特許第6724377号(P6724377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6724377-空気入りタイヤ 図000010
  • 特許6724377-空気入りタイヤ 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724377
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20200706BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20200706BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20200706BHJP
   C08L 81/04 20060101ALI20200706BHJP
   C08K 5/45 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   B60C1/00 A
   B60C5/00 F
   C08L21/00
   C08L81/04
   C08K5/45
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-8126(P2016-8126)
(22)【出願日】2016年1月19日
(65)【公開番号】特開2017-128192(P2017-128192A)
(43)【公開日】2017年7月27日
【審査請求日】2019年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】新澤 達朗
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−146078(JP,A)
【文献】 特開2013−159275(JP,A)
【文献】 特開2007−326555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部におけるタイヤ内面にタイヤ周方向に沿って接着された帯状吸音材を備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部を構成するゴム組成物が下記(1)式で表される環状ポリスルフィドを含み、前記トレッド部を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する前記環状ポリスルフィドの配合量をCとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均厚みをDとしたとき、前記配合量Cが下記(2)式を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【化1】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数2〜20のオキシアルキレン基または芳香族環を含むアルキレン基を示し、nは1〜20の整数であり、xは平均2〜6の数である。)
(D−10)×0.015+0.2<C(D−10)×0.015+6 (2)
(式中、Dは10mm以上である。)
【請求項2】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層を備え、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を備え、前記トレッド部におけるタイヤ内面にタイヤ周方向に沿って接着された帯状吸音材を備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部を構成するゴム組成物が下記(1)式で表される環状ポリスルフィドを含み、前記トレッド部を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する前記環状ポリスルフィドの配合量をCとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均幅をWとし、前記ベルト層の幅をBとしたとき、前記配合量Cが下記(3)式を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【化2】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数2〜20のオキシアルキレン基または芳香族環を含むアルキレン基を示し、nは1〜20の整数であり、xは平均2〜6の数である。)
(W/B)×0.6+0.1<C<(W/B)×0.6+6 (3)
(式中、Wは50mm以上である。)
