(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態1を説明する。
図1は、燃料電池システム100の構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、制御部20と、カソードガス供給部30と、カソードガス排出部40と、アノードガス供給部50と、アノードガス循環排出部60と、冷媒供給部70とを備える。
【0017】
燃料電池スタック10は、反応ガスとして水素(アノードガス)と空気(カソードガス)との供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池スタック10は、複数枚のセル11が積層されたスタック構造を有する。各セル11は、電解質膜の両面に電極を配置した発電体である膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持する2枚のセパレータとを有する。
【0018】
電解質膜は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜によって構成される。電極は、カーボンによって構成される。電極と電解質膜との界面には、発電反応を促進させるための白金触媒が担持されている。各セル11には、反応ガスや冷媒のためのマニホールド(図示せず)が設けられている。マニホールドの反応ガスは、各セル11に設けられたガス流路を介して、各セル11の発電領域に供給される。
【0019】
制御部20は、負荷200からの発電要求を受け、その要求に応じて、以下に説明する燃料電池システム100の各構成部を制御し、燃料電池スタック10から出力電流を出力する。
【0020】
カソードガス供給部30は、カソードガス配管31と、エアコンプレッサ32と、エアフローメータ33とを備える。カソードガス配管31は、燃料電池スタック10のカソード側に接続された配管である。エアコンプレッサ32は、カソードガス配管31を介して燃料電池スタック10と接続されており、外気を取り込んで圧縮した空気を、カソードガスとして燃料電池スタック10に供給する。
【0021】
エアフローメータ33は、エアコンプレッサ32の上流側において、エアコンプレッサ32が取り込む外気の量を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、この計測値に基づいて、エアコンプレッサ32を駆動することにより、燃料電池スタック10に対する空気の供給量を、負荷200に供給する電力と関連付けて制御する。
【0022】
カソードガス排出部40は、カソード排ガス配管41と、調圧弁43と、圧力計測部44とを備える。カソード排ガス配管41は、燃料電池スタック10のカソード側に接続された配管であり、カソード排ガスを燃料電池システム100の外部へと排出する。調圧弁43は、カソード排ガス配管41におけるカソード排ガスの圧力(燃料電池スタック10の背圧)を調整する。圧力計測部44は、調圧弁43の上流側に設けられており、カソード排ガスの圧力を計測し、その計測値を制御部20に送信する。制御部20は、圧力計測部44の計測値に基づいて調圧弁43の開度を調整する。
【0023】
アノードガス供給部50は、アノードガス配管51と、水素タンク52と、開閉弁53と、レギュレータ54とを備える。水素タンク52は、アノードガス配管51を介して燃料電池スタック10のアノードと接続されており、タンク内に充填された水素を燃料電池スタック10に供給する。
【0024】
開閉弁53及びレギュレータ54は、アノードガス配管51に、この順序で上流側(つまり水素タンク52に近い側)から設けられている。開閉弁53は、制御部20からの指令により開閉し、水素タンク52からの水素の流入を制御する。レギュレータ54は、水素の圧力を調整するための減圧弁であり、その開度が制御部20によって制御されている。
【0025】
アノードガス循環排出部60は、アノード排ガス配管61と、気液分離部62と、アノードガス循環配管63と、水素循環用ポンプ64と、アノード排水配管65と、排水弁66とを備える。アノード排ガス配管61は、燃料電池スタック10のアノードの出口と気液分離部62とを接続する配管であり、発電反応に用いられることのなかった未反応ガス(水素や窒素など)を含むアノード排ガスを気液分離部62へと誘導する。
【0026】
