特許第6725437号(P6725437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725437
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20200706BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20200706BHJP
   G01S 13/87 20060101ALI20200706BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20200706BHJP
   H01Q 3/36 20060101ALI20200706BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20200706BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   G01S7/02 218
   G01S13/931
   G01S13/87
   H01Q3/26 Z
   H01Q3/36
   H01Q21/06
   G08G1/16 C
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-31309(P2017-31309)
(22)【出願日】2017年2月22日
(65)【公開番号】特開2018-136219(P2018-136219A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0365631(US,A1)
【文献】 特開2016−75524(JP,A)
【文献】 特開2016−130654(JP,A)
【文献】 特開2014−64114(JP,A)
【文献】 特許第5464152(JP,B2)
【文献】 特開2010−139367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
G01S 13/00−13/95
H01Q 3/26
H01Q 3/36
H01Q 21/06
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナ素子(50a〜50e)を備え、送信波を送信するように構成された送信アレーアンテナ(50)と、
前記複数の送信アンテナ素子のそれぞれに設けられた移相器を含む複数の移相器であって、各移相器は、前記送信アンテナ素子から送信される前記送信波の位相を変化させるように構成されている、複数の移相器(41a〜41e)と、
複数の受信アンテナ素子(60a〜60e)を備え、送信された前記送信波が物標で反射されてなる反射波を受信するように構成された受信アレーアンテナ(60)と、
前記複数の移相器のそれぞれを用いて、前記複数の送信アンテナ素子のそれぞれから送信される送信波の位相を個別に制御することにより、前記送信波の指向性を制御する指向性制御モード、及び前記複数の送信アンテナ素子の中から少なくとも2つの前記送信アンテナ素子を選択し、選択した前記送信アンテナ素子から互いに干渉しないように前記送信波を送信するMIMOモード、のうちのいずれか一方のモードにより、前記送信波を送信させるように構成された送信制御部(32)と、
前記受信アレーアンテナにより受信された前記反射波から、前記物標の方位を推定するように構成された信号処理部(70)と、を備える、レーダ装置。
【請求項2】
前記送信制御部は、前記MIMOモードにより前記送信波を送信させる場合に、前記少なくとも2つの送信アンテナ素子に対応する少なくとも1つの前記移相器を制御することにより、前記少なくとも2つの送信アンテナ素子から互いに異なる送信波を同時に送信させるように構成されている、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記送信制御部は、前記MIMOモードにより前記送信波を送信させる場合に、前記少なくとも2つの送信アンテナ素子に対応する少なくとも1つの前記移相器を制御することにより、前記少なくとも2つの送信アンテナ素子から互いに異なる周波数の送信波を送信させるように構成されている、請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記複数の受信アンテナ素子は、直線上に等間隔で配置されており、
前記複数の受信アンテナ素子の数をN(Nは2以上の整数)、隣り合う前記受信アンテナ素子の間隔をDrとした場合に、互いに異なる前記送信アンテナ素子の間隔のうちの少なくとも1つは、N×Dr以上に設定されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記複数の送信アンテナ素子は、直線上に等間隔で配置されており、
前記複数の送信アンテナ素子の数をM(Mは2以上の整数)とした場合に、隣り合う前記送信アンテナ素子の間隔は、Dr×N/(M−1)以上に設定されている、請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記レーダ装置は車両(V1)に搭載されており、
