特許第6724913号(P6724913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6724913
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20200101AFI20200706BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20200706BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20200706BHJP
   B41M 5/41 20060101ALI20200706BHJP
   B41M 5/40 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C08J7/04 BCFD
   B32B27/36
   B32B27/00 L
   B41M5/41 400
   B41M5/40 440
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-522430(P2017-522430)
(86)(22)【出願日】2017年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2017006617
(87)【国際公開番号】WO2017150303
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年9月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-38607(P2016-38607)
(32)【優先日】2016年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米内山 章吾
(72)【発明者】
【氏名】堀江 将人
(72)【発明者】
【氏名】早野 知子
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−228426(JP,A)
【文献】 特開2000−289349(JP,A)
【文献】 特開2005−7787(JP,A)
【文献】 特開2001−180129(JP,A)
【文献】 特開昭61−27292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04
B32B 27/00
B32B 27/36
B41M 5/40
B41M 5/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸配向ポリエステルフィルムからなる基材層(A層)の少なくとも片面に塗布層(B層)を有してなる積層フィルムであって、前記A層のX線回折測定により得られる(100)面の結晶サイズが4.5nm以上6.0nm未満であり、前記積層フィルムの150℃30分における長手方向、幅方向の熱収縮率のうち高い方の熱収縮率が0.5〜2.5%であり、前記B層が少なくとも一方の最表層に有り、B層を有する表面とは反対側の表面の中心線平均粗さ(SRa)が5〜15nmであり、かつ、B層が粒子を含有しており、B層に含まれる粒子の平均粒子径をDb(μm)としたとき、下記(3)式を満し、B層に含まれる粒子の含有量がB層に対して10〜30重量%である積層フィルム。
0.02≦Db≦0.1 ・・・(3)式
【請求項2】
前記B層表面の最大突起高さ(SRmax)が1.0〜3.0μmである請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
二軸配向ポリエステルフィルムからなる基材層(A層)の片面にのみ塗布層(B層)を有し、一方の最表層がA層であり、もう一方の最表層がB層である請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
2枚の積層フィルムを用いてA層表面とB層表面を重ねあわせたときの動摩擦係数が0.6以下である請求項3に記載の積層フィルム。
【請求項5】
B層を有する表面とは反対側の表面の突起個数SPc(個/0.2mm)が150以下である請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記B層表面の中心線平均粗さ(SRa)が5−20nmである請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
前記B層表面の突起個数SPc(個/0.2mm)が150を越え500以下である請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
前記A層が粒子を含有しており、A層の厚みをTa(μm)、B層の厚みをTb(μm)、A層に含まれる粒子の平均粒子径をDa(μm)としたとき、下記(1)および(2)式を満足する請求項1〜7のいずれかに記載の積層フィルム。
1.0≦Ta/Da≦4.0 ・・・(1)式
2×10−3≦Tb/Da≦50×10−3 ・・・(2)
【請求項9】
前記Taが1.5〜9.0μmであり、Tbが0.01〜0.1μmであり、Daが1.5〜5.0μmであり、A層に含まれる粒子の含有量がA層に対して0.01〜0.06重量%、である請求項8に記載の積層フィルム。
【請求項10】
