特許第6724412号(P6724412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724412
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】エンジンベンチシステムの制御装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/02 20060101AFI20200706BHJP
【FI】
   G01M15/02
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-33695(P2016-33695)
(22)【出願日】2016年2月25日
(65)【公開番号】特開2017-150954(P2017-150954A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】秋山 岳夫
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−053978(JP,A)
【文献】 特開2000−039380(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/120728(WO,A1)
【文献】 特開2009−133714(JP,A)
【文献】 特開2008−076061(JP,A)
【文献】 米国特許第04680959(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとダイナモメータを連結し、ダイナモメータを制御することによりエンジンの各種特性を測定するエンジンベンチシステムにおいて、
軸トルク検出器によって検出された前記ダイナモメータとエンジンの間のねじれからなる軸トルク検出信号に基いて算出した軸トルク検出分推定トルクと、回転数検出器によって検出されたダイナモメータの回転数検出信号に基いて算出したエンジンの加速分のトルクおよびエンジン損失トルクとを加算したエンジントルクの推定値を求めるエンジントルク推定部と、
前記エンジントルク推定部で求められたエンジントルクの推定値から、エンジン始動時のエンジン回転損失を補償するための、設定した模擬エンジン損失分を減算することによって、エンジンの回転損失分を補償したエンジンの回転数信号を求める模擬エンジン特性部と、
前記模擬エンジン特性部で求められたエンジンの回転数信号と前記ダイナモメータの回転数検出信号の差信号に基づいて、トルク電流指令値を生成する速度制御部と、を備え、
前記エンジントルク推定部は、
前記軸トルク検出信号を、設定したカットオフ周波数を有するローパスフィルタに通して軸トルク検出分推定トルクを算出する軸トルク検出分推定トルク算出部と、
前記ダイナモメータの回転数検出信号を擬似微分した信号に、設定したエンジン慣性ゲインを乗算してエンジンの加速分のトルクを演算するエンジン加速分トルク推定部と、
前記ダイナモメータの回転数検出信号を、設定したカットオフ周波数を有するローパスフィルタに通した信号に、設定したエンジンの回転損失ゲインを乗算して、エンジン損失トルクを演算するエンジン損失推定部と、
前記軸トルク検出分推定トルク算出部、エンジン加速分トルク推定部およびエンジン損失推定部の各出力を加算する加算部とを備え、
前記模擬エンジン特性部は、
前記加算部の出力を、設定した模擬エンジン慣性モデルで除算してエンジンの回転数信号を出力する模擬エンジン慣性部と、
エンジンの回転数に対するエンジン損失トルクの関係が設定され、前記模擬エンジン慣性部から出力されるエンジンの回転数信号に対応したエンジン損失トルクを出力する非線形テーブルと、
前記加算部の出力から前記非線形テーブルの出力を減算し、該減算出力を前記模擬エンジン慣性部に出力する減算部と、を備え、
前記生成されたトルク電流指令値によってインバータを通して前記ダイナモメータを制御するエンジンベンチシステムの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとダイナモメータを連結し、ダイナモメータを制御することによりエンジンの各種特性を測定するエンジンベンチシステムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエンジンベンチシステムの機械構成例を図4に示す。図4において、供試体であるエンジン1は、クラッチ2、手動変速機3およびプロペラシャフト4を介してダイナモメータ5に連結されている。
