(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転子及び複数の相のコイルを有する固定子を備えたモータを、停止状態から始動する際に、前記回転子の回転位置を推定し、且つ、推定された前記回転位置に基づいて前記複数の相のうち励磁する相を決定するモータ制御装置であって、
前記回転位置を推定する際に、前記複数の相のコイルに所定の電圧を印加して前記複数の相のインダクタンスを求めるインダクタンス検出部と、
前記複数の相のうち、前記インダクタンスが最も小さい相を第1相として選択するとともに、前記インダクタンスが二番目に小さい相を第2相として選択する相選択部と、
前記第1相のインダクタンスと前記第2相のインダクタンスとの差が所定値以下の場合には、前記第1相及び前記第2相のうち、前記回転位置が前記モータの回転方向に変化した際に前記インダクタンスが増加する相を、前記励磁する相として決定する励磁相決定部とを備える、モータ制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の特許文献1に開示されている構成では、スイッチトリラクタンス回転機(モータ)の各相のコイルに流れる電流の大小関係に基づいてロータ(回転子)の初期位置を判断する。そのため、前記各相のコイルに流れる電流の差が小さい場合には、該各相のコイルに流れる電流の大小関係を誤判定する可能性がある。
【0007】
すなわち、モータの各相のコイルに流れる電流は、回転子の回転位置に応じて変化するため、各相のコイルに流れる電流の差も変化する。各相のコイルに流れる電流の差が小さい場合には、電流を検出するセンサの検出誤差や、該センサによって検出された値を変換する際の誤差等によって、各相のコイルに流れる電流の大小を逆に判定する可能性がある。
【0008】
そうすると、各相のコイルに流れる電流の本来の大小関係とは異なる関係が、判定結果として得られるため、モータを所定の回転方向に回転させるために励磁する相とは異なる相を、励磁する可能性がある。これにより、モータが、前記所定の回転方向とは逆方向に回転する可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、モータの始動制御を行うモータ制御装置において、モータの始動時に、該モータの回転子を所望の回転方向に、より確実に回転させることができる構成を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係るモータ制御装置は、回転子及び複数の相のコイルを有する固定子を備えたモータを、停止状態から始動する際に、前記回転子の回転位置を推定し、且つ、推定された前記回転位置に基づいて前記複数の相のうち励磁する相を決定するモータ制御装置である。このモータ制御装置は、前記回転位置を推定する際に、前記複数の相のコイルに所定の電圧を印加して前記複数の相のインダクタンスを求めるインダクタンス検出部と、前記複数の相のうち、前記インダクタンスが最も小さい相を第1相として選択するとともに、前記インダクタンスが二番目に小さい相を第2相として選択する相選択部と、前記第1相のインダクタンスと前記第2相のインダクタンスとの差が所定値以下の場合には、前記第1相及び前記第2相のうち、前記回転位置が前記モータの回転方向に変化した際に前記インダクタンスが増加する相を、前記励磁する相として決定する励磁相決定部とを備える(第1の構成)。
【0011】
以上の構成により、モータの各相のインダクタンスを用いて、モータの始動時に励磁する相を決めることができる。すなわち、上述の構成では、モータの複数の相におけるインダクタンスの差のうち、相選択部によって選択された、インダクタンスが最も小さい第1相のインダクタンスとインダクタンスが二番目に小さい第2相のインダクタンスとの差が、最も小さいと考えられる。そのため、このインダクタンスの差が所定値以下の場合には、第1相及び第2相のインダクタンスの大小関係が、測定誤差等によって、実際とは逆の関係として判定される可能性がある。これに対し、上述の構成では、前記第1相及び前記第2相のうち、回転子の回転位置が前記モータの回転方向に変化した際に前記インダクタンスが増加する相を、励磁する相とする。
【0012】
これにより、前記第1相のインダクタンスと前記第2相のインダクタンスとの差が小さい場合に、測定誤差等によってインダクタンスの大小関係が実際とは異なる関係になることを防止できる。よって、モータ始動時に、本来、励磁したい相とは異なる相を励磁することを防止できる。
【0013】
したがって、モータの始動時に、該モータを回転させたい回転方向とは逆方向に、前記モータが回転することを防止できる。
【0014】