前記送信制御部は、少なくとも前記車両の走行状態に応じて、前記指向性制御モードと前記MIMOモードとを切り替えるように構成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記車両の走行状態に応じて、自車両の前後方向から接近する他車両を検知する接近車両検知動作と、自車両の横方向から接近する他車両を検知する横切り車両検知動作のいずれかを選択する検知動作選択部(31)を備え、
前記送信制御部は、前記検知動作選択部により前記接近車両検知動作が選択された場合には、前記指向性制御モードで前記送信波を送信させ、前記検知動作選択部により前記横切り車両検知動作が選択された場合には、前記MIMOモードで前記送信波を送信させるように構成されている、請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記送信制御部は、
前記自車両の速度が予め設定されている速度閾値以上の場合には、前記指向性制御モードで前記送信波を送信させ、前記自車両の速度が前記速度閾値未満の場合には、前記MIMOモードで前記送信波を送信せるように構成されている、請求項6又は7に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、送信アレーアンテナと、送信アレーアンテナを構成する単位アンテナごとに設けられた移相器と、受信アレーアンテナと、を備え、車両に搭載されたレーダ装置が記載されている。上記レーダ装置は、車両の前進時には、自車両に後方から接近する車両を検知する後方接近車両検知モードで動作し、車両の後退時には、自車両の後方を横切る車両を検知する後退時横切り車両検知モードで動作する。そして、上記レーダ装置は、各モードで動作する際に、検知エリアを各モードに適した範囲にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5464152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
後方接近車両検知モードでは、検知エリアを後方向に制限した範囲に設定することが望ましく、移相器を制御して、指向性を制御することが有効である。一方、後退時横切り車両検知モードでは、検知エリアを幅広い方向の範囲に設定することが望ましく、指向性を制御する必要がない。この場合、単位アンテナは一つでよく、単位アンテナが過剰となる。すなわち、上記レーダ装置は、指向性を制御する必要がない場合に、ハードウェア構成をより有効に利用できる余地がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ハードウェア構成を有効に利用して、優れた性能を実現したレーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、レーダ装置であって、送信アレーアンテナ(50)と、移相器(41a〜41e)と、受信アレーアンテナ(60)と、送信制御部(32)と、信号処理部(70)と、を備える。送信アレーアンテナは、複数の送信アンテナ素子(50a〜50e)を備え、送信波を送信する。移相器は、少なくとも2つの送信アンテナ素子のそれぞれに設けられ、当該送信アンテナ素子から送信される送信波の位相を変化させる。受信アレーアンテナは、複数の受信アンテナ素子(60a〜60e)を備え、送信された送信波が物標で反射されてなる反射波を受信する。送信制御部は、移相器を制御することにより送信アレーアンテナの指向性を制御する指向性制御モード、及び複数の送信アンテナ素子の中から少なくとも2つの送信アンテナ素子を選択し、選択した送信アンテナ素子から互いに干渉しないように送信波を送信するMIMOモード、のうちのいずれか一方のモードにより、送信波を送信させる。信号処理部は、受信アレーアンテナにより受信された反射波から、物標の方位を推定する。
【0007】
本開示によれば、移相器を制御して送信アレーアンテナの指向性を制御する指向性制御モード、及び、選択された少なくとも2つの送信アンテナ素子から互いに干渉しない送信波を送信するMIMOモード、のうちのいずれか一方により、送信波が送信される。そして、送信された送信波が物標で反射すると、受信アレーアンテナで反射波が受信され、受信された反射波から物標の方位が推定される。
【0008】
よって、特定方向に存在する物標を検知したい場合は、指向性制御モードでレーダ装置を動作させることにより、特定方向に存在する物標を精度良く検知することができる。一方、幅広い方向に存在する物標を検知したい場合は、MIMOモードでレーダ装置を動作させることにより、仮想的に受信アンテナ素子数を増加させて、レーダ装置の方位分解能を向上させることができる。ひいては、幅広い方向で検知された物標の方位を精度良く推定することができる。すなわち、レーダ装置のハードウェア構成を有効に利用して、優れた性能を実現することができる。
【0009】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】レーダ装置の全体構成を示す図である。
図2】フェーズドアレーモードの説明図である。
図3】MIMOモードの説明図である。
図4】アンテナ基板上に形成された送信アンテナ素子及び受信アンテナ素子のパターンの一例を示す図である。
図5】アンテナ基板上に形成された送信アンテナ素子のうちのMIMOモードで用いる送信アンテナ素子、及び仮想受信アンテナ素子を示す図である。
