(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下、本発明に係るパワーシート装置10の一実施形態について図を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るパワーシート装置の構成概要を示す側面図である。
本第1実施形態に係るパワーシート装置(以下、シート装置ともいう)10は、
図1に示すように、シートクッションおよびシートバックからなる車両用シート11と、この車両用シート11を車体に対してスライド可能に支持するスライドレール部材12とを備えている。車両用シート11は、シートクッションをスライドレール部材12に固定するシートクッションフレーム11aと、このシートクッションフレーム11aの後部に傾動自在に取り付けられてシートバックをシートクッションに対して傾倒可能に支持するシートバックフレーム11bとを備えている。また、スライドレール部材12は、主に、車体に固定されて車両の前後方向に延びる一対のロアレール12aと、両ロアレール12aにそれぞれスライド自在(摺動自在)に支持される一対のアッパーレール12bとを備えている。
【0012】
シート装置10は、モータ20を駆動源として車両用シート11の状態を調整する構成である。また、シート装置10は、
図1〜
図5に示すように、車両用シート11の位置などを電動で調整する調整手段であるモータ20と、このモータ20に組み付けられてモータ20から伝達される回転を減速するギヤボックス80と、モータを駆動制御する電子制御装置(ECU、図示略)と、を備えている。また、本第1実施形態では、モータ20が、Rハイトモータとして構成され、電子制御装置により制御されて、その回転駆動によりシートクッションの後部の高さを変更するように機能する例を示す。なお、モータ20は、Rハイトモータ以外に、スライドモータ、リクラモータ、およびFハイトモータなどとして構成されてもよい。例えば、モータ20が、スライドモータとして構成される場合、電子制御装置により制御されて、その回転駆動によりアッパーレール12bをロアレール12aに対してスライドさせることで車両用シート11を車体に対してスライドさせるように機能する。また、モータ20が、リクラモータとして構成される場合、電子制御装置により制御されて、その回転駆動によりシートバックフレーム11bをシートクッションフレーム11aに対して傾動させることでシートバックをシートクッションに対して傾倒させるように機能する。また、モータ20が、Fハイトモータとして構成される場合、電子制御装置により制御されて、その回転駆動によりシートクッションの前部の高さを変更するように機能する。
【0013】
次に、本発明に係るモータ20の構成について、
図6〜
図9を用いて詳細に説明する。モータ20は、ブラシ付きモータとして構成されている。また、モータ20は、
図6〜
図9に示すように、所定方向に沿った回転軸線回りに(回転軸線Lを中心として)回転するロータ40と、ロータ40を収容するモータケース30と、電源に接続された外部コネクタが接続されるカプラー60と、を備えている。また、ロータ40の外周面40aには、
図9に示すように、ロータ40が備えるコイルに流れる電流の向きを切り替えるためのコンミテータ(整流子)45が設けられている。また、コンミテータ45と摺動接触するブラシ50がモータケース30によって保持されている。そして、本第1実施形態では、カプラー60から発生する放射音を抑制するために、カプラー60とモータケース30とを外側から覆う付勢部材70が設けられている。
【0014】
以下、モータ20を構成する各要素について詳述する。
ロータ40は、
図9に示すように、モータ20の回転軸となるシャフト41と、シャフト41に嵌合して固定されて複数の電磁式のコイルが設けられるロータコア(図示略)と、シャフト41に嵌合して固定されてコンミテータ45を保持する保持部43と、を備えている。シャフト41は、モータケース30に配設された軸受(例えば、長手筒状に形成されたモータケース30の長手方向おける両端部分に形成された軸受)に一端と中心付近とを回転自在に支持されている。ロータコアのコイルは、電機子に巻装されて、モータケース30の内壁に固定された磁石に対向するように設けられている。コンミテータ45は、湾曲板状の導電部材によって形成され、円筒形に形成された保持部43の外面に沿って複数(コイルと同数)周方向に並んで配置されている。また、コンミテータ45は、後述するブラシ50と摺動接触するように保持部43に配置されている。このロータ40は、ブラシ50から供給される電流がコンミテータ45を介して各コイルに順に流れて、各コイルに発生する磁場がモータケース30の内壁に固定された磁石の磁力に対して回転方向に働くことによって回転するようになっている。