【請求項3】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層を備え、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を備え、前記トレッド部におけるタイヤ内面にタイヤ周方向に沿って接着された帯状吸音材を備えた空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部を構成するゴム組成物が下記(1)式で表される環状ポリスルフィドを含み、前記トレッド部を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する前記環状ポリスルフィドの配合量をCとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均厚みをDとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均幅をWとし、前記ベルト層の幅をBとしたとき、前記平均幅Wと前記幅Bとの比W/Bが0.5未満である場合に、前記配合量Cが下記(2)式を満たし、前記平均幅Wと前記幅Bとの比W/Bが0.5以上である場合に、前記配合量Cが下記(3)式を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【化3】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数2〜20のオキシアルキレン基または芳香族環を含むアルキレン基を示し、nは1〜20の整数であり、xは平均2〜6の数である。)
(D−10)×0.015+0.2<C(D−10)×0.015+6 (2)
(式中、Dは10mm以上である。)
(W/B)×0.6+0.1<C<(W/B)×0.6+6 (3)
(式中、Wは50mm以上である。)
【請求項4】
前記帯状吸音材の体積が前記タイヤの内腔体積に対して10%〜30%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記帯状吸音材がタイヤ周方向の少なくとも一箇所に欠落部を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記式(1)におけるR基が−CH2 −CH2 −O−CH2 −O−CH2 −CH2 −であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用騒音低減装置を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、タイヤ内面に取り付けられた帯状吸音材による充分な静粛性を得ながら、この帯状吸音材が高速走行時に蓄熱することに起因するタイヤ性能の低下を防止することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ騒音を発生させる原因の一つに、リム組み時にタイヤ内に形成される空洞部(タイヤ内腔)に充填された空気の振動による空洞共鳴音がある。この空洞共鳴音は、車両走行時に路面と接触するタイヤのトレッド部が路面の凹凸等によって振動し、この振動がタイヤ内腔内の空気を振動させることによって生じる。この空洞共鳴音の中でも特定の周波数帯域の音が騒音として知覚されるので、その周波数帯域の音圧レベル(騒音レベル)を低下させることが、タイヤ騒音を低減するうえで重要になる。
【0003】
このような騒音を低減する方法として、タイヤ内腔にスポンジ等の多孔質材料からなる吸音材を導入することが提案されている。例えば、特許文献1に記載される空気入りタイヤでは、このような吸音材が弾性固定バンドによってトレッド部の内周面に装着されている。しかしながら、この場合、高速走行時に弾性固定バンドが変形して、吸音材を適切に装着できなくなる不具合が生じる虞がある。
【0004】
或いは、特許文献2では、前述の弾性固定バンドを用いずに、吸音材をトレッド部の内周面に接着剤等によって直接接着することが提案されている。しかしながら、この場合、タイヤ内面に吸音材が直貼りされているため、高速走行時にトレッド部に蓄熱が生じ易くなり、その蓄熱に起因するタイヤ性能の悪化(熱ダレ)が発生するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4281874号公報
【特許文献2】特許5267288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、タイヤ用騒音低減装置を備えた空気入りタイヤであって、タイヤ内面に取り付けられた帯状吸音材による充分な静粛性を得ながら、この帯状吸音材が高速走行時に蓄熱することに起因するタイヤ性能の低下を防止することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の第一の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部におけるタイヤ内面にタイヤ周方向に沿って接着された帯状吸音材を備えた空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部を構成するゴム組成物が下記(1)式で表される環状ポリスルフィドを含み、前記トレッド部を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する前記環状ポリスルフィドの配合量をCとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均厚みをDとしたとき、前記配合量Cが下記(2)式を満たすことを特徴とする。
【化1】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換もしくは非置換
の炭素数2〜20のオキシアルキレン基または芳香族環を含むアルキレン基を示し、nは1〜20の整数であり、xは平均2〜6の数である。)
(D−10)×0.015+0.2<C(D−10)×0.015+6 (2)
(式中、Dは10mm以上である。)
【0008】