前記第1の構成において、前記励磁相決定部は、前記差が前記所定値よりも大きい場合には、前記複数の相のうち、前記第1相以外で、且つ、前記回転位置が前記モータの回転方向に変化した際に前記インダクタンスが増加する相を、前記励磁する相として決定する(第2の構成)。
【0015】
インダクタンスが最も小さい相とインダクタンスが二番目に小さい相との間でインダクタンスの差が所定値よりも大きい場合には、相選択部が、測定誤差等によって、第1相のインダクタンスと第2相のインダクタンスとの大小関係を誤って認定する可能性は低い。そのため、励磁相決定部が、前記第1相以外で、且つ、回転子の回転位置がモータの回転方向に変化した際に前記インダクタンスが増加する相を、励磁する相として決定することにより、前記回転子を所望の回転方向に回転させることができる。
【0016】
前記第1または第2の構成において、前記インダクタンス検出部は、前記複数の相のコイルにそれぞれ前記所定の電圧を印加する電圧印加部と、前記電圧印加部によって前記複数の相のコイルに対してそれぞれ前記所定の電圧の印加を開始した時点から、各相のコイルに流れる電流が一定値に達するまでの時間をそれぞれ計測する時間計測部と、前記時間計測部によって計測された時間に基づいて、前記複数の相のインダクタンスを求めるインダクタンス算出部とを有する。前記電圧印加部は、前記複数の相のうち、電流が前記一定値に達した相のコイルに対する電圧の印加を停止する(第3の構成)。
【0017】
これにより、モータの各相のインダクタンスを、各相のコイルに流れる電流に基づいて求めることができる。そして、電圧印加部は、モータの各相のコイルに流れる電流が一定値に達した際に、該各相のコイルに対する電圧の印加を停止するため、前記各相のコイルに流れる電流が一定値よりも大きくなることを防止できる。前記一定値を、モータの回転子が回転する電流値よりも小さい値に設定することにより、前記モータのコイルに、前記回転子が回転するような電流が流れることを防止できる。
【0018】
よって、上述の構成により、モータの回転子を回転させることなく、モータの各相のインダクタンスを求めることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態に係るモータ制御装置によれば、モータの複数の相のうちインダクタンスが最も小さい第1相とインダクタンスが二番目に小さい第2相との差が、所定値以下の場合に、前記第1相及び前記第2相のうち、回転子の回転位置が前記モータの回転方向に変化した際にインダクタンスが増加する相が、励磁する相として決定される。これにより、第1相のインダクタンスと第2相のインダクタンスとの差が小さく、計測誤差等によって前記第1相及び前記第2相の順番が入れ替わる可能性がある場合でも、前記モータの回転子を所望の回転方向に回転させることができる。したがって、モータの始動時に、該モータの回転子を逆方向に回転させることなく、所望の回転方向により確実に回転させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係るモータ制御装置1の概略構成を示すブロック図である。このモータ制御装置1は、モータ2を駆動させる駆動回路3に対して、制御信号を出力する。すなわち、モータ制御装置1は、モータ2の駆動を制御する。モータ2は、例えばスイッチトリラクタンスモータであり、回転子51と、固定子55とを備えている。なお、モータ2は、回転子51の回転位置をセンサ等によって検出しないモータであれば、スイッチトリラクタンスモータ以外のモータであってもよい。
図1において、符号5は、モータ2の後述する各相のコイル58に流れる電流を検出するための電流検出回路である。電流検出回路5で検出された電流値のデータは、モータ制御装置1に入力される。
【0023】
モータ2は、例えば、円筒形の固定子55の内方に回転子51が配置された、いわゆるインナーロータタイプのモータである。なお、モータ2は、回転子が固定子の径方向外方で回転する、いわゆるアウターロータタイプのモータであってもよい。
【0024】
回転子51は、略円柱状の回転子本体52と、回転子本体52から径方向外方に突出する複数(本実施形態では4つ)の突極53とを有する。回転子51は、回転子本体52と複数の突極53とが一体形成されているとともに、鉄心によって構成されている。
【0025】
固定子55は、略円筒状のヨーク56と、ヨーク56の内周面から内方に向かって延びる複数(本実施形態では6つ)のティース57と、ティース57に巻かれたコイル58とを有する。ヨーク56及び複数のティース57は、一体形成されている。本実施形態の固定子55では、ヨーク56を筒軸方向から見て(