最表層のB層表面にワックスを主成分とする層を設け、B層とは反対の面にインク層を設けて、昇華型熱転写リボンの基材として用いられる請求項1〜9のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の積層フィルムの最表層のB層表面にワックスを主成分とする層を有し、B層とは反対の面にインク層を有する昇華型熱転写リボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は巻取性、加工特性に優れ、印画物の高光沢化が可能な積層フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレートなどを用いた二軸配向ポリエステルフィルムは、機械特性、耐熱性、寸法安定性、耐薬剤性、コストパフォーマンス性などに優れる。そのため、二軸配向ポリエステルフィルムは、その性能を活かして多くの用途に使用されており、そのひとつに熱転写用リボンが挙げられる。熱転写記録方式は、コストパフォーマンス性やメンテナンス性、操作性などに優れることからFAX、バーコード印刷といった分野に既に用いられている。また、熱転写インクに既存の溶融型顔料ではなく昇華性染料を用いることで、高精細、高画質などの特性も加わり、デジタル写真印刷などの分野でも多用され、従来の銀塩方式からの置き換えが進んでいる。近年こうしたデジタル写真印刷の要求レベルは上がっており、熱転写記録方式においてもインクジェット記録方式並みの印画物の光沢度が求められている。そのため、熱転写リボン用ポリエステルフィルムには今まで以上の高い印画性が求められている。印画性を向上させる検討としては、これまでに、ポリエステルフィルムに含有させる粒子の含有量を減らしたり、粒子径を小さくすることで、ポリエステルフィルムの表面を平滑化させる方法が検討されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−350615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、ポリエステルフィルムに含有させる粒子の含有量を減らしたり、粒子径を小さくすることで、ポリエステルフィルムの表面を平滑化する方法は一定程度の印画性向上効果は得られる。しかしながら、熱転写リボンのような薄膜フィルムである場合においてはフィルムの巻取性や、熱転写リボンとした際の印画済みリボンのシワの発生や印画物の画像性といった加工性が困難となったり、また、十分な印画物の光沢度を得られないという課題があった。本発明はかかる問題を解決し、巻取性、加工特性に優れ、印画物の高光沢化が可能な積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成をとる。
[I]二軸配向ポリエステルフィルムからなる基材層(A層)の少なくとも片面に塗布層(B層)を有してなる積層フィルムであって、前記A層のX線回折測定により得られる(100)面の結晶サイズが4.5nm以上6.0nm未満であり、前記積層フィルムの150℃30分における長手方向、幅方向の熱収縮率のうち高い方の熱収縮率が0.5〜2.5%であり、前記B層が少なくとも一方の最表層に有り、B層を有する表面とは反対側の表面の中心線平均粗さ(SRa)が5〜15nmであり、かつ、B層が粒子を含有しており、B層に含まれる粒子の平均粒子径をDb(μm)としたとき、下記(3)式を満し、B層に含まれる粒子の含有量がB層に対して10〜30重量%である積層フィルム。
0.02≦Db≦0.1 ・・・(3)式
[II]前記B層表面の最大突起高さ(SRmax)が1.0〜3.0μmである[I]に記載の積層フィルム。
[III]二軸配向ポリエステルフィルムからなる基材層(A層)の片面にのみ塗布層(B層)を有し、一方の最表層がA層であり、もう一方の最表層がB層である[I]または[II]に記載の積層フィルム。
[IV]2枚の積層フィルムを用いてA層表面とB層表面を重ねあわせたときの動摩擦係数が0.6以下である[III]に記載の積層フィルム。
[V]B層を有する表面とは反対側の表面の突起個数SPc(個/0.2mm)が150以下である[I]〜[IV]のいずれかに記載の積層フィルム。
[VI]前記B層表面の中心線平均粗さ(SRa)が5−20nmである[I]〜[V]のいずれかに記載の積層フィルム。
[VII]前記B層表面の突起個数SPc(個/0.2mm)が150を越え500以下である[I]〜[VI]のいずれかに記載の積層フィルム。
[VIII]前記A層が粒子を含有しており、A層の厚みをTa(μm)、B層の厚みをTb(μm)、A層に含まれる粒子の平均粒子径をDa(μm)としたとき、下記(1)および(2)式を満足する[I]〜[VII]のいずれかに記載の積層フィルム。
1.0≦Ta/Da≦4.0 ・・・(1)式
2×10−3≦Tb/Da≦50×10−3 ・・・(2)
[IX]前記Taが1.5〜9.0μmであり、Tbが0.01〜0.1μmであり、Daが1.5〜5.0μmであり、A層に含まれる粒子の含有量がA層に対して0.01〜0.06重量%、である[VIII]に記載の積層フィルム。
[X]最表層のB層表面にワックスを主成分とする層を設け、B層とは反対の面にインク層を設けて、昇華型熱転写リボンの基材として用いられる[I]〜[IX]のいずれかに記載の積層フィルム。
[XI][I]〜[X]のいずれかに記載の積層フィルムの最表層のB層表面にワックスを主成分とする層を有し、B層とは反対の面にインク層を有する昇華型熱転写リボン。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、巻取性、加工特性に優れ、印画物の高光沢化が可能な積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の積層フィルムは、二軸配向ポリエステルフィルムからなる基材層(A層)の少なくとも片面に塗布層(B層)を有してなる。本発明の積層フィルムにおいて、A層で用いるポリエステルとは、延伸に伴う分子配向によって高強度フィルムとなり得るポリエステルであればよく、ポリエチレンテレフタレート、もしくはポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。これらはポリエステル共重合体であってもよいが、その繰り返し構造単位のうち、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレートもしくはエチレン−2,6−ナフタレートであることが好ましい。他のポリエステル共重合体成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、p−キシレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのジオール成分、またはアジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分、ないしはトリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能ジカルボン酸成分やp−ヒドロキシエトキシ安息香酸などが挙げられる。また、上記のポリエステルに、該ポリエステルと反応性のないスルホン酸のアルカリ金属塩誘導体、あるいは該ポリエステルに不溶なポリアルキレングリコールや脂肪族ポリエステルなどのうち一種以上を、5%を超えない程度ならば共重合ないしブレンドしてもよい。
