特許第6725812号(P6725812)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725812
(24)【登録日】2020年6月30日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】ブイ式波高計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 13/00 20060101AFI20200713BHJP
   G01B 21/00 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   G01C13/00 W
   G01B21/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-134032(P2016-134032)
(22)【出願日】2016年7月6日
(65)【公開番号】特開2018-4529(P2018-4529A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100089886
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 雅雄
(72)【発明者】
【氏名】道前 武尊
(72)【発明者】
【氏名】琴浦 毅
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−033360(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0253530(US,A1)
【文献】 実開昭53−087682(JP,U)
【文献】 特開2008−157642(JP,A)
【文献】 特開2006−170920(JP,A)
【文献】 特開2007−171146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 13/00
G01B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面を浮遊するブイの上下変位に基づいて波高を計測するブイ式波高計測装置において、
前記ブイは、下部に重心を有する球状の計測用浮体と、該計測用浮体の上下変位を計測又は算出可能な変位計測手段と、前記計測用浮体を相対移動自在に収容する外殻体と、前記外殻体と前記計測用浮体との間に介在される流体とを備えたことを特徴とするブイ式波高計測装置。
【請求項2】
前記外殻体には、係留索の一端が連結される係留部材を備えている請求項1に記載のブイ式波高計測装置。
【請求項3】
前記変位計測手段は、前記計測用浮体の3軸方向の加速度を計測可能な加速度センサと、前記計測用浮体の位置情報を取得可能な位置計測器とを備えている請求項1又は2に記載のブイ式波高計測装置。
【請求項4】
前記変位計測手段は、前記計測用浮体に内蔵された加速度センサと、該加速度センサにより計測された加速度に基づいて前記計測用浮体の上下変位を算出する演算部とを備え、前記加速度センサと前記演算部とが無線通信できるようにしている請求項1〜3の何れか1に記載のブイ式波高計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に海上工事等の施工現場における波高を計測するブイ式波高計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾内等の海上の施工現場においては、安全性の観点から作業時における波高基準が設定されることがあり、その場合には、作業海域における実際の波高を把握する必要が生じる。
【0003】
この場合、大規模な港湾等では、国土交通省港湾局等の公共機関や民間企業から波高に関する観測データが提供されており、これを活用することにより、作業海域の波高を把握することが可能である。
【0004】
しかしながら、実際の施工現場は、提供される波高の観測データの観測点から離れている場合が多く、観測データが実際の施工現場付近における波高を示しているとは言い難かった。
【0005】
そこで、従来では、施工現場に波高計を設置し、実際の波高を計測するようにしており、波高計としては、海底設置式、空中放射式、ブイ式の波高計等がある。
【0006】
しかしながら、海底設置式の波高計は、海底に設置した超音波センサや水圧センサ等の計測器を用いて水面変動を捉えるものであり、潜水士によって計測器を海底に設置する必要があるため設置作業が容易でなく、特に水深50m以上の大水深域においては設置が困難であるという問題があった。
【0007】
また、この海底設置式波高計では、リアルタイムにデータを取得する場合、無線によるデータ伝達が困難なため、海底の計測器と海上の中継用ブイや作業船上の装置とがケーブルで接続されている必要があるという問題があった。
【0008】
空中放射式波高計は、海上構造物等に設置した装置より海面に向かって垂直方向に超音波を放射し、その反射から水面変動を捉えるものであり、この方式の波高計を作業船に用いる場合、作業船の揺動によって超音波の放射角度及び超音波を送受信する装置の位置が変動するため、その変動を考慮して計測値を補正する必要が生じ、その算出が複雑であるという問題があった。
【0009】
一方、ブイ式波高計は、計測器を内蔵したブイを海面に浮かべ、水面変動に追随するブイの上下方向変位を計測するものであり、計測が比較的容易であり、軽量なブイであれば人力による設置が可能である。
【0010】
ブイ式波高計には、例えば、水面変動に追随するブイの上下方向加速度を加速度センサで計測し、その加速度を時間で2回積分することにより水面の上下方向変位を算出するようにしたもの等が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0011】
