ周方向にジグザグ状あるいは波状に延在する構成では、溝壁の振幅の中心線を基準として、溝幅が測定される。
【0021】
溝深さは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面から溝底までの距離の最大値として測定される。また、溝が部分的な凹凸部やサイプを溝底に有する構成では、これらを除外して溝深さが測定される。
【0022】
規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0023】
例えば、図2の構成では、3本の周方向主溝21、22が、タイヤ赤道面CLを中心として、左右対称に配置されている。また、1本の周方向主溝21が、タイヤ赤道面CL上に配置されている。また、これらの周方向主溝21、22により、4列の陸部31、32が区画されている。
【0024】
しかし、これに限らず、4本以上の周方向主溝が配置されても良いし、周方向主溝がタイヤ赤道面CLを中心として左右非対称に配置されても良い(図示省略)。また、1つの周方向主溝がタイヤ赤道面CLから外れた位置に配置されることにより、陸部がタイヤ赤道面CL上に位置しても良い(図示省略)。
【0025】
ここで、タイヤ赤道面CLを境界とする1つの領域(タイヤ赤道面CL上を含む)に配置された2本以上の周方向主溝のうち、タイヤ幅方向の最も外側にある周方向主溝22、22を最外周方向主溝として定義する。
【0026】
また、左右の最外周方向主溝22、22を境界とするタイヤ幅方向内側の領域をセンター領域として定義し、タイヤ幅方向外側の領域をショルダー領域として定義する。また、センター領域にある陸部31、31をセンター陸部として定義し、ショルダー領域にある陸部32、32をショルダー陸部として定義する。
【0027】
また、図2の構成では、周方向主溝21、22が、ストレート形状を有している。しかし、これに限らず、周方向主溝21、22が、タイヤ幅方向に振幅を有するジグザグ形状あるいは波状形状を有しても良い(図示省略)。
【0028】
また、図2の構成では、空気入りタイヤ1が、タイヤ赤道面CL上の点を中心とする左右点対称なトレッドパターンを有している。しかし、これに限らず、空気入りタイヤ1が、例えば、タイヤ赤道面CLを中心とする左右線対称なトレッドパターンあるいは左右非対称なトレッドパターンを有しても良いし、タイヤ回転方向に方向性を有するトレッドパターンを有しても良い(図示省略)。
【0029】
[溝ユニット]
図3図5は、図2に記載したトレッドパターンの要部を示す拡大図である。これらの図において、図3は、タイヤ赤道面CLを境界とするトレッドパターンの片側領域の拡大図を示し、図4は、1組の溝ユニット4の拡大図を示し、図5は、図4に記載した溝ユニット4の第一溝41および第三溝43に沿った溝深さ方向の断面図を示している。
【0030】
図3に示すように、各陸部31、32は、複数組の溝ユニット4を備える。溝ユニット4は、第一溝41、第二溝42および第三溝43を1組として構成される。また、複数組の溝ユニット4が、タイヤ周方向に所定間隔で配置される。これらの溝41〜43により、タイヤのウェット性能が確保される。
【0031】
また、図4に示すように、第一溝41、第二溝42および第三溝43が、相互に交差することなく配置される。すなわち、3本の溝41〜43が相互に離間しており、連通していない。このため、陸部31、32が、溝ユニット4の溝41〜43により分断されておらず、タイヤ周方向に連続した踏面を備える。これにより、陸部31、32の剛性が確保されて、ドライ路面でのタイヤの操縦安定性能が向上する。
【0032】
また、第一溝41、第二溝42および第三溝43が、90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔で放射状に延在する。具体的には、第一溝41および第二溝42のなす角αと、第二溝42および第三溝43のなす角βと、第三溝43および第一溝41のなす角γとが、いずれも90[deg]以上150[deg]以下の範囲にある。また、角度α〜γが、105[deg]以上135[deg]以下の範囲にあることが好ましい。このように、溝ユニット4の溝41〜43が所定間隔をあけて放射状に配置されることにより、溝41〜43が偏在する構成と比較して、陸部の剛性が適正に確保されてタイヤのドライ性能が効率的に向上する。
