特許第6725466号(P6725466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000002
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000003
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000004
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000005
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000006
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000007
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000008
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000009
  • 特許6725466-車両駆動装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725466
(24)【登録日】2020年6月29日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】車両駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20200713BHJP
   B60K 7/00 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   F16H57/04 J
   B60K7/00
   F16H57/04 N
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-177579(P2017-177579)
(22)【出願日】2017年9月15日
(65)【公開番号】特開2019-52711(P2019-52711A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2020年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】妙木 愛子
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−65781(JP,A)
【文献】 特開2017−141881(JP,A)
【文献】 特開2013−60985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ部と、減速機部と、前記電動モータ部および前記減速機部を収容したケーシングとを備え、前記減速機部が、回転中心軸が互いに平行に配置された入力歯車、中間歯車および出力歯車を有し、前記電動モータ部の回転を二段以上で減速して前記車輪用軸受部に伝達する平行軸歯車減速機で構成された車両駆動装置において、
前記ケーシング内に、前記出力歯車の歯車部の一部を油浴状態とする潤滑油が充填され、
前記中間歯車が、前記出力歯車の歯車部と軸方向に近接配置された大径歯車部を有し、
前記大径歯車部の歯先円の径方向外側に、前記出力歯車の回転に伴って掻き上げられた前記潤滑油の一部を受け止めて前記大径歯車部の歯先との間に潤滑油溜りを形成する潤滑油溜り形成部が設けられていることを特徴とする車両駆動装置。
【請求項2】
前記大径歯車部の歯先円のうち、前記潤滑油溜りを構成する前記潤滑油との接触部における接線と、前記大径歯車部と噛み合う歯車部の歯先円とが、前記大径歯車部が車両を前進移動させる方向に回転している時の前記大径歯車部の回転方向前方側で交差している請求項1に記載の車両駆動装置。
【請求項3】
前記潤滑油溜り形成部が、前記大径歯車部を有する前記中間歯車の回転中心軸よりも鉛直方向下方側に設けられている請求項1又は2に記載の車両駆動装置。
【請求項4】
前記大径歯車部と噛み合う歯車部の歯幅が、前記大径歯車部の歯幅よりも大きい請求項1〜3の何れか一項に記載の車両駆動装置。
【請求項5】
前記大径歯車部のうち、前記出力歯車の歯車部と軸方向で対向する端面が、該端面に付着した前記潤滑油を径方向内側から径方向外側に向けて円滑に移動させ得る形状に形成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の車両駆動装置。
【請求項6】
前記出力歯車の回転に伴って掻き上げられる前記潤滑油を、前記出力歯車と前記中間歯車との噛み合い部手前に誘導する誘導部を有する請求項1〜5の何れか一項に記載の車両駆動装置。
【請求項7】
前記誘導部の前記潤滑油の掻き上げ方向前方側の端部が、前記出力歯車と噛み合う前記中間歯車の最大歯先円の内側に位置している請求項6に記載の車両駆動装置。
【請求項8】
前記入力歯車および前記中間歯車が、前記出力歯車の歯車部の一部を油浴状態とする前記潤滑油とは接触しない請求項1〜7の何れか一項に記載の車両駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記の特許文献1には、車両駆動装置の一種であるインホイールモータ駆動装置が開示されている。このインホイールモータ駆動装置は、電動モータ部と、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受部と、電動モータ部の回転を減速して車輪用軸受部に伝達する減速機部と、電動モータ部および減速機部を収容したケーシングとを備え、減速機部には、回転中心軸が互いに平行に配置された(回転中心がオフセット配置された)入力歯車、中間歯車および出力歯車を有し、電動モータ部の回転を二段以上で減速して車輪用軸受部に伝達する平行軸歯車減速機が採用されている。
