特許第6725064号(P6725064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725064
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】軸受構造および電動コンプレッサ
(51)【国際特許分類】
   F16C 35/077 20060101AFI20200706BHJP
   F16C 27/06 20060101ALI20200706BHJP
   F02B 39/00 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   F16C35/077
   F16C27/06 B
   F02B39/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-509808(P2019-509808)
(86)(22)【出願日】2018年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2018012150
(87)【国際公開番号】WO2018181186
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-71204(P2017-71204)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 国彰
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 達身
(72)【発明者】
【氏名】小篠 拓也
(72)【発明者】
【氏名】飯嶋 海
(72)【発明者】
【氏名】湯本 良介
(72)【発明者】
【氏名】森 孝志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕司
【審査官】 古▲瀬▼ 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−148429(JP,A)
【文献】 特開2013−228108(JP,A)
【文献】 特開2005−321006(JP,A)
【文献】 特開2014−43834(JP,A)
【文献】 特開2009−190141(JP,A)
【文献】 特開2005−186240(JP,A)
【文献】 特開平9−89045(JP,A)
【文献】 特開平7−19241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/00−39/06
F16C 43/00−43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に収容された回転体の回転軸を前記ハウジングに対して支持するための軸受構造であって、
前記回転軸と、
前記ハウジング内に取り付けられ、前記ハウジングに対して前記回転軸を支持する軸受であって、前記回転軸が挿通される内輪と、前記ハウジングの内壁面に対面する外周面に形成された環状の溝部を含む外輪と、を有する軸受と、
前記軸受の前記外輪の前記溝部に配置され、前記外周面よりも径方向の外側に突出して前記ハウジングの前記内壁面に当接するOリングと、を備え、
前記Oリングは、前記外輪の前記溝部と前記ハウジングの前記内壁面との間に挟まれて圧縮されており、
前記ハウジングの前記内壁面と前記軸受の前記外周面との間にはクリアランスが形成されており、前記クリアランスは、圧縮された前記Oリングのばね定数と前記回転軸に作用する荷重とに基づいて算出される前記Oリングの前記径方向の変位量よりも大きい、軸受構造。
【請求項2】
前記ハウジングの前記内壁面、前記軸受および前記Oリングは、前記ハウジングの前記内壁面と前記Oリングとの間の摩擦力が前記回転体の回転力よりも大きくなるように構成されている、請求項1に記載の軸受構造。
【請求項3】
前記ハウジングと、
前記回転軸の端部に取り付けられて前記回転体の一部をなすコンプレッサインペラと、
前記回転軸を前記ハウジングに対して支持するための請求項1または2に記載の軸受構造と、を備える、電動コンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受構造および電動コンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1,2に記載された軸受構造が知られている。特許文献1に記載された軸受構造は、ファンモータの軸を支持する軸受を備えている。軸受の外輪の溝には、Oリングが装着されている。Oリングはハウジングと接触している。2本のOリングの間には粘性流体が充填されている。特許文献2に記載された軸受構造は、駆動軸を支持する軸受を備えている。軸受の外輪の溝には、Oリングが装着されている。外輪の外径面には、高粘度油が塗布されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-120669号公報
