(54)【発明の名称】ガラス繊維不織布、複合体、繊維強化熱可塑性樹脂シート、金属張積層シート、ガラス繊維不織布の製造方法および繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
繊維強化樹脂シートの用途の一つとして、配線板や金属張積層シートの基材(絶縁シート)としての用途が知られている。この用途では、マトリックス樹脂材料としてはエポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂が広く利用されている。しかしながら、熱硬化性樹脂は一般に熱可塑性樹脂と比較すると成形性が低い傾向がある。一方、ポリエーテルイミドのように融点や熱分解温度が、一般的なリフローはんだ付けの温度(例えば、260℃)よりも高く、耐熱性に優れた熱可塑性樹脂が開発されている。このような熱可塑性樹脂は、これまで使用されてきたエポキシ樹脂に代表される熱硬化性樹脂では実現できなかった低発煙性や低誘電率といった優れた特性を有するものがあり、配線板や金属張積層シートの樹脂材料として使用することができれば好ましい。
【0005】
しかしながら、本発明の発明者の検討によると、マトリックス樹脂材料として熱可塑性樹脂を使用した繊維強化樹脂シートは、熱硬化性樹脂を使用したものと比較すると、高温環境下においてシートの厚さ方向に熱膨張し易いことが判明した。配線板や金属張積層シートの基材が厚さ方向に熱膨張と熱収縮を繰り返すと、基材から配線(金属箔)が剥がれて断線する要因となるおそれがある。また、複数の配線板を積層した積層配線板では、積層配線板を構成する各配線板が厚さ方向に熱膨張と熱収縮を繰り返すことによって、配線板が剥がれて断線する要因となるおそれがある。従って、配線板や銅張積層シートの基材として利用する繊維強化樹脂シートは、高温環境下での厚さ方向の熱膨張が低いことが望ましい。
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、マトリックス樹脂成分として、熱可塑性樹脂を使用しながらも、高温環境下での厚さ方向への熱膨張が低減した繊維強化熱可塑性樹脂シート、及びこの繊維強化熱可塑性樹脂シートを用いた金属張積層シートを提供することを目的とする。本発明はまた、上記繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造用材料(プリプレグ)として用いることができる、熱可塑性のマトリックス樹脂と繊維を含む複合体を提供することもその目的とする。本発明はさらに、上記繊維強化熱可塑性樹脂シートの繊維の供給源として用いることができる不織布を提供することもその目的とする。またさらに、本発明は、上記のガラス繊維不織布の製造方法および繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法を提供することもその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、長さが3〜25mmのガラス長繊維と長さが0.3〜1mmのガラス短繊維とが、質量比で50:50〜90:10となる割合で水に分散されているガラス繊維水性分散液を抄紙することによって、ガラス長繊維が平面方向に対して水平に配向し、ガラス短繊維の少なくとも一部が平面方向に対して60〜120度の角度を持って内部に挿入されているガラス繊維不織布を製造することが可能なるとの知見を得た。そして、上記の角度を持つガラス短繊維を含むガラス繊維不織布は、高温環境下での熱可塑性樹脂シートの厚さ方向への熱膨張を低減させるのに有用な繊維の供給源となることを見出した。すなわち、上記のガラス繊維不織布と熱可塑性樹脂を含む複合体の加熱加圧成形体である繊維強化熱可塑性樹脂シートは、高温環境下での厚さ方向への熱膨張が顕著に低減することを見出して、本発明を完成させた。このガラス繊維不織布を用いることによって、高温環境下での繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さ方向への熱膨張が低減する理由は、必ずしも明確ではないが、ガラス繊維不織布の内部に上記角度を持って挿入されているガラス短繊維が、熱可塑性樹脂の厚さ方向への膨張を抑えるためであると考えられる。
【0008】
従って、上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]長さが3〜25mmのガラス長繊維と長さが0.3〜1mmのガラス短繊維とを、質量比で50:50〜90:10の範囲で含むガラス繊維不織布であって、前記ガラス長繊維は、前記ガラス繊維不織布の平面方向に対して水平に配向し、前記ガラス短繊維の少なくとも一部は、前記ガラス繊維不織布の平面方向に対して60〜120度の角度を持って内部に挿入されていることを特徴とするガラス繊維不織布。
[2]前記ガラス短繊維の30個%以上が、前記ガラス繊維不織布の平面方向に対して60〜120度の角度を持って内部に挿入されている前記[1]の項に記載のガラス繊維不織布。
[3]前記ガラス長繊維の80個%以上が、前記ガラス繊維不織布の平面方向に対して±30度以内の角度で配向している前記[1]または[2]の項に記載のガラス繊維不織布。
[4]湿式不織布である前記[1]〜[3]の項のいずれか一項に記載のガラス繊維不織布。
【0009】
[5]前記[1]〜[4]の項のいずれか一項に記載のガラス繊維不織布と熱可塑性のマトリックス樹脂を含む複合体。
[6]前記マトリックス樹脂が、前記ガラス繊維不織布の少なくとも一方の表面に層状に配置されている前記[5]の項に記載の複合体。
