(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0006】
発明の概要及び要約は参照により本明細書に組み込まれる。全ての比、百分率及びその他の量は、特に指定のない限り、重量による。冠詞「a」、「an」、及び「the」はそれぞれ、明細書の文脈により特に指示されない限り、1つ以上を指す。接頭語「ポリ」は、1つより多くを意味する。本明細書で使用される略語は以下の表1に定義される。
【0008】
「アリールハロゲン化物」は、芳香族ヒドロカルビル環を有する化合物であって、1個のハロゲン原子が環内の炭素原子に共有結合したもの(すなわち、芳香環内の炭素原子に直接共有結合した水素原子のうちの1個が、ハロゲン原子で置換された芳香族炭化水素)を意味する。アリールハロゲン化物は、クロロベンゼン(塩化フェニル)、臭化フェニル、及びヨウ化フェニルによって例示されるが、これらに限定されない。
【0009】
「金属(metallic)」は、その金属が酸化数0を有することを意味する。
【0010】
「パージ」は、容器に気流を導入し、望ましくない材料を除去することを意味する。
【0011】
「滞留時間」は、連続プロセスにおいて材料が反応器系を通過するのにかかる時間、又はバッチプロセスにおいて材料が反応器内で費やす時間を意味する。例えば、滞留時間は、工程(1)(及び存在する場合工程(3))における、連続プロセスにおいて金属の組み合わせ(B)が反応器を通過する際、1反応器容量の金属の組み合わせ(B)を成分(A)と接触させる時間、又はバッチプロセスにおいて金属の組み合わせ(B)を反応器内に置いている時間、を指し得る。あるいは、滞留時間は、工程(2)(及び存在する場合工程(4))における、連続プロセスにおいてケイ素合金触媒が反応器系を通過する際、1反応器容量のケイ素合金触媒を反応物質(C)と接触させる時間、又はバッチプロセスにおいてケイ素合金触媒を反応器内に置いている時間、を指し得る。あるいは、滞留時間は、1反応器容量の反応物質(C)の気体が、ケイ素合金触媒が入っている反応器を通過するのにかかる時間、例えば、1反応器容量の反応物質(C)が、ケイ素合金触媒が入っている反応器を通過するのにかかる時間を指し得る。
【0012】
本願の目的のため、用語「ケイ素合金」は、実験式Cu
pAu
qCo
rCr
sFe
tMg
uMn
vNi
wPd
xAg
ySi
z(式中、下付き文字p、q、r、s、t、u、v、w、x、y、及びzは、存在する各元素のモル量を表し、p>0、q≧0、r≧0、s≧0、t≧0、u≧0、v≧0、w≧0、x≧0、y≧0、及びz>0であり、但し、q、r、s、t、u、v、w、x、及びyのうちの少なくとも1つは、0ではない。)の材料を意味する。
【0013】
「ケイ素合金触媒」は、本明細書に記載の方法の工程(1)において生成した、及び/又は本明細書に記載の方法の工程(3)において再生成した固体生成物であって、アリールハロゲン化物と反応して反応生成物を生成させることが可能であるものを意味する。
【0014】
「使用済み触媒」は、工程(2)の後の(及び、工程(4)が存在する場合は工程(4)の後の)ケイ素合金触媒を指す。工程(2)(又は工程(4))の後の使用済み触媒がケイ素合金触媒中に含むケイ素の量は、工程(1)の後で工程(2)の開始前(又は工程(3)の後で工程(4)の開始前)よりも少ない。使用済み触媒は、消耗していても、又は消耗していなくてもよく、すなわち、使用済み触媒は、ケイ素を欠いていてもよく、又はある種のケイ素を含んでもよく、それが反応性であっても又は反応性でなくてもよい。反応性である、ある種のケイ素を含む使用済み触媒は、消耗していない。
【0015】
「処理」は、気流を容器内に導入し、成分を、別の成分と接触する前に、前処理することを意味する。処理は、金属の組み合わせ(B)を接触させることにより、金属を、本方法の工程(1)において成分(A)と接触させる前に、還元又は別の方法で活性化すること、及び/又はケイ素合金触媒を、本方法の工程(2)の前に、還元又は別の方法で活性化すること、を含む。
【0016】
アリール官能性シランを含む反応生成物の調製方法が開示される。本方法は、逐次的な工程(1)及び(2)を含み、
工程(1)は、ケイ素析出条件下で、
(A)(I)式H
aSiX
(4−a)(式中、各Xは、独立してハロゲン原子であり、0≦a≦1である。)のハロシラン、及び任意選択的に(II)水素(H
2)、を含む成分、並びに
(B)銅(Cu)及び少なくとも1つの他の金属を含み、その少なくとも1つの他の金属が、金(Au)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、及び銀(Ag)からなる群から選択される、金属の組み合わせ、
を接触させることにより、Si、Cu、及び上述の少なくとも1つの他の金属を含むケイ素合金触媒、を生成させる工程であり、
工程(2)は、ケイ素合金触媒、及び(C)アリールハロゲン化物を含む反応物質、をケイ素腐食条件下で接触させることにより、
アリール官能性シラン及び使用済み触媒を含む反応生成物、を生成させる工程であり、上記の方法は、逐次的な工程(3)及び(4)を、任意選択的に更に含み得、
工程(3)は、ケイ素析出条件下で、(I)追加のハロシラン、及び任意選択的に(II)追加のH
2を含む追加の成分を接触させることにより、ケイ素合金触媒を再生成させる工程であり、
工程(4)は、工程(3)において再生成したケイ素合金触媒を、追加のアリールハロゲン化物を含む追加の反応物質と接触させることにより、アリール官能性シラン及び使用済み触媒を含む、追加の量の反応生成物、を生成させる工程であり、上記の方法は、工程(3)及び(4)を更に含む場合、工程(3)及び(4)を少なくとも1回繰り返す工程(5)、を任意選択的に更に含み、
上記の方法は、工程(2)の後、及び/又は存在する場合工程(4)及び/又は工程(5)の後、アリール官能性シランを回収する工程(6)、を任意選択的に更に含む。
【0017】
本明細書に記載する方法の工程(1)において、ケイ素合金触媒を、成分(A)、及び金属の組み合わせ(B)を接触させることによって生成させる。成分(A)は、(I)ハロシラン、及び任意選択的に(II)H
2を含む。ハロシランは、式H
aSiX
(4−a)(式中、Xは、独立してハロゲン原子であり、下付き文字aは、0〜1の平均値を有する。)を有する。例えば、下付き文字a=0の場合にH
2が存在する。ハロシラン(I)は、式SiX
4のテトラハロゲン化ケイ素でも、式HSiX
