【実施例1】
【0024】
図1は、
図4の構成のエンジンベンチシステムに適用される、実施例1による制御装置を示している。
【0025】
図1において、100は、
図4の軸トルクメータ6によって検出された軸トルク検出信号SHTと、
図4のインクリメンタルエンコーダ7によって検出されたダイナモメータ5の回転数検出信号DYωとに基づいて、エンジン始動時のエンジンの回転損失分を加味したエンジントルクの推定値(EGT)を求めるエンジントルク推定部であり、具体的には次のように構成されている。
【0026】
すなわち、入力された軸トルク検出信号SHTを、1/{(1/ωc)s+1}(sはラプラス演算子)を伝達関数とするローパスフィルタLPFt(カットオフ周波数ωc[rad/s])を有した軸トルク検出分推定トルク算出部110に通し、軸トルク検出分推定トルクを算出する。
【0027】
入力されたダイナモメータ5の回転数検出信号DYωを、s/{(1/ωc)s+1}を伝達関数とする擬似微分(s*LPFω)ブロック121に通した後、エンジン慣性ゲインブロック122の予め設定されたエンジン慣性(EGJ)ゲインを乗算することにより、エンジンの加速度に使用されるトルクが推定(演算)される。
【0028】
本実施例では、擬似微分ブロック121およびエンジン慣性ゲインブロック122でエンジン加速分トルク推定部120を構成している。
【0029】
また前記回転数検出信号DYωを、1/{(1/ωc)s+1}(sはラプラス演算子)を伝達関数とするローパスフィルタ(LPFω)131に通した後、エンジン損失ゲインブロック132の予め設定されたエンジン損失(EGC)ゲインを乗算することにより、エンジン損失トルクが求められる。
【0030】
本実施例では、ローパスフィルタ131およびエンジン損失ゲインブロック132でエンジン損失推定部130を構成している。
【0031】
前記軸トルク検出分推定トルク算出部110、エンジン加速分トルク推定部120およびエンジン損失推定部130の各出力は加算部140において加算され、エンジントルクの推定値が出力される。
【0032】
尚、前記軸トルク検出分推定トルク算出部110、擬似微分ブロック121、ローパスフィルタ131の各伝達関数中のωc(カットオフ周波数)は、推定しようとするエンジントルクの周波数帯域[rad/s]に指定(設定)するものである。
【0033】
ここで、
図4に示すエンジンベンチシステムのエンジン1〜軸トルクメータ6間の運動方程式は、
EGJ*s*EGω+EGC*EGω=EGT−SHT…(1)
で表される(sはラプラス演算子)。
【0034】
この式(1)の各パラメータの定義は、EGJ=エンジン慣性[kg.m
2]、EGω=エンジン回転数[rad/s]、EGC=エンジン損失[N.m.s/rad]、EGT=エンジントルク[N.m]、SHT=軸トルク[N.m]である。
【0035】
このとき、前記方程式(1)は、
EGT=SHT+EGJ*s*EGω+EGC*EGω…(2)
と変形できるため、軸トルク検出(SHT)、エンジン回転数(EGω)からエンジントルクを推定することができる。
【0036】
しかし、低周波数帯域ではエンジン回転数=ダイナモメータの回転数となるため、
図1のエンジントルク推定部100のように、エンジン回転数EGωをダイナモメータの回転数(回転数検出信号DYω)で置き換え、さらに、微分演算(d/dt)を擬似微分(擬似微分ブロック121)で置き換えることで、エンジントルク(EGT)を推定することができる。
【0037】
すなわち、前記式(2)のSHTは、軸トルク検出信号を、推定するエンジントルクの周波数帯域をカットオフ周波数とする、軸トルク検出分推定トルク算出部110のローパスフィルタLPFtに通すことで推定される。
【0038】
また式(2)のEGJ*s*EGωは、エンジン加速分トルク推定部120において、ダイナモメータ5の回転数検出信号(DYω)を擬似微分した信号に、設定したエンジン慣性ゲインを乗算することで推定される。
【0039】
また式(2)のEGC*EGωは、エンジン損失推定部130において、ダイナモメータ5の回転数検出信号(DYω)を、推定するエンジンの周波数帯域をカットオフ周波数とするローパスフィルタLPFωに通した信号に、設定したエンジンの回転損失ゲインを乗算することで推定される。
【0040】
次に、
図1の201は、前記エンジントルク推定部100で求められたエンジントルクの推定値から、エンジン始動時のエンジン回転損失を補償するための、設定した模擬エンジン損失分を減算することによって、エンジンの回転損失分を補償したエンジンの回転数信号を求める模擬エンジン特性部であり、エンジン始動波形を調整するためのパラメータ設定部として機能し、具体的には次のように構成されている。
【0041】
すなわち、210は、前記加算部140の出力信号(推定されたエンジントルク)であって後述する減算部230を経て導入された信号に対して、設定した模擬エンジン慣性量を与えて、エンジンの回転数信号を算出する模擬エンジン慣性部である。
【0042】
この模擬エンジン慣性部210は、1/{(EGmJ)s}(EGmJは設定する模擬エンジン慣性モデル、sはラプラス演算子)なる伝達関数を有しており、減算部230の出力を(EGmJ)sで除算することでエンジンの回転数信号を算出している。
