(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示に開示されるのは、ある種の添加剤を組み入れた炭素質材料であり、それは鉛酸蓄電池への用途を有することができる。
【0012】
1つの実施態様は、少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含む(又は本質的にこれからなる、又はこれからなる)組成物であって、少なくとも1種の添加剤が、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する、組成物を提供する。この組成物は、炭素質材料/添加剤組成物としても本開示で言及される。1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料に少なくとも1種の添加剤が散在している。例えば、少なくとも1種の炭素質材料及び少なくとも1種の添加剤の両方は粒状物であり、少なくとも1種の炭素質材料に少なくとも1種の添加剤が散在する(例えば均一に散在する)。1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料及び少なくとも1種の添加剤は、物理的混合物、例えば流動性粉末を形成する。
【0013】
1つの実施態様において、組成物は、表面に少なくとも1種の添加剤を有する少なくとも1種の炭素質材料を含む(又は本質的にこれからなる、又はこれからなる)粒状複合体を含む。本開示で用いられる「粒状複合体」は、各粒子が少なくとも1種の炭素質材料及び少なくとも1種の添加剤を含む固体粒子を指す。複合体は、炭素質材料及び少なくとも1種の添加剤の物理的混合物とは、複合体が少なくとも1種の炭素質材料に付着した少なくとも1種の添加剤を含むという点で区別される。例えば、少なくとも1種の炭素質材料の表面は、その表面に少なくとも1種の添加剤を有し、少なくとも1種の添加剤は、炭素質材料の表面に吸着し、コーティングされ、及び/又は(例えば細孔、キャビティ内等に)含侵する。1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料には少なくとも1種の添加剤が含侵している。
【0014】
1つの実施態様は、本開示に記載の組成物によりコーティングされた電極板を提供する。概して、負極板への炭素の添加により、鉛酸蓄電池の電荷受容性及びサイクル寿命を改善することができる。鉛酸蓄電池の電荷受容性及びサイクル寿命は、より熱力学的に有利な表面対体積比を有する硫酸鉛の大きな結晶の形成により制限される。形成された硫酸鉛結晶の表面対体積比が減少すると、鉛に戻すPbSO
4の還元を逆にする負極の性能は、特に、典型的には急速充電と関連する短いタイムスケールで損なわれ、その結果電荷受容性は低下する。大きな硫酸鉛結晶の形成は、したがって充電及び放電速度における動的不可逆性、「サルフェーション」として知られている状態をもたらす。動的に不可逆性な硫酸鉛結晶の過剰な蓄積は、次いで負極板/電極構造の劣化をもたらし、それは、早期故障及びサイクル寿命の損失をもたらす可能性がある。
【0015】
炭素質材料(例えばカーボンブラック、グラファイト、活性炭、又はグラフェン若しくはカーボンナノチューブ等の炭素の他の形態)の添加により、負極モルフォロジーの変更をもたらして、形成された硫酸鉛結晶の形成及び溶解の動的可逆性、並びに複数サイクルの充填及び放電中の保存電極安定性を改善することができ、これにより、電荷受容性及びサイクル寿命を改善することができる。しかし、変更された負極モルフォロジーは、水電解の速度の増大、及び水損失の全体の速度の増大、特に過充電条件においてもたらす場合がある。1つの実施態様において、このトレードオフが軽減され、例えば水損失を低減することにより、電荷受容性及びサイクル寿命を改善するという炭素添加剤の利益を向上させる。
【0016】
本開示に開示される組成物を組み入れた鉛酸蓄電池は、炭素表面が処理もコーティングも吸着も含侵もされておらず、本開示に開示される量で少なくとも1種の添加剤と物理的混合物を形成していない未修飾又は非複合体炭素を含有する電池と比べて、改善された特性(例えば低減された水損失)をもたらすことができることが見いだされた。
【0017】
1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤の少なくとも1種の金属イオンは、塩、酸化物、窒化物及び硫化物から選択される少なくとも1種の形態で存在し、例えば添加物は金属イオン塩、金属酸化物、金属窒化物、及び/又は金属硫化物の1種又はそれより多くを含むことができる。1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤は、例えばカルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムから選択される金属イオンの硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リグノスルホネート、クエン酸塩、酒石酸塩、及びグルコン酸塩から選択される塩として存在する金属イオンを含む。1種又はそれより多くの金属イオンの異なる塩の混合物が可能である。1つの実施態様において、金属イオンはカルシウムイオンを含む。1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤はカルシウムイオン添加剤、例えばカルシウム塩である。別の実施態様において、塩はリグノスルホネートから選択される。リグノスルホネートは、カルシウムリグノスルホネートであることができる。1つの実施態様において、金属イオンの1種より多くの種類は、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される少なくとも1種の金属イオンが塩中に存在する限り、塩中に存在することができる。例えば、塩はカルシウム/ナトリウムリグノスルホネートであることができる。
【0018】
例えば炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲で組成物中に存在する金属イオンの量は、組成物の形成より前に炭素質材料中に固有に存在する金属イオンと、外部ソースから与えられた金属イオンとを含む、組成物中の金属イオンの全量を指す。(金属イオンの混合物及び/又は金属イオンの形態をもたらす)添加剤の混合物が存在することができる。金属イオン含有量を、当分野で知られている任意の方法、例えば誘導結合プラズマ(AES‐ICP)による原子発光分光法等の適した元素分析方法により決定することができる。1つの実施態様において、金属イオンは、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜2.5質量%、例えば0.5質量%〜2質量%、0.5質量%〜1.5質量%、0.5質量%〜1質量%、0.6質量%〜3質量%、0.6質量%〜2.5質量%、0.6質量%〜2質量%、0.6質量%〜1.5質量%、0.6質量%〜1質量%、0.7質量%〜3質量%、0.7質量%〜2.5質量%、0.7質量%〜2質量%、0.7質量%〜1,5質量%、又は0.7質量%〜1質量%の範囲の量で組成物中に存在する。
【0019】
組成物への組み入れより前の1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料は粒状である。1つの実施態様において、炭素質材料は、カーボンブラック、活性炭、膨張グラファイト、グラフェン、数層グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素繊維、カーボンナノファイバー、及びグラファイトから選択される。炭素質材料は、材料の混合物、例えばカーボンブラック及び活性炭の混合物を含むことができる。
【0020】
別の実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料は、1m
2/g〜3000m
2/g、又は10m
2/g〜3000m
2/gの範囲の窒素表面積(BET)、たとえば10m
2/g〜2500m
2/g、10m
2/g〜2000m
2/g、50m
2/g〜3000m
2/g、50m
2/g〜2500m
2/g、50m
2/g〜2000m
2/g、100m
2/g〜3000m
2/g、又は100m
2/g〜2500m
2/gの範囲の表面積を有する。BET表面積を、ASTM‐D6556に準拠して決定することができる。
【0021】
1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料は、カーボンブラック、例えば30m
2/g〜3000m
2/g、例えば30m
2/g〜2000m
2/g、30m
2/g〜1800m
2/g、30m
2/g〜1600m
2/g、30m
2/g〜1200m
2/g、30m
2/g〜1000m
2/g、30m
2/g〜500m
2/g、30m
2/g〜200m
2/g、30m
2/g〜100m
2/g、100m
2/g〜2000m
2/g、100m
2/g〜1800m
2/g、100m
2/g〜1600m
2/g、100m
2/g〜1200m
2/g、100m
2/g〜1000m
2/g、100m
2/g〜500m
2/g、100m
2/g〜200m
2/g、500m
2/g〜2000m
2/g、500m
2/g〜1800m
2/g、500m
2/g〜1600m
2/g、500m
2/g〜1200m
2/g、500m
2/g〜1000m
2/g、又は1000m
2/g〜1600m
2/gの範囲のBET表面積を有するカーボンブラックから選択される。1つの実施態様において、カーボンブラック粒子は一次粒子の凝集体を指し、一次粒子自体を指さない。