図6】アンテナ基板上に形成された送信アンテナ素子及び受信アンテナ素子のパターンの他の一例を示す図である。
図7】アンテナ基板上に形成された送信アンテナ素子及び受信アンテナ素子のパターンの他の一例を示す図である。
図8】RCTA動作時の検知エリアを示す図である。
図9】RCVW動作時の検知エリアを示す図である。
図10】FCTA動作時の検知エリアを示す図である。
図11】FCVW動作時の検知エリアを示す図である。
図12】CTA動作時の検知エリアを示す図である。
図13】CVW動作時の検知エリアを示す図である。
図14】物標検知処理の処理手順を示すフローチャートである。
図15】CVW動作の処理手順を示すフローチャートである。
図16】CTA動作の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
<1.全体構成>
まず、本実施形態に係るレーダ装置100の構成について、図1を参照して説明する。本実施形態では、レーダ装置100は車両に搭載することを想定している。レーダ装置100は、送信部30、信号制御部40、送信アレーアンテナ50、受信アレーアンテナ60、及び信号処理部70を備えるミリ波レーダである。
【0012】
送信部30は、検知動作選択部31及び送信制御部32を備える。検知動作選択部31は、計測状況に基づいて、複数の検知動作の中から適した検知動作を選択する。複数の検知動作は、互いに検知エリアAdが異なる動作である。複数の検知動作の詳細については後述するが、本実施形態では、車速センサ11から受信した自車両の車速情報に基づいて、適した検知動作を選択する。
【0013】
送信制御部32は、検知動作選択部31により選択された検知動作に応じた動作モードで、レーダ装置100を動作させる。つまり、送信制御部32は、選択された検知動作に応じた動作モードで、送信アレーアンテナ50から送信波を送信させる。具体的には、送信制御部32は、変調信号、変調信号に従って変調された送信信号、及び送信制御信号を生成し、生成した送信信号及び送信制御信号を信号制御部40へ供給する。なお、変調方式は、2周波CW方式や、多周波CW方式、FMCW方式など何でもよく、特に限定されるものではない。
【0014】
信号制御部40は、移相器41a〜41eと、移相器41a〜41eに対応した増幅器42a〜42eを備える。移相器41a〜41eのそれぞれと、増幅器42a〜42eのそれぞれとの組み合わせは、それぞれ、送信部30と、送信アレーアンテナ50を構成する送信アンテナ素子50a〜50eのそれぞれとの間の伝送路に接続されている。移相器41a〜41eは、送信制御信号に従って、送信信号の位相を制御する。また、増幅器42a〜42eは、送信制御信号に従って、送信信号の振幅を制御する。増幅器42a〜42eは、増幅率をゼロに設定することで、伝送路を遮断するスイッチとしても機能する。
【0015】
送信アレーアンテナ50は、M(Mは2以上の整数)個の送信アンテナ素子から構成されたアレーアンテナである。図1に示す例では、M=5となっており、送信アレーアンテナ50は、5個の送信アンテナ素子50a〜50eを備える。送信アンテナ素子50a〜50eは、それぞれ、増幅器42a〜42eから出力された送信信号に基づいて、電磁波である送信波を送信する。このとき、増幅器42a〜42eの中に、増幅率がゼロに設定されている増幅器がある場合、その増幅器からは送信信号が出力されず、対応する送信アンテナ素子から送信波が出力されない。
【0016】
受信アレーアンテナ60は、N(Nは2以上の整数)個の受信アンテナ素子から構成されたアレーアンテナである。図1に示す例では、N=5となっており、受信アレーアンテナ60は、5個の受信アンテナ素子60a〜60eを備える。受信アンテナ素子60a〜60eは、それぞれ、送信波が物標Pで反射されて返ってきた反射波を受信信号として受信する。そして、受信アンテナ素子60a〜60eは、それぞれ、受信した受信信号を信号処理部70へ出力する。
【0017】
信号処理部70は、送信部30から供給された送信信号と、受信アレーアンテナ60から出力された受信信号とを混合して、ビート信号を生成する。そして、信号処理部70は、ビート信号から、物標Pのレーダ装置100に対する相対速度及び位置を推定する。詳しくは、信号処理部70は、ビート信号を周波数解析して、移動している物標Pを検出するとともに、検出した物標Pのレーダ装置100に対する相対速度及び距離を推定する。さらに、信号処理部70は、ビート信号に、DBF、Capon、MUSIC等の方位展開アルゴリズムを適用して、反射波の到来方向、すなわち、レーダ装置100に対する物標Pの方位を推定する。なお、DBFは、Digital Beam Formingの略であり、MUSICは、Multiple Signal Classificationの略である。
【0018】
さらに、信号処理部70は、推定した物標Pの相対速度、距離、及び方位に基づいて、物標Pが自車両と衝突する可能性を判定し、衝突する可能性がある場合には、ドライバに注意を促すために、警報装置200から警報を出力させる。
【0019】
警報装置200は、ドアミラーや車室内に設けられたインジケータや、車室内のスピーカ、車室内のディスプレイなどである。警報装置200は、信号処理部70からの警報出力の指示に応じて、点滅したり、警告音や音声を出力したり、警告を表示したりする。