【0033】
また、溝ユニット4の外周を囲んだ領域、具体的には、3本の溝41〜43の端部を結ぶ三角形の領域には、他の溝あるいはサイプが配置されておらず、陸部31が連続した踏面を有する。これにより、陸部31、32の剛性が効率的に確保されてタイヤのドライ性能が効率的に向上する。また、タイヤのスノー性能が向上する。
【0034】
溝41〜43のなす角α、β、γは、溝41〜43の両端部を結んだ各仮想線のなす角として定義される。
【0035】
第一溝41は、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅Wg1(図4参照)を有するラグ溝であり、主としてタイヤ幅方向に延在する。また、第一溝41の溝幅Wg1が、1.7[mm]≦Wg1≦2.5[mm]の範囲にあることが好ましい。また、第一溝41は、タイヤ接地面で開口して排水作用およびエッジ作用を発揮することにより、タイヤのウェット性能およびスノー性能を高める。また、第一溝41は、一方の端部にて周方向主溝22あるいはタイヤ接地端Tに開口し(図3参照)、他方の端部にて陸部31内で終端するセミクローズド構造を有する。このとき、図3に示すように、第一溝41が、陸部31のタイヤ幅方向外側にある周方向主溝22あるいはタイヤ接地端Tに開口することが好ましい。これにより、第一溝41の排水作用およびスノー性能が向上する。
【0036】
タイヤ接地面は、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に静止状態にて平板に対して垂直に置かれて規定荷重に対応する負荷を加えられたときのタイヤと平板との接触面として定義される。
【0037】
第二溝42は、0.6[mm]以上1.2[mm]以下の溝幅を有する細溝あるいはサイプであり、主としてタイヤ周方向に延在する。また、第二溝42が、1.0[mm]未満の溝幅Wg2を有してタイヤ接地面で閉塞するサイプあることが好ましい。また、第二溝42は、ウェット路面での吸水作用により、タイヤのウェット性能を高める。また、第二溝42により、雪上路面および氷上路面に対する吸着作用が増加して、タイヤのスノー性能および氷上性能が高まる。また、第二溝42は、左右の端部にて陸部31、32内で終端するクローズド構造を有する。タイヤ周方向に延在する第二溝42が、第一溝41と比較して狭い溝幅を有することにより、陸部31、32の剛性が適正に確保されてタイヤのドライ性が向上する。
【0038】
細溝とサイプとは、細溝がタイヤ接地面にて開口し、サイプがタイヤ接地面で閉塞する点で区別される。
【0039】
第三溝43は、0.6[mm]以上2.0[mm]以下の溝幅Wg3を有するラグ溝、細溝あるいはサイプであり、主としてタイヤ幅方向に延在する。また、第三溝43は、一方の端部にて周方向主溝21に開口し、他方の端部にて陸部31内で終端するセミクローズド構造を有する。また、第三溝43が、異なる第一溝41とは異なる側に延在して、陸部31;32のタイヤ赤道面CL側の周方向主溝21;22(図2および図3参照)に開口する。
【0040】
また、第一溝41の溝幅Wg1と、第二溝42の溝幅Wg2および第三溝43の溝幅Wg3とが、Wg2<Wg1かつWg3<Wg1の関係を有する。すなわち、ラグ溝である第一溝41の溝幅Wg1が最も広い。これにより、第一溝41のラグ溝としての機能が有効に発揮されて、タイヤのウェット性能が向上する。
【0041】
一方で、第二溝42の溝幅Wg2と、第一溝41の溝幅Wg1および第三溝43の溝幅Wg3とが、Wg2<Wg3かつWg2<Wg1の関係を有する。すなわち、主としてタイヤ周方向に延在する第二溝42の溝幅Wg2が最も狭い。これにより、陸部31、32の剛性が確保されて、タイヤのドライ性能が確保される。