【0022】
1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料は、カーボンブラック、例えば50mL/100g〜500mL/100gの範囲のOAN、例えば50mL/100g〜300mL/100g、50mL/100g〜200mL/100g、100mL/100g〜500mL/100g、100mL/100g〜300mL/100g、又は100mL/100g〜220g/100mLの範囲のOANを有するカーボンブラックを含む。OANを、ASTM‐D2414に準拠して決定することができる。
【0023】
1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料は、グラファイト、例えば1m
2/g〜50m
2/gの範囲のBET表面積を有するグラファイトを含む。
【0024】
1つの実施態様において、少なくとも1種の炭素質材料は、活性炭、例えば650m
2/g〜3000m
2/g、例えば650m
2/g〜2500m
2/g、650m
2/g〜2000m
2/g、1000m
2/g〜3000m
2/g、1000m
2/g〜2500m
2/g、1000m
2/g〜2000m
2/g、1200m
2/g〜3000m
2/g、1200m
2/g〜2500m
2/g、又は1200m
2/g〜3000m
2/gの範囲のBET表面積を有する活性炭を含む。
【0025】
別の実施態様は、
少なくとも1種の炭素質材料を少なくとも1種の添加剤前駆体と混合して混合物を形成することを含み、少なくとも1種の添加剤前駆体はカルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、金属イオンは少なくとも1種の炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在し、
混合物を、熱処理及び噴霧乾燥から選択される少なくとも1つのプロセスに供して組成物を形成することをさらに含む、少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含む組成物の製造方法を提供する。
【0026】
1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤は、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムから選択される金属イオンを含有する少なくとも1種の添加剤前駆体から誘導される。1つの実施態様において、添加剤前駆体は、塩又は他の金属イオン含有材料、たとえば酸化物、窒化物、及び硫化物であることができる。1つの実施態様において、添加剤前駆体は、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムの硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リグノスルホネート、クエン酸塩、酒石酸塩、及びグルコン酸塩、又は当分野で知られている他の塩から選択されることができる塩である。1つの実施態様において、前駆体は添加剤自体である。すなわち、組成物(例えば複合体)を形成する際に転化又は反応は起こらない。別の実施態様において、添加剤前駆体は、転化又は反応して少なくとも1種の添加剤を形成することができる。例えば、酢酸塩により処理された炭素表面は、酢酸塩自体を有する炭素表面を生成することができる。すなわち、前駆体は添加剤である。別の実施態様において、炭素表面は、部分的に又は完全に炭酸塩に転化することができる酢酸塩により処理されることができる。すなわち、酢酸塩は炭酸塩添加剤の前駆体である。組成物中の金属イオンの最終的な量が0.5質量%〜3質量%の範囲である限り、炭素質材料が所望の金属イオンを固有に含有する場合、少なくとも1種の炭素質材料と混合される添加剤前駆体の量は、炭素質材料に対して0.5質量%未満であることができる。
【0027】
少なくとも1種の炭素質材料及び(添加剤自体と同じか異なることができる)少なくとも1種の添加剤前駆体を混合して、スラリー、ペースト、又は乾燥ブレンドであることができる混合物を形成することができる。例えば、前駆体を含む溶液を、前駆体を炭素質材料と混合するより前、又はそれと同時に調製することができる。代わりに、乾燥ブレンドを形成し、次いで液体ビヒクルを添加してスラリー又はペーストを形成することができる。液体ビヒクルは、水、有機溶媒(例えば水混和性)、又はこれらの混合物(例えば水性溶液)から選択されることができる。混合工程に続いて、混合物を、次いで熱処理及び噴霧乾燥から選択される少なくとも1つのプロセスに供して組成物(例えば複合体)を形成することができる。
【0028】
1つの実施態様において、混合物は熱処理に供される。1つの実施態様において、熱処理は、炭素質材料及び(添加剤自体と同じか異なることができる)前駆体の混合物を加熱することを含むことができる。1つの実施態様において、加熱することは、25℃〜2000℃、25℃〜1000℃、例えば25℃〜750℃、25℃〜500℃、25℃〜250℃、25℃〜100℃、30℃〜2000℃、30℃〜1000℃、30℃〜750℃、30℃〜500℃、30℃〜250℃、30℃〜100℃、50℃〜2000℃、50℃〜1000℃、50℃〜750℃、50℃〜500℃、50℃〜250℃、50℃〜100℃、100℃〜2000℃、100℃〜1000℃、100℃〜750℃、100℃〜500℃、又は100℃〜250℃の範囲の1つ又はそれより多くの温度にて実施される。別の実施態様において、混合に続いて、混合物を室温にて乾燥させることができる。
【0029】
加熱することを、単一温度(例えば本開示に開示される温度のいずれか)又は1つより多くの温度にて実施することができ、例えば1つ又はそれより多くの単一温度にて加熱するか、温度を連続的に又は段階的に上下させつつ加熱する。加熱することを、1つ又はそれより多くの時間で実施することができ、各時間(又は全時間)は5分又は1時間〜数日、例えば少なくとも5分、少なくとも15分、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも4時間、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間、5分〜24時間、5分〜12時間、5分〜4時間、5分〜2時間、5分〜1時間、15分〜24時間、15分〜12時間、15分〜4時間、15分〜2時間、15分〜1時間、30分〜24時間、30分〜12時間、30分〜4時間、30分〜2時間、30分〜1時間、1時間〜24時間、1時間〜12時間、1時間〜6時間、1時間〜4時間、1時間〜12時間の範囲である。混合物を連続昇温(例えば5℃/分未満、10℃/分未満、15℃/分未満、又は5℃/分〜15℃/分の範囲の上昇)に供することができ、又はオーブン若しくは炉に挿入するか、高温ガス流若しくは他の加熱要素に1つ又はそれより多くの所望の温度にて供することができる。
【0030】
1つの実施態様において、加熱することは、不活性条件下、例えば静的不活性ガス条件下、又は不活性ガスパージ(例えば窒素又はアルゴンパージ)下で実施される。
【0031】
1つの実施態様において、混合物は噴霧乾燥に供される。1つの実施態様において、「噴霧乾燥」は、炭素質材料及び(添加剤自体であることができる)添加剤前駆体を含有する液体形態(例えばサスペンション)の混合物を、液体混合物の気化に効果的な条件下で気化させる方法を指す。噴霧乾燥又はその後のプロセスにより、炭素質材料及び添加剤(又は添加剤前駆体)の初期緊密混合物を形成することができ、又は炭素質材料及び添加剤(又は添加剤前駆体)を含む複合体を形成することができる。噴霧乾燥を、噴霧乾燥機、噴霧転化反応器、噴霧熱分解反応器、又は当分野で知られている他の装置で実施することができる。噴霧乾燥は、少なくとも約1秒、例えば少なくとも3秒、少なくとも約20秒若しくは少なくとも約100秒の時間に亘って、又は1秒〜2分、3秒〜2分、20秒〜2分、1秒〜60秒、3秒〜60秒、若しくは20秒〜60秒の範囲の時間に亘って起こることができる。
【0032】
噴霧乾燥を、逐次的に又は熱処理プロセスと同時に実施することができる。1つの実施態様において、噴霧乾燥は、熱処理と同時に実施され、方法は、本開示に開示される熱処理温度等の高温にて噴霧することをさらに含む。噴霧乾燥及び熱処理は、同時か逐次的かに関わらず、噴霧乾燥機又は噴霧転化反応器により実施することができる。噴霧転化反応器において、液体混合物又はサスペンションの液滴をキャリアガスに同伴させ、液体混合物又はサスペンションを気化させるのに効果的な条件下で100秒以下の時間高温炉に通過させる。ある実施態様において、高温は、組成物(例えば複合体)を生成するのに十分である。他の実施態様において、溶媒が液滴から気化されると、添加剤前駆体の緊密混合物は炭素質材料上に配される。得られた粒状混合物が噴霧乾燥から捕集された後、それを、本開示に開示される熱処理温度にて、不活性又は還元雰囲気中で熱処理に供して組成物(例えば複合体)を形成することができる。
【0033】
1つの実施態様において、さらなる処理(例えば乾燥又は熱処理)を噴霧乾燥の生成物に実施せず、それを、本開示に記載のように、そのままで電極組成物に組み入れることができる。
【0034】
1つの実施態様において、組成物(例えば粒状複合体)は粉末である。別の実施態様において、組成物(例えば粉末)をさらに圧縮し、成形し、又は他の圧縮形態、たとえばペレットに加工することができ、例えば、噴霧乾燥及び/又は熱処理の生成物を、当分野で知られている任意の方法において、ペレット化プロセスに供することができる。
【0035】