3のトリハロシランでも、又はそれらの組み合わせでもよい。各Xは、独立して、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)からなる群から、あるいは、Cl、Br、又はIからなる群から、あるいは、Cl、Br、又はFからなる群から、あるいは、Cl又はBrからなる群から、選択されてもよい。あるいは、各XがBrでもよく、あるいは、各XがClでもよく、あるいは、各XがFでもよく、あるいは、各XがIでもよい。シランは、式SiX
4(式中、各Xは上記のとおりである。)のテトラハロシラン(すなわち、ハロシランについての上記の式においてa=0の場合)でもよい。テトラハロシランの例としては、四塩化ケイ素、四臭化ケイ素、四ヨウ化ケイ素及び四フッ化ケイ素が挙げられるがこれらに限定されない。あるいは、シランは、HSiX
3(式中、Xは上記のとおりである。)などのトリハロシラン(ハロシランについての上記の式においてa=1の場合)でもよい。トリハロシランの例としては、トリクロロシラン(HSiCl
3)、トリブロモシラン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
金属の組み合わせ(B)は、Cu、及び少なくとも1つの他の金属を含み、その少なくとも1つの他の金属は、Ag、Au、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、及びPdから選択される。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Ag、Co、Cr、Fe、Mn、Ni、及びPdから選択されてもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Ag、Au、Co、Cr、Mg、Mn、Ni、及びPdから選択されてもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Ag、Co、Cr、Fe、及びMnから選択されてもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Agでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Auでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Coでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Crでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Feでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Mgでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Mnでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Niでもよい。あるいは、少なくとも1つの他の金属は、Pdでもよい。あるいは、1つより多い他の金属は、金属の組み合わせで存在してもよい。例えば、金属の組み合わせは、Cu、Au、及びMgでもよい。あるいは、金属の組み合わせは、Cu、Ni、及びPdでもよい。あるいは、金属の組み合わせは、Cu、Fe、及びPdでもよい。金属の組み合わせにおける各金属の量は、工程(1)について選択される特定の金属及び温度を含む、様々な要因に応じたものである。しかし、金属の組み合わせは、金属の組み合わせの90%以下、あるいは80%以下、あるいは20%〜80%、あるいは50%の量の銅を含み得、残部が、Ag、Au、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、及びPdのうちの1つ以上である。
【0019】
工程(1)において、成分(A)、及び金属の組み合わせ(B)を、ケイ素析出条件下で接触させることによりケイ素合金触媒を生成させるものであり、すなわち、成分(A)、及び金属の組み合わせ(B)を、ケイ素が析出するような条件下で接触させることにより、3元以上のケイ素合金触媒を生成させる。ケイ素合金触媒は、典型的には混合物であり、Si存在量、Cu存在量、形態、構造、などの少なくとも1つの特性が異なる、2つ以上のケイ素合金を含み、他の金属(単数及び/又は複数)が存在する。工程(1)についての正確な条件は、選択される少なくとも1つの他の金属に応じたものとなるが、工程(1)を、第1の温度200℃〜1000℃、あるいは500℃〜1000℃、あるいは600℃〜900℃、あるいは650℃〜850℃、あるいは700℃〜800℃、あるいは750℃で、ケイ素合金触媒が生成するのに充分な時間をかけて実施し得る。
【0020】
銅、及び金属の組み合わせ(B)の少なくとも1つの他の金属を、金属形態、例えば金属銅、金属金、金属銀、金属鉄、金属コバルト、金属クロム、金属ニッケル、及び金属パラジウムなどの、任意の好便な形態で提供し得る。金属形態は、粒子又は合金の混合物でもよい。あるいは、Cu、並びにAg、Au、Co、Cr、Fe、Mg、Mn、Ni、及びPdのうちの1つ以上の、ハロゲン化物、酢酸塩、硝酸塩、及びカルボン酸塩を含むが、これらに限定されない金属塩を、所望の割合で混合し、次いで工程(1)の前に、典型的には>300℃の高温で水素により還元し得る。市販の好適な金属塩の例としては、CuCl
2・2H
2O、FeCl
3−6H
2O、NiCl
2−6H
2O、PdCl
2、CoCl
2、Cu(NO
3)
2、AgNO
3、MnCl
2−4H
2O、CrCl
3−6H
2O、AuCl
3、及びMgCl
2−6H
2Oが挙げられる。
【0021】
Cu、及び金属の組み合わせ(B)の少なくとも1つの他の金属を、担体上に任意選択的に提供し得る。担体の例としては、活性炭、並びに金属酸化物、すなわち、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、及び/又はケイ素の酸化物が挙げられる。あるいは、担体は、シリカ、アルミナ、及びそれらの組み合わせから選択されてもよい。あるいは、担体はアルミナでもよい。あるいは、高結晶性の担体を用いることができる。結晶性シリカ及び特定のゼオライト、例えばY型ゼオライト又はβ型ゼオライト製品(例えば、Zeolyst InternationalからZeolyst CBV780として市販されているもの)もまた、用いることができる担体の例である。金属の組み合わせを担体上に提供する場合、担持した金属の組み合わせは、5%〜50%の金属の組み合わせを有し得、残部が担体である。あるいは、担持した金属の組み合わせは、10%〜40%の金属、あるいは11%〜30%の金属、あるいは16%〜17%の金属を有し得、残部が担体である。
