(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸価が5〜50mgKOH/g-resinである結晶性酸変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)を含有する自動車構造パネル用接着剤組成物。
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)が、1分子中に2個以上のグリシジル基を有し、かつ窒素原子を含有しないエポキシ樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載の自動車構造パネル用接着剤組成物。
結晶性酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を0.01〜20質量部、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を1〜30質量部、有機溶剤(C)を80〜1000質量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の自動車構造パネル用接着剤組成物。
有機溶剤(C)が、溶剤(C1)と溶剤(C2)の混合液であって、溶剤(C1)が芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素およびハロゲン化炭化水素からなる群より選択された1種以上の溶剤であり、溶剤(C2)がアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、グリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された1種以上の溶剤であり、溶剤(C1)/溶剤(C2)=50〜97/50〜3(質量比)である請求項1〜5のいずれかに記載の自動車構造パネル用接着剤組成物。
請求項1〜7のいずれかに記載の自動車構造パネル用接着剤組成物によって接着された鋼板基材とポリオレフィン樹脂基材の積層構造体部材を構成成分とする自動車構造パネル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記方法では酸変性ポリオレフィン溶液配合後のポットライフ性が不良となる場合があり、またポットライフ性がさほど問題なくとも肝心の金属基材との接着性および耐久性が十分ではなかった。すなわち、ポットライフ性および接着性を満足させるものはなかった。
ここで、ポットライフ性とは、酸変性ポリオレフィンに架橋剤または硬化剤を配合し、その配合直後または一定時間経過後の該溶液の安定性を指す。
【0007】
本発明は、上記の従来の問題に鑑みてなされたものであり、金属基材、特に鋼板基材とポリオレフィン樹脂基材との接着剤につき、本発明者らは鋭意検討した結果、結晶性酸変性ポリオレフィン、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有する接着剤組成物が、ポットライフ性と接着性および耐久性を両立させることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、結晶性酸変性ポリオレフィンと硬化剤とを配合した後のポットライフ性が良好であり、金属基材、特に鋼板とポリオレフィン樹脂基材双方への良好な接着性有する自動車構造パネル用接着剤組成物(以下、単に「接着剤組成物」ともいう)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明者らは鋭意検討し、以下の発明を提案するに至った。
【0010】
酸価が5〜50mgKOH/g-resinである結晶性酸変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)を含有する自動車構造パネルを接合するための構造用接着剤組成物。
【0011】
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)が、1分子中2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0012】
前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)が、一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
(一般式(1)中、Rは置換基を有してもよいアリール基であり、A1およびA2はそれぞれ独立して炭素数1〜5の置換基を有してもよいアルキレン基であり、mは1または2であり、nは1または2である。)
【0013】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)が、1分子中に2個以上のグリシジル基を有し、かつ窒素原子を含有しないエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0014】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を0.01〜20質量部、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を1〜30質量部、有機溶剤(C)を80〜1000質量部含有することが好ましい。
【0015】
有機溶剤(C)が、溶剤(C1)と溶剤(C2)の混合液であって、溶剤(C1)が芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素およびハロゲン化炭化水素からなる群より選択された1種以上の溶剤であり、溶剤(C2)がアルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、グリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された1種以上の溶剤であり、溶剤(C1)/溶剤(C2)=50〜97/50〜3(質量比)であることが好ましい。
【0016】
金属基材、特に鋼板基材とポリオレフィン樹脂基材との接着に用いられる前記いずれかに記載の自動車構造パネルを接合するための構造用接着剤組成物。
【0017】
