特許第6724467号(P6724467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724467
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】鍵盤楽器の譜面押さえ構造
(51)【国際特許分類】
   G10C 3/00 20190101AFI20200706BHJP
   G10B 3/00 20190101ALI20200706BHJP
【FI】
   G10C3/00 200
   G10B3/00 150
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-61229(P2016-61229)
(22)【出願日】2016年3月25日
(65)【公開番号】特開2017-173669(P2017-173669A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【弁理士】
【氏名又は名称】別役 重尚
(74)【代理人】
【識別番号】100118278
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 聡
(72)【発明者】
【氏名】宮下 慎也
【審査官】 山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−28617(JP,A)
【文献】 特開2002−258832(JP,A)
【文献】 特開2000−99000(JP,A)
【文献】 特開2015−114656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10C 3/00
G10B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
譜面の下端を受ける譜面台と、
前記譜面台の厚みより薄い譜面押さえであって、鍵盤の鍵の並び方向に略平行な回動中心を中心として回動し、使用時には前記譜面台に載置された譜面を前方から押さえる立設位置をとり、非使用時には倒設位置をとると共に前記譜面台の厚みの範囲内に収まる譜面押さえと、を有し、
前記回動中心は、使用時における前記譜面台の奏者側端部に位置することを特徴とする鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【請求項2】
前記譜面押さえは、使用時に前記譜面台と当接して前記立設位置を位置決めする第1の係合部と、非使用時に前記譜面台と当接して前記倒設位置を位置決めする第2の係合部とを有し、
前記第1、第2の係合部と前記譜面台との係合によって、前記譜面押さえが前記立設位置から脱する時に前記譜面押さえの回動に対して発生する抗力の最大値及び前記譜面押さえが前記倒設位置から脱する時に前記譜面押さえの回動に対して発生する抗力の最大値はいずれも、前記立設位置と前記倒設位置との間の回動途中で発生する抗力の最小値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【請求項3】
前記譜面押さえが前記立設位置を超えて回動したときに前記譜面押さえと当接するストッパ部を前記譜面台に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【請求項4】
前記譜面台は、鍵盤蓋の裏面に回動自在に配設されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【請求項5】
鍵盤蓋の裏面に回動自在に配設され、使用時に譜面の下端を受ける譜面台と、
前記譜面台の厚みより薄い譜面押さえであって、鍵盤の鍵の並び方向に略平行な回動中心を中心として回動自在に前記譜面台に対して配設され、使用時には前記譜面台に載置された譜面を前方から押さえる立設位置をとり、非使用時には倒設位置をとると共に前記譜面台の厚みの範囲内に収まる譜面押さえと、を有することを特徴とする鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【請求項6】
前記立設位置での前記譜面押さえの前記譜面台からの突出高さは、前記譜面押さえが前記立設位置のまま前記譜面台が回動して前記譜面押さえの先端部が前記鍵盤蓋に当接した状態となって且つ、前記鍵盤蓋が閉じられたとしても、前記譜面台が鍵盤に接触しないような高さに設定されていることを特徴とする請求項5に記載の鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【請求項7】
