(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6725861
(24)【登録日】2020年6月30日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】フラックス組成物、液状フラックス、やに入りはんだ、ソルダペースト及びフラックス組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20200713BHJP
B23K 35/14 20060101ALI20200713BHJP
C08L 93/04 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/14 B
C08L93/04
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-182995(P2019-182995)
(22)【出願日】2019年10月3日
【審査請求日】2019年10月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】230117802
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】溝脇 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】冨塚 健一
【審査官】
尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭33−001139(JP,B1)
【文献】
特開昭54−117031(JP,A)
【文献】
特開2000−010285(JP,A)
【文献】
特開2007−069260(JP,A)
【文献】
特開平08−243787(JP,A)
【文献】
PIISPANEN,P.S. et al.,Synthesis and characterization of dehydroabietic acid derivatives suitable for surfactant synthesis,Journal of Surfactants and Detergents,2002年,Vol.5, No.2,pp.165-168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン又はロジン誘導体と、下記構造式(1)からなるアルカノールアミンとの反応物からなるロジン変性物であって、ロジンもしくはロジン誘導体のCOOH基と下記構造式(1)におけるNH3―n基とが縮合して得られるアミド結合、又はロジンもしくはロジン誘導体のCOOH基と下記構造式(1)におけるOH基とが縮合して得られるエステル結合を有するロジン変性物を含むことを特徴とするフラックス組成物。
式(1) NH3-n-(R-OH)n (n≦3)
【請求項2】
アルカノールアミン2分子の反応物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のフラックス組成物。
【請求項3】
前記ロジン変性物の配合量はフラックス総重量に対して5重量%以上65重量%以下であることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載のフラックス組成物。
【請求項4】
リン酸エステル又はホスホン酸エステルをさらに含み、
前記リン酸エステル又はホスホン酸エステルの配合量はフラックス総重量に対して1.0重量%以上15重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項5】
有機酸をさらに含み、
前記有機酸の配合量はフラックス総重量に対して0重量%超過10重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項6】
前記アルカノールアミンは、エタノールアミン、3-アミノ-1-プロパノール、1-アミノ-2-プロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン又はトリイソプロパノールアミンを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のフラックス組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフラックス組成物及び溶剤を含むことを特徴とする液状フラックス。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフラックス組成物が充填されていることを特徴とするやに入りはんだ。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のフラックス組成物にチキソ剤、溶剤及びはんだ粉末を含むことを特徴とするソルダペースト。
【請求項10】
ロジン又はロジン誘導体、有機酸及び下記構造式(1)からなるアルカノールアミンを混合し加熱することで得られたロジン変性物を用いてフラックス組成物を製造するフラックス組成物の製造方法。
式(1) NH3-n-(R-OH)n (n≦3)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジン変性物、フラックス組成物、液状フラックス、やに入りはんだ及びソルダペーストに関する。