【特許文献2】特開2007-211865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された軸受構造では、Oリングが装着された軸受をハウジングに組み込む際の軸受の挿入力が小さくなるように、Oリングのつぶし代が設定される。この挿入力は、Oリングのつぶし代によって生じるラジアル方向の力と摩擦係数とによって決まる。つまり、ラジアル方向の力を小さくすることで、挿入力が小さくなる。その結果、軸受の組み込み時の作業性が良くなる。特許文献2に記載された軸受構造では、ハウジングの内径面と外輪の外径面との間の摩擦係数が小さくなり、それによって外輪がハウジングの内径面に沿って転がろうとするクリープが防止される。
【0005】
上記した従来の技術では、回転体の振動が軸受を介してハウジングに伝達されることを確実に防止できないおそれがある。たとえば、振動に起因して軸受の外輪がハウジングに接触してしまうと、振動はより大きく伝達されてしまう。本開示は、軸受を介して振動がハウジングに伝達されることを確実に防止できる軸受構造を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、ハウジング内に収容された回転体の回転軸をハウジングに対して支持するための軸受構造であって、回転軸と、ハウジング内に取り付けられ、ハウジングに対して回転軸を支持する軸受であって、回転軸が挿通される内輪と、ハウジングの内壁面に対面する外周面に形成された環状の溝部を含む外輪と、を有する軸受と、軸受の外輪の溝部に配置され、外周面よりも径方向の外側に突出してハウジングの内壁面に当接するOリングと、を備え、Oリングは、外輪の溝部とハウジングの内壁面との間に挟まれて圧縮されており、ハウジングの内壁面と軸受の外周面との間にはクリアランスが形成されており、クリアランスは、圧縮されたOリングのばね定数と回転軸に作用する荷重とに基づいて算出されるOリングの径方向の変位量よりも大きい。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、軸受を介して振動がハウジングに伝達されることを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る電動コンプレッサを示す断面図である。
図2図2は、図1中の軸受構造の一部を拡大して示す断面図である。
図3図3(a)はOリングのつぶし代とOリング反力との関係を示す図、図3(b)はクリアランスとOリングのつぶし代との関係を示す図である。
図4図4(a)はクリアランスとOリング反力との関係を示す図、図4(b)はクリアランスとOリングのばね定数との関係を示す図である。
図5図5は、クリアランスと荷重変位量との関係を示す図である。
図6図6(a)はOリングに外輪の回り止め機能を生じさせ得るクリアランスの範囲を示す図、図6(b)は振動の伝達を確実に防止し得るクリアランスの範囲を示す図である。
図7図7は、図6(a)および図6(b)を重ね合わせた図であり、振動の伝達防止と外輪の回り止めとを両立させ得るクリアランスの範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様は、ハウジング内に収容された回転体の回転軸をハウジングに対して支持するための軸受構造であって、回転軸と、ハウジング内に取り付けられ、ハウジングに対して回転軸を支持する軸受であって、回転軸が挿通される内輪と、ハウジングの内壁面に対面する外周面に形成された環状の溝部を含む外輪と、を有する軸受と、軸受の外輪の溝部に配置され、外周面よりも径方向の外側に突出してハウジングの内壁面に当接するOリングと、を備え、ハウジングの内壁面と軸受の外周面との間にはクリアランスが形成されており、クリアランスは、Oリングの径方向の変位量よりも大きい。
【0010】