1つの実施態様において、組成物は、電極板又は電流コレクターをコーティングする電極組成物である。組成物を、鉛酸蓄電池の電極を形成する他の成分と組み合わせることができる。したがって、別の実施態様は、
少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含み(又は本質的にこれからなり、又はこれからなり)、少なくとも1種の添加剤はカルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、金属イオンは炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在し;
少なくとも1種の鉛含有材料をさらに含む組成物を提供する。
【0036】
組成物は、本開示に記載の1種又はそれより多くの追加の成分、例えば有機分子エキスパンダー、BaSO
4、及び/又はH
2SO
4の1種又はそれより多くをさらに含むことができる。
【0037】
1つの実施態様において、鉛含有材料は、鉛、PbO、Pb
3O
4、Pb
2O、及びPbSO
4、これらの水酸化物、これらの酸、及び他のこれらのポリ金属鉛錯体から選択される。鉛含有材料のソースは、主にPbO及び鉛を含む鉛酸化物であることができる。電極組成物の製造中、PbSO
4は鉛酸化物とH
2SO
4との反応において生成する。
【0038】
1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤を含有する炭素質材料は、組成物の全質量に対して0.05質量%〜3質量%、例えば、組成物の全質量に対して0.1質量%〜3質量%、0.1質量%〜2.5質量%、0.1質量%〜2質量%、0.1質量%〜1.5質量%、0.1質量%〜1質量%、0.1質量%〜0.5質量%、0.2質量%〜3質量%、0.2質量%〜2.5質量%、0.2質量%〜2質量%、0.2質量%〜1.5質量%、0.2質量%〜1質量%、0.2質量%〜1質量%、又は0.1質量%〜0.5質量%の範囲の(添加)量で組成物中に存在する。
【0039】
電極組成物は、少なくとも1種の有機分子エキスパンダー、H
2SO
4、及びBaSO
4の1種又はそれより多くを含む他の成分をさらに含むことができる。1つの実施態様において、電極組成物は、少なくとも鉛含有材料と、互いに散在した(例えば均一に散在した)炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)とを含み、例えば炭素質材料と、少なくとも1種の添加剤と、鉛含有物とを含む組成物(例えば複合体)は粒状である。1つの実施態様において、混合物の成分は層又はコーティングとして与えられない。1つの実施態様において、電極組成物の他の成分(例えばBaSO
4及び/又はH
2SO
4)に、鉛含有材料及び炭素添加剤が均一に散在している。
【0040】
本開示で規定される「有機分子エキスパンダー」は、鉛含有種の表面に吸着又は共有結合して、鉛含有種の表面におけるPbSO
4の滑らかな層の形成の速度を抑制するか実質的に低下させる多孔質網目を形成することができる分子である。1つの実施態様において、有機分子エキスパンダーは、300g/モル超の分子量を有する。例示的な有機分子エキスパンダーとしては、リグノスルホネート、リグニン、木粉、パルプ、フミン酸、及び木製品、並びにこれらの誘導体又は分解生成物が挙げられる。1つの実施態様において、エキスパンダーは、リグノスルホネート、リグニン構造を含有する実質的な部分を有する分子から選択される。リグニンは、幾つかのメトキシ、フェノール、硫黄(有機及び無機)、及びカルボン酸基を含むプライマリーフェニルプロパン基を含むポリマー種である。典型的には、リグノスルホネートはスルホン化されたリグニン分子である。典型的には、リグノスルホネートとしては、Borregaard Lignotech products UP‐393、UP‐413、UP‐414、UP‐416、UP‐417、M,D,VS‐A(Vanisperse A)、VS‐HTなどが挙げられる。他の有用な例示的なリグノスルホネートは、参照により本開示に組み入れられる「Lead Acid Batteries」、Pavlоv、Elsevier Publishing、2011に列記されている。少なくとも1種の添加剤が少なくとも1種の金属リグノスルホネートを含む1つの実施態様において、有機分子エキスパンダーは、該少なくとも1種の金属リグノスルホネートとは異なる。例えば、少なくとも1種の添加剤はカルシウムリグノスルホネートを含むことができ、有機分子エキスパンダーはナトリウムリグノスルホネートを含むことができる。
【0041】
1つの実施態様において、有機分子エキスパンダーは、組成物の全質量に対して0.1質量%〜1.5質量%、例えば0.2質量%〜1.5質量%、0.2質量%〜1質量%、0.3質量%〜1.5質量%、0.3質量%〜1質量%、又は0.3質量%〜0.8質量%の範囲の量で電極組成物中に存在する。
【0042】
1つの実施態様において、炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)、及び有機分子エキスパンダーの両方は、組成物の全質量に対して0.1〜5質量%、例えば0.1質量%〜4質量%、0.1質量%〜3質量%、0.1質量%〜2質量%、0.1質量%〜1.5質量%の範囲の量で電極組成物中に存在する。別の実施態様において、炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)は、電極組成物の全質量に対して0.2質量%〜1.5質量%、例えば0.3質量%〜1.5質量%の範囲の量で存在し、有機分子エキスパンダーは、0.2質量%〜1.5質量%、0.3質量%〜1.5質量%、0.2質量%〜1質量%、又は0.3質量%〜1質量%の範囲の量で存在する。
【0043】
電極組成物がH
2SO
4を含む1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤は、水性又は酸性溶液において低い溶解度を有する硫酸塩を形成する。任意の理論により束縛されることは望まないが、水又は酸溶液に不溶性の硫酸塩は、炭素表面にかなりの量の金属イオンを維持する。対照的に、酸又は水に溶解性の硫酸塩は、溶解のために徐々に表面から除去されることができ、これにより、炭素(又は炭素表面の一部)は部分的に又は完全に未修飾形態に戻る。1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤は、50g/100g水未満の水への溶解度、例えば40g/100g水未満、35g/100g水未満、30g/100g水未満、25g/100g水未満、20g/100g水未満、15g/100g水未満、10g/100g水未満、5g/100g水未満、又は1g/100g水未満の溶解度を有する硫酸塩である。
【0044】
別の実施態様は、本開示に開示される組成物、例えば少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含み、少なくとも1種の添加剤が、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する組成物を含む電極を含む。電極は、電極組成物によりコーティングされた電極板を含むことができる。電極はアノードであることができる。別の実施態様は、本開示に開示される電極又は組成物を含むセル又は鉛酸蓄電池を含む。鉛酸蓄電池は、亜鉛、ナトリウム、及びカリウムイオンから選択される少なくとも1種の電解質添加剤を含む電解質をさらに含むことができる。1つの実施態様において、少なくとも1種の電解質添加剤は、電解質の全質量に対して0.1〜3質量%の範囲の量で電解質中に存在する。
【0045】
別の実施態様は、電極組成物の製造方法を提供する。1つの実施態様において、方法は、炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)を鉛含有材料、エキスパンダー、及び任意選択的に他の成分、例えばBaSo
4及びH
2SO
4と混合すること含む。1つの実施態様において、鉛含有材料、エキスパンダー、及びBaSO
4の1種又はそれより多くを乾燥混合物として加えることができ、この乾燥混合物に硫酸及び/若しくは水を混合し、又はこれをその後(同時に又は任意の順序で逐次的に)添加することができる。別の実施態様において、方法は、鉛含有材料、有機分子エキスパンダー、BaSO
4、並びにその後(同時に又は任意の順序で逐次的に)硫酸及び/又は水を混合してスラリーを形成することを含む。方法は、スラリーを炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)と混合することをさらに含む。炭素質材料/添加剤組成物を、スラリーと混合するより前に水又は硫酸により予め湿らせることができる。用いられる方法に関わらず、結果はペースト又はスラリーの形態の中間体であり、それを、基材をコーティングするのに用いることができる。
【0046】
1つの実施態様において、炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)を、NAM(負極活性マス)材料、例えば鉛酸蓄電池用のNAM材料と混合するより前に、水又はH
2SO
4により予め湿らせる。当業者は、加えられる炭素質材料の量に基づいて、予め湿らせるのに必要な水又は酸の量を決定することができる。1つの実施態様において、水で予め湿らせた材料に関して、組成物(例えば複合体)と水との比は、1:1〜1:3(質量)の範囲である。酸で予め湿らせる工程は、当分野で知られている任意の方法にしたがって、例えば組成物(例えば複合体)に酸液滴を添加することにより実施することができる。別の実施態様において、組成物(例えば複合体)は、典型的にはNAMペースト中にも存在する体積H