図1の状態)、ヨーク56の径方向に対向する2つのティース57には、同じ相のコイル58が巻かれている。すなわち、本実施形態では、固定子55は、
図1に示すように、A相、B相及びC相の3相のコイル58を有する。
【0026】
本実施形態のモータ2は、例えば、極数が4で、スロット数が6のモータである。なお、モータ2は、極数が4以外であってもよいし、スロット数が6以外であってもよい。
【0027】
駆動回路3は、モータ2を駆動させるように、3相のブリッジ回路を構成する複数のスイッチング素子61,62,63,64,65,66を備えたスイッチング回路である。具体的には、駆動回路3のスイッチング素子61,62,63,64,65,66のうち、スイッチング素子61,62はモータ2のA相のコイル58に接続され、スイッチング素子63,64はモータ2のB相のコイル58に接続され、スイッチング素子65,66はモータ2のC相のコイル58に接続されている。
【0028】
スイッチング素子61,62,63,64,65,66は、例えばIGBTが用いられる。スイッチング素子61,62,63,64,65,66には、それぞれ、ダイオード71,72,73,74,75,76が直列に接続されている。ダイオード71,72,73,74,75,76は、それぞれ、スイッチング素子61,62,63,64,65,66とモータ2の各相のコイル58との間で電流が一方向に流れるように、設けられている。
【0029】
スイッチング素子61,62,63,64,65,66は、直流電源4に対して、並列に接続されている。スイッチング素子61,62,63,64,65,66は、後述するモータ制御装置1から出力される制御信号(スイッチング信号)に応じてスイッチング動作を行うことにより、直流電源4からモータ2に対して電圧を印加する。
【0030】
モータ制御装置1は、駆動回路3に対して、スイッチング素子61,62,63,64,65,66を駆動させる制御信号を出力する。また、モータ制御装置1は、モータ2の回転子51の回転位置に基づいて、モータ2の始動制御を行う。
【0031】
具体的には、モータ制御装置1は、モータ駆動制御部11と、モータ始動制御部12とを備える。モータ駆動制御部11は、駆動回路3に対する制御信号を生成する。モータ駆動制御部11の構成は、従来の構成と同様なので、詳しい説明を省略する。
【0032】
モータ始動制御部12は、停止状態のモータ2の回転子51の回転位置に応じて、モータ2の3相のうち最初に電流を流す相、すなわち最初に励磁する相を決定する。詳しくは、モータ始動制御部12は、停止状態のモータ2における各相のインダクタンスを求めて、3相のうちインダクタンスが小さい2つの相のインダクタンスの差に応じて励磁する相を決定する。なお、モータ始動制御部12には、モータ2を始動させる際のモータ2の回転方向に関する指令が外部から入力される。
【0033】
具体的には、モータ始動制御部12は、モータ2の各相のインダクタンスを求めるインダクタンス検出部21と、モータ2の3相からインダクタンスが小さい2つの相を選択する相選択部22と、選択された2つの相のインダクタンスの差を求めるインダクタンス差算出部23と、その差に基づいて励磁する相を決定する励磁相決定部24とを有する。
【0034】
インダクタンス検出部21は、停止状態のモータ2の各相のコイル58に対してパルス電圧を印加して、各相のコイル58に流れる電流が一定値に達するまでの時間を計測し、計測された時間を用いて各相のインダクタンスを求める。すなわち、インダクタンス検出部21は、モータ2の各相のコイル58に対してパルス電圧を印加する電圧印加部31と、各相のコイル58に流れる電流が一定値に達するまでの時間を計測する時間計測部32と、計測された時間を用いてインダクタンスを求めるインダクタンス算出部33とを有する。なお、インダクタンス検出部21には、電流検出回路5によって検出された、モータ2の各相のコイル58に流れる電流値のデータが入力される。
【0035】
電圧印加部31は、
図2に示すように、停止状態のモータ2に対して所定のパルス電圧(印加電圧)Vを印加する。電圧印加部31は、モータ2の3相のコイル58に対し、同時に所定のパルス電圧Vの印加を開始し、各相のコイル58に流れる電流(モータ電流)Ia,Ib,Icが一定値に達するまでパルス電圧Vを印加する。例えば
図2に示すように、モータ2の各相のコイル58に流れる電流(モータ電流)Ia,Ib,Icは、電圧Vの印加を開始してから電流Ia,Ib,Icが前記一定値(
図2における二点鎖線)に達するまでの時間ta,tb,tcが異なる。なお、
図2に示す印加電圧とモータ電流との関係は、一例であり、これらの関係はモータの構成等によって異なる。
【0036】