[7]前記マトリックス樹脂が、前記ガラス繊維不織布の内部にビーズもしくは繊維の状態で配置されている前記[5]の項に記載の複合体。
[8]前記[5]〜[7]の項のいずれか一項に記載の複合体の加熱加圧成形体である繊維強化熱可塑性樹脂シート。
[9]前記[8]の項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂シートと、前記繊維強化熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の表面に貼り合わされた金属箔とを含む金属張積層シート。
【0010】
[10]長さが3〜25mmのガラス長繊維と長さが0.3〜1mmのガラス短繊維とが、質量比で50:50〜90:10となる割合で水に分散されているガラス繊維水性分散液を用意する工程と、前記ガラス繊維水性分散液を抄紙する工程と、を有するガラス繊維不織布の製造方法。
[11]長さが3〜25mmのガラス長繊維と長さが0.3〜1mmのガラス短繊維とを、質量比で50:50〜90:10の範囲で含むガラス繊維不織布であって、前記ガラス長繊維は、前記ガラス繊維不織布の平面方向に対して水平に配向し、前記ガラス短繊維の少なくとも一部は、前記ガラス繊維不織布の平面方向に対して60〜120度の角度を持って内部に挿入されているガラス繊維不織布、及び熱可塑性のマトリックス樹脂を含む複合体を用意する工程と、前記複合体を加熱加圧成形する工程とを有する繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マトリックス樹脂成分として、熱可塑性樹脂を使用しながらも、高温環境下での厚さ方向への熱膨張が低減した繊維強化熱可塑性樹脂シート、およびこの繊維強化熱可塑性樹脂シートを用いた金属張積層シートを提供することが可能となる。また、本発明の複合体は、上記繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造用材料(プリプレグ)として有利に用いることができる。さらに、本発明の不織布は、上記繊維強化熱可塑性樹脂シートの繊維の供給源として有利に用いることができる。さらにまた、本発明のガラス繊維不織布の製造方法によれば、上記のガラス繊維不織布を工業的に有利に製造することができる。そして、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法によれば、上記の繊維強化熱可塑性樹脂シートを工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<ガラス繊維不織布>
図1は、本発明の一実施形態であるガラス繊維不織布の構成を説明する説明図であり、(a)はガラス繊維不織布の断面図であり、(b)はガラス繊維不織布の平面図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のガラス繊維不織布10は、ガラス長繊維11とガラス短繊維12とを含む。ガラス長繊維11は、長さが3〜25mmの範囲にあるガラス繊維である。ガラス短繊維12は、長さが0.3〜1mmの範囲にあるガラス繊維である。ガラス長繊維11およびガラス短繊維12の直径は、それぞれ一般に3〜18μmの範囲、好ましくは6〜15μmの範囲、より好ましくは6〜13μmの範囲である。ガラス長繊維11のアスペクト比(長さ/直径)は、一般に100〜20000の範囲、好ましくは160〜18000の範囲、より好ましくは200〜15000の範囲である。ガラス長繊維11およびガラス短繊維12の直径およびアスペクト比が上記の範囲にあるガラス繊維不織布を用いると、繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さ方向への熱膨張をより確実に低減させることができる。
【0016】
ガラス繊維不織布10内のガラス長繊維11とガラス短繊維12の含有量比は、質量比で好ましくは50:50〜95:5の範囲(ガラス長繊維:ガラス短繊維)、より好ましくは55:45〜95:5の範囲、特に好ましくは60:40〜90:10の範囲である。すなわち、ガラス長繊維11とガラス短繊維12の合計含有量に対するガラス短繊維12の含有率は、好ましくは5〜50質量%の範囲、より好ましくは5〜45質量%の範囲、特に好ましくは10〜40質量%の範囲にある。ガラス長繊維11とガラス短繊維12の含有量比が上記の範囲にあるガラス繊維不織布を用いると、繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さ方向への熱膨張をより確実に低減させることができる。
【0017】
ガラス繊維不織布10内のガラス長繊維11とガラス短繊維12の含有量比は、例えば、次のようにして求めることができる。
光学顕微鏡を用いて、ガラス繊維不織布10を観察し、一つの観察エリアから合計で100個の繊維(ガラス長繊維11とガラス短繊維12を含む)を任意に選択し、その100個の繊維中のガラス長繊維11とガラス短繊維12の個数を数え、各繊維の長さと直径を測定する。測定したガラス長繊維11とガラス短繊維12のそれぞれの長さと直径の個数平均を得る。得られた平均長さと平均直径を用いて、下記の式よりガラス長繊維11の含有量とガラス短繊維12の含有量をそれぞれ算出する。そして、算出したガラス長繊維11の含有量とガラス短繊維12の含有量の比を求める。
ガラス長繊維11の含有量=平均長さ×(平均直径/2)
2×π×ガラス長繊維11の密度×100個の繊維中のガラス長繊維11の個数