【0003】
上記の減速機部には、通常、その各部(特に、歯車同士の噛み合い部)を潤滑・冷却するための潤滑機構が設けられる。この潤滑機構としては、例えば、オイルポンプから延びるオイル配管上にノズルを設け、このノズルから所定箇所に向けて潤滑油を噴射するもの(特許文献2)や、歯車(歯車軸)内に歯底に繋がる給油孔を設け、この給油孔を介して歯底に潤滑油を供給するもの(特許文献3)などがある。これらの潤滑機構は、歯車同士の噛み合い部を直接的に潤滑・冷却可能であることから、平行軸歯車減速機の信頼性・耐久性を高める上で好ましいと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−65666号公報
【特許文献2】特開2009−156368号公報
【特許文献3】特開2012−82945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両に対する搭載性の他、車両の走行安定性やNVH特性等を高める観点から、車両駆動装置は、できるだけ軽量・コンパクトであることが求められる。そのため、車両駆動装置に装備される減速機(平行軸歯車減速機)においては、その構成部品を密に配置すると共に、減速機とこれを収容したケーシングとの間の隙間幅を極力小さく設定するのが好ましい(例えば、特許文献1の図7および図8を参照)。従って、減速機、ひいてはインホイールモータ駆動装置の大型化や複雑化、さらには高コスト化等を招来する可能性が高い特許文献2,3の潤滑機構を、インホイールモータ駆動装置の減速機に適用するのは現実的ではない。
【0006】
そこで、減速機を構成する歯車(例えば、出力歯車)の一部を常時油浴状態とし、出力歯車の回転に伴って掻き上げられる潤滑油を利用して歯車同士の噛み合い部を潤滑・冷却する潤滑機構を採用することが検討されている。しかしながら、車両駆動装置を軽量・コンパクト化する目的で、減速機の構成部品を密に配置すると共に、減速機とケーシングとの間の隙間幅を極力小さく設定した場合、出力歯車とこれに噛み合う中間歯車との噛み合い部(最終噛み合い部)よりも前段の噛み合い部(例えば、入力歯車と中間歯車との噛み合い部)には、出力歯車の回転に伴って掻き上げられる潤滑油を効率良く供給できない可能性がある。
【0007】
以上の実情に鑑み、本発明は、減速機に平行軸歯車減速機を適用した車両駆動装置において、装置全体の大型化・複雑化等を招来することなく、減速機を構成する歯車同士の噛み合い部を効率良く潤滑・冷却可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、電動モータ部と、減速機部と、電動モータ部および減速機部を収容したケーシングとを備え、減速機部が、回転中心軸が互いに平行に配置された入力歯車、中間歯車および出力歯車を有し、電動モータ部の回転を二段以上で減速して車輪用軸受部に伝達する平行軸歯車減速機で構成された車両駆動装置において、ケーシング内に、出力歯車の歯車部の一部を油浴状態とする潤滑油が充填され、中間歯車が、出力歯車の歯車部と軸方向に近接配置された大径歯車部を有し、大径歯車部の歯先円の径方向外側に、出力歯車の回転に伴って掻き上げられた潤滑油の一部を受け止めて上記大径歯車部の歯先との間に潤滑油溜りを形成する潤滑油溜り形成部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、減速機部の歯車(特に出力歯車)が回転するのに伴ってケーシング内に充填した潤滑油が掻き上げられると、この潤滑油は、出力歯車と中間歯車との噛み合い部(以下、「最終噛み合い部」ともいう)に供給される他、出力歯車の歯車部と軸方向に近接配置された大径歯車部のうち、特に出力歯車の歯車部と軸方向に対向する一端面に付着する。大径歯車部の一端面に付着した潤滑油は、中間歯車の回転に伴って作用する遠心力等の影響を受けて大径歯車部の一端面に沿って径方向外側に移動し、大径歯車部とこれに噛み合う歯車部(例えば入力歯車の歯車部)との噛み合い部に供給される。また、大径歯車部の歯先円の径方向外側には潤滑油溜り形成部が設けられていることから、大径歯車部の一端面に付着した潤滑油が径方向外側に移動すると、大径歯車部の歯先と潤滑油溜り形成部との間に潤滑油溜りが形成される。潤滑油溜りを構成する潤滑油(の一部)は、大径歯車部の回転に伴って大径歯車部の回転方向前方側に飛散する。そのため、中間歯車よりも前段に配置される歯車(例えば入力歯車)を、潤滑油溜りを構成する潤滑油の飛散方向前方側に配置しておけば、この歯車にも潤滑油を供給することができる。
【0010】
このため、減速機部が、入力歯車、一の中間歯車および出力歯車を有する三軸タイプの平行軸歯車減速機(歯車同士の噛み合い部を二つ有し、電動モータ部の回転を二段階で減速して車輪用軸受部に伝達する平行軸歯車減速機)である場合には、減速機部にオイルポンプやオイル配管を設置する、などといった対策を講じずとも、全ての歯車同士の噛み合い部を効率良く潤滑・冷却することができる。なお、減速機部が、入力歯車と出力歯車との間に二以上の中間歯車が配置され、電動モータ部の回転を三段以上で減速して車輪用軸受部に伝達する平行軸歯車減速機である場合、少なくとも、最終噛み合い部、および上記大径歯車部とこれに噛み合う歯車部との噛み合い部は、上記同様にして効率良く潤滑・冷却することができる。以上のことから、本発明によれば、車両駆動装置の大型化や複雑化等を招来することなく、平行軸歯車減速機を構成する歯車同士の噛み合い部を効率良く潤滑・冷却することができる。
