(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ターボファンエンジンは、高圧シャフト及び低圧シャフトを備え、前記第1メインシャフトは低圧シャフトであり、前記第2メインシャフトは高圧シャフトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のターボファンエンジン。
前記ターボファンエンジンは、高圧シャフト、中圧シャフト及び低圧シャフトを備え、前記第1メインシャフトは中圧シャフトであり、前記第2メインシャフトは高圧シャフトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のターボファンエンジン。
前記ターボファンエンジンは、高圧シャフト、中圧シャフト及び低圧シャフトを備え、前記第1メインシャフトは低圧シャフトであり、前記第2メインシャフトは中圧シャフトである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のターボファンエンジン。
【背景技術】
【0002】
ターボファンエンジンは、最前部に配置されたファンと、ファンの後方にファンと同軸に配置されたコアエンジンとから構成されている。
【0003】
2軸のターボファンエンジンの場合、コアエンジンは、前部(上流側)から後部(下流側)へ向かって順に、低圧圧縮機、高圧圧縮機、燃焼器、高圧タービン及び低圧タービンを備え、高圧タービンのロータは高圧シャフトを介して高圧圧縮機のロータを、低圧タービンのロータは低圧シャフトを介して低圧圧縮機及びファンのロータを、それぞれ回転駆動する。なお、高圧及び低圧シャフト(メインシャフト)は、いずれも中空のシャフトであり、低圧シャフトは高圧シャフトの内部に配置されている。
【0004】
ターボファンエンジンの運転中、ファンにより吸い込まれ圧縮された空気の一部はコアエンジンに流入し、ファン及び低圧圧縮機の回転駆動源である低圧タービンを駆動するための高温高圧ガスの発生に寄与し、残部はコアエンジンをバイパスして後方から排出され、推力の大部分の発生に寄与する。
【0005】
ところで、航空機に搭載されたターボファンエンジンは、エンジン制御装置や機体に搭載された電気・電子機器に電力を供給するために、メインシャフトから供給される動力により駆動される発電機を備えている。
【0006】
一方、ターボファンエンジンを始動させるためには、燃料に着火して自立運転が可能となる回転数まで、メインシャフトに動力を供給することにより強制的に回転させる(これを、回転アシストと呼ぶ。)必要がある。そのため、ターボファンエンジンは、始動時にメインシャフトに動力を供給するための装置、すなわちスタータ(Starter)を備えている。
【0007】
スタータとして、従来のターボファンエンジンでは、外部(始動済みの他のエンジン、機体に搭載されたAPU(Auxiliary Power Unit;補助動力装置)、地上に設置された空気源等)から供給される圧縮空気により駆動されるエアタービン式のものが多く用いられていた。
【0008】
しかし、最近のターボファンエンジンでは、スタータとして電動機が用いられるようになっており、その場合、スタータは、上述した機能を有する発電機としても作動するように構成され、これをスタータ・ジェネレータ(Starter Generator)と呼んでいる。
【0009】
このようなスタータ・ジェネレータを備えたターボファンエンジンにおいて、スタータ・ジェネレータとエンジンのメインシャフト(通常は高圧シャフトであり、以下の説明も、この前提に基づいている。)との間の動力の伝達は、PTO(Power Take-Off;動力取り出し)シャフトを介して行われる。
【0010】
PTOシャフトは、通常、ターボファンエンジンの前部に配置され、ベアリングを介して高圧シャフト及び低圧シャフトの前部を支持するフロントフレームの内部に配置されている。フロントフレームは、コアエンジンの環状の流路(コア流路)の内側及び外側をそれぞれ境界付ける環状の部位を有しており、これらの部位は、流線形の断面を有する複数の中空のストラット(支柱)によって接続されている。上述したPTOシャフトは、この径方向(または径方向から僅かに傾斜した方向)に延びるストラットのうち1つの内部を延びている。