ガラス短繊維12の含有量=平均長さ×(平均直径/2)
2×π×ガラス短繊維12の密度×100個の繊維中のガラス短繊維12の個数
【0018】
ガラス長繊維11の大部分は、
図1(a)に示すように、ガラス繊維不織布10の平面方向に対して水平に配向している。ここで、「水平に配向している」とは、平面方向に対する角度θ
1が0度となるように配向している場合のほか、平面方向に対する角度θ
1が±30度以内となるように配向している場合を含む。平面方向に対する角度θ
1が±30度以内となるように配向しているガラス長繊維11の量は、ガラス長繊維の全体量に対して80個%以上であることが好ましく、90個%以上であることがより好ましい。ガラス長繊維11が上記の角度以内で平面方向に配向しているガラス繊維不織布を用いると、繊維強化熱可塑性樹脂シートの平面方向の強度を高め、かつ平面方向への熱膨張を低減させることができる。
【0019】
ガラス短繊維12は、
図1(a)に示すように、その少なくとも一部が、ガラス繊維不織布10の平面方向に対して60〜120度の角度θ
2を持って内部に挿入されている。ここで、「内部に挿入されている」とは、ガラス短繊維12の長さの1/2以上の長さがガラス繊維不織布10の内部に入っていることを意味する。ガラス繊維不織布10の平面方向に対して60〜120度の角度を持って内部に挿入されているガラス短繊維12の量は、ガラス短繊維の全体量に対して30個%以上であることが好ましく、40個%以上であることがより好ましい。ガラス短繊維12が、上記のように平面方向に対して垂直もしくはこれに近い方向、即ち、厚さ方向に配向した状態で、ガラス繊維不織布の内部に挿入されているガラス繊維不織布を用いることによって、繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さ方向への熱膨張が低減する。
【0020】
一方、本実施形態において、ガラス繊維不織布10を平面視したときのガラス長繊維11とガラス短繊維12の配向方向には特に制限はない。
図1(b)に示すように、ガラス長繊維11とガラス短繊維12の配向方向はランダムであってもよい。
【0021】
本実施形態のガラス繊維不織布10は、湿式不織布であることが好ましい。湿式不織布であると、ガラス長繊維11は平面方向により配向しやすく、ガラス短繊維12は厚さ方向により配向しやすくなる傾向がある。なお、ガラス繊維不織布10の製造方法については後述する。
【0022】
ガラス繊維不織布10は、ガラス長繊維11とガラス短繊維12以外のガラス繊維を含んでいてもよい。すなわち、ガラス繊維不織布10は、長さが0.3mm未満のガラス繊維、長さが1mmを超え3mm未満の範囲にあるガラス繊維、そして長さが25mmを超えるガラス繊維を含んでいてもよい。
【0023】
ガラス繊維不織布10は、ガラス長繊維11とガラス短繊維12の合計含有量が80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。長さが0.3mm未満のガラス繊維の含有量は3質量%以下であることが好ましい。長さが1mmを超え3mm未満のガラス繊維の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。長さが25mmを超えるガラス繊維の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0024】
<ガラス繊維不織布の製造方法>
本発明の一実施形態であるガラス繊維不織布の製造方法は、ガラス繊維水性分散液を用意する工程と、このガラス繊維水性分散液を抄紙する工程とを有する。
【0025】
ガラス繊維水性分散液は、長さが3〜25mmのガラス長繊維と長さが0.3〜1mmのガラス短繊維とが、質量比で50:50〜90:10となる割合で水に分散されている分散液である。ガラス繊維水性分散液は、ガラス長繊維とガラス短繊維と水とを混合し、撹拌することによって調製することができる。混合の順番には特に制限なく、水とガラス長繊維とを混合した後にガラス短繊維を加えてもよいし、水とガラス短繊維とを混合した後にガラス長繊維を加えてもよいし、水とガラス長繊維とガラス短繊維とを同時に混合してもよい。
【0026】
ガラス長繊維の原料としては、質量平均繊維長さが一般に3〜25mmの範囲、好ましくは6〜18mmの範囲、より好ましくは6〜15mmの範囲にあるガラス繊維を用いてもよい。また、ガラス短繊維の原料としては、質量平均長さが一般に0.3〜1mmの範囲、好ましくは0.3〜0.8mmの範囲、より好ましくは0.3〜0.7mmの範囲にあるガラス短繊維を用いてもよい。
【0027】
ガラス繊維水性分散液は、ガラス長繊維及びガラス短繊維の凝集を抑えるために分散剤が添加されていてもよい。また、ガラス繊維水性分散液は、増粘剤が添加されてもよい。
【0028】
ガラス繊維水性分散液の抄紙は、一般的な湿式不織布の製造に用いられている公知の抄紙機を用いて実施することができる。抄紙機としては、バッチ式の抄紙機および連続式の抄紙機のいずれも用いることができる。
【0029】
バッチ式の抄紙機は、原質用容器へのガラス繊維水性分散液の供給、抄紙(脱水)による繊維層の形成、繊維層の回収の各工程を一サイクルとして繰り返し行う抄紙機である。バッチ式の抄紙機を用いる場合は、原質用容器内のガラス繊維水性分散液の固形分(ガラス長繊維とガラス短繊維の合計量)の濃度は、1質量%以下であることが好ましく、0.001〜0.7質量%の範囲にあることがより好ましい。ガラス繊維水性分散液の固形分濃度が上記の範囲にあると、ガラス繊維水性分散液中での繊維の動きの自由度が高まり、脱水時において十分な脱水速度が得られる。このため、ガラス長い繊維は水平方向に配向させ易く、ガラス短繊維は厚さ方向に配向させ易くなる。
