(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記エンジンのスタートスイッチがオンになったときに、前記停止時間及び前記作動油の温度に基づいて設定される制御実行時間が経過するまでの間、前記車両のずり下がりを防止する制御を実行する、請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
前記制御部は、前記停止時間と、前記エンジンの停止時に検出した前記作動油の温度と、に基づいて前記車両のずり下がりを防止する制御を行う、請求項1〜7のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
前記制御部は、前記勾配が所定の下限閾値以上、かつ、所定の上限閾値未満の場合に、前記車両のずり下がりを防止する制御を行う、請求項1〜8のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
前記車両は、前記トルクコンバータ及び前記変速機構が前記エンジンに対して前記車両の前後方向の後方側に連設されている車両であり、前記勾配検出部は、前記車両の前後方向の勾配を検出する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
<1.車両の全体構成>
まず、
図1を参照して、本実施形態に係る車両の制御装置を適用可能な車両1の構成例について簡単に説明する。
図1は、車両1の動力伝達系を示す模式図である。
【0024】
図1に示す車両1は、エンジン10で発生したトルクを左右の前後輪すべてに伝達可能な4輪駆動車である。エンジン10には、自動変速機100が連設されている。自動変速機100は、エンジン10に対して、車両1の前後方向に後方側に連設されている。エンジン10から出力されるトルクは、トルクコンバータ110を介して変速機構105に入力され、所定の変速比で変速される。変速されたトルクは、トランスファ装置160によって後輪側及び前輪側に分配される。トランスファ装置160は、デファレンシャルギヤを含んで構成されてもよい。
【0025】
トランスファ装置160から後輪側へ分配されるトルクは、トランスファクラッチ161、リアドライブ軸23、プロペラシャフト25及びドライブピニオン27を介してリアデファレンシャル装置29に伝達される。リアデファレンシャル装置29に伝達されたトルクは、後輪左ドライブ軸15L及び後輪右ドライブ軸15Rを介して左後輪30L及び右後輪30Rに分配されて伝達される。
【0026】
一方、トランスファ装置160から前輪側へ分配されるトルクは、トランスファドライブギヤ及びトランスファドリブンギヤを含むギヤ機構163、並びにフロントドライブ軸21を介してフロントデファレンシャル装置180に伝達される。フロントデファレンシャル装置180に伝達されたトルクは、前輪左ドライブ軸13L及び前輪右ドライブ軸13Rを介して左前輪40L及び右前輪40Rに分配されて伝達される。
【0027】
かかる車両1は、ドライバのブレーキペダルの踏み込み量に基づいて制動力を発生する図示しないメインブレーキシステムと併せて、車両1の駐車時等に車両1を制止状態で維持する電動パーキングブレーキシステムを備えている。電動パーキングブレーキシステムは、例えば、左後輪30L及び右後輪30Rに設けられたドラム式又はディスク式のパーキングブレーキ50L,50Rと、当該パーキングブレーキ50L,50Rを駆動する図示しないアクチュエータと、アクチュエータを駆動制御するパーキングブレーキ制御装置210とにより構成される。なお、電動パーキングブレーキシステムの構成は、かかる例に限定されない。
【0028】
また、車両1は、CAN(Controller Area Network)バス等の通信バスにより接続された複数の制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を含む制御系200を備えている。
図1に示した車両1の制御系200は、パーキングブレーキ制御装置210、エンジン制御装置250及びトランスミッション制御装置270を有する。
【0029】
エンジン制御装置250は、例えば、ドライバによるアクセルの踏み込み量及びエンジン回転数等に基づいてエンジン10に出力させるトルクを決定し、当該トルクに応じてエンジン10の吸気スロットル弁や燃料噴射弁等を駆動制御する。また、トランスミッション制御装置270は、自動変速機100のバルブユニット172に設けられた電磁弁等を駆動制御し、エンジン10から出力されるトルクを所望の変速比で変速する。
