(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、特許文献1に記載されるような磁界の特定の方向の成分を別の方向の成分に変換する機能を有する磁気センサであって、オフセットずれの問題が生じにくい構造を有する磁気センサを提供することを目的とする。また、本発明は、そのような構造上の改善が行われた磁気センサを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために提供される本発明は、一態様として、基板の一面である第1面に設けられ、前記第1面の面内方向の一つである第1方向に沿った感度軸を有する磁気抵抗効果素子と、非磁性材料からなり前記第1面から離れる向きに起立する起立面を有する非磁性体部と、前記起立面に設けられた軟磁性層とを備え、外部磁界が印加されたときに、前記軟磁性層を通過した磁界成分が前記磁気抵抗効果素子に印加されるように、前記磁気抵抗効果素子と前記軟磁性層とは非接触に配置されることを特徴とする磁気センサである。
【0007】
本明細書において、ある部材の面に他の部材が設けられるとは、ある部材の面に直接的に接するように他の部材が位置する場合のみならず、ある部材の面と他の部材との間に別の部材(保護層、導体化処理により形成された層など)が介在する場合も含む。
【0008】
非磁性体の表面に形成された軟磁性層は、表面から内部に至る全体を軟磁性体で形成した磁気センサに比べて軟磁性体の体積が小さい。したがって、外部磁界の帯磁による残留磁化量は相対的に少なくなり、一瞬の外乱磁場印加によってブリッジ回路の中点電位が変化してオフセットずれが発生することを抑制できる。
【0009】
前記軟磁性層の前記第1面に対向する側から前記軟磁性層に連続して前記第1方向に延びて、前記磁気抵抗効果素子の第1面に対向する側とは反対側の面の上に、前記磁気抵抗効果素子とは非接触に配置される第1延出部をさらに備えていてもよい。このような構成を備えることにより、不所望な磁界成分が磁気抵抗効果素子に印加されることを防止できる。
【0010】
前記軟磁性層の前記第1面に対向する側とは反対側から前記軟磁性層に連続して前記第1方向に延びる第2延出部をさらに備えていてもよい。第2延出部においても第1面の法線方向の磁界成分を集磁することができ、磁気センサの検出感度を高めることが可能となる。
【0011】
前記起立面は、互いに対向する第1の起立面および第2の起立面を有し、前記軟磁性層は、前記第1の起立面に設けられた第1の軟磁性層および第2の起立面に設けられた第2の軟磁性層を備え、前記磁気抵抗効果素子は、前記第1の軟磁性層から流出して方向変換された前記第1方向の磁界成分が印加されるように配置された第1の磁気抵抗効果素子と、前記第2の軟磁性層から流出して方向変換された前記第1方向の磁界成分が印加されるように配置された第2の磁気抵抗効果素子とを備えてもよい。
【0012】
上記の構成において、前記磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子および第2の磁気抵抗効果素子)は、前記第1方向の一方に沿った向きに磁化が固定された固定磁性層と、外部磁界により磁化の向きが変化する自由磁性層とを有し、前記第1の磁気抵抗効果素子の前記固定磁性層の磁化の向きと、前記第2の磁気抵抗効果素子の前記固定磁性層の磁化の向きとは揃えられていてもよい。
【0013】
このような構成を備える場合には、前記第1の磁気抵抗効果素子と前記第2の磁気抵抗効果素子とは直列に接続されてハーフブリッジ回路を構成することが容易となる。
【0014】
前記磁気センサは、前記ハーフブリッジ回路を2つ備え、前記2つのハーフブリッジ回路はフルブリッジ回路を構成していてもよい。センサの検出精度をより安定的に高めることができる。
【0015】
この場合において、前記フルブリッジ回路に含まれる2つの前記第1の磁気抵抗効果素子および2つの前記第2の磁気抵抗効果素子は前記第1方向に並置されていてもよい。このような構成を備える磁気センサは製造が容易となる場合がある。
【0016】
前記第1の軟磁性層と前記第2の軟磁性層との離間距離は10μm以上であることが、残留磁化に基づくセンサ感度の低下を生じにくくする観点から好ましい。
【0017】
前記起立面は導電性を有し、前記軟磁性層はめっき析出物を含むことが、製造容易性を高める観点から好ましい場合もある。
【0018】