【0011】
大径歯車部の歯先円のうち、潤滑油溜りを構成する潤滑油との接触部における接線と、大径歯車部と噛み合う歯車部の歯先円とが、大径歯車部が車両を前進させる方向に回転している時の大径歯車部の回転方向前方側で交差していれば、車両駆動装置を搭載した車両の前進移動時(すなわち、車両駆動装置の駆動時の大半)に、潤滑油溜りを構成する潤滑油を大径歯車部と噛み合う歯車部に跳ね掛けることが可能となる。
【0012】
これと同様の考え方で、大径歯車部の歯先円のうち、潤滑油溜りを構成する潤滑油との接触部における接線と、被潤滑部品(たとえば中間歯車より前段の歯車や、歯車を回転自在に支持する軸受)の外接円とが交差していれば、被潤滑部品に潤滑油を跳ね掛けることが可能となる。
【0013】
大径歯車部の一端面に付着した後、重力や遠心力の影響を受けて大径歯車部の一端面に沿って径方向外側に移動する潤滑油を適切に受け止め可能とする観点から、潤滑油溜り形成部は、上記大径歯車部を有する中間歯車の回転中心軸よりも鉛直方向下方側に設けるのが好ましい。
【0014】
大径歯車部と噛み合う歯車部の歯幅を、大径歯車部の歯幅よりも大きくしておけば、大径歯車部の一端面に付着した潤滑油を、大径歯車部と噛み合う歯車部に対して効率良く供給することができる。
【0015】
大径歯車部とこれに噛み合う歯車部との噛み合い部を効率良く潤滑・冷却可能とするため、大径歯車部のうち、出力歯車の歯車部と軸方向で対向する端面は、この端面に付着した潤滑油を径方向内側から径方向外側に向けて円滑に移動させ得る形状に形成しておくのが好ましい。なお、「端面に付着した潤滑油を径方向内側から径方向外側に向けて円滑に移動させ得る形状」とは、端面に付着した潤滑油が径方向内側から径方向外側に向けて移動する際に剥離等するような凹凸(段差)がない形状、と同義である。
【0016】
潤滑油溜り形成部の形状および大きさは、歯車等と干渉しない限りにおいて任意に設定することができる。このため、潤滑油溜り形成部は、例えば、ケーシングに一体的に設けた凸部で構成することができる他、出力歯車の軸部で構成することができる。このようにすれば、潤滑油溜りを形成するための別部品(専用部品)が不要となるので、減速機部の複雑化を回避する上で有利となる。
【0017】
出力歯車の回転に伴って掻き上げられる潤滑油を、最終噛み合い部手前に誘導する誘導部を設けておけば、最終噛み合い部に対する潤滑油の供給効率を高めることができる。このとき、上記誘導部のうち、潤滑油の掻き上げ方向前方側の端部を、出力歯車と噛み合う中間歯車の最大歯先円の内側に位置させておけば、最終噛み合い部に対する潤滑油の供給効率を一層高めることができる。
【0018】
入力歯車および中間歯車は、出力歯車の歯車部の一部を油浴状態とする潤滑油とは接触しないように配置するのが好ましい。撹拌抵抗の増大による平行軸歯車減速機の効率低下を避けるためである。同様の理由から、最終噛み合い部は、出力歯車の回転中心軸よりも鉛直方向上側に位置させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上から、本発明によれば、減速機に平行軸歯車減速機を適用した車両駆動装置において、装置全体の大型化・複雑化等を招来することなく、平行軸歯車減速機を構成する歯車同士の噛み合い部を効率良く潤滑・冷却することが可能となる。これにより、軽量・コンパクトで信頼性に富む車両駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る車両駆動装置としてのインホイールモータ駆動装置の全体構造を示す断面図である。
図2図1に示す平行軸歯車減速機の横断面図であって、同減速機を構成する各歯車の配置態様(レイアウト)の一例を示す概要図である。
図3】(a)〜(d)図は、何れも、大径歯車部の変形例を模式的に示す図である。
図4】(a)図および(b)図は、何れも、変形例に係る平行軸歯車減速機の要部概要図である。
図5】変形例に係る平行軸歯車減速機の横断面図である。
図6】変形例に係る平行軸歯車減速機の横断面図である。
図7】(a)図は、変形例に係る平行軸歯車減速機を構成する各歯車の配置態様を示す概要図、(b)図は、(a)図の右側面図である。
図8】インホイールモータ駆動装置を搭載した電気自動車の概略平面図である。
図9図8に示す電気自動車の後方断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
まず、図8および図9に基づき、車両駆動装置の一種であるインホイールモータ駆動装置を搭載した電気自動車11の概要を説明する。図8に示すように、電気自動車11は、シャシー12と、操舵輪として機能する一対の前輪13と、駆動輪として機能する一対の後輪14と、左右の後輪14のそれぞれを駆動するインホイールモータ駆動装置21とを備える。図9に示すように、後輪14は、シャシー12のホイールハウジング15の内部に収容され、懸架装置16を介してシャシー12の下部に固定されている。
【0023】
懸架装置16は、左右に延びるサスペンションアームによって後輪14を支持すると共に、コイルスプリングとショックアブソーバとを含むストラットによって、後輪14が路面から受ける振動を吸収してシャシー12の振動を抑制する。左右のサスペンションアームの連結部分には、旋回時等の車体の傾きを抑制するスタビライザが設けられる。懸架装置16は、路面の凹凸に対する追従性を向上し、後輪14の駆動力を効率よく路面に伝達するために、左右の車輪を独立して上下させる独立懸架式としている。
【0024】
