特許第6724883号(P6724883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724883
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】熱輸送流体及びそれを用いた熱輸送装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20200706BHJP
   F28D 21/00 20060101ALI20200706BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C09K5/10 E
   F28D21/00 B
   C09K5/14 E
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-216657(P2017-216657)
(22)【出願日】2017年11月9日
(65)【公開番号】特開2018-95845(P2018-95845A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2016-242048(P2016-242048)
(32)【優先日】2016年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】藏薗 功一
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−028792(JP,A)
【文献】 特表2014−533308(JP,A)
【文献】 特開2015−160926(JP,A)
【文献】 特表2010−535880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
F28D 21/08
C21D 1/00,1/28
F28D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース流体と、
該ベース流体中に分散されており、平均粒子径が200〜400nmであり、前記ベース流体との電位差が35mV以上である固体粒子と、
を含有することを特徴とする熱輸送流体。
【請求項2】
前記固体粒子の含有量が熱輸送流体全体に対して1.0体積%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱輸送流体。
【請求項3】
前記ベース流体に対する熱伝導率の比(熱輸送流体/ベース流体)が1.096以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱輸送流体。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の熱輸送流体を用いた熱輸送装置。
【請求項5】
前記熱輸送装置が、前記熱輸送流体が循環する循環流路と、前記熱輸送流体を前記循環流路に流通させるためのポンプと、外部の高温領域から前記熱輸送流体に熱を吸収させる吸熱部と、前記熱輸送流体から外部の低温領域に熱を放出する放熱部と、を備えるものであることを特徴とする請求項4に記載の熱輸送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器内に充填される熱輸送流体及びそれを用いた熱輸送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器における熱伝導効率を向上させるために、熱交換器内に充填される熱輸送流体として、ベース流体に微小粒子を分散させた熱輸送流体が提案されている。例えば、特開2013−1728号公報(特許文献1)には、水又は有機物からなる溶媒と、前記溶媒中に分散される複数の微小粒子と、前記溶媒中に分散される複数のカーボンナノチューブと、を含んで構成され、前記微小粒子は多面体形状又は金平糖形状をなすことを特徴とする熱輸送流体が記載されており、前記微小粒子として、平均粒径が100nm〜10μmの範囲をなす粒子が例示されている。この熱輸送流体においては、多面体形状又は金平糖形状の微小粒子をカーボンナノチューブとともに分散させることによって、流体中のカーボンナノチューブを伝熱的に良好な分散状態にして熱伝導率の向上を図っている。
【0003】
また、特開2013−28792号公報(特許文献2)には、水又は有機物からなる溶媒と、前記溶媒中に分散される複数の微小粒子と、を含んで構成され、前記微小粒子はシート状である、ことを特徴とする熱輸送流体が記載されており、前記微小粒子として平均粒径が1nm〜10μmの範囲をなす粒子が例示されている。この熱輸送流体においては、シート状の微小粒子を分散させることによって、流体中の前記微小粒子を伝熱的に良好な分散状態にして熱伝達の向上を図っている。
【0004】
さらに、特開2013−104059号公報(特許文献3)には、ナノ粉末とミクロン粉末の組成物であることを特徴とする熱伝導効率を向上させる促進剤が記載されており、前記ナノ粉末の粒径範囲は100ナノ以下で、前記ミクロン粉末の粒径範囲は100ナノ以上500ミクロン以下であることも記載されている。この促進剤においては、粒径範囲の異なる2種類の粉末を併用することによって、熱伝導効率の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−1728号公報
【特許文献2】特開2013−28792号公報