【0030】
パーキングブレーキ制御装置210は、基本的には、車両1の駐車時に、ドライバの指示操作等に応じてアクチュエータを駆動して、パーキングブレーキ50L,50Rをオンの状態にする。また、パーキングブレーキ制御装置210は、例えば、車両1の発進時等に、ドライバの指示操作等に応じてアクチュエータを駆動して、パーキングブレーキ50L,50Rをオフの状態にする。
【0031】
これらの各ECUは、CPU(Central Processing Unit)等のマイクロコンピュータや、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶素子、駆動回路等を備えて構成される。また、これらの各ECUは、各種のセンサのセンサ信号を取得可能になっている。各種のセンサは、各ECUに直接接続されていてもよく、あるいは、通信バス又は他のECUを介して接続されていてもよい。
【0032】
例えば、制御系200には、路面の勾配を検出する勾配センサ61のセンサ信号が入力される。勾配センサ61は、車両1の所望の位置に設置される。勾配センサ61としては、例えば、加速度センサが用いられる。また、制御系200には、自動変速機100に供給される作動油の温度を検出する油温センサ63のセンサ信号が入力される。油温センサ63は、例えば、自動変速機100のバルブユニット172に通じる油路のいずれかの位置に設置される。油温センサ63としては、例えば、サーミスタを用いたセンサが用いられる。また、制御系200には、エンジン10のスタートスイッチ65のオンオフ信号が入力される。各ECUは、必要なセンサ信号、あるいは、センサ信号に基づき検出された情報を取得可能になっている。
【0033】
<2.自動変速機の構成例>
図2は、エンジン10に連設された自動変速機100の構成を示すスケルトン図である。
図2において、自動変速機100は、トルクコンバータ110及び変速機構105を備え、エンジン10の出力側に連設されている。変速機構105は、CVTと、前後進切替機構140と、トランスファ装置160とを有する。
【0034】
エンジン10とCVTとの間には、トルクコンバータ110と、ギヤ列116と、インプトクラッチ118とが設けられている。インプットクラッチ118は、低温時に解放され、CVT上での動力伝達部材の滑りを防止する。インプットクラッチ118の締結時において、エンジン10から出力されるトルクは、トルクコンバータ110及びギヤ列116を介してCVTに伝達される。また、前後進切替機構140は、CVTの出力側に、ギヤ列139を介して設けられる。CVT及びギヤ列139を介して前後進切替機構140に伝達されるエンジン10のトルクは、回転方向を前進方向又は後退方向に切り替えられて出力軸149に伝達される。
【0035】
トルクコンバータ110は、エンジン10のクランクシャフト11にフロントカバー113を介して連結されるポンプインペラ112と、ポンプインペラ112に対向するとともにタービン軸114に連結されるタービンライナ111とを備える。トルクコンバータ110内には作動油が供給されており、作動油を介して、ポンプインペラ112からタービンライナ111にエンジン10の駆動力が伝達される。また、トルクコンバータ110内には、エンジン10のクランクシャフト11とタービン軸114とを直結するロックアップクラッチ115が設けられている。
【0036】
CVTは、プライマリプーリ120と、セカンダリプーリ130と、プライマリプーリ120とセカンダリプーリ130との間で動力を伝達する動力伝達部材としての駆動ベルト129とを備える。プライマリプーリ120は、プライマリ軸127に連結された固定シーブ121及び可動シーブ123を有する。プライマリプーリ120にはプライマリ室125が設けられ、プライマリ室125内の油圧を調整することによって可動シーブ123の位置が変化し、シーブ幅が変化する。
【0037】
また、セカンダリプーリ130は、セカンダリ軸137に連結された固定シーブ131及び可動シーブ133を有する。セカンダリプーリ130にはセカンダリ室135が設けられ、セカンダリ室135内の油圧を調整することによって可動シーブ133の位置が変化し、シーブ幅が変化する。駆動ベルト129は、プライマリプーリ120及びセカンダリプーリ130に巻き掛けられている。プライマリプーリ120及びセカンダリプーリ130のシーブ幅を変化させて駆動ベルト129の巻き付け径を変化させることによって、プライマリ軸127からセカンダリ軸137に伝達されるトルクの無段変速が可能となっている。
【0038】