【0042】
なお、溝幅Wg1〜Wg3の差が、0.1[mm]以上あることが好ましい。
【0043】
また、図4において、第一溝41のタイヤ周方向に対する傾斜角θ1が、30[deg]≦θ1≦60[deg]の範囲にあることが好ましく、40[deg]≦θ1≦50[deg]の範囲にあることが好ましい。これにより、第一溝41の排水作用が向上して、第一溝41のラグ溝としての機能が確保される。
【0044】
また、第二溝42のタイヤ周方向に対する傾斜角θ2が、0[deg]≦θ2≦30[deg]の範囲にあることが好ましく、0[deg]≦θ2≦20[deg]の範囲にあることがより好ましい。このとき、第二溝42が、溝ユニット4の中央部から周辺部に向かって第一溝41側に傾斜しても良いし(図4参照)、逆に、第三溝43側に傾斜しても良い(図示省略)。
【0045】
傾斜角θ1〜θ3は、溝41〜43の両端部を結んだ各仮想線とタイヤ周方向とのなす角であり、0[deg]以上90[deg]以下の範囲で定義される。
【0046】
また、第二溝42のタイヤ周方向に対する傾斜角θ2と、第一溝41のタイヤ周方向に対する傾斜角θ1および第三溝43のタイヤ周方向に対する傾斜角θ3とが、θ2<θ1かつθ2<θ3の関係を有する。すなわち、第二溝42が主としてタイヤ周方向に延在し、その結果として、他の溝41、43が、上記配置間隔の角度α、β、γの制約を受けて主としてタイヤ幅方向に延在する。
【0047】
例えば、図4の構成では、第一溝41、第二溝42および第三溝43が陸部31の中央部で終端部を相互に対向させ、この位置を中心として放射状にそれぞれ延在している。また、第一溝41が、タイヤ周方向に対して傾斜角θ1で傾斜して、タイヤ幅方向外側の周方向主溝22(図3参照)に開口している。また、第三溝43が、第一溝41に対して逆方向に傾斜角θ2で傾斜して、タイヤ赤道面CL側の周方向主溝21に開口している。このため、第一溝41および第三溝43が、タイヤ周方向に凸となるV字形状に配置されている。また、第二溝42が、第一溝41および第三溝43のV字形状の凸方向に傾斜角θ2で延在している。これにより、第二溝42が陸部31の中央部でタイヤ周方向に延在して、第一溝41および第三溝43が第二溝42を中心としてタイヤ幅方向の左右に延在している。
【0048】
また、図4に示すように、1本の第一溝41に対して、他の2本の第二溝42および第三溝43が近接して配置される。具体的には、第一溝41と第二溝42との距離Da、ならびに、第一溝41と第三溝43との距離Dbが、1.0[mm]≦Da≦5.0[mm]かつ1.0[mm]≦Db≦5.0[mm]の関係を有する。第二溝42と第三溝43との距離Dc(図中の寸法記号省略)の範囲は、特に限定がないが、他の距離Da、Dbと同様に、1.0[mm]≦Dc≦5.0[mm]の範囲にあることが好ましい。
【0049】
距離Da〜Dcは、トレッド踏面における隣り合う溝41〜43の距離として測定される。
【0050】
例えば、図4の構成では、上記のように3本の溝41〜43が、陸部31の中央部で終端部を相互に対向させ、この位置を中心として放射状にそれぞれ延在している。また、第一溝41と第二溝42とが、タイヤ周方向に相互に離間して配置され、タイヤ周方向に相互にオーバーラップしていない。また、第一溝41と第二溝42とが、陸部31内の終端部で最も近接している。このため、隣り合う溝31、32の距離Daが、溝41、42の終端部間の距離として測定される。
【0051】
また、第一溝41と第三溝43とが、タイヤ幅方向に相互に離間して配置され、タイヤ幅方向に相互にオーバーラップしていない。また、第一溝41と第三溝43とが、陸部31内の終端部で最も近接している。このため、隣り合う溝31、33の距離Dbが、溝41、43の終端部間の距離として測定される。上記の構成では、第一溝41と、第二溝42および第三溝43とがタイヤ周方向あるいはタイヤ幅方向の相互に異なる位置に配置されるので、各溝41〜43の作用を効率的に得られる点で好ましい。
【0052】