【特許文献3】特開2013−104059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜2に記載の熱輸送流体及び特許文献3に記載の促進剤において、熱伝達効率の向上は必ずしも十分ではなく、より高い熱伝達効率を有する熱輸送流体が求められている。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、より熱伝達効率に優れた熱輸送流体及びそれを用いた熱輸送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ベース流体に、特定の平均粒子径を有し、前記ベース流体との間で特定の電位差を有する固体粒子を分散させることによって、熱伝達効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の熱輸送流体は、ベース流体と、該ベース流体中に分散されており、平均粒子径が200〜400nmであり、前記ベース流体との電位差が35mV以上である固体粒子と、を含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の熱輸送流体において、前記固体粒子の含有量は熱輸送流体全体に対して1.0体積%以上であることが好ましく、また、前記ベース流体に対する熱伝導率の比(熱輸送流体/ベース流体)は1.096以上であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の熱輸送装置は、前記本発明の熱輸送材料を用いたものであり、例えば、前記熱輸送流体が循環する循環流路と、前記熱輸送流体を前記循環流路に流通させるためのポンプと、外部の高温領域から前記熱輸送流体に熱を吸収させる吸熱部と、前記熱輸送流体から外部の低温領域に熱を放出する放熱部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より熱伝達効率に優れた熱輸送流体及びそれを用いた熱輸送装置を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の熱輸送装置の一例を示す概略図である。
図2】真球状シリカ微粒子の粒子径とベース流体中でのゼータ電位及び平均粒子径との関係を示すグラフである。
図3】各種固体粒子のベース流体中でのゼータ電位と平均粒子径との関係を示すグラフである。
図4】真球状シリカ微粒子の各種ベース流体中でのゼータ電位と平均粒子径との関係を示すグラフである。
図5】真球状シリカ微粒子の粒子径と熱輸送流体の熱伝導率(対ベース流体)との関係を示すグラフである。
図6】各種固体粒子のベース流体中でのゼータ電位と熱輸送流体の熱伝導率(対ベース流体)との関係を示すグラフである。
図7】真球状シリカ微粒子の各種ベース流体中でのゼータ電位と熱輸送流体の熱伝導率(対ベース流体)との関係を示すグラフである。
図8】実施例において、熱輸送流体の熱伝達率を測定するために使用した熱輸送装置を示す概略図である。
図9】真球状シリカ微粒子の粒子径と熱輸送流体の熱伝達率(対ベース流体)との関係を示すグラフである。
図10】真球状シリカ微粒子の濃度と熱輸送流体の熱伝達率(対ベース流体)との関係を示すグラフである。
図11】各種固体粒子のベース流体中でのゼータ電位と熱輸送流体の熱伝達率(対ベース流体)との関係を示すグラフである。
図12】真球状シリカ微粒子の各種ベース流体中でのゼータ電位と熱輸送流体の熱伝達率(対ベース流体)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明の熱輸送流体について説明する。本発明の熱輸送流体は、ベース流体と、該ベース流体中に分散されており、平均粒子径が200〜400nmであり、前記ベース流体との電位差が35mV以上である固体粒子と、を含有するものである。
【0016】
本発明に用いられるベース流体としては特に制限はなく、例えば、水、エチレングリコール水溶液、プロピレングリコール水溶液等の不凍液(LLC)等が挙げられる。
【0017】
本発明の熱輸送流体において、前記ベース流体の物性として特に制限はないが、通常、室温(20℃)における物性として、比重:1.00〜1.09、粘度:0.001〜0.007Pa・s、熱伝導率:0.37〜0.59W/(m・K)、比熱:2.97〜4.18kJ/(kg・K)の範囲にあるベース流体を用いることが好ましい。また、ベース流体の粘度が高くなると流量が確保しにくく、また、エチレングリコールやプロピレングリコール等の濃度が70質量%を超えると凍結温度が上昇するため、前記ベース流体の物性が前記範囲内となるように、エチレングリコールやプロピレングリコール等の濃度を適宜調整する必要がある。
【0018】
本発明に用いられる固体粒子としては、黒鉛粒子、ダイヤモンド粒子等の粒子状炭素材料、シリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子等の金属酸化物粒子、セラミック粒子、銅粒子等の金属粒子などが挙げられる。これらの固体粒子の中でも、熱輸送流体の熱伝達率が向上しやすいという観点から、シリカ粒子、ジルコニア粒子が特に好ましい。
【0019】
本発明の熱輸送流体において、前記固体粒子の平均粒子径は200〜400nmであり、前記ベース流体との電位差は35mV以上である。このような固体粒子を前記ベース流体に添加することによって、熱輸送流体の熱伝導率及び熱伝達効率が向上する。また、平均粒子径が前記範囲内にある固体粒子は、分散安定性に優れており、前記ベース流体中で凝集しにくく、分散剤を使用しなくても単分散しており、取扱性にも優れている。一方、平均粒子径が前記下限未満の固体粒子は、前記ベース流体中で固体粒子が凝集し、また、前記ベース流体との電位差も前記下限未満となる。このような固体粒子を前記ベース流体に添加しても、熱輸送流体の熱伝導率及び熱伝達効率は向上しにくい。他方、平均粒子径が前記上限を超える固体粒子を前記ベース流体に添加した場合も、熱輸送流体の熱伝達効率は向上しにくい。また、前記固体粒子の前記ベース流体との電位差としては、熱輸送流体の熱伝達率が更に向上するという観点から、40mV以上が好ましい。なお、前記固体粒子の前記ベース流体との電位差は、前記ベース流体中での前記固体粒子のゼータ電位を測定することによって求めることができる。また、このような前記ベース流体との電位差(ゼータ電位の絶対値)は、ベース流体のpH値を調整することによって制御することができる。すなわち、ベース流体のpH値を高くすると、ベース流体との電位差(ゼータ電位の絶対値)が大きくなる。また、前記固体粒子の前記ベース流体との電位差の上限としては特に制限はない。