【0003】
6は、エンジン1とダイナモメータ5の間のねじれからなる軸トルクを検出する軸トルクメータ(軸トルク検出器)であり、7はダイナモメータ5の回転数を検出するインクリメンタルエンコーダ(回転数検出器)である。
【0004】
エンジン1は図示省略のスロットルアクチュエータによってスロットル開度が制御される。
【0005】
図示省略の制御部は、前記軸トルクメータ6で検出された軸トルクおよびインクリメンタルエンコーダ7で検出された回転数に基づいて、軸トルクや速度を制御するためのインバータトルク指令信号を生成し、インバータ(図示省略)を介してダイナモメータ5を制御する。
【0006】
このダイナモメータ5の軸トルク制御、速度制御を実施しながら、エンジン1の耐久性や燃費、排ガス計測等の性能試験が行われる。
【0007】
前記制御部は、エンジン1とダイナモメータ5が連結した状態で、エンジン単体相当の始動を実現するものであるが、先行技術として、特許文献1に記載の、共振抑制効果を有した制御方式を適用して、軸トルク指令値を0Nmとしてエンジンを始動する手法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4766039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図4に示すようなクラッチ2を機械構成に含むエンジンベンチシステムでは、機械系のねじれ共振周波数がエンジン1のアイドル回転数と近い。
【0010】
特許文献1では、ねじれ共振が発生しないようにダイナモメータの制御を行うが、エンジン慣性、ダイナモメータ慣性、ダイナモメータ定格トルクの組み合わせ次第では、エンジン始動時のエンジン振動トルクの抑制効果が低下し、結果として、ねじれ共振が発生する。
【0011】
これによって、エンジン始動時のエンジン回転数波形の一例を示す図5のように、エンジンのクランキング状態が長時間継続し、エンジン始動が出来ない場合がある。
【0012】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、エンジン始動時のエンジン回転損失による影響をなくし、短時間でエンジンを始動させることができるエンジンベンチシステムの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための請求項1に記載のエンジンベンチシステムの制御装置は、
エンジンとダイナモメータを連結し、ダイナモメータを制御することによりエンジンの各種特性を測定するエンジンベンチシステムにおいて、
軸トルク検出器によって検出された前記ダイナモメータとエンジンの間のねじれからなる軸トルク検出信号に基いて算出した軸トルク検出分推定トルクと、回転数検出器によって検出されたダイナモメータの回転数検出信号に基いて算出したエンジンの加速分のトルクおよびエンジン損失トルクとを加算したエンジントルクの推定値を求めるエンジントルク推定部と、
前記エンジントルク推定部で求められたエンジントルクの推定値から、エンジン始動時のエンジン回転損失を補償するための、設定した模擬エンジン損失分を減算することによって、エンジンの回転損失分を補償したエンジンの回転数信号を求める模擬エンジン特性部と、
前記模擬エンジン特性部で求められたエンジンの回転数信号と前記ダイナモメータの回転数検出信号の差信号に基づいて、トルク電流指令値を生成する速度制御部と、を備え、
前記エンジントルク推定部は、
前記軸トルク検出信号を、設定したカットオフ周波数を有するローパスフィルタに通して軸トルク検出分推定トルクを算出する軸トルク検出分推定トルク算出部と、
前記ダイナモメータの回転数検出信号を擬似微分した信号に、設定したエンジン慣性ゲインを乗算してエンジンの加速分のトルクを演算するエンジン加速分トルク推定部と、
前記ダイナモメータの回転数検出信号を、設定したカットオフ周波数を有するローパスフィルタに通した信号に、設定したエンジンの回転損失ゲインを乗算して、エンジン損失トルクを演算するエンジン損失推定部と、
前記軸トルク検出分推定トルク算出部、エンジン加速分トルク推定部およびエンジン損失推定部の各出力を加算する加算部とを備え、
前記模擬エンジン特性部は、
前記加算部の出力を、設定した模擬エンジン慣性モデルで除算してエンジンの回転数信号を出力する模擬エンジン慣性部と、