前記いずれかに記載の接着剤組成物によって接着された金属機材、特に鋼板基材とポリオレフィン樹脂基材構造積層体部材。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる自動車構造パネル用接着剤組成物は、結晶性酸変性ポリオレフィン、2種類のエポキシ樹脂および有機溶剤を含有し、長期間保存しても増粘やゲル化を生じることなく良好なポットライフ性を維持し、作業性が良好である。さらに金属基材、特に鋼板とポリオレフィン樹脂基材との良好な接着性および耐久性に優れているので、自動車構造パネル(例えば、鋼板およびポリオレフィン樹脂基材)からそれぞれ構成された自動車構造パネルの接合に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の自動車構造パネル用接着剤組成物は、自動車構造パネル、例えば、鋼板から構成された自動車構造パネルと、有機繊維および無機繊維で補強されたポリオレフィン樹脂板から構成された自動車構造パネルとを接合するために好適に使用される。
【0020】
本発明における自動車構造パネルとしては、例えば、自動車のピラー、ルーフレール、シルなどの閉断面構造を有する構造部材を構成するアウターパネル、インナーパネルなどが挙げられる。
【0021】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
<結晶性酸変性ポリオレフィン(A)>
本発明で用いる結晶性酸変性ポリオレフィン(A)は限定的ではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン及びプロピレン−α−オレフィン共重合体の少なくとも1種に、α,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種をグラフトすることにより得られるものが好ましい。
【0023】
プロピレン−α−オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα−オレフィンを共重合したものである。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いるこができる。これらのα−オレフィンの中では、エチレン、1−ブテンが好ましい。プロピレン−α−オレフィン共重合体のプロピレン成分とα−オレフィン成分との比率は限定されないが、プロピレン成分が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましい。
【0024】
α,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。具体的には、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体、無水マレイン酸変性プロピレン−エチレン−ブテン共重合体等が挙げられ、これら酸変性ポリオレフィンを1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A)の酸価は、ポットライフ性およびポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着性の観点から、下限は5mgKOH/g-resin以上である必要があり、好ましくは10mgKOH/g-resin以上であり、より好ましくは14mgKOH/g-resin以上であり、さらに好ましくは16mgKOH/g-resin以上であり、特に好ましくは18mgKOH/g-resin以上であり、最も好ましくは20mgKOH/g-resin以上である。前記の値未満であると、エポキシ樹脂との相溶性が低く、接着強度が発現しないことがあり、また架橋密度が低く、接着性が乏しい場合がある。上限は50mgKOH/g-resin以下である必要があり、好ましくは48mgKOH/g-resin以下であり、より好ましくは46mgKOH/g-resin以下であり、さらに好ましくは44mgKOH/g-resin以下であり、特に好ましくは42mgKOH/g-resin以下であり、最も好ましくは40mgKOH/g-resin以下である。前記の値を超えると、溶液の粘度や安定性が低下し、ポットライフ性が低下することがある。さらに製造効率も低下するため好ましくない。酸価は、α,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種の付加量によりコントロールすることができる。
【0026】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A)の重量平均分子量(Mw)は、40,000〜180,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは50,000〜160,000の範囲であり、さらに好ましくは60,000〜150,000の範囲であり、特に好ましくは70,000〜140,000の範囲であり、最も好ましくは、80,000〜130,000の範囲である。前記の値未満であると、凝集力が弱くなり接着性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。前記範囲内であれば、エポキシ樹脂との効果反応が活かされるため好ましい。
【0027】
本発明でいう結晶性酸変性ポリオレフィン(A)とは、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、−100℃〜250℃ まで20℃/分で昇温し、該昇温過程に明確な融解ピークを示すものを指す。
【0028】
酸変性ポリオレフィンを結晶性とすることで、非晶性に比べ、凝集力が強く、接着性に優れるため有利である。
【0029】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A)の融点(Tm)は、50℃〜120℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは60℃〜100℃の範囲であり、最も好ましくは70℃〜90℃の範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0030】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A)の融解熱(ΔH)は、5J/g〜60J/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは10J/g〜50J/gの範囲であり、最も好ましくは20J/g〜40J/gの範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0031】