【0015】
また、ロータ40は、
図6、
図7に示すように、シャフト41におけるモータケース30に収容される部分とは異なる部分にギヤ47が設けられている。このギヤ47は、例えば、ウォームギヤとして構成され、ギヤボックス80に設けられるウォームホイール(図示略)と噛合して、モータ20から出力される駆動力を所定の減速比でギヤボックス80に設けられる入力軸に伝達する。
【0016】
モータケース(ケース)30は、
図9に示すように、側面の角部が丸みを帯びた略四角筒状に形成される外側ケース32と、外側ケース32の内部に収容されてブラシ50を支持固定するブラシホルダ34と、を備えている。これら外側ケース32及びブラシホルダ34は、ABS樹脂等の合成樹脂材料などから形成されている。ブラシホルダ34は、長手方向に沿った貫通孔を有し、ロータ40の一端側(ロータコアや保持部43が設けられる側)を包囲するように配置されている。ブラシ50は、ブラシホルダ34によって、後述するカプラー60が形成される側とは反対側から内側に向かって突出するように支持固定されている。また、ブラシ50には導電部材によって形成されるワイヤ54を介して導電部材によって形成されるターミナル56が接続されている。
【0017】
また、モータケース30の外面30aには、外部コネクタ(図示略)が接続されるモータ20側のコネクタとして機能するカプラー60が設けられている。具体的には、カプラー60は、一方の開口が閉塞された略四角筒状の外周壁62によって構成され、モータケース30の外側ケース32の一側から外側に突出するようにブラシホルダ34と一体に形成されている。また、カプラー60の底面(閉塞された開口部分)には、ターミナル56の導出口(図示略)が形成され、各ターミナル56がこの導出口を貫通して各端部56aとしてカプラー60内に導出されている。また、カプラー60の外周壁62には、内側に突出する2つのガイド64が形成され、外部コネクタが挿入される際に外部コネクタを支持しながら案内するようになっている。また、カプラー60は、ロータ40の回転軸線L(
図9参照)に直交する方向でモータケース30と重なる位置に配置されている。すなわち、カプラー60は、モータケース30の外周面に沿って配置されている。このような構成によって、カプラー60は、電源が接続された外部コネクタが接続されることで、外部コネクタから供給される電流をターミナル56及びワイヤ54を介してブラシ50に供給するようになっている。
【0018】
付勢部材70は、弾性変形可能な環状部材(帯板状のリング部材)である。この付勢部材70は、例えば、樹脂シート、ゴムシート、布などによって構成されている。そして、付勢部材70は、カプラー60をモータケース30に向かう方向に弾性的に付勢するようにカプラー60を覆っている。具体的には、カプラー60及びモータケース30の外周(具体的には、
図9に示す断面において、カプラー60及びモータケース30を囲む外周)よりも短い長さの外周となるように形成された付勢部材70を、リング形状が大きくなるように引き伸ばされた状態となるようにカプラー60及びモータケース30に締め付けるように嵌める構成となっている。このような構成によって、付勢部材70は、カプラー60及びモータケース30をロータ40の回転軸線L(
図9参照)に直交する方向(ロータ40の径方向)から環状に覆うことになる。また、付勢部材70は、カプラー60と回転軸線Lに直交する方向において重なる構成となっている。すなわち、付勢部材70は、回転軸線Lに沿った方向において、カプラー60の外周壁62のほぼ全体を覆うような長さになっている。
【0019】
次に、ギヤボックス80について
図2〜
図5を用いて説明する。ギヤボックス80は、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のような合成樹脂材料により構成されており、