本発明は、他の一態様として、上記の軟磁性層がめっき析出物を含む構成を備える磁気センサの製造方法であって、前記第1面上に前記磁気抵抗効果素子を形成し、前記磁気抵抗効果素子を覆うように非磁性絶縁層を形成し、前記非磁性絶縁層上に、前記起立面が導電性を有する前記非磁性体部を形成し、前記起立面に通電する電気めっき処理を行って、前記めっき析出物を含む前記軟磁性層を前記起立面上に形成することを特徴とする磁気センサの製造方法である。上記の製造方法によれば、非磁性体部と軟磁性層とを有する磁界方向変換部を備える磁気センサを容易に製造することが可能である。
【0019】
前記非磁性絶縁層の面における前記非磁性体部が形成されていない部分に対して導体化処理を行い、前記電気めっき処理によって、前記非磁性絶縁層の面における前記非磁性体部が形成されていない部分にめっき層を形成してもよい。この部分に形成されためっき層は、前述の第1延出部として機能することができる。
【0020】
前記非磁性体部における前記第1面に対向する側とは反対側の面は導電性を有し、前記電気めっき処理によって前記反対側の面にめっき層を形成してもよい。この部分に形成されためっき層は、前述の第2延出部として機能することができる。
【0021】
前記非磁性体部は、非磁性の導電性材料を含有するめっき析出物を含んでいてもよい。この場合には、その後のめっき処理により、非磁性体部の起立面上に軟磁性層を形成することや、非磁性体部における第1面に対向する側とは反対側の面上に第2延出部を形成することが容易となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、磁界の特定の方向の成分を別の方向の成分に変換する機能を有する磁気センサであって、オフセットずれの問題が生じにくい構造を有する磁気センサが提供される。また、本発明によれば、上記の磁気センサの製造方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本発明の説明のために参照する図面の寸法は適宜変更して示している。
【0025】
図1は、第1の実施形態における磁気センサの斜視図である。
図2は、
図1のII−II線で切断して矢印方向から見たときの磁気センサの断面図である。
【0026】
本実施形態の磁気センサ10は、例えば、垂直方向の磁界成分を検出するZ軸磁気センサとして用いることができ、モバイル機器等に搭載される地磁気センサとして構成される。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の磁気センサ10は、基板15の一面である第1面15Aの上に設けられた第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22と、磁界方向変換部30とを有して構成される。
図2に示すように、磁界方向変換部30は、非磁性体部40、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36、一方の第1延出部381および他方の第1延出部382、ならびに第2の延出部37を備える。
【0028】
非磁性体部40は、非磁性材料からなり第1面15Aから離れる向き(具体的には、
図2に示すZ1方向)に起立する部材である。
【0029】
図1および
図2に示されるように、本実施形態に係る磁気センサ10の非磁性体部40はY1−Y2方向を長軸とする直方体の形状を有する。したがって、非磁性体部40における、非磁性体部40のX1−X2方向(第1方向)に並んで対向する2つの面である第1の起立面40S1および第2の起立面40S2は、いずれも、X1−X2方向(第1方向)に法線を有する。第1の起立面40S1の上には、めっき析出物からなる第1の軟磁性層35が設けられている。第2の起立面40S2の上には、めっき析出物からなる第2の軟磁性層36が設けられている。第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36は、NiFe、CoFe、CoFeSiB、CoZrTi、CoZrNbから選ばれた少なくとも1つの材料が含まれる軟磁性材料から形成される。
【0030】
このように、本実施形態に係る磁気センサ10は、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36は、非磁性体部40の一部の表面を覆うように形成されている。そのため、表面から内部に至る全体を軟磁性体で形成した磁気センサと比べ、本実施形態に係る磁気センサ10は、軟磁性体の体積が少ないため、外部磁界による帯磁を低減することができる。
【0031】