【0022】
担持した金属の組み合わせを、インシピエント・ウェットネス含浸法又は共沈降法又はゾルゲル法又は金属酸化物の物理的ブレンド法などの、任意の好便な手段で調製し得る。担持した金属の組み合わせを、担体を前駆体で含浸することにより調製する。用語「含浸/含浸すること」は、湿潤した、融解した又は溶融した物質で、好ましくは本質的に全ての液相物質が吸収されるまで、担体の全て又は一部分にわたって浸透させ(例えば、インシピエント・ウェットネス技術による。)、液飽和しているが塊化していない固体を製造することを意味する。好適な含浸技術の実例は、国際公開第2011/106194号の実施例1に見ることができる。あるいは、含浸は、国際公開第2011/106194号の実施例3に見られるような析出−吸収法で行うことができる。前駆体は、例えば、Cu(NO
3)
2、CuCl
2、又はCu−アセチルアセトナト、及び上記の1つ以上の他の金属塩の、水溶液を含んでも良い。水溶液は、HClなどの酸を任意選択的に更に含んでもよい。担体は、例えば、アルミナ、Fe
2O
3、Cr
2O
3、SiO
2、MgO、La
2O
3、又はZrO
2でもよい。あるいは、担体はアルミナでもよい。
【0023】
工程(1)は、気体及び固体を混交するのに好適な、任意の反応器内で行うことができる。例えば、反応器の型式は、充填床、撹拌床、振動床、移動床、再循環床、又は流動床でもよい。再循環床を使用する場合、ケイ素合金触媒を、工程(1)を実施する床から、工程(2)を実施する別々の床まで循環させることができる。反応を促進するため、反応器は反応帯の温度を制御する手段を有する必要があり、例えば、(A)成分及び(B)金属の組み合わせが互いに接触する反応器の部分、並びに/又は(A)成分及びケイ素合金触媒が工程(2)において互いに接触する反応器の部分の温度を、制御する手段を有する必要がある。
【0024】
工程(1)において成分(A)を金属の組み合わせ(B)と接触させる際の圧力は、大気圧未満でも、大気圧又は大気圧超でもよい。例えば、圧力は、絶対圧で0キロパスカル(kPa)超(>)〜3500kPa、あるいは10kPa〜2100kPa、あるいは101kPa〜2101kPa、あるいは101kPa〜1101kPa、あるいは101kPa〜900kPa、あるいは201kPa〜901kPaの範囲内でよい。
【0025】
工程(1)において金属の組み合わせ(B)と接触する、成分(A)中の水素(II)ハロシラン(I)のモル比は、10,000:1〜0.01:1、あるいは100:1〜1:1、あるいは20:1〜5:1、あるいは20:1〜4:1、あるいは20:1〜2:1、あるいは20:1〜1:1、あるいは4:1〜1:1、あるいは3:1〜1.2:1の範囲である。
【0026】
成分(A)の滞留時間は、成分が金属の組み合わせ(B)と接触し、工程(1)においてケイ素合金触媒が生成するのに充分であり、反応器の大きさ及び金属の組み合わせ(B)の粒径を含む様々な要因に応じたものである。例えば、成分(A)の十分な滞留時間は、少なくとも0.01秒、あるいは少なくとも0.1秒、あるいは0.1秒〜10分、あるいは0.1秒〜1分、あるいは0.5秒〜10秒、あるいは1分〜3分、あるいは5秒〜10秒でよい。あるいは、工程(1)において成分(A)と接触している金属の組み合わせ(B)の滞留時間は、典型的には、少なくとも0.1分、あるいは少なくとも0.5分、あるいは0.1分〜120分、あるいは0.5分〜9分、あるいは0.5分〜6分である。所望の滞留時間は、H
2及びハロシランの流量を調節することにより、若しくは総反応器容量を調節することにより、又はそれらの任意の組み合わせにより達成できる。
【0027】
存在する場合、H
2(II)を、工程(1)においてハロシランと同時に反応器に供給できるが、別々のパルスによるなど、他の混交方法もまた想定される。あるいは、ハロシラン(I)及びH
2(II)を、反応器に供給する前に一緒に混合してもよく、あるいは、ハロシラン(I)及びH
2(II)を、別々の流れとして反応器内に供給してもよい。
【0028】
金属の組み合わせ(B)を、十分な量で使用する。本明細書で使用するとき、金属の組み合わせの「十分な量」は、ハロシラン(I)及び存在する場合H
2(II)が金属の組み合わせと接触する際、本明細書に記載のケイ素合金触媒が生成されるのに足りるものである。例えば、金属の組み合わせの十分な量は、反応器容量1cm
3あたり少なくとも0.01mgの金属、あるいは、反応器容量1cm
3あたり少なくとも0.5mgの金属、あるいは、反応器容量1cm
3あたり1mgの金属、反応器容量に基づいて最大かさ密度までの金属の組み合わせ、あるいは反応器容量1cm
3あたり1mg〜5,000mgの金属、あるいは反応器容量1cm
3あたり1mg〜1,000mgの金属、あるいは反応器容量1cm
3あたり1mg〜900mgの金属でよい。
【0029】
工程(1)を実施する時間に上限はない。例えば、工程(1)を、通常少なくとも0.1秒、あるいは1秒〜5時間、あるいは1分〜1時間実施する。
【0030】
工程(1)により製造するケイ素合金触媒は、ケイ素合金触媒の中に、ケイ素合金触媒の総重量に基づいて、初期重量%が、少なくとも0.1%のケイ素、あるいは0.1%〜90%、あるいは35%〜90%、あるいは0.1%〜35%、あるいは1%〜20%、あるいは1%〜5%のケイ素を含む。ケイ素合金触媒中のケイ素の百分率は、標準的な分析試験により求めることができる。例えば、ケイ素の百分率を、誘導結合プラズマ原子発光分析法(ICP−AES)又はICP質量分析法(ICP−MS)により求めてもよい。理論に束縛されるものではないが、ケイ素合金触媒中のケイ素の量は、直接法の接触体中のケイ素の量よりも少ないと考えられ、本方法は、出発材料としてSi
0を必要とせずに、ケイ素合金触媒を生成させる利点を提供する。
【0031】
