特許第6724743号(P6724743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブリヂストンスポーツ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724743
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】ゴルフボール用塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20200706BHJP
   A63B 37/14 20060101ALI20200706BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20200706BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   A63B37/00 214
   A63B37/14
   C09D175/06
   C08G18/42 002
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-225966(P2016-225966)
(22)【出願日】2016年11月21日
(65)【公開番号】特開2018-82759(P2018-82759A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 宏隆
【審査官】 古川 直樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06365679(US,B1)
【文献】 特開2015−038163(JP,A)
【文献】 特開2012−140614(JP,A)
【文献】 特開2000−288125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00 − 47/04
C08G 18/00 − 18/87
C08G 71/00 − 71/04
C09D 1/00 − 10/00
C08G 101/00 − 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤としてのポリオール及び有機溶剤と、硬化剤としてのポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とするゴルフボール用塗料組成物であって、上記ポリオールとして2種類のポリエステルポリオールを用い、これら2種類のポリエステルポリオールが、(A)重量平均分子量(Mw)20,000〜30,000のものと、(B)重量平均分子量(Mw)800〜1,500のものであり、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の重量平均分子量(Mw)が13,000〜23,000であり、上記主剤の全体の数平均分子量(Mn)が1,100〜2,000であり、(A)成分の配合量が主剤全量に対して20〜30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2〜18質量%であると共に、上記2種類のポリエステルポリオールが有する水酸基(OH基)と上記ポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)が0.6〜0.9の範囲であり、且つ、以下の方法で測定される上記組成物の弾性仕事回復率が70%以上であることを特徴とするゴルフボール用塗料組成物。
弾性仕事回復率の測定方法]
厚み50μmの塗膜シートを使用して測定し、測定装置は超微小硬度計が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
【請求項2】
上記組成物の弾性仕事回復率が80%以上である請求項記載のゴルフボール用塗料組成物。
【請求項3】
上記2種類のポリエステルポリオールが有する水酸基(OH基)と上記ポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)が0.6〜0.74の範囲である請求項1又は2記載のゴルフボール用塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの表面を保護する目的で、又は美的外観を良好に維持する目的により、該ボール表面部分に塗料組成物による塗装が施されていることが多い。このようなゴルフボール用塗料組成物としては、大きな変形及び衝撃、摩擦に耐え得るなどの理由から、ポリオールとポリイソシアネートとを使用直前に混合して用いる2液硬化型ポリウレタン塗料が好適に使用されている(例えば特許文献1)。
【0003】
最近のゴルフボールの開発で多く見られるのは、ドライバーによるフルショット時のスピンをより一層低下させることであり、このような低スピン化の流れから、最外層であるカバーは軟質化する傾向にある。
【0004】
また、多くのゴルフボールは、コアと、該コアの外側に位置するカバーと、該カバーの外側に位置する塗膜層とを備えている。この塗膜層を軟質にすることにより、ゴルフボールのスピン速度の安定性に寄与したり、耐久性に優れたりするなどの一定の効果があることも多い(例えば特許文献2)。なお、その他の文献として、下記の特許文献3もある。
【0005】
更には、ポリオール成分として1種類のポリエステルポリオールを単独で使用したゴルフボール用塗料も開発されている。
【0006】