2SO
4にゆっくりと添加される。H
2SO
4は、1.05g/cm
3〜1.5g/cm
3の範囲の密度を有することができる。
【0047】
別の実施態様において、炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)は水を含む。1つの実施態様において、この組成物は、水が含有され、又は炭素質材料の細孔中に主に含有された「湿った」粉末である。得られた湿った粉末は、分散体又はスラリーとは対照的に、より粉末のように振る舞う。ある場合において、湿った粉末は乾燥粉末と比べて容易に分散させることができる。炭素質材料の細孔中の水の存在により予め湿らせる工程をなくし、炭素質材料/添加剤組成物をそのまま電極組成物に組み入れることができる。湿った粉末を、炭素質材料/添加剤組成物(例えば複合体)の調製中に調製することができる。例えば、添加剤は水溶性(例えば金属リグノスルホネート等の金属塩)であることができ、添加剤の溶液を十分な量で炭素質材料と混合して湿った粉末を形成することができる。したがって、1つの実施態様は、
組成物の全質量に対して40質量%〜45質量%の範囲の量で存在する少なくとも1種の炭素質材料と;
組成物の全質量に対して45質量%〜55質量%の範囲の量の水と;
少なくとも1種の添加剤を含む組成物の残部とを含み(又は本質的にこれからなり、又はこれからなり)、
少なくとも1種の添加剤が、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する組成物を提供する。
【0048】
湿った粉末組成物を鉛含有材料と、有機分子エキスパンダーと、BaSO
4及びH
2SO
4等の他の成分と直接的に混合して電極組成物を形成することができる。代わりに、湿った粉末組成物を、水含有量を保つ条件下で保存し、その後鉛含有材料と、有機分子エキスパンダーと、任意選択的に他の成分と混合して電極組成物を形成することができる。
【0049】
1つの実施態様において、電極組成物をペースト又はスラリーとして基材、例えば電極板、又はグリッド等の電流コレクターの上に堆積させ、基材上で乾燥させて電極を形成する。1つの実施態様において、グリッドは、(例えば穿孔され、又はシートから延伸された)無数の設計及び形状がある金属構造であり、活物質のための固体永久支持体として機能する。また、グリッドは、活物質へ向かい、また遠ざかる電気又は電子を伝導する。グリッドは、純粋な金属(例えばPb)又はこれらのアロイを含むことができる。これらのアロイの成分は、参照により本開示に組み入れられる「Lead Acid Batteries」、Pavlоv、Elsevier Publishing、2011に記載の金属の中でも特に、Sb、Sn、Ca、Agを含むことができる。
【0050】
1つの実施態様において、基材の上への堆積の後に、ペースト中間体を乾燥させる。1つの実施態様において、乾燥させることは、制御された湿度条件下等でゆっくりとキュアすることにより達成され、制御された湿度下での中程度の量の加熱(例えば30℃〜80℃、又は35℃〜60℃)は多孔質固体をもたらす。キュア工程には、極端に低い湿度、又はゼロ湿度における高温(例えば50℃〜140℃、又は65℃〜95℃)での第二の加熱工程(乾燥)が続くことができる。1つの実施態様において、組成物はモノリスである。他のペースト化すること、キュアすること、形成の手順は、参照により本開示に組み入れられる「Lead Acid Batteries」、Pavlоv、Elsevier Publishing、2011に記載される。
【0051】
別の実施態様は、炭素質材料とリグノスルホネート塩とを含む組成物(例えば複合体)を提供する。上記で言及されたように、ナトリウムリグノスルホネート又はフミン酸に基づく有機分子エキスパンダーは、頻繁に電極板配合物に加えられる。炭素質材料とある種の金属リグノスルホネート塩とを含む組成物が、炭素表面の上に金属塩の堆積をもたらすことができることが見いだされた。さらに、金属リグノスルホネートは、全体のプロセスを簡易化しつつ、組成物(例えば複合体)の形成及び電極ペーストの調製プロセスを1工程で組み合わせるように、固有の有機分子エキスパンダーとして機能することができる。ある係る組成物(例えば複合体)は、電極ペースト配合物へのより高い分散性を有することも見いだされ、それはリグノスルホネートの高分子電解質性のためであると考えられる。
【0052】
したがって、1つの実施態様は、少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の金属リグノスルホネートとを含むか、本質的にこれからなるか、これからなり、少なくとも1種の金属リグノスルホネートが、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムリグノスルホネートから選択され、少なくとも1種の金属リグノスルホネートの金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する組成物(例えば複合体)を提供する。
【0053】
1つの実施態様において、組成物は、表面に少なくとも1種の金属リグノスルホネートを有する少なくとも1種の炭素質材料を含む複合体粒子を含む。例えば、金属リグノスルホネートは、炭素質材料の粒子を(部分的に又は全体的に)コーティングする。結果として、炭素質材料の粒子に少なくとも1種の金属リグノスルホネートが散在している(例えば均一に散在している)。複合体は粉末であることができ、又は圧縮形態、例えばペレットであることができる。係る複合体粒子を、本開示に記載の方法により電極組成物に組み入れることができる。したがって、別の実施態様は、
少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種のリグノスルホネートとを含み、少なくとも1種の金属リグノスルホネートが、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択され、少なくとも1種の金属リグノスルホネートの金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する複合体粒子と;
少なくとも1種の鉛含有材料と
を含む(又は本質的にこれかなる、又はこれからなる)組成物(例えば電極組成物)を提供する。
【0054】
電極組成物は、本開示に記載の1種又はそれより多くの追加の成分、例えば有機分子エキスパンダー、BaSO
4、及び/又はH
2SO
4の1種又はそれより多くをさらに含むことができる。
【0055】
少なくとも1種の鉛含有材料(及び他の成分)と混合するより前に、炭素質材料と金属リグノスルホネートとを含む組成物(例えば複合体)を湿った粉末として調製することもできる。1つの実施態様において、炭素質材料と金属リグノスルホネートとを含む組成物は、45質量%〜55質量%の水をさらに含有することができ、これにより予め湿らせる工程が回避される。したがって、別の実施態様は、
組成物の全質量に対して40質量%〜45質量%の範囲の量で存在する少なくとも1種の炭素質材料と;
カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムリグノスルホネートから選択される少なくとも1種の金属リグノスルホネートであって、少なくとも1種の金属リグノスルホネートの金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在し、少なくとも1種の金属リグノスルホネートが、組成物の全質量に対して5質量%〜10質量%の範囲の量で存在する少なくとも1種の金属リグノスルホネートと;
組成物の全質量に対して45質量%〜55質量%の範囲の量の水と
を含む(本質的にこれからなる、又はこれからなる)組成物(例えば複合体)を提供する。
【0056】
1つの実施態様において、組成物(例えば複合体)を電極に(例えば電極板用のコーティングとして)用いることができ、組成物(例えば複合体)は、本開示に記載の成分、例えば鉛含有材料、有機分子エキスパンダー、H
2SO
4、及びBaSO
4をさらに含むことができる。1つの実施態様において、組成物(例えば複合体)の金属リグノスルホネートは、有機分子エキスパンダーとして機能する。別の実施態様において、組成物又は複合体は、第二の有機分子エキスパンダー、例えば組成物(例えば複合体)の金属リグノスルホネート以外の本開示に記載のエキスパンダーのいずれかを含む。
【0057】
1つの実施態様において、炭素質材料と組み合わせて金属リグノスルホネートを含む組成物(例えば複合体)は、電極ペースト配合物への分散性が改善した。リグノスルホネートの高分子電解質性は、分散の改善に寄与すると考えられる。別の実施態様において、組成物(例えば複合体)は、鉛酸蓄電池(例えば電極)に組み入れられた際に粒子性能を改善し、そこでは粒子表面上のカルシウムイオンの存在が、水損失を低減する。
【0058】
組成物(例えば複合体)を、金属リグノスルホネートと共に炭素質材料を含有するサスペンションを介して調製することができる。代わりに、溶液、例えば(水溶性)金属リグノスルホネートの水性溶液を炭素質材料と組み合わせることができ、例えば溶液は炭素質材料の上に噴霧乾燥されることができる。さらに別の実施態様において、金属リグノスルホネートの溶液中に炭素質材料を含有するサスペンションは、上記のように噴霧乾燥されることができる。
【0059】
別の実施態様は、
