(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を用いて本発明を具体的に説明する。詳しくは、溶融金属(溶湯)を銅とする水素濃度センサを用いて本発明を具体的に説明する。なお、これらの形態は、本発明のセンサプローブを具体的に実施した形態の例であり、本発明がこれらの形態のみに限定されるものではない。
【0013】
[実施形態1]
本形態のセンサプローブ1は、固体電解質よりなる電解質部20及び熱電対21を備えた水素センサ2と、測定電極3と、スリーブ4と、酸素センサ5と、測定回路6と、を有する。本形態のセンサプローブ1の構成を、
図1に示す。
水素センサ2は、有底筒状の固体電解質よりなる電解質部20と、有底筒状の電解質部20の内周面に接続した熱電対21と、を備えた棒状を有する。
【0014】
電解質部20は、水素濃度を検出するセンサとして作用する部分であって、
図1に示すように断面U字状の、先端(図では下端)が閉じた筒状のもの(有底筒状)であり、内面に白金質電極を設けてある。電解質部20は、基端(図では上端)が開いて通気可能に形成されている。
【0015】
電解質部20を形成する固体電解質は、従来の水素センサと同様の材質を用いることができる。本形態では、α−アルミナを基材とし、アルミナ(Al
2O
3)99.5質量%以上、酸化マグネシウム(MgO)0.2質量%以下、もしくは酸化カルシウム(CaO)0.05質量%以下のアルカリ土類金属を含有するものを使用した。本形態に用いられる固体電解質は、酸素の影響を受けず、800〜1700Kの領域で正確な水素濃度の測定が可能である。
【0016】
α−アルミナは、二価のアルカリ土類金属(例えば、Mg,Ca)を含有すると、高温においてプロトン導電性を示す固体電解質として作用する。このため、一方の面が水素を含有した溶湯に接すると、固体電解質の中をプロトンが移動し、基準ガスに接した他方の面に達し、電位差が生じ濃度電池となる。一方の面と他方の面との電位差を測定し、事前に校正しておいた値と対照することにより、溶湯の水素濃度とする。本形態では、電解質部20の外側の凸面が溶湯に接し、内側の凹面が基準ガスに接する。
【0017】
熱電対21は、有底筒状の電解質部20の内部の空間に収容されている。熱電対21は、従来の熱電対と同様の構成及び材質を用いることができる。本形態では、白金−白金ロジウム合金の熱電対を用いる。本形態では、2穴のアルミナ製の絶縁材よりなる保護管22に収容された状態で、電解質部20に収容する。
熱電対21は、先端の熱接点部210が保護管22から露出している。さらに、熱接点部210が電解質部20の内面に固定され、電気的に接続されている。
【0018】
本形態において、α−アルミナからなる電解質部20の厚さは0.75mmであり、また比熱も大きくないため、電解質部20の内外での温度差は無視できる。熱電対21を溶湯に直接漬けられないため、電解質部20は、熱電対21を保護する機能を発揮する。
【0019】
電解質部20を形成する固体電解質の起電力は、水素濃度だけでなく、温度にも依存する。このため、水素濃度を確定する場合、熱電対21での温度の測定が必要となる。
【0020】
熱電対21は、電解質部20の内周面に白金ペースト等を用いて、所定の焼結条件で焼成(熱処理)することにより接続される。白金ペーストは、焼結後にポーラス状となるため、基準ガス(本形態では、空気)を透過する。これにより、電解質部20の内周面に形成されるポーラス状の白金部が基準電極となる。この基準電極は、上記した電解質部20の内面に設けられた白金質電極に相当する。
【0021】
測定電極3は、棒状を有する部材であり、溶湯に漬けて回路を構成する。測定電極3は、外部電極とも称される電極であり、黒鉛(C)、モリブデン(Mo)等よりなる従来の電極棒を用いることができる。測定電極3を用いることで、水素濃度の測定回路が形成される。測定回路は、電圧計(−側)−電極棒(測定電極)−溶湯(銅)−固体電解質(水素センサ、αアルミナ)−電極(白金、基準電極)−熱電対(白金側)−電圧計(+側)となる。また、電池図式(電池式)は、
図2に示した通りとなる。
【0022】
測定電極3は、スリーブ4の外部で、溶湯に漬けられる。測定電極3とスリーブ4との間隔は、上記の測定回路を形成できる長さであれば限定されるものではない。すなわち、スリーブ4の外周面と間隔を隔てた状態でも、スリーブ4の外周面と当接した状態でも、いずれでもよい。
【0023】