しかし、塗膜層表面における耐摩耗性が良好なものではなく、更に改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−253201号公報
【特許文献2】特開2011−67595号公報
【特許文献3】特開2002−53799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、塗膜の耐摩耗性が向上し得るゴルフボール用塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とする塗料組成物について、上記ポリオールとして2種類のポリエステルポリオールを用いると共に、上記組成物の弾性仕事回復率が70%以上となるように塗料組成物を調製することにより、この塗料組成物によって得られる塗膜は高い弾性力を有することとなり、高い自己修復機能により耐摩耗性を向上し得ることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
従って、本発明は、下記のゴルフボール用塗料組成物を提供する。
1.主剤としてのポリオール及び有機溶剤と、硬化剤としてのポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とするゴルフボール用塗料組成物であって、上記ポリオールとして2種類のポリエステルポリオールを用い、これら2種類のポリエステルポリオールが、(A)重量平均分子量(Mw)20,000〜30,000のものと、(B)重量平均分子量(Mw)800〜1,500のものであり、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の重量平均分子量(Mw)が13,000〜23,000であり、上記主剤の全体の数平均分子量(Mn)が1,100〜2,000であり、(A)成分の配合量が主剤全量に対して20〜30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2〜18質量%であると共に、上記2種類のポリエステルポリオールが有する水酸基(OH基)と上記ポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)が0.6〜0.9の範囲であり、且つ、以下の方法で測定される上記組成物の弾性仕事回復率が70%以上であることを特徴とするゴルフボール用塗料組成物。
弾性仕事回復率の測定方法]
厚み50μmの塗膜シートを使用して測定し、測定装置は超微小硬度計が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
2.上記組成物の弾性仕事回復率が80%以上である上記1記載のゴルフボール用塗料組成物。
3.上記2種類のポリエステルポリオールが有する水酸基(OH基)と上記ポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)が0.6〜0.74の範囲である上記1又は2記載のゴルフボール用塗料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のゴルフボール用塗料組成物は、高い弾性力を有するため自己修復機能が高く、ゴルフボール用塗料として耐摩耗性が高いものとなり、且つ上記塗料組成物で塗装されたゴルフボールの性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明の第1発明であるゴルフボール用塗料組成物は、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を主成分とするものである。
【0013】
上記ポリオールとしては、2種類のポリエステルポリオール、即ち、ポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)とを主剤として用いる。これらの2種類のポリエステルポリオールは、重量平均分子量(Mw)が異なるものであり、(A)成分の重量平均分子量(Mw)が20,000〜30,000であり、且つ、(B)成分の重量平均分子量(Mw)が800〜1,500であることが好適である。(A)成分の重量平均分子量(Mw)のより好ましくは22,000〜29,000であり、更に好ましくは23,000〜28,000である。一方、(B)成分の重量平均分子量(Mw)のより好ましくは900〜1,200であり、更に好ましくは1,000〜1,100である。
【0014】
上記2種類のポリエステルポリオールは、ポリオールと多塩基酸との重縮合により得られる。このポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、トリオール、テトラオール、脂環構造を有するポリオールが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環構造を有するジカルボン酸、トリス−2−カルボキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。特に、(A)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(B)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
【0015】