また、第二溝42と、第一溝41および第三溝43の双方とが、タイヤ周方向に相互に離間して、タイヤ周方向にオーバーラップしていない。また、第三溝43と、第一溝41および第二溝42とが、タイヤ幅方向に相互に離間して、タイヤ幅方向にオーバーラップしていない。かかる構成では、第二溝42および第三溝43の作用を効率的に得られる点で好ましい。
【0053】
さらに、第一溝41と第三溝43とが、タイヤ周方向の相互に異なる方向に傾斜し、また、タイヤ周方向に相互にオーバーラップして配置される。上記のように、第一溝41と第三溝43とのなす角γが90[deg]以上150[deg]以下の範囲にあるため、第一溝41がタイヤ周方向に対して所定角度θ1で傾斜することにより、第一溝41と第三溝43とが必然的に上記の位置関係を有する。
【0054】
また、図4の構成では、第二溝42が第一溝41側に傾斜することにより、第二溝42と第一溝41とがタイヤ幅方向に相互にオーバーラップし、一方で、第二溝42と第三溝43とがタイヤ幅方向に相互にオーバーラップしていない。しかし、これに限らず、第二溝42が第三溝43側に傾斜することにより、第二溝42と第三溝43とがタイヤ幅方向に相互にオーバーラップしても良い(図示省略)。
【0055】
また、図4において、第一溝41のタイヤ幅方向の延在長さL1と、陸部31、32の幅Wとが、0.4≦L1/W≦0.8の関係を有することが好ましく、0.5≦L1/W≦0.7の関係を有することがより好ましい。これにより、第一溝41の延在長さL1が適正化される。
【0056】
第二溝42のタイヤ周方向の延在長さL2と、陸部31、32の幅Wとが、0.2≦L2/W≦0.5の関係を有することが好ましく、0.2≦L2/W≦0.3の関係を有することがより好ましい。これにより、第二溝42の延在長さL2が適正化される。
【0057】
なお、第三溝43のタイヤ幅方向の延在長さL3(図中の符号省略)は、特に限定がないが、上記した第一溝L1の延在長さL1、第一溝41と第三溝43とのなす角γ、ならびに、第一溝41と第三溝43との距離Dbとの関係により制約を受ける。
【0058】
第一溝41および第三溝43の延在長さL1、L3は、溝41、43の終端部と周方向主溝21、22あるいはタイヤ接地端Tに対する開口部とのタイヤ幅方向の距離として測定される。また、第二溝42の延在長さL2は、溝42の両終端部のタイヤ周方向の距離として測定される。
【0059】
陸部31、32の幅Wは、タイヤが規定リムに装着されて規定内圧を付与されると共に無負荷状態としたときの周方向主溝21、22の溝幅の測定点あるいはタイヤ接地端Tを測定点として、測定される。
【0060】
なお、図4の構成では、溝ユニット4の溝41〜43が、いずれもストレート形状を有している。しかし、これに限らず、各溝41〜43が、円弧形状、波状形状、ジグザグ形状などを任意に有しても良い(図示省略)。例えば、第二溝42あるいは第三溝43が、ジグザグ形状を有するサイプであっても良い。
【0061】
また、図5において、周方向主溝22の溝深さH0と、第一溝41の溝深さH1とが、0.5≦H1/H0≦0.9の関係を有する。また、第一溝41の溝深さH1と、第二溝42の溝深さH2および第三溝43の溝深さH3とが、H2<H1かつH3<H1の関係を有する。したがって、第一溝41の溝深さH1が、他の溝42、43と比較して最も深い。これにより、第一溝41の溝深さH1が適正化される。
【0062】
また、周方向主溝22の溝深さH0と、第二溝42の溝深さH2とが、0.2≦H2/H0≦0.5の関係を有する。また、第二溝42の溝深さH2と、第一溝41の溝深さH1および第三溝43の溝深さH3とが、H2<H3かつH2<H1の関係を有する。したがって、第二溝42の溝深さH2が、他の溝41、43と比較して最も浅い。また、第二溝42の溝深さH2が、1.5[mm]≦H2の範囲にあることが好ましい。これにより、最も浅い第二溝42の溝深さH2が適正に確保される。
【0063】
