(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金よりなる鋳物を製造する場合には、鋳型内に溶融した材料(溶湯)を加圧充填する方法であるダイカストが多用されている。
ダイカストは鋳込スリーブ内の溶湯を金型に高速で充填する為、生産性がよく、大型の薄物の製品を作ることができる。また寸法精度が高くまた鋳造組織が細かく、鋳肌表面がきれいな製品を作るという長所がある。
一方、溶湯を高速で充填する為、空気を巻き込みやすく、また最終凝固部に引け巣ができ易いという短所があった。
【0003】
従来、ダイカストでは、予めCAEによりキャビティ内での溶湯の流れを解析している。しかしながら、射出工程のキャビティ内への溶湯の流れの解析結果及び射出工程の溶湯の流れに基付いた製品内への解析結果が実現象と整合しないという問題が発生していた。
【0004】
本発明は、ダイカストの湯流れと凝固の欠陥の有無を予測し、鋳造条件を最適化するために行われる鋳造湯流れ解析において、鋳型内に鋳込まれた鋳込スリーブ内の溶湯の初期温度を適切に設定するのに利用される初期温度設定方法に係わり、特に溶湯が鋳型内に充填される鋳造プロセスに適した鋳造湯流れ解析の初期温度設定方法に関するものである。
【0005】
近年、ダイカスト品の最適な製造条件を求めたり、湯流れに起因するガス欠陥、鋳肌欠陥、凝固に起因する引け巣などの凝固欠陥の発生を予測したりするために、鋳造プロセスの湯流れ解析、凝固解析が広く実施されるようになってきている。
【0006】
このような湯流れ解析、凝固解析を行うに際して、鋳込スリーブ内の溶湯の温度を設定することが必要となるが、とくに鋳込スリーブ内の溶湯の初期温度を適切に設定することが解析結果の精度を左右する極めて重要な作業となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明に関係する鋳込関係の部品および金型を示す。溶湯1は図示しない給湯機により鋳込口10から鋳込スリーブ2に注湯される。溶湯1はプランジャーチップ3により押されて固定型4と可動型5によって形成されるキャビティ6に充填される。
プランジャーチップ3が前進して鋳込スリーブ2内の溶湯1の充填率が100%となる位置までのストロークを鋳込体積が100%(鋳込スリーブ内で溶湯の充填率が100%になる)になるストロークといい、プランジャーチップ3が低速で移動するストロークである。
一方、前述のプランジャーチップ3の停止位置から可動型5までの距離を鋳込体積分のストロークと呼ぶ。
鋳込体積が100%になるストロークと鋳込体積分のストロークとを合わせたものを分流子端定数(すなわちこれが、鋳込スリーブ長さである)と呼ぶことにする。
【0015】
図2により本発明の構成について説明する。
まず、
図2の上段の図について説明する。
(a)は図示しない給湯機で鋳込スリーブ2に給湯口10より所定の量のアルミの溶湯1を注湯した図である。溶湯1は鋳込スリーブ2の中で均一に広がっていく。
(b)では、注湯後、プランジャーチップ3が前進し、鋳込スリーブ2内の溶湯1の湯面がせり上がっていき、鋳込スリーブ2内の溶湯1の充填率が徐々に上がっていく。
(c)では、さらにプランジャーチップ3が前進して行き、鋳込スリーブ3内で溶湯2の充填率が100%になったときの図である。
(d)では、金型内のキャビティ6が溶湯で100%充填された時の図である。この時プランジャーチップ3は前進限になっている。さらにビスケット8が形成される。
このビスケット8の端面において、(c)の図で鋳込スリーブの充填率が100%になった時のA−A断面の溶湯温度Tが本発明において設定する初期温度である。
【0016】
図2の最下段の図は、(d)でキャビティ6内に溶湯1を充填完了したときにできるビスケット8の端面の位置で鋳込スリーブ2の断面を取ったものを示す。
これによると、(a)の鋳込み直後では溶湯1の充填率は50%ぐらいであるが、(b)では充填率は80%ぐらいに上がり、(c)では充填率は100%となる。(d)でも同様に100%である。
【0017】
図2の上から2段目の図は、溶湯1を鋳込スリーブ2に給湯してからの、A−A断面における溶湯の平均的な温度変化である。鋳込直後の溶湯の温度が最も高く、時間が経過すると徐々に下がっていく。
(c)における溶湯温度が前記でも述べた初期温度となる。
以後、(c)におけるA−A断面の溶湯温度(溶湯温度Tとする)について説明を進めていく。
図2で初期温度としては、(c)と(d)の間の領域の温度Ttを使う方が精度は上がる。
なお、溶湯条件とは溶湯の材質、温度、注湯量のことをいう。