【0020】
本発明の熱輸送流体において、前記固体粒子の真密度としては特に制限はないが、ベース流体中に固体粒子を沈降させることなく、良好に分散させるという観点から、ベース流体の密度との差異が小さいことが好ましく、ベース流体の密度との差異が1500kg/m以下であることがより好ましい。また、前記固体粒子の比熱としては特に制限はないが、ベース流体の顕熱を大きくし、熱輸送量を増加させるという観点から、0.3kJ/(kg・K)以上が好ましく、0.5kJ/(kg・K)以上がより好ましい。
【0021】
また、本発明の熱輸送流体において、このような固体粒子の含有量としては特に制限はないが、熱輸送流体全体に対して1.0体積%以上が好ましく、2.0体積%以上がより好ましく、3.0体積%以上がさらに好ましく、3.5体積%以上が特に好ましい。本発明の熱輸送流体においては、流動時に圧力損失が増加しにくいことから、このように比較的多くの固体粒子を添加することができる。固体粒子の含有量が前記範囲内にあると、高い熱伝達効率を有する熱輸送材料が得られる。一方、固体粒子の含有量が前記下限未満になると、熱輸送流体の熱伝達効率が低下する傾向にある。また、固体粒子の含有量の上限としては特に制限はないが、流動時の圧力損失の増加を抑制し、熱輸送流体の流動性を確保するという観点から、10.0体積%以下が好ましく、5.0体積%以下がより好ましい。
【0022】
本発明の熱輸送流体においては、流動性を確保するために、界面活性剤を添加してもよい。これによって、より多くの量の固体粒子を前記ベース流体に添加することができ、熱輸送流体の熱伝導率及び熱伝達効率を更に向上させることが可能となる。また、本発明の熱輸送流体においては、本発明の効果を損なわない範囲において、防錆剤や消泡材等の従来公知の各種添加剤を添加してもよい。
【0023】
次に、本発明の熱輸送装置について説明する。以下、図面を参照しながら本発明の熱輸送装置の好適な実施形態について詳細に説明するが、本発明の熱輸送装置は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する場合もある。
【0024】
本発明の熱輸送装置は、前記本発明の熱輸送流体を用いたものであり、従来公知の熱輸送装置において、従来公知の熱輸送流体の代わりに前記本発明の熱輸送流体を用いたものであれば特に制限はなく、例えば、熱輸送流体(ベース流体1及び固体粒子2)を循環させるための循環流路3と、循環流路3に熱輸送流体を流通させるためのポンプPと、外部の高温領域4(例えば、エンジン)から熱を吸収する吸熱部5(例えば、エンジンのジャケット部)と、外部の低温領域6に熱を放出する放熱部7(例えば、ラジエーター)と、を備える熱輸送装置(図1参照)が挙げられる。本発明の熱輸送装置においては、必要に応じて熱輸送流体を貯蔵するための貯蔵槽8を備えていてもよい。
【0025】
図1に示した熱輸送装置において、貯蔵槽8に貯蔵された熱輸送流体はポンプPを用いて循環流路3を流通(循環)させる。このとき、熱輸送流体は吸熱部5を通過する際に外部の高温領域4から熱を吸収(授受)する。熱を吸収した高温の熱輸送流体は放熱部7を通過する際に熱を外部の低温領域6に放出する。熱を放出した熱輸送流体は、貯蔵槽8に移送された後、再び循環流路3内を循環する。
【0026】
このような熱輸送装置としては、例えば、移動体の熱源冷却システム(自動車エンジンの冷却システム、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)のインバーター冷却システム等)、各種通信機器の冷却システム等が挙げられる。
【0027】
以上、本発明の熱輸送装置の好適な実施形態について説明したが、本発明の熱輸送装置は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、吸熱部5における外部の高温領域としては、エンジン等の高温の固体だけでなく、高温の液体や気体といった熱媒体であってもよい。また、放熱部7における外部の低温領域としては、冷却空気等の低温の気体だけでなく、冷却水等の液体の冷却媒であってもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
ベース流体としてエチレングリコール濃度50質量%のエチレングリコール水溶液〔密度(80℃):1004kg/m、熱伝導率(80℃):0.41W/(m・K)、比熱(80℃):3.65kJ/(kg・K)〕を用い、これに粒子径300nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P30」、真密度:2000kg/m、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加し、熱輸送流体を調製した。
【0030】
(実施例2)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径200nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P20」、真密度:2000kg/m、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0031】
(実施例3)
粒子濃度が1.01体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0032】
(実施例4)