【0011】
PTOシャフトの一端(ターボファンエンジンの径方向内側に位置する端部)には、高圧シャフトの前端部近傍に取り付けられたベベルギア(かさ歯車)と噛み合うベベルギアが取り付けられており、両ベベルギアの組み合わせを介して、PTOシャフトと高圧シャフトとの間で動力の伝達が行われる。
【0012】
一方、PTOシャフトの他端(ターボファンエンジンの径方向外側に位置する端部)にもベベルギアが取り付けられており、コアエンジンを包囲するコアカウルの内側(高圧圧縮機ケースの外側)に配置されたAGB(Accessory Gear Box;補機歯車装置)の入力シャフトの先端に取り付けられたベベルギアとの間で、動力の伝達が行われる。
【0013】
なお、AGBが、ファンを包囲するファンケースの外側に配置される場合には、PTOシャフトは、フロントフレームの上述したストラットの内部から、さらに、コアエンジンをバイパスする空気の流路(バイパス流路)の内側と外側をそれぞれ境界付ける環状の部位を接続するストラットの内部を延びて、ファンケースの外側へ至ることになる。
【0014】
AGBは、ターボファンエンジンの運転に必要な補機(上述したスタータ・ジェネレータに加え、燃焼器に燃料を供給する燃料ポンプ、高圧及び低圧シャフトを支持するベアリング等に潤滑油を供給する潤滑油ポンプなど)を駆動するための装置である。エンジンの高圧シャフトからPTOシャフトを介して入力シャフトに伝達された動力は、AGB内に配置されたギアトレイン(歯車列)を介して、それぞれの補機の駆動シャフトに分配される。スタータ・ジェネレータは、通常、入力シャフトと同軸上に配置されたシャフトに結合される。
【0015】
以上のように構成されたターボファンエンジンを始動させる際には、スタータ・ジェネレータを電動機として作動させる。発生した回転動力は、PTOシャフトを介して高圧シャフトに伝達され、高圧シャフトが回転を開始する。高圧シャフトが所定の回転数に到達した時点で、燃焼器内で燃料の噴射(及び点火器の作動)を開始すると、やがて燃料に着火し、発生した燃焼ガスが高圧タービンを通過することによって発生する動力も、高圧シャフトの回転数上昇に寄与し始める。その後、エンジンが自立運転できる状態に達すると、スタータ・ジェネレータの電動機としての作動は終了し、回転アシストも終了する。
【0016】
エンジンは、その後、アイドル(Idle)レーティングに到達するが、上述した回転アシストの終了と共に、スタータ・ジェネレータは発電機としての作動を開始しており、これ以降(より高いレーティングでの運転中を含む。)、高圧シャフトからPTOシャフトを介して供給される動力によって発電を行う。
【0017】
以上のように、始動後にスタータ・ジェネレータを発電機として作動させる際の動力を、高圧シャフトから抽出する方式においては、以下のような問題点がある。
【0018】
高圧圧縮機は、アイドル等の低いレーティングでは、空気の逆流を伴う不安定現象であるサージング(Surging)を起こしやすい状態にあるが、このとき例えば機体に搭載された電気・電子機器の電力需要が増大して高圧シャフトからスタータ・ジェネレータを介して大きな動力が抽出されると、高圧圧縮機がサージングを起こす虞がある。
【0019】
これを回避するための方策として、低いレーティングでサージングが起こりにくくなる(換言すれば、サージングの発生に対する余裕(サージマージン(Surge Margin))が大きくなる)ように高圧圧縮機を設計することが考えられるが、このように設計された高圧圧縮機では、サージマージンの確保と引き換えに効率が犠牲となり、ターボファンエンジンの燃費が悪化してしまう。
【0020】