電圧印加部31は、モータ2の各相のコイル58に流れる電流が前記一定値に達した際に、その相に対するパルス電圧の印加を停止する。これにより、モータ2の各相のコイル58に、無駄な電流が流れ続けてモータ2の回転子51が回転することを防止できる。
【0037】
時間計測部32は、電圧印加部31によってモータ2の各相のコイル58に所定のパルス電圧が印加されている時間を計測する。すなわち、時間計測部32は、モータ2の各相において、コイル58に対するパルス電圧の印加開始時点から、コイル58に流れる電流が前記一定値に達するまでの時間(
図2の例では、ta,tb,tc)を計測する。
【0038】
なお、前記一定値は、モータ2の回転子51が回転する電流値よりも小さい値に設定される。これにより、モータ2のコイル58に、回転子51が回転するような電流が流れることを防止できる。
【0039】
インダクタンス算出部33は、時間計測部32によって計測された時間を用いて、モータ2の各相のインダクタンスを計算する。
【0040】
ここで、モータ2の各相のインダクタンスは、モータ2の各相のコイル58に流れる電流を用いて求められる。すなわち、インダクタンスL、電圧V、電流I及び時間tの間には、以下の(1)式の関係が成立する。よって、モータ2の各相のコイル58に所定の電圧Vを印加してコイル58に流れる電流が一定値Iになるまでの時間txをモータ2の各相で計測することにより、(2)式から、各相のインダクタンスLxを求めることができる。なお、式(2)において、xは、a,b,cであり、Lx及びtxは、モータ2の各相の値に対応している。
V=L×dI/dt (1)
Lx=tx×V/I (2)
【0041】
インダクタンス算出部33は、上述の(2)式を用いて、モータ2の各相のインダクタンスLxを計算する。
【0042】
相選択部22は、インダクタンス検出部21のインダクタンス算出部33によって算出されたモータ2の各相のインダクタンスを用いて、インダクタンスが小さい2つの相を選択する。具体的には、相選択部22は、モータ2の各相のうち、インダクタンスが最も小さい相を第1相として選択するとともに、インダクタンスが2番目に小さい相を第2相として選択する。
【0043】
インダクタンス差算出部23は、相選択部22によってそれぞれ選択された前記第1相のインダクタンスと前記第2相のインダクタンスとの差(以下、インダクタンス差という)を算出する。
【0044】
励磁相決定部24は、インダクタンス差算出部23によって算出された前記インダクタンス差を用いて、モータ2の各相のうちモータ2の始動時に励磁する相を決定する。具体的には、本実施形態の場合、励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が所定値よりも大きい場合には、モータ2の各相のうち、前記第1相以外で、且つ、回転子51の回転位置がモータ2の回転方向に移動した際にインダクタンスが増加する相を、励磁相に決定する。一方、励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が所定値以下の場合には、前記第1相及び前記第2相のうち、モータ2の回転方向に回転子51の回転位置が変化した場合にインダクタンスが増加する相を、励磁相に決定する。なお、モータ2の回転方向は、モータ2の始動時にモータ2が回転する方向である。この回転方向に関する情報は、モータ始動制御部12に入力される指令に含まれている。
【0045】
例えば、
図3に示すようにモータ2の3相のインダクタンスが回転子51の回転位置に応じて変化する場合、励磁相決定部24は、回転子51の回転位置を7つの領域に分けて、領域毎に励磁相を決定する。励磁相決定部24による励磁相の決定の一例を、
図4に示す。
【0046】
励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が所定値よりも大きい場合には、前記第1相を、励磁相を決定するための基準となる基準相に設定する。一方、励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が所定値以下の場合には、前記第1相及び前記第2相を、前記基準相に設定する。すなわち、励磁相決定部24は、停止状態のモータ2における回転子51の回転位置を推定している。励磁相決定部24は、推定した回転位置に基づいて、以下のように励磁相を決定する。
【0047】
励磁相決定部24は、
図4に示すように、各領域において、基準相が一つの場合(例えば
図4における領域(1)ではA相)には、回転子51の回転位置がモータ2の回転方向に変化した場合にインダクタンスが増加する相(例えば
図4の領域(1)において、回転子51の回転方向がCW(Clockwise、時計回り)の場合にはC相、回転子51の回転方向がCCW(Counter Clockwise、反時計回り)の場合にはB相)を励磁相として決定する。なお、CWは、