粒子濃度が2.56体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0033】
(実施例5)
粒子濃度が5.26体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0034】
(実施例6)
真球状シリカ微粒子の代わりに粒子径200nmのジルコニア微粒子〔イーエムジャパン株式会社製「NP−ZRO−2−2」、真密度:5680kg/m、熱伝導率:3.0W/(m・K)、比熱:0.47kJ/(kg・K)〕を粒子体積が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0035】
(実施例7)
ベース流体としてプロピレングリコール濃度50質量%のプロピレングリコール水溶液〔密度(80℃):982kg/m、熱伝導率(80℃):0.373W/(m・K)、比熱(80℃):3.79kJ/(kg・K)〕を用いた以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0036】
(比較例1)
固体粒子を添加せずに、エチレングリコール濃度50質量%のエチレングリコール水溶液をそのまま熱輸送流体として使用した。
【0037】
(比較例2)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径100nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P10」、真密度:2000kg/m、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0038】
(比較例3)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径500nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P50」、真密度:2000kg/m、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0039】
(比較例4)
粒子径300nmの真球状シリカ微粒子の代わりに、粒子径1000nmの真球状シリカ微粒子〔株式会社日本触媒製「KE−P100」、真密度:2000kg/m、屈折率:1.43、熱伝導率:1.30W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子濃度が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0040】
(比較例5)
真球状シリカ微粒子の代わりに粒子径300nmのアルミナ微粒子〔イーエムジャパン株式会社製「NP−ALO−4」、真密度:3950kg/m、熱伝導率:31.0W/(m・K)、比熱:0.77kJ/(kg・K)〕を粒子体積が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0041】
(比較例6)
真球状シリカ微粒子の代わりに粒子径300nmのチタニア微粒子〔イーエムジャパン株式会社製「NP−TIO2−13」、真密度:4260kg/m、熱伝導率:4.0W/(m・K)、比熱:0.71kJ/(kg・K)〕を粒子体積が3.63体積%となるように添加した以外は実施例1と同様にして熱輸送流体を調製した。
【0042】
<ゼータ電位及び平均粒子径の測定>
実施例1〜2、6〜7及び比較例2〜6で得られた熱輸送流体を、粒子濃度が1.00体積%となるように、使用したベース流体で希釈した。この希釈した熱輸送流体中の固体粒子のゼータ電位と平均粒子径を、Malvern社製「ゼータサイザーナノZSP」を用いて室温(25℃)において測定した。表1及び図2には、各粒子径の真球状シリカ微粒子の熱輸送流体中(実施例1〜2及び比較例2〜4、粒子濃度:1.00体積%)におけるゼータ電位及び平均粒子径を示す。また、表2及び図3には、各種固体粒子の熱輸送流体中(実施例1〜2、6及び比較例5〜6、粒子濃度:1.00体積%)におけるゼータ電位及び平均粒子径を示す。さらに、表3及び図4には、真球状シリカ微粒子の各種ベース流体中(実施例1及び7、粒子濃度:1.00体積%)におけるゼータ電位及び平均粒子径を示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1及び図2に示したように、ベース流体に粒子径が200nm以上の真球状シリカ微粒子を添加することによって、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が40mV以上となり、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(ベース流体との電位差:約30mV)に比べて大きくなることがわかった。また、粒子径が300nm付近の真球状シリカ微粒子を添加すると、ベース流体との電位差が最大となることがわかった。さらに、粒子径が200nm以上の真球状シリカ微粒子はエチレングリコール水溶液中で単分散しているのに対して、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子はエチレングリコール水溶液中で平均粒子径が増大しており、凝集していることが確認された。
【0045】
【表2】
【0046】
また、表2及び図3に示したように、ベース流体に粒子径が200nmのジルコニア微粒子を添加した場合には、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が36.9mVとなることがわかった。また、粒子径が200nmのジルコニア微粒子は、粒子径が200〜300nmの真球状シリカ微粒子と同様に、エチレングリコール水溶液中で単分散していることが確認された。一方、粒子径が300nmのアルミナ微粒子及びチタニア微粒子はエチレングリコール水溶液中で平均粒子径が増大しており、凝集していることがわかった。これは、粒子径が300nmのアルミナ微粒子及びチタニア微粒子が、粒子径が200〜300nmの真球状シリカ微粒子や粒子径が200nmのジルコニア微粒子に比べて、ベース流体との電位差が小さく、凝集性が強いためと考えられる。