エンジンの回転数に対するエンジン損失トルクの関係が設定され、前記模擬エンジン慣性部から出力されるエンジンの回転数信号に対応したエンジン損失トルクを出力する非線形テーブルと、
前記加算部の出力から前記非線形テーブルの出力を減算し、該減算出力を前記模擬エンジン慣性部に出力する減算部と、を備え、
前記生成されたトルク電流指令値によってインバータを通して前記ダイナモメータを制御することを特徴としている。
【0016】
上記構成によれば、エンジン始動時のエンジン回転損失分を加味したエンジントルクを推定し、該推定されたエンジントルクから、前記エンジン始動時のエンジン回転損失分を補償する模擬エンジン損失分を減算しているので、エンジンの回転損失による影響がなくなって、短時間でのエンジン始動を実現することができる。
【0017】
また、模擬エンジン慣性部、模擬エンジン損失モデルにおける模擬エンジン慣性量、模擬エンジン損失トルクを任意に設定することにより、エンジン回転数波形を任意に調整することができる。
【0019】
また非線形テーブルを設けたので、エンジンの回転数のみに対応した任意の損失トルク特性を模擬することができる。
【発明の効果】
【0020】
(1)請求項1に記載の発明によれば、エンジンの回転損失や、エンジン慣性、ダイナモメータ慣性、ダイナモメータ定格トルクの組み合わせに起因する、エンジン始動時のエンジン振動トルクの抑制効果の低下によるねじれ共振の発生による影響がなくなって、短時間でのエンジン始動を実現することができる。
【0021】
また、模擬エンジン慣性部、模擬エンジン損失モデルにおける模擬エンジン慣性量、模擬エンジン損失トルクを任意に設定することにより、エンジン回転数波形を任意に調整することができる。
また、エンジンの回転数のみに対応した任意の損失トルク特性を模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施例1によるエンジンベンチシステムの制御装置の構成図。
図2】本発明の実施例2によるエンジンベンチシステムの制御装置の構成図。
図3】本発明によるエンジン始動時のエンジン回転数波形図。
図4】エンジンベンチシステムの機械構成例を示す構成図。
図5】先行技術によるエンジン始動時のエンジン回転数波形図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
図1は、図4の構成のエンジンベンチシステムに適用される、実施例1による制御装置を示している。
【0025】
図1において、100は、図4の軸トルクメータ6によって検出された軸トルク検出信号SHTと、図4のインクリメンタルエンコーダ7によって検出されたダイナモメータ5の回転数検出信号DYωとに基づいて、エンジン始動時のエンジンの回転損失分を加味したエンジントルクの推定値(EGT)を求めるエンジントルク推定部であり、具体的には次のように構成されている。
【0026】
すなわち、入力された軸トルク検出信号SHTを、1/{(1/ωc)s+1}(sはラプラス演算子)を伝達関数とするローパスフィルタLPFt(カットオフ周波数ωc[rad/s])を有した軸トルク検出分推定トルク算出部110に通し、軸トルク検出分推定トルクを算出する。
【0027】
入力されたダイナモメータ5の回転数検出信号DYωを、s/{(1/ωc)s+1}を伝達関数とする擬似微分(s*LPFω)ブロック121に通した後、エンジン慣性ゲインブロック122の予め設定されたエンジン慣性(EGJ)ゲインを乗算することにより、エンジンの加速度に使用されるトルクが推定(演算)される。
【0028】
本実施例では、擬似微分ブロック121およびエンジン慣性ゲインブロック122でエンジン加速分トルク推定部120を構成している。
【0029】
また前記回転数検出信号DYωを、1/{(1/ωc)s+1}(sはラプラス演算子)を伝達関数とするローパスフィルタ(LPFω)131に通した後、エンジン損失ゲインブロック132の予め設定されたエンジン損失(EGC)ゲインを乗算することにより、エンジン損失トルクが求められる。
【0030】
本実施例では、ローパスフィルタ131およびエンジン損失ゲインブロック132でエンジン損失推定部130を構成している。
【0031】
前記軸トルク検出分推定トルク算出部110、エンジン加速分トルク推定部120およびエンジン損失推定部130の各出力は加算部140において加算され、エンジントルクの推定値が出力される。
【0032】