結晶性酸変性ポリオレフィン(A)の製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(すなわち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点として不飽和カルボン酸および酸無水物をグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0032】
ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ−tert−ブチルパーオキシフタレート、tert−ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等のアゾニトリル類等が挙げられる。
【0033】
<グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)>
本発明に用いるグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、1分子中に1個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。エポキシ樹脂1分子中に2個以上のグリシジル基を有することが好ましく、エポキシ樹脂1分子中に3個以上のグリシジル基を有することがより好ましく、エポキシ樹脂1分子中に4個以上のグリシジル基を有することがさらに好ましい。
【0034】
また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、下記一般式(1)で表される化合物を用いることで、さらに接着性が向上し、好ましい。
【化1】
一般式(1)中、Rは置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは置換基を有してもよいフェニル基である。前記アリール基の置換基としては、特に限定されないが、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、水酸基、アミノ基、グリシジル基、グリシジルアミノ基、またはグリシジルエーテル基が挙げられる。A1およびA2はそれぞれ独立して炭素数1以上5以下の置換基を有してもよい直鎖のアルキレン基であり、好ましい炭素数は4以下であり、より好ましくは3以下であり、さらに好ましくは2以下である。前記アルキレン基の置換基としては、特に限定されないが、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、またはアミノ基が挙げられる。mは1または2であり、nは1または2である。好ましくはmまたはnのいずれかが2であり、より好ましくはm、nとも2である。
【0035】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)の具体例としては、特に限定されないが、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン等のグリシジルアミン系などが挙げられる。中でもN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミンが好ましい。これらグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0036】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)の配合量は、結晶性酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましく、1質量部以上であることが特に好ましく、2質量部以上であることが最も好ましい。また、20質量部以下であることが好ましく、18質量部以下であることがより好ましく、16質量部以下であることがさらに好ましく、14質量部以下であることが特に好ましく、12質量部以下であることが最も好ましい。前記範囲未満であると触媒作用が発現せず、接着性が低い場合がある。前記範囲超では、過度に架橋反応が進行し剛直性が高くなり、接着性が低下する傾向にある。また、接着剤組成物の溶液保存中に架橋反応が進み易く、ポットライフが低下する傾向にある。
【0037】
<グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)>
本発明に用いるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)は、分子内にグリシジルエーテル基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。好ましくはエポキシ樹脂1分子中に2個以上のグリシジル基を有するエポキシ樹脂であり、さらに好ましくはエポキシ樹脂1分子中に2個以上のグリシジル基を有し、かつ窒素原子を含有しないエポキシ樹脂である。
【0038】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の配合量は、結晶性酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、4質量部以上であることが特に好ましく、5質量部以上であることが最も好ましい。また、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、18質量部以下であることがさらに好ましく、15質量部以下であることが特に好ましく、12質量部以下であることが最も好ましい。前記範囲にすることで、優れた接着性を発現することができる。
【0039】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の具体例としては、特に限定されないが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられ、こられが金属基材との接着性および耐久性という観点から好ましい。これらグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0040】