前後進切替機構140は、プラネタリギヤ141と、前進クラッチ143と、後退ブレーキ145とを備える。前進クラッチ143及び後退ブレーキ145を制御することにより、出力軸149の回転方向が切り替え可能になっている。後退ブレーキ145が開放され前進クラッチ143が締結されることにより、ギヤ列139を介してセカンダリ軸137に接続された入力軸147が出力軸149に対して直結されるため、出力軸149が正転方向に回転し、車両の前進走行が可能となる。また、前進クラッチ143が開放され後退ブレーキ145が締結されることにより、入力軸147がプラネタリギヤ141を介して出力軸149に連結されるため、出力軸149が逆転方向に回転し、車両の後退走行が可能となる。なお、前進クラッチ143及び後退ブレーキ145がともに開放されることにより、前後進切替機構140は出力軸149にエンジン10の動力を伝達しないニュートラル状態になる。
【0039】
出力軸149にはトランスファ装置160のギヤ機構163を介してフロントドライブ軸21が連結されている。フロントドライブ軸21の端部(図中の左端)には、フロントデファレンシャル装置180を介して前輪(駆動輪)40が連結されている。また、出力軸149にはトランスファクラッチ161を介してリアドライブ軸23が連結されている。トランスファクラッチ161は、リアドライブ軸23への駆動力の伝達の可否を切り替える。リアドライブ軸23には、図示しないプロペラシャフトやドライブピニオン、リアデファレンシャル装置を介して後輪(駆動輪)30が連結されている。
【0040】
トルクコンバータ110、インプトクラッチ118、プライマリ室125、セカンダリ室135、前進クラッチ143、後退ブレーキ145、及び、トランスファクラッチ161には、オイルポンプ170の駆動により生成される油圧が供給される。オイルポンプ170は、エンジン10のクランクシャフト11に連結された機械式のポンプであって、エンジン10のトルクを用いて駆動される。オイルポンプ170により圧送される作動油は、バルブユニット172を介して各作動部へと供給される。バルブユニット172には、電磁弁等の制御弁が備えられ、各作動部の作動状態に応じて、各作動部へと供給される作動油の量が制御される。バルブユニット172に備えられた各制御弁は、図示しないトランスミッション制御装置により駆動制御される。
【0041】
ここで、エンジン10が停止したままで車両1が長時間放置されると、自動変速機100の各作動部に供給された作動油が、摺動部分等を介して作動部から抜け落ちることが知られている。上述のように、本実施形態に係る車両1では、自動変速機100が、エンジン10に対して、車両1の前後方向の後方側に連設されている。このため、車両1の前方が上方を向くようにして車両1が傾斜面に駐車している場合には、自動変速機100の中でもトルクコンバータ110が上方に位置することになり、トルクコンバータ110内の作動油が抜け落ちやすくなる。
【0042】
トルクコンバータ110内の作動油が抜け落ちると、次のエンジン10の始動直後には、エンジン10から出力されるトルクがCVT側に伝達されないため、トルクコンバータ110内に作動油が充填されるまでの間、駆動輪(前輪40及び後輪30)にトルクを伝達させることができない。このような状態で、ドライバがパーキングブレーキ50R,50Lをオフにし、かつ、ブレーキペダルを開放すると、車両1は路面をずり下がり、危険な状態になり得る。車両1の制御系200のうちのパーキングブレーキ制御装置210は、かかる車両1のずり下がりを防ぐ制御を実行可能になっている。
【0043】
<3.パーキングブレーキ制御装置>
ここまで、本実施形態に係る車両の制御装置を適用可能な車両1及び自動変速機100の構成例について説明した。以下、本実施形態に係る車両の制御装置の一例としてのパーキングブレーキ制御装置210について詳細に説明する。
【0044】
図3は、パーキングブレーキ制御装置210の構成例を示すブロック図である。パーキングブレーキ制御装置210は、CPU等のマイクロコンピュータや記憶素子、回路基板等により構成され、計時部211と、勾配検出部213と、油温検出部215と、制御部217とを備えている。このうち、勾配検出部213、油温検出部215、及び制御部217は、マイクロコンピュータによってコンピュータプログラムを実行することにより実現され得る。かかるパーキングブレーキ制御装置210には、エンジン10のスタートスイッチ65のオンオフ信号、勾配センサ61のセンサ信号、及び油温センサ63のセンサ信号が入力される。
【0045】
