【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
ベース流体としてエチレングリコール濃度50質量%のエチレングリコール水溶液〔密度(80℃):1004kg/m
3、熱伝導率(80℃):0.41W/(m・K)、比熱(80℃):3.65kJ/(kg・K)〕を用い、これに粒子径300nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P30」、真密度:2000kg/m
3、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加し、熱輸送流体を調製した。
【0030】
(実施例2)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径200nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P20」、真密度:2000kg/m
3、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0031】
(実施例3)
粒子濃度が1.01体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0032】
(実施例4)
粒子濃度が2.56体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0033】
(実施例5)
粒子濃度が5.26体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0034】
(実施例6)
真球状シリカ微粒子の代わりに粒子径200nmのジルコニア微粒子〔イーエムジャパン株式会社製「NP−ZRO−2−2」、真密度:5680kg/m
3、熱伝導率:3.0W/(m・K)、比熱:0.47kJ/(kg・K)〕を粒子体積が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0035】
(実施例7)
ベース流体としてプロピレングリコール濃度50質量%のプロピレングリコール水溶液〔密度(80℃):982kg/m
3、熱伝導率(80℃):0.373W/(m・K)、比熱(80℃):3.79kJ/(kg・K)〕を用いた以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0036】
(比較例1)
固体粒子を添加せずに、エチレングリコール濃度50質量%のエチレングリコール水溶液をそのまま熱輸送流体として使用した。
【0037】
(比較例2)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径100nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P10」、真密度:2000kg/m
3、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0038】
(比較例3)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径500nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P50」、真密度:2000kg/m
3、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0039】
(比較例4)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径1000nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P100」、真密度:2000kg/m
3、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0040】
(比較例5)
真球状シリカ微粒子の代わりに粒子径300nmのアルミナ微粒子〔イーエムジャパン株式会社製「NP−ALO−4」、真密度:3950kg/m
3、熱伝導率:31.0W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子体積が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0041】
(比較例6)
真球状シリカ微粒子の代わりに粒子径300nmのチタニア微粒子〔イーエムジャパン株式会社製「NP−TIO2−13」、真密度:4260kg/m
3、熱伝導率:4.0W/(m・K)、比熱:0.71kJ/(kg・K)〕を粒子体積が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0042】
<ゼータ電位及び平均粒子径の測定>
実施例1〜2、6〜7及び比較例2〜6で得られた熱輸送流体を、粒子濃度が1.00体積%となるように、使用したベース流体で希釈した。この希釈した熱輸送流体中の固体粒子のゼータ電位と平均粒子径を、Malvern社製「ゼータサイザーナノZSP」を用いて室温(25℃)において測定した。表1及び
図2には、各粒子径の真球状シリカ微粒子の熱輸送流体中(実施例1〜2及び比較例2〜4、粒子濃度:1.00体積%)におけるゼータ電位及び平均粒子径を示す。また、表2及び
図3には、各種固体粒子の熱輸送流体中(実施例1〜2、6及び比較例5〜6、粒子濃度:1.00体積%)におけるゼータ電位及び平均粒子径を示す。さらに、表3及び
図4には、真球状シリカ微粒子の各種ベース流体中(実施例1及び7、粒子濃度:1.00体積%)におけるゼータ電位及び平均粒子径を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1及び
