(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725811
(24)【登録日】2020年6月30日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】ブイ式波高計測装置
(51)【国際特許分類】
G01C 5/04 20060101AFI20200713BHJP
B63B 22/00 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
G01C5/04 A
B63B22/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-134031(P2016-134031)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-4528(P2018-4528A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100089886
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 毅
(72)【発明者】
【氏名】道前 武尊
【審査官】
續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−281759(JP,A)
【文献】
特開2008−157642(JP,A)
【文献】
特開平10−160461(JP,A)
【文献】
特開2013−139255(JP,A)
【文献】
特開平10−185570(JP,A)
【文献】
特開2007−033360(JP,A)
【文献】
米国特許第08653967(US,B1)
【文献】
韓国登録特許第10−1185861(KR,B1)
【文献】
特開2003−2283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 5/04
B63B 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面に浮かべたブイを用いて波高を計測するブイ式波高計測装置において、
前記ブイは、対象物に係留された状態で水面に浮かべられる籠体と、該籠体内に移動自在に収容された計測用浮体とを備え、
前記籠体の外周に透水性を有する透過性周壁を備え、
前記籠体内で水面に追従する前記計測用浮体の上下変位を計測するようにしたことを特徴とするブイ式波高計測装置。
【請求項2】
前記計測用浮体は、内部に加速度センサを備えている請求項1に記載のブイ式波高計測装置。
【請求項3】
前記籠体は、水面に浮かべられるフロートと、該フロートに支持された籠本体とをもって構成され、前記籠本体がジンバル機構を介してフロートに支持されている請求項1又は2に記載のブイ式波高計測装置。
【請求項4】
前記計測用浮体と前記籠体とには、それぞれ相反する磁極を有する磁石を備えている請求項1〜3の何れか1に記載のブイ式波高計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に海上工事等の施工現場における波高を計測するブイ式波高計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾内等の海上の施工現場においては、安全性の観点から作業時における波高基準が設定されることがあり、その場合には、作業海域における実際の波高を把握する必要が生じる。
【0003】
この場合、大規模な港湾等では、国土交通省港湾局等の公共機関や民間企業から波高に関する観測データが提供されており、これを活用することにより、作業海域の波高を把握することが可能である。
【0004】
しかしながら、実際の施工現場は、提供される波高の観測データの観測点から離れている場合が多く、観測データが実際の施工現場付近における波高を示しているとは言い難かった。
【0005】
そこで、従来では、施工現場に波高計を設置し、実際の波高を計測するようにしており、波高計としては、海底設置式、空中放射式、ブイ式の波高計等がある。
【0006】
しかしながら、海底設置式の波高計は、海底に設置した超音波センサや水圧センサ等の計測器を用いて水面変動を捉えるものであり、潜水士によって計測器を海底に設置する必要があるため設置作業が容易でなく、特に水深50m以上の大水深域においては設置が困難であるという問題があった。
【0007】
また、この海底設置式波高計では、リアルタイムにデータを取得する場合、無線によるデータ伝達が困難なため、海底の計測器と海上の中継用ブイや作業船上の装置とがケーブルで接続されている必要があるという問題があった。
【0008】
空中放射式波高計は、海上構造物等に設置した装置より海面に向かって垂直方向に超音波を放射し、その反射から水面変動を捉えるものであり、この方式の波高計を作業船に用いる場合、作業船の揺動によって超音波の放射角度及び超音波を送受信する装置の位置が変動するため、その変動を考慮して計測値を補正する必要が生じ、その算出が複雑であるという問題があった。
【0009】
一方、ブイ式波高計は、計測器を内蔵したブイを海面に浮かべ、水面変動に追随するブイの上下方向変位を計測するものであり、計測が比較的容易であり、軽量なブイであれば人力による設置が可能である。
【0010】