この軸受構造によれば、回転体の回転軸は、軸受構造によって支持される。軸受の外輪とハウジングの内壁面との間に設けられたOリングは、ばねと同様の働きをする。回転体が回転すると、回転体の質量とOリングのばね定数とに基づいて径方向の変位量が決まる。ハウジングの内壁面と軸受の外周面との間に形成されたクリアランスは、Oリングの径方向の変位量よりも大きいので、軸受の外輪がハウジングに接触することが防止される。この軸受構造によれば、軸受を介して振動がハウジングに伝達されることを確実に防止できる。
【0011】
いくつかの態様において、ハウジングの内壁面、軸受およびOリングは、ハウジングの内壁面とOリングとの間の摩擦力が回転体の回転力よりも大きくなるように構成されている。この場合、回転体が回転した場合に、軸受の外輪が回転することを抑制できる。
【0012】
本開示の別の態様に係る電動コンプレッサは、ハウジングと、回転軸の端部に取り付けられて回転体の一部をなすコンプレッサインペラと、回転軸をハウジングに対して支持するための請求項1または2に記載の軸受構造と、を備える。この電動コンプレッサによれば、コンプレッサインペラを含む回転体が回転した場合に、軸受の外輪がハウジングに接触することが防止される。よって、軸受を介して振動がハウジングに伝達されることを確実に防止でき、その結果として、電動コンプレッサにおける振動や騒音の発生を抑制できる。
【0013】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。以下の説明において、「軸方向」または「径方向」という場合、回転軸12が基準とされる。
【0014】
図1を参照して、一実施形態に係る電動コンプレッサについて説明する。電動コンプレッサ1は、たとえば車両や船舶の内燃機関に適用されるものである。電動コンプレッサ1は、コンプレッサ7を備えている。電動コンプレッサ1は、ロータ部13およびステータ部14の相互作用によってコンプレッサインペラ8を回転させ、空気等の流体を圧縮し、圧縮空気を発生させる。
【0015】
電動コンプレッサ1は、たとえば車両や船舶の内燃機関に適用された過給機(図示せず)に接続されてもよい。その場合、電動コンプレッサ1は、過給機のコンプレッサに対して圧縮空気等の圧縮流体を送る。電動コンプレッサ1と過給機とが組み合わせられることにより、電動コンプレッサ1は、過給機の立ち上げを助ける。
【0016】
電動コンプレッサ1は、ハウジング2内で回転可能に支持された回転軸12と、回転軸12の先端部12aに締結されたコンプレッサインペラ8とを備える。ハウジング2は、ロータ部13およびステータ部14を収納するモータハウジング3と、モータハウジング3の第2端側(図示右側、コンプレッサインペラ8と反対側)の開口を閉鎖する端壁3aとを備える。モータハウジング3の第1端側(図示左側、コンプレッサインペラ8側)には、コンプレッサインペラ8を収納するコンプレッサハウジング6が設けられている。コンプレッサハウジング6は、吸入口9と、スクロール部10と、吐出口11とを含んでいる。端壁3aの外側には、たとえば、ステータ部14に電流を供給するためのインバータ19が設けられてもよい。
【0017】
ロータ部13は、回転軸12の軸方向の中央部に取り付けられており、回転軸12に取り付けられた1または複数の永久磁石(図示せず)を含む。ステータ部14は、ロータ部13を包囲するようにしてモータハウジング3の内面に取り付けられており、コイル部(図示せず)を含む。ステータ部14のコイル部に交流電流が流されると、ロータ部13およびステータ部14の相互作用によって、回転軸12とコンプレッサインペラ8とが一体になって回転軸線Aを中心に回転する。コンプレッサインペラ8が回転すると、コンプレッサ7は、吸入口9を通じて外部の空気を吸入し、スクロール部10を通じて空気を圧縮し、圧縮空気を吐出口11から吐出する。吐出口11から吐出された圧縮空気は、前述の内燃機関に供給される。
【0018】
電動コンプレッサ1は、ハウジング2に対して回転軸12を回転可能に支持する2個の軸受20を備える。軸受20は、ハウジング2のモータハウジング3内に取り付けられている。軸受20は、モータハウジング3に対して、回転軸12を両持ちで支持している。第1の軸受20は、モータハウジング3のコンプレッサインペラ8側に形成されたスリーブ部17に設けられている。第2の軸受20は、端壁3aから軸方向(コンプレッサインペラ8側)に突出するスリーブ部18に設けられている。例えば回転軸12の先端部12aに設けられた軸端ナット16によって、コンプレッサインペラ8は回転軸12に取り付けられている。
【0019】