【0008】
本発明の積層フィルムにおいて、塗布層(B層)は、ポリエステル系樹脂及び/またはアクリル系樹脂を主たる構成成分とする樹脂組成物を塗布したのち形成される層であることが好ましい。なお、主たる構成成分とは、塗布層(B層)を形成する樹脂組成物の固形分重量全体に対して、50重量%以上を占める構成成分のことを表す。より好ましくは、ポリエステル系樹脂とアクリル系樹脂の合計の固形分比率が、塗布層(B層)を形成する樹脂組成物の固形分重量全体に対して、70重量%以上である。
【0009】
本発明の積層フィルムにおいて、塗布層(B層)に用いられるポリエステル系樹脂としては、以下に示すような多塩基酸成分とポリオール成分とから重縮合されるものが例示される。すなわち多塩基酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。また、ポリオール成分としては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジメチロールプロパンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのモノマー成分は、2種以上を用いて共重合することもできる。
【0010】
また、本発明の積層フィルムにおいて、塗布層(B層)に用いられるアクリル系樹脂としては、以下に示すようなアクリルモノマーから重合されるものが例示される。すなわち、直鎖状・分岐状・環状のアルキル基を有したアルキルアクリレートやアルキルメタクリレート、ヒドロキシ含有モノマー、エポキシ基含有モノマー、カルボキシ基またはその塩を含有するモノマー、アミド基を含有するモノマー、酸無水物のモノマー、あるいは塩化ビニル、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、酢酸ビニルをはじめとするモノマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのモノマー成分は、2種以上を用いて共重合することもできる。
【0011】
本発明の積層フィルムにおいて、二軸配向ポリエステルフィルムからなる基材層(A層)は、後述する測定方法において、X線回折測定により得られる(100)面の結晶サイズが4.5nm以上6.0nm未満である必要がある。本発明におけるX線回折測定により得られる(100)面の結晶サイズとは、X線回折測定を用いて回折ピークの半値幅から算出される値である。二軸配向ポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、配向結晶化している結晶部と非結晶部では熱伝導が異なる。配向結晶化が進行すると結晶部が多くなり、結晶化サイズは大きくなる。(100)面の結晶サイズをこの範囲に設定することで熱伝導の均一性が確保され、フィルムが持つ熱分布のムラを低減でき、インクや塗料を塗工した際に均一塗工が可能となり、印画物の高光沢化が可能となる。しかし、(100)面の結晶サイズが4.5nm未満であると非結晶部が多くなるため、熱寸法安定性に劣り、加工特性が不十分になる。逆に(100)面の結晶サイズが6.0nm以上となると延伸性が低下し、製膜性が困難になる。より好ましくは、4.5nm以上5.6nm未満である。
【0012】
また、本発明の積層フィルムは、長手方向および幅方向の150℃30分における熱収縮率のいずれか高い方の熱収縮率が0.5〜2.5%であることが必要である。熱収縮率を上記の範囲とすることで、加熱して加工される用途に用いても、シワなどの発生を抑制し、加工性を良好にできる。熱転写リボンの基材として用いる場合、熱収縮率を上記の範囲とすることで熱転写工程におけるインクリボンとインク受容体の熱収縮差を低減でき、それらの間での熱変形によるブレを抑えられ、該工程を安定化させられる。そのため、インクの均一熱転写が可能となり、印画物の高光沢化が可能となる。従来は、積層フィルムを熱転写リボンの基材として用いる場合、熱収縮率は小さくすることが好ましいと考えられていた。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、長手方向および幅方向の150℃30分における熱収縮率のいずれか高い方の熱収縮率が0.5%未満であるとインクリボンとインク受容体での熱収縮差が大きく、インクを均一に熱転写することができないという課題が発生した。一方で、2.5%を超えると、加工時にシワが発生しやすく、生産性・加工性が低下するという課題が発生する。上記の課題は薄膜のフィルムにおいて顕著に問題となる。より好ましくは0.8〜2.2%である。
【0013】
本発明の積層フィルムは、少なくとも一方の最表層がB層であり、B層を有する表面とは反対側の表面の中心線平均粗さ(SRa)は5〜15nmである必要がある。B層を有する表面とは反対側の表面の中心線平均粗さ(SRa)をこの範囲とすることで、B層とは反対の面にインク層を設けて昇華型熱転写リボンを作製したときに、高平滑なフィルムが得られ、印画物の光沢度を上げることが可能となる。また、中心線平均粗さ(SRa)が5nm未満では、フィルム生産時の巻き取りの際、または、インク加工工程の搬送の際にしわが入ることや表面に傷がつくため、加工性が低下する。中心線平均粗さ(SRa)が15nmを超えるとフィルムの平滑度が不十分となり十分な印画物の光沢度を得ることができないばかりか、インクはじき等を引き起こし、鮮明さが悪化する場合がある。より好ましくは、9〜12nmである。
