(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725781
(24)【登録日】2020年6月30日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】インピーダンス増減回路
(51)【国際特許分類】
H03H 11/46 20060101AFI20200713BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
H03H11/46 A
H03H11/46 B
H04R3/00 340
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-231900(P2018-231900)
(22)【出願日】2018年12月11日
(65)【公開番号】特開2020-96258(P2020-96258A)
(43)【公開日】2020年6月18日
【審査請求日】2018年12月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505422202
【氏名又は名称】有限会社オーディオデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100194180
【弁理士】
【氏名又は名称】西谷 豊博
(72)【発明者】
【氏名】大藤 武
【審査官】
工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】
特開2019−47271(JP,A)
【文献】
実開平6−77333(JP,U)
【文献】
実公平4−41609(JP,Y2)
【文献】
特開昭52−39347(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3121275(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R3/00
H03H11/46−52
H03F1/00
H01C13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1オペアンプ及び第2オペアンプを備え、前記第1オペアンプの出力は一方の端子が接地された可変抵抗器を介して前記第2オペアンプの非反転入力端子に接続され、前記第2オペアンプの反転入力端子には、他端が前記第2オペアンプの出力と接続された抵抗器と他端が接地された抵抗器が接続され、前記第1オペアンプの入力と前記第2オペアンプの出力との間にはインピーダンス素子が接続されて、前記可変抵抗器により前記インピーダンス素子のインピーダンスを増減できるようにしたインピーダンス増減回路。
【請求項2】
前記第1オペアンプは増幅率1のバッファアンプを構成し、前記第2オペアンプで構成される回路の増幅率がNである場合に、前記インピーダンス素子のインピーダンスをZとすると、インピーダンスをZからZ(1−N)の範囲で増減できる請求項1に記載のインピーダンス増減回路。
【請求項3】
前記第1オペアンプは増幅率1のバッファアンプを構成し、前記第2オペアンプで構成される回路の増幅率がNである場合に、前記インピーダンス素子のインピーダンスをZ1とし、前記可変抵抗器の抵抗値によって定まる変数をkとすると、インピーダンスZが以下の数式(3)を満たす請求項1に記載のインピーダンス増減回路。
【数3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アナログレコードプレイヤーの出力を通常のラインレベルの信号として出力するためのプリアンプなどに用いられる、インピーダンス増減回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アナログレコードプレイヤーにMMカートリッジを使用した場合には、カートリッジからイコライザーアンプの入力容量までの負荷容量が周波数特性に大きく影響するため、従来は容量を付加するなどして、レスポンスのピークが現れる高域特性をシフトさせて影響を調整していた。容量を付加するためには、例えば、特定の容量を持つコンデンサをいくつか備えて、スイッチにより選択的に切り換えられるように構成したものや容量を電子的に変えられるようにしたコンデンサが知られている。なお、MCカートリッジを用いた場合は、MMカートリッジと比べてコイルの巻き数が少ないのでインダクタンスの影響が少なく高域が延びるため、負荷容量の影響もほとんど受けないと考えられる。
【0003】
図4は、MMカートリッジを使用した従来のレコードプレイヤーとプリアンプを接続した構成を示す説明図である。MMカートリッジを備えたレコードプレイヤー1はケーブル2を介してプリアンプ3に接続されている。プリアンプ3には、レコードプレイヤー1からの信号が入力されてRIAA補正するためのイコライザーアンプ5及び負荷容量を調節するための容量調整回路4が設けられている。容量調整回路4は、複数のコンデンサで構成されており、イコライザーアンプ5の前段で、ケーブル2を介して入力されたレコードプレイヤー1からの信号にいずれかのコンデンサと接続できるように切り換えが可能となっている。これにより負荷容量を調整することができて、周波数特性上の高域での周波数のピーク位置を変えられる。