前記譜面押さえは、前記倒設位置では、前記譜面台の厚みの範囲内に収まることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【請求項8】
譜面の下端を受ける譜面台と、
鍵盤の鍵の並び方向に略平行な回動中心を中心として回動し、使用時には前記譜面台に載置された譜面を前方から押さえる立設位置をとると共に、非使用時には倒設位置をとる譜面押さえと、を有し、
前記回動中心は、使用時における前記譜面台の奏者側端部に位置し、
前記譜面押さえは、使用時に前記譜面台と当接して前記立設位置を位置決めする第1の係合部と、非使用時に前記譜面台と当接して前記倒設位置を位置決めする第2の係合部とを有し、
前記第1、第2の係合部と前記譜面台との係合によって、前記譜面押さえが前記立設位置から脱する時に前記譜面押さえの回動に対して発生する抗力の最大値及び前記譜面押さえが前記倒設位置から脱する時に前記譜面押さえの回動に対して発生する抗力の最大値はいずれも、前記立設位置と前記倒設位置との間の回動途中で発生する抗力の最小値よりも大きいことを特徴とする鍵盤楽器の譜面押さえ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器の譜面押さえ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鍵盤楽器において、譜面台に載置された譜面が閉じないように前方から押さえる譜面押さえが譜面台に設けられる(特許文献1、2)。下記特許文献1の譜面押さえ構造では、鍵盤楽器の天面に配置した譜面台に譜面押さえが左右方向に回動自在に設けられる。譜面押さえの回動軸の軸線は前後方向に平行である。回動軸はケースによって常時、軸線に直交する方向に付勢され、回動に対して常に抗力が発生する。譜面押さえは、使用時には斜めに立設され、非使用時にはケースに収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−258832号公報
【特許文献2】特開平10−28617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来型(特許文献1)の斜めに立設される譜面押さえは、回動軸の軸線方向視(使用時の正面視)の形状が直線的な棒状である。しかも、使用時には、譜面から回動軸の軸線に平行な方向に反力を受ける。そのため、十分な剛性を確保するために、軸線方向だけでなく収容時における上下方向(厚み方向)においても肉厚を確保する必要があり、譜面押さえが収容されるケースの厚みも厚くなる。従って、譜面押さえが配置される譜面台の設計の自由度は高くない。例えば、アップライト型ピアノの鍵盤蓋の裏面に設ける譜面台は薄く構成する必要があることから、厚みのある譜面押さえを譜面台に配置することが困難で、実質的に鍵盤蓋の裏面に譜面押さえを設けることができない。
【0005】
また、従来型の棒状の譜面押さえは、譜面を実質的に押さえるための接触面が大きくない。しかも、譜面押さえは、回動軸の軸線方向における端面における特に先端部で譜面を押さえるため、点接触に近い態様で譜面を押さえているのが実情である。そのため、1つの譜面押さえは、譜面の片ページしか押さえられず、適切な押さえ機能を確保するためには1つの譜面に対して2つの譜面押さえが必要となる。
【0006】
また、従来型では、譜面押さえの回動軸が常時付勢されていることから、譜面押さえの立設時や収容時だけでなく、回動途中にも大きな摩擦が生じる。そのため、回動動作の繰り返しにより付勢部分の摩耗が進み、立設時や収容時の姿勢が不安定になると共に、耐久性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、譜面台の設計自由度を高めると共に、譜面との接触面積を大きく確保することができる鍵盤楽器の譜面押さえ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤楽器の譜面押さえ構造は、譜面の下端を受ける譜面台(20)と、前記譜面台の厚みより薄い譜面押さえであって、鍵盤の鍵の並び方向に略平行な回動中心(C)を中心として回動し、使用時には前記譜面台に載置された譜面を前方から押さえる立設位置をとり、非使用時には倒設位置をとると共に前記譜面台の厚みの範囲内に収まる譜面押さえ(10)と、を有し、前記回動中心は、使用時における前記譜面台の奏者側端部(20a)に位置することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために本発明の請求項5の鍵盤楽器の譜面押さえ構造は、鍵盤蓋(101)の裏面に回動自在に配設され、使用時に譜面の下端を受ける譜面台(20)と、前記譜面台の厚みより薄い譜面押さえであって、鍵盤の鍵の並び方向に略平行な回動中心(C)を中心として回動自在に前記譜面台に対して配設され、使用時には前記譜面台に載置された譜面を前方から押さえる立設位置をとり、非使用時には倒設位置をとると共に前記譜面台の厚みの範囲内に収まる譜面押さえ(10)と、を有することを特徴とする。