【0002】
電子部品が実装されるプリント基板等の基板では、電子部品のリード等の端子にあわせて電極が形成されている。電子部品と基板の固定及び電気的接続は、主にはんだ付けで行われる。このような基板では、電子部品の端子と基板の電極とのはんだ付け部で、直流電圧がかかる電極間に水滴が付着する等の原因により、イオンマイグレーション(以下、マイグレーションと称す)が発生する可能性がある。
【0003】
マイグレーションとは、直流電圧がかかる電極間で、陽極から溶け出た金属イオンが陰極で電子を授受し、陰極から還元された金属が成長し、陽極まで延びた還元金属によって、両極がショートする現象である。このように、マイグレーションが発生すると、電極間でショートが発生するので、基板としての機能が失われる。
【0004】
一般的に、はんだ付けに用いられるフラックスは、はんだが溶解する温度にて、はんだ及びはんだ付け対象の金属表面に存在する金属酸化物を化学的に除去し、両者の境界で金属元素の移動を可能にする効能を持ち、フラックスを使用することで、はんだとはんだ付け対象の金属表面との間に金属間化合物を形成させて、強固な接合が得られるようになる。
【0005】
フラックスには、はんだ付けの加熱によって分解、蒸発しない成分も含まれ、はんだ付け後にフラックス残渣としてはんだ付け部の周辺に残留する。上述したマイグレーションが発生する原因のひとつに、電極間への水滴の付着が挙げられる。フラックスに主成分として含まれるロジンには撥水性があるため、ロジンを主成分とするフラックス残渣がはんだ付け部に形成されていれば、フラックス残渣の上に水滴が付着しても、ロジンの撥水効果によって直ちにマイグレーションが発生することはない。
【0006】
但し、フラックス残渣に割れが生じると、フラックス残渣の割れた部分から水分がフラックス残渣中に浸入して、この水分がマイグレーションを誘発させる要因となる。
【0007】
そこで、水滴等によって発生するマイグレーションの対策は、従来から、基板の構造を、はんだ付け面に水滴が付着しない構造とすることで行われていた。又はんだ付け面に防湿コートを施すことで行われていた。
【0008】
一方、フラックス残渣によってマイグレーションの発生を抑制する技術で、フラックス中にリン酸エステルを添加する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許5445716
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
はんだ付け部に吸着した疎水性のリン酸エステルの被膜によって、フラックス残渣が形成されたはんだ付け部に水滴等が付着することが抑制され、はんだ付け部が劣悪な環境に晒されてフラックス残渣に割れが生じるような場合でも、はんだ付け部に水滴等が付着することが抑制されて、水滴等の付着によるマイグレーションの発生を抑制することができる。
【0011】
しかし、特許文献1に開示されるフラックスでも、フラックス残渣が少ない場合、リン酸エステルの被膜が薄く形成されるはんだ付け部に水滴等が付着すると、マイグレーションの発生を抑制することが困難となる。
【0012】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、フラックス残渣が形成されたはんだ付け部において、フラックス残渣によりはんだ付け部が覆われることのみによらず、マイグレーションの発生を抑制可能にしたロジン変性物等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によるロジン変性物は、
ロジン又はロジン誘導体と、下記構造式(1)からなるアルカノールアミンとの反応物からなってもよい。
式(1) NH
3-n-(R-OH)
n (n≦3)
【0014】
本発明によるロジン変性物は、
ロジン又はロジン誘導体、有機酸及びアルカノールアミンを反応することにより得られてもよい。
【0015】
本発明によるフラックス組成物は、
前述したロジン変性物を含んでもよい。
【0016】
本発明によるフラックス組成物は、
アルカーノアミン2分子の反応物をさらに含んでもよい。
【0017】
本発明によるフラックス組成物において、
前記ロジン変性物の配合量はフラックス総重量に対して5重量%以上65重量%以下であってもよい。
【0018】
本発明によるフラックス組成物は、
リン酸エステル又はホスホン酸エステルをさらに含み、
前記リン酸エステル又はホスホン酸エステルの配合量はフラックス総重量に対して1.0重量%以上15重量%以下であってもよい。
【0019】
本発明によるフラックス組成物は、
有機酸をさらに含み、
前記有機酸の配合量はフラックス総重量に対して0重量%超過10重量%以下であってもよい。
【0020】
本発明による液状フラックスは、
前述したフラックス組成物及び溶剤を含んでもよい。
【0021】
本発明によるやに入りはんだは、
前述したフラックス組成物が充填されてもよい。
【0022】
本発明によるソルダペーストは、
前述したフラックス組成物にチキソ剤、溶剤及びはんだ粉末を含んでもよい。
【0023】
本発明による液状フラックスは、
くし形電極基板2形(FR−4)からなる基板に50μlのフラックスを塗布した後、100℃で10分間乾燥し、その後、フラックス上にイオン交換水を10μl滴下し、前記基板に3分間電圧を印加(印加電圧:DC5V)し、フルーク社製289Siを用いて電流値を25℃、湿度50%の条件下で測定した際の電流量が100μA以下からなってもよい。