少なくとも1種の鉛含有材料及び有機分子エキスパンダーを、少なくとも1種の炭素質材料及び少なくとも1種の添加剤を含む組成物と混合することを含み、少なくとも1種の添加剤が、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する電極組成物の調製方法を提供する。1つの実施態様において、組成物は、少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含む複合体である。
【0060】
1つの実施態様において、混合するより前に、少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含む組成物は、組成物の全質量に対して40質量%〜45質量%の範囲の量の少なくとも1種の炭素質材料と、組成物の全質量に対して45質量%〜55質量%の範囲の量の水とを提供する。1つの実施態様において、少なくとも1種の添加剤は金属リグノスルホネートとして金属イオンを含み、金属リグノスルホネートは、組成物の全質量に対して5質量%〜10質量%の範囲の量で存在する。
【0061】
1つの実施態様において、混合することは:
少なくとも1種の鉛含有材料と有機分子エキスパンダーとを含む混合物を形成することと;
混合物を少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤(例えば金属リグノスルホネート)とを含む組成物(例えば複合体)と混合することと
を含む。
【0062】
水損失を制御することは、あまりメンテナンスが必要でないか、メンテナンスが必要でない鉛酸蓄電池の設計における1つの検討事項である。鉛酸蓄電池における水損失は、大部分は充電及び過充電中に起こり、典型的には負極板上の水素の発生及び/又はグリッド腐食、並びに正極板上の酸素発生により生じる。負極板における炭素質材料の添加は、典型的には、大部分は炭素の量及び種類(例えば表面積及びモルフォロジー)に依存して水損失の増大をもたらす。一般的に、水素発生の速度と負極板電位との関係は、バトラー・ボルマー式:
I=−A.i
0.exp[−α
cnF/RT(E−E
eq)](1)
(式中、水素発生の速度は(カソード)電流Iにより与えられ;(電気化学的に活性な)表面積はAにより与えられ;i
0は交換電流密度であり;nは反応中に交換された電子の数を表し;α
cは反応に関する対称性因子であり;E
eqは反応に関する平衡電位を表し;Eは過充電条件中の電極電位である。)
により示すことができる。
【0063】
式(1)から、水素発生の速度に影響を及ぼす2つの材料特有のパラメータ((i)交換電流密度(i
0)により示される水素発生に対する電極成分の材料特有の固有活性、及び(ii)(電気化学的に活性な)表面積Aに影響を及ぼす材料のモルフォロジー特性)があることを理解することができる。炭素質材料を含有する負極の場合において、水素発生は鉛及び炭素表面の両方で起こることができる。個々の成分の相対的な寄与は、与えられた電極電位における(固有の触媒活性及び表面積の組み合わせである)固有の活性により決定される。
【0064】
1つの実施態様は、本開示に開示される組成物(例えば複合体)によりコーティングされた電極板を含むセル又は電池を提供し、セルまたは電池は、未修飾炭素を含有するセル又は電池と比べて低い水損失(例えば少なくとも10%)を有する。水損失を、ある時間、例えば少なくとも3、4又は6週間、60℃の水浴中で14.4Vにて電池を過充電した後の質量損失として測定することができる。水損失の程度は、電極材料に固有の因子、例えば(過)充電中の正極及び負極板電位等の他の因子、並びに酸電解質、グリッド、及び他の電極成分中のある種の金属不純物の存在に加えて、組成物、例えば複合体(炭素質材料及び金属イオン添加剤)の表面積、金属イオン添加剤処理の水準(例えば炭素に対する質量%)、及びペースト配合物中の添加量に依存する可能性がある。未修飾炭素を含有する電極を含むセル又は電池は、典型的には未修飾炭素を含まないセル又は電池と比べて増大した水損失をもたらす。本組成物は、未修飾炭素を含有する電極を含むセル又は電池と比べて少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、又は少なくとも90%、セルにおける水損失の水準を低減する。1つの実施態様において、電池は、未修飾の炭素質材料を含む電極板を有する電池と比べて少なくとも10%(例えば少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、又は少なくとも90%)、少なくとも3週間の期間に亘って低減された水損失を達成する。
【0065】
任意の理論により束縛されることは望まないが、負極板への炭素の添加は、電極モルフォロジーを変化させる。この変化は、典型的には式(1)にしたがって負極板Aの表面積の増大をもたらし、水素発生の増大した速度、及び加速された水損失をさらにもたらす。任意の理論により束縛されることは望まないが、表面積の増大は、高表面積成分であることができる炭素の単純な物理的添加から、又は負極板への炭素粒子の添加により作製された鉛相の増大した表面積から生じる可能性がある。他の相互作用がない場合(例えば個々の成分の交換電流密度(i
0)は混合の結果として変化しない)において、全水素発生速度及び付随する水損失を、主に2つの相(鉛及び炭素)間の(電気化学的に)活性な全表面積Aの区画により決定することができる。しかし、鉛及び炭素相により形成された粒子は、水素発生の異なる固有の速度を有することができることも可能である。水損失の緩和は、したがって幾つかの異なる経路により進めることができる。任意の理論により束縛されることは望まないが、水損失の緩和は、プロトン吸着(水素発生の中間工程)のための表面サイトをブロックする部分の添加の後に、炭素の固有の活性を改質することにより達成することができる。代わりに、鉛と炭素との相互作用は、係る種の添加により変化させることができる。この改質は、電気化学的に活性な表面積Aの低減、又は水素発生に関する炭素表面の固有の(電気触媒)活性の選択的な改質を選択的に目的とすることができる。
【実施例】
【0066】
例
例1
この例は、カーボンブラックとカルシウム塩とを含む複合体の調製を記載する。
【0067】
Ca(CH
3CO
2)
2.xH
2O(3g、5.52質量%水和水含有)を125gの水に溶解させた。この溶液を、撹拌しつつ、50gのカーボンブラック(PBX(登録商標)51炭素添加剤、Cabot Corporation)にゆっくりと加えた。混合物を60℃のオーブン中で数日又は終夜室温にて乾燥させた。
【0068】
乾燥させた混合物を次いで以下のプロトコルにしたがって熱処理した:
・混合物を1〜2時間室温のN
2パージ(2L/分)に供する;
・温度を10℃/分の速度にて上昇させ、150℃N
2パージを達成し、混合物を1時間N
2パージ下で放置する;
・温度を10℃/分の速度にて上昇させ、500℃N
2パージを達成し、混合物を2時間N
2パージ下で放置する;
・N
2下で冷却する。
【0069】
得られた生成物は、カーボンブラックの表面上の水不溶性のカルシウム塩の形成により示されるように、CaCO
3の形態で1質量%のカルシウムを有するカーボンブラックを含む複合体である(サンプルA)。サンプルAのN
2BET表面積は、1465m
2/gであると決定された。
【0070】
同じ手順をカーボンブラック及び7.5gのCa(CH
3CO
2)
2.xH
2Oにより繰り返してカーボンブラック及びCaCO
3を含む複合体を製造した。得られたカルシウム含有量は2.5質量%であった(サンプルB)。
【0071】
同じ手順をカーボンブラック及び1gのBa(CH
3CO
2)
2(125gの水中)により繰り返してカーボンブラック及びBaCO
3を含む複合体を製造した。得られたバリウム含有量は1質量%であった(サンプルC)。
【0072】
例2
この例は、カーボンブラック及びカルシウムリグノスルホネートの複合体を含むペレットの調製を記載する。
【0073】
ペレットを、65℃の温度にて、4Lのプラウミキサー(Processall、4H/V Tilt‐A‐Mix(登録商標)ミキサー)により調製した。混合速度を100rpmに設定し、ミキサーに200gのPBX(登録商標)51カーボンブラックを入れた。プラウ回転により、噴霧添加ユニットを260gの13.3質量%カルシウムリグノスルホネート(「CaLS」、Aldrich)溶液により充填し、17psi窒素に加圧した。所望の圧力に到達したら、噴霧添加ユニットからの添加バルブを開いて、カルシウムリグノスルホネート溶液のスプレーを炭素の表面に導入した。噴霧が完了したら、生成物をさらに5分間混合し、ミキサーから排出した。サンプルを100℃〜110℃のオーブン中で終夜(又は12〜18時間)乾燥させた。
【0074】
以下の表1は、PBX(登録商標)51カーボンブラック(「CB」)と比べたカーボンブラック‐カルシウム複合体の特性を示す。加えられたカルシウムの量は、カルシウムリグノスルホネート中の5質量%カルシウムに基づいて算出された。カルシウム含有量は、AES‐ICPにより決定され、それは複合体中に存在するカルシウムの全量を表す。
【0075】
【表1】
【0076】
例3
この例は、カルシウム‐カーボンブラック複合体のサイクリックボルタンメトリー(CV)測定を記載する。
【0077】
CV測定を3つのサンプル(未修飾カーボンブラック(PBX(登録商標)51カーボン添加剤、Cabot Corporation;「CB」)、例1によるカーボンブラックと1質量%のカルシウムとを含む複合体であるサンプルA、及びカーボンブラックとカルシウムリグノスルホネート由来の0.5質量%のカルシウムとを含む複合体である例2によるサンプルE)で実施した。3つのカーボンブラックサンプルの各々に関して、カーボンブラック又は複合体(0.45g)をポリビニレンジフルオリド(PVDF、0.5gの10質量%溶液、N‐メチルピロリジノン(NMP)中)、及びNMP(9g)と20分間THINKY