そこで、これに代えて、十分に大きなサージマージンを確保できるレーティングを、アイドルレーティングに設定することが考えられる。この場合、アイドルレーティングは、燃料消費の大きな高めのレーティングに設定されることとなり、全飛行ミッション(始動〜地上滑走〜離陸〜上昇〜巡航〜下降〜着陸〜地上滑走〜停止)にわたるターボファンエンジンの燃費が悪化してしまう。また、高めのレーティングでは発生する推力も高めとなり、駐機中の航空機が当該推力に抗して停止状態を保つためにはブレーキのサイズを大きくする必要があるため、機体重量が増加してしまう。
【0021】
一方、アイドル等の低いレーティングで、抽出される動力に上限を設けることも考えられるが、この場合には、機体に搭載された電気・電子機器の電力需要を満たすため、同じく機体に搭載されるAPUとして大型のものを採用する必要があるため、やはり機体重量が増加してしまう。
【0022】
以上のような問題点を解消するため、始動後にスタータ・ジェネレータを発電機として作動させる際、高圧シャフトではなく低圧シャフトから動力を抽出する方式が提案されている(特許文献1)。
【0023】
特許文献1(
図2参照)に開示されたターボファンエンジンは、低圧シャフト(28)にベベルギア(44,46)を介して接続され、かつ、スタータ・ジェネレータにも接続されたPTOシャフト(36)と、高圧シャフト(26)と共に回転するギア(52)と噛み合うベベルギア(48)と、を備えており、PTOシャフト(36)とベベルギア(48)の間には一方向クラッチ(50)が配置されている。始動時に、スタータ・ジェネレータがPTOシャフト(36)を回転させると、一方向クラッチ(50)がPTOシャフト(36)とベベルギア(48)を係合させ、PTOシャフト(36)の回転がベベルギア(48)及びギア(52)を介して高圧シャフト(26)に伝達され、高圧シャフト(26)の回転数が上昇してゆく。なお、始動後は、一方向クラッチ(50)によるPTOシャフト(36)とベベルギア(48)の係合が解除され、低圧シャフト(28)からベベルギア(44,46)及びPTOシャフト(36)を介してスタータ・ジェネレータに動力が供給され、発電が行われる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0031】
図1は、本開示の実施形態の動力伝達装置を備える2軸のターボファンエンジンの要部拡大断面図である。
【0032】
本開示の実施形態のターボファンエンジン1は、低圧シャフト(第1メインシャフト)10と、高圧シャフト(第2メインシャフト)20と、動力伝達装置30と、AGB40と、スタータ・ジェネレータ50と、を備えている。
【0033】
低圧シャフト10は、後方(図の右方)において低圧タービンのロータ(図示省略)に接続されたファンドライブシャフト12と、前端部においてファンのロータ(図示省略)と接続されたファンシャフト16とから成っている。ファンドライブシャフト12とファンシャフト16は、軸方向の相対移動を許容しつつトルクを伝達可能なスプラインカップリング14によって互いに接続されている。
【0034】
一方、高圧シャフト20は、後方(図の右方)において高圧圧縮機のロータ22に接続されている。
【0035】
なお、
図1において10Bは、ファンシャフト16の後端部近傍を支持するベアリングであり、フロントフレーム60に固定されたベアリングサポート60SLにより支持されている。また、ファンシャフト16の後端部近傍(ベアリング10Bの後方)の外周には、ベベルギア10Vが取り付けられている。
【0036】
一方、
図1において20Bは、高圧シャフト20の前端部近傍を支持するベアリングであり、フロントフレーム60に固定されたベアリングサポート60SHにより支持されている。また、高圧シャフト20の前端部近傍(ベアリング20Bの前方)の外周には、ベベルギア20Vが取り付けられている。
【0037】
ここで、低圧シャフト10と高圧シャフト20は、ターボファンエンジン1の運転中、互いに逆方向に回転するように構成されている。なお、以下の説明においては、ターボファンエンジン1の後方から見て、高圧シャフト20が反時計回りに、低圧シャフト10が時計回りに、それぞれ回転するように構成されているものと仮定する。
【0038】