本方法の工程(2)において、工程(1)において生成したケイ素合金触媒、及びアリールハロゲン化物を含む反応物質(C)を、ケイ素腐食条件下で、すなわち、アリール官能性シランを含む反応生成物が生成するような条件下で、接触させる。理論に束縛されるものではないが、工程(2)において、ケイ素合金触媒の少なくとも一部は、組成が変化すると考えられる。工程(1)において、条件は、ケイ素がケイ素合金中に析出するものであり、工程(2)において、条件は、ケイ素がケイ素合金から腐食させられるものである。工程(2)を、第1の温度より低い第2の温度で行ってもよい。第2の温度は、反応生成物を生成させるため、100℃〜600℃、あるいは100℃〜500℃、あるいは200℃〜500℃、あるいは300℃〜500℃、あるいは400℃〜500℃、あるいは275℃〜300℃、あるいは450℃でもよい。
【0032】
工程(2)において使用する反応物質(C)は、アリールハロゲン化物を含む。アリールハロゲン化物は、式R
1X(式中、各Xは、独立してハロゲン原子であり、上記のテトラハロゲン化ケイ素(I)中のハロゲン原子と同じでも、又は異なっていてもよい。)を有し得る。R
1は、アリール基である。R
1に使用してもよいアリール基の例としては、フェニル、ナフチル、トリル、キシリル、フェニルエチル、フェニルプロピル、及びフェニルブチルが挙げられる。あるいは、R
1は、フェニル、トリル、及びキシリルから選択される。あるいは、R
1はフェニルである。アリールハロゲン化物の例としては、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。あるいは、アリールハロゲン化物は、クロロベンゼンでもよい。
【0033】
工程(2)において使用する反応物質(C)は、1つ以上の追加の成分を任意選択的に更に含んでもよい。例えば、H
2を、アリールハロゲン化物に追加して使用してもよい。あるいは、不活性気体を、工程(2)において、アリールハロゲン化物と共に供給してもよい。例えば、アルゴン又は窒素、あるいはアルゴンを、本明細書に記載の方法の工程(2)において、供給してもよい。あるいは、アルキルハロゲン化物(塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、塩化プロピル、臭化プロピル、ヨウ化プロピル、塩化ブチル、臭化ブチル、又はヨウ化ブチルなど)を、工程(2)において、アリールハロゲン化物に追加して加えてもよい。あるいは、ハロゲン化水素(HCl、HBr、又はHIなど)、あるいは、HClを、工程(2)において、アリールハロゲン化物に追加して使用してもよい。
【0034】
工程(2)における使用に好適な反応器は、(1)について記載したとおりである。工程(1)において使用したものと同じ反応器を、工程(2)に使用してもよいが、別々の反応器もまた、使用してもよい。あるいは、工程(1)及び(2)において使用する反応器は、第1段で工程(1)を行い、第2段で工程(2)を行う、多段反応器でもよい。
【0035】
反応物質(C)を工程(1)において製造したケイ素合金触媒が入っている反応器内へ供給することにより、反応物質(C)をケイ素合金触媒と接触させてもよい。工程(2)の反応器は、工程(1)において使用した反応器と同じでも、又は異なっていてもよい。
【0036】
(C)反応物質の滞留時間は、反応物質がケイ素合金触媒と接触し、工程(2)においてアリール官能性シランが生成されるのに十分である。例えば、反応物質の十分な滞留時間は、少なくとも0.01秒、あるいは少なくとも0.1秒、あるいは0.1秒〜10分、あるいは0.1秒〜1分、あるいは0.5秒〜10秒、あるいは1分〜3分、あるいは5秒〜10秒でよい。あるいは、工程(2)において反応物質と接触しているケイ素合金触媒の滞留時間は、典型的には、少なくとも0.1分、あるいは少なくとも0.5分、あるいは0.1分〜120分、あるいは0.5分〜9分、あるいは0.5分〜6分である。所望の滞留時間は、反応物質の流量を調節することにより、又は総反応器容量を調節することにより、又はそれらの任意の組み合わせにより達成できる。
【0037】
工程(2)を、典型的には、ケイ素合金触媒中のケイ素の量が所定限度未満に下がるまで、例えば、ケイ素合金触媒が使用済みになるまで実施する。例えば、工程(2)を、ケイ素合金触媒中のケイ素の量がその初期重量%の90%未満、あるいは1%〜90%、あるいは1%〜40%になるまで、実施することができる。ケイ素合金触媒中のケイ素の初期重量%は、工程(1)の後で、工程(2)の開始前の、ケイ素合金触媒中のケイ素の重量%である。ケイ素合金触媒中のケイ素の量は、工程(2)の反応生成物の製造を反応物質中のケイ素の重量パーセントと相関させて、次に反応器の流出物を監視することにより、監視することができ、又は本明細書に記載のとおり、求めてもよい。あるいは工程(2)を、工程(1)において寄与したケイ素の少なくとも1%が反応するまで実施し、あるいは工程(2)を、工程(1)において寄与したケイ素の1%〜40%が反応するまで実施し、あるいは工程(2)を、工程(1)で寄与したケイ素の少なくとも90%が反応するまで実施し、あるいは工程(2)を、工程(1)で寄与したケイ素の95%超が反応するまで実施し、あるいは工程(2)を、工程(1)で寄与したケイ素の99%超が反応するまで実施し、あるいは、工程(2)を、工程(1)で寄与したケイ素の99.9%が反応するまで実施する。理論に束縛されるものではないが、2元ケイ素合金触媒(すなわち、触媒中、ケイ素及び1つの他の金属のみの合金)のみを同じ成分及び反応物質と共に使用する方法と比較し、より多くのケイ素が、本明細書に記載の方法の工程(1)において析出し、より多くのケイ素が、本方法における工程(2)において移動すると考えられる。
【0038】
水素及びハロシランを含む成分を、工程(2)において、ケイ素合金触媒と接触させる際の圧力は、大気圧未満でも、大気圧又は大気圧超でもよい。例えば、圧力は、0kPa〜3500kPa、10kPa〜2100kPa、あるいは101kPa〜2101kPa、あるいは101kPa〜1101kPa、あるいは101kPa〜900kPa、あるいは201kPa〜901kPaの範囲内でよい。
【0039】
ケイ素合金触媒を、十分な量で使用する。本明細書で使用するとき、「十分な量」のケイ素合金触媒は、下記のアリール官能性シランが生成されるのに足りる触媒である。例えば、十分な量のケイ素合金触媒は、反応器容量1cm
3あたり少なくとも0.01mgのケイ素合金触媒、あるいは、反応器容量1cm
3あたり少なくとも0.5mgの金属、あるいは反応器容量1cm
3あたり1mgのケイ素合金触媒、反応器容量に基づいて最大かさ密度までのケイ素合金触媒、あるいは反応器容量1cm
3あたり1mg〜5,000mgのケイ素合金触媒、あるいは反応器容量1cm
3あたり1mg〜1,000mgのケイ素合金触媒、あるいは反応器容量1cm
3あたり1mg〜900mgのケイ素合金触媒でよい。