本発明では、前記グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)と前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の2種類のエポキシ樹脂を必須成分として併用することを特徴とする。グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を併用することによって、優れた接着性を発現することができる。すなわち、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、結晶性酸変性ポリオレフィン(A)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)との反応、硬化作用を有する。さらにグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)は、結晶性酸変性ポリオレフィン(A)とグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)同士、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)同士、およびグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の反応、硬化触媒作用を有することから、配合することで硬化性、接着性を向上することができる。
【0041】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)の合計の配合量は、結晶性酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、2〜30質量部であることが好ましく、5〜20質量部であることがより好ましく、10〜16質量部であることが最も好ましい。前記範囲未満では十分な硬化効果が得られず接着性が低い場合があり、前期範囲超では、ポットライフ性とオレフィン基材との接着性低下、コスト面の観点から好ましくない。
【0042】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)の配合量はエポキシ樹脂全体の1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることが最も好ましい。配合量が前記未満であると触媒作用が発現せず、十分な硬化に必要な焼付時間が長くなる場合があり、前記超になると、過度に架橋反応が進行し剛直性が高くなり、接着性が低下する傾向にある。また、接着剤組成物の溶液保存中に架橋反応が進み易く、ポットライフが低下する傾向にある。
【0043】
本発明に用いるエポキシ樹脂として、その他のエポキシ樹脂も併用することが出来る。例えば、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、トリグリシジルイソシアヌレート、あるいは3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイド等が挙げられ、一種単独で用いても二種以上を併用しても構わない。
【0044】
<有機溶剤(C)>
本発明で用いる有機溶剤(C)は、結晶性酸変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)およびグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を溶解させるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素、トリクロルエチレン、ジクロルエチレン、クロルベンゼン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶剤、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のセルソルブ類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノ−n -ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−i s o -ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t e r t - ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n -ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i s o -ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n -ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノ−n -ブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤等を使用することができ、これら1種または2種以上を併用することができる。
【0045】
有機溶剤(C)は、結晶性酸変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることがさらに好ましく、110質量部以上であることが特に好ましい。また、1000質量部以下であることが好ましく、900質量部以下であることがより好ましく、800質量部以下であることがさらに好ましく、700質量部以下であることが特に好ましい。前記範囲未満では、溶液状態およびポットライフ性が低下することがあり、前記範囲を超えると製造コスト、輸送コストの面から不利となる場合がある。
【0046】
有機溶剤(C)は、接着剤組成物の溶液状態およびポットライフ性の観点から、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素およびハロゲン化炭化水素からなる群より選択された1種以上の溶剤(C1)、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤およびグリコールエーテル系溶剤からなる群より選択された1種以上の溶剤(C2)の混合液が好ましい。混合比としては、溶剤(C1)/溶剤(C2)=50〜97/50〜3(質量比)であることが好ましく、55〜95/45〜5(質量比)であることがより好ましく、60〜90/40〜10(質量比)であることがさらに好ましく、70〜80/30〜20(質量比)であることが特に好ましい。上記範囲を外れると接着剤組成物の溶液状態およびポットライフ性が低下することがある。また、溶剤(C1)が芳香族炭化水素または脂環族炭化水素であり、溶剤(C2)がケトン系溶媒であることが特に好ましい。
【0047】
<自動車構造パネル用接着剤組成物>
本発明にかかる自動車構造パネル用接着剤組成物は、前記結晶性酸変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)の混合物である。結晶性酸変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)およびグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)は有機溶剤(C)に溶解しても良いし、分散しても良い。ポットライフ性の観点から溶解していることが好ましい。