上記目的を達成するための本発明の第二の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層を備え、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を備え、前記トレッド部におけるタイヤ内面にタイヤ周方向に沿って接着された帯状吸音材を備えた空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部を構成するゴム組成物が下記(1)式で表される環状ポリスルフィドを含み、前記トレッド部を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する前記環状ポリスルフィドの配合量をCとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均幅をWとし、前記ベルト層の幅をBとしたとき、前記配合量Cが下記(3)式を満たすことを特徴とする。
【化2】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数2〜20のオキシアルキレン基または芳香族環を含むアルキレン基を示し、nは1〜20の整数であり、xは平均2〜6の数である。)
(W/B)×0.6+0.1<C<(W/B)×0.6+6 (3)
(式中、Wは50mm以上である。)
【0009】
上記目的を達成するための本発明の第三の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層を備え、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側にベルト層を備え、前記トレッド部におけるタイヤ内面にタイヤ周方向に沿って接着された帯状吸音材を備えた空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部を構成するゴム組成物が下記(1)式で表される環状ポリスルフィドを含み、前記トレッド部を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する前記環状ポリスルフィドの配合量をCとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均厚みをDとし、前記吸音材のタイヤ周方向の平均幅をWとし、前記ベルト層の幅をBとしたとき、前記平均幅Wと前記幅Bとの比W/Bが0.5未満である場合に、前記配合量Cが下記(2)式を満たし、前記平均幅Wと前記幅Bとの比W/Bが0.5以上である場合に、前記配合量Cが下記(3)式を満たすことを特徴とする。
【化3】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数2〜20のオキシアルキレン基または芳香族環を含むアルキレン基を示し、nは1〜20の整数であり、xは平均2〜6の数である。)
(D−10)×0.015+0.2<C(D−10)×0.015+6 (2)
(式中、Dは10mm以上である。)
(W/B)×0.6+0.1<C<(W/B)×0.6+6 (3)
(式中、Wは50mm以上である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明では、第一〜第三の空気入りタイヤのいずれの場合も、上述のように、トレッド部を構成するゴム組成物が特定の環状ポリスルフィドを含んでいるので、この環状ポリスルフィドを含むゴム組成物の耐屈曲疲労性、耐摩耗性、耐熱老化性に優れる特性により、吸音材が直貼りされて蓄熱が生じ易い状態であっても、この蓄熱に起因するタイヤ性能の低下(熱ダレ)を防止することができる。このとき、環状ポリスルフィドの配合量Cを、第一の空気入りタイヤでは帯状吸音材の平均厚みD、第二の空気入りタイヤでは帯状吸音材の平均幅W(厳密には、平均幅Wとベルト幅Bとの比W/B)、第三の空気入りタイヤでは平均厚みDまたは平均幅W(比W/B)に応じて適切な範囲に設定しているので、タイヤの静粛性を阻害することなく、効果的に熱ダレを防止することが可能になる。
【0011】
本発明では、帯状吸音材の体積がタイヤの内腔体積に対して10%〜30%であることが好ましい。このように帯状吸音材をタイヤ内腔に対して適度な大きさに設定することで吸音効果を効果的に得ることができる。
【0012】
本発明では、帯状吸音材がタイヤ周方向の少なくとも一箇所に欠落部を有することが好ましい。これにより、インフレート時のタイヤの変形(タイヤの膨張)や、接地転動に起因する接着面の剪断歪みに長時間耐えることが可能となる。
【0013】
本発明では、前記式(1)におけるR基が−CH2 −CH2 −O−CH2 −O−CH2 −CH2 −であるものを好ましく用いることができる。
【0014】
尚、本発明において、タイヤの各種寸法や内腔体積は、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で測定したものである。特に、「タイヤの内腔体積」とは、この状態において、タイヤとリムとの間に形成される空洞部の体積である。また、後述の「接地幅」とは、この状態においてタイヤを平面上に垂直に置いて正規荷重の60%を加えたときのタイヤ軸方向の両端部の接地端間の長さである。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが新車装着タイヤの場合は車両に表示された空気圧とする。「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す斜視断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す赤道線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1において、符号CLはタイヤ赤道を表わす。本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とから構成される。