動力伝達装置30は、ターボファンエンジン1の径方向(または径方向から僅かに傾斜した方向)に延びる中心軸CLに関して同軸に配置された3本のシャフト、すなわち、内側から順に、低圧動力伝達シャフト32(第1シャフト)、スタータ・ジェネレータ動力伝達シャフト(SG動力伝達シャフト)34(中間シャフト)、高圧動力伝達シャフト36(第2シャフト)を備えている。
【0039】
SG動力伝達シャフト34は、後述する低圧クラッチ33及び高圧クラッチ35を介して、低圧動力伝達シャフト32または高圧動力伝達シャフト36とスタータ・ジェネレータ50との間で動力を伝達する機能を有している。当該SG動力伝達シャフト34は、低圧シャフト10及び高圧シャフト20の近傍(フロントフレーム60内において上述したベアリング10B、20Bが配置されるベアリング室60Cの内部)から、フロントフレーム60のストラット60S内を経て径方向外方へ延びている。
【0040】
SG動力伝達シャフト34の外端部(ターボファンエンジン1の径方向外側に位置する端部)には、ベベルギア34Vが取り付けられており、AGB40の入力シャフト42の先端に取り付けられたベベルギア42Vと噛み合っている。これにより、SG動力伝達シャフト34は、ベベルギア34V,42V(ベベルギアの組)を介してAGB40の入力シャフト42との間で動力を伝達可能な状態とされており、当該入力シャフト42は、AGB40内の動力伝達機構を介してスタータ・ジェネレータ50と接続されている。
【0041】
なお、SG動力伝達シャフト34は、図示は省略するが、その軸方向の適宜の位置において、ベアリング(少なくとも、1個のボールベアリング及び1個のローラベアリング)を介して、フロントフレーム60に固定された支持部材によって支持されている。
【0042】
一方、低圧動力伝達シャフト32は、後述する低圧クラッチ33と協働して、低圧シャフト10からSG動力伝達シャフト34へ動力を伝達する機能を有している。また、高圧動力伝達シャフト36は、後述する高圧クラッチ35と協働して、SG動力伝達シャフト34から高圧シャフト20へ動力を伝達する機能を有している。
【0043】
したがって、これらのシャフトは、SG動力伝達シャフト34のように径方向外方へ長く延びるのではなく、ベアリング室60Cの内部に収容され得るよう短く構成されている。
【0044】
また、図示は省略するが、低圧動力伝達シャフト32とSG動力伝達シャフト34の間、SG動力伝達シャフト34と高圧動力伝達シャフト36の間には、それぞれベアリング(少なくとも、1個のボールベアリング及び1個のローラベアリング)が配置されており、内外に隣り合う2つのシャフトが互いに異なる回転数で回転できるようになっている。
【0045】
なお、SG動力伝達シャフト34を支持するベアリングのうち、径方向内側に配置されたものを、最も外側に位置する高圧動力伝達シャフト36を支持するベアリングとして用いてもよい。
【0046】
低圧動力伝達シャフト32の内端部(ターボファンエンジン1の径方向内側に位置する端部)には、ベベルギア32Vが取り付けられており、上述したベベルギア10Vと噛み合っている。これにより、低圧動力伝達シャフト32は、ベベルギア32V,10V(ベベルギアの組)を介して低圧シャフト10との間で動力を伝達可能な状態とされており、低圧シャフト10の回転に伴い、ターボファンエンジン1の径方向内方から見て(すなわち、
図1において矢印Aで示された方向から見て)反時計回りに回転する。
【0047】
同様に、高圧動力伝達シャフト36の内端部には、ベベルギア36Vが取り付けられており、上述したベベルギア20Vと噛み合っている。これにより、高圧動力伝達シャフト36は、ベベルギア36V,20V(ベベルギアの組)を介して高圧シャフト20との間で動力を伝達可能な状態とされており、高圧シャフト20の回転に伴い、ターボファンエンジン1の径方向内方から見て(すなわち、
図1において矢印Aで示された方向から見て)反時計回りに回転する。
【0048】