【0024】
本発明による液状フラックスは、
前期電流量が10μA以下からなってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明のロジン変性物、ロジン変性物を用いたフラックス組成物は、水滴等の付着によるマイグレーションの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本実施の形態の液状フラックスは、以下に示す実施の形態のロジン変性物を用いたフラックス組成物を、溶剤で溶かして構成されてもよい。本実施の形態のやに入りはんだは、以下に示す本実施の形態のロジン変性物を用いたフラックス組成物からなるフラックスを、線状のはんだ内に封入して構成されてもよい。本実施の形態のソルダペーストは、以下に示す実施の形態のロジン変性物を用いたフラックス組成物にチキソ剤、溶剤、はんだ粉末を加えて構成されてもよい。
【0027】
1.ロジン変性物
本実施の形態のロジン変性物は、ロジン又はロジン誘導体と有機酸とアルカノールアミンとを反応することによって生成してもよい。このようにして生成されるロジン変性物は、ロジン又はロジン誘導体と、下記構造式(1)からなるアルカノールアミンとの反応物からなってもよい。Rにおける炭素数は1〜5であってもよい。
式(1) NH
3-n-(R-OH)
n (n≦3)
フラックス等を生成する際には、このようなアルカノールアミンとの反応物の他にアルカーノアミン2分子の反応物が含まれてもよい。このようなアルカーノアミン2分子の反応物の一例としてはジエタノールアミン2分子の反応物を挙げることができる。
【0028】
ロジン又はロジン誘導体とアルカノールアミンとの反応物の一例としては、下記の構造式からなるものを挙げることができる。なお、下記構造式(2)及び構造式(3)はアルカノールアミンとしてジエタノールアミンを用いた態様であり、別のアルカノールアミンを用いた場合には、ジエタノールアミンに対応する部分が当該アルカノールアミンに置き換わることになる。
【化1】
【化2】
【0029】
ロジン又はロジン誘導体とアルカノールアミンとの反応物は、構造式(2)の組成物、構造式(3)の組成物、又は構造式(2)の組成物及び構造式(3)の組成物の両方を含んでもよい(前述したとおり、上記構造式(2)及び構造式(3)はアルカノールアミンとしてジエタノールアミンを用いた態様であるが、別のアルカノールアミンを用いた場合には、ジエタノールアミンに対応する部分が当該アルカノールアミンに置き換わることになる。)。
【0030】
ロジン変性物を生成する際に用いられる、ロジン又はロジン誘導体の含有量は40重量%から80重量%であってもよく、有機酸の含有量は1重量%から15重量%であってもよく、アルカノールアミンの含有量は1重量%から30重量%であってもよい。
【0031】
ロジン変性物を生成する際に用いられるロジン又はロジン誘導体の含有量が40重量%未満の場合、ロジン変性物はべたつくことを確認できた。他方、ロジン変性物を生成する際に用いられるロジン又はロジン誘導体の含有量が80重量%超の場合、マイグレーション抑制効果が弱いことを確認できた。
【0032】
ロジン変性物を生成する際に用いられる有機酸の含有量が15重量%超の場合、未反応の有機酸が析出し不安定なロジン変性物となることを確認できた。
【0033】
ロジン変性物を生成する際に用いられるアルカノールアミンの含有量が30重量%超の場合、未反応のアルカノールアミンにより絶縁抵抗値が低下することを確認できた。
【0034】
ロジンとしては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン及びトール油ロジン等の原料ロジン、並びに該原料ロジンから得られる誘導体が挙げられる。ロジン誘導体としては、例えば、精製ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、酸変性ロジン、フェノール変性ロジン及びα,β不飽和カルボン酸変性物(アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等)、並びに該重合ロジンの精製物、水素化物及び不均化物、並びに該α,β不飽和カルボン酸変性物の精製物、水素化物及び不均化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。ロジン又はロジン誘導体の酸価は15mgKOH/g以上であることが有益である。ロジンは、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸等を含んでもよい。
【0035】
有機酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、プロピオン酸、2,2−ビスヒドロキシメチルプロピオン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、ジグリコール酸、チオグリコール酸、ジチオグリコール酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等が挙げられる。
【0036】