【0040】
本方法の工程(1)及び(2)は、逐次的に行われる。あるいは、本方法の工程(1)及び(2)を、別々に逐次的に行ってもよい。「別々の」及び「別々に」はそれぞれ、工程(1)及び工程(2)が重複せず、又は同時に起こらないことを意味する。「別々の」及び「別々に」は、空間的若しくは時間的のいずれか、又は両方を指す。用語「逐次的な」及び「逐次的に」は各々、本方法において、1つの工程を、異なる工程の後で行う(例えば、工程(2)を工程(1)の後で行い、及び本方法において存在する場合は工程(4)を工程(3)の後で行う。)ことを意味するが、逐次的な工程間(例えば、工程(1)と工程(2)との間、及び/又は本方法において工程(3)及び工程(4)が存在する場合、工程(3)と工程(4)との間)に、追加の工程を下記のとおりに行ってもよい。あるいは工程(3)及び(4)が存在し、また逐次的に行われ、あるいは工程(3)及び(4)は、別々に逐次的に行われてもよい。
【0041】
本明細書に記載の方法は、パージ及び/又は処理することを任意選択的に更に含み得る。パージ及び/又は処理は、本方法の間、様々な回数で行ってもよい。例えば、本明細書に記載の方法は、以下のパージ及び/又は処理する工程のうちの1つ以上、すなわち、
金属の組み合わせを、工程(1)においてハロシランを含む成分と接触させる前に、パージ及び/若しくは処理する工程、並びに/又は
ケイ素合金触媒を、工程(2)においてアリールハロゲン化物を含む反応物質と接触させる前に、パージ及び/若しくは処理する工程、並びに/又は
使用済み反応物質を、工程(3)において追加の成分と接触させる前に、パージ及び/若しくは処理する工程、並びに/又は
工程(3)において再生成した反応物質を、工程(4)において追加の反応物質と接触させる前に、パージ及び/若しくは処理する工程、並びに/又は
追加の使用済み反応物質をパージ及び/若しくは処理する工程、のうちの1つ以上、を任意選択的に更に含み得る。パージする工程は、気流を反応器内に導入し、望ましくない材料を除去することを含む。工程(2)における、及び存在する場合、工程(4)における望ましくない材料としては、例えば、H
2、O
2、H
2O、及びHX(式中、Xは上記定義のとおりのハロゲン原子である。)を挙げ得る。パージは、不活性気体(アルゴン、窒素、若しくはヘリウムなど)を用いて、又はハロシラン(I)(例えば、四塩化ケイ素)などの、水分と反応することによりそれを除去する反応性気体、を用いて為し得る。工程(1)の前にパージすることにより、金属の組み合わせにおける金属上に存在する可能性がある任意の酸化物層を、少なくとも部分的に除去することができる。処理する工程は、金属の組み合わせが入っている反応器内に気流を導入し、工程(1)において、金属の組み合わせを、成分(A)と接触させる前に、前処理すること、を含み得る。あるいは、処理する工程は、ケイ素合金触媒が入っている反応器内に気流を導入し、ケイ素合金触媒を、アリールハロゲン化物と接触させる前に、活性化及び/又は還元することを含み得る。処理を、H
2又はアリールハロゲン化物、あるいはH
2、などの気体により為してもよい。パージ及び/又は処理を、周囲温度又は高温、例えば、少なくとも25℃、あるいは少なくとも300℃、あるいは25℃〜500℃、あるいは300℃〜500℃で行うことができる。
【0042】
本方法は、副生成物及び望ましくない成分(単数及び/又は複数)を、本方法の各工程後に回収することを任意選択的に更に含んでもよい。例えば、HClなどのハロゲン化水素を、工程(1)における副生成物として製造してもよい。このハロゲン化水素を除去し得る。SiCl
4などの未反応成分を、工程(1)において再循環させても、又は工程(2)に供給してもよい。
【0043】
一実施形態において、本方法は、工程(2)において生成した使用済み触媒を、追加のハロシラン及び任意選択的に追加のH
2を含む追加の成分(A)と、ケイ素析出条件下で(例えば、200℃〜1000℃の第1の温度で)、接触させることにより工程(1)を繰り返すことにより、ケイ素合金触媒を再生成させる工程(3)、並びに、追加の反応物質(C)、及び工程(3)において再生成したケイ素合金触媒を、ケイ素腐食条件下で(例えば、100℃〜600℃の第2の温度で)、接触させることにより工程(2)を繰り返すことにより、追加の反応生成物を生成させる工程(4)、を更に含んでもよい。工程(3)において使用する追加のハロシラン(I)は、工程(1)において使用するハロシランと同じでも、又は異なっていてもよく、並びに追加の反応物質(C)は、上記の工程(2)において使用する反応物質(C)と同じでも、又は異なっていてもよい。工程(3)を、追加の量の成分(B)を導入することなく行ってもよい。工程(4)に選択される温度は、工程(3)に選択される温度より低い。理論に束縛されるものではないが、本明細書に記載のケイ素合金触媒の使用により、サイクルの繰り返し(工程(3)及び(4)の繰り返し)の際、金属の減少を防ぐことができるものと考えられる。
【0044】
理論に束縛されるものではないが、本明細書に記載の方法により、工程(3)及び(4)の繰り返しサイクル数の最大化が可能になるものと考えられる。本方法は、工程(3)及び(4)を少なくとも1回、あるいは1〜10
7回、あるいは10
5〜10
7回、あるいは1〜1,000回、あるいは1〜100回、あるいは2〜15回、あるいは1〜10回繰り返す工程(5)を任意選択的に更に含んでもよい。理論に束縛されるものではないが、本発明のものではない2元金属ケイ化物触媒(すなわち、Si、及び銅などの1つの他の金属を含むもの)を(ケイ素、銅、及び本明細書に記載のとおりの少なくとも1つの他の金属を含むケイ素合金触媒に代えて)使用する方法において、2元金属ケイ化物触媒は、サイクルの繰り返し(工程(3)及び(4)の繰り返し)の際、金属の減少という不利益を被る恐れがあるものと考えられ、本明細書に記載の方法は、本明細書に記載のケイ素合金触媒に代えて2元銅ケイ化物触媒を使用する従来の方法よりも、高いスループットを、各サイクルにわたって提供することができるものと考えられる。
【0045】
本方法は、工程(1)において金属の組み合わせ(B)と接触させるのに先立って、公知の方法によりハロシラン(I)を予備加熱し、気化させることを更に含んでもよい。本方法は、工程(2)においてケイ素合金触媒と接触させるのに先立って、アリールハロゲン化物を予備加熱し、気化させることを更に含んでもよい。
【0046】