勾配検出部213は、勾配センサ61のセンサ信号に基づいて車両1が置かれている路面の勾配の情報を検出する。例えば、勾配検出部213は、CPU及び電気回路により構成され、勾配センサ61のセンサ信号としての電圧値を取得し、電圧値に対応する勾配を算出する。勾配検出部213は、あらかじめ設定される周期ごとに勾配の情報を検出してもよく、制御部217からの指示に応じて勾配の情報を検出してもよい。勾配検出部213は、車両1の前後左右への傾きを検出可能になっていてもよい。
【0046】
油温検出部215は、油温センサ63のセンサ信号に基づいて自動変速機100内に供給される作動油の温度の情報を検出する。例えば、油温検出部215は、CPU及び電気回路により構成され、油温センサ63のセンサ信号としての電圧値を取得し、電圧値に対応する温度を算出する。油温検出部215は、あらかじめ設定される周期ごとに油温の情報を検出してもよく、制御部217からの指示に応じて油温の情報を検出してもよい。
【0047】
計時部211は、所定の経過時間を計測する。計時部211の構成は限定されず、例えば、公知のタイマ素子等が用いられ得る。タイマ素子等からなる計時部211の代わりに、CPUが異なる時点でそれぞれ時刻の情報を読み込み、読み込んだ時刻の情報に基づいて、両時刻間の経過時間を求めるようにしてもよい。本実施形態では、計時部211としてタイマ素子が用いられている例を説明する。
【0048】
制御部217は、例えば、CPU及び電気回路により構成され、勾配検出部213により検出された勾配が所定の閾値以上の場合に、エンジン10の停止時間、及び、トルクコンバータ110に供給される作動油の温度に基づいて、車両1のずり下がりを防止する制御を行う。本実施形態に係るパーキングブレーキ制御装置210では、車両1のずり下がりを防止する制御として、パーキングブレーキ50L,50Rの作動を継続させる制御を行う。
【0049】
具体的に、制御部217は、例えば、エンジン10のスタートスイッチ65がオンからオフに切り替えられたことを検知すると、勾配検出部213により検出される路面の勾配の情報を取得する。このとき取得される勾配の情報は、車両1が駐車している路面の勾配を示している。また、エンジン10の停止を検知する方法は、スタートスイッチ65の信号に基づいて検知する方法に限られず、例えば、アイドルストップ制御に拠らずにエンジン10の回転数がゼロになった場合にエンジン10が停止したことを検知してもよい。
【0050】
また、制御部217は、取得された勾配があらかじめ設定された勾配の閾値を超えている場合に、車両1のずり下がり防止制御実行フラグを立てる。さらに、制御部217は、計時部211によるタイマカウントを開始させ、かつ、油温検出部215により検出される作動油の温度の情報を取得し、図示しない記憶素子に記憶させる。閾値は、トルクコンバータ110によるトルク伝達が機能しない状態において、車両1のずり下がりが生じ得る値に適宜設定される。例えば、勾配の閾値は、5%に設定され得る。本実施形態において、ここでいう勾配とは、車両1の前後方向の勾配であって、車両1のフロント側が上方になる状態が正の値とされる。
【0051】
また、制御部217は、エンジン10のスタートスイッチ65がオフからオンに切り替えられたことを検知すると、車両1のずり下がり防止制御実行フラグが立てられている場合に、計時部211によるタイマカウントの値を取得し、エンジン10の停止時間を算出する。また、制御部217は、記憶素子に記憶された、エンジン10の停止時の作動油の温度の情報と、エンジン10の停止時間の情報とに基づいて、パーキングブレーキ50L,50Rの作動を所定時間継続させる制御を実行する。
【0052】
パーキングブレーキ50L,50Rの作動を継続させる制御実行時間は、トルクコンバータ110からのドレンバック量が多くなるほど長い時間に設定される。つまり、トルクコンバータ110内に作動油が充填されるまでに要する時間に応じて、パーキングブレーキ50L,50Rの作動を継続させる制御実行時間が設定され、車両1の制止状態が維持される。
【0053】
制御実行時間は、エンジン10の停止時に記憶された作動油の温度と、エンジン10の停止時間とに基づいて設定され得る。作動油の温度が高いほど、作動油の粘度が小さく、トルクコンバータ110から作動油が抜け落ちやすいため、制御実行時間はより長い時間に設定される。通常、エンジン10を停止したときの作動油の温度は高温であり、その後、徐々に作動油の温度が低下することから、本実施形態に係るパーキングブレーキ制御装置210の制御部217は、エンジン10の停止時に取得された作動油の温度の情報を用いている。ただし、制御実行時間の設定に用いる作動油の温度の情報は、エンジン10の停止時に取得された作動油の温度の情報に限られない。例えば、エンジン10の停止時から、次の始動時までの期間中、継続的に作動油の温度を記憶しておき、記憶された温度のうちの最も高い温度の情報を用いてもよい。