図4において回転子の回転位置(角度)の値が増加する回転方向であり、CCWは、
図4において回転子の回転位置(角度)の値が減少する方向である。
【0048】
一方、励磁相決定部24は、
図4に示すように、各領域において、基準相が二つの場合(例えば
図4における領域(2)ではA/B相)には、それらの二つの相のうち、回転子51の回転位置がモータ2の回転方向に変化した場合にインダクタンスが増加する相(例えば
図4の領域(2)において、回転子51の回転方向がCWの場合にはA相、回転子51の回転方向がCCWの場合にはB相)を励磁相として決定する。
【0049】
これにより、停止状態のモータ2を始動する際に、モータ2が、モータ始動制御部12に入力された所望の回転方向とは逆方向に回転することを防止できる。すなわち、モータ2の各相のうちインダクタンスが小さい2つの相におけるインダクタンス差が所定値以下の場合には、電流の計測誤差や変換誤差等(以下、単に計測誤差等という)によって、インダクタンスが最小の相が誤認識される場合がある。しかしながら、上述のように、モータ2の各相のうちインダクタンスが小さい2つの相におけるインダクタンス差が所定値以下の場合には、それらの2つの相をインダクタンスが最小の相として、それらの相のいずれか一方を励磁相に設定することにより、計測誤差等の影響を受けることなく、モータ2の励磁相を正確に決定することができる。したがって、モータ2を始動する際に、モータ2が意図しない方向に回転することを防止できる。
【0050】
前記所定値は、
図5に示すように、前記第1相(
図5の例では、A相)において回転子51の回転位置がモータ2の回転方向に変化した際にインダクタンスが増加する回転位置の範囲R内で、前記第1相のインダクタンスと前記第2相のインダクタンスとの差の最大値Dに設定される。なお、
図5には、前記第1相がA相の場合について例示されているが、前記第1相がB相、C相の場合でも同様である。
【0051】
また、前記所定値は、電流検出回路5の計測精度に応じて、該計測精度の所定倍(例えば2倍)の範囲に設定されてもよい。
【0052】
これにより、前記第1相のインダクタンスと前記第2相のインダクタンスとの差が、所定値以下の場合には、回転子51の回転位置がモータ2の回転方向に変化した際にインダクタンスが増加する前記第1相を励磁相として決定することができる。したがって、モータの始動時に、該モータが意図しない方向(逆方向)に回転することを防止できる。
【0053】
次に、上述のような構成を有するモータ始動制御部12の動作を、
図6に示すフローを用いて説明する。
【0054】
図6に示すフローがスタートすると(スタート)、まずステップS1において、電圧印加部31が、モータ2の各相のコイル58に対して一定のパルス電圧を印加する。電圧印加部31は、コイル58に流れる電流が一定値に達するまで、モータ2の各相のコイル58に対してパルス電圧を印加する。
【0055】
なお、電圧印加部31は、各相のコイル58に流れる電流が前記一定値に達した時点で、その相のコイル58に対するパルス電圧の印加を停止する。これにより、モータ2のコイル58に過剰な電流が流れることを抑制できる。したがって、前記パルス電圧によって、モータ2の回転子51が回転することを防止できる。
【0056】
続くステップS2では、時間計測部32が、各相のコイル58に流れる電流が前記一定値に達するまでの時間を計測する。モータ2の各相のインダクタンスは、この時間に比例する。
【0057】
ステップS3では、インダクタンス算出部33が、ステップS2で計測した時間を用いてモータ2の各相のインダクタンスを計算する。
【0058】
続くステップS4では、相選択部22が、ステップS3で算出した各相のインダクタンスを比較して、モータ2の各相のうちインダクタンスが最も小さい2つの相を選択する。相選択部22は、インダクタンスが最小の相を第1相として選択する一方、インダクタンスが二番目に小さい相を第2相として選択する。
【0059】
その後に進むステップS5では、インダクタンス差算出部23が、相選択部22で選択された前記第1相のインダクタンスと前記第2相のインダクタンスとの差(インダクタンス差)を算出する。
【0060】
続くステップS6では、励磁相決定部24が、前記インダクタンス差が所定値以上かどうかを判定する。励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が所定値以下の場合(ステップS6においてYESの場合)、ステップS7に進んで、前記第1相及び前記第2相のうち、一方の相を励磁相とする。具体的には、励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が前記所定値以下の場合には、前記第1相及び前記第2相のうち、回転子51の回転位置がモータ2の回転方向に移動した際にインダクタンスが増加する相を、励磁相とする。