気液分離部62は、アノードガス循環配管63と、アノード排水配管65とに接続されている。気液分離部62は、アノード排ガスに含まれる気体成分と水分とを分離し、気体成分については、アノードガス循環配管63へと誘導し、水分についてはアノード排水配管65へと誘導する。
【0027】
アノードガス循環配管63は、アノードガス配管51に接続されている。アノードガス循環配管63には、水素循環用ポンプ64が設けられており、この水素循環用ポンプ64によって、気液分離部62において分離された気体成分に含まれる水素は、アノードガス配管51へと送り出される。このように、この燃料電池システム100では、アノード排ガスに含まれる水素を循環させて、再び燃料電池スタック10に供給することにより、水素の利用効率を向上させている。
【0028】
アノード排水配管65は、気液分離部62において分離された水分を燃料電池システム100の外部へと排出するための配管である。排水弁66は、アノード排水配管65に設けられており、制御部20からの指令に応じて開閉する。制御部20は、燃料電池システム100の運転中は、通常、排水弁66を閉じておき、予め設定された所定の排水タイミングや、アノード排ガス中の不活性ガスの排出タイミングで排水弁66を開く。
【0029】
冷媒供給部70は、冷媒用配管71と、ラジエータ72と、冷媒循環用ポンプ73と、冷媒温度計測部74とを備える。冷媒用配管71は、燃料電池スタック10に設けられた冷媒用の入口マニホールドと出口マニホールドとを連結する配管であり、燃料電池スタック10を冷却するための冷媒を循環させる。ラジエータ72は、冷媒用配管71に設けられており、冷媒用配管71を流れる冷媒と外気との間で熱交換させることにより、冷媒を冷却する。
【0030】
冷媒循環用ポンプ73は、冷媒用配管71において、ラジエータ72より下流側(燃料電池スタック10の冷媒入口側)に設けられており、ラジエータ72において冷却された冷媒を燃料電池スタック10に送り出す。冷媒温度計測部74は、冷媒用配管71において、燃料電池スタック10の冷媒出口の近傍に設けられており、計測値を制御部20へと送信する。制御部20は、冷媒温度計測部74の計測値から燃料電池スタック10の運転温度を検出する。制御部20は、その検出結果に基づき、ラジエータ72と冷媒循環用ポンプ73とを制御することによって、燃料電池スタック10の温度を調整する。
【0031】
図2は、燃料電池システム100の電気的構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、DC/DCコンバータ82と、DC/ACインバータ83と、セル電圧計測部91と、電流計測部92と、信号重畳部93と、セル電流計測部94とを備える。
【0032】
燃料電池スタック10は、直流電源ラインDCLを介してDC/ACインバータ83に接続されている。DC/ACインバータ83は、負荷200に接続されている。
【0033】
DC/DCコンバータ82は、出力電流の電圧値を計測して、計測結果を制御部20に入力する。DC/DCコンバータ82は、制御部20からの指令に応じて直流電源ラインDCLの電圧レベルを調整する。DC/ACインバータ83は、燃料電池スタック10から得られた直流電力を交流電力へと変換し、負荷200に供給する。
【0034】
セル電圧計測部91は、燃料電池スタック10の各セル11と接続されており、各セル11の電圧値(セル電圧)を計測する。セル電圧計測部91は、その計測結果を制御部20に送信する。
【0035】
電流計測部92は、直流電源ラインDCLに接続されており、燃料電池スタック10の出力する電流値を計測し、制御部20に送信する。セル電流計測部94は、燃料電池スタック10の各セル11と接続されており、各セル11の局所的な電流値(局所電流値)を計測する。セル電流計測部94は、その計測結果を制御部20に送信する。
【0036】
信号重畳部93は、燃料電池スタック10の出力電流に交流信号を重畳する。
図3は、交流信号が印加された出力電流の電流値の時間変化を示すグラフである。信号重畳部93によって重畳される交流信号は、電流値が制御される。
【0037】
信号重畳部93は、交流成分の周波数を、制御部20からの指示に従い決定する。制御部20は、交流成分の周波数として、2つの周波数を指示する。このため、交流成分は、
図3に示すように、2つの周波数成分を有する。2つの周波数のうち、低い方の周波数を低周波数f