図3に示すように、ホイールケース81と、ホイールカバー83と、を備えている。ホイールケース81は、モータ20に対する入力軸に同軸的に組み付けられると共にモータ20のギヤ47に常時噛合するウォームホイールを収容する。また、ホイールケース81には、モータ20のギヤ47を覆うギヤカバー81aと、モータケース30と締結する締結部81bと、が形成されている。締結部81bは、モータケース30の一端(ギヤ47が配置される側の端部)を覆い、モータケース30の締結板30bに対向する構成で、締結部材90(例えば、ねじ)によって締結板30bに固定される。
【0020】
また、ホイールカバー83は、ウォームホイールをホイールケース81とは反対側から覆うように、ホイールケース81に対して熱かしめ等によって組み付けられる。また、ホイールカバー83は、例えば、SAPH440等のSAPH鋼板のような金属材料により構成されており、中央に出力側ギヤ87を軸支可能な貫通穴が形成されている。そして、モータ20から駆動力が伝達されたウォームホイールは、例えば、ピ二オンギヤなどを介して出力軸85と一体的に形成された出力側ギヤ87によって回転を出力するようになっている。
【0021】
以上のように組み立てられたモータ20付のギヤボックス80等をシートクッションフレーム11a等に組み付けることで、車両用シート11の位置を電動で調整するシート装置10を構成することができる。そして、シート装置10では、モータ20の駆動に応じてギヤボックス80の出力軸85を介して伝達される回転を利用して車両用シート11の位置が調整される。例えば、モータ20がRハイトモータとして構成される場合、その回転駆動によりシートクッションの後部の高さが変更されることになる。
【0022】
次に、モータ20の動作について図面を参照して説明する。
モータ20のカプラー60に電源に接続された外部コネクタが接続された状態で、電子制御装置によってモータを駆動制御する制御信号が出力されると、外部コネクタから各ターミナル56に電流が供給される。そして、ターミナル56からワイヤ54を介してブラシ50に電流が供給される。また、ブラシ50に順次接触するコンミテータ45にブラシ50から電流が供給され、さらに、ロータ40のコイルに電流が供給される。これにより、ロータ40の周囲に磁束が発生し、モータケース30の内壁に固定された磁石の磁力に対してロータ40を回転させる回転力が発生する。また、ロータ40の回転に伴うコンミテータ45の回転時に、コンミテータ45の整流作用により、コイルに流れる電流の向きがブラシ50に接触するたびに順次逆向きに変化する。
【0023】
このようなモータ20の動作時においてロータ40が回転する際に、コンミテータ45は、ブラシ50に対してロータ40の回転軸線Lに直交する方向で摺動接触する。すなわち、コンミテータ45及びブラシ50には、ロータ40の回転軸線Lに直交する方向に摩擦力が生じることになる。具体的には、各ブラシ50は、
図9に示すように、斜め下方からコンミテータ45に接触する構成である。ここで、ロータ40とカプラー60とが対向する方向を上下方向とし、カプラー60が位置する側を上方側とし、その反対側を下方側としている。このような構成によって、コンミテータ45及びブラシ50は、回転軸線Lに直交する方向(例えば、上下方向)を振幅方向として振動することになる。そして、このような振動が生じる場合に、振動がブラシホルダ34などを介してカプラー60に伝わることになる。
【0024】
本第1実施形態では、モータ20に付勢部材70を組み付けることで、カプラー60からの放射音の発生を抑制する構成としている。具体的には、付勢部材70が、弾性力に基づいて、カプラー60をモータケース30に向かう方向に付勢するように覆うため、カプラー60をモータケース30に押さえ付けるようになっている。これにより、ロータ40の回転軸線Lに直交する方向(例えば、上下方向)におけるカプラー60のモータケース30に対する変位(がたつき等)を抑制することができる。特に、付勢部材70が、ロータ40の回転軸線Lに直交する方向からカプラー60をモータケース30に押さえ付けるため、回転軸線Lに直交する方向を振幅方向とする振動に基づくカプラー60のモータケース30に対する変位を効果的に抑制することができる。これによって、回転軸線Lに直交する方向におけるブラシ50とコンミテータ45との継続的な摺動接触により、これら部材に回転軸線Lに直交する方向を振幅方向とする振動が発生し、この振動がモータケース30を介してカプラー60に伝わる場合に、外部コネクタに接続されたカプラー60の振動を抑制することができる。
【0025】