スリーブ4は、絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物よりなり、先端部に開口を有する筒状の部材である。スリーブ4は、その内部に、水素センサ2及び酸素センサ5を収容する。スリーブ4は、筒状(本形態では、円筒状)を有し、水素センサ2及び酸素センサ5の測定部(先端部)を、その先端(図では下端)から突出した状態で、保持(固定)する。
絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物より形成されるスリーブ4は、粒度分布が小さな粒子の粉末から緻密体をなすように形成される。絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物より形成されるスリーブ4は、粒度分布が比較的大きな粒子の粉末から多孔質体(気孔率が50%以下が好ましい)をなすように形成される。
【0024】
スリーブ4を形成する絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物は、限定されるものではない。本形態では、絶縁性のセラミックスの集積体を用いることができる。セラミックスの集積体とは、セラミックス粒子が集積して形成されたものを示し、例えば、セラミックス粒子粉末を圧縮成形した成形体、セラミックス粒子を結合材で結合した状態で圧縮成形した成形体、成形体を焼成(焼結)した焼成体、を例示できる。
【0025】
絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物の材質は、溶湯に浸漬したときに(すなわち、溶湯温度にさらされたときに)、電気絶縁性と耐熱性を発揮できる材質であれば限定されるものではない。例えば、アルミナ系、シリカ系、マグネシア系などのセラミックスを挙げることができる。センサプローブ1は、タフピッチ銅の溶湯の水素濃度を測定する場合、1050〜1500℃にさらされる。そして、これらのセラミックス粒子は、この温度域で、電気絶縁性と耐熱性を発揮する。
【0026】
本形態のセンサプローブ1では、スリーブ4は、金属管7の先端に固定される。金属管7は、耐熱性金属よりなる筒状の部材であり、スリーブ4を保持する機能を有する。なお、本形態のセンサプローブ1は、溶湯に先端を浸漬した場合、金属管7が溶湯に接触しないようにスリーブ4が形成される。つまり、スリーブ4の上端は、溶湯の液面から上方に位置するように、スリーブ4が形成される。
【0027】
スリーブ4は、
図1に示したように、水素センサ2及び酸素センサ5を、その先端(図では下端)から突出した状態で、その内部に収容する。そして、筒状のスリーブ4は、先端の端部に封止材40を配する。なお、
図1では封止材40がスリーブ4の端面を形成するように設けているが、端面よりも内部(図で上方側)に封止材40を設けてもよい。
封止材40は、スリーブ4の先端を封止する。また、水素センサ2、酸素センサ5とスリーブ4との間を所定の間隔に保持・固定する。
【0028】
封止材40は、その材質が限定されるものではない。例えば、シリカ系、アルミナ系、シリカ−アルミナ混合物などのセラミックスを挙げることができる。また、封止材40の厚さ(
図1での上下方向の厚さ)についても限定されるものではない。
【0029】
酸素センサ5は、従来の酸素センサと同様のセンサを用いることができる。
本形態では、有底筒状の固体電解質よりなる電解質部50と、有底筒状の電解質部50の内周面に接続したリード線51と、有底筒状の電解質部50の内部に配された固体基準物質52と、を備えた棒状を有する。本形態の酸素センサ5は、固体基準物質52上を封止材53で封止している。
【0030】
電解質部50は、イットリウムを含んだジルコニア(ZrO
2)を用いた。なお、イットリウムを含んだジルコニアとは、イットリア(Y
2O
3)がドープしたジルコニア(ZrO
2)を含む。
【0031】
リード線51は、固体基準物質52中に配することから耐反応性に優れた材質よりなる。リード線51は、例えば、鉄、ニッケル、白金、白金ロジウム合金より選ばれる材料からなる導線を挙げることができる。本形態では、鉄よりなる導線を用いた。
【0032】
固体基準物質52は、鉄(Fe)と酸化鉄(FeO)との混合物を用いた。混合比は限定されるものではなく、例えば、質量比で9:1のものを挙げることができる。固体基準物質52は、この混合物の粉末を、電解質部50の内周面にリード線51が接続した状態で、電解質部50の内部に充填して配される。
【0033】
封止材53は、電解質部50の内部に固体基準物質52以外の物質(例えば、空気)が侵入することを阻害する。また、電解質部50の内部でリード線51を固定する。封止材53は、これらの機能を発揮できる材質よりなるものであれば限定されるものではなく、本形態では、アルミナ(Al