【0030】
原質用容器内のガラス繊維水性分散液の粘度は、前述した増粘剤を添加することで、0.9mPa・s以上3.0mPa・s以下の範囲とされていることが好ましい。ガラス繊維水性分散液の粘度がこの範囲にあると、レイノルズ数は同じであってもガラス繊維(特に、ガラス長繊維)の分散性に優れ、且つ、ガラス繊維の切れや折れが少ないガラス繊維不織布を高い生産性で製造できる傾向にある。一方、ガラス繊維水性分散液の粘度が低くなりすぎると、ガラス繊維が凝集しやすくなり、ガラス繊維の分散性が低下するおそれがある。またガラス繊維水性分散液の粘度が高くなりすぎると、脱水抵抗が増大して生産性の低下につながるおそれがある。このため、ガラス繊維の凝集の抑制と生産性とを考慮して、粘度が設定されることが好ましい。すなわち、ガラス繊維水性分散液の粘度が、1.1mPa・sであればガラス繊維の凝集を抑制することができ、1.0mPa・s以下であれば生産性を向上させることができる。なお、ガラス繊維水性分散液の粘度は、ガラス繊維水性分散液を、80meshのフィルタ(フルイ)で濾過してガラス繊維を除去した濾液を採取し、キャノン・フェンスケ粘度計を用いてJIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定される測定方法に従って測定することができる。
【0031】
連続式の抄紙機は、インレットへのガラス繊維水性分散液の供給、抄紙(脱水)による繊維層の形成、繊維層の回収の各工程を連続的に行う抄紙機である。連続式の抄紙機の例としては、傾斜型抄紙機、円網抄紙機および長網抄紙機が挙げられる。これらの抄紙機の中では、インレット内のガラス繊維水性分散液の固形分濃度を薄くして、急速に脱水することが可能な傾斜型抄紙機を用いることが好ましい。急速に脱水することで、水流によってガラス短繊維が厚さ方向に配向しやすくなるためである。傾斜型抄紙機を使用する場合、インレット内のガラス繊維水性分散液の固形分濃度は、0.001〜0.5質量%の範囲にあることが好ましく、0.002〜0.3質量%の範囲にあることがより好ましく、0.008〜0.1質量%の範囲にあることがより好ましい。インレット内のガラス繊維水性分散液の固形分濃度を、かかる濃度範囲とすることにより、充分な脱水速度を得ることができるため、ガラス短繊維を厚さ方向に十分に配向させることができる。また脱水負荷が高くなり過ぎないので、エネルギー効率よくガラス繊維不織布を製造することができる。インレット内のガラス繊維水性分散液の粘度は、上記バッチ式の抄紙機を用いた場合と同様に、0.9mPa・s以上3.0mPa・s以下の範囲とされることが好ましい。抄紙機の濾材としては、目開きが30〜150メッシュの範囲にあるものを使用できる。
【0032】
次いで、抄紙機から回収された繊維層(ウエットシート)を乾燥することによって、ガラス繊維不織布が得られる。ウエットシートの乾燥には、熱風乾燥機などの加熱乾燥機を用いることができる。
以上のようにすることによって、ガラス長繊維が平面方向に配向し、ガラス短繊維の少なくとも一部が、厚み方向に配向した状態で内部に挿入されているガラス繊維不織布を製造することができる。
【0033】
<複合体>
本発明の一実施形態である複合体は、上述のガラス繊維不織布と熱可塑性のマトリックス樹脂を含む複合体である。ガラス繊維不織布とマトリックス樹脂の含有量は、質量比で好ましくは50:50〜10:90の範囲(ガラス繊維不織布:マトリックス樹脂)、より好ましくは45:55〜15:85の範囲、特に好ましくは45:55〜20:80の範囲である。すなわち、ガラス繊維不織布とマトリックス樹脂の合計量に対するマトリックス樹脂の含有率は、好ましくは50〜90質量%の範囲、より好ましくは55〜85質量%の範囲、特に好ましくは55〜80質量%の範囲にある。ガラス繊維不織布とマトリックス樹脂の含有量比が上記の範囲にあることによって、マトリックス樹脂の特性(例えば低誘電率・低誘電損失等)と、不織布の特性(例えば、高温環境下での熱膨張の抑制等)とをバランスよく発現させることができる。
【0034】
熱可塑性のマトリックス樹脂は、ガラス繊維不織布の表面に層状に配置されていてもよいし、ガラス繊維不織布の内部にビーズもしくは繊維の状態で配置されていてもよいし、さらにガラス繊維不織布の表面と内部の両方に配置されていてもよい。また、熱可塑性のマトリックス樹脂のビーズと繊維を併用してもよい。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態である複合体の一例の断面図である。
図2において、熱可塑性のマトリックス樹脂は、ガラス繊維不織布10の表面にマトリックス樹脂層20として配置されている。
図2において、マトリックス樹脂層20は、ガラス繊維不織布10の一方の表面(
図2では、上面)に配置されているが、ガラス繊維不織布10の両方の表面に配置されていてもよい。マトリックス樹脂層20は、ガラス繊維不織布10の表面に積層されているだけであってもよいし、接着されていてもよい。
【0036】
ガラス繊維不織布10とマトリックス樹脂層20とが接着されている複合体は、例えば、ガラス繊維不織布と熱可塑性のマトリックス樹脂シートとを積層し、得られた積層体を加熱加圧して、マトリックス樹脂シートをガラス繊維不織布に融着させることによって製造することができる。
【0037】
図3は、本発明の一実施形態である複合体の別の一例の断面図である。