L、高い方の周波数を高周波数f
Hと呼ぶ。低周波数f
Lは、例えば1〜150Hzである。低周波数f
Lは、後述する位相差がB°〜C°に属する場合、50Hzでもよい。高周波数f
Hは、例えば200Hz以上である。このように、低周波数f
L及び高周波数f
Hは、両者の比較において高低と呼ばれているだけであり、一般的な意味での「低周波」や「高周波」とは関係の無い呼び方である。
【0038】
制御部20は、セル電圧計測部91およびセル電流計測部94の計測値に基づき、インピーダンスをセル11毎に算出する。インピーダンスは、低周波数f
L及び高周波数f
Hそれぞれについて算出される。
【0039】
図4は、第1拡散抵抗R
wetの算出を説明するための機能ブロック図である。第1拡散抵抗R
wetとは、燃料電池スタック10内部のフラッディングに依拠して変化する拡散特性を示すパラメータ(単位:s/m)である。第1拡散抵抗R
wetは、後述する含水量の算出に用いられる。
【0040】
第1拡散抵抗R
wetの算出のための機能は、抵抗算出部533a、限界電流密度算出部533b、ガス拡散抵抗算出部533c、第2拡散抵抗算出部533d、および第1拡散抵抗算出部533eから構成される。制御部20は、これらの機能を、プログラムの実行によって実現する。
【0041】
抵抗算出部533aは、プロトン移動抵抗R
memおよびガス反応抵抗R
ctをセル11毎に算出する。プロトン移動抵抗R
memは、抵抗過電圧を抵抗換算した成分である。抵抗過電圧は、電解質膜の乾燥に伴って増大する。ガス反応抵抗R
ctは、活性化過電圧および濃度過電圧を抵抗換算した成分である。
【0042】
抵抗算出部533aは、高周波数f
Hのインピーダンスに基づきプロトン移動抵抗R
memを算出する。抵抗算出部533aは、低周波数f
Lのインピーダンスおよびプロトン移動抵抗R
memを用いて、ガス反応抵抗R
ctを算出する。
【0043】
以下、プロトン移動抵抗R
memおよびガス反応抵抗R
ctの算出方法について
図5および
図6を用いて説明する。
図5および
図6は、コールコールプロット図である。コールコールプロット図は、周波数とインピーダンスとの関係を複素平面上に示した特性図である。
【0044】
図6に示すように、高周波数f
Hにおけるインピーダンスの実軸の値がプロトン移動抵抗R
memに相当し、円弧状のインピーダンスの軌跡と実軸とが交わる2つの交点間の値がガス反応抵抗R
ctに相当する。
【0045】
プロトン移動抵抗R
memの算出は、高周波数f
Hにおけるインピーダンスの絶対値R
1および位相θ
1を、以下の数式F1に適用することで実現される。
R
mem=R
1cosθ
1…(F1)
【0046】
低周波数f
L、高周波数f
Hそれぞれにおけるインピーダンスの絶対値R
1、R
2、および位相θ
2を、以下の数式F2、F3に適用して、低周波数f
Lにおけるインピーダンス中のガス反応抵抗R
ctの特性を示す成分を算出する。
φ=tan
-1[(R
2sinθ
2)/{(R
2cosθ
2)−R
mem}]…(F2)
A=(R
2sinθ
2)/(
sinφ)…(F3)
【0047】
前述の数式F2、F3によって得られたφ、およびAを、以下の数式F4に適用して、ガス反応抵抗R
ctを算出する。
R
ct=A/cosφ…(F4)
【0048】
限界電流密度算出部533bは、限界電流密度I
limを算出する。具体的には、限界電流密度I
limを以下の数式F5〜F9によって算出する。
I
lim={e
β/(e
β−1)}I…(F5)
β=(η
cnF)/(2RT)…(F6)
η
c=Eo−E−η
a−η
R…(F7)
η
a=(RT/2αF)ln(I/Io)…(F8)
η
R=IR
mem…(F9)
【0049】
数式F5〜F9における「F」はファラデー定数、「R」は気体定数、「T」は温度、「n」は定数、「I」は電流密度、「Io」は交換電流密度、「E」は制御電圧、「Eo」は理論起電圧、「η
c」は濃度過電圧、「η
a」は活性化過電圧、「η
R」は抵抗過電圧、「α」は電荷移動係数(定数)を示している。
【0050】
ガス拡散抵抗算出部533cは、ガス拡散抵抗R
totalを算出する。ガス拡散抵抗R
totalは、反応ガスの触媒層への拡散の困難性を示すパラメータ(単位:s/m)である。ガス拡散抵抗R
totalは、第1拡散抵抗R
wetおよび第2拡散抵抗R
dryの和に相当する(R