【0010】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1、5によれば、譜面台の設計自由度を高めると共に、譜面との接触面積を大きく確保することができる。
【0012】
請求項2によれば、譜面押さえの立設位置、倒設位置での姿勢が安定する。請求項3によれば、過剰な回動力に対して譜面押さえを受けて、耐久性を高めることができる。請求項4によれば、鍵盤蓋の裏面に譜面を載置可能となり、アップライト型ピアノにも適用可能となる。請求項6によれば、鍵盤と鍵盤蓋との干渉を回避することができる。請求項7によれば、譜面押さえが譜面台から出っ張らない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】譜面押さえ構造が適用される鍵盤楽器の斜視図(図(a))、譜面台の平面図(図(b))である。
図2】譜面台に配設された1つの譜面押さえの使用状態時の斜視図(図(a))、譜面押さえの斜視図(図(b))である。
図3】使用状態時における譜面押さえの左右方向中央における断面図である。
図4】回動途中、非使用状態時における譜面押さえの左右方向中央における断面図(図(a)、(b))である。
図5】本実施の形態、変形例の、図3のA−A線に沿う断面図(図(a)、(b))である。
図6】鍵盤蓋を閉じた状態における鍵盤付近の模式図(図(a)、(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る譜面押さえ構造が適用される鍵盤楽器の斜視図である。この鍵盤楽器100はアップライト型のピアノとして構成され、鍵盤KBを覆う鍵盤蓋101を備える。鍵盤蓋101の裏面に譜面台20が設けられる。図1(b)は、譜面台20の平面図である。譜面台20は、鍵盤KBの鍵の並び方向である左右方向に長く略板状に構成される。譜面台20は、鍵盤蓋101の裏面に蝶番等で成る複数の回動軸102で回動自在に配設される。図1(a)では譜面台20の非使用時、図1(b)では譜面台20の使用時の状態が示されている。譜面台20の使用時には、鍵盤蓋101を開けた状態で譜面台20を奏者側へ倒す方向へ回動させる。図1(b)の下方が奏者側(前側)である。
【0016】
詳細は後述するが、使用時における譜面台20の上側に、4つの譜面押さえ10が配設される。各譜面押さえ10はいずれも、回動中心Cを中心として譜面台20に対して回動自在に配設される。回動中心Cは、譜面台20の先端部、すなわち使用状態における譜面台20の奏者側端部20aに位置している。各譜面押さえ10の構成は共通であるので、以下、代表して1つの譜面押さえ10の構成を詳述する。
【0017】
図2(a)は、譜面台20に配設された1つの譜面押さえ10の使用状態時の斜視図である。図2(b)は、譜面押さえ10の斜視図である。図3は、使用状態時における譜面押さえ10の左右方向中央における断面図である。図4(a)、(b)はそれぞれ、回動途中、非使用状態時における譜面押さえ10の左右方向中央における断面図である。図5(a)は、図3のA−A線に沿う断面図である。
【0018】
まず、図2(b)、図3図5(a)を主に参照し、譜面押さえ10の単体構成を説明する。譜面押さえ10は、略円柱状の軸機構部11と板状の押さえ部材12とを有して樹脂等で一体に形成される。軸機構部11は回動中心Cの方向(回動中心Cに平行な方向)を長手方向としている。なお、軸機構部11が譜面台20に配設されたとき、回動中心Cは、鍵盤KBの鍵の並び方向に略平行、すなわち左右方向に略平行となる。言い換えると、左右方向に並んだ鍵盤KBの各鍵の前端が作る直線と回動中心Cの軸線とが略平行となる。軸機構部11の、半径方向外側に、第1の係合部14及び第2の係合部15が少し突出して形成されると共に、軸機構部11の内側には空洞部11bが形成される。従って、軸機構部11は、空洞部11bを有することで、円柱状形状の側方の一部が開口した形状となっている。回動中心Cの方向における軸機構部11の両端部に突出して、譜面台20に軸支される軸部13A、13Bが形成されている。第1の係合部14と第2の係合部15とは、回動中心Cを挟んで対向する位置にある。空洞部11bが存在することから、第1の係合部14と回動中心Cとの間、第2の係合部15と回動中心とCの間には、隙間が形成される(図3)。