【0018】
図3の説明を以下に行う。
溶湯温度Tは溶湯が給湯口から鋳込スリーブに注湯された後、遅延タイマや射出速度の違いにより、ビスケット端面にプランジャーチップが到達する時間のかかり方で溶湯温度が変わる。すなわち遅延タイマが長いほど、また射出速度が遅いほど時間がかかるので溶湯温度Tは低くなる。
この現象を表したのが
図3である。
図3では鋳込スリーブ内の中心付近の溶湯温度と壁面付近の溶湯温度と、データベース化した冷却曲線を示した。データベース化した冷却曲線は鋳込スリーブ内の平均的な溶湯の冷却曲線である。この冷却曲線は1種類の鋳込スリーブ条件と溶湯条件で射出条件を変化させたときに得られる、1つの初期温度のデータベースである。言い換えると
図2の上から2段目の図の溶湯温度Tを連続的に結んでグラフ化したものである。
溶湯条件、鋳込スリーブ条件を固定した時に、射出条件を変えることにより、溶湯到達時間が変わることになる。
図3の中で溶湯到達時間(
図2(d)の状態になるまでの時間)における溶湯の温度が目的の初期温度(本図では685℃)である。このようにデータベース化した冷却曲線から初期温度を設定するのである。
【0019】
図2(d)は溶湯がキャビティ内に充填された状態で、その時のプランジャーチップ3の停止位置の図である。従来の解析であると、A−A断面を通過して予め設定された、均一の温度の溶湯が吹き出しキャビティに流入することにより、湯流れ解析や凝固解析を行っていた。
本発明ではA−A断面から噴き出す溶湯の温度をデータベース化した冷却曲線より求めて湯流れ解析や凝固解析の解析精度を上げるものである。
【0020】
ダイカストは鋳込スリーブの給湯口に給湯機でアルミの溶湯を注湯する。注湯されたアルミの溶湯は、
図2(a)、(b)のように鋳込スリーブの底に鋳込スリーブ全長にわたって溜まっていく。
溜まったアルミの溶湯はスリーブ内面と接触し、アルミの溶湯の冷却が開始することになる。そこで、アルミの溶湯が冷却されて流動性がなくなる前にプランジャーチップを射出させてアルミの溶湯を金型内に充填することを特徴としている。
【0021】
本発明は鋳込スリーブ径の違い、さらには充填率の違いに応じた溶湯のデータベース化した冷却曲線を作成し有している。前記冷却曲線は、解析で求めてもよいし、実測で求めてもよい。
射出開始遅延タイマ、射出速度等の射出条件を入力することで、溶湯が鋳込スリーブ内に入って(注湯されて)型内に充填開始するまでの時間を計算する計算部を有している。
以上から解析初期温度を求めてビスケットの端面に設定する。
【0022】
本発明の様態を
図4のアルゴリズムで説明する。
まず第1に鋳込スリーブ条件となる鋳込スリーブの情報を入力する。
鋳込スリーブの情報としては、内径と長さと材料特性のようなものがある。
第2に鋳物の情報を入力する。鋳物の情報としては鋳物の物性値、重量または体積がある。
【0023】
第3に鋳込スリーブ充填率を計算する。
まず、鋳物のデータで密度ρ[g/cm3]、質量(給湯量)をm[g]とすると、溶湯の体積V[cm3]は
V=m/ρ[cm3]となる。
また、鋳込スリーブ内径をD[mm]、長さをL[mm]とすると、鋳込スリーブ内に占める溶湯の充填率w[%]は
w=V/{(π/4xD2)xL}となる。
【0024】
第4に鋳込スリーブ充填率、鋳込スリーブ内径から該当する溶湯のデータベース化した冷却曲線を1つ選定する。
データベースの作成方法については後述する。
第5に射出条件(速度パターン)を入力する。
図2(a)の状態から射出がスタートして
図2(d)になるまでのプランジャーチップの移動時間と射出スタートの遅延タイマの時間を考慮して、注湯完了から
図2(d)に至るまでの溶湯到達時間を求める。
第5によって求めた溶湯到達時間を考慮してデータベース化した冷却曲線から溶湯温度を抽出する。
【0025】
次に溶湯の冷却曲線のデータベース化の作成の要素技術について述べる。鋳込スリーブ内に給湯された溶湯は均一に冷却され、どの溶湯の部位も同じ温度という仮定を用いる。
本発明では鋳込スリーブ内の溶湯の形状で鋳込スリーブと接触する面から溶湯の熱が奪われていくというモデルになっている。
【0026】
給湯機によって鋳込スリーブに注湯された溶湯は鋳込スリーブの内面と接触し冷却されていく。
その状況を式にして以下に示す。計算式を表示する前に次の2つの仮定をする。
(a)スリーブ内の溶湯は全体に同じ温度で下がっていく。
(b)チップが前進しても解析手順は変わらずそのまま計算する。
(1)溶湯の比熱をc[J/(g・K)]、質量(給湯量)をm(g)とすると、溶湯温度を1K下げるのに必要な熱量C[J/K]は