【0054】
また、エンジン10の停止時間が長いほど、トルクコンバータ110から抜け落ちる作動油の量は多くなるため、制御実行時間はより長い時間に設定される。
図4は、所定の勾配の路面への車両1の駐車時間と、トルクコンバータ110からのドレンバック量(油漏れ量)との関係を概略的に示す説明図である。自動変速機100のうちトルクコンバータ110が上方に位置するように車両1が駐車している場合、時間の経過に伴って徐々に作動油がトルクコンバータ110内から抜け落ちる。所定時間経過後には、トルクコンバータ110内からのドレンバックが終了し、ドレンバック量に変化が見られなくなっている。
【0055】
ドレンバック量の増大速度は、上述のように、作動油の温度が高いほど速くなり得る。さらに、ドレンバック量の増大速度は、路面の勾配が大きいほど速くなり得る。このため、本実施形態に係るパーキングブレーキ制御装置210の制御部217は、エンジン10の停止時に取得された作動油の温度、及び、エンジン10の停止時間の情報と併せて、車両1が駐車している路面の勾配の情報を用いて、制御実行時間を設定する。例えば、制御部217は、複数の勾配について、作動油の温度とエンジンの停止時間とに応じて制御実行時間をあらかじめ設定したマップを参照して、制御実行時間を設定してもよい、なお、ここでいう勾配とは、車両1の前後方向の勾配であって、車両1のフロント側が上方になる状態が正の値とされる。
【0056】
図5は、制御実行時間を設定するためのマップの一例を示している。かかるマップにおいて、横軸が作動油の温度(℃)であり、縦軸がエンジン10の停止時間(h)である。
図5に例示したように、パーキングブレーキ50L,50Rの作動を継続させる制御実行時間は、作動油の温度が高いほど、また、エンジン10の停止時間が長いほど、長い時間に設定されている。
図5の例では、勾配が10%のマップ、勾配が20%のマップ、及び、勾配が30%のマップがあらかじめ作成され、記憶素子等に格納される。
【0057】
いずれのマップにおいても、作動油の温度が高いほど、また、エンジン10の停止時間が長いほど、制御実行時間が長い時間に設定される。さらに、作動油の温度及びエンジン10の停止時間が同じ条件下では、勾配が大きいほど作動油がトルクコンバータ110から抜け落ちやすいため、制御実行時間が長い時間に設定される。
【0058】
制御部217は、例えば、検出された勾配が5%以上15%未満の場合には勾配=10%のマップを参照し、検出された勾配が15%以上25%未満の場合には勾配=20%のマップを参照し、検出された勾配が25%以上35%未満の場合には勾配=30%のマップを参照してもよい。あるいは、制御部217は、検出された勾配に応じて、複数のマップを用いて補間演算を行い、制御実行時間を求めてもよい。
【0059】
本実施形態に係るパーキングブレーキ制御装置210の制御部217は、路面の勾配が所定の閾値以上の場合に車両1のずり下がりを防止する制御を実行するが、かかる制御を実行すべき勾配の上限が定められてもよい。勾配が大きい場合には、トルクコンバータ110によるトルクの伝達機能が維持されている場合であっても車両1のずり下がりが生じ得る。そのため、ドライバは、車両1のずり下がりが生じる可能性を考え、意図的にメインブレーキあるいはパーキングブレーキを作動させると考えられるからである。
【0060】
また、制御部217は、パーキングブレーキ50L,50Rの作動を継続させる制御と併せて、エンジン10のアイドル回転数を上昇させるよう、エンジン制御装置250に指示信号を送信してもよい。これにより、エンジン10から出力されるトルクにより駆動されるオイルポンプ170の吐出量が増大し、トルクコンバータ110内への作動油の供給量が増加する。したがって、トルクコンバータ110内に作動油が充填されるまでの時間が短縮され、パーキングブレーキ50L,50Rを解除する時期が早められるため、車両1の走行開始時期が早められる。なお、エンジン10のアイドル回転数を上昇させる制御が実行される場合、当該制御が実行されない場合に比べて、作動油の温度、エンジン10の停止時間、あるいは、勾配に応じて設定される制御実行時間は短く設定され得る。
【0061】
<4.フローチャート>
次に、
図6及び