【0019】
次に、図2(a)、図3図5(a)を主に参照し、譜面台20の構成を説明する。譜面台20は、第1ケース21及び第2ケース22を組み合わせて構成されるが、両者が一体に形成されてもよい。譜面台20には、譜面押さえ10が配設されるための凹部29が形成される。第1ケース21には、軸機構部11の軸部13A、13Bを軸支する軸受け部27A、27Bが形成されている(図5(a))。鍵盤蓋101を開状態とし且つ譜面台20を開状態とした使用状態における、凹部29の奏者側寄りに回動中心Cが位置するように、軸受け部27A、27Bの形成位置が設定されている。譜面台20の使用時には、譜面台20は譜面103の下端103aを支持する(図3)。
【0020】
譜面押さえ10は、回動中心Cを中心として回動し、使用時には譜面台20に載置された譜面103を前方から押さえる立設位置をとり(図3)、非使用時には倒設位置をとる(図4(b))。譜面押さえ10は、立設位置と倒設位置との間を回動自在である(図4(a))。譜面押さえ10が立設位置にあるとき、第1の係合部14は下方を向き、第2の係合部15は上方を向く(図3)。一方、譜面押さえ10が倒設位置にあるとき、第1の係合部14は譜面台20の先端側を向き、第2の係合部15は回動軸102のある側を向く(図4(b))。
【0021】
凹部29内における第2ケース22の底部上面の一部は、譜面押さえ10が立設位置にあるときに第1の係合部14と圧接する第1の被圧接部24として機能する(図3)。第1の係合部14と第1の被圧接部24との当接により、譜面押さえ10の立設位置が位置決めされる。凹部29内における第2ケース22の先端側の端面の一部は、譜面押さえ10が倒設位置にあるときに第2の係合部15と圧接する第2の被圧接部25として機能する(図4(b))。第2の係合部15と第2の被圧接部25との当接により、譜面押さえ10の倒設位置が位置決めされる。軸機構部11の外周面11aは、第1の係合部14、第2の係合部15よりも半径方向内側に位置し、譜面押さえ10の回動途中において第1の被圧接部24及び第2の被圧接部25のいずれもとも接触しない。
【0022】
凹部29内における第1ケース21には、回動軸102側の端面としてストッパ部23が形成されている。譜面押さえ10に過剰な負荷が掛かり、図3に示す立設位置を超えて回動したときには、譜面押さえ10の押さえ部材12がストッパ部23と当接し、第1の係合部14及び第1の被圧接部24の過大な変形が防止される。使用時に第1ケース21の上方に露出する面は、ほぼ全体に亘って人工皮革等のカバー部材26で被覆される。第1ケース21と第2ケース22とは、ネジで締結されるが、そのネジはカバー部材26で隠れて外観に表れない。
【0023】
かかる構成において、譜面103を載置するために譜面台20及び譜面押さえ10を使用する際には、ユーザは、鍵盤蓋101を開状態とし、さらに譜面台20を開状態とする。そして、ユーザは、必要な譜面押さえ10を立設位置まで回動させる。例えば、鍵盤楽器100の左右方向中央で1つの譜面103を保持したい場合は、4つの譜面押さえ10のうち中央の2つを立設させればよい。あるいは、左右に2つの譜面103を並べて保持したい場合は、4つの譜面押さえ10を立設するのが適切である。このほか、低音側のみ、高音側のみで譜面103を保持したい場合は、左側の2つ、あるいは右側の2つの譜面押さえ10を立設する態様も考えられる。いずれにしても、立設した譜面押さえ10の押さえ部材12は、後面(鍵盤蓋101の裏面に対向する面)の面積が広く確保されているので、従来型の斜めに立設される譜面押さえと比べて譜面103と接触可能な面積が大きい。押さえ部材12は、譜面103を前方から押さえる。
【0024】
ところで、譜面押さえ10の立設位置、倒設位置においては、係合部14、15の各平坦面と被圧接部24、25とは圧接している。譜面押さえ10を立設位置から倒設方向へ回動させるとき、第1の係合部14の平坦面が第1の被圧接部24から離れると同時に第1の係合部14の角部14a(図3)が第1の被圧接部24に当接する。さらに譜面押さえ10を倒設方向へ回動させると、角部14aが第1の被圧接部24と摺接し、やがて、角部14aも第1の被圧接部24から離れて、回動途中の段階に移行する。ここで、第1の係合部14と第1の被圧接部24との圧接により、立設位置から倒設方向へ回動させようとすることに対して抗力が発生するが、特に、角部14aが第1の被圧接部24と当接してから離れるまでの間に最大の抗力が発生する。従って、譜面押さえ10が立設位置を脱する回動初期に抗力のピークが生じる。