尚、前記軸トルク検出分推定トルク算出部110、擬似微分ブロック121、ローパスフィルタ131の各伝達関数中のωc(カットオフ周波数)は、推定しようとするエンジントルクの周波数帯域[rad/s]に指定(設定)するものである。
【0033】
ここで、図4に示すエンジンベンチシステムのエンジン1〜軸トルクメータ6間の運動方程式は、
EGJ*s*EGω+EGC*EGω=EGT−SHT…(1)
で表される(sはラプラス演算子)。
【0034】
この式(1)の各パラメータの定義は、EGJ=エンジン慣性[kg.m2]、EGω=エンジン回転数[rad/s]、EGC=エンジン損失[N.m.s/rad]、EGT=エンジントルク[N.m]、SHT=軸トルク[N.m]である。
【0035】
このとき、前記方程式(1)は、
EGT=SHT+EGJ*s*EGω+EGC*EGω…(2)
と変形できるため、軸トルク検出(SHT)、エンジン回転数(EGω)からエンジントルクを推定することができる。
【0036】
しかし、低周波数帯域ではエンジン回転数=ダイナモメータの回転数となるため、図1のエンジントルク推定部100のように、エンジン回転数EGωをダイナモメータの回転数(回転数検出信号DYω)で置き換え、さらに、微分演算(d/dt)を擬似微分(擬似微分ブロック121)で置き換えることで、エンジントルク(EGT)を推定することができる。
【0037】
すなわち、前記式(2)のSHTは、軸トルク検出信号を、推定するエンジントルクの周波数帯域をカットオフ周波数とする、軸トルク検出分推定トルク算出部110のローパスフィルタLPFtに通すことで推定される。
【0038】
また式(2)のEGJ*s*EGωは、エンジン加速分トルク推定部120において、ダイナモメータ5の回転数検出信号(DYω)を擬似微分した信号に、設定したエンジン慣性ゲインを乗算することで推定される。
【0039】
また式(2)のEGC*EGωは、エンジン損失推定部130において、ダイナモメータ5の回転数検出信号(DYω)を、推定するエンジンの周波数帯域をカットオフ周波数とするローパスフィルタLPFωに通した信号に、設定したエンジンの回転損失ゲインを乗算することで推定される。
【0040】
次に、図1の201は、前記エンジントルク推定部100で求められたエンジントルクの推定値から、エンジン始動時のエンジン回転損失を補償するための、設定した模擬エンジン損失分を減算することによって、エンジンの回転損失分を補償したエンジンの回転数信号を求める模擬エンジン特性部であり、エンジン始動波形を調整するためのパラメータ設定部として機能し、具体的には次のように構成されている。
【0041】
すなわち、210は、前記加算部140の出力信号(推定されたエンジントルク)であって後述する減算部230を経て導入された信号に対して、設定した模擬エンジン慣性量を与えて、エンジンの回転数信号を算出する模擬エンジン慣性部である。
【0042】
この模擬エンジン慣性部210は、1/{(EGmJ)s}(EGmJは設定する模擬エンジン慣性モデル、sはラプラス演算子)なる伝達関数を有しており、減算部230の出力を(EGmJ)sで除算することでエンジンの回転数信号を算出している。
【0043】
221は、本発明の模擬エンジン損失モデルの一実施例としての模擬エンジン損失ゲインモデルであり、模擬エンジン慣性部210の出力信号に対して、模擬エンジン損失トルクを設定する(エンジンのトルク損失に相当する模擬エンジン損失ゲインを乗算する)。この模擬エンジン損失ゲイン(EGmC)は、例えばエンジン始動時のエンジン回転損失を補償するための模擬エンジン損失分に設定する。
【0044】
前記模擬エンジン損失ゲインモデル221はゲインブロックであるため、模擬できるエンジン損失トルクは、(損失トルク)=[EGmC]*(エンジン回転数)が示す線形の関係である。
【0045】
230は、加算部140の出力から模擬エンジン損失ゲインモデル221の出力を減算し、該減算出力を模擬エンジン慣性部210に出力する減算部である。
【0046】
このように、エンジントルク推定部100で推定されたエンジントルクから、模擬エンジン損失分(模擬エンジン損失ゲインモデル221の出力)を減算しているので、エンジン始動時のエンジン回転損失分を補償したエンジンの回転数信号を出力することができる。
【0047】