図2に示したように、ベース流体に粒子径が200nm以上の真球状シリカ微粒子を添加することによって、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が40mV以上となり、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(ベース流体との電位差:約30mV)に比べて大きくなることがわかった。また、粒子径が300nm付近の真球状シリカ微粒子を添加すると、ベース流体との電位差が最大となることがわかった。さらに、粒子径が200nm以上の真球状シリカ微粒子はエチレングリコール水溶液中で単分散しているのに対して、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子はエチレングリコール水溶液中で平均粒子径が増大しており、凝集していることが確認された。
【0045】
【表2】
【0046】
また、表2及び
図3に示したように、ベース流体に粒子径が200nmのジルコニア微粒子を添加した場合には、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が36.9mVとなることがわかった。また、粒子径が200nmのジルコニア微粒子は、粒子径が200〜300nmの真球状シリカ微粒子と同様に、エチレングリコール水溶液中で単分散していることが確認された。一方、粒子径が300nmのアルミナ微粒子及びチタニア微粒子はエチレングリコール水溶液中で平均粒子径が増大しており、凝集していることがわかった。これは、粒子径が300nmのアルミナ微粒子及びチタニア微粒子が、粒子径が200〜300nmの真球状シリカ微粒子や粒子径が200nmのジルコニア微粒子に比べて、ベース流体との電位差が小さく、凝集性が強いためと考えられる。
【0047】
【表3】
【0048】
また、表3及び
図4に示したように、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子をプロピレングリコール水溶液に添加した場合にも、エチレングリコール水溶液に添加した場合と同様に、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が40mV以上となることが確認された。また、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子はプロピレングリコール水溶液中においても単分散していることも確認された。
【0049】
以上の結果から、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように、固体粒子とベース流体とを選択することによって、固体粒子がベース流体中で単分散している熱輸送材料が得られることがわかった。
【0050】
<熱伝導率の測定>
実施例1〜2、6〜7及び比較例1〜6で得られた熱輸送流体の熱伝導率を、NETZSCH社製「Nanoflash LFA447」を用いて80℃において測定し、ベース流体(比較例1)の熱伝導率に対する熱輸送流体(実施例1〜2、6〜7及び比較例2〜6)の熱伝導率の比を求めた。表4及び
図5には、各粒子径の真球状シリカ微粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2及び比較例2〜4、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝導率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。また、表5及び
図6には、各種固体粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2、6及び比較例5〜6、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝導率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。さらに、表6及び
図7には、各種ベース流体と真球状シリカ微粒子とを含有する熱輸送流体(実施例1及び7、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝導率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4及び
図5に示したように、ベース流体に粒子径が200〜400nmの真球状シリカ微粒子を添加することによって、熱伝導率がベース流体の1.096倍以上となり、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝導率がベース流体の1.052倍)及び粒子径が1000nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝導率がベース流体の1.075倍)に比べて大きくなることがわかった。また、粒子径が300nm付近の真球状シリカ微粒子を添加すると、熱伝導率が最大となることがわかった。
【0053】
【表5】
【0054】
また、表5及び
図6に示したように、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるようにジルコニア微粒子を添加した場合にも、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように真球状シリカ微粒子を添加した場合と同様に、熱伝導率が高くなる(ベース流体の1.116倍)ことが確認された。一方、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV未満となった場合には、熱伝導率は十分に向上しなかった(ベース流体の1.089倍)。なお、粒子径が300nmのアルミナ微粒子を添加した場合には、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV未満となったが、熱伝導率は向上した。これは、アルミナ微粒子自体の熱伝導率が真球状シリカ微粒子やジルコニア微粒子の熱伝導率に比べて極めて高いためと考えられる。
【0055】
【表6】
【0056】
また、表6及び
図7に示したように、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子をプロピレングリコール水溶液に添加した場合にも、エチレングリコール水溶液に添加した場合と同等の高い熱伝導率を有する熱輸送材料が得られることが確認された。