回転軸12と、回転軸12に固定されたコンプレッサインペラ8、ロータ部13および軸受20とは、ハウジング2内で一体となって回転体Cを構成している。回転軸12、コンプレッサインペラ8、ロータ部13および軸受20は、それぞれ、回転体Cの一部をなす。回転体Cは、モータハウジング3内に収容された状態で、軸方向の一方に付勢されている。スリーブ部17の円環状の壁面17b(図2参照)が軸受20の軸方向の端面に対面および当接しており、これにより、軸方向における回転体Cの位置決めがなされている。
【0020】
本実施形態の電動コンプレッサ1では、回転体Cの回転に起因して生じ得る振動の抑制が図られている。より詳しくは、ハウジング2に対する回転体Cの振動の伝達が防止されており、その結果として、電動コンプレッサ1の振動が抑制されている。振動の伝達を防止するため、電動コンプレッサ1は、上記した軸受20を含む軸受構造を備える。回転軸12に対して軸方向の2箇所に設けられた軸受構造は、同様の構成を備える。各軸受構造は、モータハウジング3に対して回転体Cの回転軸12を支持する。
【0021】
以下、第1端側に設けられた第1の軸受20および軸受構造について説明する。第2端側に設けられた第2の軸受20および軸受構造についての説明は省略される。スリーブ部18に対する第2の軸受20の配置は、スリーブ部17に対する第1の軸受20の配置と同じであってもよい。
【0022】
軸受20は、たとえば、玉軸受である。より詳細には、軸受20は、たとえば、グリース潤滑式のラジアル軸受である。軸受20は、深溝軸受であってもよく、アンギュラ軸受であってもよい。
【0023】
図2に示されるように、軸受20は、回転軸12が挿通された内輪21と、複数の玉23を介して内輪21に対して相対回転可能な外輪22とを含んでいる。内輪21は、たとえば、回転軸12に圧入されている。内輪21の内周面21aは、回転軸12の外周面12bに当接している。内輪21のコンプレッサインペラ8側の端面は、コンプレッサインペラ8のボス部8aにおける回転軸線Aに垂直な端面に当接してもよい。
【0024】
上記したモータハウジング3のスリーブ部17は、径方向の内方を向く円筒状の内周面(内壁面)17aを含む。スリーブ部17は、外輪22を支える。外輪22は、スリーブ部17の内周面17aに対面する外周面22aと、外周面22aに形成された2つの円環状の溝部22cとを含む。外輪22の外周面22aの直径は、スリーブ部17の内周面17aよりも小さい。スリーブ部17の内周面17aと外輪22の外周面22aとの間には、たとえば円筒状のクリアランスBが形成されている。外輪22のコンプレッサインペラ8側の端面は、コンプレッサインペラ8のボス部8aの外周側に配置された環状部における回転軸線Aに垂直な壁面17bに当接してもよい。なお、クリアランスBの形状は、電動コンプレッサ1の運転時、回転体Cの変位に応じて変化し得る。
【0025】
2つの溝部22cは、軸方向に離間するように形成されている。各溝部22cは、外周面22aに連続しており、径方向の外方に向けて開放している。各溝部22cには、円環状のOリング30が配置されている。Oリング30は、外輪22に直接に嵌め込まれている。Oリング30は、弾性材料からなる。Oリング30は、たとえばゴム製である。溝部22cに嵌め込まれたOリング30の内周面は溝部22cの底面に当接している。Oリング30の外周側の一部は、外周面22aよりも径方向の外側に突出している。Oリング30のうち回転軸線Aからもっとも遠い円環状の外周端面は、スリーブ部17の内周面17aに当接している。
【0026】
Oリング30は、軸受20とスリーブ部17との間に配置される前の自然状態(何も外力を受けない状態)において、たとえば円形の断面を有する。軸受20の溝部22cとスリーブ部17の内周面17aとに挟まれたOリング30は、圧縮されている(つぶれている)。圧縮されたOリング30は、たとえば非円形の断面を有する。上記したクリアランスBの大きさは、Oリング30の断面の直径(線径)と、Oリング30のつぶし代と、つぶされたOリング30のばね特性とを考慮して設定されている。クリアランスBの大きさは、これらの要素に限られず、たとえばOリング30の硬度(硬さ)を考慮して設定されてもよい。なお、「つぶし代」との用語は、「つぶし量」または「つぶし率」と同じ概念である。「つぶし」との用語は、「圧縮」と同じ概念である。
【0027】
図3図7を参照して、クリアランスBの大きさの考え方について説明する。まず図3(a)に示されるように、Oリング30の3種類の線径を考えた場合、同じつぶし代でも、線径、内径、硬度によって反力は異なる。図3(a)に示される各曲線の接線Lの傾きは、Oリング30のばね定数である。
【0028】