【0018】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8が設けられている。特に、図示の例では、ベルト層7の全幅を覆う層とベルト層7の幅方向端部のみを覆う層とからなる2層のベルト補強層8が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0019】
本発明は、このような一般的な空気入りタイヤに対して、後述のように帯状吸音材10を装着したものであり、帯状吸音材10の装着対象となる空気入りタイヤの断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0020】
帯状吸音材10は、連続気泡を有する多孔質材料から構成され、その多孔質構造に基づく所定の吸音特性を有している。帯状吸音材10を構成する多孔質材料としては、例えば発泡ポリウレタンを用いることができる。
【0021】
この帯状吸音材10は、タイヤ内面のトレッド部1に対応する領域に、例えば接着層11を介して接着されている。接着層11としては、例えば両面テープを用いることが好ましい。
【0022】
この帯状吸音材10の寸法は、装着対象となる空気入りタイヤのサイズや、所望する吸音性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、帯状吸音材10の体積をタイヤの内腔体積に対して例えば10%〜30%に設定することが好ましい。更に、帯状吸音材10の平均幅Wをタイヤの接地幅に対して例えば30%〜90%に設定するとよい。このような寸法の帯状吸音材10を用いた場合、帯状吸音材10による吸音効果を効果的に得ることができる。このとき、帯状吸音材10の体積がタイヤの内腔体積の10%よりも小さいと吸音効果を充分に得ることが難しくなる。逆に、帯状吸音材10の体積がタイヤの内腔体積の30%よりも大きくなっても、空洞共鳴音の低減効果が一定となり、更なる騒音低減効果は見込めなくなる。
【0023】
帯状吸音材10としては、図2に示すようにタイヤ周方向の少なくとも1箇所に帯状吸音材10が存在しない欠落部12を有するものを用いることが好ましい。このように欠落部12を設けることで、タイヤのインフレートによる膨張や接地転動に起因する剪断歪みに長時間耐えることが可能となる。この欠落部12は、タイヤ周上で1箇所または3〜5箇所に設けることが好ましい。即ち、欠落部12をタイヤ周上の2箇所に設けると質量アンバランスに起因するタイヤユニフォミティの悪化が顕著になり、周上の6箇所以上に設けると製造コストの増大が顕著になる。
【0024】
いずれにしても、本発明では、タイヤ内腔に吸音材10が存在するため、その吸音特性によって空洞共鳴音を低減し、静粛性を高めることができる。但し、前述のように帯状吸音材10はトレッド部1の内面に直接接着されているので、高速走行時にトレッド部1(吸音材10の接着部位)に蓄熱が生じ易くなる。そこで、本発明では、トレッド部1を構成するゴム組成物として、下記(1)式で表される環状ポリスルフィドを含むゴム組成物を採用している。
【化1】
(式中、Rは置換もしくは非置換の炭素数2〜20のアルキレン基、置換もしくは非置換の炭素数2〜20のオキシアルキレン基または芳香族環を含むアルキレン基を示し、nは1〜20の整数であり、xは平均2〜6の数である。)
【0025】
この環状ポリスルフィドを配合したゴム組成物は、屈曲疲労性、耐摩耗性、耐熱老化性に優れる特性を有するので、上述のように蓄熱が懸念されるトレッド部1(帯状吸音材10の接着箇所)に用いることで、この部位の耐熱老化性等を高めて、蓄熱に起因するタイヤ性能の悪化(熱ダレ)を防止することができる。
【0026】
上記(1)式で表される環状ポリスルフィドの具体的な種類は特に限定されないが、例えば、R基が−CH2 −CH2 −O−CH2 −O−CH2 −CH2 −であるものを好適に用いることができる。
【0027】
本発明では、上記のように環状ポリスルフィドを配合するにあたって、その配合量Cをタイヤ内に接着される帯状吸音材10の寸法に応じた特定の範囲に設定することで、帯状吸音材10による静粛性を損なうことなく、環状ポリスルフィドを配合することによる効果を良好に得て、静粛性の維持と熱ダレの防止とをバランスよく両立している。即ち、トレッド部1を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する環状ポリスルフィドの配合量C(質量部)を、帯状吸音材1のタイヤ周方向の平均厚みD(mm)に対して、下記(2)式を満たすように設定する。
(D−10)×0.015+0.2<C(D−10)×0.015+6 (2)
(式中、Dは10mm以上である。)
【0028】
或いは、トレッド部1を構成するゴム組成物中の硫黄加硫可能なゴム100質量部に対する環状ポリスルフィドの配合量C(質量部)を、帯状吸音材10のタイヤ周方向の平均幅W(mm)およびベルト層7の幅B(mm)に対して、下記(3)式を満たすように設定する。尚、図1の例のように複数層のベルト層7を有する場合、トレッド部1においてカーカス層4側から2番目のベルト層7の幅をBとする。
(W/B)×0.6+0.1<C<(W/B)×0.6+6 (3)