【0020】
<2.動作モード>
次に、レーダ装置100の動作モードについて、図2及び図3を参照して説明する。レーダ装置100の動作モードには、フェーズドアレーモードとMIMOモードの2つのモードが存在する。MIMOは、Multi Input Multi Outputの略である。
【0021】
フェーズドアレーモードは、移相器41a〜41eを用いて、送信アンテナ素子50a〜50eのそれぞれから送信される送信波の位相を個別に制御することで、送信アレーアンテナ50から送信される送信波の指向性を制御する動作モードである。図2に示すように、レーダ装置100をフェーズドアレーモードで動作させると、特定方向に狭い指向性を持った送信波が送信される。本実施形態では、フェーズドアレーモードが指向性制御モードに相当する。
【0022】
MIMOモードは、送信アンテナ素子50a〜50eの中から、少なくとも2つの送信アンテナ素子を選択し、選択した送信アンテナ素子から送信波を送信する動作モードである。この際、異なる送信アンテナ素子から送信された送信波が干渉しないように、異なる送信アンテナ素子からは、互いに異なる周波数の送信波を同時に送信させる。または、異なる送信アンテナ素子からは、互いに異なるタイミグで送信波を送信させる。つまり、周波数多重または時間多重で、複数の送信アンテナ素子から送信波を送信させる。本実施形態では、周波数多重で複数の送信アンテナ素子から送信波を送信させる。また、選択していない送信アンテナ素子からは送信波を送信させないように、対応する増幅器の増幅率をゼロに設定する。
【0023】
周波数多重で複数の送信アンテナ素子から送信波を送信させる場合は、選択した送信アンテナ素子に対応する少なくとも1つの移相器を制御して、送信波の周波数をフェーズドアレーモード時の周波数からずらす。2つのアンテナ素子を選択した場合には、どちらか一方に対応する1つの移相器を制御して、一方の送信波の周波数をずらし、他方の送信波の周波数はフェーズドアレーモードの時と同じ周波数とすればよい。また、3つのアンテナ素子を選択した場合には、3つのうちの2つに対応する移相器をそれぞれ制御して、互いに異なる周波数になるようにすればよい。移相器を制御して、送信波の位相を連続的に変化させることで、送信波の周波数を変化させることができる。各アンテナ素子からは、図3に示すように、広い指向性を持った送信波が送信される。
【0024】
レーダ装置100をMIMOモードで動作させると、仮想的に受信アンテナ素子が増加して、反射波の到来方向の推定精度が向上する。図3に示すように、5Drの間隔離れて設けられた送信アンテナ素子50a,50eを選択すると、受信アンテナ素子60aから5Drの間隔離れた位置を起点とする仮想アレーアンテナを構成できる。仮想アレーアンテナは、受信アレーアンテナと同じように、5つの仮想アンテナ素子65a〜65eから構成される。これにより、仮想的に受信アンテナ素子の数が2倍になるため、物標Pの方位の推定精度が向上する。
【0025】
<3.アレーアンテナの構成>
次に、レーダ装置100の送信アレーアンテナ50及び受信アレーアンテナ60の構成について、図4図7を参照して説明する。
【0026】
レーダ装置100をMIMOモードで動作させる場合に、受信アンテナ素子の位置と仮想アンテナ素子の仮想的な位置とが重なると、受信アンテナ素子で受信された受信信号と、仮想アンテナ素子で受信された受信信号とを分離することができなくなる。その結果、物標Pの方位の推定精度の向上効果が低減する。よって、本実施形態では、複数の受信アンテナ素子の位置と、複数の仮想アンテナ素子の仮想的な位置とが一致しないように、送信アレーアンテナ50及び受信アレーアンテナ60を構成する。
【0027】
図4に、送信アレーアンテナ50及び受信アレーアンテナ60の構成の一例を示す。図4に示すように、送信アレーアンテナ50及び受信アレーアンテナ60は、誘電体の基板であるアンテナ基板55の表面に形成されている。アンテナ基板55の裏面には、その全面を覆う銅パターンからなる地板が形成されている。送信アンテナ素子50a〜50e及び受信アンテナ素子60a〜60eは、アンテナ基板55上に、直線上に並べて配置されている。以下では、送信アンテナ素子50a〜50e及び受信アンテナ素子60a〜60eの配列方向をアンテナ配列方向と称する。また、送信アレーアンテナ50側を左側、受信アレーアンテナ60側を右側と称する。
【0028】
送信アンテナ素子50a〜50e及び受信アンテナ素子60a〜60eのそれぞれは、銅パターンからなる矩形状の複数の導体パッチから構成されている。導体パッチは、アンテナ配列方向と直交する方向に沿って等間隔で一列に配置されている。
【0029】
受信アンテナ素子60a〜60eは、間隔Drの等間隔でアンテナ配列方向に並べられている。一方、送信アンテナ素子50a〜50eは、間隔Dtの等間隔でアンテナ配列方向に並べられている。フェーズドアレーモード時の送信周波数における波長をλとした場合、Dr=λ/2となっている。ここで、図5に示すように、最も左側の受信アンテナ素子60aと最も右側の受信アンテナ素子との間隔は4Drとなっている。よって、受信アンテナ素子60aから5Dr離れた位置を起点として仮想アレーアンテナが構成されれば、受信アンテナ素子60a〜60eの位置と仮想アンテナ素子65a〜65eの仮想的な位置とが重なることがない。
