(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725360
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】判定装置
(51)【国際特許分類】
B65H 26/00 20060101AFI20200706BHJP
【FI】
B65H26/00
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-158844(P2016-158844)
(22)【出願日】2016年8月12日
(65)【公開番号】特開2018-24525(P2018-24525A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000240341
【氏名又は名称】株式会社ヒラノテクシード
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(72)【発明者】
【氏名】工藤 晨
(72)【発明者】
【氏名】前田 光右
(72)【発明者】
【氏名】戸倉 康裕
【審査官】
沖田 孝裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−100628(JP,A)
【文献】
特開昭60−093057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエブを走行させるロールと、
前記ロールを回転させるモータと、
前記ロールの回転軸と前記モータの出力軸との間に配されたトルク計と、
前記トルク計が計測したロールトルク値N1と前記モータのモータトルク値N2とから計測摩擦係数μ1を求め、予め記憶した理論摩擦係数μ0と前記計測摩擦係数μ1との差αが所定の基準範囲β内にあり、かつ、前記トルク計が計測した出力方向が安定継続時間一定の場合に、前記ウエブが安定して走行していると判定する制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記ロールより前の前記ウエブの張力をT1、前記ロールより後の前記ウエブの張力をT2とした場合に、テンションカット値ΔT=|T1−T2|を求め、
前記張力T1と前記張力T2の小さい方の値をベース張力T0とし、
前記ロールにおける前記ウエブの抱き角をθとし、
前記ウエブが前記ロールと接触している面積接触率εとした場合に、
(1)前記理論摩擦係数μ0を、テンションカット値ΔT、ベース張力T0、面積接触率ε、抱き角θから求めるものであり、前記理論摩擦係数μ0を、
μ0=[loge{ΔT/(T0・ε)+1}]/θ
から求め、
(2)前記計測摩擦係数μ1を、前記ロールトルク値N1と前記モータトルク値N2とから求めた前記ロールの駆動トルク値N0、前記ロールの半径R、前記ベース張力T0、テンションカット値ΔT=|T1−T2|、抱き角θから求めるものであり、前記計測摩擦係数μ1を、
μ1=[loge{N0/(R・T0)+1}]/θ
から求め、但し、
T1<T2のときはN0=|N1+N2|、
T1>T2のときはN0=|N1+(N1−N2)|
である、判定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記差αが前記基準範囲β内であり、かつ、前記出力方向が前記安定継続時間一定でないときに前記ウエブの走行が不安定状態であると判定する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記差αが前記基準範囲β外であり、かつ、前記出力方向が前記安定継続時間一定であるときに前記ウエブの走行が滑り状態であると判定する、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項4】
前記ロールは、前記ウエブを15°から270°の抱き角θで巻き付けられ、前記ウエブを走行させる、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項5】
前記ロールは、ニップロール、サクションロール、又は、駆動ロールである、
請求項1に記載の判定装置。
【請求項6】
前記トルク計と前記モータの間に減速機が設けられている、
請求項1に記載の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールの走行状態を判定する判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長尺状のウエブを走行させる場合には、走行路の途中にロールを設け、このロールを回転させることによってウエブに駆動力を与えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−211811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようにウエブをロールを用いて駆動させる場合に、走行するウエブと回転するロールの接触状態が不明であるため、ウエブがロールに対し安定した走行をしているか否かの判定が難いという問題点があった。
【0005】