アルカノールアミンとしては、エタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール、1−アミノ−2−プロパノール、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0037】
2.フラックス組成物
本実施の形態のフラックス組成物は、例えばロジン変性物、有機酸、アミン、有機ハロゲン化合物を混合して作製される。
【0038】
ロジン変性物の配合量は、フラックス全量に対して5重量%から65重量%であることが好ましい。ロジン変性物とリン酸エステル及び/又はホスホン酸エステルとを併用する場合、リン酸エステル及び/又はホスホン酸エステルの好ましい総配合量はフラックス全量に対して1重量%から15重量%である。
【0039】
有機酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、プロピオン酸、2,2−ビスヒドロキシメチルプロピオン酸、酒石酸、リンゴ酸、グリコール酸、ジグリコール酸、チオグリコール酸、ジチオグリコール酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等が挙げられる。有機酸の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して0重量%から10重量%であることが好ましい。
【0040】
アミンとしては、エチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−ウンデシルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−エチル−4′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2′−メチルイミダゾリル−(1′)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[1,2−a]ベンズイミダゾール、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−メチルイミダゾリン、2−フェニルイミダゾリン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−s−トリアジン、エポキシ−イミダゾールアダクト、2−メチルベンゾイミダゾール、2−オクチルベンゾイミダゾール、2−ペンチルベンゾイミダゾール、2−(1−エチルペンチル)ベンゾイミダゾール、2−ノニルベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−5′−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2′−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール]、6−(2−ベンゾトリアゾリル)−4−tert−オクチル−6′−tert−ブチル−4′−メチル−2,2′−メチレンビスフェノール、1,2,3−ベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2′−[[(メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1−(1′,2′−ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1−(2,3−ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1−[(2−エチルヘキシルアミノ)メチル]ベンゾトリアゾール、2,6−ビス[(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]−4−メチルフェノール、5−メチルベンゾトリアゾール、5−フェニルテトラゾール等が挙げられる。アミンの配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して0重量%から10重量%であることが好ましい。
【0041】
有機ハロゲン化合物としては、1−ブロモ−2−ブタノール、1−ブロモ−2−プロパノール、3−ブロモ−1−プロパノール、3−ブロモ−1,2−プロパンジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、1,3−ジブロモ−2−プロパノール、2,3−ジブロモ−1−プロパノール、2,3−ジブロモ−1,4−ブタンジオール、2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール等が挙げられる。有機ハロゲン化合物の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して0重量%から5重量%であることが好ましい。
【0042】