【0030】
つまり、受信アンテナ素子の数をN、隣り合う受信アンテナ素子の間隔をDrとした場合、互いに異なる送信アンテナ素子と送信アンテナ素子との間隔のうち少なくとも1つは、N×Dr以上とすればよい。このようにすると、MIMOモードで、N×Dr以上離れた2つ以上の送信アンテナ素子を選択すれば、最も右側の受信アンテナ素子60eよりも右側に、仮想アンテナ素子を構成することができる。
【0031】
さらに、Dt=5/4×Drとすれば、図5に示すように、最も左側の送信アンテナ素子50aと最も右側の送信アンテナ素子50eとの間隔は5Drとなる。よって、MIMOモードで、送信アンテナ素子50a,50eを選択すれば、受信アンテナ素子60a〜60eと重ならない位置に仮想アンテナ素子65a〜65eを構成することができる。
【0032】
つまり、送信アンテナ素子の数をMとした場合、隣り合う送信アンテナ素子の間隔DtをDr×N/(M−1)以上に設定すれば、最も左側の送信アンテナ素子と最も右側の送信アンテナ素子との間隔は必ずN×Dr以上となる。よって、MIMOモードで、最も左側の送信アンテナ素子と最も右側の送信アンテナ素子を選択すれば、受信アンテナ素子と重ならない位置に仮想アンテナ素子を構成することができる。
【0033】
また、図6に、送信アレーアンテナ50の他の構成例を示す。この例では、Dt=5/2×Drとなっている。そのため、最も左側の送信アンテナ素子50aと中央の送信アンテナ素子50cとの間隔、及び中央の送信アンテナ素子50cと最も右側の送信アンテナ素子50eとの間隔が、5Drとなっている。よって、この例では、MIMOモードで、送信アンテナ素子50a,50eに加えて、送信アンテナ素子50cを選択しても、受信アンテナ素子60a〜60eと重ならない位置に仮想アンテナ素子を構成することができる。この場合、図4の例と比べてアンテナ基板55は大型化するが、仮想的に受信アンテナ素子の数が3倍になるため、物標Pの方位の推定精度がより向上する。
【0034】
また、図7に、送信アレーアンテナ50の他の構成例を示す。この例では、送信アレーアンテナ50は、6個の送信アンテナ素子50a〜50fから構成されている。そして、送信アンテナ素子50a〜50fは等間隔に設置されていない。送信アンテナ素子50aと送信アンテナ素子50bはDt=5Drの間隔で設置されており、送信アンテナ素子50b〜50fは、Dt=5/4×Drの間隔で等間隔に設置されている。よって、この例では、MIMOモードで、送信アンテナ素子50a,50b,50fを選択すればよい。このように、受信アンテナ素子が直線上に等間隔に並べられていれば、送信アンテナ素子は直線上に等間隔に並べられていなくてもよい。
【0035】
なお、上記例では、送信アンテナ素子数と受信アンテナ素子数が同じ例と、送信アンテナ素子数が受信アンテナ素子数よりも多い例を示したが、受信アンテナ素子数が送信アンテナ素子すうよりも多くてもよい。素子数と間隔の関係が上述した関係を満たせばよい。
【0036】
<4.検知動作>
次に、車両に搭載されたレーダ装置100が実行可能な検知動作について、図8図13を参照して説明する。本実施形態では、レーダ装置100は、自車両V1の左前の側方、右前の側方、左後の側方、及び右後の側方の4箇所に搭載されている。詳しくは、送信アレーアンテナ50及び受信アレーアンテナ60が、上記4箇所に設置されている。
【0037】
ここで、自車両V1の走行状態に応じて、注意すべき対象が異なる。自車両V1が、交差点付近や駐車場などで比較的低速で走行している場合は、自車両V1の前後を横切る車両を注意すべきである。一方、自車両V1が車道を比較的高速で走行している場合は、通常、自車両V1の前後を他車両が横切ることはないので、自車両V1の前後から接近する他車両を注意すべきである。よって、レーダ装置100は、自車両V1の走行状態に応じて異なる検知動作のアプリケーションを実行する。
【0038】
図8に、RCAT動作の様子を示す。RCATは、Rear Cross Traffic Alertの略である。RCAT動作は、自車両V1の後方を横切る他車両V2を検知する動作である。RCAT動作を実行する場合は、自車両V1の左後及び右後に搭載されたレーダ装置100をMIMOモードで動作させる。この場合、検知エリアAdは、図8に示すように、幅広い方向に広がり、且つ、左後及び右後のレーダ装置100から比較的近い距離までの範囲となる。
【0039】
次に、図9に、RCVW動作の様子を示す。RCVWは、Rear Closing Vehicle Warningの略である。RCVW動作は、自車両V1の後方から接近する他車両V2を検知する動作である。RCVW動作を実行する場合は、自車両V1の左後及び右後に搭載されたレーダ装置100をフェーズドアレーモードで動作させる。この場合、検知エリアAdは、図9に示すように、方向の広がりが狭く、且つ、左後及び右後のレーダ装置100から比較的遠い距離までの範囲となる。
【0040】
次に、図10に、FCTA動作の様子を示す。FCTAは、Front Cross Traffic Alertの略である。FCTA動作は、自車両V1の前方を横切る他車両V2を検知する動作である。レーダ装置100にFCTA動作を実行させる場合は、自車両V1の左前及び右前に搭載されたレーダ装置100をMIMOモードで動作させる。この場合、検知エリアAdは、RCTA動作と同様に、幅広い方向に広がり、且つ、左前及び右前のレーダ装置100から比較的近い距離までの範囲となる。