また、ブイ式計測計には、波、風、潮流の影響を考慮し、計測器をブイ本体にジンバル機構を介して設置したものも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−278130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述の如き従来のブイ式波高計では、ブイが軽量であると波、風、潮流の影響を受けて漂流するため、観測を希望する水域に留まることができず、施工現場等における波高計測に向かないという問題があった。
【0014】
また、ブイ式波高計では、図5(a)に示すように、軽量のブイ2を係留索3によって監視船等の船舶1や水底に設置したシンカー4に係留した場合、漂流しようとするブイ2に対し波力以外に係留索3を介して外力が作用すると、ブイ2が計測部ごと傾斜するとともに、ブイ2の水位変動に追随する動作が規制されてしまうため、正確な波高を計測ることができないおそれがある。
【0015】
一方、ブイを高波浪によっても流されないようにするには、ブイを大型化し重量を増す必要があるため、人力による設置作業が困難であるという問題があり、また、ブイの大型化に伴い係留索及び係留用アンカーの重量も相対的に増加するため、それらの設置作業が困難であることから汎用性に欠けるという問題があった。
【0016】
また、このようなブイ式波高計では、ブイの重量が増加すると、ブイの運動特性がゆっくりした水面変動にしか追随できないものとなってしまい、水面変動の速い工事現場等における波高計測に適さないという問題もあった。
【0017】
さらに、海上では、様々な方向から波、風及び潮流の影響を受けるため、ジンバル機構では、3軸方向の追随性がそれぞれ支持軸の拘束を受けるため、正確に計測器の水平性を確保することが困難であるという問題があった。
【0018】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、計測に用いるブイを容易に設置でき、水面変動の速い工事現場等において正確な波高計測が可能なブイ式波高計測装置の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、水面を浮遊するブイの上下変位に基づいて波高を計測するブイ式波高計測装置において、前記ブイは、下部に重心を有する球状の計測用浮体と、該計測用浮体の上下変位を計測又は算出可能な変位計測手段と、前記計測用浮体を相対移動自在に収容する外殻体と、前記外殻体と前記計測用浮体との間に介在される流体とを備えたブイ式波高計測装置にある。
【0020】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記外殻体には、係留索の一端が連結される係留部材を備えていることにある。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成に加え、前記変位計測手段は、前記計測用浮体の3軸方向の加速度を計測可能な加速度センサと、前記計測用浮体の位置情報を取得可能な位置計測器とを備えていることにある。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1の構成に加え、前記変位計測手段は、前記計測用浮体に内蔵された加速度センサと、該加速度センサにより計測された加速度に基づいて前記計測用浮体の上下変位を算出する演算部とを備え、前記加速度センサと前記演算部とが無線通信できるようにしていることにある。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るブイ式波高計測装置は、上述したように、水面を浮遊するブイの上下変位に基づいて波高を計測するブイ式波高計測装置において、前記ブイは、下部に重心を有する球状の計測用浮体と、該計測用浮体の上下変位を計測又は算出可能な変位計測手段と、前記計測用浮体を相対移動自在に収容する外殻体と、前記外殻体と前記計測用浮体との間に介在される流体とを備えたことにより、計測用浮体が外殻体に作用する外力に影響されずに常に安定した姿勢を保つことができ、正確に波高を計測することができる。また、外殻体に計測用浮体が拘束されていないため、波、風、潮流の影響を受けにくく全方位で対応することができる。
【0024】
また、本発明において、前記外殻体には、係留索の一端が連結される係留部材を備えていることにより、ブイを所望の水域に留めることができ、工事現場等の波高計測に対応することができる。
【0025】
更に、本発明において、前記変位計測手段は、前記計測用浮体の3軸方向の加速度を計測可能な加速度センサと、前記計測用浮体の位置情報を取得可能な位置計測器とを備えていることにより、波高計測に併せてブイの位置座標を計測することができる。
【0026】
更にまた、本発明において、前記変位計測手段は、前記計測用浮体に内蔵された加速度センサと、該加速度センサにより計測された加速度に基づいて前記計測用浮体の上下変位を算出する演算部とを備え、前記加速度センサと前記演算部とが無線通信できるようにしていることにより、ブイを小型軽量化することができるとともに、水深に依存せずに波高を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明に係るブイ式波高計測装置の一例を示す側面図である。
図2】(a)は図1中のブイ部分を示す平面図、(b)は同縦断面図である。
図3】本発明に係るブイ式波高計測装置の他の使用態様を示す部分破断断面図である。