また、図2の構成では、上記のように、周方向主溝21、22に区画された各陸部31、32が、複数組の溝ユニット4をそれぞれ備える。このとき、隣り合う一方の陸部31、32に配置された第一溝41と、他方の陸部31、32に配置された第一溝41とが、タイヤ周方向に相互にオフセットして配置される。具体的には、隣り合う一方の陸部31、32の第一溝41と他方の陸部31、32の第一溝41とをタイヤ幅方向に投影したときに、両者が相互にオーバーラップしないように配置される。これにより、第一溝41の配置に起因するパターンノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する。
【0064】
また、図2の構成では、上記のように、センター陸部31およびショルダー陸部32が、複数組の溝ユニット4をそれぞれ備える。また、図3に示すように、センター陸部31の溝ユニット4が、センター陸部31のタイヤ幅方向外側のエッジ部に開口する第一溝41を有する。ショルダー陸部32の溝ユニット4が、タイヤ接地端Tに開口する第一溝41と、ショルダー陸部32のタイヤ幅方向内側のエッジ部に開口する第三溝43とを有する。そして、センター陸部31の第一溝41が、ショルダー陸部32の第三溝43の延長線上にある。すなわち、センター陸部31の第一溝41とショルダー陸部32の第三溝43とが、単一の直線上あるいは単一の円弧上に配置される。これにより、タイヤ転動時にて、センター陸部31の第一溝41からショルダー陸部32の第三溝43への排水性が向上して、タイヤのウェット性能が向上する。
【0065】
また、図3に示すように、センター陸部31に配置された第一溝41の傾斜方向と、ショルダー陸部32に配置された第一溝41の傾斜方向とが、相互に逆方向である。具体的には、タイヤ幅方向外側に向かって、センター陸部31の第一溝41が図面の下方に傾斜し、ショルダー陸部32の第一溝41が図面の上方に傾斜している。
【0066】
また、図3に示すように、センター陸部31に配置された第二溝42のタイヤ周方向の延在長さL2(図4参照)が、ショルダー陸部32に配置された第二溝42のタイヤ周方向の延在長さL2よりも長い。これにより、ショルダー陸部32の剛性が確保されている。
【0067】
また、図3の構成では、ショルダー陸部32が、タイヤ周方向に隣り合う第一溝41、41の間に、第四溝44を備える。第四溝44は、0.6[mm]以上2.0[mm]以下の溝幅を有するラグ溝、細溝あるいはサイプである。また、第四溝44は、一方の端部にてタイヤ接地端Tに開口し、他方の端部にてショルダー陸部32内で終端するセミクローズド構造を有する。また、第四溝44の溝深さH4(図中の寸法記号省略)が、第一溝41の溝深さH1(図5参照)よりも浅い。また、第四溝44は、タイヤ接地面内にて、第一溝41に対して平行に延在し、また、第一溝41と同一の溝長さを有する。かかる構成では、第四溝44が配置されることにより、ショルダー陸部32のタイヤ周方向の剛性が均一化されて、ショルダー陸部32の偏摩耗が抑制される。
【0068】
また、第四溝44は、3本の溝41〜43から成る溝ユニット4に交差しない位置に配置される。具体的には、第四溝44が、溝ユニット4の外周を囲む三角形の領域(3本の溝41〜43の端部を結ぶ三角形の領域として定義される)から外れた位置に配置される。これにより、陸部31、32の剛性が効率的に確保されてタイヤのドライ性能が効率的に向上する。また、タイヤのスノー性能が向上する。
【0069】
[変形例]
図6は、図4に記載した溝ユニットの変形例を示す説明図である。同図は、センター陸部31に形成された1つの溝ユニット4の拡大平面図を示している。
【0070】
図4の構成では、第三溝43が、1.2[mm]以下の溝幅Wg3を有する細溝あるいはサイプであり、第一溝41の溝幅Wg1よりも狭い溝幅Wg3を有する。かかる構成では、陸部31の剛性が確保されてタイヤのドライ性能が向上する点で好ましい。
【0071】
これに対して、図6の構成では、第三溝43が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅Wg3を有するラグ溝であり、第一溝41の溝幅Wg1と同等の溝幅Wg3を有する。かかる構成では、図4の構成と比較して、第三溝43の排水作用およびエッジ作用が増加する。これにより、タイヤのウェット性能およびスノー性能が向上する。