図2に示すように、Z1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)の成分51を有する外部磁界が印加されたときに、この外部磁界のZ1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)の成分(垂直磁界成分)51は、これらの第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36を通過して、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36における第1面15A側から、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36と第1面15Aとの間に位置する領域に流出する。この領域には、非磁性絶縁層16ならびに非磁性絶縁層16に埋設された状態にある第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22が位置する。この領域に流れ出た磁界成分は、非磁性絶縁層16内で流れの方向が変化して、X1−X2方向(第1方向)に沿った水平方向の磁界成分となる。こうして方向が変換された磁界成分は、第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22に印加され、これらの磁気抵抗効果素子で測定可能となる。
【0032】
第1の軟磁性層35のX1−X2方向(第1方向)の長さ(厚さ)Waは、Z1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)の磁界成分51を第1面15A側に伝えることができる限り、任意である。具体的には、上記の厚さWaは、0.05μm以上であることが好ましい場合があり、0.1μm以上であることがより好ましい場合があり、0.2μm以上であることが特に好ましい場合がある。第2の軟磁性層36のX1−X2方向(第1方向)の幅についても同様である。
【0033】
一方の第1延出部381は、第1の軟磁性層35の第1面15Aに対向する側から第1の軟磁性層35に連続してX1側に延び、第1の磁気抵抗効果素子21の第1面15Aに対向する側と反対側の面の上に、第1の磁気抵抗効果素子21と非接触に配置されている。第1延出部381は第1の軟磁性層35と同様に軟磁性材料からなり、第1の軟磁性層35に磁気的に接続される。なお、本明細書において、「磁気的に接続される」とは、透磁率が同等である複数の部材が実質的に隙間なく配置されている状態をいう。この状態を実現できる限り、磁気的に接続される接続される2つの部材間に他の部材が介在していてもよい。
【0034】
第1延出部381は軟磁性材料からなるため、第1の軟磁性層35における残留磁化に基づく磁界成分は、非磁性絶縁層16内に流れ出るよりも、第1の軟磁性層35から第1延出部381へと流れやすい。したがって、不所望な方向の磁界成分が第1の磁気抵抗効果素子21に印加されにくく、第1の磁気抵抗効果素子21の磁気シールドとして機能する場合もある。
【0035】
他方の第1延出部382は、第2の軟磁性層36の第1面15Aに対向する側から第2の軟磁性層36に連続してX2側に延び、第2の磁気抵抗効果素子22の第1面15Aに対向する側と反対側の面の上に、第2の磁気抵抗効果素子22と非接触に配置されている。他方の第1延出部382は軟磁性材料からなり、第2の軟磁性層36に磁気的に接続される。このため、一方の第1延出部381の場合と同様に、他方の第1延出部382によって、第2の軟磁性層36における残留磁化に基づく磁界成分が非磁性絶縁層16内に流れ出ることが抑制され、不所望な方向の磁界成分が第2の磁気抵抗効果素子22に印加されにくくなる。他方の第1延出部382も第2の磁気抵抗効果素子22の磁気シールドとして機能する場合もある。
【0036】
第2延出部37は、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36の第1面15Aに対向する側とは反対側から、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36のそれぞれに連続してX1−X2方向(第1方向)に延びて、非磁性体部40における第1面15Aに対向する側とは反対側の面40aの上に設けられる。第2延出部37は、Z1−Z2方向(垂直方向、第1面の法線方向)の磁界成分を集めて第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36を流れるZ1−Z2方向(垂直方向、第1面の法線方向)の磁界成分51を強めることができる。
【0037】