この電気自動車11では、左右のホイールハウジング15の内部に、左右の後輪14それぞれを回転駆動させるインホイールモータ駆動装置21が組み込まれるので、シャシー12上にモータ、ドライブシャフトおよびデファレンシャルギヤ機構等を設ける必要がなくなる。そのため、この電気自動車11は、客室スペースを広く確保でき、しかも、左右の後輪14の回転をそれぞれ制御することができるという利点を備えている。
【0025】
なお、インホイールモータ駆動装置21は、上記のように、後輪14を駆動輪とした後輪駆動タイプの電気自動車11のみならず、前輪13を駆動輪とした前輪駆動タイプの電気自動車や、前輪13および後輪14を駆動輪とした4輪駆動タイプの電気自動車に適用することもできる。また、上記の電気自動車11では独立懸架式の懸架装置16を採用しているが、懸架装置16の懸架方式も任意に設計することができる。
【0026】
電気自動車11の走行安定性およびNVH特性を向上するためには、ばね下重量を抑える必要がある。また、電気自動車11の客室スペースを拡大するためには、インホイールモータ駆動装置21を小型化する必要がある。係る要請に対応すべく、以下説明するようなインホイールモータ駆動装置21を採用する。
【0027】
図1に示すように、車両駆動装置の一種であるインホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させる電動モータ部Aと、電動モータ部Aの回転を減速して出力する減速機部Bと、減速機部Bの出力を車輪(駆動輪としての後輪14:図8参照)に伝達する車輪用軸受部Cとを備えている。電動モータ部Aおよび減速機部Bはケーシング22に収容され、車輪用軸受部Cはケーシング22に取り付けられている。なお、以下の説明では、インホイールモータ駆動装置21をホイールハウジング15(図9参照)内に取り付けた状態で車幅方向外側および車幅方向内側となる側を、それぞれ、アウトボード側およびインボード側という。図1においては、紙面左側がアウトボード側であり、紙面右側がインボード側である。
【0028】
ケーシング22は、電動モータ部Aを収容したモータ収容室22Aと、減速機部Bを収容した減速機収容室22Bとを有する。図示例のケーシング22は、モータ収容室22Aと減速機収容室22Bとを一体的に設けたものであるが、実際には、各室22A,22Bへの電動モータ部Aおよび減速機部Bの組込み性を考慮して任意の位置で分割され、適宜の手段で連結される場合が多い。
【0029】
電動モータ部Aは、ケーシング22に固定されたステータ23と、ステータ23の内側に径方向隙間を介して対向配置されたロータ24と、外周にロータ24を装着したモータ回転軸25とを備えるラジアルギャップ型の電動モータ26で構成されている。モータ回転軸25は、毎分1万数千回程度の回転速度で回転可能であり、その軸方向に離間した二箇所に配置された転がり軸受40,41によってケーシング22に対して回転自在に支持されている。なお、電動モータ26としては、ステータ23とロータ24とが軸方向隙間を介して対向配置される、いわゆるアキシャルギャップ型を採用することもできる。
【0030】
図1に示すように、減速機部Bは、複数の歯車(歯車軸)を有し、各歯車の回転中心軸が互いに平行に配置された、いわゆる平行軸歯車減速機30で構成される。本実施形態の平行軸歯車減速機30は、入力歯車31、中間歯車32および出力歯車33を有する三軸タイプである。図2に基づき各歯車31〜33の回転中心軸O1〜O3の配置態様を具体的に説明すると、出力歯車33の回転中心軸O3が最も鉛直方向下側に配置され、入力歯車31の回転中心軸O1が最も鉛直方向上側に配置され、中間歯車32の回転中心軸O2が回転中心軸O1,O3の間に配置されている。また、出力歯車33と中間歯車32との噛み合い部Mp、すなわち、減速機30の最終噛み合い部Mpは、出力歯車33の回転中心軸O3よりも鉛直方向上側に位置している。これは、減速機部Bを潤滑・冷却するためにケーシング22の減速機室22Bに充填される潤滑油70の撹拌抵抗の増大による減速機30の効率低下を避けるためである。
【0031】
図1に示すように、入力歯車31は、モータ回転軸25と同軸に配置された軸部31aと、軸部31aの径方向外側に張り出したフランジ状の歯車部34とを有する。入力歯車31の軸部31aは、スプライン嵌合によってモータ回転軸25と一体回転可能に連結されており、軸方向の二箇所に離間して配置された転がり軸受42,43によってケーシング22に回転自在に支持されている。
【0032】
中間歯車32は、入力歯車31の軸部31aと平行に配置された軸部32aと、軸部32aの径方向外側に張り出したフランジ状の大径歯車部35および小径歯車部36とを有し、軸部32aは軸方向の二箇所に離間して配置された転がり軸受44,45によってケーシング22に回転自在に支持されている。また、出力歯車33は、上記の軸部31a,32aと平行に配置された軸部33aと、軸部33aの径方向外側に張り出したフランジ状の歯車部37とを有し、軸部33aは軸方向の二箇所に離間して配置された転がり軸受46,47によってケーシング22に回転自在に支持されている。
【0033】
この平行軸歯車減速機30では、入力歯車31の歯車部34と中間歯車32の大径歯車部35とが噛み合い、また、中間歯車32の小径歯車部36と出力歯車33の歯車部37とが噛み合っている。中間歯車32の大径歯車部35の歯数は、入力歯車31の歯車部34および中間歯車32の小径歯車部36の歯数よりも多く、出力歯車33の歯車部37の歯数は、中間歯車32の小径歯車部36の歯数よりも多い。係る構成から、本実施形態の平行軸歯車減速機30は、モータ回転軸25の回転を2段階で減速して車輪用軸受部Cに伝達する。
【0034】