本実施の形態のフラックス組成物には、固形物質を溶解させる目的で溶剤を配合することができる。溶剤としては、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類等が挙げられる。アルコール系溶剤としてはイソプロピルアルコール、1,2−ブタンジオール、イソボルニルシクロヘキサノール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2,2′−オキシビス(メチレン)ビス(2−エチル−1,3−プロパンジオール)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、1,2,6−トリヒドロキシヘキサン、ビス[2,2,2−トリス(ヒドロキシメチル)エチル]エーテル、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、エリトリトール、トレイトール、グアヤコールグリセロールエーテル、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、ヘキシルジグリコール、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、2−メチルペンタン−2,4−ジオール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。溶剤の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して10重量%から90重量%であることが好ましい。
【0043】
本実施の形態のフラックス組成物には、はんだ合金粉末の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。酸化防止剤としては、2,2’−メチレンビス[6−(1−メチルシクロヘキシル)−p−クレゾール]等のヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用することができる。酸化防止剤の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して0重量%から5重量%であることが好ましい。
【0044】
本実施の形態のフラックス組成物には、ソルダペーストを印刷に適した粘度に調整する目的でチキソ剤を配合することができる。チキソ剤としては、ワックス系チキソ剤、アマイド系チキソ剤が挙げられる。ワックス系チキソ剤としては例えばヒマシ硬化油等が挙げられる。アマイド系チキソ剤としてはラウリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、飽和脂肪酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、不飽和脂肪酸アマイド、p−トルエンメタンアマイド、芳香族アマイド、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、飽和脂肪酸ビスアマイド、メチレンビスオレイン酸アマイド、不飽和脂肪酸ビスアマイド、m−キシリレンビスステアリン酸アマイド、芳香族ビスアマイド、飽和脂肪酸ポリアマイド、不飽和脂肪酸ポリアマイド、芳香族ポリアマイド、置換アマイド、メチロールステアリン酸アマイド、メチロールアマイド、脂肪酸エステルアマイド等が挙げられる。チキソ剤の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して3重量%から15重量%であることが好ましい。
【0045】
本実施の形態のフラックス組成物には、更にハロゲン、つや消し剤、消泡剤等の添加剤を加えてもよい。上記添加剤の配合量は、はんだ付け用フラックス全量に対して10重量%以下であることが好ましく、更に好ましい配合量は5重量%以下である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
ロジン変性物の作製
200mlビーカーに、下記表1に示す重量%のKE−604(酸変性ロジン:荒川化学工業株式会社製)又はKE−604及びKR−610(不均化ロジン:荒川化学工業株式会社製)と、アジピン酸、セバシン酸又はフェニルコハク酸と、ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン又はモノエタノールアミンを加え、攪拌しながら約15分かけて200℃まで昇温させた。次に、200℃で15分間保持した後、室温に戻してロジン変性物1乃至6を得た。得られたロジン変性物の構造式の特定をGC/MS分析及びLC/FTMS(オービトラップ)を用いて行ったところ、ロジン又はロジン誘導体と、下記構造式(1)からなるアルカノールアミンとの反応物からなると判定できた。
式(1) NH
3-n-(R-OH)
n (n≦3)
【0048】
なお、上記ロジン又はロジン誘導体とアルカノールアミンとの反応物では有機酸の存在は確認できないが、有機酸を生成時に利用しない場合にはマイグレーションの発生を抑制する効果を十分に発揮できないことと、ロジン又はロジン誘導体とアルカノールアミンとの反応物の生成時に有機酸が減少することを確認できていることから、上記ロジン又はロジン誘導体とアルカノールアミンとの反応物を生成する際には有機酸を添加することは有益である。
【0049】
ロジン変性物の構造式の特定を行った際には、上記のロジン又はロジン誘導体とアルカノールアミンとの反応物の他に、アルカノールアミン2分子の反応物が含まれることも判定できた。このため、ロジン又はロジン誘導体とアルカノールアミンとの反応物の他にアルカノールアミン2分子の反応物が含まれた態様で、後述するフラックス組成物等が生成されてもよい。
【表1】
【0050】
フラックスの作製