非磁性体部40のX1−X2方向(第1方向)の長さ(幅)Wbは、ある程度広いことが好ましい。上記の幅Wbは第1の軟磁性層35と第2の軟磁性層36との離間距離に等しいため、上記の幅Wbが過度に狭い場合には、互いに隣に位置する軟磁性層に流れる磁束同士が影響して、第1の軟磁性層35におけるZ1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)の磁界成分51と、第2の軟磁性層36におけるZ1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)の磁界成分51とがキャンセルしてしまう。軟磁性層35と第2の軟磁性層36との間隔が広がると、こうした負の影響が少なくなるため、第1の軟磁性層35と第2の軟磁性層36のそれぞれに流れるZ1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)の磁界成分51が低下しにくい。限定されない例示をすれば、上記の幅Wbは、10μm以上であることが好ましい場合があり、15μm以上であることがより好ましい場合がある。
【0038】
非磁性体部40のZ1−Z2方向(第1面15Aの法線方向)の長さ(高さ)Hbは、特に限定されない。上記の高さHbが過度に低い場合には、Z1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)に沿って磁界成分を流す機能が低下して、非磁性絶縁層16に流れ出る磁界成分の強度が低下する可能性があり、上記の非磁性体部40の高さHbが過度に高い場合には、非磁性体部40の製造容易性が低下して、非磁性体部40の形状精度や配置精度が低下する可能性があることを考慮して適宜設定すればよい。限定されない例示として、非磁性体部40の高さHbは、2μm以上であることが好ましい場合があり、4μm以上であることがより好ましい場合があり、6μm以上であることが特に好ましい場合がある。非磁性体部40の高さHbは、10μm以下であることが好ましい場合があり、9μm以下であることがより好ましい場合があり、8μm以下であることが特に好ましい場合がある。
【0039】
図3は、第1の実施形態に係る磁気センサの平面図である。
図4は、
図3のV−V線で切断して矢印方向から見たときの磁気抵抗効果素子の部分拡大断面図である。
【0040】
本実施形態において、第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22としてGMR(Giant Magneto Resistance)素子が用いられる。
図4に示すように、第1の磁気抵抗効果素子21は、膜面内に印加される外部磁界を検出することができる磁気抵抗効果膜43を有して構成される。磁気抵抗効果膜43は、絶縁膜42およびシード層49を介してシリコン基板41の面の上に形成されている。磁気抵抗効果膜43は、磁化の向きが固定された固定磁性層45と、外部磁界により磁化の向きが変化する自由磁性層47とを有し、
図4に示すように、固定磁性層45、非磁性層46、および自由磁性層47の順に積層されて、自由磁性層47の表面が保護膜48で覆われて構成されている。なお、
図4では第1の磁気抵抗効果素子21について示しているが、他の磁気抵抗効果素子(第2の磁気抵抗効果素子22など)においても同様の構成である。
【0041】
本実施形態において、固定磁性層45は第1の固定磁性層45c/非磁性結合層45e/第2の固定磁性層45dからなる、いわゆるセルフピン型の積層構成となっている。第1の固定磁性層45cがシード層49と接しており、また、第2の固定磁性層45dが非磁性層46と接する。第1の固定磁性層45cの磁化と第2の固定磁性層45dの磁化とは、導電電子による間接的な交換相互作用(RKKY的相互作用)により180°異なる向き(
図4中、符号45aおよび45bで示される。)に設定されている。非磁性層46を挟む自由磁性層47の磁化の向きと第2の固定磁性層45dの磁化の向きとの相対関係が磁気抵抗効果に寄与するため、第2の固定磁性層45dの磁化の向きが、
図3に示す固定磁性層の磁化の向き45aとなる。
【0042】
本実施形態において、絶縁膜42はシリコン基板41を熱酸化したシリコン酸化膜であり、スパッタ法等で成膜したアルミナ膜、酸化膜等であってもよい。固定磁性層45の第1の固定磁性層45cと第2の固定磁性層45dは、CoFe合金(コバルト鉄合金)などの軟磁性材料等で形成されている。非磁性結合層45eは導電性のRu等が用いられる。非磁性層46は、Cu(銅)等である。自由磁性層47は、保磁力が小さく透磁率が大きいNiFe合金(ニッケル鉄合金)などの軟磁性材料が用いられる。また、本実施形態において自由磁性層47を単層で示しているが、例えばNiFe層とCoFe層とを積層した構成とすることも可能である。保護膜48は、Ta(タンタル)等である。