【0072】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する周方向主溝21、22と、周方向主溝21、22に区画された陸部31、32とを備える(図2参照)。また、陸部31、32が、第一溝41、第二溝42および第三溝43を1組として構成された複数組の溝ユニット4を備える(図3参照)。また、第一溝41、第二溝42および第三溝43が、相互に交差することなく配置されて90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔α、β、γで放射状に延在する(図4参照)。また、第一溝41が、1.5[mm]以上4.0[mm]以下の溝幅Wg1を有するラグ溝であり、一方の端部にて周方向主溝22あるいはタイヤ接地端Tに開口すると共に他方の端部にて陸部31、32内で終端するセミクローズド構造を有する。
【0073】
かかる構成では、(1)3本の溝41〜43を一組とする溝ユニット4により、タイヤのウェット性能が確保される。また、(2)溝41〜43が相互に交差することなく配置されるので、陸部31、32の剛性が確保されて、タイヤのドライ性能が確保される。また、(3)溝41〜43が90[deg]以上150[deg]以下の配置間隔α、β、γで放射状に延在するので、溝41〜43が偏在する構成と比較して、陸部31、32の剛性が効率的に確保されてタイヤのドライ性能が効率的に向上する。また、(4)第一溝41がラグ溝であることにより、陸部31、32の排水性が確保されて、タイヤのウェット性能が確保される。これらにより、タイヤのウェット性能とドライ性能が両立する利点がある。
【0074】
また、この空気入りタイヤ1では、第二溝42が、0.6[mm]以上1.2[mm]以下の溝幅Wg2を有する細溝あるいはサイプであり、左右の端部にて陸部31、32内で終端するクローズド構造を有する(図4参照)。かかる構成では、第二溝42の吸水作用により、タイヤのウェット性能が向上する。また、第二溝42が幅広なラグ溝である構成と比較して、陸部31、32の剛性が確保されて、タイヤのドライ性能が向上する。これにより、タイヤのウェット性能とドライ性能が両立する利点がある。
【0075】
また、第二溝42のタイヤ周方向に対する傾斜角θ2と、第一溝41のタイヤ周方向に対する傾斜角θ1とが、θ2<θ1の関係を有する(図4参照)。かかる構成では、溝幅が太く排水に有利な第一溝41の角度θ1が第二溝42の傾斜角θ2に優先して大きく設定されるので、ウェット性能が効率よく向上する利点がある。
【0076】
また、この空気入りタイヤ1では、第二溝42のタイヤ周方向に対する傾斜角θ2が、0[deg]≦θ2≦30[deg]の範囲にある(図4参照)。かかる構成では、第二溝42がタイヤ周方向に延在すると共にクローズド構造を有するので、第二溝42の吸水作用によりタイヤのウェット性能が向上する利点がある。
【0077】
また、この空気入りタイヤ1は、第三溝43が、0.6[mm]以上2.0[mm]以下の溝幅Wg3を有するラグ溝、細溝あるいはサイプであり、一方の端部にて周方向主溝21、22に開口すると共に他方の端部にて陸部31、32内で終端するセミクローズド構造を有する(図4参照)。これにより、第三溝43の溝幅Wg3が適正化される利点がある。
【0078】
また、この空気入りタイヤ1では、第一溝41のタイヤ幅方向の延在長さL1と、陸部31、32の幅Wとが、0.4≦L1/W≦0.8の関係を有する(図4参照)。これにより、第一溝41の延在長さL1が適正化される利点がある。すなわち、0.4≦L1/Wであることにより、第一溝41の溝長さL1が確保されて、第一溝41の排水作用およびエッジ成分が確保される。また、L1/W≦0.8であることにより、第一溝41の溝長さL1が過大となることに起因する陸部31、32の剛性低下が回避される。
【0079】