図7に基づいて、本実施形態に係る車両1の制御装置としてのパーキングブレーキ制御装置210により実行されるずり下がり防止制御のフローチャートを説明する。
図6は、エンジン10の停止時に実行される処理のフローチャートを示し、
図7は、エンジン10の始動時に実行される処理のフローチャートを示す。
【0062】
まず、
図6を参照して、エンジン10の停止時に実行される処理を説明する。例えば、エンジン10のスタートスイッチ65がオンからオフに切り替えられると、パーキングブレーキ制御装置210の制御部217は、エンジン10の停止を検知する(ステップS10)。制御部217は、エンジン10の回転数に基づいてエンジン10の停止を検知してもよい。
【0063】
次いで、制御部217は、勾配センサ61のセンサ信号に基づいて勾配検出部213により検出される、路面の勾配の情報を取得する(ステップS12)。かかる勾配の情報は、車両1が駐車している路面の勾配を示す。次いで、制御部217は、取得された勾配が、あらかじめ設定された閾値を超えているか否かを判別する(ステップS14)。本実施形態では、エンジン10及び自動変速機100のレイアウトに対応して、車両1の前後方向の勾配が所定の閾値を超えているか否かが判別される。このとき、車両1のフロント側が上方に位置する状態が正の値とされている。
【0064】
閾値は、車両1のメインブレーキあるいはパーキングブレーキ50L,50Rの非作動状態において、車両1が勾配路をずり下がるおそれがある値に設定され得る。閾値は、例えば5%とすることができる。また、かかる閾値は、車両1のずり下がり防止制御を実行すべき勾配の下限値を表しているが、当該制御を実行すべき勾配の上限値が設定されてもよい。勾配の上限値は、例えば、ドライバが、車両1のずり下がりが生じる可能性を考え、意図的にメインブレーキあるいはパーキングブレーキを作動させると考えられる値に設定され得る。勾配の上限値は、例えば30%とすることができる。この場合、制御部217は、ステップS14において、取得された勾配が、あらかじめ設定された所定範囲内にあるか否かを判別する。
【0065】
ステップS14において、取得された勾配が閾値以下と判定された場合(S14:No)、車両1のずり下がり防止制御は不要であるため、制御部217は、ずり下がり防止制御フラグを立てずに(フラグ=false)、エンジン10の停止時の処理を終了する(ステップS20)。一方、ステップS14において、取得された勾配が閾値を超えていると判定された場合(S14:Yes)、制御部217は、ずり下がり防止制御フラグを立てる(フラグ=true)(ステップS16)。
【0066】
次いで、制御部217は、計時部211によるタイマカウントを開始させ、かつ、油温センサ63のセンサ信号に基づいて油温検出部215により検出される作動油の温度の情報を取得する(ステップS18)。制御部217は、取得した油温の情報を記憶素子に記憶させる。このように、勾配が閾値を超えている場合には、ずり下がり防止制御フラグが立てられつつ、タイマカウントが開始され、かつ、油温が取得されて、エンジン10の停止時の処理が終了する。
【0067】
次に、
図7を参照して、エンジン10の始動時に実行される処理を説明する。例えば、エンジン10のスタートスイッチ65がオフからオンに切り替えられると、パーキングブレーキ制御装置210の制御部217は、エンジン10の始動を検知する(ステップS22)。制御部217は、エンジン10の回転数に基づいてエンジン10の始動を検知してもよい。
【0068】
次いで、制御部217は、ずり下がり防止制御フラグが立てられているか否かを判別する(ステップS24)。ずり下がり防止制御フラグが立てられていない場合(S24:No)、制御部217は、ずり下がり防止制御を実行することなく、エンジン10の始動時の処理を終了させる。
【0069】
一方、ずり下がり防止制御フラグが立てられている場合(S24:Yes)、制御部217は、ずり下がり防止制御の実行時間を設定する(ステップS26)。例えば、制御部217は、計時部211で計測されているタイマ値を、エンジン10の停止時間として取得する。また、制御部217は、記憶素子に記憶されている作動油の温度の情報、及び、路面の勾配の情報を取得する。そして、制御部217は、
図5に例示した制御時間設定マップを参照して、路面の勾配、エンジン10の停止時間、及び作動油の温度に基づいて、ずり下がり防止制御の実行時間を設定する。
【0070】