【0043】
図3に示すように、第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22は、それぞれY1−Y2方向に細長く延びる平面矩形状に形成されており、X1−X2方向において互いに間隔を設けて配置されている。
図3には、固定磁性層の磁化の向き45aと、自由磁性層の磁化の向き47aとをそれぞれ矢印で模式的に示している。第1の磁気抵抗効果素子21の固定磁性層の磁化の向き45aと、第2の磁気抵抗効果素子22の固定磁性層の磁化の向き45aとは揃えられている。
図3では、一具体例として、延出方向(第1面15Aの法線方向)に対して直交する方向のうち、X1−X2方向X2側の向きに揃えられている。また、自由磁性層の磁化の向き47aは、第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22のそれぞれの形状異方性により延出方向(Y1−Y2方向)で互いに同じ向き(例えばY1側)に向けられている。固定磁性層の磁化の向き45aと自由磁性層の磁化の向き47aとは、それぞれ第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22の面内に向けられており、外部磁界が印加されていない状態において互いに直交するように設定されている。
【0044】
固定磁性層の磁化の向き(X1−X2方向X2側)45aに沿った向きに外部磁界が印加された場合には、自由磁性層の磁化の向き47aが、外部磁界の向き(X1−X2方向X2側)に揃うように変動して固定磁性層の磁化の向き45aと平行に近づき、電気抵抗値が低下する。
【0045】
一方、固定磁性層の磁化の向き(X1−X2方向X2側)45aとは反対向き(X1−X2方向X1側)に外部磁界が印加された場合には、自由磁性層の磁化の向き47aが、外部磁界の向き(X1−X2方向X1側)に揃うように変動して固定磁性層の磁化の向き45aと反平行に近づき、電気抵抗値が増大する。
【0046】
図3に示すように、第1の磁気抵抗効果素子21と第2の磁気抵抗効果素子22とは、例えばCu等の非磁性材料を用いて形成された配線部25によりY1−Y2方向Y1側において接続されている。また、第1の磁気抵抗効果素子21と第2の磁気抵抗効果素子22のY1−Y2方向Y2側は、配線部25を介して外部回路等に接続される。
【0047】
図5は、2つの磁気抵抗効果素子により構成されるハーフブリッジ回路の回路図を示す。
図5に示すように、磁気抵抗効果素子21と磁気抵抗効果素子22とは、入力端子(V
dd)とグラウンド端子(GND)との間で直列接続されてハーフブリッジ回路27を構成している。そして、磁気抵抗効果素子21と磁気抵抗効果素子22との間の中点電位(V
1)が、差動増幅器54により増幅されて、磁気センサ10の出力信号として外部回路(図示しない)に出力される。
【0048】
前述のように、本実施形態に係る磁気センサ10において、磁界方向変換部30に集磁されたZ1−Z2方向(垂直方向、第1面15Aの法線方向)の磁界成分51は、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36を通過し、第1面15Aに近位側から流出して基板15の第1面15Aの面内方向(水平方向)の磁界成分に変換される。そして、
図2に示すように、第1面15Aの面内方向(水平方向)のうち第1方向に変換された磁界成分は、第1の磁気抵抗効果素子21にはX2側の向きに印加され、第2の磁気抵抗効果素子22にはX1側の向きに印加され、互いに逆向きに作用する。
【0049】
よって、
図3に示す第1の磁気抵抗効果素子21の自由磁性層の磁化の向き47aは、電気抵抗値が増大する方向に向けられ、第2の磁気抵抗効果素子22の自由磁性層の磁化の向き47aは、電気抵抗値が減少する方向に向けられる。したがって、
図5に示すハーフブリッジ回路27の中点電位(V
1)が変化し、これにより、垂直方向(第1面15Aの法線方向、Z1−Z2方向)の磁界成分51を検出することができる。
【0050】
本実施形態に係る磁気センサ10は2つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21、第2の磁気抵抗効果素子22)を備えるが、本発明の一実施形態に係る磁気センサが備える磁気抵抗効果素子の数は限定されない。本発明の一実施形態に係る磁気センサが備える磁気抵抗効果素子の数は1つであってもよい。この場合の構造の具体的な一例として、磁気センサ10が第2の磁気抵抗効果素子22を備えない場合の構造が挙げられる。