また、この空気入りタイヤ1では、第二溝42のタイヤ周方向の延在長さL2と、陸部31、32の幅Wとが、0.2≦L2/W≦0.5の関係を有する(図4参照)。これにより、第二溝42の溝長さL2が適正化される利点がある。すなわち、0.2≦L2/Wであることにより、第二溝42の溝長さL2が確保されて、第二溝42の吸水作用が確保される。また、L2/W≦0.5であることにより、第二溝42の溝長さL2が過大となることに起因する陸部31、32の剛性低下が回避される。
【0080】
また、この空気入りタイヤ1では、第一溝41の溝幅Wg1と、第二溝42の溝幅Wg2および第三溝43の溝幅Wg3とが、Wg2<Wg1かつWg3<Wg1の関係を有する(図4参照)。これにより、溝ユニット4を構成する溝41〜43の溝幅Wg1〜Wg3の関係が適正化される利点がある。
【0081】
また、この空気入りタイヤ1では、第一溝41と第二溝42との距離Da、ならびに、第一溝41と第三溝43との距離Dbが、1.0[mm]≦Da≦5.0[mm]かつ1.0[mm]≦Db≦5.0[mm]の関係を有する(図4参照)。かかる構成では、溝ユニット4を構成する3本の溝41〜43が相互に近接して配置されるので、陸部31、32の踏面に溝ユニット4を効率的に配置できる利点がある。さらに、3本の溝41〜43の終端部が近接することで排水性が向上して、タイヤのウェット性能が向上する利点がある。
【0082】
また、この空気入りタイヤ1では、周方向主溝21、22の溝深さH0と、第一溝41の溝深さH1とが、0.5≦H1/H0≦0.9の関係を有する(図5参照)。これにより、第一溝41の溝深さH1が適正化される利点がある。すなわち、0.5≦H1/H0であることにより、第一溝41の溝深さH1が確保されて、第一溝41の排水作用およびエッジ成分が確保される。また、H1/H0≦0.9であることにより、第一溝41の溝深さH1が過大となることに起因する陸部31、32の剛性低下が回避される。
【0083】
また、この空気入りタイヤ1では、第一溝41の溝深さH1と、第二溝42の溝深さH2および第三溝43の溝深さH3とが、H2<H1かつH3<H1の関係を有する。これにより、溝ユニット4を構成する溝41〜43の溝深さH1〜H3の関係が適正化される利点がある。
【0084】
また、この空気入りタイヤ1では、内側陸部(例えば、図2のセンター陸部31)および外側陸部(例えば、図2のショルダー陸部32)が、複数組の溝ユニット4をそれぞれ備える。また、内側陸部31の溝ユニット4が、内側陸部31のタイヤ幅方向外側のエッジ部に開口する第一溝41を有し、外側陸部32の溝ユニット4が、外側陸部32のタイヤ幅方向内側のエッジ部に開口する第三溝43を有する(図3参照)。また、内側陸部31の第一溝41が、外側陸部32の第三溝43の延長線上にある。かかる構成では、内側陸部31の第一溝41と外側陸部32の第三溝43とが繋がりにより排水性が向上して、タイヤのウェット性能が向上する利点がある。
【0085】
また、この空気入りタイヤ1では、周方向主溝21、22に区画された左右の陸部31、32が、複数組の溝ユニット4をそれぞれ備える(図2参照)。また、一方の陸部31に配置された第一溝41と、他方の陸部32に配置された第一溝41とが、タイヤ周方向にオフセットして配置される(図3参照)。これにより、第一溝41に起因するパターンノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
【0086】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ接地端T上にある陸部32と当該陸部32に隣り合う他の陸部31とが、複数組の溝ユニット4をそれぞれ備える(図3参照)。また、一方の陸部31に配置された第一溝41の傾斜方向と、他方の陸部32に配置された第一溝41の傾斜方向とが、相互に逆方向である。かかる構成では、車両旋回時の路面に対するグリップ力が右方向に旋回する場合と左方向に旋回する場合とで均一化される。これにより、タイヤの操縦安定性能(特に旋回性能)が確保される利点がある。