【0043】
221は、本発明の模擬エンジン損失モデルの一実施例としての模擬エンジン損失ゲインモデルであり、模擬エンジン慣性部210の出力信号に対して、模擬エンジン損失トルクを設定する(エンジンのトルク損失に相当する模擬エンジン損失ゲインを乗算する)。この模擬エンジン損失ゲイン(EGmC)は、例えばエンジン始動時のエンジン回転損失を補償するための模擬エンジン損失分に設定する。
【0044】
前記模擬エンジン損失ゲインモデル221はゲインブロックであるため、模擬できるエンジン損失トルクは、(損失トルク)=[EGmC]*(エンジン回転数)が示す線形の関係である。
【0045】
230は、加算部140の出力から模擬エンジン損失ゲインモデル221の出力を減算し、該減算出力を模擬エンジン慣性部210に出力する減算部である。
【0046】
このように、エンジントルク推定部100で推定されたエンジントルクから、模擬エンジン損失分(模擬エンジン損失ゲインモデル221の出力)を減算しているので、エンジン始動時のエンジン回転損失分を補償したエンジンの回転数信号を出力することができる。
【0047】
模擬エンジン特性部201におけるエンジン特性(模擬エンジン慣性部210における模擬エンジン慣性モデルEGmJ、模擬エンジン損失ゲインモデル221における模擬エンジン損失
ゲインEGmC)の設定は、各々任意に行われるものであり、模擬エンジン損失
ゲインEGmCに、エンジン損失ゲインブロック132のエンジン損失
ゲインEGCよりも大きな値を設定した場合には、エンジン1に何らかの摩擦特性が印加された場合の始動時のエンジン回転数が算出される。
【0048】
また、模擬エンジン慣性モデルEGmJの値をエンジン慣性ゲインブロック122のエンジン慣性
ゲインEGJの値よりも大きくした場合には、エンジン1に何らかの慣性特性が印加された場合の始動時のエンジン回転数が算出される。
【0049】
次に300は、模擬エンジン特性部201から出力されたエンジンの回転数信号を回転数指令値ωrefとして入力し、ダイナモメータ5の回転数検出信号DYωを回転数検出値ωとして入力し、両者の差をゼロとするトルク電流指令値Trefを生成し出力する速度制御部(DYASR)である。
【0050】
この速度制御部300で生成されたTrefを図示省略のインバータへのトルク電流指令(DYTref)とし、ダイナモメータ5の回転数を制御する。
【0051】
これによって、模擬エンジン特性部201で設定したエンジン特性(模擬エンジン慣性モデルEGmJ、模擬エンジン損失ゲイン(EGmC))を模擬した所望のエンジン始動が実現される。
【実施例2】
【0052】
実施例1では、本発明の模擬エンジン損失
ゲイン(EGmC)を、
図1の模擬エンジン損失ゲインモデル221によって構成したが、本実施例2では、これに代えて
図2に示す模擬エンジン特性部202の非線形テーブル222によって構成した。
【0053】
図2の非線形テーブル222は、エンジンの回転数に対するエンジン損失トルクの関係がテーブル化されており、模擬エンジン慣性部210の出力(エンジンの回転数信号)を入力とし、その回転数に対応したエンジン損失トルクを減算部230に出力するものであり、その他の部分は
図1と同様に構成されている。
【0054】
このように、前記実施例1の模擬エンジン損失ゲインモデル221はゲインブロックであるため、模擬できるエンジン損失トルクは、(損失トルク)=[EGmC]*(エンジン回転数)が示す線形の関係であったが、本実施例2では、模擬エンジン損失
ゲインEGmCを非線形テーブルで構成したため、(損失トルク)=f(エンジン回転数)という、エンジンの回転数のみに対応した任意の損失トルク特性を模擬することができる。
【0055】
本発明の制御回路(
図1)を
図4のエンジンベンチシステムに適用した場合の、エンジン始動時のエンジン回転数波形を
図3に示す。
【0056】
図3は、模擬エンジン慣性部210の模擬エンジン慣性モデルEGmJと、模擬エンジン損失ゲインモデル221の模擬エンジン損失
ゲインEGmCを変えた4通りのエンジン模擬特性での始動波形を示している。
【0057】
すなわち、波形イはEGmJ=0.2[kg.m
2]、EGmC=0[N.m.s/rad]であり、波形ロはEGmJ=0.2[kg.m
2]、EGmC=0.05[N.m.s/rad]であり、波形ハはEGmJ=0.2*1.2[kg.m
2]、EGmC=0[N.m.s/rad]であり、波形ニはEGmJ=0.2*0.8[kg.m
2]、EGmC=0[N.m.s/rad]である。
【0058】
先行技術によるエンジン始動においては、
図5に示すようにクランキング状態から抜けるために長時間を要していたが、
図3に示す本発明によれば、短時間でクランキング状態が終了しエンジンが始動していることがわかる。
【0059】
このように、本発明による制御装置では、短時間でのエンジン始動が可能となるだけでなく、模擬エンジン特性パラメータ(模擬エンジン慣性モデルEGmJ、模擬エンジン損失
ゲインEGmC)を調整することにより、エンジン回転数波形を調整することも可能となる。