表2乃至表5に示す組成及び配合にて各成分を混練し、各液状フラックスを作製した。表2乃至表4では実施例1乃至18を示している。表5では比較例1乃至4を示している。なお、表2乃至表5のうち、組成を表すものに係る数値の単位は、特に断り書きがない限り重量%である。絶縁抵抗の単位はΩであり、ウォータードロップ試験時の電流量の単位はμAである。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0051】
<電流値測定、ウォータードロップ試験>
くし形電極基板2形(FR−4)からなる基板に50μlの各フラックスを塗布した後、100℃で10分間乾燥した。その後、フラックス上にイオン交換水を10μl滴下した。基板に3分間電圧を印加(印加電圧:DC5V)し、フルーク(FLUKE)社製 289Siを用いて電流値を25℃、湿度50%の条件下で測定した。また、基板に10分間電圧を印加後(印加電圧:DC5V)、マイグレーション発生の有無を顕微鏡で観察した。
(ウォータードロップ判定基準)
〇:陰極からマイグレーションが発生しない
△:陰極からマイグレーションが発生するが、陽極まで到達しない
×:陰極からマイグレーションが発生し、かつ陽極まで到達する
【0052】
<絶縁抵抗値測定>
くし形電極基板2形(FR−4)からなる基板に50μlの各フラックスを塗布し、100℃、10分で乾燥した後、絶縁抵抗値を25℃、湿度50%の条件下で測定した。装置としては、ヒューレット・パッカード社製 4329Aを用いた。
【0053】
上記実験結果より、ウォータードロップ試験時の電流値が低い場合にはマイグレーションを抑制できることを確認できた。特にウォータードロップ試験時の電流量10μA以下からなる液状フラックスではマイグレーションが発生しないことを確認できた。
【0054】
一般的には絶縁抵抗値が低い場合にはマイグレーションを発生しやすいと考えられていたが、上記実験結果より、絶縁抵抗値が低くてもマイグレーションが発生し難い場合があることを確認できた。他方、ウォータードロップ試験時の電流量100μA以下からなるフラックス組成においては、マイグレーションが発生しにくいことを確認できた。特にウォータードロップ試験時の電流量10μA以下からなるフラックス組成においては、マイグレーションが発生しないことを確認できた。
【0055】
ロジン又はロジン誘導体、有機酸及びアルカノールアミンから生成されたロジン変性物に対し、さらに有機酸を添加した場合には(実施例4乃至14参照)、ウォータードロップ試験での電流値を下げることができ、マイグレーションの発生をより確実に抑制できることを確認できた。ウォータードロップ試験での電流値を下げる効果からすると、添加する有機酸としてはセバシン酸を用いることが特に有益であることを確認できた。
【0056】
ロジン又はロジン誘導体、有機酸及びアルカノールアミンから生成されたロジン変性物に対し、さらにホスホン酸エステルを添加した場合には(実施例10乃至14参照)、ウォータードロップ試験での電流値を10μA以下に下げることができ、またマイグレーションの発生をさらにより確実に抑制できることを確認できた。ホスホン酸エステルの添加量としてはフラックス全体に対して0.5重量%超過であり、1.0重量%以上であることが有益であることも確認できた(実施例17参照)。
【0057】
ロジン又はロジン誘導体、有機酸及びアルカノールアミンから生成されたロジン変性物の含有量を増加させ、フラックス全体に対して35重量%以上とした場合には(実施例2、3及び16参照)、ウォータードロップ試験での電流値を下げることができ、マイグレーションの発生をより確実に抑制できることを確認できた。他方、ロジン変性物の含有量が少なくフラックス全体に対して15重量%以下となり、絶縁抵抗値が7×10
8以上2×10
12以下という範囲であっても、ウォータードロップ試験時の電流量10μA以下からなるフラックス組成においては、マイグレーションが発生しないことを確認できた。
【0058】
なお、KE−311(ロジンエステル:荒川化学工業株式会社製)は下記構造式(4)乃至(7)に示すような水素添加ロジンとグリセリンのエステルからなると考えられるが、KE−311を単独で利用した場合には、ウォータードロップ試験での電流値が高くなり、かつマイグレーションの発生を抑制できないことを確認できた(比較例4)。
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【0059】
以上に示す通り、ロジン又はロジン誘導体、有機酸及びアルカノールアミンを混合したフラックス組成物は、ウォータードロップ試験によりマイグレーションを発生し、絶縁抵抗値も低くなった。
【0060】
本発明のロジン変性物を用いたフラックス組成物は、ウォータードロップ試験によるマイグレーションを抑制し、絶縁抵抗値は低くならなかった。
【0061】
本発明のロジン変性物、ロジン変性物を用いたフラックス組成物は、水滴等の付着によるマイグレーションの発生を抑制することができた。
【要約】
【課題】フラックス残渣が形成されたはんだ付け部において、フラックス残渣によりはんだ付け部が覆われることのみによらず、確実にマイグレーションの発生を抑制可能にしたロジン変性物等を提供する。
【解決手段】ロジン変性物は、ロジン又はロジン誘導体と、下記構造式(1)からなるアルカノールアミンとの反応物からなる。
式(1) NH
3-n-(R-OH)
n (n≦3)
【選択図】なし