この関係は、以下の式(1)で表される。
【数1】
ここで、
F:Oリング30の反力
x:Oリング30のつぶし代
a,b,c:Oリング30の線径1mmの時の係数(ただし、材料および/または硬度等により係数は異なる)
D:Oリング30の線径
d0:Oリング30の直径
κ:係数
である。
【0029】
ここで、Oリング30のつぶし代xは、図2に示される寸法関係から、以下の式(2)で表される。
【数2】
ここで、
X:溝部22cの底面の直径
Y:スリーブ部17の内径
である。
【0030】
クリアランスBの径方向の大きさδも、図2に示される寸法関係から、以下の式(3)で表される。
【数3】
ここで、
Z:外輪22の外径(外周面22aの直径)
である。
【0031】
式(2)および式(3)より、クリアランスBの径方向の大きさδとOリング30のつぶし代xの関係は、以下の式(4)で表される。
【数4】
ここで、溝部22cの座面の直径X、Oリング30の線径Dおよび外輪22の外径Zが、決まった値の場合、式(4)は、図3(b)のように表される。なお、図2では、図を参照して構造が想像されやすいように、圧縮された状態のOリング30に対して線径Dが示されているが、これは厳密には正確ではない。線径Dは、自然状態におけるOリング30の線状部分の直径である。また、寸法X,Y,およびZは、それぞれ、回転軸線Aを基準とする直径である。
【0032】
図3(b)に示されるように、クリアランスBの径方向の大きさδが大きくなると、Oリング30のつぶし代xは小さくなる。また、図3(a)の関係と図3(b)の関係に基づけば、図4(a)に示されるように、クリアランスBの径方向の大きさδが大きくなると、Oリング30のばね力は小さくなる。さらに、Oリング30とスリーブ部17の内周面17aとの間の摩擦力Frは、Oリング30の摩擦係数μと回転軸12のOリング30のばね力Fによる抗力との積である。したがって、ばね力Fが小さくなると、摩擦力Frも小さくなる。
【0033】
一方、回転軸12の回転により軸受20の内輪21と外輪22との境界部に生じる回転方向の摩擦トルクTを外輪22の外周面22aの回転軸線Aを基準とする半径Rで除した値を回転力Ftとする。この摩擦トルクTは回転軸12の回転数の他、グリースの粘性ν、転動体ころがり摩擦等によって変化し得る。
【0034】
ここで、外輪22(およびOリング30)が回転しないための条件は、摩擦力Frが、回転力Ftよりも大きいことである。つまり、以下の式(5)の成立が第1条件となる。
【数5】
モータハウジング3のスリーブ部17の内周面17a、軸受20およびOリング30は、その内周面17aとOリング30との間の摩擦力Frが回転体Cの回転力Ftよりも大きくなるように構成されている。図6(a)において、1.0以上となるクリアランス範囲の時、外輪22の連れ周り現象は防止される。
【0035】
一方、ばね定数Kは、式(1)の傾き(すなわち式(1)の微分)であるので、以下の式(6)が成り立つ。
【数6】
【0036】
ここで、図3(b)の関係(式(4))から、クリアランスBの径方向の大きさδが大きくなると、Oリング30のつぶし代xが小さくなる。また、式(6)より、Oリング30のつぶし代xが小さくなると、ばね定数Kは小さくなる。従って、図4(b)に示されるように、クリアランスB(大きさδ)が大きくなると、ばね定数Kは小さくなる。
【0037】
変位量rは、M*g*r=1/2*K*rの関係から、以下の式(7)で表される。
【数7】
ここで、
K:Oリング30のばね定数
Mg:軸受20にかかる荷重(軸受20が受けるロータ質量荷重+偏心荷重+振動荷重等)
g:重力加速度
である。
【0038】
式(2)および式(6)を式(7)に代入することにより、以下の式(8)が成り立つ。
【数8】
【0039】
外輪22がスリーブ部17に当たらないための条件は、クリアランスBの径方向の大きさδが、変位量rより大きいことである。したがって、式(3)および式(8)から、以下の式(9)の成立が第2条件となる。
【数9】
【0040】
式(9)より、
【数10】
が成り立てばよい。これは、図6(b)に矢印で示される範囲となる。
【0041】
図4(a)に示されるように、荷重が同じでも、クリアランスBが大きくなるとばね力が小さくなり、それに伴って荷重変位量が大きくなる。図5に示されるように、変位量r(荷重変位量)がクリアランスBの大きさδよりも大きくなった場合は、荷重変位が生じた際、軸受20の外輪22の外周面22aがスリーブ部17の内周面17aに当接してしまう。このことは振動や騒音の原因になり得る。