【0051】
本発明の一実施形態に係る磁気センサが備える磁気抵抗効果素子の数が3以上である場合の具体例として、磁気センサがハーフブリッジ回路27を2つ備え、これらの2つのハーフブリッジ回路27がフルブリッジ回路を構成する場合が挙げられる。以下、このような磁気センサを本発明の第2の実施形態に係る磁気センサとして説明する。
【0052】
図6は、第2の実施形態の磁気センサを示し、磁気センサを構成する磁気抵抗効果素子の平面図である。
図7は、
図6のXII−XII線で切断して矢印方向から見たときの磁気センサの断面図である。また、
図8は、4つの磁気抵抗効果素子により構成されるフルブリッジ回路の回路図である。
【0053】
本実施形態の磁気センサ11は、第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36が複数設けられている点が異なっている。
図7に示すように、第1の軟磁性層35と第2の軟磁性層36とが交互にX1−X2方向に連続して形成されている。隣り合う第2の軟磁性層36と第1の軟磁性層35とは、第1面15Aに近位側において第1延出部38により接続されて、また、第1面15Aに遠位側において第2延出部37により接続されており、第1延出部38と第2延出部37とは、X1−X2方向において交互に設けられている。複数の第1の軟磁性層35と複数の第2の軟磁性層36とがX1−X2方向に繋がって形成されて1つの磁界方向変換部32を構成している。
【0054】
図7に示すように、複数の第1の軟磁性層35および複数の第2の軟磁性層36の第1面15Aに近位側にそれぞれ磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)が配置されている。
図6に示すように、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)のそれぞれの固定磁性層の磁化の向き45aはいずれも同一の向き(X1−X2方向X2側)に向けられている。また、外部磁界が印加されていない状態において、自由磁性層の磁化の向き47aは、形状異方性により磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)の延出方向(Y1−Y2方向)のY1側に向けられている。
【0055】
本実施形態において、
図8に示すように、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)によりフルブリッジ回路29が構成されている。第1の磁気抵抗効果素子21と第2の磁気抵抗効果素子22とが直列接続されたハーフブリッジ回路27から中点電位(V
1)が出力され、第1の磁気抵抗効果素子23と第2の磁気抵抗効果素子24とが直列接続されたハーフブリッジ回路28から中点電位(V
2)が出力される。入力端子(V
dd)とグラウンド端子(GND)との間で、ハーフブリッジ回路27とハーフブリッジ回路28とが並列接続されてフルブリッジ回路29を構成する。
図8に示すように、中点電位(V
1)と中点電位(V
2)との差分が差動増幅器54により増幅されてセンサ出力(V
out)として出力される。なお、本実施形態では、フルブリッジ回路29は4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)から構成されているが、これに限定されず、出力を大きくするためにより多数の磁気抵抗効果素子を用いることもできる。
【0056】
このように、フルブリッジ回路29を構成することにより、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)のそれぞれについて水平方向(第1面15Aの面内方向)の磁界成分に起因する抵抗変化が同じになるため、フルブリッジ回路29からセンサ出力として出力されず、垂直方向(第1面15Aの法線方向、Z1−Z2方向)の磁界成分による抵抗変化のみが出力される。
【0057】
また、
図6に示すように複数の第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36を連続して設けた場合であっても、