本方法は、製造した反応生成物からアリール官能性シランを回収する工程(6)を更に含んでもよい。アリール官能性シランを、例えば、気体のテトラハロゲン化ケイ素及び任意の他の気体を反応器から除去し、次いでアリール官能性シランを蒸留により分離することにより、回収することができる。
【0047】
上記で記載及び例示したプロセスにより製造したアリール官能性シランは、式R
2dH
cR
1bSiX
(4−b−c−d)(式中、各Xは、上記のとおりのハロゲン原子であり、下付き文字cは、≧0〜<4の平均値を有し、下付き文字bは、>0〜4の平均値を有し、下付き文字dは、0以上〜<4の平均値を有し、各R
1は、アリール基であり、各R
2は、独立して、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、及びアルキニルから選択されるヒドロカルビル基である。)を有する。あるいは、下付き文字bは1〜4の平均値を有する。あるいは、下付き文字cは0又は1であり、下付き文字dは0又は1であり、下付き文字bは1〜3である。本方法により調製したアリール官能性シランの例としては、PhHSiCl
2、PhSiCl
3、Ph
2SiCl
2、Ph
3SiCl、PhSiBr
3、Ph
2SiBr
2、Ph
3SiBr、PhHSiBr
2、PhSiI
3、Ph
2SiI
2、PhHSiI
2、及びPh
3SiI、が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、各XがClであると、その場合、本方法により調製したアリール官能性シランとしては、PhSiCl
3、Ph
2SiCl
2、及びPhHSiCl
2、が挙げられるが、これらに限定されない。あるいは、アルキルハロゲン化物が工程(2)における反応物質に含まれると、その場合、本方法により、アリール−、アルキル官能性シランを製造し得る(すなわち、アリール官能性シランが、アルキル基を更に含み得る。)。このようなアリール−、アルキル官能性シランの例としては、PhMeSiCl、PhMeSiCl
2、Ph
2MeSiCl、PhMeSiBr、PhMeSiBr
2、Ph
2MeSiBr、PhMeSiI、PhMeSiI
2、及びPh
2MeSiI、のうちの1つ以上、あるいは、PhMeSiCl、PhMeSiCl
2、及びPh
2MeSiCl、のうちの1つ以上を挙げ得る。
【0048】
本明細書に記載の方法により、テトラハロゲン化ケイ素などのハロシランからアリール官能性シランを製造し得る。四塩化ケイ素などのテトラハロゲン化ケイ素が、他の工業プロセスの副生成物であり、0価ケイ素の製造に要求されるより少ないエネルギーの使用で製造され得ることから、本発明の方法はSi
0を使用するアリール官能性シランの製造方法より、経済的なものにできる。本明細書に記載の方法により、擬フリーデル・クラフツ反応(Psuedo Friedel Crafts reaction)及び/又はグリニャールプロセスなどの、アリール官能性シランの生産方法の他の化学よりも、本明細書に記載の方法において製造されるシクロヘキシルトリハロシラン不純物が少ないという、利点もまた提供し得る。本明細書に記載の方法はまた、有機溶媒を使用することなく行うこともできる。
【0049】
アリール官能性シランは、アリール官能性シロキサンポリマー及び樹脂調製の、前駆体として有用である。アリール官能性シランが、アルキル基もまた含み得る(すなわち、アリール−、アルキルシラン)場合、それらを、アリール−、アルキル官能性シロキサンポリマー調製の前駆体として使用し得る。アリール−、アルキル官能性シロキサンポリマーは比較的高温で安定であり、ポンプ用流体、熱交換流体、及び高温用流体の基油として有用である。アリール官能性シロキサン樹脂は、高温用コーティング及び接着剤、例えば料理用具に使用される。アリール官能性シロキサン樹脂は、一般的に高屈折率を有し、それらをオプトエレクトロニクス用途において有用なものとする。アリール官能性シロキサン樹脂を、LED、オプトエレクトロニクス用コーティング、及び光配線などの、オプトエレクトロニクス用部品の封入材料形成などの、オプトエレクトロニクス用途において使用してもよい。
【実施例】
【0050】
これらの実施例は、本発明のいくつかの実施形態を説明することを意図しており、本請求項に記載された本発明の範囲を限定するかのように解釈してはならない。参考例は、従来技術であるとの記載がない限り、従来技術とみなされるべきではない。
【0051】
本実施例で使用した反応装置には、流動反応器内に内径4.8mmの石英ガラス管を備えた。反応器の管を、Lindberg/Blue Minimiteの2.54cmの管状炉を使用して加熱した。水素の気体を、Brooks Deltaマスフローコントローラを介して送り込み、Arを、Omega FMA5500マスフローコントローラを介して送り込んだ。ステンレス鋼製のSiCl
4曝気装置を使用して、SiCl
4をH
2の気流中に導入した。H
2の気流中のSiCl
4の量は、熱力学の法則による計算に従い、曝気装置内のSiCl
4の温度を変化させることによって調節した。反応器の流出物は、Vici製6方作動弁を通した。
【0052】
反応生成物が入っている反応器の流出物を、100μL定量注入ループ付きの6方作動弁(Vici)を通した後、廃棄した。注入弁を作動させることにより、試料を反応流から採取し、100μLの試料を、6890N Agilent GCの注入口内に、その注入口での分割比を100:1として、分析のために直接通した。GCに、2本のRestek DCAカラムを入れた。一方のカラムを、微量の生成物の高感度な検出及び生成した任意の生成物の決定的な同定のための、質量分析計(Agilent5975C MSD)に接続した。他方を、反応器の流出物中に観察される化合物のMSDによる定量化のための、熱伝導度検出器に接続した。カラムをGCオーブンで加熱した。水素、アルゴン、SiCl
4、及びクロロベンゼンの流量比は、流量に関しての熱力学の法則により、標準温度及び圧力で求めた。
【0053】
参考例1−担持した金属の組み合わせの調製
銅塩及び少なくとも1つの他の金属塩を、脱イオンH
2O中に溶解した。得られた溶液の一部を、活性炭顆粒に加えた。次に、顆粒を真空下に30分間置いた。真空を解いた後、得られた固体を80℃で2時間乾燥させた。追加の含浸(溶液を固体に加え、真空引きし、加熱)を行うことにより、全ての溶液を顆粒に加えてしまい、その後、最終回として120℃で15時間、乾燥させた。乾燥後、顆粒を秤量し、金属担持量を求めた。一部の試料において、塩化水素酸を金属塩/H