ブイ式波高計には、例えば、水面変動に追随するブイの上下方向加速度を加速度センサで計測し、その加速度を時間で2回積分することにより水面の上下方向変位を算出するようにしたもの等が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−278130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述の如き従来のブイ式波高計では、ブイが軽量であると波、風、潮流の影響を受けて漂流するため、観測を希望する水域に留まることができず、施工現場等における波高計測に向かないという問題があった。
【0013】
また、ブイ式波高計では、
図5(a)に示すように、軽量のブイ2を係留索3で監視船等の船舶1や水底に設置したシンカー4に係留した場合、漂流しようとするブイ2に対し波力以外に係留索3を介して外力が作用すると、ブイ2が計測部ごと傾斜するとともに、ブイ2の水位変動に追随する動作が規制されてしまうため、正確な波高を計測ることができないおそれがある。
【0014】
一方、ブイを高波浪によっても流されないようにするには、ブイを大型化し重量を増す必要があるため、人力による設置作業が困難であるという問題があり、また、ブイの大型化に伴い係留索及び係留用アンカーの重量も相対的増加するため、それらの設置作業が困難であることから汎用性に欠けるという問題があった。
【0015】
また、このようなブイ式波高計では、ブイの重量が増加すると、ブイの運動特性がゆっくりした水面変動にしか追随できないものとなってしまい、水面変動の速い工事現場等における波高計測に適さないという問題もあった。
【0016】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、計測に用いるブイを容易に設置でき、水面変動の速い工事現場等において正確な波高計測が可能なブイ式波高計測装置の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、水面に浮かべたブイを用いて波高を計測するブイ式波高計測装置において、前記ブイは、対象物に係留された状態で水面に浮かべられる籠体と、該籠体内に移動自在に収容された計測用浮体とを備え、前記籠体の外周に透水性を有する透過性周壁を備え、前記籠体内で水面に追従する前記計測用浮体の上下変位を計測するようにしたブイ式波高計測装置にある。
【0018】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記計測用浮体は、内部に加速度センサを備えていることにある。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成に加え、前記籠体は、水面に浮かべられるフロートと、該フロートに支持された籠本体とをもって構成され、前記籠本体がジンバル機構を介してフロートに支持されていることにある。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1の構成に加え、前記計測用浮体と前記籠体とには、それぞれ相反する磁極を有する磁石を備えていることにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るブイ式波高計測装置は、上述したように、水面に浮かべたブイを用いて波高を計測するブイ式波高計測装置において、前記ブイは、対象物に係留された状態で水面に浮かべられる籠体と、該籠体内に移動自在に収容された計測用浮体とを備え、前記籠体の外周に透水性を有する透過性周壁を備え、前記籠体内で水面に追従する前記計測用浮体の上下変位を計測するようにしたことにより、係留による拘束に影響されずに正確に波高を計測することができる。
【0022】
また、本発明において、前記計測用浮体は、内部に加速度センサを備えていることにより、計測用浮体を小型軽量化することができ、水面変動の速い工事現場等の波高計測に対応することができる。
【0023】
更に、本発明において、前記籠体は、水面に浮かべられるフロートと、該フロートに支持された籠本体とをもって構成され、前記籠本体がジンバル機構を介してフロートに支持されていることにより、籠本体を直立した状態に維持することができる。
【0024】
更にまた、本発明において、前記計測用浮体と前記籠体とには、それぞれ相反する磁極を有する磁石を備えていることにより、計測用浮体と籠体との接触を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係るブイ式波高計測装置の一例を示す側面図である。
【
図2】(a)は
図1中のブイ部分を示す平面図、(b)は同縦断面図である。
【
図3】波高計測時の状態を示す部分破断縦断面図である。
【
図4】本発明に係るブイ式波高計測装置の他の使用態様を示す部分破断断面図である。
【
図5】従来のブイ式波高計を係留した状態を示す概略側面図であって、(a)は船舶に係留した状態、(b)は水底部に係留した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明に係るブイ式波高計測装置の実施態様を
図1〜
図4に示した実施例に基づいて説明する。尚、上述の従来例と同様の構成には同一符号を付して説明し、符号1は監視船等の船舶、符号3は係留索、符号10は波高計測装置を構成するブイである。
【0027】
このブイ式波高計測装置は、水面に浮かべたブイ10と、ブイ10を船舶1に係留する係留索3とを備え、係留されたブイ10を用いて所望の水域の波高を計測するようになっている。
【0028】
ブイ10は、対象物に係留された状態で水面部に浮かべられる籠体11と、籠体11内に移動自在に収容された計測用浮体12とを備え、籠体11内で計測用浮体12が水面変位に追随し、その計測用浮体12の上下変位が計測器13を用いて計測できるようになっている。