【0014】
本発明の積層フィルムにおいて、B層表面の最大突起高さSRmaxは、巻き取り性の観点から1.0〜3.0μmであることが好ましい。SRmaxが1.0μm未満だと、フィルム生産時の巻き取りが困難となる場合があり、3.0μmを超えると印画物での塗布抜けにつながる場合がある。
【0015】
本発明の積層フィルムは、二軸配向ポリエステルフィルムからなる基材層(A層)の片面にのみ塗布層(B層)を有し、一方の最表層がA層であり、もう一方の最表層がB層であることが好ましい。この積層構成において、本発明の積層フィルムは、2枚の積層フィルムを用いて積層フィルムのA層表面とB層表面を重ね合わせたときの動摩擦係数が0.6以下であることが、加工特性の観点から好ましい。本発明において動摩擦係数とは、ASTM D1824に準じた測定により求めるものであり、詳しくは後述する測定方法により求められるものである。動摩擦係数が0.6を越えると加工時にシワが発生しやすく、加工特性が落ち、また、フィルムロールを巻き出した際の剥離帯電が酷く、加工時に欠点を誘発すると同時に有機溶媒を使用するような工程では有機溶媒に引火する危険が伴う場合がある。動摩擦係数は0.55以下であることがより好ましい。また、動摩擦係数に関しては下限値の規定はないが、材料の性質上0.1以上となる。
【0016】
本発明の積層フィルムにおいて、B層を有する表面とは反対側の表面の突起個数SPc(個/0.2mm)は150以下であることが好ましく、より好ましくは120以下である。この範囲とすることで、B層とは反対の面にインク層を設けて昇華型熱転写リボンを作製して該リボンを用いて印画した際に、印画物の光沢度を向上させることができる。一方でSPcが150を超えると印画物の光沢度が低下する場合がある。
【0017】
本発明の積層フィルムにおいて、B層表面の中心線平均粗さ(SRa)は5〜20nmであることが好ましい。B層表面の中心線平均粗さ(SRa)が5nm以下の場合、B層表面が平滑すぎるために易滑性が悪化し易くなり、しわが発生したり、フィルムロールとした際の端面ズレが発生し、巻取性が悪化する場合がある。また、後加工となる、インク加工時の搬送の際にもフィルムにしわが入る場合がある。また、B層表面の中心線平均粗さ(SRa)が20nmを越えると、表面が粗いためにフィルムを巻き取った後のフィルムロールの保管において、B層とは反対の面にB層の表面が転写し、インク加工時の際、インクの塗布抜けや塗布ムラが発生し印画物の印画性を悪化させる場合がある。
【0018】
更に、本発明の積層フィルムにおいて、B層表面の突起個数SPc(個/0.2mm)は150を越え500以下であることが好ましい。150個/0.2mm以下であると、易滑性が悪化し、しわが発生したり、フィルムロールとした際の端面ズレが発生し、巻取性が悪化する場合がある。また、上限は特段に限定されるものではないが、500を越えると、突起個数が過剰になり、摩擦が高くなりすぎ、フィルムを製造する際の走行性が悪化する場合がある。
【0019】
また、本発明の積層フィルムは、前記B層が粒子を含有していることが好ましい。前記B層に粒子を含有させると、画像の鮮明性を低下させることなく滑り性を向上させることで巻取性や剥離帯電を抑止するという効果が得られる。B層に含有させる粒子の種類は、特に制限されないが、本発明の積層フィルムを熱転写リボン用途に用いる場合、印画時に高い熱が加わるため、印画時の熱に耐えうる耐熱性を有する粒子であることが好ましい。そのため、印画時の熱に耐えうる無機粒子が好ましく、有機粒子を使用すると印画時の熱に耐えられず印画物の画質を損なう場合がある。本発明に用いられる無機粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、珪酸アルミニウム、硫酸バリウムなどの鉱物類、金属、金属酸化物、金属塩類等の微粒子が挙げられる。形状は球状が好ましく、球状シリカ微粒子が特に好ましい。その製造方法は特に限定されるものではないが、例えばアルコキシド法によって合成することができる。
【0020】
本発明の積層フィルムは、前記A層が粒子を含有していることが好ましい。前記A層に粒子を含有させると、フィルム層表面の突起高さや表面粗さを適正化させることが容易となる。A層に含有させる粒子の種類は特に制限されないが、不活性粒子が好ましく用いられる。不活性粒子の種類としては、球状シリカ、ケイ酸アルミニウム、二酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機粒子、またその他有機系高分子粒子としては、架橋ポリスチレン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子等が好ましい。これらの1種もしくは2種以上を選択して用いることもできる。
【0021】
これらの不活性粒子は、ポリエステル重合工程の段階で添加することにより、不活性粒子含有ポリマーを準備することができる。例えば、ポリエステルのグリコール成分であるエチレングリコールのスラリーとし、重縮合前のエステル交換後、あるいはエステル化後のオリゴマーの段階で不活性粒子含有スラリーを添加し、引き続き、重縮合反応を行うことで、不活性粒子含有ポリマーを得ることができる。前記A層、B層はともに粒子を含有していることが好ましい。
本発明の積層フィルムは、A層の厚みをTa(μm)、B層の厚みをTb(μm)、A層に含まれる粒子の平均粒子径をDa(μm)、B層に含まれる粒子の平均粒子径をDb(μm)としたとき下記(1)〜(3)式を満足することが好ましい。(1)〜(3)式を満たすフィルムとすることで加工性、巻取性が向上する。(1)〜(3)式のいずれかを満たさない場合、巻取性、生産性の悪化や、該フィルムを用いて作製した熱転写リボンで印画した際に印画物の鮮明性の低下を引き起こす場合がある。