上記モータ20を適用したシート装置10において、シートクッションの後部の高さを調整する際に発生する高周波の音の大きさを測定した。例えば、シートクッションの後部の位置を上昇させる際に、付勢部材70を設けない構成では、高周波帯域である6.3kHzの音が33dB(A)で検出されるのに対して、付勢部材70を設ける本第1実施形態の構成では、6.3kHzの音が28dB(A)で検出される。また、ロータ40の回転方向を上昇時とは逆方向とすることでシートクッションの後部の位置を下降させる際に、付勢部材70を設けない構成では、高周波帯域である6.3kHzの音が28dB(A)で検出されるのに対して、付勢部材70を設ける本第1実施形態の構成では、6.3kHzの音が24dB(A)で検出される。このように、付勢部材70を用い、弾性力に基づいて、カプラー60をモータケース30に向かう方向に付勢するように覆う構成とすることによって、シートクッションの高さを調整する際の不快な音(高周波の音)を低減することができる。
【0026】
以上説明したように、本第1実施形態に係るパワーシート装置10が備えるモータ20では、電源から供給される電流をブラシ50に供給するように外部コネクタが接続されるカプラー60が、回転軸線Lに直交する方向でモータケース30と重なるようにモータケース30の外面30aに設けられる構成となっている。そして、付勢部材70は、カプラー60をモータケース30に向かう方向に弾性的に付勢するようにカプラー60を覆う構成となっている。
【0027】
このように、付勢部材70が、弾性力に基づいて、カプラー60をモータケース30に向かう方向に付勢するように覆うため、カプラー60をモータケース30に押さえ付けることができる。これにより、カプラー60のモータケース30に対する相対的な変位を抑制することができる。そのため、カプラー60が外部コネクタに接続された状態でモータ20が動作する際に、ロータ40が回転してブラシ50とコンミテータ45との継続的な摺動接触によってこれら部材に振動が発生し、さらに振動がモータケース30を介してカプラー60に伝わる場合であっても、外部コネクタに接続されたカプラー60のモータ20に対する振動を抑制することができる。このように、外部コネクタに接続されたカプラー60の振動を抑制することで、外部コネクタに接続されたカプラー60の放射音の発生を抑制することができる。特に、このようにカプラー60を弾性変形可能な付勢部材70で覆うのみの簡易な構成によって、製造コストの増大を抑えつつ、放射音の発生を抑制することができる。
【0028】
また、付勢部材70は、弾性変形可能な環状部材であり、カプラー60及びモータケース30の一部を回転軸線Lに直交する方向から環状に覆う構成である。これにより、カプラー60及びモータケース30を付勢部材70に嵌め入れるように、カプラー60及びモータケース30を付勢部材70で覆うだけの簡易な組み付け工程で、放射音の発生を抑制する構成を簡単に実現することができる。
【0029】
なお、本発明は上記第1実施形態に限定されるものではなく、以下のように具体化してもよく、その場合でも、上記第1実施形態と同等の作用・効果が得られる。
(1)付勢部材70は、リング形状が大きくなるように引き伸ばされた状態となるようにカプラー60及びモータケース30に嵌めて取り付ける構成に限らず、カプラー60をモータケース30に向かう方向に弾性的に付勢するように、接着材などを介してカプラー60及びモータケース30に巻いて貼り付ける構成であってもよい。
(2)付勢部材70は、カプラー60及びモータケース30を環状に覆う構成に限らず、カプラー60とモータケース30の外周の一部を覆う構成であってもよい。例えば、付勢部材70を、接着材などを介してカプラー60とモータケース30の外周の一部に貼り付ける構成であってもよい。また、引き伸ばされた状態でカプラー60とモータケース30を覆い、モータケース30に付勢部材70の両端を固定するような構成であってもよい。
(3)カプラー60及びモータケース30(より具体的にはブラシホルダ34)が一体的に形成される構成に限らず、それぞれ別体で構成されてもよい。
(4)付勢部材70は、カプラー60の外周壁62のほぼ全体を覆うような長さである構成に限らず、外周壁62の一部を覆う長さであってもよい。また、1つの付勢部材70によってカプラー60を覆う構成に限らず、複数の付勢部材70によってカプラー60の別々の部分を覆う構成や、複数の付勢部材70を重ねるようにカプラー60を覆う構成であってもよい。