そこで本発明は上記問題点に鑑み、ロールでウエブを駆動させる場合に、ウエブが安定して走行しているか否かを判定できる判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ウエブを走行させるロールと、前記ロールを回転させるモータと、前記ロールの回転軸と前記モータの出力軸との間に配されたトルク計と、前記トルク計が計測したロールトルク値N1と前記モータのモータトルク値N2とから計測摩擦係数μ1を求め、予め記憶した理論摩擦係数μ0と前記計測摩擦係数μ1との差αが所定の基準範囲β内にあり、かつ、前記トルク計が計測した出力方向が安定継続時間一定の場合に、前記ウエブが安定して走行していると判定する制御部と、を有し、
前記制御部は、前記ロールより前の前記ウエブの張力をT1、前記ロールより後の前記ウエブの張力をT2とした場合に、テンションカット値ΔT=|T1−T2|を求め、前記張力T1と前記張力T2の小さい方の値をベース張力T0とし、前記ロールにおける前記ウエブの抱き角をθとし、前記ウエブが前記ロールと接触している面積接触率εとした場合に、
(1)前記理論摩擦係数μ0を、テンションカット値ΔT、ベース張力T0、面積接触率ε、抱き角θから求めるものであり、前記理論摩擦係数μ0を、
μ0=[log
e{ΔT/(T0・ε)+1}]/θ
から求め、
(2)前記計測摩擦係数μ1を、前記ロールトルク値N1と前記モータトルク値N2とから求めた前記ロールの駆動トルク値N0、前記ロールの半径R、前記ベース張力T0、テンションカット値ΔT=|T1−T2|、抱き角θから求めるものであり、前記計測摩擦係数μ1を、
μ1=[log
e{N0/(R・T0)+1}]/θ
から求め、但し、
T1<T2のときはN0=|N1+N2|、
T1>T2のときはN0=|N1+(N1−N2)|
である、判定装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ウエブが安定して走行しているか否かを判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態のロールがウエブを走行させている状態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態の判定装置について、ロール12を回転させる駆動装置10に内蔵した場合について
図1と
図2に基づいて説明する。なお、ロール12の駆動装置10の設置されているシステムとしては、例えば長尺状のフィルム、金属箔、金属メッシュ、布帛、紙などのウエブWを巻出し装置から巻出し、塗工装置によってウエブWの片面、又は、両面を塗工液で塗工し、その後に乾燥装置に搬送して乾燥させ、最後に巻き取り装置でウエブWを巻き取るシステムであり、その走行経路の途中に1箇所、又は、2箇所以上に本実施形態のロール12を設ける。
【0010】
(1)駆動装置10
ロール12の駆動装置10の構造について
図1と
図2に基づいて説明する。
【0011】
まず、ロール12は、
図1に示すようにウエブWを巻き付けるようにして回転し、ウエブWを走行させている。ロール12の種類としては、駆動ロール、金属ロール、サクションロール、ニップロール(押圧ロール)である。サクションロールとは、ロール12の表面に複数の孔が開口し、ウエブWを吸引しつつ走行させるロールである。ロール12の左右両側から突出した回転軸14,14は、左右一対の軸受け16,16に回転自在に支持されている。
【0012】
駆動装置10は、トルク計18、モータ20、モータ20の駆動部22、制御部24、表示部26とより構成されている。
【0013】
モータ20は、ACベクトルモータであって、インバータ回路を含む駆動部22によってベクトルインバータ制御され所定の回転数で回転する。モータ20のモータトルク値は、駆動部22からモータ20への駆動信号(電流値、又は、電圧値)を制御部24が検出して求める。
【0014】
トルク計18は、モータ20の出力軸28とロール12の回転軸14との間に設けられ、回転軸14と出力軸28の回転モーメントによる歪みを検出し、ロールトルク値として出力する。また、このトルク計18は、その歪みの方向に対応したトルクの出力方向をロールトルク値の+又は−で表現して出力する。なお、モータ20の出力軸28が、トルク計18に直接連結したダイレクトドライブ方式である。
【0015】
表示部26は、液晶表示装置などの画像表示装置を有し、制御部24によって制御されている駆動装置10の駆動状態をデジタル値や画像で表示し、また、スピーカを有する。
【0016】
制御部24は、コンピュータよりなり、トルク計18、駆動部22、表示部26が接続され、トルク計18からの+又は−のロールトルク値が入力し、駆動部22に対し制御信号を出力し、また、モータトルク値を検出し、表示部26に表示情報を出力する。
【0017】
(2)制御部24の役割
まず、駆動装置10の制御部24の2つの役割について説明する。制御部24は、モータ20を回転させる第1の役割と、ウエブWの走行状態を判定する第2の役割がある。
【0018】
第1の役割における制御部24は、予め設定された回転数に基づいて、駆動部22に制御信号を出力し、駆動部22がモータ20を回転させて、ロール12をウエブWの走行方向に沿って回転させる。このとき、トルク計18は、出力方向及びロールトルク値を制御部24に出力する。また、制御部24は、現在のモータ20のモータトルク値を、駆動信号に基づいて検出する。