【0025】
一方、譜面押さえ10が立設位置と倒設位置との間を回動するとき、第1の被圧接部24及び第2の被圧接部25のいずれに対しても軸機構部11の外周面11aが接触しない行程を経る(図4(a))。従って、譜面押さえ10が立設位置を脱する時に発生する抗力の最大値は、回動途中において発生する抗力の最小値よりも大きい。
【0026】
これについては、譜面押さえ10を倒設方向から立設位置へ回動させるときにも同様に考えることができる。すなわち、第2の係合部15の平坦面が第2の被圧接部25から離れると同時に第2の係合部15の角部15a(図3)が第2の被圧接部25に当接する。その後、角部15aが第2の被圧接部25と摺接した後に第2の被圧接部25から離れて、回動途中の段階に移行する。従って、譜面押さえ10が倒設位置を脱する回動初期に抗力のピークが生じる。譜面押さえ10が倒設位置を脱する時に発生する抗力の最大値は、回動途中において発生する抗力の最小値よりも大きい。
【0027】
このように、譜面押さえ10が、立設位置または倒設位置を脱する時に発生する抗力の最大値が、回動途中において発生する抗力の最小値よりも大きいので、立設位置、倒設位置での譜面押さえ10の姿勢が安定する。さらに、回動途中の段階から譜面押さえ10が立設位置または倒設位置に至るときにも、抗力のピークが発生する段階を経る。これにより、立設位置、倒設位置の2位置で節度感を持たせることができ、気持ちのよいクリック感を伴った回動操作を実現できる。また、譜面押さえ10の回動途中では譜面押さえ10に摩擦や抗力がほとんど発生しないので、譜面押さえ10の円滑な回動と耐久性が確保される。また、係合部14、15間に空洞部11bを形成したことで、係合部14、15を半径方向に撓みやすくし、適度な押圧力を発揮させることができる。さらに、構成を簡単にすることができる。
【0028】
図4(b)に示すように、倒設位置においては、譜面押さえ10は譜面台20の厚みT1の範囲内に収まり、譜面台20から出っ張らない。なお、倒設位置において譜面押さえ10の押さえ部材12の上側となる面と譜面台20の上面とが面一になるようにしてもよい。また、譜面押さえ10の押さえ部材12の厚みT2は、譜面台20の厚みT1の半分以下である。これにより、譜面台20の剛性及び薄さを維持することができる。特に、譜面台20の裏側(使用時の底面)にネジが表れないようにすることが容易であり、外観の低下を回避できる。
【0029】
図6(a)、(b)は、鍵盤蓋101を閉じた状態における鍵盤KB付近の模式図である。押さえ部材12が薄いことで、譜面台20も厚くすることなく設計できる。従って、図6(a)に示すように、譜面台20を閉じた状態では、鍵盤蓋101を閉じても譜面台20が鍵盤KBに干渉することがない。本実施の形態ではさらに、譜面押さえ10及び譜面台20を閉じ忘れたまま鍵盤蓋101を閉じても譜面台20が鍵盤KBに干渉しないように、譜面押さえ10の立設位置における押さえ部材12の譜面台20からの突出高さHが設定されている。すなわち、突出高さH(図3)は、譜面押さえ10が立設位置のまま譜面台20が回動操作されて押さえ部材12の先端部が鍵盤蓋101に当接した状態となって且つ、鍵盤蓋101が閉じられたとしても、譜面台20が鍵盤KBに接触しないような高さに設定されている(図6(b))。これにより、不用意な操作をしても、鍵盤KBと鍵盤蓋101との干渉を回避することができる。
【0030】
本実施の形態によれば、回動中心Cは、使用時における譜面台20の奏者側端部20aに位置する。また、譜面押さえ10は、鍵の並び方向に略平行な回動中心Cを中心として回動自在であり、使用時にとる立設位置では、押さえ部材12が譜面103を前方から押さえる。すなわち、譜面押さえの回動軸の軸線が前後方向に平行である従来構成とは異なる。これらにより、回動中心Cから回動軸102までの距離を長く確保でき、回動中心Cに直交する方向における譜面押さえ10の押さえ部材12の長さ(高さ)も長く設定できる。しかも、譜面103から受ける反力は回動中心Cに平行な方向でなく直交する方向であるため、押さえ部材12を過剰に厚くする必要がなく、譜面台20の厚みの制約も少ない。また、左右方向における譜面押さえ10の長さは自由に設計でき、長くすれば譜面103を広い範囲で押さえられる。従って、譜面台20の設計自由度を高めると共に、押さえ部材12と譜面103との接触面積を大きく確保することができる。