【0047】
【表3】
【0048】
また、表3及び図4に示したように、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子をプロピレングリコール水溶液に添加した場合にも、エチレングリコール水溶液に添加した場合と同様に、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が40mV以上となることが確認された。また、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子はプロピレングリコール水溶液中においても単分散していることも確認された。
【0049】
以上の結果から、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように、固体粒子とベース流体とを選択することによって、固体粒子がベース流体中で単分散している熱輸送材料が得られることがわかった。
【0050】
<熱伝導率の測定>
実施例1〜2、6〜7及び比較例1〜6で得られた熱輸送流体の熱伝導率を、NETZSCH社製「Nanoflash LFA447」を用いて80℃において測定し、ベース流体(比較例1)の熱伝導率に対する熱輸送流体(実施例1〜2、6〜7及び比較例2〜6)の熱伝導率の比を求めた。表4及び図5には、各粒子径の真球状シリカ微粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2及び比較例2〜4、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝導率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。また、表5及び図6には、各種固体粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2、6及び比較例5〜6、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝導率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。さらに、表6及び図7には、各種ベース流体と真球状シリカ微粒子とを含有する熱輸送流体(実施例1及び7、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝導率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。
【0051】
【表4】
【0052】
表4及び図5に示したように、ベース流体に粒子径が200〜400nmの真球状シリカ微粒子を添加することによって、熱伝導率がベース流体の1.096倍以上となり、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝導率がベース流体の1.052倍)及び粒子径が1000nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝導率がベース流体の1.075倍)に比べて大きくなることがわかった。また、粒子径が300nm付近の真球状シリカ微粒子を添加すると、熱伝導率が最大となることがわかった。
【0053】
【表5】
【0054】
また、表5及び図6に示したように、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるようにジルコニア微粒子を添加した場合にも、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように真球状シリカ微粒子を添加した場合と同様に、熱伝導率が高くなる(ベース流体の1.116倍)ことが確認された。一方、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV未満となった場合には、熱伝導率は十分に向上しなかった(ベース流体の1.089倍)。なお、粒子径が300nmのアルミナ微粒子を添加した場合には、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV未満となったが、熱伝導率は向上した。これは、アルミナ微粒子自体の熱伝導率が真球状シリカ微粒子やジルコニア微粒子の熱伝導率に比べて極めて高いためと考えられる。
【0055】
【表6】
【0056】
また、表6及び図7に示したように、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子をプロピレングリコール水溶液に添加した場合にも、エチレングリコール水溶液に添加した場合と同等の高い熱伝導率を有する熱輸送材料が得られることが確認された。
【0057】
以上の結果から、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように、固体粒子とベース流体とを選択することによって、高い熱伝導率を有する熱輸送材料が得られることがわかった。
【0058】
<熱伝達率の測定>