詳細な図示は省略しているが、本実施形態の減速機30において、上記の各歯車部34〜37には、いわゆるはすば歯車を用いている。はすば歯車は、同時に噛み合う歯数が多く、歯当たりが分散されるため、噛み合い時の音が静かでトルク変動が少ないという利点を有する。従って、はすば歯車を用いれば、静粛かつトルク伝達効率に優れた平行軸歯車減速機30を実現する上で有利となる。
【0035】
図1に示すように、車輪用軸受部Cは、いわゆる内輪回転タイプの車輪用軸受50で構成される。車輪用軸受50は、ハブ輪51および内輪52からなる内方部材53と、外輪54と、複数のボール57と、図示外の保持器とを備えた複列アンギュラ玉軸受からなる。詳細な図示は省略しているが、車輪用軸受50の内部空間には、潤滑剤としてのグリースが充填されている。軸受内部空間への異物侵入および軸受外部へのグリース漏洩を防止するため、車輪用軸受50の軸方向両端部にはシール部材が設けられている。
【0036】
ハブ輪51は、スプライン嵌合によって出力歯車33の軸部33aと一体回転可能に連結されている。ハブ輪51のアウトボード側の端部外周にフランジ部51aが設けられ、このフランジ部51aに後輪14のブレーキディスクおよびホイールが取り付けられる。ハブ輪51のインボード側の端部には、内輪52を加締め固定してなる加締め部51bが形成されている。加締め部51bは、車輪用軸受50に対して予圧を付与する。
【0037】
ハブ輪51の外周にアウトボード側の内側軌道面55が形成され、内輪52の外周にインボード側の内側軌道面55が形成されている。外輪54の内周には、両内側軌道面55,55に対応する複列の外側軌道面56が形成されており、対をなす内側軌道面55と外側軌道面56とで形成されるボールトラックに複数のボール57が組み込まれている。外輪54は、そのアウトボード側の端部から径方向外向きに延びるフランジ部を一体に有し、このフランジ部にボルト止めされたアタッチメント58を介してケーシング22にボルト止めされている。
【0038】
以上の構成を備えたインホイールモータ駆動装置21において、電動モータ部Aを構成するステータ23に交流電流が供給されると、これに伴って生じる電磁力によりロータ24およびモータ回転軸25が回転する。モータ回転軸25の回転は、減速機部B(平行軸歯車減速機30)によって減速された上で車輪用軸受50に伝達される。このため、低トルクで高速回転型の電動モータ26を採用した場合でも、駆動輪としての後輪14(図8参照)に必要なトルクを伝達することができる。
【0039】
以上で説明したインホイールモータ駆動装置21において、ケーシング22の減速機収容室22Bには潤滑油70が充填されており(図2参照)、インホイールモータ駆動装置21の駆動時(特に、電動モータ26が電気自動車11を前進移動させる方向に回転駆動されている時)には、歯車31〜33の回転に伴って潤滑油70が減速機部Bの各部に供給されることによって減速機部Bが潤滑・冷却される。減速機収容室22Bに充填する潤滑油70としては、例えば、40℃における動粘度が、23〜38mm2/sの自動変速機油(ATF)、あるいは36〜60mm2/sのギヤ油を使用することができる。自動変速機油には、鉱物油を基油とするものや化学合成油を基油とするものが存在するが、変質(特性変化)が少ない化学合成油を基油とするものを好適に用い得る。
【0040】
本実施形態のインホイールモータ駆動装置21は、減速機部Bを潤滑・冷却するための潤滑機構に主たる特徴があり、以下にその詳細を説明する。
【0041】
軽量・コンパクトなインホイールモータ駆動装置21を実現する上では、減速機部Bの構成部品(歯車31〜33等)を密に配置すると共に、減速機室22Bが小型化されたケーシング22を採用し、平行軸歯車減速機30とケーシング22との間の隙間をできるだけ小さくすることが有効である。しかしながら、このような構成を採用すると、スペース上の制約から、オイルポンプやオイル配管等を必要とするような潤滑機構を減速機室22Bに設置することが困難である。そこで、本実施形態では、平行軸歯車減速機30を構成する歯車31〜33のうち、出力歯車33の歯車部37の一部を常時潤滑油に浸漬させた油浴状態とし、出力歯車33の回転に伴って掻き上げられる潤滑油を利用して減速機30の各部を潤滑・冷却するようにしている。
【0042】
図2に示すように、ケーシング22の減速機室22Bには、所定量の潤滑油70(散点ハッチングで示す)、より具体的には、出力歯車33の歯車部37の周方向一部領域を常時油浴状態にし得る程度の潤滑油70が充填されている。従って、前述した各歯車31〜33の配置態様から、入力歯車31および中間歯車32は、減速機室22Bの底部に溜まった潤滑油70(出力歯車33の歯車部37の一部を常時油浴状態とする潤滑油70)とは接触しない。これにより、潤滑油70の撹拌抵抗の増大による平行軸歯車減速機30の効率低下を避けることができる。
【0043】
前述したとおり、ケーシング22のコンパクト化を図る観点から、平行軸歯車減速機30とケーシング22との間の隙間はできるだけ小さく設定される。ここでは、出力歯車33の歯車部37の歯先(の周方向一部領域)が隙間幅3〜20mm程度の隙間60を介してケーシング22の内壁面と対向し、また、中間歯車32の大径歯車部35の歯先(の周方向一部領域)が上記と同程度の隙間幅を有する隙間を介してケーシング22の内壁面と対向している。
【0044】
図1の拡大図中にも示すように、中間歯車32の大径歯車部35と出力歯車33の歯車部37とは軸方向で近接配置されている。ここでは、大径歯車部35のアウトボード側の端面39(以下、単に「一端面39」ともいう)と歯車部37のインボード側の端面38とが、隙間幅20mm以下、好ましくは10mm以下に設定された軸方向隙間61を介して対向している。