【0048】
本発明にかかる自動車構造パネル用接着剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で前記結晶性酸変性ポリオレフィン(A)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)および有機溶剤(C)の他に各種の添加剤を配合して使用することができる。添加剤としては、特に限定されないが、難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤等を使用することが好ましい。
【0049】
<積層構造体部材>
本発明の積層構造体部材は、金属基材とポリオレフィン樹脂基材とを本発明にかかる接着剤組成物で積層した自動車構造パネル用の部材である。
【0050】
積層する方法としては、従来公知の接着技術を利用することができる。例えば、特に限定されないが、金属基材の表面に接着剤組成物をロールコータやバーコータ等の適当な塗布手段を用いて塗布し、乾燥させる。乾燥後、金属基材表面に形成された接着剤層とポリオレフィン樹脂板を重ね合わせ加熱圧着することで、接着剤層を溶融し接着することで、積層構造体部材を得ることができる。
前記接着剤組成物により形成される接着剤層の厚みは、特に限定されないが、0.5〜40μmにすることが好ましく、1〜30μmにすることがより好ましく、1〜20μmにすることがさらに好ましい。
【0051】
<金属基材>
本発明における自動車構造パネルを構成する材料のうち、金属基材としては、例えば、鋼板、メッキ鋼板(例えば、亜鉛メッキ鋼板、亜鉛−ニッケル鋼板)などが挙げられる。
また、これら金属基材の表面を予め表面処理を施しておいてもよいし、未処理のままでもよい。いずれの場合であっても同等の効果を発揮することができる。
【0052】
<ポリオレフィン樹脂基材>
ポリオレフィン樹脂基材としては特に限定されないが、有機繊維、無機繊維、または無機粒子などのフィラーで補強されたフィラー補強ポリオレフィン樹脂が挙げられる。フィラーとしては、例えば、炭素繊維強化、ガラス繊維、アラミド繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、クレイ粘土などが挙げられるが、特に構造部材として必要な剛性、強度の観点から炭素繊維が好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよい。
【0053】
フィラー補強ポリオレフィン樹脂基材の製造方法としては、フィラーとポリオレフィン樹脂を二軸押出機で溶融紺練し、射出成形する方法、フィラーチョップドストランドマットにポリオレフィン樹脂を含浸して得られるプリプレグシートを重ね合わせて成形する方法など一般的に知られている方法を利用することができる。構造部材に必要な剛性、強度確保の観点からプリプレグシート成形法がより望ましい。
【0054】
またフィラー補強ポリオレフィン樹脂基材に用いられるポリオレフィン樹脂には、フィラーとポリオレフィン樹脂の相溶性、密着性をあげるために変性したものとを用いることが望ましく、変性ポリオレフィンを単独使用しても、ポリオレフィン樹脂と併用してもよい。
【0055】
<自動車構造パネル>
本発明の自動車構造パネルとは、積層構造体部材を構成成分として含むものであり、特に限定されないが、例えば、自動車のピラー、ルーフレール、シルなどの閉断面構造を有する構造部材を構成するアウターパネル、インナーパネルなどが挙げられる。
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。実施例中および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。
【0057】
製造例1
1Lオートクレーブに、プロピレン−ブテン共重合体(三井化学社製「タフマー(登録商標)XM7080」)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸25質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイド6質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン−ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−1、酸価48mgKOH/g-resin、重量平均分子量50,000、Tm75℃、△H25J/g)を得た。
【0058】
製造例2
無水マレイン酸の仕込み量を20質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−2、酸価25mgKOH/g-resin、重量平均分子量80,000、Tm75℃、△H30J/g)を得た。
【0059】
製造例3
無水マレイン酸の仕込み量を3質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイドを0.5質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−3、酸価5mgKOH/g-resin、重量平均分子量180,000、Tm80℃、△H25J/g)を得た。
【0060】
製造例4
無水マレイン酸の仕込み量を30質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−4、酸価55mgKOH/g-resin、重量平均分子量40,000、Tm70℃、△H25J/g)を得た。
【0061】
製造例5
無水マレイン酸の仕込み量を2質量部、ジ−tert−ブチルパーオキサイドを0.5質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−5、酸価3mgKOH/g-resin、重量平均分子量200,000、Tm80℃、△H25J/g)を得た。
【0062】
(主剤1の作製)
水冷還流凝縮器と撹拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン−ブテン共重合体(PO−1)を100質量部、メチルシクロヘキサンを280質量部およびメチルエチルケトンを120質量部仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温し、撹拌を1時間続けることで主剤1を得た。溶液状態を表1に示す。