図3において、熱可塑性のマトリックス樹脂は、ガラス繊維不織布10の内部にマトリックス樹脂ビーズ21として配置されている。マトリックス樹脂ビーズ21の形状は、球体、楕円球体または円柱体であることが好ましい。マトリックス樹脂ビーズ21は、長径の長さで0.1〜2.0mmの範囲にあることが好ましく、0.3〜1.0mmの範囲にあることがより好ましく、0.4〜0.7mmの範囲にあることが特に好ましい。
【0038】
図3の複合体は、例えば、ガラス長繊維11とガラス短繊維12と熱可塑性のマトリックス樹脂ビーズ21とを含有するマトリックス樹脂ビーズ含有ガラス繊維水性分散液を調製し、この調製した分散液を抄紙することによって製造することができる。マトリックス樹脂ビーズ含有ガラス繊維水性分散液は、上述のガラス繊維不織布の製造方法において用いるガラス繊維水性分散液とマトリックス樹脂ビーズ21とを混合することによって調製することができる。マトリックス樹脂ビーズ含有ガラス繊維水性分散液は、固形分(ガラス長繊維11とガラス短繊維12とマトリックス樹脂ビーズ21の合計)の濃度は、1質量%以下であることが好ましく、0.001〜0.7質量%の範囲にあることがより好ましい。抄紙は、上述のガラス繊維不織布の製造方法と同様の条件で実施することができる。
【0039】
図4は、本発明の一実施形態である複合体のさらに別の一例の断面図である。
図4において、熱可塑性のマトリックス樹脂は、ガラス繊維不織布10の内部にマトリックス樹脂繊維22として配置されている。すなわち、この複合体は、ガラス長繊維11、ガラス短繊維12およびマトリックス樹脂繊維22を含む不織布状の複合体を構成している。マトリックス樹脂繊維22は、質量平均繊維長さが1.0〜30mmの範囲にあって、繊維径が0.1〜100dtexの範囲にあることが好ましい。マトリックス樹脂繊維22の質量平均繊維長さは3.0〜25mmの範囲にあることがより好ましい。また、繊維径は1.0〜3.0dtexの範囲にあることがより好ましい。なお、本明細書において、質量平均繊維長さは、100個のマトリックス樹脂繊維について測定した繊維長さの質量平均値である。
【0040】
図4の不織布状の複合体は、例えば、ガラス長繊維11とガラス短繊維12と熱可塑性のマトリックス樹脂繊維22とを含有するマトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液を調製し、この調製した分散液を抄紙することによって製造することができる。マトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液は、上述のガラス繊維不織布の製造方法において用いるガラス繊維水性分散液とマトリックス樹脂繊維22とを混合することによって調製することができる。マトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液は、固形分(ガラス長繊維11とガラス短繊維12とマトリックス樹脂繊維22の合計)の濃度は、1質量%以下であることが好ましく、0.001〜0.7質量%の範囲にあることがより好ましい。抄紙は、上述のガラス繊維不織布の製造方法と同様の条件で実施することができる。
【0041】
本実施形態の複合体に含まれる熱可塑性のマトリックス樹脂は、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、本実施形態の複合体(プリプレグ)を、配線板や金属張積層シートの絶縁シートの中間体として用いる場合、熱可塑性のマトリックス樹脂は、該熱可塑性のマトリックス樹脂を含む複合体を加熱加圧成形した成形体の状態において、はんだ付けのリフロー温度以下の温度で溶融、変形および熱分解しない樹脂であることが好ましい。
「はんだ付けのリフロー温度以下の温度で溶融、変形および熱分解しない」とは、はんだ付けのリフロー温度で少なくとも1分間加熱したときに溶融、変形および熱分解しないことを意味する。
熱可塑性樹脂である本発明で用いるマトリックス樹脂は、融点がはんだ付けのリフロー温度よりも高いか、融点を持たない非結晶性の熱可塑性樹脂の場合には、ガラス転移温度が十分に高く、上述した成形体の状態において、はんだ付けのリフロー温度で少なくとも1分加熱したときに変形しないものであることが好ましい。マトリックス樹脂の融点又はガラス転移温度は、使用するはんだの種類や実装する部品の種類等の条件によって、はんだ付けのリフロー温度が異なるため一律に定めることはできないが、好ましくは220℃以上、より好ましくは260℃以上、更に好ましくは280℃以上である。なお、マトリックス樹脂が非結晶性の熱可塑性樹脂の場合、ガラス転移温度がはんだ付けのリフロー温度より低くても、上述した成形体の状態においては、ガラス繊維の補強効果によってはんだ付けのリフロー温度で加熱しても溶融、変形、熱分解しない場合もあり、このような場合、その熱可塑性樹脂は本発明に使用可能である。
このような熱可塑性樹脂の例としては、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0042】
複合体は、熱可塑性のマトリックス樹脂とガラス繊維不織布との密着性を向上させるために、バインダー樹脂を含有していてもよい。バインダー樹脂は、複合体を加熱加圧成形する際に、マトリックス樹脂と相溶する樹脂であることが好ましい。バインダー樹脂の例としては、ポリビニルアルコール(PVA)を挙げることができる。熱可塑性のマトリックス樹脂がガラス繊維不織布の表面に層状に配置されている場合、バインダー樹脂は、マトリックス樹脂の層とガラス繊維不織布の表面との間に層状に配置されていることが好ましい。また、熱可塑性のマトリックス樹脂がガラス繊維不織布の内部にビーズもしくは繊維の状態で配置されている場合、バインダー樹脂は、ガラス繊維不織布の内部にビーズもしくは繊維の状態で配置されていることが好ましい。