図8に示す熱輸送装置を用いて、実施例1〜7及び比較例1〜6で得られた各熱輸送流体について、熱伝達率を測定した。すなわち、熱輸送流体を貯蔵槽8に封入し、ポンプPを用いて循環流路3内を流速2m/sで循環させた。ヒーター9aを用いて貯蔵槽8内の熱輸送流体を80℃に加熱した。また、ヒーター9bを用いて出力1.7kWで熱輸送流体を加熱した。このとき、熱交換器10に室温(20℃)の冷却水を循環させて熱輸送流体を冷却し、測定部11の入口温度:TINが80℃となるように調節した。測定部11の入口温度:TIN及び出口温度:TOUT、熱輸送流体の流量:Fが定常になった時点で、熱電対T1及びT2を用いて測定部11の入口温度:TIN及び出口温度:TOUTを測定し、さらに、熱電対T3及びT4を用いて測定部11の壁面温度:TWall及び熱輸送流体の温度:TFluidを測定した。得られた測定部11の入口温度:TIN(K)及び出口温度:TOUT(K)並びに熱輸送流体の流量:F(m/s)から、次式:

IN=ρCF(TOUT−TIN
〔式中、ρは熱輸送流体の密度(kg/m)を表し、Cは比熱(kJ/(kg・K))を表す。〕
を用いて、測定部11における熱輸送流体の入熱量:QIN(kW)を算出した。
【0059】
得られた熱輸送流体の入熱量:QIN(kW)、測定部11の壁面温度:TWall(K)及び熱輸送流体の温度:TFluid(K)から、次式:
h=1000×QIN/〔AWall×(TWall−TFluid)〕
〔式中、AWall:測定部11の内表面の面積(m)を表す。〕
を用いて、熱伝達率:h(W/(m・K))を算出し、ベース流体(比較例1)の熱伝達率に対する熱輸送流体(実施例1〜7及び比較例2〜6)の熱伝達率の比を求めた。表7及び図9には、各粒子径の真球状シリカ微粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2及び比較例2〜4、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。また、表8及び図10には、各粒子濃度の真球状シリカ微粒子を含有する熱輸送流体(実施例1、3〜5及び比較例1、粒子径:300nm)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。さらに、表9及び図11には、各種固体粒子を含有する熱輸送流体(実施例1〜2、6及び比較例5〜6、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。また、表10及び図12には、各種ベース流体と真球状シリカ微粒子とを含有する熱輸送流体(実施例1及び7、粒子濃度:3.63体積%)の熱伝達率比(熱輸送流体/ベース流体)を示す。
【0060】
【表7】
【0061】
表7及び図9に示したように、ベース流体に粒子径が200〜400nmの真球状シリカ微粒子を添加することによって、熱伝達率がベース流体の約1.15倍以上となり、粒子径が100nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝達率がベース流体の1.025倍)、粒子径が500nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝達率がベース流体の1.075倍)及び粒子径が1000nmの真球状シリカ微粒子を添加した場合(熱伝達率がベース流体の0.950倍)に比べて大きくなり、熱伝達効率が向上することがわかった。また、粒子径が300nm付近の真球状シリカ微粒子を添加すると、熱伝達率が最大となることがわかった。
【0062】
【表8】
【0063】
また、表8及び図10に示したように、熱輸送流体中の真球状シリカ微粒子の濃度を増加させることによって熱伝達率が増大し、熱伝達効率が向上することがわかった。粒子濃度が1.0体積%以上となるようにベース流体に真球状シリカ微粒子を添加すると、熱伝達率がベース流体の約1.14倍以上となり、粒子濃度が3.6体積%以上になると、熱伝達率は、ベース流体の約1.26倍でほぼ一定となることがわかった。
【0064】
【表9】
【0065】
また、表9及び図11に示したように、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるようにジルコニア微粒子を添加した場合にも、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上となるように真球状シリカ微粒子を添加した場合と同様に、熱伝達率が高くなる(ベース流体の1.150倍)ことが確認された。一方、固体粒子のゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV未満になった場合には、熱伝達率がベース流体に比べて小さくなり(ベース流体の0.900倍又は0.600倍)、熱伝達率を向上させることはできなかった。
【0066】
【表10】
【0067】
また、表10及び図12に示したように、粒子径が300nmの真球状シリカ微粒子をプロピレングリコール水溶液に添加した場合にも、エチレングリコール水溶液に添加した場合と同等の高い熱伝達率を有する熱輸送材料が得られることが確認された。
【0068】
以上の結果から、ゼータ電位の絶対値(ベース流体との電位差)が35mV以上(より好ましくは40mV以上)となるように、固体粒子とベース流体とを選択することによって、高い熱伝達率を有する熱輸送材料が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明によれば、より熱伝達効率に優れた熱輸送流体を得ることが可能となる。
【0070】
したがって、本発明の熱輸送装置においては、熱伝達効率に優れた熱輸送流体を使用しているため、高い熱交換効率で熱エネルギーの輸送が可能となり、ポンプ動力の低減、延いては燃費が向上した自動車エンジン等の冷却装置等として有用である。
【符号の説明】
【0071】
1:ベース流体
2:固体粒子
3:循環流路
4:外部の高温領域
5:吸熱部
6:外部の低温領域
7:放熱部
8:貯蔵槽
9a、9b:ヒーター
10:熱交換器
11:測定部
図1
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図12