【0061】
一方、励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が所定値よりも大きい場合(ステップS6においてNOの場合)、ステップS8に進んで、モータ2の各相のうち前記第1相以外の相を、励磁相とする。具体的には、励磁相決定部24は、前記インダクタンス差が前記所定値よりも大きい場合には、モータ2の各相のうち、前記第1相以外で、且つ、回転子51の回転位置がモータ2の回転方向に移動した際にインダクタンスが増加する相を、励磁相とする。
【0062】
ステップS7,S8で励磁相決定部24が励磁相を決定した後、このフローを終了する(エンド)。
【0063】
以上の構成により、モータ2を始動する際に、モータ2の各相のうちインダクタンスが最も小さい2つの相のインダクタンス差が所定値以下の場合には、インダクタンスが最小の相を決めることなく、前記2つの相のいずれか一方を励磁相として決定する。これにより、インダクタンスが最小の相を決める際に、計測誤差等によって、実際とは異なる相を誤って前記最小の相として認定することを防止できる。よって、モータ2を始動する際に励磁する相を、計測誤差等によって間違えることを防止でき、モータ2が逆回転することを防止できる。
【0064】
また、モータ2の各相のインダクタンスを求める際に、コイル58に流れる電流が一定値に到達した時点で、電圧印加部31はコイル58に対するパルス電圧の印加を停止する。これにより、コイル58に無駄に電流が流れることを防止できる。よって、モータ2が、意図せずして回転することを防止できる。
【0065】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0066】
前記実施形態では、モータ2は、3相のコイルを有する。しかしながら、モータ2は、4相以上のコイルを有していてもよい。
【0067】
前記実施形態では、モータ2は、回転子51の回転位置に対する各相のインダクタンスの波形が正弦波状(
図3参照)になるように構成されている。しかしながら、モータ2は、各相のインダクタンスの波形が、正弦波状以外の形状、例えば、回転子51の所定の回転位置の範囲では、インダクタンスが一定である形状であってもよい。
【0068】
前記実施形態では、電圧印加部31は、モータ2の各相のコイル58に対してパルス電圧の印加を同時に開始している。しかしながら、電圧印加部は、モータ2の各相のコイル58に対して、一相ずつインダクタンスを計測するように、パルス電圧を印加するタイミングをずらすように構成されていてもよい。
【0069】
具体的には、例えば、
図7に示すように、電圧印加部は、まず、モータ2のA相のコイル58に対するパルス電圧の印加を開始して、該A相のコイル58に流れる電流が一定値になるまで前記パルス電圧を印加する。その後、電圧印加部は、A相のコイル58に対するパルス電圧の印加を停止する。次に、電圧印加部は、B相のコイル58に対するパルス電圧の印加を開始して、該B相のコイル58に流れる電流が一定値になるまで前記パルス電圧を印加する。その後、電圧印加部は、B相のコイル58に対するパルス電圧の印加を停止する。そして、電圧印加部は、C相のコイル58に対するパルス電圧の印加を開始して、該C相のコイル58に流れる電流が一定値になるまで前記パルス電圧を印加する。その後、電圧印加部は、C相のコイル58に対するパルス電圧の印加を停止する。
【0070】
これにより、モータ2の各相のコイル58に対して電圧を印加した際、各相のコイル58間で漏れ磁束の影響を受けることを防止できる。すなわち、前記実施形態のように、モータ2の各相のコイル58に対して同時にパルス電圧を印加する場合には、各相のコイル58で生じる磁束が漏れ磁束として他の相に影響を与える可能性がある。そうすると、モータ2の各相のインダクタンスを精度良く計測できない可能性がある。これに対し、上述のようにコイル2の各相のコイル58に対してパルス電圧を印加するタイミングをずらすことにより、各相のコイル58で生じる磁束が他の相に対して影響を与えることを防止できる。よって、モータ2の各相のインダクタンスを、精度良く計測することができる。
【0071】
なお、
図7の例では、A相、B相及びC相の順に、コイル58に対してパルス電圧を印加している。しかしながら、A相、B相及びC相のコイル58に対してパルス電圧を印加する順番は、どのような順番であってもよい。