【0029】
計測用浮体12は、
図2に示すように、中空球状の外殻14と、外殻14内部に設置された加速度センサ等の計測器13とを備え、外殻14が水面変位に追随し、その変位が計測器13を用いて計測されるようになっている。
【0030】
外殻14は、遮水性及電波を通す材質によって中空球状に形成され、底部に配置された錘15と、錘15より上側に配置された載置台16とを備え、少なくとも上半部が水面上に露出した状態で水面部に浮かび、且つ、錘15によって重心が安定し、ほぼ回転しないようになっている。尚、外殻14は、人力によって持ち運び可能な大きさ及び重量になっている。
【0031】
計測器13は、計測用浮体12内の載置台16に設置された加速度センサ13aを備え、加速度センサ13aで計測した計測用浮体12の上下方向加速度を無線で船舶1上のコンピュータ等の演算部13bに送信し、演算部が時間による二回積分によって計測用浮体12の上下方向変位をほぼリアルタイムで算出するようになっている。
【0032】
尚、計測器13は、計測用浮体12が水面に露出し、監視船等の船舶1との間で無線通信が可能であることから、外殻14に内蔵される加速度センサ13aと、コンピュータ等からなる演算部13bとに分けて構成でき、外殻14内に内蔵する部分を最小限にすることで計測用浮体12を人力によって持ち運び可能な大きさ及び重量にすることができる。
【0033】
籠体11は、
図2に示すように、水面に浮かべられるフロート17と、フロート17に支持された籠本体18とをもって構成され、フロート17に支持されて上端を水面より突出させた状態で籠本体18が水面部に浮かべられている。
【0034】
また、籠体11は、係留索3の一端が固定され、係留索3を介して船舶1や水底部に設置したシンカー等の対象物に係留されている。尚、ブイ式波高計測装置は、水深に依存しない計測方式であるため、籠体11は、監視船等の船舶1に係留できるようになっている。
【0035】
フロート17は、中空環状に形成され、その内側に籠本体18の外周面が固定されている。尚、フロート17の形状は、中空環状に限定されず、複数の浮きを周方向に間隔を置いて配置したものでもよく、籠本体18と一体に形成されたものであってもよい。
【0036】
籠本体18は、外周に波が透過する透過性周壁を備えた筒状に形成され、籠本体18の内外で透水可能且つ計測用浮体12が離脱不能になっている。
【0037】
透過性周壁は、周方向に間隔を置いた細棒状の複数の縦材18a,18a...と、軸方向に間隔を置いた輪状の複数のループ材18b,18b...とによって格子状に形成され、波が透過できるようになっている。
【0038】
尚、本実施例では、透過性周壁の透過構造を格子状とした例について説明したが、透過性周壁の透過構造はこれに限定されず、多角形、円形又はそれらの組み合わせからなる網状に形成されたものでもよく、周壁に透過孔を備えるもの等であってもよい。
【0039】
このように構成されたブイ式波高計測装置では、
図3に示すように、ブイ10を構成する籠体11が作業船に係留されているので、ブイ10を特定の箇所に留め置くことができる。
【0040】
一方、籠体11は、透過性周壁を備えることによって、波、風、潮流による外力を低減することができ、それに伴い係留索3を介して作用する反力も低減することができるので、係留力に伴う傾斜を抑制することできるようになっている。
【0041】
計測用浮体12は、籠体11内に収容されていることによって、軽量であるにも関わらずその水域に留まることができるとともに、係留による拘束を受けず、籠体11が傾斜した場合であっても、籠体11内で自由に移動できるので、波による水面変動に正確に追従して上下に移動し、その計測用浮体12の上下方向加速度を随時計測することができる。
【0042】
その際、計測用浮体12は、水面部において外殻14の底部の錘15によって重心が安定し、ほぼ回転することがないので、加速度センサ13aによって上下方向加速度を計測することができ、計測用浮体12の正確な上下変位を計測することができる。
【0043】
また、計測器13によって計測された計測データは、無線によって船舶1に送信できるので略リアルタイムに波高を計測することができる。
【0044】
尚、上述の実施例では、船舶1にブイ10を係留させた例について説明したが、対象物は船舶1に限定されず、
図4に示すように、係留索3の一端を水底部に設置したシンカー4に連結し、水底部に係留させるようにしてもよく、岸壁等の構造物に係留させてもよい。
【0045】
また、本発明においては、特に図示しないが、計測用浮体12と籠体11とにそれぞれ相反する磁極を有する磁石を備え、計測用浮体12が籠体11の内周面に近づくと磁石の磁力によって互いに反発し、接触しないようにしてもよい。
【0046】
更に、上述の実施例では、籠体11を円筒状に形成した例について説明したが、波の進行方向に透過性周壁を有する形状であれば、角筒状、球状、箱状等であってもよい。
【0047】
また、上述の実施例では、計測器13として加速度センサを用いた例について説明したが、計測器13はこれに限定されず、例えば、GNSS機器等を用いてもよい。
【0048】
更に、特に図示しないが、籠本体18は、フロート17にジンバル機構を介して支持されるようにし、係留されたフロート17に対し、籠本体18が直立状態に保たれるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 船舶(監視船)
3 係留索
10 ブイ
11 籠体
12 計測用浮体
13 計測器
14 外殻
15 錘
16 載置台
17 フロート
18 籠本体