なお、ベベルギア32Vとベベルギア10V、ベベルギア36Vとベベルギア20Vのそれぞれの速度比(歯数比)は、ターボファンエンジン1が飛行ミッション中に経験する全てのレーティングを通じて、高圧動力伝達シャフト36の回転数が低圧動力伝達シャフト32の回転数より高くなるようなものとして設定される。ターボファンエンジンの特性上、自立運転中の高圧シャフトの回転数は、常に、低圧シャフトの回転数より高いため、上記2つのベベルギアの組の速度比を同一に設定しておけば、上述の条件は自動的に満たされることになる。ただし、上記2つのベベルギアの組の速度比は、上述の条件を満たす範囲内で適宜に設定することができる。
【0049】
SG動力伝達シャフト34は、上述したように、低圧動力伝達シャフト32及び高圧動力伝達シャフト36との間で動力を伝達可能な状態とされており、したがって、これらのシャフトと同じく、ターボファンエンジン1の径方向内方から見て(すなわち、
図1において矢印Aで示された方向から見て)反時計回りに回転する。
【0050】
動力伝達装置30は、さらに、クラッチ37を備えている。クラッチ37は、低圧動力伝達シャフト32とSG動力伝達シャフト34の間に配置された低圧クラッチ33(第1クラッチ)と、SG動力伝達シャフト34と高圧動力伝達シャフト36の間に配置された高圧クラッチ35(第2クラッチ)と、から成っている。
【0051】
低圧クラッチ33は、動力伝達装置30の中心軸CLの方向における内端部(ターボファンエンジン1の径方向内側に位置する端部)の近傍において、低圧動力伝達シャフト32の外面及びSG動力伝達シャフト34の内面のうち少なくとも一方に設けられた構造によって構成される。
【0052】
同様に、高圧クラッチ35も、動力伝達装置30の中心軸CLの方向における内端部の近傍(好ましくは、低圧クラッチ33と同一の位置)において、SG動力伝達シャフト34の外面及び高圧動力伝達シャフト36の内面のうち少なくとも一方に設けられた構造によって構成される。
【0053】
低圧クラッチ33及び高圧クラッチ35は、いずれも、一方向クラッチ(One-way Clutch)として構成されている。
【0054】
この一方向クラッチは、
図1のA方向矢視図である
図2において、隣り合う2つのシャフトのうち内側のシャフトが外側のシャフトに対して反時計回りに回転しようとすると、両シャフトを係合させて等速で回転させ、動力を伝達する。逆に、内側のシャフトが外側のシャフトに対して時計回りに回転(あるいは、外側のシャフトが内側のシャフトに対して反時計回りに回転)しようとすると、両シャフトの係合は解除され動力は伝達されなくなる。
【0055】
換言すれば、同一の方向に回転する2つのシャフトのうち内側のシャフトが外側のシャフトより高速で回転しようとすると、クラッチは両シャフトを係合させて等速で回転させ、動力を伝達する。これは、具体的には以下のようなケースである。なお、ターボファンエンジン1の運転において各事象が発生する場合の対応するシャフトを、括弧内に示している。
(1)両シャフト(SG動力伝達シャフト34及び高圧動力伝達シャフト36)が停止していて、内側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)だけが回転を開始したとき
(2)外側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)より低速で回転していた内側のシャフト(低圧動力伝達シャフト32)の回転数が上昇し、外側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)の回転数を超えたとき
(3)内側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)より高速で回転していた外側のシャフト(高圧動力伝達シャフト36)の回転数が低下し、内側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)の回転数を下回ったとき
【0056】
逆に、外側のシャフトが内側のシャフトより高速で回転しようとすると、クラッチは両シャフトの係合を解除し動力を伝達しなくなる。これは、具体的には以下のようなケースである(括弧内の記載については、上記と同様である)。