C=mc
と表せる。
(2)溶湯の密度をρ[g/cm3]、質量(給湯量)をm[g]とすると、溶湯の体積V[cm3]は、
V=m/ρ
と表せる。
【0027】
(3)鋳込スリーブ内径をD[mm]、長さをL[mm]とすると、鋳込スリーブ内に占める溶湯の充填率w[%]は、
w=V/{(π/4xD2)xL}
これは、3次元空間だけでなく、2次元断面で考えた場合にも適用できる。2次元断面における溶湯部分の断面積A[mm2]は、
A=(π/4xD2)xw
【0028】
(4)溶湯と鋳込スリーブの接触円弧の長さL1[mm]、接触面積a[mm2]は、
A=1/2x(1/2D)2x(θ―sinθ)
L1=(1/2D)xθ
a=L1xL
すなわちaが溶湯と鋳込スリーブの接触面の面積[mm2]になる。
【0029】
(5)溶湯と鋳込スリーブ間の熱伝達係数H[W/m2・K]、溶湯温度T1[K]、鋳込スリーブ温度T2[K]とすると、溶湯から鋳込スリーブに移動する熱流束Q[W]は
Q=H(T1−T2)xa
(6)計算させるステップである時間刻みΔt[sec]に溶湯から鋳込スリーブに移動する熱量q[J]は
q=QxΔt
(7)時間刻みΔtで低下する溶湯温度ΔT[K]は
ΔT=q/C
Δt後の溶湯温度T3[K]は、前述の式より
T3=T1−ΔT
で表せる。
【0030】
上記のような計算によって、鋳込スリーブ内の溶湯温度について冷却曲線が求められる。この冷却曲線こそが
図2の上から2段目の図の冷却曲線である。さらには、
図2の上から2段目の図の溶湯温度Tを連続的に結んでグラフ化したものがデータベース化した冷却曲線である。
上記によって求められる冷却曲線を鋳込スリーブ径、鋳込スリーブ長さ、給湯量、注湯温度でそれぞれ違うものの計算を行い、それぞれの冷却曲線を求める。それをデータベース化する。
データベースは種々の要因を多次元的に表現したものである。
【0031】
図3にデータベース化したもののうち、ある溶湯条件と鋳込スリーブ条件の時の冷却曲線を示す。前記、冷却曲線は横軸が時間で、縦軸が溶湯温度となっている。射出開始遅延タイマ、射出条件からかかるタイムラグを考慮して、溶湯を鋳込スリーブに給湯してから何秒、時間が経過したという点、すなわち、ある時間かかった溶湯到達時間の溶湯の温度を見れば、冷却曲線から溶湯の初期温度が何度になっているかが求められる。
以上により求められた溶湯温度を
図2のA−A断面に貼り付けて溶湯の初期温度解析を行えばよい。
【0032】
A−A断面における温度は1つの温度でも良いし、複数の領域に分割してそれぞれに温度を貼り付けても良い。
【0033】
図4のアルゴリズムでは、求められた溶湯温度が指定値よりも低かったら、警告を出すようにしている。例えば、求められた溶湯温度が液相線よりも低かったら、キャビティ内に充填しにくいため、欠陥が発生しやすくなる。そのような場合には、警告を出し、鋳込温度を高くしたり、射出条件を変えたり、鋳込スリーブ充填率を上げたりする方法がある。
【0034】
図5に熱電対を使って実際に鋳込スリーブ内の溶湯の温度を計った冷却曲線と解析によって求められた冷却曲線を示す。これを見ると分かるように熱電対を使って実際に鋳込スリーブ内の溶湯の温度を計ったものと解析によって得られた冷却曲線はかなりの精度で一致していることがわかる。
【0035】
なお、プランジャーチップの前進によって鋳込スリーブ長さが短縮され、溶湯のかさが連続的に増える時には充填率および伝熱面積が連続的に変化するので、上記の(3)以降の式が連続的に変化していくのを計算していくので精度が上がる。
また、溶湯温度低下が著しい場合には凝固潜熱を(1)に合わせて考慮する必要がある。
これを、CAEを用いて計算しても良いし、実験によって溶湯温度の冷却曲線を取得しても良い。
【0036】
この解析に使用するソフトウエアは、各種市販されている鋳造シミュレーションソフトで、鋳込スリーブ内の溶湯挙動解析機能を有するものから適宜選択されればよい。一例を挙げると、(株)日立産業制御ソリューションズ製”ADSTEFAN(登録商標)”(アドステファン)などである。解析に使用するコンピュータは、高性能であることが好ましいが、使用する解析ソフトで指定された仕様を満たすものであればよく、市販されているパソコンで対応可能である。また、市販されている解析ソフトを使用するため、解析方法そのものに特殊な内容は含まれていない。
【0037】
本発明は、以上の構成であるから以下の効果が得られる。
ダイカストの湯流れ、凝固解析の解析精度(湯回り性の予測、凝固解析精度)が向上する。
また、評価指標確立の効率が向上する。