【0043】
<ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シート>
本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートは、前述の複合体を加熱加圧成形することによって得られる加熱加圧成形体である。従って、本発明のガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートは、ガラス長繊維とガラス短繊維と熱可塑性のマトリックス樹脂とを含む。
【0044】
図5は、本発明の一実施形態であるガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートの一例の断面である。ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シート30は、熱可塑性のマトリックス樹脂23と、マトリックス樹脂23中に含有されているガラス長繊維11およびガラス短繊維12とを含む。ガラス長繊維11およびガラス短繊維12は、ガラス繊維不織布10の状態での配向性を保持している。すなわち、ガラス長繊維11は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シート30の平面方向に配向している。また、ガラス短繊維12の少なくとも一部は、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シート30の厚さ方向に配向している。但し、ガラス長繊維11およびガラス短繊維12の全てが、ガラス繊維不織布10の状態での配向性を保持している必要はない。
【0045】
本実施形態のガラス繊維強化熱可塑性樹脂シート30は、高温環境下での厚さ方向に対する熱膨張が低い。このため、配線板や金属張積層シートの基材(絶縁シート)として有利に使用することができる。
【0046】
金属張積層シートは、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シート30の少なくとも一方の表面に貼り合わされた金属箔を含むシートである。金属張積層シートは、複合体の少なくとも一方の表面に金属箔を重ねた状態で加熱加圧成形することによって製造することができる。金属箔の材料としては、銅、アルミニウム、銀、金を挙げることができる。
この金属張積層シートの銅箔をエッチングなどの手法よりパターニングすることによって配線板を得ることができる。
【0047】
<ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートの製造方法>
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートは、前述の複合体を加熱加圧成形することによって製造できる。複合体は1枚のみを加熱加圧成形しても、2枚以上を重ねて加熱加圧成形してもよく、成形されるガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートの用途等に応じて決定できる。加熱温度は、複合体に含まれている熱可塑性のマトリックス樹脂が軟化して可塑性を示すようになる温度以上である。加熱温度は、熱可塑性のマトリックス樹脂の種類や含有量などの条件によって最適な温度範囲が異なるため、一律に定めることはできないが、通常は260〜600℃の範囲、好ましくは280〜450℃の範囲、より好ましくは280℃〜400℃の範囲である。
【0048】
加圧の圧力は、複合体の厚さや目的とするガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートの厚さなどの条件に合せて適宜設定することができる。加圧の圧力は、通常は3〜50MPaの範囲、好ましくは5〜20MPaの範囲である。
加熱加圧の時間は、特に制限はないが、通常は1〜100分間、好ましくは1〜30分間の範囲である。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
(1)ガラス繊維水性分散液の調製
ガラス長繊維として、質量平均繊維長10mm、質量平均繊維径10μmのガラス繊維チョップドストランド(オーウェンスコーニング社製、CS10JAJP195、長さが0.3〜1.0mmのガラス短繊維の含有量:0.1質量%以下)を用意した。また、ガラス短繊維として、上記のガラス長繊維を、はさみを用いて切断して、長さを0.5〜1.0mmの範囲に調整したものを用意した。
【0050】
上記ガラス長繊維を40g計り取り、これを、分散剤(ラッコールAL、明成化学工業株式会社製)0.12g(ガラス長繊維に対して0.3質量%)を添加した水20Lに投入し、ラボ用撹拌機(アズワン社製、ウルトラ撹拌機 DC−CHRM25)を用いて撹拌して、分散させ、ガラス長繊維水性分散液を得た。次に、このガラス長繊維水性分散液に上記ガラス短繊維10gを投入し、撹拌した。
こうして、ガラス長繊維とガラス短繊維とが質量比で80:20の割合で水に分散されているガラス繊維水性分散液を調製した。なお、ガラス繊維水性分散液は3回調製した。
【0051】
(2)マトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液の調製