【0063】
(主剤2〜12の作製)
結晶性酸変性ポリオレフィンおよび有機溶剤を表1に示すとおりに変更し、主剤1と同様な方法で主剤2〜12を作製した。配合量、溶液状態を表1に示す。
【0065】
実施例1
主剤1を500質量部、硬化剤としてグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂を19.8質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)であるTETRAD(登録商標)−Xを0.2質量部配合し、接着剤組成物を得た。ポットライフ性、接着性の評価結果を表2に示す。
【0066】
実施例2〜17、比較例1〜6
主剤2〜12および各硬化剤を表2、3に示すとおりに変更し、実施例1と同様な方法で実施例2〜17、比較例1〜6を行った。配合量、ポットライフ性、接着性評価結果を表2、3に示す。
【0069】
表2、3で用いた硬化剤は以下のものである。
<グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)>
N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン:TETRAD(登録商標)−X(三菱ガス化学社製)
<グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)>
フェノールノボラック型エポキシ樹脂:jER(登録商標)152(三菱化学社製)
o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:YDCN−700−3(新日鉄住金化学社製)
<その他の硬化剤>
ポリイソシアネート:デュラネート(登録商標)TPA−100(旭化成社製)
シランカップリング剤:KBM−403(信越シリコーン社製)
【0070】
上記のようにして得られた各結晶性酸変性ポリオレフィン、主剤および接着剤組成物に対して下記方法に基づいて分析測定および評価を行った。
酸価の測定
本発明における酸価(mgKOH/g-resin)は、FT−IR(島津製作所社製、FT−IR8200PC)を使用して、無水マレイン酸(東京化成製)のクロロホルム溶液によって作成した検量線から得られる係数(f) 結晶性無水マレイン酸変性ポリオレフィン溶液における無水マレイン酸のカルボニル(C=O)結合の伸縮ピーク(1780cm−1)の吸光度(I)を用いて下記式により算出した値である。
酸価(mgKOH/g−resin)=
[吸光度(I)×(f)×2×水酸化カリウムの分子量×1000(mg)//無水マレイン酸の分子量]
無水マレイン酸の分子量:98.06 水酸化カリウムの分子量:56.11
【0071】
重量平均分子量(Mw)の測定
本発明における重量平均分子量は日本ウォーターズ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフAlliance e2695(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-806 + KF-803、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長254nm = 紫外線))によって測定した値である。
【0072】
融点、融解熱量の測定
本発明における融点、融解熱量は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q−2000)を用いて、20℃/分の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度および面積から測定した値である。
【0073】
主剤溶液状態の評価
主剤1〜12の溶液状態について、東機産業社製のブルックフィールド型粘度計TVB−10M(以下、B型粘度計)を用いて25℃の溶液粘度を測定することで評価した。
<評価基準>
○(実用上優れる):500mPa・s未満
△(実用可能):500mPa・s以上1000mPa・s未満
×(実用不可能):1000mPa・s以上またはゲル化により粘度測定不可
【0074】
ポットライフ性の評価
ポットライフ性とは、結晶性酸変性ポリオレフィンに架橋剤または硬化剤を配合し、その配合直後または配合後一定時間経過後の該溶液の安定性を指す。ポットライフ性が良好な場合は、溶液の粘度上昇が少なく長期間保存が可能であることを指し、ポットライフ性が不良な場合は、溶液の粘度が上昇(増粘)し、ひどい場合にはゲル化現象を起こし、基材への塗布が困難となり、長期間保存が不可能であることを指す。
実施例1〜17および比較例1〜6で得られた接着剤組成物のポットライフ性を、25℃および40℃雰囲気で24時間貯蔵した後に、B型粘度計を用いて25℃の溶液粘度を測定することで評価した。
<評価基準>
○(実用上優れる):500mPa・s未満
△(実用可能):500mPa・s以上1000mPa・s未満
×(実用不可能):1000mPa・s以上またはゲル化により粘度測定不可
【0075】
金属基材とポリオレフィン樹脂基材との異種接合体(ハット型チャンネル異種接合体)の作製
金属基材には780MPaハイテン高張力鋼板で、厚さ2mmのハット型チャンネルを使用し、ポリオレフィン樹脂基材には炭素繊維強化ポリオレフィン樹脂板で、厚さ2mmのハット型チャンネルを使用した。
実施例1〜17および比較例1〜6で得られた接着剤組成物をトルエンで表面脱脂した金属基材ブランジ部にバーコータを用いて乾燥後の接着剤層の膜厚が20μmになるように調整して塗布した。温風乾燥機にて110℃雰囲気で1分間乾燥させた後に、接着剤層表面にポリオレフィン樹脂基材ブランジ部を重ね合わせ押圧し、110℃、1時間の条件にて硬化させ、ハット型チャンネル異種接合体を得た。
【0076】
上記のようにして得られたハット型チャンネル異種接合体に対して、下記方法にて接着性の評価を行った。
【0077】
接着性の評価
前記異種接合体を、オートグラフ精密万能試験機(島津製作所製、AGX−100kN)を用いて、25℃環境下で、曲げ速度50mm/分の速度で曲げ試験を行い、最大荷重(kN)を測定することで接着性の評価を行った。評価結果を表2、3に示す。また最大荷重値は5回測定の平均値とした。
【0078】
<評価基準>
☆(実用上特に優れる):12kN以上
◎(実用上優れる):10kN以上12kN未満
○(実用可能):8kN以上10kN未満
×(実用不可能):8kN未満