【0041】
次に、図11に、FCVW動作の様子を示す。FCVWは、Front Closing Vehicle Warningの略である。FCVW動作は、自車両V1の前方から接近する他車両V2を検知する動作である。レーダ装置100にFCVW動作を実行させる場合は、自車両V1の左前及び右前に搭載されたレーダ装置100をフェーズドアレーモードで動作させる。この場合、検知エリアAdは、RCVW動作と同様に、方向の広がりが狭く、且つ、前後及び前後のレーダ装置100から比較的遠い距離までの範囲となる。
【0042】
次に、図12に、CTA動作の様子を示す。CTA動作は、自車両V1の前方及び後方を横切る他車両V2を検知する動作である。レーダ装置100にCTA動作を実行させる場合は、自車両V1の4個のレーダ装置100をMIMOモードで動作させる。この場合、検知エリアAdは、RCTA動作時の検知エリアと、FCTA動作時の検知エリアとを合わせた範囲になる。
【0043】
次に、図13に、CVW動作の様子を示す。CVW動作は、自車両V1の前方及び後方から接近する他車両V2を検知する動作である。レーダ装置100にCVW動作を実行させる場合は、自車両V1の4個のレーダ装置100をフェーズドアレーモードで動作させる。この場合、検知エリアAdは、RCVW動作時の検知エリアと、FCVW動作時の検知エリアとを合わせた範囲になる。
【0044】
なお、RCTA動作、FCTA動作、及びCTA動作が、横切り車両検知動作に相当し、RCVW動作、FCVW動作、及びCVW動作が、接近車両検知動作に相当する。本実施形態では、横切り車両検知動作としてCTA動作を実行し、接近車両検知動作としてCVW動作を実行する。
【0045】
また、レーダ装置100の設置場所及び個数は、上記例に限定されるものではない。例えば、4個のレーダ装置に加えて、自車両V1の前方中央及び後方中央にも搭載してもよいし、前方中央及び後方中央に2個設置するだけでもよい。また、レーダ装置100にFCTA動作及びFCVW動作のみを実行させる場合は、レーダ装置100を、前方中央に1個、または、左前及び右前に2個、または、前方中央、左前及び右前に3個設置してもよい。また、レーダ装置100にRCTA動作及びRCVW動作のみを実行させる場合は、レーダ装置100を、後方中央に1個、または、左後及び右後に2個、または、後方中央、左後及び右後ろに3個設置してもよい。
【0046】
<5.物標検知処理>
次に、自車両周辺の物標Pを検知する物標検知処理の処理手順について、図14図16のフローチャートを参照して説明する。本処理手順は、レーダ装置100ごとに、送信部30及び信号処理部70が、所定周期で繰り返し実行する。
【0047】
まず、ステップS10では、信号処理部70が、前回の処理周期に検知した物標Pの相対速度、距離、方位などのデータを引き継ぐ。すなわち、前回の処理周期にて取得されメモリに格納されていたデータを読み出す。
【0048】
続いて、ステップS20では、送信部30が、車速センサ11から受信した自車両V1の車速が、予め設定されている車速閾値Vth以上か否か判定する。Vthの値は、例えば、30km/hとする。そして、車速が車速閾値Vth以上の場合には、ステップS30へ進み、CVW動作を選択して実行する。一方、車速が車速閾値Vth未満の場合には、ステップS40へ進み、CTA動作を選択して実行する。
【0049】
このとき、車速閾値VthをVth1,Vth2、Vth1>Vth2の2段階に設定してもよい。Vth1,Vth2の値は、例えば、40km/h,20km/hとする。詳しくは、前処理周期でCVW動作を選択している場合は、車速が車速閾値Vth2以上のときに、ステップS30へ進み、車速が車速閾値Vth2未満のときに、ステップS40へ進む。一方、前処理周期でCAT動作を選択している場合は、車速が車速閾値Vth1以上のときに、ステップS30へ進み、車速が車速閾値Vth1未満のときに、ステップS40へ進む。このように、車速閾値を2段階に設定することにより、検知動作の頻繁な切り替えが抑制される。
【0050】
ステップS30では、送信部30及び信号処理部70がCVW動作を実行して、他車両V2と衝突の可能性がある場合に警報を出力する。一方、ステップS40では、送信部30及び信号処理部70がCTA動作を実行して、他車両V2と衝突の可能性がある場合に警報を出力する。ステップS30でCVW動作を実行した後、及びステップS40でCTA動作を実行した後、ステップS50へ進む。CVW動作の実行及びCTA動作の処理の詳細については後述する。
【0051】
ステップS50では、信号処理部70が、今回の処理周期で検知した物標Pの相対速度、距離、方位などのデータを次回の処理周期に引き継ぐ。すなわち、今回の処理周期にて取得したデータをメモリに格納する。以上で本処理を終了する。
【0052】
<5−1.CVW動作>
次に、CVW動作の処理手順について、図15のフローチャートを参照して説明する。本処理手順は、送信部30及び信号処理部70が実行する。
【0053】