【0045】
詳細は後述するが、本実施形態の平行軸歯車減速機30においては、大径歯車部35の一端面39に付着した後、大径歯車部35(中間歯車32)の回転に伴って作用する遠心力の影響を受けて径方向外側に移動する潤滑油70を利用することにより、入力歯車31(の歯車部34)と中間歯車32(の大径歯車部35)との噛み合い部が潤滑される。そのため、大径歯車部35の一端面39は、この一端面39に付着した潤滑油70を径方向外側に向けて円滑に移動させ得る形状に形成される。本実施形態では、図1に示すように、上記一端面39が凹凸のない平滑な平坦面に形成される。
【0046】
大径歯車部35の一端面39は、必ずしも平滑な平坦面に形成する必要はない。すなわち、大径歯車部35の一端面39は、例えば、図3(a)〜(d)に模式的に示すような形状に形成することも可能である。図3(a)は、大径歯車部35の一端面39を、径方向に沿う平坦面からなり、出力歯車33の歯車部37のインボード側の端面38に対して相対的に離間した位置に配置される内径側端面39aと、径方向に沿う平坦面からなり、上記端面38に対して相対的に近接配置される外径側端面39bと、両端面39a,39bを接続するテーパ面39cとで構成したものである。また、図3(b)は、上記の内径側端面39aと外径側端面39bとの間に微小な段差(例えば、高低差1mm以下の段差)39dを設けたものである。また、図3(c)は、図3(a)とは逆に、内径側端面39aを上記端面38に対して相対的に近接配置すると共に、外径側端面39bを上記端面に対して相対的に離間した位置に配置したものである。また、図3(d)は、図3(a)に示す構成において、大径歯車部35の一端面39の径方向略中央部(内径側端面39aとテーパ面39cとの間)に凹部39eを追加したものである。
【0047】
図2に示すように、大径歯車部35の歯先円C2の径方向外側には、出力歯車33の回転に伴って掻き上げられた潤滑油70の一部を受け止めて大径歯車部35の歯先との間に大径歯車部35の周方向に延びた円弧状の潤滑油溜り62を形成可能な潤滑油溜り形成部63が設けられている。図示は省略するが、効果的に潤滑油を受け止めるために潤滑油溜り形成部63の軸方向位置は、一端面39と重なることが望ましい。本実施形態では、ケーシング22に、減速機室22Bの室内側に突出した凸部を一体的に設け、この凸部で潤滑油溜り形成部63を構成している。この潤滑油溜り形成部63は、中間歯車32の回転中心軸O2よりも鉛直方向下方側に設けられている。出力歯車33の回転に伴って掻き上げられた後、重力や遠心力の影響を受けて移動する潤滑油70を適切に受け止め、潤沢な潤滑油70を有する潤滑油溜り62を形成するためである。また、潤滑油溜り形成部63は、中間歯車32の回転中心軸O2よりも車両前方側(図2においては紙面左側)に設られている。
【0048】
また、本実施形態では、大径歯車部35の歯先円C2のうち潤滑油溜り62を構成する潤滑油70との接触部Cpにおける接線Tと、大径歯車部35と噛み合う入力歯車31の歯車部34の歯先円C1とが、大径歯車部35(中間歯車32)が電気自動車11(図8を参照)を前進移動させる方向に回転している時(図2中の黒塗り矢印参照)の大径歯車部35の回転方向前方側で交差するように、入力歯車31が配置されている。
【0049】
以上の構成により、電動モータ部Aが電気自動車11を前進移動させる方向に回転駆動された時には、減速機部Bが以下のようにして潤滑・冷却される。
【0050】
図2に示すように、モータ回転軸25の出力を受けて入力歯車31、中間歯車32および出力歯車33が回転し(各歯車31〜33の回転方向は、図2中の黒塗り矢印を参照)、出力歯車33の回転に伴って減速機室22Bの底部に貯留された潤滑油70が出力歯車33の歯車部37とケーシング22との間の隙間60に沿って掻き上げられると(図2中の白抜き矢印を参照)、最終噛み合い部Mpに潤滑油70が供給されて、最終噛み合い部Mpが潤滑・冷却される。図1に示すように、最終噛み合い部Mpのアウトボード側には、中間歯車32を支持する転がり軸受45が近接配置されていることから、出力歯車33の回転に伴って掻き上げられた潤滑油70は転がり軸受45にも供給される。
【0051】
また、出力歯車33の歯車部37のインボード側には、微小な軸方向隙間61を介して中間歯車32の大径歯車部35が近接配置されていることから、出力歯車33の回転に伴って潤滑油70が掻き上げられると、この潤滑油70(の一部)は大径歯車部35の一端面39に付着する。大径歯車部35の一端面39に付着した潤滑油70は、大径歯車部35の回転に伴って作用する遠心力等の影響により上記一端面39に沿って径方向外側に移動し、その一部が大径歯車部35と入力歯車31の歯車部34との噛み合い部に供給される。また、本実施形態では、大径歯車部35の歯先円C2の径方向外側に、大径歯車部35の歯先との間に円弧状の潤滑油溜り62を形成する潤滑油溜り形成部63が設けられていることから、大径歯車部35の一端面39に付着した潤滑油70が径方向外側に移動すると、大径歯車部35の歯先円C2と潤滑油溜り形成部63との間に円弧状の潤滑油溜り62が形成される。潤滑油溜り62を構成する潤滑油70(の一部)は大径歯車部35の回転に伴って掻き取られて大径歯車部35の回転方向前方側に飛散し、入力歯車34の歯車部34に供給される。
【0052】
特に本実施形態では、大径歯車部35の歯先円C2のうち潤滑油溜り62を構成する潤滑油70との接触部Cpにおける接線Tと、入力歯車31の歯車部34の歯先円C1とが、大径歯車部35が電気自動車11を前進移動させる方向に回転している時の大径歯車部35の回転方向前方側で交差している。このため、潤滑油溜り62を構成する潤滑油70を入力歯車31の歯車部34に効率良く供給する(跳ね掛ける)ことができる。