1.0≦Ta/Da≦4.0 ・・・(1)式
2×10−3≦Tb/Da≦50×10−3 ・・・(2)式
0.02≦Db≦0.1 ・・・(3)式
(1)式において、Ta/Daが1.0未満であると、A層よりも粒子径の方が大きくなり、フィルムが脆くなり、生産性が悪化する場合がある。一方で4.0を超えるとフィルムの凹凸形成が低減され、巻取性が悪化する場合がある。
【0022】
また、(2)式において、Tb/Daが2×10−3未満であると、フィルム表面が隆起しており、B層塗布時にフィルムの波打ちが起きやすく、加工性が低下する場合がある。一方で50×10−3を超えるとB層表面の凹凸が少なく、巻取性が悪化する場合がある。Tb/Daのより好ましい範囲は5×10−3以上、30×10−3以下である。
【0023】
また、(3)式において、Dbが0.02未満であると、滑り性が悪化しやすく、一方で0.1を超えるとB層塗布時に塗布欠点が発生しやすくなる場合がある。
【0024】
また、本発明の積層フィルムは、前記Taが1.5〜9.0μmであり、Tbが0.01〜0.1μmであり、Daが1.5〜5.0μmであり、A層に含まれる粒子の含有量がA層に対して0.01〜0.06重量%、B層に含まれる粒子の含有量がB層に対して10〜30重量%であることが好ましい。B層に含まれる粒子の含有量がB層に対して10重量%未満であると滑り性が悪化しやすく、30重量%を超えると搬送中に粒子が脱落しやすく、工程汚染の原因となる場合がある。また、B層の厚み(Tb)が0.01μm未満であると加工工程でB層に含有する粒子の脱落が生じ、欠点を誘発するために画像の鮮明性を低下させる場合がある。一方、0.1μmを超えるとB層表面の凹凸の形成が困難となり、滑り性の向上が認められない場合がある。
【0025】
また、前述のA層に含有する粒子の平均粒子径(Da)は、1.5〜5.0μmであることが好ましく、2.0〜4.0μmがさらに好ましい。平均粒子径が異なる複数の粒子を添加しても良い。添加する粒子の平均粒子径が1.5μm未満であると、十分な巻き取り性が得られない。また、5.0μmを超えると、フィルムの延伸工程で破れが発生し生産性が低下することがある。また、粒子の含有量はA層に対して0.01〜0.06重量%の範囲が好ましい。0.01重量%未満であると巻取性が悪化しやすく、0.06重量%を超えると十分な印画物の光沢度が得られない場合がある。
【0026】
本発明の積層フィルムの厚みは、熱転写リボン用として用いることを考慮すると1.0〜10.0μmであることが好ましい。積層フィルムの厚みが1.0μm未満であると熱転写リボン用フィルムとしての熱的特性や機械的特性が低下する場合がある。また、10.0μmを超えると、インクリボンとして使用する際にサーマルヘッドのエネルギーを高くする必要があるために効率が悪くなり、また、ヘッドの寿命が短くなり、印刷時間も長くなる場合がある。1.5〜9.0μmであることがより好ましい。
【0027】
本発明の積層フィルムに用いられる二軸配向ポリエステルフィルムは、例えば、以下に記載する方法により得ることができる。まず、ポリエステル原料(好ましくは粒子を含有したポリエステル原料)を溶融し、スリット状のダイを用いてフィルム状に成形した後、表面温度20〜70℃のキャスティングドラムに巻き付けて冷却固化させ、未延伸フィルムとする。続いて80〜130℃で長手方向に3.0〜7.0倍延伸して、一軸延伸フィルムを得る。このとき、多段階延伸をすることにより製膜性を損なわずに長手方向に強く配向したフィルムを得ることができる。
【0028】
その後、一軸延伸フィルムをテンター内に導入し、90〜130℃で予熱するが、塗布層コーティングの乾燥も兼ねる。次に幅方向に3.0〜4.5倍に延伸して二軸延伸フィルムとし、200〜230℃で熱固定する。熱固定温度は200℃〜235℃が好ましい。温度が200℃よりも低いと、熱結晶化が十分進まず、結晶性の低いフィルムとなる。温度が235℃より高いと、熱結晶化が進みすぎ、延伸で進行した分子鎖の配向が低下してしまう。熱固定前にさらに縦ないし横方向に、または縦横両方向に再度延伸させて強度を高めることも可能である。熱固定後、140〜185℃で幅方向に0〜8%収縮させてからロール状に巻き取る。また、縦方向の最終的な製膜速度は100〜400m/分が好ましく、より好ましくは150〜350m/分、さらに好ましくは160〜320m/分である。なお、本発明の積層フィルムに用いられる二軸配向ポリエステルフィルムは、ここで示した製造方法で得られたものに限定されるものではない。
【0029】
塗布層(B層)は二軸配向ポリエステルフィルムの製造工程内、あるいは製造後のいずれでも設けることが可能であるが、後者の場合、工業的に非効率であること、均一に塗布することが困難なこと、また塵埃を巻き込んで印画時の欠点になりやすいことから、前者の手法を採ることが好ましい。製造工程内での塗布は、配向結晶化が完了する前の状態であればどの段階で行っても良く、未延伸状態のフィルム、一軸延伸した後のフィルム、低倍率延伸した状態で最終的に再延伸を行う前のフィルムのいずれにも設けることが可能である。塗布層の塗布方法としては、ロールコーター、グラビアコーター、リバースコーター、キスコーター、バーコーター、カーテンコーター、ロッドコーターなどを用いるのが好ましいが、特に限定されない。
【0030】
本発明の積層フィルムを用いた熱転写リボンを製造する場合には、印画時のサーマルヘッドとの融着を防止する点、熱転写インクとのブロッキングを防止する点、走行性を良好にする点で、B層の表面にワックス系を主成分とした耐熱滑性層を設けるのが好ましい。ワックスには、市販の各種のワックス、例えば石油系ワックス、植物性ワックス、動物系ワックス、低分子量ポリオレフィン類などを使用することができ、特に制限されるものではないが、石油系ワックス、植物系ワックスの使用が易滑性の点で好ましい。