【0019】
第2の役割における制御部24は、走行しているウエブWの現在の走行状態が安定状態、不安定状態、又は、滑り状態であるかを判定する判定装置の役割を行う。なお、判定装置は、制御部24内のハードディスク、ROM、RAMなどの記憶媒体に記憶されているプログラムを制御部24のCPUが実行することによって実現する。まず、その判定に用いるパラメータについて説明する。
【0020】
「張力T1」は、ロール12より前方のウエブWの張力を意味する。
【0021】
「張力T2」は、ロール12より後方のウエブWの張力を意味する。
【0022】
「ベース張力T0」は、張力T1と張力T2を比較して小さい方の張力を意味する。
【0023】
「テンションカット値ΔT」は、ΔT=|T1−T2|を意味する。
【0024】
「面積接触率ε」は、ロール12の全体の面積に対する、ウエブWがロール12と接触している面積の比率を意味し、ロール12が全面平らな場合にはε=1、表面に溝などが刻まれている場合には例えば、ε=0.9などとなる。
【0025】
「ロールトルク値N1」は、トルク計18が検出したトルク値を意味し、出力方向を+又は−で示す。例えば、回転軸14の回転モーメントが、出力軸28の回転モーメントより高い場合には+、逆の場合には−とする。
【0026】
「モータトルク値N2」は、制御部22が検出したモータ20のトルク値を意味する。
【0027】
「抱き角θ」は、
図1に示すように、ロール12とウエブWが接触している角度を意味し、15°<=θ<=270°である。
【0028】
まず、制御部22は、上記パラメータから理論摩擦係数μ0と計測摩擦係数μ1を求める。
【0029】
「理論摩擦係数μ0」は、下記の(1)式から求める。なお、理論摩擦係数μ0は、ウエブWを走行させる前に予め計算し、制御部22に記憶させておく。
μ0=[log
e{ΔT/(T0・ε)+1}]/θ ・・・(1)
「計測摩擦係数μ1}は、(2)式から所定の計測時間毎(例えば0.1秒毎)に計算する。
μ1=[log
e{N0/(R・T0)+1}]/θ ・・・(2)
但し、N0は駆動トルク値であり、T1<T2のときはN0=|N1+N2|、T1>T2のときはN0=|N1+(N1−N2)|である。
【0030】
次に、制御部24は、この計算した計測摩擦係数μ1と理論摩擦係数μ0の差を(3)式から所定の計測時間毎に求める。
α=(μ0−μ1)/μ0・100 ・・・(3)
次に、制御部22は、差αが所定の基準範囲β内に有るか否かを所定の計測時間毎に判定する。
【0031】
次に、制御部22は、次の3つのルールに基づいてウエブWの走行状態を判定する。
【0032】
第1のルールは、差αが基準範囲β内にあり、かつ、トルク計18が計測した出力方向が安定継続時間一定の場合には、ウエブWの走行状態が「安定状態」であると判定する。この安定継続時間としては、例えば10秒である。なお、安定状態とは、ウエブWが回転しているロール12に安定して一定の駆動力を与えられて、正常に走行している状態をいう。
【0033】
第2のルールは、差αが基準範囲β内にあり、かつ、トルク計18の出力方向が安定継続時間の間に複数回変化した場合には、ウエブWの走行状態が「不安定状態」であると判定する。なお、不安定状態とは、ウエブWが回転しているロール12から不安定に変化する駆動力を与えられて、正常に走行していない状態をいう。
【0034】
第3のルールは、差αが基準範囲β外にあり、かつ、トルク計18の出力方向が安定継続時間一定の場合は、ウエブWの走行状態が「滑り状態」であると判定する。なお、滑り状態とは、ウエブWが回転しているロール12に対し滑っている状態であり、ウエブWに傷がつく可能性がある状態をいう。
【0035】
最後に制御部24は、表示部26に安定状態、不安定状態、滑り状態であるかを表示する。
【0036】
作業者は、表示部26を見て、ウエブWの走行が安定状態のときは、そのまま走行させる。不安定状態であるときはウエブWの張力T1又は張力T2を変化させるか、ウエブWの走行速度を落とす。滑り状態であるときはウエブWに傷が付く可能性があるため、走行を停止させる。
【0037】
(3)効果
本実施形態によれば、制御部24が現在のウエブWの走行状態を安定状態、不安定状態、滑り状態の何れかであることを判定できる。そのため、作業者はその状態に応じて駆動装置10を制御できる。
【0038】
(4)変更例
上記実施形態では、モータ20の出力軸28をトルク計18に直接連結したダイレクトドライブ方式であったが、これに代えて、
図3に示すように減速機30をトルク計18とモータ20との間に配したり、さらに、
図4に示すようにモータ20と減速機30との間に駆動ベルトによって連結部32を設けてもよい。
【0039】
また、制御部24は、不安定状態、滑り状態のときには、表示部26に表示することに加えて、スピーカから警報音を発生させてもよい。
【0040】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
10・・・駆動装置、12・・・ロール、14・・・回転軸、16・・・軸受け、18・・・トルク計、20・・・モータ、22・・・駆動部、24・・・制御部、26・・・表示部