【0042】
そこで、式(10)に示される関係(第2条件)が成り立っていれば、外輪22の外周面22aはスリーブ部17の内周面17aに当接しないことになる。
【0043】
そして、図6(a)に示されるように、上記第1条件より、Oリング30を外輪22の回り止めとして機能させるためには、クリアランスの範囲は、図中の矢印で示される範囲である必要がある。また、図6(b)に示されるように、上記第2条件より、振動を効果的に抑えるためには、クリアランスの範囲は、図中の矢印で示される範囲である必要がある。
【0044】
図6(a)および図6(b)より、第1条件すなわち外輪22の回り止めと、第2条件すなわち振動抑制を両立するためには、図7において矢印で示される範囲のクリアランスBが設定される。本実施形態では、このように、回転荷重とOリング30にかかる荷重とを考慮して、回り止めと振動抑制が両立する範囲にクリアランスBの大きさδが設定される。これらを両立させている点が本実施形態の特徴である。
【0045】
本実施形態によれば、回転体Cの回転軸12は、軸受構造によって支持される。軸受20の外輪22とモータハウジング3の内周面17aとの間に設けられたOリング30は、半径方向の荷重に対して、ばねと同様の働きをする。回転体Cが回転すると、回転体Cの質量、偏芯荷重、振動等とOリング30のばね定数とに基づいて径方向の変位量が決まる。ハウジング2の内周面17aと軸受20の外周面22aとの間に形成されたクリアランスBは、Oリング30の径方向の変位量よりも大きいので、軸受20の外輪22がスリーブ部17に接触することが防止される。この軸受構造によれば、軸受20を介して振動がハウジング2に伝達されることを確実に防止できる。スリーブ部17には、衝撃荷重が加わることはなく、ダンピングされた荷重が加わる。
【0046】
上記した特許文献では、Oリングのばね力と回転摩擦力が考慮されている文献が見られる。しかし、振動抑制に関して、荷重変位量とクリアランスの関係に着目してOリングのつぶし代を設定する点については何ら開示されていない。本実施形態では、これらの2点に着目してOリング30のつぶし代が設定されており、振動低減と回り止め機能との両立という有利な効果が奏される。
【0047】
ハウジング2の内周面17aとOリング30との間の摩擦力は、回転体Cの回転力よりも大きいので、回転体Cが回転した場合に、軸受20の外輪22が回転することを抑制できる。特に、回転数が急激に上昇し得る電動コンプレッサ1においては、外輪22の回転止めは重要である。
【0048】
電動コンプレッサ1によれば、コンプレッサインペラ8を含む回転体Cが回転した場合に、軸受20の外輪22がハウジング2に接触することが防止される。よって、軸受20を介して振動がハウジング2に伝達されることを確実に防止でき、その結果として、電動コンプレッサ1における振動や騒音の発生を抑制できる。
【0049】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。たとえば、2個の軸受20が設けられ、そのうちの1つに対しては上記の軸受構造が設けられなくてもよい。2個の軸受20のうち1つが省略されてもよい。軸受構造が1箇所のみに設けられる場合、軸受構造は、回転軸12の第1端側のみに設けられてもよく、回転軸12の第2端側のみに設けられてもよい。
【0050】
内周面17aとOリング30との間の摩擦力と、回転体Cの回転力との関係は上記実施形態に示された関係を満たさなくてもよい。すなわち、第2条件は満たされるが第1条件が満たされないような軸受構造が採用されてもよい。その場合でも、振動がハウジング2に伝達されることを確実に防止されるという効果は奏される。
【0051】
Oリング30の断面形状は、円形に限られない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示のいくつかの態様によれば、軸受を介して振動がハウジングに伝達されることを確実に防止できる。
【符号の説明】
【0053】
1 電動コンプレッサ
2 ハウジング
3 モータハウジング
6 コンプレッサハウジング
7 コンプレッサ
8 コンプレッサインペラ
12 回転軸
13 ロータ部
14 ステータ部
17a 内周面(内壁面)
20 軸受
21 内輪
21a 内周面
22 外輪
22a 外周面
22c 溝部
23 玉
30 Oリング
A 回転軸線
B クリアランス
C 回転体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7