石油系ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリステリンワックス、ペトロラクタム、酸化ワックスなどが挙げられるが、パラフィンワックスが特に好ましい。
動物系ワックスとしては、みつろう、ラノリン、鯨ロウ、イボタロウ、セラックワックス、coccuscacti wax、水鳥ワックスなどを用いることができる。
【0031】
また、植物性ワックスとしてはキャンデリラワックス、カルナバワックス、ライスワックス、パームワックス、木ロウ、ホホバワックス、オウリキュリーワックス、サトウキビワックス、エスパルトワックス、バークワックス、ロジン変性ワックスなどが挙げられるが本発明においては特にロジン変性ワックスが好ましい。
【0032】
用いられるワックスの分子量は、水への分散性の点で、好ましくは10000以下、より好ましくは1000以下であることが好ましい。
【0033】
上記ワックスであれば特に限定されずに用いることができるが、石油系ワックスと植物性ワックスを混合系で用いるのが易滑性や離型性の点で好ましく、特に好ましくはパラフィンワックスとロジン変性ワックスの混合系で用いるとより好ましい。
【0034】
上記ワックスには本発明の効果を阻害しない範囲内で各種添加剤を併用することができる。例えば帯電防止剤、耐熱剤、耐酸化防止剤、有機、無機の粒子、顔料などを用いることができる。
【0035】
耐熱滑性層は、塗布層(B層)と同様、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造工程内、あるいは製造後のいずれにおいても設けることが可能であり、塗布層(B層)を設ける際と同様の塗布手法を用いることができる。
【0036】
本発明の積層フィルムにおいて、塗布層(B層)の表面にワックスを主成分とする層(耐熱滑性層)を設け、塗布層(B層)およびワックスを主成分とする層(耐熱滑性層)を設ける面とは反対の面にインク層を設けたリボンは、印画物の高光沢化が可能であり、かつ、優れた巻取性、加工特性を有するため、昇華型熱転写リボンとして好適に用いることができる。インク層を設ける際、熱転写インク(溶融型顔料または昇華性染料)を塗布することで、熱転写リボンを製造することができる。市販の一般的な染料を用いることが可能であり、通常メチルエチルケトン、アセトン、トルエンなどの溶剤に溶解させた状態で塗布する。
【0037】
以上のようにして作られた本発明の積層フィルムを、昇華型熱転写リボンとして用いると、印画物の高光沢化が可能となる。加えて、優れた巻取性、加工特性をも実現できる。
【実施例】
【0038】
本実施例で用いた測定法を示す。
(1)(100)面の結晶サイズ
PHILIPS社製PW1729X線回折装置を用いて測定した。測定条件は次の通り
である。試料は2cm×2cmに切り出して、厚みが100μmにもっとも近くなるように重ね合わせて、フィルム面が回折面に並行になるようにセットする。常温・常圧下で、35kV、15mAのCuKα線にて、θが18°〜30°の範囲で回折ピークを得た。得られた(100)面の回折ピークの半値幅h(°)より下記式にて結晶サイズを求めた。
χc=43.05/h
(2)熱収縮率
フィルムサンプル標線間を200mm(標線間を長さ方向とする)にとり、フィルムを10mmに切断する。フィルムサンプルを長さ方向に吊るし、1gの荷重を長さ方向に加えて、150℃の熱風を用い30分間加熱した後、標線間の長さを測定し、フィルムの収縮量を原寸法に対する割合として百分率で表した。評価は、長手方向を長さ方向にとったもの、および幅方向を長さ方向にとったものについて、5回ずつ実施し、それぞれの平均値をもって、長手方向の150℃30分における熱収縮率、幅方向の150℃30分における熱収縮率とした。
【0039】
(3)最大突起高さ(SRmax)、ピークカウント(SPc)、および、中心線平均粗さ(SRa)
小坂研究所(株)製の光触針式(臨界角焦点エラー検出方式)3次元粗さ計(ET−3
0HK)を使用して測定した。本発明におけるSRmax・SRa値は、JIS−B0601(1994年)のRmax・Ra値に相当する3次元粗さ計での測定値である。SPcは粗さ曲線の中心線に平行に3nm離れたレベルにピークカウントレベルを設定し、曲線が平均線とピークカウントレベルを交差する2点間において、上側のピークカウントの交差する点が1個以上存在する時を1山として、この山数を測定長さ間において10回測定し、その平均値を求めた。測定方向は幅方向とし、カットオフ値0.25mm、測定長0.5mm、送りピッチ5μm、触針荷重10mg、測定スピードは100μm/s、測定本数は80本とした。
【0040】
(4)動摩擦係数
試料調湿として、23℃、65%RHで24時間フィルムをエージングし、ASTMD−1894に準じて、下記条件にてスリップテスターを用いて塗布層(B層)を設けた面と反対面との動摩擦係数を下記条件にて測定した。
【0041】
試料サイズ : 75mm(幅)×100mm(長さ)
すべり速度 : 150mm/分
加重 : 200g
(5)基材層(A層)厚み、および、塗布層(B層)厚み
1mm(幅)×10mm(長さ)のフィルム片を幅方向5mmの断面が上側にくるようにエポキシ樹脂で包埋した。該包埋物のエポキシ樹脂部分をミクロトームの試料ホルダーにセットできるようにトリミングし、LKB社製ウルトロトーム4801にダイヤモンドナイフを用いて、エポキシ樹脂包埋処理をしたフィルム片の断面を切削した。面出し後のエポキシ樹脂包埋ブロックをRuO雰囲気下で24時間かけて塗布層(B層)の染色を行った。染色処理後のエポキシ樹脂包埋ブロックを再度、ミクロトームにセットし、ダイヤモンドナイフを用いて切削し、染色された断面を含む超薄切片を作成した。該超薄切片を日立製H−7100FA透過型電子顕微鏡にて加速電圧を75kVとして、40000倍のフィルム断面写真を撮影し、基材層(A層)および染色された塗布層(B層)の厚みを求めた。