【0053】
以上のことから、入力歯車31(の歯車部34)と中間歯車32(の大径歯車部35)との噛み合い部に多くの潤滑油70を供給することができる。そのため、減速機部Bにオイルポンプやオイル配管を設置する、などといった対策を講じずとも、平行軸歯車減速機30を構成する全ての歯車同士の噛み合い部を効率良く潤滑・冷却することができる。
【0054】
また、入力歯車31の歯車部34に供給された潤滑油70は、入力歯車31の回転によって入力歯車31付近のケーシング内壁に付着して流れ落ち、転がり軸受42,43を潤滑・冷却する。さらに、中間歯車32の軸部32aを支持するインボード側の転がり軸受44や、出力歯車33の軸部33aを支持する転がり軸受46,47は、主に、ケーシング22の内壁面に付着した後、重力の影響を受けてケーシング22の内壁面を伝い落ちてくる潤滑油70によって潤滑・冷却される。従って、減速機部Bに設けられる転がり軸受42〜47も効率良く潤滑・冷却することができる。
【0055】
以上、本発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限られない。
【0056】
例えば、以上では、中間歯車32の大径歯車部35の歯幅と、大径歯車部35と噛み合う入力歯車31の歯車部34の歯幅とを同寸としたが(図1参照)、図4(a)に模式的に示すように、入力歯車31の歯車部34の歯幅を大径歯車部35の歯幅よりも大きくしても良い。より具体的には、入力歯車31の歯車部34の歯幅を大径歯車部35の歯幅よりも大きくし、かつ、歯車部34のうち、少なくともアウトボード側の一部領域を大径歯車部35のアウトボード側の端部よりもアウトボード側に突出させるのが良い。これにより、大径歯車部35の一端面39に付着し、大径歯車部35の回転に伴って作用する遠心力の影響を受けて径方向外側に移動する潤滑油70や、大径歯車部35の回転に伴って跳ね上げられる潤滑油溜り62の潤滑油70を入力歯車31の歯車部34に供給し易くなる。
【0057】
ここで、図3(a)や図3(d)に示すように大径歯車部35の一端面39にテーパ面39cを設けた場合、入力歯車31の歯車部34に対する潤滑油70の供給効率を高める上では、上記のように、入力歯車31の歯車部34の歯幅を大径歯車部35の歯幅よりも大きくし、かつ、歯車部34のうち、少なくともアウトボード側の一部領域を大径歯車部35のアウトボード側の端部よりもアウトボード側に突出させるのが好ましい。大径歯車部35の一端面39にテーパ面39cが設けられている場合、一端面39に付着し、遠心力の影響を受けて一端面39に沿って径方向外側に移動する潤滑油70は、主にテーパ面39cの延長線上に飛散するからである。従って、特に大径歯車部35の一端面39にテーパ面39cを設ける場合には、図4(b)に示すパラメータ(x、R、r、θ)の値を以下の関係式が成立するように設定する。
x>tanθ(R−r)
なお、x:入力歯車31の歯車部34のアウトボード側への突出量、R:大径歯車部35の歯先円直径、r:テーパ面39cの外径端部の直径、θ:径方向に対するテーパ面39cの傾斜角、である。
【0058】
図5に、本発明の他の実施形態に係る平行軸歯車減速機30の横断面図を模式的に示す。同図に示す実施形態は、主に、(1)入力歯車31および潤滑油溜り形成部63の配置態様、および(2)ケーシング22の形状、が図2に示す実施形態と異なる。
【0059】
上記(1)の相違点について詳細に説明すると、この実施形態では、入力歯車31の回転中心軸O1を、中間歯車32の回転中心軸O2と出力歯車33の回転中心軸O3との間に配置すると共に、潤滑油溜り形成部63(潤滑油溜り62)を中間歯車32の回転中心軸O2の直下位置に配置している。これにより、この実施形態でも、上記接線Tと、入力歯車31の歯車部34の歯先円C1とが、大径歯車部35が電気自動車11を前進移動させる方向に回転している時の大径歯車部35の回転方向前方側で交差している。このため、潤滑油溜り62を構成する潤滑油70を入力歯車31の歯車部34に跳ね掛けることができる。
【0060】
次に、上記(2)について詳細に説明すると、この実施形態では、ケーシング22の一部を減速機収容室22Bの室内側に向けて膨出させることにより、出力歯車33の回転に伴って掻き上げられる潤滑油70を最終噛み合い部Mp手前に誘導する誘導部64を形成している。これにより、最終噛み合い部Mpに対する潤滑油70の供給量を増すことができるので、最終噛み合い部Mpにおける潤滑・冷却効率を高めることができる。
【0061】
図6に、本発明の他の実施形態に係る平行軸歯車減速機30の横断面図を模式的に示す。この実施形態は、図5に示す実施形態の変形例であり、上記の誘導部64を延長し、誘導部64の終端部を中間歯車32の最大歯先円(大径歯車部35の歯先円)C2の範囲内に位置させた点において、図5に示す実施形態と構成を異にする。本実施形態の構成を採用すれば、出力歯車33の回転に伴って掻き上げられた潤滑油70を、出力歯車33、中間歯車32および誘導部64の協働によって最終噛み合い部Mpの手前に溜めることが可能となる。要するに、最終噛み合い部Mpの手前に潤滑油溜りを形成することができる。従って、平行軸歯車減速機30の駆動中、最終噛み合い部Mpに対して常時潤沢な潤滑油70を供給することができる。
【0062】
なお、各歯車31〜33の回転中、最終噛み合い部Mpに供給された潤滑油70は、主に、最終噛み合い部Mpの接線(図示せず)に沿って両歯車33,32の回転方向前方側に飛散する。そのため、図5および図6に示す実施形態においては、最終噛み合い部Mpを潤滑した潤滑油70を入力歯車31に供給することもできる。