図5は、周波数特性上でのピーク位置の変化を説明する図である。ピークは、レコードプレイヤー1に装着したカートリッジのコイルやコンデンサなどによって形成された共振回路によるものであり、コイルとコンデンサのインピーダンスによって決まる共振周波数の位置で生じている。この切り換えにより加える容量が大きいほど、ピークとなる周波数は低い方に移動する。なお、コンデンサ6は、ケーブル2に生ずる浮遊容量に起因している。
【0004】
上記のような従来の調整方法では、容量調整回路4のコンデンサを切り換えながら、プリアンプ3を経由して図示しないパワーアンプから出力された音をユーザーが聞き、最適な音となるように調節を行っていた。したがって、容量調整回路4のコンデンサを切り換えることで共振周波数が変わるだけで、共振そのものを無くしてピークの無いフラットな周波数特性を得るようにすることはできなかった。また、ユーザーの試聴によること、及び予め設けられている限られた数のコンデンサから選択する調整であるため、精確な調整は難しいものであった。
【0005】
また、容量調整回路4に、非特許文献1のような電子的に容量を変えることができる回路を用いることもできる。
図6は、非特許文献1に掲載されている容量増減回路を示す回路図である。この文献によると、回路は2段のオペアンプで構成されており、1段目のオペアンプで構成されるバッファアンプ7の出力には可変抵抗器8が接続されている。可変抵抗器8により、分圧された電圧はオペアンプ9の反転入力端子に入力される構成であり、オペアンプ9は反転増幅回路を構成している。オペアンプ9の出力とバッファアンプ7の入力間に接続されているコンデンサ10の容量をC2、可変抵抗器8により分割された抵抗分をRa、Rbとすると、以下の数式(1)によって、この回路全体の等価入力容量Cを計算できることが記載されている。ここで、Raはバッファアンプ7の出力側の抵抗値、Rbはオペアンプ9の出力側の抵抗値である。
【0006】
【数1】
【0007】
これにより、容量の倍率を可変抵抗器8により連続的に可変でき、大容量のコンデンサを作ることができる。また、特許文献1にも同様の計算式により容量を可変にできるコンデンサが開示されている。しかしながら、上記のいずれの従来技術を使用しても、伝送系で生じる共振回路による影響を低減できるものではなかった。すなわち、上記のようにコンデンサの容量を増やすことでピークとなる共振周波数が変わるだけで、フラットな周波数特性を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭53−95554号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】稲葉保著 「精選アナログ実用回路集」413頁CQ出版1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
解決しようとする問題点は、伝送信号に生じる不要な共振による周波数特性への悪影響を改善できない点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、共振回路を構成しているインピーダンス素子である、コンデンサ、コイル又は抵抗の影響を実質的に打ち消すことができるインピーダンス増減回路を提供するものである。そして、プリアンプなどに使用した場合に、共振による周波数特性への影響が無くなるようにし、フラットな周波数特性を得ることができるようにすることを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明をプリアンプに使用した場合は、ユーザーが周波数特性をモニターしながら負荷に対して実質的に逆極性のインピーダンスを加えるようにできるため、効果的に共振回路の発生を妨ぐことができて、フラットな周波数特性を得ることができるという利点がある。また、その他の送受信装置にも本発明のインピーダンス増減回路を適用することにより、障害となる共振回路の発生を防止できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の1実施形態に係るインピーダンス増減回路を示す回路図である。
【
図2】本発明の1実施形態に係るレコードプレイヤーとプリアンプを接続した構成図である。
【
図3】本発明の1実施形態に係るレコードプレイヤーとプリアンプを接続した等価回路図である。
【
図4】従来のレコードプレイヤーとプリアンプを接続した構成図である。
【
図5】従来のレコードプレイヤーとプリアンプを接続した場合の周波数特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実質的に不要なインピーダンスを打ち消して、共振回路が形成されることによる周波数特性への影響を防ぎ、理想的な周波数特性が実現できるようにした。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の1実施形態に係るインピーダンス増減回路を示す回路図であって、11はオペアンプにより構成されているバッファアンプであり、