2O
3)よりなる封止材530,532と、セラミックス531が積層して形成される。更に、電解質部50の基端(図では上端)の開口部を封止する封止材533を有する。
【0034】
酸素センサ5は、水素センサ2と同様に、測定電極3を用いて測定回路を形成し、酸素濃度の測定を行う。この場合、酸素濃度の測定回路は、電圧計(−側)−電極棒3(測定電極)−溶湯(銅)−固体電解質(酸素センサ、ジルコニア)−リード線51(鉄、基準電極)−電圧計(+側)となる。また、この場合の電池図式(電池式)は、
図3に示した通りとなる。
【0035】
測定回路6は、上記したように、水素濃度、温度(熱電対21)、酸素濃度の測定を、回路を切り替えて行う。これらの測定は、測定回路6の回路を切り替えることにより任意の測定ができる。例えば、水素濃度を重点的に測定したい場合、水素濃度→酸素濃度→水素濃度→温度→水素濃度の順番とする等、注目するパラメータの測定頻度や順番を変更できる。
本形態の測定回路6は、それぞれの測定を、回路を切り替えて行う構成としているが、複数の回路をもつ構成とすれば、これらを同時に測定できる。
【0036】
[本形態の効果]
(効果A)
本形態のセンサプローブ1は、絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物よりなり、先端部に開口を有する筒状のスリーブ4と、有底筒状の固体電解質よりなる電解質部20と、電解質部20の内周面に接続した基準電極としても機能する熱電対21、を備えた、スリーブ4内に配される棒状の水素センサ2と、棒状の測定電極3と、測定電極3と熱電対21(基準電極)との電位差を測定する電位差測定部である測定回路6と、を有する。
【0037】
本形態のセンサプローブ1は、水素センサ2を収容・保持するスリーブ4が、絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物よりなる。このため、センサプローブ1の先端を溶湯に浸漬しても、スリーブ4が溶湯に接触するのみとなっている。スリーブ4を形成する絶縁性のセラミックス又は絶縁性の耐火物は、従来のセンサプローブのように溶湯による浸食が生じない。この結果、本形態のセンサプローブ1は、酸素濃度が低い被測定物に対しても、測定不良が生じないセンサプローブとなっている。
【0038】
(効果B)
本形態のセンサプローブ1は、スリーブ4は、絶縁性セラミックス又は絶縁性の耐火物の集積体よりなる。この構成によると、スリーブ4が溶湯により浸食することが確実に抑えられる。その結果、上記の効果をより確実に発揮できる。
【0039】
(効果C)
本形態のセンサプローブ1は、水素センサ2が、電解質部20の内周面に当接した状態で配された熱電対21を有し、熱電対21が基準電極となる。
この構成によると、水素センサ2が、別体の基準電極を持たない構成となり、センサプローブ1の構成が複雑化することが抑えられる。
【0040】
(効果D)
本形態のセンサプローブ1は、測定電極3がスリーブ4の外部に配される。この構成によると、スリーブ4を小型化できる。また、スリーブ4と別体として形成されるため、測定電極3のみが故障した場合に測定電極3の交換を簡単にできる。
【0041】
(効果E)
本形態のセンサプローブ1は、センサが水素センサ2である。この構成によると、溶湯中の水素濃度を測定できる。
【0042】
(効果F)
本形態のセンサプローブ1は、スリーブ4内に、酸素センサ5を有する。この構成となることで、本形態のセンサプローブ1は、水素濃度だけでなく酸素濃度も測定できる。
【0043】
本形態のα−アルミナを用いた固体電解質は、従来の水素センサと異なり、酸素濃度に影響されない測定が可能である。しかしながら、金属の溶湯では、酸素量の管理が必要であり、酸素濃度の測定を行う必要もあった。つまり、センサプローブ1が水素センサ2と酸素センサ5が一体化した構成となることで、1つのセンサプローブで水素濃度、温度、酸素濃度の3種類の測定が可能となる。
【0044】
[実施形態2]
本形態は、水素センサ2及び酸素センサ5の構成が異なること以外は、実施形態1と同様な構成のセンサプローブ1である。本形態のセンサプローブ1の構成を、
図4に示す。
本形態の水素センサ2は、有底筒状の固体電解質よりなる電解質部20の長さが短く、かつ基端(図では上端)が封止材23で封止している。
【0045】
封止材23は、スリーブ4内の雰囲気が通過可能な状態で電解質部20の基端(上端)を封止できる材質であれば限定されるものではない。例えば、耐熱性金属よりなる網状(又は不織布状)の部材や、セラミック繊維の織布や不織布やひも等を挙げることができる。