【0042】
(6)基材層(A層)、および、塗布層(B層)に含有する粒子の平均粒子径
日本ミクロトーム研究所製電動ミクロトームST−201を用いて断面切削したフィルムのスライス片を作成した。走査型電子顕微鏡の試料台に固定したスライス片を、スパッタリング装置を用いて真空度10-3Torr、電圧0.25KV、電流12.5mAの条件にて10分間、イオンエッチング処理を施す。次に、同装置にて該表面に金スパッタを施し、走査型電子顕微鏡にて50000倍の厚み方向の断面写真を撮影した。ここで基材層(A層)、塗布層(B層)中それぞれに含有する粒子のn(≧10)個の円相当径の平均値を基材層(A層)、塗布層(B層)中に含有する粒子の平均粒子径とした。
【0043】
(7)基材層(A層)、および、塗布層(B層)に含有する粒子の含有量
メチルエチルケトンによって基材層(A層)と塗布層(B層)を分離させる。基材層(A層)、塗布層(B層)それぞれに対し、基材層および塗布層を構成する樹脂は溶解するが粒子は溶解させない溶媒を選択し、粒子を基材層および塗布層を構成する樹脂から遠心分離し、粒子の全体重量に対する比率(重量%)をもって基材層(A層)、塗布層(B層)の粒子含有量とする。
【0044】
(8)印画物の光沢度
フィルムの塗布面(B層表面)に、アクリル酸エステル/アミノ変性シリコーン/イソシアネート=70/29/1(重量比)で混合させた水系耐熱滑性層を設けた。その後、塗布層(B層表面)上に昇華性染料/エチルヒドロキシエチルセルロース/メチルエチルケトン/トルエン=5/5/45/45(重量比)から成る昇華型インクを塗布して、昇華型熱転写リボンを作製した。昇華型染料としては、イエロー:BASF社製バラニールイエロー5RX、マゼンタ:住友化学工業(株)製イミロカンRED−FBL、シアン:日本化薬(株)製カヤセットブルー714をそれぞれ用いた。この昇華型熱転写リボンを用い、大日本印刷(株)製デジタルフォトプリンタDS40で受像紙上に幅20mm、長さ100mmの自然画の印画を行った。その印画物の黒背景部分について、スガ試験器製デジタル変角光沢計UGV−5Dを用いてJIS−Z8741(1997年)規定の方法に従って入射角20°での鏡面光沢度値を測定し、下記基準に従って印画評価(光沢)を評価した。
S:鏡面光沢度値70%以上(優れる)
A:鏡面光沢度値65%以上70%未満(良好)
B:鏡面光沢度値50%以上65%未満(商品価値劣る)
C:鏡面光沢度値50%未満(不良)
(9)巻取性評価
フィルム製造工程で巻き取ったジャンボロールを引き出し、小幅スリット機で1m幅で1000m以上スリットして、下記基準に従って評価した。
S:巻き始め初期及び巻き取り中のシワが全くなく、巻き取りロール端面ズレが少しも認められない
A:巻き始め初期及び巻き取り中のシワが全くないが、軽微な巻き取りロール端面ズレが一部認められる
B:巻き始め初期にシワが発生するが、すぐ消失する
C:巻き始め初期に発生したシワが消失しないか、巻き取り中にシワが発生する。
【0045】
(10)加工特性評価
上記(8)の印画を行った際、印画済リボン及び印画した画像を観察し、下記基準に従って評価した。
S:印画した画像及び印画済リボンにシワが認められない
A:印画済リボンにシワが認められるが、印画した画像は良好
B:印画済リボンのシワが認められ、印画した画像に1cm未満のシワが認められる
C:印画済リボンのシワが認められ、印画した画像に1cm以上のシワが認められる
(11)生産性
製膜中のフィルム破れ回数を計測し、100時間に0〜1回生じる程度ならば「A」、2〜3回は「B」、4回以上のときには「C」とした。
【0046】
なお、上記の評価において、フィルムの長手方向(MD)や幅方向(TD)が分からない場合は、フィルムにおいて最大の屈折率を有する方向を長手方向、それに長手方向に直行する方向を幅方向とみなす。フィルムにおける最大の屈折率の方向は、フィルムの全ての方向の屈折率をアッベ屈折率計で測定して求めてもよく、例えば、位相差測定装置(複屈折測定装置)などにより遅相軸方向を決定することで求めてもよい。
【0047】
[実施例1]
富士シリシア社製、数平均粒子径2.6μmの二酸化ケイ素粒子を0.03重量%含有した、固有粘度0.61の東レ製ポリエチレンテレフタレートを押出機中で285℃に溶融させ、口金からシート状に溶融押し出しし、25℃の回転冷却ドラムに密着させて固化させ、未延伸フィルムを得た。加熱したロールの周速差を用いてフィルムの長手方向に125℃で2.4倍に延伸(1段目延伸)を行い、ついで長手方向に115℃で2.7倍に延伸(2段目延伸)した後、フィルムを走行させた状態で塗液を片面にグラビア方式により塗布した。塗液は、テレフタル酸/イソフタル酸/5−ナトリウムスルホイソフタル酸/エチレングリコール/1,4−ブタンジオール=30/15/5/30/20(モル%)で重縮合させた水系ポリエステル系樹脂と、メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸/N−メチロールアクリルアミド=75/22/1/2(重量比)で共重合させた水系アクリル系樹脂と、平均粒子径45nmのコロイダルシリカを、ポリエステル系樹脂/アクリル系樹脂/コロイダルシリカ=50/30/20(重量比)となるように混合し、固形分重量が2重量%となるように水を溶媒として用いたものを用いた。
次にこのフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、110℃で幅方向に4.0倍に延伸し、さらに220℃で熱処理し、150℃で幅方向に4.0%弛緩させて、280m/分の速度で巻き取り、厚さ4.5μmの積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性を表に示す。
【0048】