次いで、制御部217は、ずり下がり防止制御を開始する(ステップS28)。本実施形態では、制御部217は、パーキングブレーキ50L,50Rを駆動するアクチュエータを駆動し、パーキングブレーキ50L,50Rを作動状態にする。これにより、ドライバが、エンジン10の始動直後にブレーキペダルを開放し、かつ、パーキングブレーキ50L,50Rをオフにする操作を行った場合であっても、パーキングブレーキ50L,50Rの作動が継続し、車両1のずり下がりが防止される。このとき、制御部217は、エンジン制御装置250に対してアイドル回転数を上昇させるよう要求してもよい。
【0071】
その後、制御部217は、ずり下がり防止制御を開始してからの経過時間が、ステップS26で設定した制御実行時間に到達したか否かを判別する(ステップS30)。制御部217は、ずり下がり防止制御の実行時間が制御実行時間に到達するまでの期間、ずり下がり防止制御の実行を継続する(S30:No)。
【0072】
一方、ずり下がり防止制御の実行時間が制御時間に到達した場合(S30:Yes)、制御部217は、ずり下がり防止制御を終了し、エンジン10の始動時の処理を終了させる(ステップS32)。本実施形態では、制御部217は、パーキングブレーキ50L,50Rを駆動するアクチュエータを駆動し、パーキングブレーキ50L,50Rを解除する。ずり下がり防止制御が終了する時点では、トルクコンバータ110内に作動油が充填され、エンジン10から出力されるトルクが駆動輪に伝達されている。これにより、パーキングブレーキ50L,50Rが解除され、ドライバがブレーキペダルを開放した場合であっても、車両1のずり下がりは生じないようになっている。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る車両1の制御装置(パーキングブレーキ制御装置210)は、エンジン10が停止したときに、車両1が駐車している路面の勾配を検出し、検出された勾配が所定の閾値を超える場合には、次回のエンジン10の始動時に車両1のずり下がり防止制御を実行する。かかるずり下がり防止制御は、エンジン10の始動後に、トルクコンバータ110の入力側の回転数と出力側の回転数とのずれが生じたときに実行開始されるものではないため、エンジン10の始動直後に、ドライバ10がブレーキペダルを開放し、かつ、パーキングブレーキ50L,50Rを解除した場合であっても、車両1のずり下がりを防止することができる。
【0074】
また、本実施形態に係る車両1の制御装置は、エンジン10の停止時間、エンジン10の停止中の作動油の最高温度、及び勾配に基づいて、ずり下がり防止制御の実行時間を設定している。これにより、ずり下がり防止制御の実行時間が必要以上に長く設定されることが避けられ、ドライバの意図しない制動動作の短縮化を図ることができる。さらに、本実施形態に係る車両1の制御装置は、ずり下がり防止制御の実行中に、エンジン10のアイドル回転数を上昇させることもできる。エンジン10のアイドル回転数を上昇させた場合には、ずり下がり防止制御の実行時間をさらに短くすることもできる。
【0075】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0076】
例えば、上記実施形態では、車両1のずり下がり防止制御として、電動パーキングブレーキシステムの作動を継続させていたが、本発明は係る例に限定されない。車両1のずり下がり防止制御は、要するに車輪の回転が規制される制御であればよく、例えば、シフトレバーをパーキング(P)の位置からシフトできないように、シフトレバーの切り替えを禁止させる制御であってもよい。あるいは、ずり下がり防止制御は、パーキングブレーキではなく、メインブレーキシステムの油圧を制御することによってブレーキを作動させて車両1の制動力を付与する制御であってもよい。
【0077】
また、車両1の制御装置は、ずり下がり防止制御を実行する際に、ドライバに対して警告を行ってもよい。例えば、車両1の制御装置は、警告ランプを点灯したり、所定の表示装置に警告表示をさせたり、さらには、警告音を発生させたりしてもよい。これにより、ドライバに車両1のずり下がりの危険を感知させて、ずり下がり防止制御が終了するまで確実に待機させることができる。
【0078】
また、上記実施形態では、車両1の前後方向に沿ってエンジン10の後方側に自動変速機100が配置されており、車両1のフロント側が上方に位置する勾配路に車両1が駐車している場合に、ずり下がり防止制御が実行されるようになっていたが、本発明は係る例に限定されない。エンジン及び自動変速機の配置によるドレンバックの可能性と、車両1のずり下がりの可能性を考慮して、他のレイアウトが採用された車両1に本発明が適用されてもよい。