2O溶液に滴下し、金属塩を完全に溶解した後、含浸に使用した。HClを使用した場合、金属塩化物が溶解するまでHClを滴下して、HClの濃度を5%〜37%とした。この手段で調製した担持した金属の組み合わせを、下記の表2に記載する。
【0054】
【表2】
【0055】
金属を担持した活性炭を、管内に詰め、流動反応器内に置いた。触媒の活性化及び還元は、H
2を100sccm(Brooks Deltaマスフローコントローラによる制御)で、反応器内の触媒が入っているガラス管内に600℃で2時間流すことにより、行った。加熱は、Lindberg/Blue Minimite2.54cm管状炉を使用して完遂した。
【0056】
参考例2−実施例の反応手順
参考例1に記載のとおり調製した、活性炭に担持した金属の組み合わせ(0.5g)を、−4℃でステンレス鋼製のSiCl
4曝気装置を介してのH
2の曝気によるH
2/SiCl
4中、750℃で30分間処理した。H
2及びSiCl
4の総流量を109sccmとし、H
2のSiCl
4に対するモル比を11.25:1とした。曝気装置から出てくる気体及び蒸気を、担持した金属の組み合わせが入っている流動反応器の管内に供給して、ケイ素合金触媒を生成させた。30分後、SiCl
4の流れを停止し、100sccmの水素流を、20分〜1時間の時間をかけて400℃に冷却する間、維持した。反応器が400℃に達した際、H
2の流れを、減少又は休止のいずれかにした。PhClを、H
2又はArのいずれかと共に反応器を介して、2sccmの流量及び大気圧で供給した。反応器の流出物を定期的にサンプリングし、GC−TCD/GC−MSにより上述のとおり分析し、反応生成物の組成を求めた。次に、PhClの供給を停止し、使用済み触媒を再びH
2/SiCl
4と750℃で30分間接触させ、ケイ素合金触媒を再生成させた。H
2及びSiCl
4の合計流量を109sccmとし、H
2のSiCl
4に対するモル比を11.25:1とした。ケイ素合金触媒を再生成させた後、それを再びH
2下で400℃に冷却し、PhClを、再生成したケイ素合金と上記のとおり接触させた。このサイクルを、金属の組み合わせの各々について複数回繰り返した。各試料についての選択性及びクロロベンゼン変換率を、下記の表3及び表4に示す。
【0057】
実施例1−銅:ニッケル
試料1及び2により、本明細書に記載の方法において使用した銅:ニッケルの金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph含有化学種の生成に有利に働く選択性を有することが、実証された。銅の量は生成物選択性及びPhCl変換率の両者に効果を有することもまた実証された。
【0058】
実施例2−銅:鉄
試料3及び4により、本明細書に記載の方法において使用した銅:鉄の金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph含有化学種の生成に有利に働く選択性を有することが、実証された。触媒上の銅の量は生成物選択性及びPhCl変換率の両者に効果を有したこともまた実証している。
【0059】
実施例3−銅:パラジウム
試料5及び6により、本明細書に記載の方法において使用した銅:パラジウムの金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph含有化学種の生成に有利に働く選択性を有することが、実証された。触媒上の銅の量は生成物選択性及びPhCl変換率の両者に効果を有することもまた実証された。これらの試料によりまた、Cu:Ni、及びCu:Feの金属の組み合わせを使用する試料よりも低水準の、PhSiCl
3が製造されたが、これらの試料は大半のPhClを変換した。
【0060】
実施例4−銅:コバルト
試料7により、本明細書に記載の方法において使用した銅:コバルトの金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph含有化学種に有利に働く選択性を有することが、実証された。
【0061】
実施例5−銅:クロム
試料8により、本明細書に記載の方法において使用した銅:クロムの金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph化学種に有利に働く選択性を有することが、実証された。
【0062】
実施例6−銅:マンガン
試料9により、本明細書に記載の方法において使用した銅:マンガンの金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph化学種の生成に有利に働く選択性を有することが、実証された。
【0063】
実施例7−銅:銀
試料10により、本明細書に記載の方法において使用した銅:銀の金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph化学種に有利に働く選択性を有することが、実証された。
【0064】
実施例8−銅:ニッケル:パラジウム
試料11及び12により、本明細書に記載の方法において使用した銅:ニッケル;パラジウムの金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph含有化学種の生成に有利に働く選択性を有することが、実証された。製造したそれらSi−Ph含有化学種は、25%超のPhCl変換率もまた有するものであった。試料12におけるPhClのキャリアガスとしての、Arの使用は、製造した反応生成物のフェニル官能性を含むSi−Ph含有量が、工程(2)におけるPhClのキャリアガスとしてH2を使用した試料11におけるよりも多いという、顕著な影響を与えた。
【0065】
実施例9−銅:ニッケル:パラジウム
試料13、14、及び15により、銅−ニッケル−パラジウムの金属の組み合わせにおけるパラジウムの量は、生成物選択性及びPhCl変換率の両者に効果を有することが、実証された。パラジウムの量が減少するにつれて、PhHSiCl
2の量は増加し、及びPhCl変換率は減少した。試料13、14、及び15の試料のうち、最少量のパラジウムを有する試料15による試行において、反応生成物中のHSiCl
3及びSiCl
4の量は顕著に増加した。
【0066】
実施例10−銅:鉄:パラジウム
試料16により、銅:鉄:パラジウムの金属の組み合わせを本明細書に記載の方法において使用した場合、製造した反応生成物は、Si−Ph含有化学種の生成に有利に働く選択性を有することが、実証された。
【0067】
実施例11−銅:金:マグネシウム