また、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは13,000〜23,000であり、より好ましくは15,000〜22,000である。また、上記2種類のポリエステルポリオールからなる主剤の全体の数平均分子量(Mw)は、好ましくは1,100〜2,000であり、より好ましくは1,300〜1,850である。これらの平均分子量(Mw及びMn)が上記範囲を逸脱すると、塗膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。
【0016】
上記2種類のポリエステルポリオール(A),(B)成分の配合量は、特に制限はないが、(A)成分の配合量が、主剤全量に対して20〜30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2〜18質量%であることが好ましい。
【0017】
一方、本発明で使用するポリイソシアネートについては、特に制限はなく、一般的に用いられている芳香族、脂肪族、脂環式などのポリイソシアネートであり、具体的には、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−4−イソシアナトメチルシクロヘキサン等が挙げられる。これらは,単独で或いは混合して使用することができる。
【0018】
上記のヘキサメチレンジイソシアネートの変性体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのポリエステル変性体やウレタン変性体などが挙げられる。上記のヘキサメチレンジイソシアネートの誘導体としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体(イソシアヌレート体)やビュレット体、アダクト体が挙げられる。
【0019】
本発明で用いられる2種類のポリエステルポリオールが有する水酸基(OH基)とポリイソシアネートが有するイソシアネート基(NCO基)とのモル比(NCO基/OH基)については、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上であり、上限としては、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.9以下である。このモル比が上記の下限値を下回ると場合には未反応の水酸基が残り、ゴルフボール用塗膜としての性能及び耐水性が悪くなるおそれがある。一方、上記の上限値を超えるとイソシアネート基が過剰となるため、水分との反応でウレア基(脆い)が生成することになり、その結果、ゴルフボール用塗膜の性能が低下するおそれがある。
【0020】
硬化触媒(有機金属化合物)としては、アミン系触媒や有機金属系触媒を使用することができ、この有機金属化合物としては、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ等の金属石鹸等、従来から2液硬化型ウレタン塗料の硬化剤として配合されているものを好適に使用することができる。
【0021】
上記ゴルフボール用塗料組成物には、必要に応じて、公知の塗料配合成分を添加してもよい。具体的には、増粘剤や紫外線吸収剤、蛍光増白剤、スリッピング剤、顔料等を適量配合することができる。
【0022】
また、ゴルフボール用塗料組成物の弾性仕事回復率が70%以上とすることを要し、好ましくは80%以上である。この塗料の弾性仕事回復率が上記範囲を逸脱すると、耐摩耗性が悪くなるおそれがある。このように、本発明では、ゴルフボール表面に形成される塗膜が高弾性力を有するため自己修復機能が高く、耐摩耗性に非常に優れる。また、上記塗料組成物で塗装されたゴルフボールの諸性能を向上させることができる。ゴルフボール用塗料組成物の弾性仕事回復率の測定方法については後述する。
【0023】
上記の弾性仕事回復率は、押し込み荷重をマイクロニュートン(μN)オーダーで制御し、押し込み時の圧子深さをナノメートル(nm)の精度で追跡する超微小硬さ試験方法であり、塗膜の物性を評価するナノインデンテーション法の一つのパラメータである。従来の方法では最大荷重に対応した変形痕(塑性変形痕)の大きさしか測定できなかったが、ナノインデンテーション法では自動的・連続的に測定することにより、押し込み荷重と押し込み深さとの関係を得ることができる。そのため、従来のような変形痕を光学顕微鏡で目視測定するときのような個人差がなく、精度高く塗膜の物性を評価することができると考えられる。ゴルフボール表面の塗膜がドライバーや各種のクラブの打撃により大きな影響を受け、当該塗膜がゴルフボールの物性に及ぼす影響は小さくないことから、ゴルフボール用塗膜を超微小硬さ試験方法で測定し、従来よりも高精度に行うことは、非常に有効な評価方法となる。
【0024】
上記の塗料組成物を使用する際は、公知の方法で製造されたゴルフボールに対し、本発明の塗料組成物を塗装時に調製し、通常の塗装工程を採用して表面に塗布し、乾燥工程を経てボール表面に塗膜層を形成することができる。この場合、塗装方法としては、スプレー塗装法、静電塗装法、ディッピング法などを好適に採用することができ、特に制限はない。
【0025】
上記ゴルフボール用塗料組成物は、上述したとおり、主剤として2種類のポリエステルポリオールを使用し、ポリイソシアネートを硬化剤として使用するものであり、塗装条件により、各種の有機溶剤を混合することができる。このような有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤等が使用できる。
【0026】