上記(1)で調製したガラス繊維水性分散液に、ポリエーテルイミド(PEI)繊維を85g、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)繊維を5gそれぞれ投入し、前記ラボ用撹拌機を用いて撹拌した。PEI繊維としては、質量平均繊維長15mm、繊維径2.2dtexのもの(クラレ社製)を使用した。PVA繊維としては、質量平均繊維長3mmのもの(クラレ社製、VPB105)を使用した。
【0052】
次いで、PEI繊維とPVA繊維とを投入した分散液に、増粘剤の濃度が0.1質量%の増粘剤水溶液を2L投入し、前記ラボ用撹拌機で撹拌した。増粘剤としては、アニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤(MTアクアポリマー社製、スミフロック)を使用した。
そして最後に、水を全体量が28kgとなるように投入し、前記ラボ用撹拌機で撹拌した。こうして、ガラス繊維とマトリックス樹脂繊維とが均一に分散した固形分濃度が0.5質量%のマトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液を調製した。
【0053】
(3)不織布状複合体シートの作製
上記(2)で調製したマトリックス樹脂繊維含有ガラス繊維水性分散液を2500g(固形分量:12.5g)分取した。分取した分散液を、25cm角の角型手抄きシートマシン(熊谷理機工業株式会社製)の原質用容器に投入した。次いで、原質用容器内の分散液の固形分濃度が0.15質量%となるように原質用容器に水を投入し、分散液の組成が均一になるように十分に撹拌した後、JIS P 8222に準ずる方法で抄紙を行った。そして、得られたウエットシートを160℃の熱風乾燥機で乾燥して、不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量200g/m
2)を得た。
【0054】
[実施例2]
実施例1の(3)不織布状複合体シートの作製において、原質用容器に投入する水の量を分散液の固形分濃度が0.08質量%となる量としたこと以外は、実施例1と同様にして不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量200g/m
2)を得た。
【0055】
[実施例3]
実施例1の(3)不織布状複合体シートの作製において、角型手抄きシートマシンの原質用容器に投入する分散液の量を1250g(固形分量:6.25g)とし、原質用容器に投入する水の量を分散液の固形分濃度が0.04質量%となる量としたこと以外は、実施例1と同様にして不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量100g/m
2)を得た。
【0056】
[実施例4]
実施例1の(1)ガラス繊維水性分散液の調製において、ガラス長繊維の投入量を45gとし、ガラス短繊維の投入量を15gとして、ガラス長繊維とガラス短繊維とが質量比で75:25の割合で分散されたガラス繊維水性分散液を調製した。また、実施例1の(3)不織布状複合体シートの作製において、角型手抄きシートマシンの原質用容器に投入する分散液の量を1250g(固形分量:6.25g)とし、原質用容器に投入する水の量を分散液の固形分濃度が0.04質量%となる量とした。以上のこと以外は、実施例1と同様にして不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量100g/m
2)を得た。
【0057】
[実施例5]
実施例1の(1)ガラス繊維水性分散液の調製において、ガラス長繊維の投入量を30gとし、ガラス短繊維の投入量を30gとして、ガラス長繊維とガラス短繊維とが質量比で50:50の割合で分散されたガラス繊維水性分散液を調製した。また、実施例1の(3)不織布状複合体シートの作製において、角型手抄きシートマシンの原質用容器に投入する分散液の量を1250g(固形分量:6.25g)とし、原質用容器に投入する水の量を分散液の固形分濃度が0.04質量%となる量とした。以上のこと以外は、実施例1と同様にして不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量100g/m
2)を得た。
【0058】
[比較例1]
実施例1の(1)ガラス繊維水性分散液の調製において、ガラス長繊維の投入量を60gとし、ガラス短繊維を投入せずにガラス繊維水性分散液を調製した。また、実施例1の(3)不織布状複合体シートの作製において、角型手抄きシートマシンの原質用容器に投入する分散液の量を1250g(固形分量:6.25g)とし、原質用容器に投入する水の量を分散液の固形分濃度が0.04質量%となる量とした。以上のこと以外は、実施例1と同様にして不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量100g/m
2)を得た。
【0059】
[比較例2]
実施例1の(1)ガラス繊維水性分散液の調製において、ガラス長繊維の投入量を25gとし、ガラス短繊維の投入量を35gとして、ガラス長繊維とガラス短繊維とが質量比で42:58の割合で分散されたガラス繊維水性分散液を調製した。また、実施例1の(3)不織布状複合体シートの作製において、角型手抄きシートマシンの原質用容器に投入する分散液の量を1250g(固形分量:6.25g)とし、原質用容器に投入する水の量を分散液の固形分濃度が0.04質量%となる量とした。以上のこと以外は、実施例1と同様にして不織布状複合体シート(縦25cm×横25cm、坪量100g/m