total=R
wet+R
dry)。第2拡散抵抗R
dryは、ドライアップに依拠して変化する拡散特性を示す。
【0051】
ガス拡散抵抗算出部533cは、予め記憶されている関数に基づいて、ガス拡散抵抗R
totalを算出する。この関数は、ガス拡散抵抗R
total、並びに限界電流密度I
lim及びガス反応抵抗R
ctの相関性をモデル化することによって定められる。具体的には、本実施形態のガス拡散抵抗算出部533cは、限界電流密度I
limおよびガス反応抵抗R
ctを、以下の数式F10に適用してガス拡散抵抗R
totalを算出する。
R
total=ρ(I
lim/R
ct)ξ…(F10)
【0052】
数式F10中のρおよびξは、セル11内の反応ガスのガス濃度を変化させた際の限界電流密度によって予め計測しておいたガス拡散抵抗の実測値と推定値とをフィッティングして設定する定数である。ガス拡散抵抗の推定値は、ガス反応抵抗R
ct、および限界電流密度I
limから算出される。
【0053】
数式F10は、上記相関性をモデル化した数式の一例である。数式F10は、ガス反応抵抗R
ct、および限界電流密度I
limそれぞれをガス拡散抵抗R
totalおよび反応ガスのガス濃度を変数とする関数として定義し、各関数から反応ガスのガス濃度に関する項を除去することで導出される。
【0054】
第2拡散抵抗算出部533dは、第2拡散抵抗R
dryを算出する。第2拡散抵抗R
dryは、プロトン移動抵抗R
memと同様に、燃料電池スタック10内部の湿度RHの低下に応じて増大する特性を有する。プロトン移動抵抗R
memは、以下の数式F11に示すように、湿度RHに相関性を有する。第2拡散抵抗R
dryは、以下の数式F12に示すように、拡散係数D
dryに反比例する。拡散係数D
dryは、湿度RHに相関性を有する。
【0055】
RH∝B(R
mem)
C…(F11)
R
dry∝D(σ/D
dry)…(F12)
【0056】
数式F11中の「B」および「C」は定数を示している。また、数式F12中の「D」は定数、「σ」はセル11に含まれる拡散層の厚みを示している。
【0057】
第2拡散抵抗算出部533dは、予め記憶されたプロトン移動抵抗R
memと湿度RHとの相関関係を規定した制御マップを用いて、プロトン移動抵抗R
memから燃料電池スタック10内の湿度RHを算出する。
【0058】
第2拡散抵抗算出部533dは、予め記憶された湿度RHと拡散係数D
dryとの相関関係を規定した制御マップ、および数式F12を用いて、先に算出した湿度RHから第2拡散抵抗R
dryを算出する。
【0059】
第1拡散抵抗算出部533eは、ガス拡散抵抗R
totalか第2拡散抵抗R
dryを減算した値を、第1拡散抵抗R
wet(=R
total−R
dry)として算出する。次に、第1拡散抵抗R
wetを利用した含水量の算出について説明する。
【0060】
図7は、含水量算出処理を示すフローチャートである。含水量算出処理は、制御部20によって実行される。制御部20は、含水量算出処理を、燃料電池システム100の運転中、周期的に実行する。
【0061】
まず、低周波数f
Lの位相差を取得する(S310)。以下、低周波数f
Lの位相差を、単に「位相差」という。位相差とは、信号重畳部93によって重畳される低周波数f
Lの位相から、DC/DCコンバータ82によって計測される低周波数f
Lの位相を引いて得られる差のことである。DC/DCコンバータ82は電圧を計測するので、DC/DCコンバータ82によって計測される低周波数f
Lは、電圧値の交流成分として計測される。
【0062】
次に、位相差が何れの範囲に属しているかを判定する(S320)。
図8は、含水量の計測誤差と、位相差との関係を調べた実験結果を示すグラフである。含水量の計測誤差とは、第1拡散抵抗R
wetから算出した含水量の値から、含水量の実測値を引いて得られる差のことである。ここでいう含水量は、1つのセル11内に含まれる水の質量のことである。
【0063】
第1拡散抵抗R
wetから含水量の算出には、下記数式F13が用いられる。
W=10
-8R
wet4−10
-7R
wet3−10
-5R
wet2+7R
wet-4…(F13)
数式F13は、セル11の第1拡散抵抗R
wetが変化した際のセル11内部における含水量の実測値に対してフィッティングされた近似曲線を表す式である。
【0064】