図4】従来のブイ式波高計を係留した状態を示す概略側面図であって、(a)は船舶に係留した状態、(b)は水底部に係留した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明に係るブイ式波高計測装置の実施態様を図1図3に示した実施例に基づいて説明する。尚、上述の従来例と同様の構成には同一符号を付して説明し、符号1は監視船等の船舶、符号3は係留索、符号20は波高計測装置を構成するブイである。
【0029】
このブイ式波高計測装置は、水面に浮かべたブイ20を備え、ブイ20を用いて所望の水域の波高を計測するようになっている。
【0030】
ブイ20は、図2に示すように、球体状の計測用浮体12と、計測用浮体12を相対移動自在に収容する外殻体21と、計測用浮体12と外殻体21との間に介在される流体21とを備えている。
【0031】
計測用浮体12は、軽量且つ電波が透過可能な材質によって構成され、底部に配置された錘15と、錘15の上に配置された載置台16とを備え、載置台16上に変位計測手段を構成する加速度センサ等からなるセンサ部13aが設置されている。
【0032】
この計測用浮体12は、錘15によって重心が安定し、流体22上に浮かんだ状態でほぼ回転しないようになっている。
【0033】
センサ部13aは、計測用浮体12の3軸方向の加速度をそれぞれ計測可能な加速度センサと、計測用浮体12の位置情報を取得可能な位置計測器とを備えている。
【0034】
加速度センサは、計測した計測用浮体12の3軸方向の加速度を無線で船舶1上のコンピュータ等の演算部13bに送信し、演算部13bが時間による二回積分によって計測用浮体12の各方向の変位をほぼリアルタイムで算出するようになっている。
【0035】
位置計測器は、例えば、GNSS(Global Navigation Satellite System)機器を使用し、計測用浮体12(ブイ20)の正確な位置座標を無線により演算部13bに送信できるようになっている。
【0036】
尚、変位計測手段は、ブイ11が水面に露出し、監視船等の船舶1との間で無線通信が可能であることから、計測用浮体12に内蔵されるセンサ部13aと、コンピュータ等からなる演算部13bとに分けて構成でき、計測用浮体12に内蔵する部分を最小限にすることで計測用浮体12を人力によって持ち運び可能な大きさ及び重量にすることができる。
【0037】
外殻体21は、遮水性及び電波が透過可能な部材によって中空球状に形成され、その内径は、計測用浮体12の外径よりも大きく形成されている。尚、外殻体21の形状は、中空球状に限定されず、内部に計測用浮体12が移動自在に収容可能であればよく、例えば、中空多面体状であってもよい。
【0038】
この外殻体21は、球体又は多面体を半割にした形状の上半部21aと下半部21bとにより構成され、上半部21aと下半部21bとが互いに着脱可能に連結されている。
【0039】
上半部21aと下半部21bとの連結手段は、例えば、開口縁部にそれぞれ雄ねじ部23と雌ねじ部24を備え、互いにねじ込むことにより止水された状態で嵌合するようになっている。
【0040】
一方、上半部21aは、頂部に流体22を注入可能な注入口25を備え、外殻体21内に計測用浮体12を収容した状態で注入口25より流体22を注入することにより、外殻体21と計測用浮体12との間に流体22が介在され、計測用浮体12が流体22上に浮いた状態で外殻体21内に収容されるようになっている。尚、図中符号26は、注入口25を開閉可能に閉鎖するキャップである。
【0041】
また、上半部21aの外側面には、フック状の係留部材27が突設され、この係留部材27に係留索3の一端を連結することにより、ブイ20を係留できるようになっている。
【0042】
流体22には、主に水又は油等を使用し、その量は、計測用浮体12が流体22上に浮上し、かつ計測用浮体12の頂部が外郭体21の内壁に接しない程度とし、流体22の種類と量とを調整することによって、ブイ20全体の喫水を調節できるようになっている。
【0043】
このように構成されたブイ式波高計測装置では、図1に示すように、ブイ20が流体22を介在させた二重構造になっているため、内部の計測用浮体12は、外殻体21に作用する外力によって拘束されず、外殻体21が傾斜しても常に水平性が確保されるため、波高の算出に必要な鉛直方向の加速度を容易に抽出でき、容易に波高を算出することができる。
【0044】
また、このブイ式波高計測装置では、外殻体21に対して計測用浮体12が拘束されていないため、計測用浮体12は、ブイ20に作用する波、風、潮流の影響を受けにくく、全方位で対応することができる。
【0045】
また、このブイ式波高計測装置では、ブイを監視船等の船舶1に係留することによりブイ20を所望の水域に留め、その水域の波高を測定することができる。
【0046】
また、計測用浮体12に内蔵されたセンサ部13aによって計測された計測データは、無線によって船舶1に送信できるので略リアルタイムに波高を計測することができる。
【0047】
尚、上述の実施例では、船舶1にブイ20を係留させた例について説明したが、対象物は船舶1に限定されず、図3に示すように、係留索3の一端を水底部に設置したシンカー4に連結し、水底部に係留させるようにしてもよく、岸壁等の地上構造物に係留させてもよい。また、このブイ式波高計測装置では、ブイ20を漂流させた状態で計測するようにしてもよい。
【0048】
また、上述の実施例では、変位計測手段として加速度センサを用いた例について説明したが、変位計測手段はこれに限定されず、例えば、GNSS機器のみで構成してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 船舶(監視船)
3 係留索
12 計測用浮体
13a センサ部
13b 演算部
15 錘
16 載置台
20 ブイ
21 外殻体
22 流体
23 雄ねじ部
24 雌ねじ部
25 注入口
26 キャップ
27 係留部材
図1
図2
図3
図4