【0031】
本実施の形態によれば、譜面押さえ10が、立設位置から脱する時及び倒設位置から脱する時に譜面押さえ10の回動に対して発生する抗力の最大値はいずれも、回動途中で発生する抗力の最小値よりも大きいので、譜面押さえ10の立設位置、倒設位置での姿勢が安定する。また、簡単な構成で安定した2状態で譜面押さえ10に節度感を持たせることができる。さらに、譜面押さえ10が立設位置と倒設位置との間を回動するとき、第1の被圧接部24及び第2の被圧接部25のいずれに対しても軸機構部11の外周面11aが接触しない行程を経る。これにより、回動途中での大きな抗力・摩擦を発生させないようにして円滑な回動を確保すると共に、摩耗の進行や耐久性の低下を抑制できる。また、ストッパ部23を譜面台20に設けたので、過剰な回動力に対して譜面押さえ10を受けて、耐久性を高めることができる。また、譜面台20は、鍵盤蓋101の裏面に回動自在に配設されたので、鍵盤蓋101の裏面に譜面103を載置可能となり、アップライト型ピアノにも適用可能となる。
【0032】
ところで、従来の斜めに立設される棒状の譜面押さえは、ほぼ先端部だけで点接触に近い態様で譜面を押さえている。これに対し本実施の形態では、押さえ部材12が左右方向にも長く、左右方向のいずれの位置でも譜面103を押さえる機能を発揮できる。そのため、1つの譜面押さえ10が2つの譜面103を同時に押さえるような使い方も可能である。例えば、左側の譜面103の右端と右側の譜面103の左端とを、1つの押さえ部材12の左右方向中央に位置させることで、2つの譜面103の片ページを押さえる機能を果たせる。これは押さえ部材12の左右方向の長さを長くとれば十分に実現可能である。従って、譜面押さえ10を3つ設けることで、2つの譜面103を同時に押さえることが可能となる。このような使用法は従来型ではきわめて困難である。
【0033】
なお、譜面押さえ10の立設位置、倒設位置での姿勢が安定させる観点からは、次のように考えてもよい。まず、譜面押さえ10が、立設位置または倒設位置を脱する時に発生する抗力の最大値が、回動途中において発生する抗力の最小値よりも大きければよい。従って、譜面押さえ10が立設位置と倒設位置開との間を回動するとき、第1の被圧接部24及び第2の被圧接部25のいずれに対しても軸機構部11の外周面11aが接触しない行程を経ることは必須でない。また、譜面押さえ10が、少なくとも立設位置または倒設位置を脱する時に抗力が発生する構成であればよい。従って、立設、倒設状態時に係合部14、15がそれぞれ被圧接部24、25に圧接していることは必須でなく、いずれか片方の組のみが圧接する構成であってもよい。また、譜面押さえ10が少なくとも立設、倒設状態を脱する際の回動初期に係合部14、15のうち角部14a、15bがそれぞれ被圧接部24、25に当接するように構成すればよく、立設、倒設状態時に係合部14、15の平坦面が被圧接部24、25に当接することも必須でない。さらには、譜面押さえ10が立設、倒設状態を脱する際の回動初期に抗力のピークが生じる構成も必須でなく、例えば、係合部14、15は、回動中心Cを中心とする一定曲率の曲面であるといった構成も除外されない。
【0034】
なお、本実施の形態では、軸機構部11の軸部13A、13Bを軸受け部27A、27Bが軸支する構成としたが、凹凸関係をこれとは逆にしてもよい。すなわち、図5(b)に変形例を示すように、軸機構部11の両端部に凹部16A、16Bを形成すると共に、第1ケース21に形成した軸部28A、28Bに凹部16A、16Bが軸支される構成としてもよい。
【0035】
なお、譜面押さえ10と係合するために譜面台20に形成された部分は、機構上許される限り、譜面台20のどの部分に設けてもよく、第1ケース21または第2ケース22のいずれに形成されてもよい。また、譜面台20は3つ以上の部材が組み合わされて構成されてもよく、その場合でも、譜面押さえ10と係合する部分はいずれの部材に形成されてもよい。なお、本発明の譜面押さえ構造が適用される譜面台の配置位置は問わず、鍵盤楽器の屋根板に配置される譜面台に譜面押さえ構造を適用してもよい。
【0036】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
10 譜面押さえ、 14 第1の係合部、 15 第2の係合部、 20 譜面台、 20a 奏者側端部、 23 ストッパ部、 101 鍵盤蓋、 103 譜面、 103a 下端、 C 回動中心、 H 突出高さ、 T1 厚み

図1
図2
図3
図4
図5
図6