TMARE‐310プラネタリーミキサー中で混合することにより、5質量%固体のスラリーを調製した。80℃において1時間NMPを気化させることにより、90質量%カーボンブラック又は複合体と、10質量%PVDFとを含有する乾燥個体が得られた。
【0078】
グラファイトロッドを40μLのスラリーによりコーティングして、2.75+/0.05mgのコーティング量をもたらした。コーティングされたグラファイトロッドを、対電極として未コーティングのグラファイトロッド、及び参照電極として標準カロメル電極(SCE)を用いた3電極ジャケット付き電気化学セルにおいて作用電極として用いた。セル温度を水循環により60℃にて維持し、サイクリックボルタンメトリー(CV)実験を、SCEに対して平衡電位〜+0.4V、次いで−0.8V、10mV/秒にて3サイクル作用電極をスキャンすることにより実施した。3回目のCVサイクルを用いてカーボンブラックと比較し、それは本開示の「最終的な」CVサイクルと呼ばれた。プロットを+0.4Vにて容量性電流に規格化して、同じ電気化学表面積における全ての電流の比較を可能にした。これは、カーボンブラックのコーティング質量又はBET比表面積のばらつきの効果をなくす。
【0079】
図1は、3つのCBコーティングロッドの各々に関する最終的なCVサイクルを示す(規格化された電流[mA/mA]対電圧[V])。負の掃引において、容量性電流に加えてプロトン吸着及び還元プロセスが存在する。水素還元電流が、CBサンプルと比べて両方の複合体サンプル(サンプルA及びサンプルE)に関してより低いことを
図1から理解することができる。表2は、−0.6Vにおける%電流に関する値を示し、水素放出電流は−0.6V(対SCE)において約20%減少した。
【0080】
【表2】
【0081】
水素放出が、負極板中にカーボンブラックを含有する鉛酸蓄電池に関する過充電電流における駆動力であり、過充電電流及び水損失は、請求された発明による複合体により低減されることが予想される。
【0082】
例4
この例は、以下のサンプル(未修飾カーボンブラック(PBX(登録商標)51カーボン添加剤、Cabot Corporation;「CB」)、例1によるカーボンブラックと1質量%のカルシウムとを含む複合体であるサンプルA、例1によるカーボンブラックと2.5質量%のカルシウムとを含む複合体であるサンプルB、及び例1によるカーボンブラックと1質量%のバリウムとを含む複合体であるサンプルC)の回転ディスク電極(RDE)測定を記載する。スラリー(4mg/mL)を、4mL:1mLのH
2O:イソプロパノール(IPA、HPLCグレード)混合物に20mgの各サンプルを加え、次いで1分間超音波処理することにより調製した。
【0083】
電極を25μLのカーボンブラック含有溶液により、研磨されたガラス状カーボン電極をコーティングすることにより調製した。乾燥(25℃において約1分)させた後、12マイクロLの0.05質量%のNafion溶液を電極の上部にバインダーとして加え、電極を25℃において1時間窒素下で乾燥させた。
【0084】
回転ディスク電極(RDE)測定を、EC‐Lab(登録商標)v10.21ソフトウェア用いたPCを介して接続されたPine Speed control及びPine Analytical rotator(Pine Research Instrumentation)を制御するBiStatポテンシオスタット(Princeton Applied Research)により実施した。3電極ガラスセル(Pine Research Instrumentaion)を白金ワイヤ対電極、カロメル参照電極、及び100μgのカーボンブラックサンプルによりコーティングされた調査中のガラス状カーボン作用電極と共に用いた。
【0085】
電解質(0.5MのH
2SO
4)を測定より前に20分間アルゴンでパージした。水素還元電量を、20mV/秒、−0.3〜−1V(対SCE)で3000rpmディスク回転速度におけるサイクリックボルタンメトリースキャン中、50℃において測定した。報告された電流を(−0.4V対標準水素電極(SHE)に対応する)−0.65V(対SCE)にて読み、カーボンブラックの質量により規格化し、定常状態に到達してから測定した。100mV/秒における前形成サイクル(通常10サイクル未満)を実施してCV電流の定常状態を達成した。水素放出電流を25℃、35℃、及び50℃にて測定した。
【0086】
図2は、水素放出反応(HER)電流(mA/g対温度(℃))のプロットである。データは、サンプルA〜Cの各々が各温度において未修飾カーボンブラックと比べて低い水素放出電流を示したことを示す。また、低下した水素放出は、過充電電流及び水損失が、請求された発明による複合体により低減されることが予想されることを示すと考えられる。
【0087】
例5
この例は、カーボンブラック又は例1のサンプルAを、各々負極ペースト混合物中の鉛酸化物に対して0質量%、0.25質量%、及び0.5質量%の量で負極中に含有する単セルに関する過充電電流の測定を記載する。
【0088】
負極活性マス(NAM)ペーストの混合を1kgスケールで実施した。PbO(1kg)をEirich EL1ミキサーに加え、1分間混合し、次いでVanisperseA(0.2質量%に関して2g)、及びバリウムサルフェート(0.8質量%に関して8g)を加えた。12gの水により予め湿らせたカーボンブラック又は複合体(0.5質量%に関して5g)を、次いでミキサーに加えて3分間混合し、次いで水(140mL)を加え、さらに10分間混合した。最後に、硫酸(80mL、1.4g/cm
3)を、濃度調節の必要に応じて追加の水を添加しつつ、13分間に亘りゆっくりと加えた。ペーストを次いで25分間混合した。コントロール正極ペーストを、カーボンブラックを含まない以外は同じ手順にしたがって製造した。
【0089】
電極は、5.5x5cm
2のPb‐Sn‐Caアロイグリッド(98.86%鉛、1.1%スズ、及び0.04%カルシウム)上に22gの湿ったペーストを手で糊付けされた。電極をTenney TR2C湿度制御オーブン中でキュアした。キュアプロトコルは、正極及び負極板に関して同じであった(35℃において72時間、95%RH、次いで60℃において24時間、10%RH)。キュア後のNAM質量は、典型的には板当たり20gであった。
【0090】
セルを、2つの負極板及び3つの正極板を共にトーチ溶接することにより組み立てた。正極板を市販で入手可能な自動車用ポリエチレン‐ゴムセパレーター(Daramic DRCM‐200A328)で覆った。電極及びセパレータースタックをポリメチルメタクリレートケースに挿入し、ナイロンメッシュシムで圧縮した。ケースの蓋を2mm直径の通気開口部をもってねじ留めした。完成したセルは、2V、4.6Ah名目容量の単一セルであった。
【0091】
形成は、1.18g/cc硫酸(典型的には85mL)によりケース中で実施された。形成アルゴリズムは、65時間の全継続時間及び26.76Ahの全容量に関して9つの充電工程を含んでいた。形成後の電解質密度目標は1.28g/ccであった。
【0092】
形成後、セルを以下のシーケンスにより予め調整した:完全充電、C20容量、完全充電、冷間クランク試験、完全充電、C20容量、完全充電、及び冷間クランク試験。C20は25℃における0.05xCnの低電流放電であり、冷間クランクは−18℃における5xCnの高電流放電である。Cnは名目容量である。
【0093】
予め調整した後に、電解質体積を1.28g/ccの硫酸により再調節した。セルを秤量し、60℃に加熱された水浴中に置いた。セル電圧を0.5A電流で2.4Vに再調節し、2.4Vにて3週間の継続時間で維持した。セル質量損失を週毎に測定し、セル過充電電流を全体の試験中に観察した。
【0094】
セルの過充電容量を過充電時間に亘って過充電電流を積算することにより算出した。表3は、未修飾カーボンブラック又は複合体(サンプルA、1質量%カルシウム)を含有するセルに関する過充電試験の3週間に亘る過充電容量データを示す。
【0095】
【表3】
【0096】
このデータは
図3においてプロットされる(過充電容量[Ah]対CB量[質量%])。表1及び
図3から、Ca修飾なしの場合、過充電容量はカーボンブラック量により着実に増大することを理解することができる。しかし、カルシウム添加剤を含む複合体がカーボンブラック上で用いられた際、過充電容量は安定化され、データは、水損失がサンプルAに関して低下することを示す。
【0097】
例6
この例は、例5の単セルによる水損失を記載する。
【0098】
単セルを、過充電試験中に週毎に秤量した。セルの名目容量で質量損失を除することにより全質量損失を規格化した。3週間後の全規格化質量損失を表4に報告する。
【0099】
【表4】
【0100】
水損失は、6週間後に3g/Ah未満である場合に許容可能であると考えられる(「水損失試験目標」)。未修飾カーボンブラックに関して、セルは水損失試験目標を達成しないことを理解することができる。対照的に、カーボンブラック‐カルシウム複合体を含有するセルは、90%超の低減された質量損失を示し、それは、これらのセルが水損失試験目標を達成したことを示す。
【0101】
例7
この例において、負極活性マス(NAM)配合物を調製し、過充電試験及び水損失試験により評価した。配合物はそのままで用いられたカーボンブラック(PBX(登録商標)51炭素添加剤、Cabot Corporation、「CB」)、又は17質量%の(CBに対して)Vanisperse A(VS‐A)として市販で入手可能なナトリウムリグノスルホネートと組み合わせられたカーボンブラック(「サンプルG」)、又は例2によるサンプルF(カルシウムリグノスルホネート由来の0.75質量%のCa)を含む。サンプルF及びGに関して、サンプルを例2と同様の手順にしたがって特注のバッチ式ペレタイザーを用いてそれぞれの水性リグノスルホネート溶液によりペレット化し、カーボンブラック‐リグノスルホネート複合体を形成した。サンプルCB‐A、CB‐B、サンプルF、及びサンプルGを、追加のVanisperse‐A及びバリウムサルフェートと(質量%として報告される)表5に列記された量で混合した。