なお、上記の乾燥工程については、公知の2液硬化型ウレタン塗料と同様にすればよく、本発明の塗料組成物は、乾燥温度が約40℃以上、特に40〜60℃、乾燥時間20〜90分、特に40〜50分とすることができる。
【0027】
塗膜層の厚さについては、特に制限はないが、好ましくは3〜50μm、より好ましくは5〜20μmである。
【0028】
上記塗料組成物は、ワンピースゴルフボールやコアと該コアを被覆するカバーとからなるツーピースソリッドゴルフボール、又は、1層以上のコアと該コアを被覆する多層のカバーとからなるマルチピースソリッドゴルフボール等、いずれのゴルフボールでも用いることができる。
【0029】
上記カバーについては、コアを被覆する部材であり、少なくとも1層有し、例えば、2層カバーや3層カバー等のものが挙げられる。2層カバーの場合、各層は、内側を中間層、外側を最外層と称することがある。また、3層カバーの場合、各層は、内側から順に、包囲層、中間層及び最外層と称することがある。なお、上記最外層の外表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルが多数形成される。
【0030】
カバー各層の材質については、特に制限はなく、例えば、アイオノマー樹脂、ポリエステル樹脂や、ポリアミド樹脂、更にはポリウレタン樹脂により形成することができる。例えば、中間層をアイオノマー樹脂や高度に中和したアイオノマー樹脂により形成し、最外層をポリウレタン樹脂により形成することができる。
【0031】
コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス−1,4−ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。また、ポリブタジエンは、チタン系、コバルト系、ニッケル系、ネオジウム系等のチーグラー系触媒、コバルト及びニッケル等の金属触媒により合成することができる。
【0032】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤、ジクミルパーオキサイドや1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0033】
このように、上記塗料組成物にて形成された塗膜は、耐摩耗性に優れると共に、その塗料組成物で塗装されたゴルフボールは、ゴルフクラブにより繰り返し打撃が行われた場合であってもスピン性能の著しい低下を防ぐことができる等、性能を向上させることができる。
【実施例】
【0034】
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1〜3、比較例1,2〕
表1に示す配合によりコア用のゴム組成物を調製した後、155℃、15分間加硫成形することにより直径36.3mmのコアを作製した。次に、同表に示す各種の樹脂材料を配合したカバー(内側から順に包囲層、中間層及び最外層)を射出成形法により順次被覆した。
包囲層の厚みは1.3mm、材料硬度はショアD硬度で52であり、中間層の厚みは1.1mm、材料硬度はショアD硬度で62であり、最外層の厚みは0.8mm、材料硬度はショアD硬度で47であった。なお、特に図示してはいないが、最外層の外表面には多数のディンプルが射出成形と同時に形成された。
【0036】
【表1】
【0037】
上記コアの材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。
「ポリブタジエンA」:商品名「BR01」JSR社製
「ポリブタジエンB」:商品名「BR51」JSR社製
「有機過酸化物」:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」日油社製
「硫酸バリウム」:商品名「バリコ#100」ハクスイテック社製
「酸化亜鉛」:商品名「酸化亜鉛3種」堺化学工業社製
「アクリル酸亜鉛」:日本触媒社製
「水」:蒸留水、和光純薬工業社製
「ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩」:和光純薬工業社製
【0038】
カバー(包囲層、中間層及び最外層)の材料の詳細は下記のとおりである。なお、表中の数字は質量部を示す。
「HPF1000」:Dupont社製のアイオノマー
「ハイミラン1605」:Na系アイオノマー、三井・デュポンポリケミカル社製
「ハイミラン1557」:Zn系アイオノマー、三井・デュポンポリケミカル社製
「ハイミラン1706」:Zn系アイオノマー、三井・デュポンポリケミカル社製
「T−8290」、「T−8283」:DIC BayerPolymer社製の商標パンデックス、MDI−PTMGタイプ熱可塑性ポリウレタン
「ハイトレル4001」:東レデュポン社製、ポリエステルエラストマー
「ポリリエチレンワックス」:三洋化成社製、商品名「サンワックス161P」
「酸化チタン」:石原産業社製「タイペークR680」
「イソシアネート化合物」:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
【0039】
塗膜層の形成
次に、下記表2に示す塗料配合において、ディンプルが多数形成された最外層の表面に、エアースプレーガンにより上記塗料を塗装し、厚み15μmの塗膜層を形成した各例のゴルフボールを作製した。
【0040】
弾性仕事回復率
塗料の弾性仕事回復率の測定には、厚み50μmの塗膜シートを使用して測定する。測定装置は、エリオニクス社の超微小硬度計「ENT−2100」が用いられ、測定の条件は、以下の通りである。