模擬エンジン特性部201におけるエンジン特性(模擬エンジン慣性部210における模擬エンジン慣性モデルEGmJ、模擬エンジン損失ゲインモデル221における模擬エンジン損失ゲインEGmC)の設定は、各々任意に行われるものであり、模擬エンジン損失ゲインEGmCに、エンジン損失ゲインブロック132のエンジン損失ゲインEGCよりも大きな値を設定した場合には、エンジン1に何らかの摩擦特性が印加された場合の始動時のエンジン回転数が算出される。
【0048】
また、模擬エンジン慣性モデルEGmJの値をエンジン慣性ゲインブロック122のエンジン慣性ゲインEGJの値よりも大きくした場合には、エンジン1に何らかの慣性特性が印加された場合の始動時のエンジン回転数が算出される。
【0049】
次に300は、模擬エンジン特性部201から出力されたエンジンの回転数信号を回転数指令値ωrefとして入力し、ダイナモメータ5の回転数検出信号DYωを回転数検出値ωとして入力し、両者の差をゼロとするトルク電流指令値Trefを生成し出力する速度制御部(DYASR)である。
【0050】
この速度制御部300で生成されたTrefを図示省略のインバータへのトルク電流指令(DYTref)とし、ダイナモメータ5の回転数を制御する。
【0051】
これによって、模擬エンジン特性部201で設定したエンジン特性(模擬エンジン慣性モデルEGmJ、模擬エンジン損失ゲイン(EGmC))を模擬した所望のエンジン始動が実現される。
【実施例2】
【0052】
実施例1では、本発明の模擬エンジン損失ゲイン(EGmC)を、図1の模擬エンジン損失ゲインモデル221によって構成したが、本実施例2では、これに代えて図2に示す模擬エンジン特性部202の非線形テーブル222によって構成した。
【0053】
図2の非線形テーブル222は、エンジンの回転数に対するエンジン損失トルクの関係がテーブル化されており、模擬エンジン慣性部210の出力(エンジンの回転数信号)を入力とし、その回転数に対応したエンジン損失トルクを減算部230に出力するものであり、その他の部分は図1と同様に構成されている。
【0054】
このように、前記実施例1の模擬エンジン損失ゲインモデル221はゲインブロックであるため、模擬できるエンジン損失トルクは、(損失トルク)=[EGmC]*(エンジン回転数)が示す線形の関係であったが、本実施例2では、模擬エンジン損失ゲインEGmCを非線形テーブルで構成したため、(損失トルク)=f(エンジン回転数)という、エンジンの回転数のみに対応した任意の損失トルク特性を模擬することができる。
【0055】
本発明の制御回路(図1)を図4のエンジンベンチシステムに適用した場合の、エンジン始動時のエンジン回転数波形を図3に示す。
【0056】
図3は、模擬エンジン慣性部210の模擬エンジン慣性モデルEGmJと、模擬エンジン損失ゲインモデル221の模擬エンジン損失ゲインEGmCを変えた4通りのエンジン模擬特性での始動波形を示している。
【0057】
すなわち、波形イはEGmJ=0.2[kg.m2]、EGmC=0[N.m.s/rad]であり、波形ロはEGmJ=0.2[kg.m2]、EGmC=0.05[N.m.s/rad]であり、波形ハはEGmJ=0.2*1.2[kg.m2]、EGmC=0[N.m.s/rad]であり、波形ニはEGmJ=0.2*0.8[kg.m2]、EGmC=0[N.m.s/rad]である。
【0058】
先行技術によるエンジン始動においては、図5に示すようにクランキング状態から抜けるために長時間を要していたが、図3に示す本発明によれば、短時間でクランキング状態が終了しエンジンが始動していることがわかる。
【0059】
このように、本発明による制御装置では、短時間でのエンジン始動が可能となるだけでなく、模擬エンジン特性パラメータ(模擬エンジン慣性モデルEGmJ、模擬エンジン損失ゲインEGmC)を調整することにより、エンジン回転数波形を調整することも可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1…エンジン
2…クラッチ
3…手動変速機
4…プロペラシャフト
5…ダイナモメータ
6…軸トルクメータ
7…インクリメンタルエンコーダ
100…エンジントルク推定部
110…軸トルク検出分推定トルク算出部
120…エンジン加速分トルク推定部
121…擬似微分ブロック
122…エンジン慣性ゲインブロック
130…エンジン損失推定部
131…ローパスフィルタ
132…エンジン損失ゲインブロック
140…加算部
201,202…模擬エンジン特性部
210…模擬エンジン慣性部
221…模擬エンジン損失ゲインモデル
222…非線形テーブル
230…減算部
300…速度制御部
図1
図2
図3
図4
図5