【0057】
以上の結果から、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように、固体粒子とベース流体とを選択することによって、高い熱伝導率を有する熱輸送材料が得られることがわかった。
【0058】
<熱伝達率の測定>
図8に示す熱輸送装置を用いて、実施例1〜7及び比較例1〜6で得られた各熱輸送流体について、熱伝達率を測定した。すなわち、熱輸送流体を貯蔵槽8に封入し、ポンプPを用いて循環流路3内を流速2m/sで循環させた。ヒーター9aを用いて貯蔵槽8内の熱輸送流体を80℃に加熱した。また、ヒーター9bを用いて出力1.7kWで熱輸送流体を加熱した。このとき、熱交換器10に室温(20℃)の冷却水を循環させて熱輸送流体を冷却し、測定部11の入口温度:T
INが80℃となるように調節した。測定部11の入口温度:T
IN及び出口温度:T
OUT、熱輸送流体の流量:Fが定常になった時点で、熱電対T1及びT2を用いて測定部11の入口温度:T
IN及び出口温度:T
OUTを測定し、さらに、熱電対T3及びT4を用いて測定部11の壁面温度:T
Wall及び熱輸送流体の温度:T
Fluidを測定した。得られた測定部11の入口温度:T
IN(K)及び出口温度:T
OUT(K)並びに熱輸送流体の流量:F(m
3/s)から、次式:
Q
IN=ρC
pF(T
OUT−T
IN)
〔式中、ρは熱輸送流体の密度(kg/m
3)を表し、C
pは比熱(kJ/(kg・K))を表す。〕
を用いて、測定部11における熱輸送流体の入熱量:Q
IN(kW)を算出した。
【0059】
得られた熱輸送流体の入熱量:Q
IN(kW)、測定部11の壁面温度:T
Wall(K)及び熱輸送流体の温度:T
Fluid(K)から、次式:
h=1000×Q
IN/〔A
Wall×(T
Wall−T
Fluid)〕
〔式中、A
Wall:測定部11の内表面の面積(m
2)を表す。〕
を用いて、熱伝達率:h(W/(m
2・K))を算出し、ベース流体(比較例1)の熱伝達率に対する熱輸送流体(実施例1〜7及び比較例2〜6)の熱伝達率の比を求めた。表7及び
図9には、各粒子径の真球状シリカ微粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2及び比較例2〜4、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。また、表8及び
図10には、各粒子濃度の真球状シリカ微粒子を含有する熱輸送流体(実施例1、3〜5及び比較例1、粒子径:300nm)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。さらに、表9及び
図11には、各種固体粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2、6及び比較例5〜6、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。また、表10及び
図12には、各種ベース流体と真球状シリカ微粒子とを含有する熱輸送流体(実施例1及び7、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。
【0060】
【表7】
【0061】
表7及び
図9に示したように、ベース流体に粒子径が200〜400nmの真球状シリカ微粒子を添加することによって、熱伝達率がベース流体の約1.15倍以上となり、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝達率がベース流体の1.025倍)、粒子径が500nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝達率がベース流体の1.075倍)及び粒子径が1000nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝達率がベース流体の0.950倍)に比べて大きくなり、熱伝達効率が向上することがわかった。また、粒子径が300nm付近の真球状シリカ微粒子を添加すると、熱伝達率が最大となることがわかった。
【0062】
【表8】
【0063】
また、表8及び
図10に示したように、熱輸送流体中の真球状シリカ微粒子の濃度を増加させることによって熱伝達率が増大し、熱伝達効率が向上することがわかった。粒子濃度が1.0体積%以上となるようにベース流体に真球状シリカ微粒子を添加すると、熱伝達率がベース流体の約1.14倍以上となり、粒子濃度が3.6体積%以上になると、熱伝達率は、ベース流体の約1.26倍でほぼ一定となることがわかった。
【0064】
【表9】
【0065】
また、表9及び
図11に示したように、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるようにジルコニア微粒子を添加した場合にも、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように真球状シリカ微粒子を添加した場合と同様に、熱伝達率が高くなる(ベース流体の1.150倍)ことが確認された。一方、固体粒子のゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV未満になった場合には、熱伝達率がベース流体に比べて小さくなり(ベース流体の0.900倍又は0.600倍)、熱伝達率を向上させることはできなかった。
【0066】
【表10】
【0067】
また、表10及び
図12に示したように、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子をプロピレングリコール水溶液に添加した場合にも、エチレングリコール水溶液に添加した場合と同等の高い熱伝達率を有する熱輸送材料が得られることが確認された。
【0068】
以上の結果から、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上(より好ましくは40mV以上)となるように、固体粒子とベース流体とを選択することによって、高い熱伝達率を有する熱輸送材料が得られることがわかった。