まず、ステップS100では、送信部30が、レーダ装置100をフェーズドアレーモードで動作させて、送信波を送信する。
続いて、ステップS110では、信号処理部70が、自車両V1に前後方向から接近する他車両V2を検知したか否か判定する。詳しくは、信号処理部70が、送信信号と受信信号からビート信号を生成し、生成したビート信号から、移動している物標Pを検出するとともに、検出した物標Pの相対速度、距離、方位を推定する。
【0054】
そして、ステップS10で引き継いだ前回の処理周期のデータと、今回の処理周期で取得したデータとから、物標Pの移動ベクトルを算出する。複数の物標Pが検出されている場合は、物標Pごとに、移動ベクトルを算出する。
【0055】
さらに、算出した移動ベクトルが、自車両V1の前後から自車両V1に向かっている場合は、接近中の他車両V2を検知したと判定する。物標Pを検知していない場合、及び、移動ベクトルが自車両V1に向かっていない場合は、接近中の他車両V2を検知していないと判定する。
【0056】
ステップS110において、接近中の他車両V2を検知したと判定した場合は、ステップS120へ進む。一方、ステップS110において、接近中の他車両V2を検知していないと判定した場合は、本処理を終了し、ステップS50の処理へ進む。
【0057】
ステップS120では、信号処理部70が、警報を出力するか否か判定する。すなわち、接近中の他車両V2と自車両V1が衝突する可能性があるか否か判定する。詳しくは、以下の条件(1)〜(4)の1つを満たす場合、または複数の条件を満たす場合に、衝突する可能性があると判定する。すなわち、警報を出力すると判定する。(1)自車両V1の走行方向において、他車両V2が自車両V1から距離閾値Rth以内に存在する。(2)他車両V2の相対速度が速度閾値Vrth以上である。(3)これまでに他車両V2を回数閾値Xth以上検知している。(4)自車両V1と他車両V2の横方向の距離が距離閾値Wth以内で、且つ、自車両V1が他車両V2の方向に方向指示器を操作している。
【0058】
ステップS120において、警報を出力すると判定した場合は、ステップS130へ進み、警報装置200から警報を出力させる。そして、本処理を終了し、ステップ50の処理へ進む。一方、ステップS120において、警報を出力しないと判定した場合は、本処理を終了し、ステップ50の処理へ進む。
【0059】
<5−2.CTA動作>
次に、CTAの処理手順について、図16のフローチャートを参照して説明する。本処理手順は、送信部30及び信号処理部70が実行する。
【0060】
まず、ステップS200では、送信部30が、レーダ装置100をMIMOモードで動作させて、送信波を送信する。
続いて、ステップS210では、信号処理部70が、自車両V1の前後を横切る他車両V2を検知したか否か判定する。詳しくは、ステップS110の処理と同様に、物標Pの移動ベクトルを算出する。そして、算出した移動ベクトルが、自車両V1の横方向から自車両V1に向かっている場合は、横切り中の他車両V2を検知したと判定する。物標Pを検知していない場合、及び、移動ベクトルが自車両V1に向かっていない場合は、横切り中の他車両V2を検知していないと判定する。
【0061】
ステップS210において、横切り中の他車両V2を検知したと判定した場合は、ステップS220へ進む。一方、ステップS210において、横切り中の他車両V2を検知していないと判定した場合は、本処理を終了し、ステップS50の処理へ進む。
【0062】
ステップS220では、ステップS120の処理と同様に、信号処理部70が、警報を出力するか否か判定する。すなわち、横切り中の他車両V2と自車両V1が衝突する可能性があるか否か判定する。詳しくは、以下の条件(5)を満たす場合に、警報を出力すると判定する。(5)自車両V1の移動方向と他車両V2の移動方向が交差し、且つ、その交差点に時間閾値Tth以内に到達する。
【0063】
ステップS220において、警報を出力すると判定した場合は、ステップS230へ進み、警報装置200から警報を出力させる。そして、本処理を終了し、ステップ50の処理へ進む。一方、ステップS220において、警報を出力しないと判定した場合は、本処理を終了し、ステップ50の処理へ進む。
【0064】
<6.効果>
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)フェーズドアレーモード及びMIMOモードのうちのいずれか一方により、レーダ装置100が動作させられる。よって、特定方向に存在する物標Pを検知したい場合は、フェーズドアレーモードを選択することにより、特定方向に存在する物標を精度良く検知することができる。一方、幅広い方向に存在する物標を検知したい場合は、MIMOモードを選択することにより、仮想アレーアンテナを構成して、幅広い方向で検知された物標の方位を精度良く推定することができる。したがって、レーダ装置100のハードウェア構成を有効に利用して、優れた性能を実現することができる。
【0065】
(2)MIMOモードの選択時に、送信アレーアンテナ50の指向性を制御するために設けられている移相器41a〜41eを用いることで、2つ以上の送信アンテナ素子から互いに異なる送信波を同時に送信することができる。つまり、フェーズドアレーモード用のハードウェアをより有効に利用して、MIMOモードでレーダ装置100を動作させることができる。