2)を得た。
【0060】
[評価]
上記実施例および比較例で得られた不織布状複合体シートを用いて、下記の評価を行った。その結果を、不織布状複合体シートの製造に用いた各材料の配合比率、不織布状複合体シートの坪量、原質容器内の分散液の固形分濃度と共に表1に示す。
【0061】
(不織布状複合体シートのガラス繊維の配向性)
不織布状複合体シートの平面と断面とを光学顕微鏡を用いて観察し、ガラス長繊維とガラス短繊維の配向方向を確認した。断面観察では、ガラス長繊維については平面方向に配向している繊維の割合を、ガラス短繊維については厚さ方向に配向している繊維の割合をそれぞれ測定した。なお、平面方向に配向している繊維の割合は、平面方向に対して±30度以内の角度で配向しているガラス長繊維の割合とした。厚さ方向に配向している繊維の割合は、不織布状複合体シートの平面方向に対して60〜120度の角度を持って内部に挿入されているガラス短繊維の割合とし、不織布状複合体シートの表面から繊維長さの1/2以上が突き出ているガラス短繊維は除外した。
【0062】
(ガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートの熱膨張係数)
不織布状複合体シートを積層して積層体を得た。不織布状複合体シートの積層数は、実施例1〜2の場合は14枚、実施例3〜5および比較例1〜2の場合は28枚とした。この積層体を、加熱加圧プレス装置を用いて、300℃、10MPaの条件で10分間加熱加圧成形し、70℃まで冷却したのち、加熱加圧プレス装置から取り出した。得られたガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートは、縦25cm×横25cm×厚さ1.8mmであった。
【0063】
得られたガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートについて、平面方向の熱膨張係数と厚さ方向の熱膨張係数を測定した。
平面方向の熱膨張係数は、JIS K 7197に準拠して、引っ張りモードで、昇温速度5℃/分、測定温度範囲30〜210℃の条件で測定した。
厚さ方向の熱膨張係数は、JIS K 7197に準拠し、圧縮モードで、昇温速度5℃/分、測定温度範囲30〜210℃の条件で測定した。
【0064】
(銅張積層シートの高温環境下での形状安定性)
不織布状複合体シートを積層して積層体を得た。不織布状複合体シートの積層数は、実施例1〜2の場合は14枚、実施例3〜5および比較例1〜2の場合は28枚とした。この積層体の底面に厚さ18μmの銅箔を密着させた。得られた銅箔付積層体を、加熱加圧プレス装置を用いて、300℃、10MPaの条件で10分間加熱加圧成形し、70℃まで冷却したのち、加熱加圧プレス装置から取り出した。得られた銅張積層シートは、縦25cm×横25cm×厚さ1.8mmであった。
【0065】
得られた銅張積層シートを5cm角に切断した。得られた切断片(縦5cm×横5cm×厚さ1.8mm)を、熱風乾燥機に投入して260℃で3分間加熱した。その後、熱風乾燥機から取り出して、常温になるまで冷却した。冷却後の切断片を平らな基板の上に静置し、切断片の4つの角部について基板との距離を測定した。距離が1mm以上離れている角部が1つ以下であったものを「合格」とし、2つ以上であったものを「不合格」とした。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、実施例1〜5で得られた不織布状複合体シートは、平面方向に配向したガラス長繊維と厚さ方向に配向したガラス短繊維を含むガラス繊維不織布、及び熱可塑性樹脂からなるシートであることがわかる。そして、この実施例1〜5の不織布状複合体シートから得られたガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートは、比較例1の不織布状複合体シートから得られたガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートと比較して、厚さ方向の熱膨張係数が約30%以上低減することがわかる。これは、実施例1〜5の不織布状複合体シートに含まれている厚さ方向に配向したガラス短繊維がガラス繊維強化熱可塑性樹脂シート内においても厚さ方向に配向して、熱可塑性のマトリックス樹脂の厚さ方向の熱膨張を抑制しているためであると考えられる。さらに実施例1〜5の不織布状複合体シートから得られた銅張積層シートは、通常のリフローはんだ付けで使用される260℃という高温環境下での形状安定性が高いことがわかる。一方、比較例2の不織布状複合体シートから得られた銅張積層シートは、高温環境下での形状安定性が低くなった。これは、比較例2の不織布状複合体シートは、ガラス短繊維が多量で、平面方向に配向しているガラス長繊維の含有量が相対的に少なったためであると考えられる。
【0068】
以上の実施例の結果から、本発明のガラス繊維不織布の製造方法を利用することによって、ガラス長繊維が平面方向に対して水平に配向し、ガラス短繊維の少なくとも一部が、平面方向に対して60〜120度の角度を持って内部に挿入されているガラス繊維不織布を製造することが可能となることが確認された。そして、このガラス繊維不織布と熱可塑性のマトリックス樹脂を含む複合体の加熱加圧成形体であるガラス繊維強化熱可塑性樹脂シートは厚さ方向の熱膨張が顕著に低減し、さらに高温環境下での形状安定性が高いことから配線板、特に積層配線板の形成用として有用であることが確認された。