図6の従来のバッファアンプ7と同様の機能を有している。バッファアンプ11の出力は可変抵抗器12の一方の端子に接続されており、他方の端子は接地されている。また、可変抵抗器12の可動接点部分はオペアンプ13の非反転入力端子と接続されている。オペアンプ13の反転入力端子は、増幅率調整用のフィードバック抵抗14及び抵抗15を介して出力端子と接続されている。バッファアンプ11の入力端子とオペアンプ13の出力端子の間には、コンデンサ16が接続されている。
【0016】
ここで、抵抗14と抵抗15を同じ抵抗値としてオペアンプ13の増幅率を2とし、バッファアンプ11の増幅率を1とすると、可変抵抗器12の可動接点を動かすことで、オペアンプ13の非反転入力端子に加わる電圧Vが変化し、オペアンプ13の出力に接続されたコンデンサ16の端子に加わる電圧は、0から2Vまで変化する。また、コンデンサ16の他方の端子には入力電圧Vが常に加わっている。この結果、インピーダンス増減回路の等価入力容量はコンデンサ16の容量をC1とすると、−C1からC1の間で変化することになる。
【0017】
具体的には、可変抵抗器12の可動接点を動かして、バッファアンプ11の出力とオペアンプ13の非反転入力との間で抵抗値を0にしたときは、等価入力容量が−C1となり、1/2の抵抗値で等価入力容量は0、抵抗値が最大のとき(非反転入力が接地されたとき)C1となる。オペアンプ13の出力とバッファアンプ11の入力の間に接続されているコンデンサ16の容量をC1、可変抵抗器12の可動接点により分割された抵抗分をr1、r2、オペアンプ13と抵抗14及び抵抗15で構成される回路の増幅率をGとすると、以下の数式(2)によって、この回路全体の等価入力容量Cを計算できる。ここで、r1はバッファアンプ11の出力と可動接点間の抵抗値、r2は可動接点と接地間の抵抗値である。
【0018】
【数2】
【0019】
一般に、オペアンプ13で構成される回路の増幅率をNとすると、等価入力容量をC1からC1(1−N)まで変えることができる。また、コンデンサ16の代わりにコイルや抵抗のインピーダンス素子を用いることもできる。この場合、インピーダンス素子のインピーダンスをZとすると、上記の数式2を用いて、同様に、インピーダンスをZからZ(1−N)まで変えることができる。
【実施例2】
【0020】
図2は、本発明の1実施形態に係るレコードプレイヤーとプリアンプを接続した構成図であり、図中の1、2、5、6は
図4と同様である。17は、
図1で説明した本発明に係るインピーダンス増減回路であり、プリアンプ19に内蔵されて、イコライザーアンプ5の前段に接続されている。また、プリアンプ19には、表示装置18がイコライザーアンプ5に接続されて内蔵されている。表示装置18は、イコライザーアンプ5から出力された信号の周波数特性などが測定されて、測定結果が表示されるように構成されている。
【0021】
図3は、
図2で示した構成全体の等価回路を示しており、20はプレイヤー1に設けられているMMカートリッジの負荷であり、コイルと抵抗から構成されている。また、イコライザーアンプ5の負荷は抵抗とコンデンサから構成されている。いずれのコンデンサも並列に接続されており、全コンデンサ容量は各コンデンサ容量を加算したものとなる。インピーダンス増減回路17の可変抵抗器12を調節することで、従来技術ではできなかった実質的にマイナス(逆極性)のコンデンサ容量を加えることができるため、コンデンサの全体の容量をキャンセルすることができる。可変抵抗器12の調節は、表示装置18に表示される、イコライザーアンプ5から出力された周波数特性を、ユーザーが見ながらできる。これにより、共振回路が形成されないフラットな周波数特性に調整することが容易にできる。なお、コンデンサの代わりにコイル(インダクタンス)で構成したインピーダンス増減回路を使用して調整しても同様の効果が得られる。
【0022】
また、レコードプレイヤー1でテストレコードを再生し、プリアンプ19の左右の出力レベルを表示装置18に表示してユーザーが音量バランスを調整したり、この表示を見ながらカートリッジの傾きを調整することもできる。スペクトルアナライザー機能を表示装置18に搭載することで歪成分の測定も可能となる。
【0023】
以上、レコードプレイヤーのMMカートリッジに対する適用例を述べてきたが、これ以外にも、ケーブルなどで接続されている一般的な送信機、受信機などに対しても適用可能であることは言うまでもない。また、実施例としてキャパシタンスの可変、キャンセル回路に関して述べてきたが、キャパシタンス以外にも、同様の回路を用いることによって、抵抗成分、インダクタンス成分などのインピーダンスの増減、キャンセルができることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のインピーダンス増減回路は、オーディオ機器間での音声に係る信号を伝送するものにだけ適用できるものではなく、不要なインピーダンス成分を除去することが不可欠な機器にも適用ができる。
【符号の説明】
【0025】
1 レコードプレイヤー
2 ケーブル
3 プリアンプ
4 容量調整回路
5 イコライザーアンプ
6 コンデンサ
7 バッファアンプ
8 可変抵抗器
9 オペアンプ
10 コンデンサ
11 バッファアンプ
12 可変抵抗器
13 オペアンプ
14 抵抗器
15 抵抗器
16 コンデンサ
17 インピーダンス増減回路
18 表示装置
19 プリアンプ
20 カートリッジ