試料17により、本明細書に記載の方法において使用した銅:金:マグネシウムの金属の組み合わせにより製造した反応生成物は、Si−Ph含有化学種の生成に有利に働く選択性を有することが、実証された。
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
試料1〜9について、選択性及びPhCl変換率は、サイクル1〜3を平均した。
【0071】
試料10及び7について、選択性及びPhCl変換率は、1サイクルからのものとした。
【0072】
試料11〜16について、選択性及びPhCl変換率は、サイクル3〜5を平均した。
【0073】
*この実施例において、金属の組み合わせを使用するのに、0.5gに代えて0.75gとした。
【0074】
試料1〜11及び17の各々について、方法の工程(2)においてクロロベンゼンを反応器へ加え、キャリアガスはH
2であった。
【0075】
試料12〜16の各々について、方法の工程(2)においてクロロベンゼンを反応器へ加え、キャリアガスはArであった。
【0076】
上記の実施例は、特定の実施形態において、本方法が、反応生成物中に、より多くのアリール官能性シラン(例えば、フェニル、クロロシラン)を製造するための、選択性における利点を提供することを示す。Ph
2SiCl
2、PhHSiCl
2、及びPhSiCl
3のうちの1つ以上の量が高くなると、所望の反応生成物に好便な選択性を示す。本方法は、成分(B)について本明細書に記載の金属の組み合わせとは異なる金属を使用する方法と比較し、未反応ハロシラン及び/又は反応生成物中のアリールハロゲン化物(例えばSiCl
4及びクロロベンゼン)の量を低減するという、利点を提供し得る。本方法は、副生成物(例えばベンゼン)の生成量の低減を提供するという、利点を提供し得る。本発明及び利点は、前述した課題の解決又は上記利点に限定されない。本発明の特定の実施形態は、更なる課題を独立して解決し、及び/又は利点を有し得る。本発明の特定の実施形態は、前述した利点の1つ又は1つ以上を有し得るが、全てを有していなくてもよく、それでもなお特許請求の範囲に記載の本発明の範囲に入り得る。
【0077】
範囲の開示は、その範囲自体及びそこに包含される任意のもの、並びに端点を含む。例えば、>0〜4という範囲の開示は、2〜4という範囲だけでなく、2.1、2.3、3.4、3.5、及び4を個別に、並びにその範囲内に含まれる任意の他の数も含む。更に、例えば、>0〜4の範囲の開示は、例えば、2.1〜3.5、2.3〜3.4、2.6〜3.7、及び3.8〜4の部分集合、並びにその範囲内に包含される任意の他の部分集合を含む。
【0078】
様々な実施形態の特定の特徴又は態様を記載するために本明細書が依拠するマーカッシュ群に関して、他の全てのマーカッシュ要素から独立したそれぞれのマーカッシュ群の各要素から、異なる、特別な、及び/又は予期しない結果が得られる可能性があることが理解されるべきである。マーカッシュ群の各要素は、個別に、及び/又はマーカッシュ群の任意の他の1つ若しくはそれ以上の要素と組み合わせて依拠されてもよく、各要素は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態のための適切な根拠を提供する。例えば、マーカッシュ群の開示[PhSiCl
3、Ph
2SiCl
2、Ph
3SiCl、PhSiBr
3、Ph
2SiBr
2、Ph
3SiBr、PhSiI
3、Ph
2SiI
2、及びPh
3SiI、並びに、PhSiCl
3、Ph
2SiCl
2、Ph
3SiCl、PhSiBr
3、Ph
2SiBr
2、Ph
3SiBr、PhSiI
3、Ph
2SiI
2、及びPh
3SiIのうちの2つ以上の組み合わせ]は、要素PhSiCl
3を個別に、PhSiCl
3及びPh
2SiCl
2の部分集合を、並びにそれらに包含される任意の他の個別の要素及び部分集合を含む。
【0079】
また、本開示の種々の実施形態を記載する際に依存する任意の範囲及び部分範囲が、添付の特許請求の範囲内に個別かつ集合的に入ることも理解されるべきであり、またかかる値が明白に記載されていない場合でも、全体及び/又は部分値を含む全ての範囲を記載し、考慮することが理解される。列挙された範囲及び部分範囲は本開示の種々の実施形態を十分に記述し、それらを可能にし、そのような範囲及び部分範囲は更に関連した半分、3分の1、4分の1、5分の1等と表現できる。ほんの一例として、範囲「500〜1000」は、下の方の3分の1、すなわち、500〜666、中間の3分の1、すなわち、667〜833、及び上の方の3分の1、すなわち、834〜1000に更に詳述でき、これらは、個別的かつ集合的に添付の特許請求の範囲内であり、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が個別的及び/又は集合的に依拠することがあり、適切な根拠を提供し得る。更に、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「以下」等の範囲を定義又は修飾する用語に関して、かかる用語が部分範囲及び/又は上限若しくは下限を含むことを理解されたい。別の例として、「少なくとも0.1%」の範囲は、本質的に、0.1%〜35%の部分範囲、10%〜25%の部分範囲、23%〜30%の部分範囲等を含み、各部分範囲は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が個別的及び/又は集合的に依拠することがあり、適切な根拠を提供する。最終的には、開示された範囲内の個々の数は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が依拠することがあり、適切な根拠を提供する。例えば、範囲「>0〜4」は、様々な個々の整数、例えば、0又は3、並びに小数点(又は分数)を含む個別の数、例えば、2.1を含み、これは添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態が依拠することがあり、適切な根拠を提供する。
【0080】
独立請求項及び従属請求項(単一項従属及び多数項従属の両方とも)の全ての組み合わせの主題が明白に想到されるが、簡潔にするために詳細には記載されていない。本開示は例示的に記載したものであり、使用されている用語は、限定ではなく説明の言葉としての性質を持つものであることが理解されるべきである。前述した教示に照らして本開示の多くの修正形態及び変形形態が可能であり、本開示は、具体的に記述されているものとは異なる方法で実施することができる。