図8に示されたB°(本実施形態では−45°)〜C°(本実施形態では−29°)においては、計測誤差が±0.25gの範囲に属している。このため、位相差がB°〜C°に属していれば、数式F13を用いることで精度良く含水量を算出できる。本実施形態では、B°の絶対値を第2絶対値と呼び、C°の絶対値を第3絶対値と呼ぶ。同様に、A°の絶対値を第1絶対値と呼び、D°の絶対値を第4絶対値と呼ぶ。
【0065】
本実施形態では、位相差がB°〜C°の範囲に属している場合、つまり位相差の絶対値が第2絶対値〜第3絶対値に属している場合(S320,第2絶対値〜第3絶対値)、含水量を算出し(S360)、含水量算出処理を終える。
【0066】
一方、位相差がA°〜B°に属している場合、つまり位相差の絶対値が第1絶対値〜第2絶対値に属している場合(S320,第1絶対値〜第2絶対値)、高温発電時であるかを判定する(S330)。S330では、冷媒温度計測部74の計測値が基準温度T1以上の場合は高温発電時であり、基準温度T1未満の場合は高温発電時ではないと判定される。
【0067】
高温発電時である場合(S330,YES)、S360に進んで含水量を算出する。一方、高温発電時でない場合(S330,NO)、S360を実行することなく含水量算出処理を終える。
【0068】
高温発電時である場合には、乾燥が進行しやすい。このため、高温発電時である場合には、含水量を算出する必要性が高い一方で、実際の含水量よりも大きい値が算出されると、実際には乾燥していても、湿潤しているという誤判定を誘発し得る。従って、高温発電時である場合、実際の含水量よりも大きい値が算出されやすい条件のときには、算出される値を信頼しない方が良い。実際の含水量よりも大きい値が算出されることは、計測誤差が正値であることと換言される。計測誤差が正値になりやすいのは、位相差がC°よりも大きい範囲、つまり位相差の絶対値が第3絶対値よりも小さい範囲である。
【0069】
但し、計測誤差が負値になりやすい場合であっても、計測誤差の絶対値が大きくなり過ぎる条件であれば、やはり、算出される値を信頼しない方が良い。位相差がA°(本実施形態では−61°)よりも小さい範囲、つまり位相差の絶対値が第1絶対値よりも大きい範囲では、計測誤差の絶対値が大きくなり過ぎる。このため、高温発電時である場合には、位相差の絶対値が第1絶対値〜第3絶対値に属していれば、含水量の算出を実行する。但し、位相差の絶対値が第2絶対値〜第3絶対値の範囲に属していれば高温発電時であるか否かに関わらず含水量を算出するので、位相差の絶対値が第1絶対値〜第2絶対値の場合にS330を実行する。
【0070】
一方、位相差がC°〜D°(本実施形態では−21°)に属している場合、つまり位相差の絶対値が第3絶対値〜第4絶対値に属している場合(S320,第3絶対値〜第4絶対値)、低温発電時であるかを判定する(S340)。S340では、冷媒温度計測部74の計測値が基準温度T2未満の場合は低温発電時であり、基準温度T2以上の場合は低温発電時ではないと判定される。基準温度T2は、基準温度T1よりも低い温度である。
【0071】
低温発電時である場合(S340,YES)、S360に進んで含水量を算出する。一方、低温発電時でない場合(S340,NO)、掃気時であるかを判定する(S350)。掃気時である場合(S350,YES)、S360に進んで含水量を算出する。一方、掃気時でない場合(S350,NO)、S360を実行することなく含水量算出処理を終える。
【0072】
低温発電時である場合には、フラッディングが発生しやすい。このため、低温発電時である場合には、含水量を算出する必要性が高い一方で、実際の含水量よりも小さい値が算出されると、実際にはフラッディングが発生していても、フラッディングは発生していないという誤判定を誘発し得る。従って、低温発電時である場合、実際の含水量よりも小さい値が算出されやすい条件のときには、算出される値を信頼しない方が良い。実際の含水量よりも小さい値が算出されることは、計測誤差が負値であることと換言できる。計測誤差が負値になりやすいのは、位相差がB°よりも小さい範囲、つまり位相差の絶対値が第2絶対値よりも大きい範囲である。
【0073】