(1)両シャフト(低圧動力伝達シャフト32及びSG動力伝達シャフト34)が停止していて、外側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)だけが回転を開始したとき
(2)内側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)と等速で回転していた外側のシャフト(高圧動力伝達シャフト36)の回転数が上昇し、内側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)の回転数を超えたとき
(3)外側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)と等速で回転していた内側のシャフト(低圧動力伝達シャフト32)の回転数が低下し、外側のシャフト(SG動力伝達シャフト34)の回転数を下回ったとき
【0057】
以上のように作動することにより、低圧クラッチ33と高圧クラッチ35は、協働して、SG動力伝達シャフト34との間で動力の伝達が行われるシャフトを、低圧動力伝達シャフト32または高圧動力伝達シャフト36に切り替える機能を発揮することになる。
【0058】
一方向クラッチとしては、ラチェット式、ローラ式、スプラグ式など種々の形式のものが公知であり、それらのうち任意のものを適用することができる。
【0059】
図2に示した実施例において、低圧クラッチ33は、ラチェット式の一方向クラッチである。低圧動力伝達シャフト32(内側のシャフト)の外面には、周方向に等間隔で複数の凹所32Rが設けられており、各凹所32Rには、そこに収容され得る形状のクラッチ爪32Nが、ピボット軸32Pを中心として径方向に揺動可能、かつ、バネ等の弾性部材32Sによって径方向外側に押し付けられた状態で支持されている。また、SG動力伝達シャフト34(外側のシャフト)の内面には、鋸歯状のラチェット歯34Tが設けられている。
【0060】
高圧クラッチ35も、同様にラチェット式の一方向クラッチである。SG動力伝達シャフト34(内側のシャフト)の外面には、周方向に等間隔で複数の凹所34Rが設けられており、各凹所34Rには、そこに収容され得る形状のクラッチ爪34Nが、ピボット軸34Pを中心として径方向に揺動可能、かつ、バネ等の弾性部材34Sによって径方向外側に押し付けられた状態で支持されている。また、高圧動力伝達シャフト36(外側のシャフト)の内面には、鋸歯状のラチェット歯36Tが設けられている。
【0061】
このように構成された低圧クラッチ33及び高圧クラッチ35においては、内側のシャフトが外側のシャフトに対して反時計回りに回転しようとすると、径方向外側に押し付けられた状態の各クラッチ爪34N,32Nが対応するラチェット歯36T,34Tの受圧面36Ts,34Tsに接触して周方向の力を加えることにより、両シャフトは係合して等速で回転し、内側のシャフトから外側のシャフトへ動力が伝達される。
【0062】
逆に、内側のシャフトが外側のシャフトに対して時計回りに回転(あるいは、外側のシャフトが内側のシャフトに対して反時計回りに回転)しようとすると、各クラッチ爪34N,32Nは、その外面が対応するラチェット歯36T,34Tの頂部と接触している間は、当該頂部に押されて凹所34R,32R内へ向かって径方向内側に揺動し、頂部が通過すると径方向外側へ押しつけられる、という動きを繰り返す。ただし、その過程を通じて両シャフトが係合することはなく(すなわち、両シャフトは互いに空転し)、動力も伝達されない。
【0063】
以上においては、動力伝達装置30を構成する各シャフトが反時計回りに回転する場合について説明したが、回転の方向は時計回りであってもよい。したがって、一方向クラッチの機能は、一般化して以下のように表現できる。すなわち、隣り合う2つのシャフトのうち内側のシャフトが外側のシャフトに対して周方向の第1の向きに回転しようとすると、両シャフトを係合させて等速で回転させ、動力を伝達する一方、内側のシャフトが外側のシャフトに対して周方向の第2の向きに回転しようとすると、両シャフトの係合を解除し動力を伝達しないようにする。