図7に示される構成を備えることから、Z1−Z2方向における残留磁化の発生によりブリッジ回路の中点電位が変化することを抑制することができ、センサ出力のオフセットずれの発生を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態において、複数の第1の軟磁性層35および複数の第2の軟磁性層36を連続して設けていることから、水平方向の磁界成分(X1−X2方向の磁界成分およびY1−Y2方向の磁界成分)が、連続する第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36に効果的に集められる。したがって、水平方向の磁界成分(X1−X2方向の磁界成分およびY1−Y2方向の磁界成分)が各磁気抵抗効果素子21〜24に印加されることを抑制して、垂直方向(第1面15Aの法線方向、Z1−Z2方向)の磁界成分51を確実に検出することができるため、センサ感度を安定させることができる。
【0059】
図9は、シミュレーションに用いた磁気センサの断面図である。
図9に示されるように、シミュレーションに用いた磁気センサ12では、非磁性体部40のX1−X2方向(第1方向)の幅WおよびZ1−Z2方向(第1面15Aの法線方向)の高さTが所定の値に設定される。第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36、第1延出部38ならびに第2延出部37は、等しい厚さtに設定されて、非磁性絶縁層16の面や非磁性体部40の面の上に位置している。第1の軟磁性層35および第2の軟磁性層36から流れ出てX1−X2方向(第1方向)に変換された磁界成分が印加されるように、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)は配置されている。
【0060】
非磁性体部40の幅Wおよび高さTならびに第1の軟磁性層35等の厚さtを変化させた磁気センサ12に対して垂直方向(第1面15Aの法線方向、Z1−Z2方向)に外部磁界として2.4mTを印加したときに、これらの磁気抵抗効果素子のそれぞれの感度軸方向に印加される磁界(検知磁界、単位:mT)について計算した。
【0061】
図10は、非磁性体部40の幅Wが10μmであって、第1の軟磁性層35等の厚さtが1μmである場合に、非磁性体部40の高さTを変化させたときのシミュレーション結果である。
図10中のNo.1からNo.4は、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)のそれぞれを意味する。
図10に示されるように、非磁性体部40の高さTが6μmに至るまでは、非磁性体部40の高さTと検知磁界とには正の相関が認められるが、非磁性体部40の高さTが6μm以降は、検知磁界は非磁性体部40の高さTの影響を受けにくくなることが示された。前述のように、非磁性体部40の高さTを大きくすることは製造容易性を低下させる場合があるため、このシミュレーションの条件では、非磁性体部40の高さTを6μmとすることが好ましいことが理解される。
【0062】
図11は、非磁性体部40の高さTが6μmであって、第1の軟磁性層35等の厚さtが1μmである場合に、非磁性体部40の幅Wを変化させたときのシミュレーション結果である。
図11中のNo.1からNo.4は、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)のそれぞれを意味する。
図11に示されるように、非磁性体部40の幅Wが10μmに至るまで、非磁性体部40の幅Wと検知磁界とには正の相関が認められた。非磁性体部40の幅Wが小さくなるほど検知磁界は低下する傾向がみられる。これは互いに隣に位置する軟磁性層に流れこむ磁束同士が影響してしまうためと考えられる。非磁性体部40の幅Wが15μm程度以上の場合には、非磁性体部40の幅Wと検知磁界との相関性は低くなる可能性がある。
【0063】
図12は、非磁性体部40の幅Wが10μmであってその高さTが5μmである場合に、第1の軟磁性層35等の厚さtを変化させたときのシミュレーション結果である。
図12中のNo.1からNo.4は、4つの磁気抵抗効果素子(第1の磁気抵抗効果素子21,23および第2の磁気抵抗効果素子22,24)のそれぞれを意味する。
図12に示されるように、第1の軟磁性層35等の厚さtが0.2μm以上の場合には、検知磁界はほぼ一定(1.5mT程度)となる結果が示された。このシミュレーションの条件では、第1の軟磁性層35等の厚さtを0.2μmとすることが好ましいことが理解される。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態に係る磁気センサの製造方法は限定されない。以下、
図1に示される磁気センサ10を製造する方法を、本発明の一実施形態に係る磁気センサの製造方法として説明する。
図13から