【0102】
【表5】
【0103】
例5に記載のように負極を調製し、形成した。過充電試験を、4.6Ah平均名目容量の2つの負極及び3つの正極板を有する単2Vセル上で3週間実施した。正極板を市販で入手可能な自動車用ポリエチレン‐ゴムセパレーター(Daramic(登録商標)セパレーター、DRCM‐200A328)で覆った。電解質は、1.28gcm
-3H
2SO
4溶液であった。過充電試験を60℃の水浴中で2.4Vにて実施した。
【0104】
図4は、表5の配合物に関する2.4V、60℃における電流対時間のプロットとして、1週間の過充電中の過充電電流の放出を示す。最も高い過充電電流が、CB‐Aに関して観察される。2番目に高い過充電電流はサンプルG(CB及びVS‐A(VS‐Aの全量は0.29%対0.2%(CB‐A中)に増大した)のペレット、)に関して観察される。過充電電流のさらなる低下を、VS‐Aリグノスルホネートの量が0.4%に増大したCB‐Bにより観察することができる。最後に、複合体ペレット中のVS‐Aリグノスルホネートがカルシウムリグノスルホネートにより置き換えられたサンプルFに関して、過充電電流の最も大きい低下が観察され、このことはカルシウムカチオンの利益を強く示唆する。
【0105】
過充電電流により観察された傾向は、CaLSを含むセル(サンプルF)が、炭素添加剤を有さないコントロールセルにより達成されたのと同様の水損失量である、最少量の水損失を生成した、3週間に亘って測定されたセルの実際の水損失(g/Ah)(
図5)に関して同じである。
【0106】
例8
この例は、湿った粉末サンプルの調製を記載する。ペレットを例2と同様に、すなわち65℃の温度にて4Lプラウミキサー(Processall、4H/V Tilt‐A‐Mix(登録商標)ミキサー)を用いて調製した。混合速度を100rpmに設定し、ミキサーに200gのPBX(登録商標)51カーボンブラックを入れた。プラウ回転により、噴霧添加ユニットを260gの13.3質量%カルシウムリグノスルホネート(「CaLS」、Aldrich)溶液により充填し、17psi窒素に加圧した。所望の圧力に到達したら、噴霧添加ユニットからの添加バルブを開いて、カルシウムリグノスルホネート溶液のスプレーを炭素の表面に導入した。噴霧が完了したら、生成物をさらに5分間混合し、ミキサーから排出した。生成物は乾燥させなかった。得られた生成物は、50質量%の水、45質量%のカーボンブラック、及び5%のCaLSを有する湿った粉末であった(「サンプルH」)。
【0107】
例9
湿った粉末サンプルを、CaLS試薬をNaCaリグノスルホネート(Borregaard LignoTechから入手可能なBorresperse CA)と置き換えた以外は例8と同様に調製した。ミキサー(130LDプラウシェアミキサー)に200gのPBX(登録商標)51カーボンブラックを入れ、混合速度を室温にて95rpmに設定した。プラウ回転により、噴霧転化ユニットを、水力学噴霧ノズルを通して8・45kgの13.3%NaCaリグノスルホネート溶液で充填し、80psi窒素に加圧した。所望の圧力に到達したら、噴霧添加ユニットからの添加バルブを開いて、カルシウムリグノスルホネート溶液のスプレーを炭素の表面に導入した。噴霧が完了したら、生成物をさらに5分間混合し、ミキサーから排出した。生成物は乾燥させなかった。得られた生成物は、50質量%の水、45質量%のカーボンブラック、及び5%のNaCaリグノスルホネートを有する湿った粉末であった(「サンプルI」)。
【0108】
例10
この例は、湿った粉末サンプルによる水損失試験を記載する。水損失試験を、サンプルH及びサンプルIを用いて例6に記載の方法にしたがって実施した。比較のために、水損失試験を例2によるサンプルFでも実施した。
【0109】
負極活性マス(NAM)ペースト混合を1kgスケールで実施した。PbO(1kg)をEirich EL1ミキサーに加え、1分間混合し、次いでVanisperseA(0.3質量%に関して3g)、及びバリウムサルフェート(0.8質量%に関して8g)を加えた。カーボンブラック又は複合体(含有される50%の水のために0.5質量%に関して10g)をミキサーに加えて3分間混合し、次いで水(約120mL)を加え、さらに10分間混合した。最後に、硫酸(80mL、1.4g/cm
3)を、濃度調節の必要に応じて追加の水を添加しつつ、13分間に亘りゆっくりと加えた。ペーストを次いで25分間混合した。水損失試験の結果を以下の表6に示す。
【0110】
【表6】
【0111】
サンプルF及びHを、サンプルHを乾燥させず、ペースト配合物のまま用いた以外は同様にCaLsを用いて両方とも調製した。表6から、水損失値が両方のサンプル関してほぼ同じであることを理解することができる。カーボンブラックがNaCaリグノスルホネートにより修飾されたサンプルIは、サンプルF及びHと同程度ではないが、未修飾カーボンブラックサンプル(表4中の0.5%CB)と比べて大きく改善した水損失値を与えた。
【0112】
「1つの(a)」及び「1つの(an)」及び「その(the)」の使用は、本開示で別段の示唆がされ、又は文脈により明確に否定されない限り、単数及び複数の両方を含むように解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」、及び「含有する」は、別段の記載がない限りオープンエンドの用語(すなわち、含むが、これに制限さないことを意味する)として解釈されるべきである。本開示の値の範囲の列挙は、本開示で別段の示唆がない限り、範囲内にある各別個の値を個々に参照する簡易的な方法として働くことを意図するにすぎず、各別個の値は、それが本開示に個々に記載されたかのように明細書に組み入れられる。本開示に記載の全ての方法は、本開示で別段の示唆がなく、又は文脈により明確に否定されない限り、任意の適した順序で実施することができる。本開示に与えられる任意の及び全ての例、又は例示的な言葉(例えば「等」)の使用は、本発明をより良好に説明することを意図するに過ぎず、別段の請求がない限り、本発明の範囲に制限を与えない。明細書中の言葉は、本発明の実施に必須として任意の請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
本開示は以下も包含する。
[1]
少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含む組成物によりコーティングされた電極板であって、前記少なくとも1種の添加剤が、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、前記金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する、電極板。
[2]
前記少なくとも1種の炭素質材料に、前記少なくとも1種の添加剤が散在している、上記態様1に記載の電極板。
[3]
前記組成物が、表面に前記少なくとも1種の添加剤を有する前記少なくとも1種の炭素質材料を含む複合体粒子を含む、上記態様1に記載の電極板。
[4]
前記少なくとも1種の炭素質材料の表面が、前記少なくとも1種の添加剤により含侵されている、上記態様3に記載の電極板。
[5]
前記少なくとも1種の添加剤が、塩、酸化物、窒化物、及び硫化物から選択される少なくとも1種の形態で存在する金属イオンを含む、上記態様1〜4のいずれかに記載の電極板。
[6]
前記金属イオンが、塩として存在する、上記態様1〜5のいずれかに記載の電極板。
[7]
前記少なくとも1種の添加剤が、硝酸塩、亜硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、リグノスルホネート、クエン酸塩、酒石酸塩、及びグルコン酸塩から選択される塩として存在する金属イオンを含む、上記態様1〜6のいずれかに記載の電極板。
[8]
前記塩が、リグノスルホネート塩から選択される、上記態様1〜7のいずれかに記載の電極板。
[9]
前記金属イオンがカルシウムイオンを含む、上記態様1〜8のいずれかに記載の電極板。
[10]
前記少なくとも1種の炭素質材料が、カーボンブラック、活性炭、膨張グラファイト、グラフェン、数層グラフェン、カーボンナノチューブ、炭素繊維、カーボンナノファイバー、及びグラファイトから選択される、上記態様1〜9のいずれかに記載の電極板。
[11]
前記少なくとも1種の炭素質材料がカーボンブラックを含む、上記態様1〜10のいずれかに記載の電極板。
[12]
前記カーボンブラックが、30m2/g〜3000m2/gの範囲の表面積を有する、上記態様11に記載の電極板。
[13]
前記カーボンブラックが、30m2/g〜1600m2/gの範囲の表面積を有する、上記態様11に記載の電極板。
[14]
前記少なくとも1種の炭素質材料が活性炭を含む、上記態様1〜10のいずれかに記載の電極板。
[15]
前記少なくとも1種の炭素質材料が、前記組成物の全質量に対して0.05質量%〜3質量%の範囲の量で前記組成物中に存在する、上記態様1〜14のいずれかに記載の電極板。
[16]
前記組成物が、少なくとも1種の鉛含有材料をさらに含む、上記態様1〜15のいずれかに記載の電極板。
[17]
前記組成物が、少なくとも1種の有機分子エキスパンダーをさらに含む、上記態様16に記載の電極板。
[18]