【0046】
本形態の酸素センサ5は、電解質部50と、リード線51と、保護管54と、封止材53と、を有する。本形態の酸素センサ5は、水素センサ2と同様に、空気を基準物質とするセンサである。
電解質部50は、軸方向の長さが短いこと以外は、実施形態1と同様な部材である。
リード線51は、白金系金属よりなること以外は、実施形態1と同様な部材である。
保護管54は、支持管22と同様の機能を発揮する部材であり、本形態ではアルミナからなる部材である。
【0047】
封止材53は、電解質部50の基端(図では上端)の開口部を封止する。本形態の封止材53は、封止材23と同様にスリーブ4内の雰囲気が通過可能な状態で封止する部材である。
【0048】
本形態の酸素センサ5は、水素センサ2と同様に、測定電極3を用いて測定回路を形成し、酸素濃度の測定を行う。この場合、酸素濃度の測定回路は、電圧計(−側)−電極棒3(測定電極)−溶湯(銅)−固体電解質(酸素センサ、ジルコニア)−リード線(白金、基準電極)−電圧計(+側)となる。また、この場合の電池図式(電池式)は、
図5に示した通りとなる。
【0049】
[本形態の効果]
本形態のセンサプローブ1は、水素センサ2及び酸素センサ5そのものの構成が異なること以外は、実施形態1と同様な構成のセンサプローブ1である。本形態においても、実施形態1と同様な効果を発揮できる。
本形態のセンサプローブ1は、水素センサ2(電解質部20)の長さが短くなっている。つまり、固体電解質の使用量を低減できる。
【0050】
また、酸素センサ5として、空気を基準物質として用いる酸素センサを用いても、酸素濃度の測定を行うことができる。本形態の酸素センサ5は、水素センサ2とともに基準物質として空気を用いる。基準物質を共用することで、簡素な構成で、水素濃度だけでなく酸素濃度の測定を行うことができる。
【0051】
[実施形態3]
本形態は、測定電極3がスリーブ4内に配されたこと以外は、実施形態1と同様な構成のセンサプローブ1である。本形態のセンサプローブ1の構成を、
図6に示す。
【0052】
[本形態の効果]
本形態のセンサプローブ1は、測定電極3がスリーブ4内に配されたこと以外は、実施形態1と同様な構成のセンサプローブ1である。本形態においても、上記した効果A〜効果C、及び効果E〜効果Fと同様な効果を発揮できる。
【0053】
(効果G)
本形態のセンサプローブ1は、測定電極3がスリーブ4の内部に配される。この構成によると、測定電極3も一体化したセンサプローブとなる。また、測定電極3がスリーブ4内に配されることで、測定電極3が溶湯の流れによる力を受けなくなり、測定電極3の損傷が抑えられる。
【0054】
[実施形態4]
本形態は、水素センサ2及び酸素センサ5の構成が異なること以外は、実施形態3と同様な構成のセンサプローブ1である。本形態のセンサプローブ1の構成を、
図7に示す。
本形態の水素センサ2及び酸素センサ5は、それぞれ実施形態2の水素センサ2と同様な構成である。
【0055】
[本形態の効果]
本形態のセンサプローブ1は、水素センサ2及び酸素センサ5そのものの構成が異なること以外は、実施形態3と同様な構成のセンサプローブ1である。本形態においても、実施形態3と同様な効果を発揮できる。
【0056】
[その他の形態]
本形態は、スリーブ4の構成が異なること以外は、上記の各形態と同様な構成のセンサプローブである。本形態のスリーブ4の構成を断面図で
図8〜
図9に示す。なお、本形態のセンサプローブも、各形態と同様に水素センサ2等の構成要素を収容する構成であるが、
図8〜
図9については、これらの構成要素の記載を省略している。
【0057】
上記の各形態では、スリーブ4は、1種類のセラミックス粒子から形成されている。スリーブ4は、2種以上の複数種のセラミックス粒子から形成されていても良い。例えば、
図8に示したように、内層41とその外周に形成された材質が異なる外層42とからなる複数層の層状構造の部材であっても良い。
【0058】
さらに、スリーブ4は、その内部に、溶湯と接触しない状態で、セラミックス粒子以外の材質よりなる部材を有していてもよい。スリーブ4が、別部材よりなる基材43と、セラミックス粒子から形成された耐熱材44と、からなる構成とすることができる。この構成によると、基材43を強度の高い材質により形成することで、スリーブ4の強度を高めることができる。更に、
図9に示したように、基材43は金属管7としても良い。
これらの形態においても、上記した各形態と同様な効果を発揮できる。