【0087】
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ接地端T上にある陸部32と当該陸部32に隣り合う他の陸部31とが、複数組の溝ユニット4をそれぞれ備える(図3参照)。また、タイヤ接地端T上にある陸部32に配置された第二溝42のタイヤ周方向の延在長さL2(図4参照)が、他の陸部31に配置された第二溝42のタイヤ周方向の延在長さL2よりも長い。これにより、ショルダー陸部32の剛性が確保される利点がある。
【実施例】
【0088】
図7は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。図8および図9は、従来例(図8)および比較例(図9)の試験タイヤを示す説明図である。これらの図は、タイヤ片側領域におけるセンター陸部およびショルダー陸部のトレッド平面図を示している。
【0089】
この性能試験では、複数種類の試験タイヤについて、(1)ウェット性能および(2)ドライ性能に関する評価が行われた。また、タイヤサイズ155/65R14 75Sの試験タイヤがリムサイズ14×4.5Jのリムに組み付けられ、この試験タイヤに空気圧230[kPa]およびJATMA規定の最大負荷が付与される。また、試験タイヤが、試験車両である排気量0.66[L]の軽自動車の総輪に装着される。
【0090】
(1)ウェット性能(ウェット操縦安定性能)に関する評価では、試験車両が水深1[mm]で散水したアスファルト路を速度40[km/h]で走行する。そして、テストドライバーがレーチェンジ時およびコーナリング時における操舵性ならびに直進時における安定性について官能評価を行う。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が大きいほど好ましい。
【0091】
(2)ドライ性能(ドライ操縦安定性能)に関する評価では、試験車両が平坦な周回路を有するドライ路面のテストコースを60[km/h]〜100[km/h]で走行する。そして、テストドライバーがレーチェンジ時およびコーナリング時における操舵性ならびに直進時における安定性について官能評価を行う。この評価は従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その数値が大きいほど好ましい。
【0092】
実施例1〜10の試験タイヤは、図1図3の構成を備え、放射状に配置された3本の溝41〜43から成る複数組の溝ユニット4を有する。また、センター陸部31の幅WがW=20[mm]である。また、センター陸部31の第一溝41の幅方向長さL1および第二溝42の周方向長さL2が、L1=12[mm]、L2=8.0[mm]である。また、最外周方向主溝22の溝深さH0がH0=6.5[mm]である。また、実施例1では、センター陸部31の第一溝41〜第三溝43の溝深さH1〜H3が、H1=5.0[mm]、H2=2.0[mm]、H3=4.0[mm]である。
【0093】
比較例1の試験タイヤ(図8参照)は、第一溝がセンター陸部をタイヤ幅方向に貫通して陸部の左右の周方向主溝を連通させている。また、第二溝および第三溝が、第一溝に連通している。比較例2の試験タイヤ(図9参照)は、実施例1の試験タイヤにおいて、溝ユニット4の3本の溝41〜43の配置間隔α、β、γ(図4参照)が偏っている。
【0094】
試験結果に示すように、実施例1〜10の試験タイヤでは、タイヤのウェット性能とドライ性能とが両立することが分かる。
【符号の説明】
【0095】
1:空気入りタイヤ、4:溝ユニット、11:ビードコア、12:ビードフィラー、13:カーカス層、14:ベルト層、141、142:交差ベルト、143:ベルトカバー、15:トレッドゴム、16:サイドウォールゴム、17:リムクッションゴム、21、22:周方向主溝、31、32:陸部、41:第一溝、42:第二溝、43:第三溝、44:第四溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9