また、得られた積層フィルムの塗布層(B層)表面にワックスを主成分とする水系耐熱滑性層を設け、塗布層とは反対側の面上に昇華型インクを塗布して昇華型熱転写リボンを作製した。その後、印画性評価を行った。
【0049】
[実施例2]
塗布塗液のコロイダルシリカの平均粒子径80nmに変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0050】
[実施例3]
熱処理温度を205℃に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0051】
[実施例4]
熱処理温度を230℃に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0052】
[実施例5]
150℃で幅方向に8.0%弛緩させるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0053】
[実施例6]
150℃で幅方向に3.0%弛緩させるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0054】
[実施例7]
二酸化ケイ素粒子の含有量を0.015重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0055】
[実施例8]
二酸化ケイ素粒子の含有量を0.06重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0056】
[実施例9]
数平均粒子径1.5μmの二酸化ケイ素粒子の含有量を0.06重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0057】
[実施例10]
数平均粒子径4.5μmの二酸化ケイ素粒子の含有量を0.01重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0058】
[実施例11]
数平均粒子径0.1μmの二酸化ケイ素粒子の含有量を0.3重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0059】
[実施例12]
数平均粒子径5.0μmの二酸化ケイ素粒子の含有量を0.03重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0060】
[参考例1]
ポリエステル系樹脂/アクリル系樹脂/コロイダルシリカ=65/30/5(重量比)となるように混合した塗液を用いたほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0061】
[実施例14、15]
粒子含有量を表2に記載の含有量に変える以外は実施例13と同様にして積層フィルムを得た。次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0062】
[参考例2]
フィルムに添加する粒子を、数平均粒子径が2.2μmの二酸化ケイ素粒子に変えること、塗材に添加する粒子を数平均粒子径が0.1μmとすること、塗材の最終厚みが0.120μmとなるように塗布すること以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0063】
[実施例17]
塗材に添加する粒子含有量を表2に記載の含有量とすること以外は実施例16と同様にして積層フィルムを得た。次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例16と同様の評価を行った。
【0064】
[参考例3]
塗材に添加する粒子を数平均粒子径が0.1μmとすること、塗材の最終厚みが0.180μmとなるように塗布すること以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0065】
[比較例1]
熱処理温度を195℃に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0066】
[比較例2]
熱処理温度を240℃に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0067】
[比較例3]
150℃で幅方向に12.0%弛緩させるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0068】
[比較例4]
150℃で幅方向に1.5%弛緩させるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0069】
[比較例5]
二酸化ケイ素粒子の含有量を0.008重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0070】
[比較例6]
二酸化ケイ素粒子の含有量を0.09重量%に変えるほかは実施例1と同様にして積層フィルムを得、次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0071】
[比較例7]
フィルムに添加する粒子を、数平均粒子径が2.2μmの二酸化ケイ素粒子に変えること、粒子含有量を0.05重量%とすること、塗材に添加する粒子を数平均粒子径が0.1μmとすること、塗材の最終厚みが0.180μmとなるように塗布すること以外は実施例1と同様にして、積層フィルムを得た。次いで昇華型熱転写リボンを作成し、実施例1と同様の評価を行った。
【0072】
【表1】
【0073】
【表1】
【0074】
【表3】
【0075】
なお、表中、Tb(μm)/Da(μm)の項では、指数をEと記載している。例えば、8.8E−0.3は、8.8×10−3を表す。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の積層フィルムは、巻取性、加工特性に優れる。そのため、熱転写リボン、特に昇華型熱転写リボンの基材として用いることで、高光沢な印画物を提供することができる。