・圧子:バーコビッチ圧子(材質:ダイヤモンド、角度α:65.03°)
・荷重F:0.2mN
・荷重時間:10秒
・保持時間:1秒
・除荷時間:10秒
塗膜の戻り変形による押し込み仕事量Welast(Nm)と機械的な押し込み仕事量Wtotal(Nm)とに基づいて、下記数式によって弾性仕事回復率が算出される。
弾性仕事回復率=Welast / Wtotal × 100(%)
【0041】
【表2】
【0042】
[ポリエステルポリオール(A)の合成例]
環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200〜240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4,水酸基価170,重量平均分子量(Mw)28,000の「ポリエステルポリオール(A)」を得た。
次に、上記の合成したポリエステルポリオール(A)を酢酸ブチルで溶解させ、不揮発分70質量%のワニスを調製した。
【0043】
実施例1では、上記ポリエステルポリオール溶液23質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の飽和脂肪族ポリエステルポリオール「NIPPOLAN 800」、重量平均分子量(Mw)1,000、固形分100%)を15質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分38.0質量%であった。
【0044】
実施例2では、上記ポリエステルポリオール溶液25質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の「NIPPOLAN 800」、固形分100%)を8質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分33.0質量%であった。
【0045】
実施例3では、上記ポリエステルポリオール溶液26質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の「NIPPOLAN 800」、固形分100%)を4質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分30.0質量%であった。
【0046】
比較例1では、上記「ポリエステルポリオール(B)」を混合せず、表2に示すように、主剤として「ポリエステルポリオール(A)」のみを酢酸ブチルで溶解させた。この溶液は、不揮発分27.5質量%であった。
【0047】
比較例2では、上記ポリエステルポリオール溶液27質量部に対して、「ポリエステルポリオール(B)」(東ソー(株)製の「NIPPOLAN 800」、固形分100%)を3質量部と有機溶剤とを混合し、主剤とした。この混合物は、不揮発分30.0質量%であった。
【0048】
[分子量(Mw及びMn)の測定]
分子量は、以下の装置により測定した。
装置:東ソー(株)製 高速GPC装置 HLC−8220
カラム:東ソー(株)製 「TSK−GEL G2000HXL」と「TSK−GEL G4000HXL」との2個連結
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
溶離液:THF
カラム流速:0.6ml/min
【0049】
次に、硬化剤として表2に示す硬化剤を有機溶剤に溶解させて使用した。即ち、表2に示す配合割合になるように、HMDI系ヌレート(旭化成(株)製の「デュラネートTPA−100」NCO含有量23.1%、不揮発分100%)と、有機溶剤として酢酸エチル及び酢酸ブチルを加え、塗料を調製した。
【0050】
そして、各実施例、比較例のゴルフボールの塗膜外観を下記の基準に従って評価した。その結果を表3に示す。
【0051】
砂摩耗試験後のボール表面の外観評価
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂を約4kg入れ、該ポットミルに15個のボールを投入した。そして、ボールミルにて50〜60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ボールをポットミルから取り出し、下記の基準により、ボール外観を評価した。
〔判定基準〕
◎:ボール表面には、剥離や汚れなど目立った外傷なし
○:ボール表面には、小さな傷や汚れが見られる
×:ボール表面には、摩耗による大きな剥離、又は汚れや艶の減退などが目立つ
【0052】
砂水摩耗試験後のボール表面の外観評価
外径210mmのポットミルに5mm前後の大きさの砂及び水を約4kg入れ、該ポットミルに15個のボールを投入した。そして、ボールミルにて50〜60rpmの回転数で120分間、撹拌した。その後、ボールをポットミルから取り出し、下記の基準により、ボール外観を評価した。
〔判定基準〕
◎:ボール表面には、剥離や汚れなど目立った外傷なし
○:ボール表面には、小さな傷や汚れが見られる
×:ボール表面には、摩耗による大きな剥離、又は汚れや艶の減退などが目立つ
【0053】
【表3】
【0054】
表3のゴルフボール物性の結果より、以下のことが考察される。
本実施例1〜3のゴルフボールは、いずれも、砂摩耗試験及び砂水摩耗試験が良好な結果となり塗膜外観が良好であることが分かる。
これに対して、比較例1及び比較例2は、砂水摩耗試験によるボール表面は良好であるが、砂摩耗試験におけるボール表面は、摩耗による剥離、又は汚れや艶の減退などが目立つ。