(式中、Wは50mm以上である。)
【0029】
このように、環状ポリスルフィドの配合量Cを帯状吸音材の寸法(平均厚みD、平均幅W(厳密には、平均幅Wとベルト幅Bとの比W/B))に応じて適切な範囲に設定しているので、タイヤの静粛性を阻害することなく、効果的に熱ダレを防止することが可能になる。いずれの場合も、環状ポリスルフィドが上記(2)式または(3)式で定義される配合量Cの範囲よりも過剰に配合されると、トレッド部1の硬度が増大し、トレッド部1のモジュラスが増大するため、タイヤの静粛性や操縦安定性が悪化する。逆に、環状ポリスルフィドの配合量Cが上記(2)式または(3)式で定義される範囲よりも少ないと、環状ポリスルフィドが充分に配合されないため、環状ポリスルフィドを配合することによる効果(優れた耐熱老化性による熱ダレの防止)が得られなくなる。
【0030】
上述の(2)式および(3)式で設定される配合量Cの範囲は任意の帯状吸音材に対していずれを適用してもよいが、好ましくは帯状吸音材10の幅Wとベルト層7の幅Bとの比W/Bに応じて場合分けして適用することが好ましい。即ち、比W/Bが小さく、ベルト幅Bに対して帯状吸音材の幅Wが小さく、トレッド部1の内面に対する帯状吸音材10の被覆率が小さい場合、帯状吸音材10に厚みがあってトレッド部1の内面に対する帯状吸音材10の接触面積が小さくなり、蓄熱が生じる部位が限定的になり、かつ帯状吸音材10で被覆されないトレッド部1の内面からの放熱も見込めるため、帯状吸音材10の平均厚みDの影響が小さくなり、帯状吸音材10の平均幅Wの影響が大きくなるので、平均幅Wを含む上記(3)式を採用することが好ましい。逆に、比W/Bが大きく、ベルト幅Bに対して帯状吸音材10の幅Wが大きく、トレッド部1の内面に対する帯状吸音材10の被覆率が大きい場合、トレッド部1の内面の広範で蓄熱が生じることが前提となり、帯状吸音材10の平均厚みD(つまり、吸音材10の嵩高さ)の影響が顕著になるので、平均厚みDを含む上記(2)式を採用することが好ましい。
【0031】
尚、帯状吸音材10の寸法(平均厚みD、平均幅W)によっては、(2)式および(3)式で定義される範囲のいずれか一方の範囲が他方の範囲に包含されるが、その場合、環状ポリスルフィドの配合量Cが(2)式および(3)式で定義される範囲の両者を同時に満たしていてもよい。
【実施例】
【0032】
タイヤサイズが275/35ZR20 V105Dであり、図1に示す基本構造を有し、トレッド部を構成するゴム組成物中の環状ポリスルフィドの配合量C、帯状吸音材の平均厚みD、ベルト層の幅B、帯状吸音材の平均幅Wをそれぞれ表1のように設定した従来例1、比較例1〜6、実施例1〜5の12種類の空気入りタイヤを作製した。
【0033】
尚、表1には、(2)式の左辺および右辺、(2)式で定義される範囲を満たすか否か、各例における比W/B、(3)式の左辺および右辺、(3)式で定義される範囲を満たすか否かについても併せて記載した。表1の「(2)式の範囲」、「(3)式の範囲」の欄は、各式で定義される範囲を満たすか否かを示すものであり、各式で定義される範囲を満たす場合を「○」、満たさない場合を「×」とした。
【0034】
これら12種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、耐熱ダレ性、静粛性を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0035】
耐熱ダレ性
各試験タイヤを、リムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、空気圧230kPaを充填し、排気量3000ccの試験車両に装着し、テストドライバーによる1周5kmのサーキットコースを5周走行する走行試験を実施し、その際の熱ダレ性を官能評価により評価した。評価結果は、従来例1を「3」とする5段階評価とし、この点数が高いほど熱ダレが少なく耐熱ダレ性に優れることを意味する。
【0036】
静粛性
各試験タイヤを、リムサイズ20×9.5Jのホイールに組み付け、空気圧230kPaを充填し、排気量3000ccの試験車両に装着し、アスファルト路面からなるテストコースを平均速度50km/hにて走行させ、運転席窓際位置に取り付けたマイクロフォンにより集音した騒音の音圧レベルを測定した。評価結果は、従来例1を「3」とし、測定値の逆数を5段階に振り分けた。この点数が高いほど静粛性に優れることを意味する。
【0037】
【表1】
【0038】
表1から明らかなように、実施例1〜5はいずれも、従来例1に対して、静粛性を維持しながら、耐熱ダレ性を向上した。一方、比較例1,4は、環状ポリスルフィドの配合量Cが(2)式または(3)式で規定される範囲よりも不足しているため、従来例1に対して耐熱ダレ性を改善する効果が得られなかった。比較例2,5は、環状ポリスルフィドの配合量Cが(2)式または(3)式で規定される範囲よりも過剰であるため、トレッド部の硬度が増大して静粛性が阻害された。比較例3は、帯状吸音材の平均厚みDが小さ過ぎるため、環状ポリスルフィドの配合量Cが(2)式を満たしているものの、静粛性が大幅に悪化した。比較例は、帯状吸音材の平均幅Wが小さ過ぎるため、環状ポリスルフィドの配合量Cが(3)式を満たしているものの、静粛性が大幅に悪化した。
【符号の説明】
【0039】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルト補強層
10 帯状吸音材
11 接着層
12 欠落部
CL タイヤ赤道
図1
図2