図19は本発明の一実施形態に係る磁気センサの製造方法を説明する図である。
【0065】
本発明の一実施形態に係る磁気センサの製造方法では、まず、シリコンなどからなる基板15の第1面15Aの上に、第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22を形成する(
図13)。前述のように、これらの磁気抵抗効果素子は磁気抵抗効果膜43を有するため、磁気抵抗効果膜43を構成する各層を順次積層することが行われる。第1の磁気抵抗効果素子21の第2の固定磁性層45dは、X1−X2方向(第1方向)X2側の向きに磁化されるように磁場中製膜が行われる。第2の磁気抵抗効果素子22は第1の磁気抵抗効果素子21と同時に製造されるため、第2の磁気抵抗効果素子22にも第1の磁気抵抗効果素子21と同様の磁化が行われる。
【0066】
次に、第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22を覆うように非磁性絶縁層16を形成する(
図14)。非磁性絶縁層16を構成する材料として、アルミナが例示される。非磁性絶縁層16の厚さは限定されない。第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22の厚さは通常0.1μm程度であり、磁界方向変換部30から流れ出した磁界は非磁性絶縁層16の内部で水平方向(第1面15Aの面内方向)に進むため、非磁性絶縁層16は0.2μm程度またはそれ以上の厚さを有することが好ましい場合がある。非磁性絶縁層16を形成する前に、第1の磁気抵抗効果素子21および第2の磁気抵抗効果素子22に接続される配線層(図示せず)を形成してもよい。
【0067】
続いて、非磁性絶縁層16の面の上に導電層MLを形成する(
図15)。蒸着、スパッタリングなどの乾式堆積技術を用いて導体化を行ってもよいし、無電解めっきのような湿式堆積技術を用いて導体化を行ってもよい。導電層を構成する材料は、非磁性材料であることが好ましい場合がある。導体化処理により形成される導電層MLの厚さは、後述するめっき処理を可能とする限り任意である。本実施の形態においても、導電層MLの厚さは数十nmまたはそれ以下であって、その後のめっき処理(電気めっき処理を含む。)により形成されるめっき析出物(非磁性材料、磁性材料)の厚さとの対比で無視しうる。
【0068】
こうして非磁性絶縁層16の面の上に導電層MLを形成したら、その上にレジストの層RMを形成し、その一部に貫通孔VHを形成する(
図16)。貫通孔の平面視の形状(Z1−Z2方向からみた形状)は第1面15Aの上に設けられることになる非磁性体部40の平面視の形状に対応する。
【0069】
続いて、金、銅などの非磁性材料を析出させるめっき処理を行う(
図17)。
図16の状態で導電層MLが露出している部分にめっき析出物を堆積させるため、電気めっき処理を行うことが好ましい。非磁性体部40はこうして堆積した非磁性材料のめっき析出物からなる。
【0070】
その後、レジストの層RMを除去することにより、非磁性体部40が第1面15Aの上に突出した状態となり、第1の起立面40S1および第2の起立面40S2が露出する(
図18)。この面はめっき析出物からなるため、導電性を有する。また、非磁性絶縁層16の面の上に位置する導電層MLも、非磁性体部40が位置する部分以外は露出した状態となる。
【0071】
この状態で、鉄‐ニッケル合金などの磁性材料を析出させる電気めっき処理を行う。この電気めっき処理によって、非磁性体部40の第1の起立面40S1および第2の起立面40S2、非磁性体部40における第1面15Aに対向する側とは反対側の面40a、ならびに導電層MLの面における非磁性体部40が設けられる部分以外の部分に磁性材料のめっき層が形成される。非磁性体部40の第1の起立面40S1の上に形成されためっき層は第1の軟磁性層35となる。非磁性体部40の第2の起立面40S2の上に形成されためっき層は第2の軟磁性層36となる。非磁性体部40における第1面15Aに対向する側とは反対側の面40aの上に形成されためっき層は第2延出部37となる。導電層MLの面における非磁性体部40が位置する部分以外の部分に形成されためっき層の一部は第1延出部(一方の第1延出部381、他方の第1延出部382)となる。
【0072】
以上の製造方法により、磁気センサ10が製造される。
【0073】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。例えば、本発明の効果が適切に得られる限り、図などにおいて積層されるように示される各構成要素間に他の層が設けられていてもよい。