【0064】
ただし、本開示の動力伝達装置30においては、3本のシャフトが同一の方向に回転するから、シャフトの回転速度の観点によれば、一方向クラッチの機能は上述したとおり、回転方向に拘らず以下のように表現できる。すなわち、隣り合う2つのシャフトのうち内側のシャフトが外側のシャフトより高速で回転しようとすると、クラッチは両シャフトを係合させて等速で回転させ、動力を伝達する一方、外側のシャフトが内側のシャフトより高速で回転しようとすると、クラッチは両シャフトの係合を解除し動力を伝達しなくなる。
【0065】
また、以上においては、低圧動力伝達シャフト32及び高圧動力伝達シャフト36がベアリング室60Cの内部に収容され得るよう短く構成され、クラッチ37が動力伝達装置30の中心軸CLの方向における内端部の近傍に配置される例について説明したが、上記両シャフトをSG動力伝達シャフト34と同様にストラット60S内を経て径方向外方へ長く延びるものとして構成し、その外端部の近傍にクラッチ37を配置してもよい。このような態様によれば、可動部を含む機構であるクラッチ37へのエンジン外部からのアクセスが容易となり、その保守・点検を行い易くなるというメリットがある。
【0066】
以上のように構成された動力伝達装置30を備えるターボファンエンジンの作動について、以下に説明する。
【0067】
(1)始動時(回転アシスト終了前)
エンジンが停止している状態、すなわち低圧シャフト10及び高圧シャフト20のいずれも回転していない状態において、スタータ・ジェネレータ50に電力を供給し、これを電動機としで作動させる。すると、スタータ・ジェネレータ50と動力伝達が可能な状態で接続されたSG動力伝達シャフト34が回転を開始する。このとき、高圧クラッチ35は、上述したように、SG動力伝達シャフト34と高圧動力伝達シャフト36を係合させ、両シャフトを等速で回転させると共に、SG動力伝達シャフト34から高圧動力伝達シャフト36への動力伝達を開始する。これにより、高圧動力伝達シャフト36とベベルギア36V,20Vを介して接続された高圧シャフト20が回転を開始し、その回転数が時間と共に上昇してゆく。
【0068】
高圧シャフト20の回転数が所定値に到達した時点で、燃焼器内で燃料の噴射(及び点火器の作動)を開始すると、やがて燃料に着火し、発生した燃焼ガスが高圧タービンを通過することによって発生する動力も、高圧シャフト20の回転数上昇に寄与し始める。その後、エンジンが自立運転できる状態に達すると、回転アシストは終了する。
【0069】
(2)始動時(回転アシスト終了後)及び始動後の通常運転時
回転アシスト終了の時点で、それまで電動機として作動していたスタータ・ジェネレータ50は、発電機としての作動を開始する。これは、スタータ・ジェネレータ50に対して回転負荷がかかることを意味し、その回転数は低下し始める。これに伴い、SG動力伝達シャフト34の回転数も低下を開始する。このとき、高圧シャフト20の回転数上昇に伴って高圧動力伝達シャフト36の回転数も上昇しつつあるため、高圧クラッチ35は、上述したように、SG動力伝達シャフト34と高圧動力伝達シャフト36の係合を解除する。したがって、両シャフトの間では、もはや動力の伝達は行われない。
【0070】
一方、エンジンの始動開始の時点から、高圧シャフト20の回転数上昇と並行して低圧シャフト10の回転数も上昇するが、当該回転数は、いずれかの時点で、上述したとおり低下しつつあるSG動力伝達シャフト34の回転数を超えることになる。このとき、低圧クラッチ33は、上述したように、低圧動力伝達シャフト32とSG動力伝達シャフト34を係合させ、両シャフトを等速で回転させると共に、低圧動力伝達シャフト32からSG動力伝達シャフト34への動力伝達を開始する。これにより、低圧動力伝達シャフト32とベベルギア32V,10Vを介して接続された低圧シャフト10からスタータ・ジェネレータ50への動力の供給が開始され、発電機として作動しているスタータ・ジェネレータ50により発電が行われる。
【0071】