少なくとも1種の有機分子エキスパンダーが、前記組成物の全質量に対して0.1質量%〜1.5質量%の範囲の量で存在する、上記態様17に記載の電極板。
[19]
BaSO4をさらに含む、上記態様1〜18のいずれかに記載の電極板。
[20]
上記態様1〜19のいずれかに記載の電極板を含む鉛酸蓄電池。
[21]
亜鉛、ナトリウム、及びカリウムイオンから選択される少なくとも1種の電解質添加剤を含む電解質をさらに含む、上記態様20に記載の鉛酸蓄電池。
[22]
前記少なくとも1種の電解質添加剤が、前記電解質の全質量に対して0.1〜3質量%の範囲の量で前記電解質中に存在する、上記態様21に記載の鉛酸蓄電池。
[23]
前記電池が、未修飾炭素質材料を含む電極板を有する電池と比べて、少なくとも3週間の期間に亘って、少なくとも10%の水損失の低減を達成する、上記態様20〜22のいずれかに記載の鉛酸蓄電池。
[24]
前記電池が、未修飾炭素質材料を含む電極板を有する電池と比べて、少なくとも3週間の期間に亘って、少なくとも50%の水損失の低減を達成する、上記態様20〜22のいずれかに記載の鉛酸蓄電池。
[25]
少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の金属リグノスルホネートとを含み、
前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートが、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムリグノスルホネートから選択され、
前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートの金属イオンが、前記少なくとも1種の炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する組成物。
[26]
前記少なくとも1種の炭素質材料と前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートとを含む複合体粒子を含む、上記態様25に記載の組成物。
[27]
粉末又はペレットの形態である、上記態様25又は26に記載の組成物。
[28]
前記少なくとも1種の炭素質材料に、前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートが散在している、上記態様25〜27のいずれかに記載の組成物。
[29]
前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートがカルシウムリグノスルホネートを含む、上記態様25〜28のいずれかに記載の組成物。
[30]
少なくとも1種の鉛含有材料をさらに含む、上記態様25〜29のいずれかに記載の組成物。
[31]
前記鉛含有材料が、鉛、PbO、鉛酸化物、Pb3O4、Pb2O、及びPbSO4、これらの水酸化物、酸、及び金属錯体から選択される、上記態様30に記載の組成物。
[32]
少なくとも1種の金属リグノスルホネートとは異なる少なくとも1種の有機分子エキスパンダーをさらに含む、上記態様25〜31のいずれかに記載の組成物。
[33]
BaSO4をさらに含む、上記態様25〜32のいずれかに記載の組成物。
[34]
前記少なくとも1種の炭素質材料に、前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートが均一に散在している、上記態様25〜33のいずれかに記載の組成物。
[35]
上記態様25〜34のいずれかに記載の組成物によりコーティングされた電極板を含む電極。
[36]
上記態様35に記載の電極を含む鉛酸蓄電池。
[37]
前記組成物の全質量に対して40質量%〜45質量%の範囲の量で存在する前記少なくとも1種の炭素質材料を含む、上記態様24〜28のいずれかに記載の組成物。
[38]
前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートが、前記組成物の全質量に対して5〜10質量%の範囲の量で存在する、上記態様24〜28及び37のいずれかに記載の組成物。
[39]
前記組成物の全質量に対して45〜55質量%の範囲の量で水をさらに含む、上記態様24〜28及び38のいずれかに記載の組成物。
[40]
少なくとも1種の炭素質材料を少なくとも1種の添加剤前駆体と混合して混合物を形成することを含み、前記少なくとも1種の添加剤前駆体はカルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、前記金属イオンは前記少なくとも1種の炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在し;
前記混合物を、熱処理及び噴霧乾燥から選択される少なくとも1つのプロセスに供して組成物を形成することをさらに含む、
少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の添加剤とを含む組成物の製造方法。
[41]
前記混合物が、スラリー、ペースト、又は乾燥ブレンドを含む、上記態様40に記載の方法。
[42]
前記組成物が、表面に前記少なくとも1種の添加剤を有する前記少なくとも1種の炭素質材料を含む複合体粒子を含む、上記態様40又は41に記載の方法。
[43]
前記混合物を熱処理に供することを含む、上記態様40〜42のいずれかに記載の方法。
[44]
前記熱処理が、前記混合物を25℃〜3000℃の範囲の1つ又はそれより多くの温度に加熱することを含む、上記態様43に記載の方法。
[45]
前記熱処理が、少なくとも5分間実施される、上記態様43又は44に記載の方法。
[46]
前記混合物を噴霧乾燥に供することを含む、上記態様40又は41に記載の方法。
[47]
前記噴霧乾燥が、逐次的に又は加熱することと同時に実施される、上記態様46に記載の方法。
[48]
前記加熱することが、25℃〜1000℃の範囲の1つ又はそれより多くの温度にて実施される、上記態様47に記載の方法。
[49]
前記組成物をペレット化してペレットを形成することをさらに含む、上記態様40〜48のいずれかに記載の方法。
[50]
前記供すること及びペレット化が同時に起こる、上記態様49に記載の方法。
[51]
少なくとも1種の金属リグノスルホネートを少なくとも1種の炭素質材料と混合して混合物を形成することを含み、前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートはカルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムリグノスルホネートから選択され、前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートの金属イオンは炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在し;
前記混合物を熱処理及び噴霧乾燥から選択される少なくとも1つのプロセスに供して組成物を形成することをさらに含む、
少なくとも1種の炭素質材料と少なくとも1種の金属リグノスルホネートとを含む組成物の製造方法。
[52]
前記混合物を噴霧乾燥に供して組成物を形成することを含む、上記態様51に記載の方法。
[53]
前記混合することが、前記少なくとも1種の金属リグノスルホネートを含有する溶液を前記少なくとも1種の炭素質材料と混合して混合物を形成することを含む、上記態様51又は52に記載の方法。
[54]
前記組成物を乾燥させない上記態様52又は53に記載の方法。
[55]
前記少なくとも1種の炭素質材料と前記金属リグノスルホネートとを含む前記組成物が:
前記組成物の全質量に対して40質量%〜45質量%の範囲の量の前記少なくとも1種の炭素質材料と;
前記組成物の全質量に対して5質量%〜10質量%の量で存在する前記金属リグノスルホネートと;
前記組成物の全質量に対して45質量%〜55質量%の範囲の量の水と
を含む、上記態様54に記載の方法。
[56]
少なくとも1種の鉛含有材料及び有機分子エキスパンダーを、少なくとも1種の炭素質材料及びと少なくとも1種の添加剤を含む組成物と混合することを含み、
前記少なくとも1種の添加剤が、カルシウム、バリウム、カリウム、マグネシウム、及びストロンチウムイオンから選択される金属イオンを含み、
前記金属イオンが、炭素質材料の全質量に対して0.5質量%〜3質量%の範囲の量で存在する、
鉛酸蓄電池用の電極組成物の製造方法。
[57]
前記少なくとも1種の添加剤が、金属リグノスルホネートとして存在する金属イオンを含む、上記態様56に記載の方法。
[58]
前記組成物を、前記混合することより前に水又は酸により予め湿らせる、上記態様56又は57に記載の方法。
[59]
前記酸が、H2SO4から選択される、上記態様58に記載の方法。
[60]
前記少なくとも1種の炭素質材料と前記金属リグノスルホネートとを含む前記組成物が:
前記組成物の全質量に対して40質量%〜45質量%の範囲の量の前記少なくとも1種の炭素質材料と;
前記組成物の全質量に対して5質量%〜10質量%の範囲の量で存在する前記金属リグノスルホネートと;
前記組成物の全質量に対して45質量%〜55質量%の範囲の量の水と
を含む、上記態様57に記載の方法。
[61]
前記混合することが:
前記少なくとも1種の鉛含有材料及び前記有機分子エキスパンダーにより混合物を形成することと、
前記混合物を、前記少なくとも1種の炭素質材料及び前記少なくとも1種の添加剤を含む前記組成物と混合することと
を含む、上記態様54〜60のいずれかに記載の方法。
[62]
上記態様40〜61のいずれかに記載の方法により調製された電極組成物。
[63]
上記態様62に記載の組成物によりコーティングされた電極板を含む電極。