但し、計測誤差が正値であっても、計測誤差の絶対値が大きくなり過ぎる条件であれば、やはり、算出される値を信頼しない方が良い。位相差がD°よりも大きい範囲、つまり位相差の絶対値が第4絶対値よりも小さい範囲では、計測誤差の絶対値が大きくなり過ぎる。このため、低温発電時である場合には、位相差の絶対値が第2絶対値〜第4絶対値の範囲に属していれば、含水量の算出を実行する。但し位相差の絶対値が第2絶対値〜第3絶対値の範囲に属していれば、低温発電時であるか否かに関わらず含水量を算出するので、位相差の絶対値が第3絶対値〜第4絶対値の場合にS340を実行する。
【0074】
掃気時についても、低温発電時と同様に取り扱う。掃気は、水分の排出を目的として実行されるので、低温発電時と同様、含水量を算出する必要性が高い一方で、実際の含水量よりも小さい値が算出されると、掃気が不十分になるからである。
【0075】
S320において、位相差がA°よりも小さい範囲、つまり位相差の絶対値が第1絶対値よりも大きい範囲に属する場合、上記したように、計測誤差の絶対値が大きくなり過ぎるので、運転条件に関わらず、S360を実行することなく、含水量算出処理を終える。
【0076】
S320において、位相差がD°よりも大きい範囲、つまり位相差の絶対値が第4絶対値よりも小さい範囲に属する場合についても、上記したように、計測誤差の絶対値が大きくなり過ぎるので、運転条件に関わらず、S360を実行することなく、含水量算出処理を終える。
【0077】
通常の運転状態である場合には、位相差の絶対値が第2絶対値〜第3絶対値に属する場合にのみ、含水量を算出することになる。通常の運転状態である場合には、含水量を算出する必要性がさほど高くないため、精度が良い条件でのみ算出を実施すればよいからである。
【0078】
以上に説明した実施形態によれば、低周波数f
Lの位相差を利用して、ばらつきが大きい場合に含水量の算出結果を採用しないことができる。
【0079】
実施形態2を説明する。実施形態2の説明は、実施形態1と異なる点を主な対象にする。特に説明しない点は、実施形態1と同じである。
【0080】
図9は、交流信号が印加された出力電流の電圧値の時間変化を示すグラフである。本実施形態における信号重畳部93によって重畳される交流信号は、電圧値が制御される。
【0081】
本実施形態における含水量算出処理のS310では、信号重畳部93によって重畳される交流信号の電圧値の位相と、電流計測部92によって計測される電流値の位相との差を取得する。
【0082】
本実施形態においても、含水量の計測誤差と、位相差との関係を実験によって調べておき、第1絶対値〜第4絶対値を決定することで、含水量算出処理を実施形態1と同様に実行できる。
【0083】
本開示は、本明細書の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、先述の課題の一部又は全部を解決するために、或いは、先述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせができる。その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除できる。例えば、以下のものが例示される。
【0084】
算出される値のばらつきが大きい場合、算出される値を採用しなければ、含水量を算出してもよい。
【0085】
含水量の算出の対象は、1枚のセル11毎でなくてもよい。例えば2枚以上のセル11毎を対象にしてもよいし、燃料電池スタック10全体を対象にしてもよい。燃料電池スタック10全体を対象にする場合は、DC/DCコンバータ82によって測定される電圧値と、電流計測部92によって計測される電流値とを用いて、インピーダンスを算出してもよい。
【0086】
含水量の算出は、1枚のセル11毎と、燃料電池スタック10全体との両方を対象にしてもよい。
【0087】
位相差の絶対値が第1絶対値〜第2絶対値に属する場合、高温発電時であっても、含水量を算出しなくてもよい。
【0088】
位相差の絶対値が第3絶対値〜第4絶対値に属する場合、低温発電時と掃気時との何れかであっても、含水量を算出しなくてもよい。
【0089】
上記実施形態において、ソフトウエアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ハードウエアによって実現されてもよい。また、ハードウエアによって実現された機能及び処理の一部又は全部は、ソフトウエアによって実現されてもよい。ハードウエアとしては、例えば、集積回路、ディスクリート回路、または、それらの回路を組み合わせた回路モジュールなど、各種回路を用いてもよい。