【0063】
図5および図6に示す実施形態では、ケーシング22に誘導部64を一体的に設けたが、誘導部64はケーシング22以外の部品で構成することも可能である。ケーシング22以外の部品としては、例えば、ボルト等の締結部材、あるいは油温計などを挙げることができる。
【0064】
また、以上で説明した実施形態では、潤滑油溜り形成部63をケーシング22に一体的に設けたが、潤滑油溜り形成部63は、例えば、出力歯車33の軸部33aや、ケーシング22と他部材とを締結するために使用されるボルト等の締結部材で構成することも可能である(図示省略)。
【0065】
また、以上では、モータ回転軸25の回転を二段階で減速して車輪用軸受部Cに伝達する三軸タイプの平行軸歯車減速機30に本発明を適用したが、本発明は、図7(a)(b)に模式的に示すように、入力歯車31と出力歯車33との間に第1中間歯車32Aおよび第2中間歯車32Bが設けられ、かつ入力歯車31の回転中心軸O1、第1中間歯車32Aの回転中心軸O21、第2中間歯車32Bの回転中心軸O22および出力歯車33の回転中心軸O3が平行に配置された、いわゆる四軸タイプの平行軸歯車減速機30に適用することも可能である。
【0066】
第1中間歯車32Aは、軸方向に離間して設けられた小径歯車部35Aおよび大径歯車部36Aを有し、第2中間歯車32Bは、軸方向に離間して設けられた小径歯車部35Bおよび大径歯車部36Bを有する。そして、第1中間歯車32Aの大径歯車部35Aが入力歯車31の歯車部34と噛み合い、第1中間歯車32Aの小径歯車部36Aが第2中間歯車32Bの大径歯車部35Bと噛み合い、第2中間歯車32Bの小径歯車部36Bが出力歯車33の歯車部37と噛み合っている。このため、この実施形態の平行軸歯車減速機30は、モータ回転軸25の回転を三段階で減速した上で車輪用軸受部Cに伝達する。
【0067】
この実施形態では、図7(b)に示すように、第1中間歯車32Aの大径歯車部35Aが出力歯車33の歯車部37と軸方向で近接配置されており、大径歯車部35Aの歯先円C2の径方向外側に潤滑油溜り形成部63が配置されている。そのため、電気自動車11を前進移動させる方向に各歯車31,32A,32B,33が回転し(各歯車の回転方向は図7(a)中の黒塗り矢印を参照)、出力歯車33の回転に伴って潤滑油70が掻き上げられると、この潤滑油70は、出力歯車33の第2中間歯車32Bとの噛み合い部(最終噛み合い部Mp)に供給される他、出力歯車33の歯車部37と軸方向に対向する大径歯車部35Aの一端面39に付着する。
【0068】
大径歯車部35Aの一端面39に付着した潤滑油70は、第1中間歯車32Aの回転に伴って作用する遠心力等の影響を受けて径方向外側に移動し、その一部が大径歯車部35Aと入力歯車31の歯車部34との噛み合い部に供給される。また、大径歯車部35Aの一端面39に付着した潤滑油70が径方向外側に移動すると、大径歯車部35Aの歯先円C2と潤滑油溜り形成部63との間に円弧状の潤滑油溜り62が形成される。潤滑油溜り62を構成する潤滑油70(の一部)は大径歯車部35Aの回転に伴って掻き取られて大径歯車部35Aの回転方向前方側に飛散し、入力歯車31の歯車部34に供給される。特に、大径歯車部35Aの歯先円C2のうち潤滑油溜り62を構成する潤滑油70との接触部Cpにおける接線Tと、入力歯車31の歯車部34の歯先円C1とが、大径歯車部35が電気自動車11を前進移動させる方向に回転している時の大径歯車部35の回転方向前方側で交差していることから、潤滑油溜り62を構成する潤滑油70を入力歯車31の歯車部34に効率良く供給することができる。
【0069】
以上のことから、本実施形態では、入力歯車31と第2中間歯車32Bとの噛み合い部(最終噛み合い部Mp)の他、入力歯車31と第1中間歯車32Aとの噛み合い部を効率良く潤滑・冷却することができる。
【0070】
図示は省略するが、本発明は、入力歯車31と出力歯車33との間に3つ以上の中間歯車が配置された平行軸歯車減速機30で減速機部Bが構成される車両駆動装置21にも適用することが可能である。
【0071】
以上では、ケーシング22に収容された電動モータ部Aおよび減速機部Bと、ケーシング22に取り付けられた車輪用軸受部Cとを備えたインホイールモータ駆動装置21に本発明を適用したが、本発明は、インホイールモータ駆動装置21以外の車両駆動装置、例えば、電動モータ部Aおよび減速機部Bを収容したケーシングが車体に取り付けられ、減速機部Bの出力がドライブシャフトを介して車輪(車輪用軸受)に伝達される、いわゆるオンボードタイプの車両駆動装置にも適用することができる。
【0072】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得る。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0073】
21 インホイールモータ駆動装置
22 ケーシング
26 電動モータ
30 平行軸歯車減速機
31 入力歯車
32 中間歯車
33 出力歯車
34 歯車部
35 大径歯車部
36 小径歯車部
37 歯車部
39 一端面
50 車輪用軸受
62 潤滑油溜り
63 潤滑油溜り形成部
70 潤滑油
A 電動モータ部
B 減速機部
C 車輪用軸受部
1 入力歯車の歯先円
2 大径歯車部の歯先円
Cp 接触部
Mp 最終噛み合い部
O1 回転中心軸
O2 回転中心軸
O3 回転中心軸
T 接線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9