【0066】
(3)MIMOモードの選択時に、移相器41a〜41eを制御することにより、2つ以上の送信アンテナ素子から互いに異なる周波数の送信波を送信することができる。
(4)受信アンテナ素子数をN、隣り合う受信アンテナ素子の間隔をDrとした場合に、互いに異なる送信アンテナ素子の間隔のうち少なくとも1つは、N×Dr以上に設定される。これにより、MIMOモードの選択時に、互いの間隔がN×Dr以上となる2つ以上の送信アンテナ素子を選択すれば、受信アレーアンテナ60の位置と重ならない位置に仮想アレーアンテナを構成することができる。ひいては、受信アンテナ素子で受信した受信信号と、仮想アンテナ素子で受信した受信信号とを分離することができる。
【0067】
(5)隣り合う送信アンテナの間隔Dtが、Dr×N/(M−1)以上に設定される。これにより、MIMOモードの選択時に、最も外側の2つの送信アンテナ素子を選択すれば、受信アレーアンテナ60の位置と重ならない位置に仮想アレーアンテナを構成することができる。
【0068】
(6)自車両V1の走行状態に応じて、フェーズドアレーモードとMIMOモードとを切り替えることにより、自車両V1の走行状態に応じた適切な検知エリアAdから、検知するべき物標Pを検知して、物標Pの高精度な情報を得ることができる。
【0069】
(7)自車両V1の車速に応じて、CVW動作及びCTA動作のうちのいずれか一方の検知動作が選択される。そして、CVW動作が選択された場合には、レーダ装置100はフェーズドアレーモードで動作させられ、自車両V1に前後方向から接近する他車両V2を精度良く検知することができる。一方、CTA動作が選択された場合には、レーダ装置100は、MIMOモードで動作させられ、自車両V1の前後を横切る他車両V2を検知し、他車両V2の方位を精度良く推定することができる。
【0070】
(8)自車両V1が速度閾値Vth以上の高い速度で走行している場合は、自車両V1の前後方向から接近する他車両V2に注意すべきであるため、レーダ装置100をフェーズドアレーモードで動作させる。一方、自車両V1が速度閾値Vth未満の低い速度で走行している場合は、自車両V1の前後を横切る他車両に注意すべきであるため、レーダ装置100をMIMOモードで動作させる。このようにすることにより、自車両V1の速度に応じて、注意すべき他車両V2の高精度な情報を得ることができる。
【0071】
(他の実施形態)
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0072】
(a)上記実施形態では、自車両V1の前方のレーダ装置100と後方のレーダ装置100とで同じ検知動作を実行しているが、前方のレーダ装置100と後方のレーダ装置100とで異なる検知動作を実行してもよい。具体的には、図1に破線で示すように、検知動作選択部31は、車速情報だけでなく、シフト装置12からシフト位置も受信し、車速情報とシフト位置に基づいて、前方と後方でそれぞれ検知動作を選択すればよい。
【0073】
例えば、シフト位置がドライブの場合には、後方のレーダ装置100には、車速に関わらずRCVW動作を実行させ、前方のレーダ装置100には、高速時にはFCVW動作を実行させ、低速時にはFCTA動作を実行させてもよい。また、シフト位置がリバースの場合には、後方のレーダ装置100には、車速に関わらずRCTA動作を実行させ、前方のレーダ装置100には、高速時にはFCVW動作を実行させ、低速時にはFCTA動作を実行させてもよい。前方のレーダ装置100と後方のレーダ装置100とでそれぞれ検知動作を選択することで、注意すべき他車両をより適切に検知することができる。
【0074】
(b)上記実施形態では、MIMOモードにおいて、移相器を制御することで、送信周波数を変化させて、異なる送信周波数の送信波を同時に送信していたが、これに限定されるものではない。移相器を制御することで、複数の送信アンテナ素子から互いに干渉しない送信波を同時に送信できるのであれば、送信周波数以外を制御してもよい。また、移相器は、必ずしも送信アンテナ素子50a〜50eごとに設けられていなくてもよい。移相器は、送信アンテナ素子50a〜50eのうちの少なくとも2つの送信アンテナ素子のそれぞれに設けられていればよい。
【0075】
(c)上記実施形態では、レーダ装置100を車両に搭載して用いていたが、これに限定されるものではない。レーダ装置100を所定の計測地点に設置して、定点計測を行ってもよい。この場合、天候などの計測状況に応じて、フェーズドアレーモードとMIMOモードとを切り替えて、レーダ装置100を動作させるとよい。
【0076】
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0077】
(e)上述したレーダ装置の他、当該レーダ装置を構成要素とするシステム、物体検知方法など、種々の形態で本発明を実現することもできる。
【符号の説明】
【0078】
32…送信制御部、41a〜41e…移相器、50…送信アレーアンテナ、50a〜50e…送信アンテナ素子、60…受信アレーアンテナ、60a〜60e…受信アンテナ素子、70…信号処理部、100…レーダ装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16