その後も低圧シャフト10及び高圧シャフト20の回転数上昇は続き、やがてエンジンはアイドルレーティングに到達する。そして、上述したとおり、全飛行ミッションを通じて、高圧動力伝達シャフト36の回転数は低圧動力伝達シャフト32の回転数より高いため、たとえレーティングの変動(上昇・下降)があっても、低圧クラッチ33の係合状態は常に維持される。
【0072】
なお、エンジンのレーティングが下降した場合の作動は、以下のとおりである。すなわち、ターボファンエンジン1の運転中、スタータ・ジェネレータ50にはその大小にかかわらず常に有限の発電負荷がかかっているため、スタータ・ジェネレータ50に動力を供給するSG動力伝達シャフト34は、当該発電負荷に起因して、動力の供給を受けない限り回転数は低下することになる。したがって、エンジンのレーティングが下降し、低圧シャフト10の回転数、したがって低圧動力伝達シャフト32の回転数が低下した場合、低圧クラッチ33の係合状態は一時的に解除されるものの、これに僅かに遅れてSG動力伝達シャフト34の回転数も低下し、ごく短時間の後に、静定状態に達した低圧動力伝達シャフト32の回転数を下回ることになる。この時点で、低圧クラッチ33は再び係合状態を回復し、低圧シャフト10からスタータ・ジェネレータ50への動力の供給が再開することになる。
【0073】
このように、始動後にアイドルレーティングに到達した時点から一貫して、スタータ・ジェネレータ50への動力の供給は、常に低圧シャフト10から行われることになる。
【0074】
(3)ウィンドミル時
燃焼器内での燃焼が停止するフレームアウト(Flame Out)の発生や、航空機の乗員による緊急停止操作などによって、飛行中にターボファンエンジンが停止した場合、機速相当のラム圧で流入する空気により低圧シャフト及び高圧シャフトが風車のように空転する状態となるが、このような作動状態をウィンドミル(Windmill)と呼ぶ。
【0075】
ターボファンエンジンがウィンドミル状態になると、低圧シャフト及び高圧シャフトの回転数は徐々に低下するが、高圧シャフトに接続された高圧圧縮機には、低圧シャフトに接続されたファン及び低圧圧縮機が前方に位置しているため空気が流入しにくく、一般的なターボファンエンジンにおいては、高圧シャフトは低圧シャフトより低い回転数で静定する傾向にある。なお、ウィンドミル状態においては、高圧シャフトが既に回転しているため、停止したターボファンエンジンの再始動は、特に機速が大きい場合には、スタータによる回転アシストなしで行われる。
【0076】
一方、本開示の動力伝達装置30を備えるターボファンエンジン1においては、上述したとおり低圧クラッチ33の係合状態が維持されることにより、ベベルギア10Vを介して低圧シャフト10と接続された低圧動力伝達シャフト32は、SG動力伝達シャフト34と同期した回転(即ち、同一回転数での回転)を継続する。一方、高圧シャフト20の回転数が徐々に低下して低圧シャフト10の回転数を下回ろうとすると、高圧クラッチ35が、ベベルギア20Vを介して高圧シャフト20と接続された高圧動力伝達シャフト36とSG動力伝達シャフト34を係合させ、両シャフトを等速で回転させる。これにより、動力伝達装置30を構成する3本のシャフト(低圧動力伝達シャフト32、SG動力伝達シャフト34及び高圧動力伝達シャフト36)は全て同期して回転し、したがって、高圧シャフト20と低圧シャフト10も同期して回転することになる。このときの両シャフトの回転数は、一般的なターボファンエンジンにおけるウィンドミル時の低圧シャフトと同レベルの回転数となる。換言すれば、このときの高圧シャフト20の回転数は、一般的なターボファンエンジンにおけるウィンドミル時の高圧シャフトの回転数より高くなる。これは、補機の一つである燃料ポンプの設計に有利な効果をもたらすことになるが、これについて以下に詳述する。
【0077】
図4は、ターボファンエンジンの燃料ポンプ吐出流量(燃料ポンプから吐出される燃料の流量)及び燃焼流量(燃焼器に供給される燃料の流量)と高圧シャフトの回転数との関係を示すグラフであり、縦軸は流量(燃料ポンプ吐出流量または燃焼流量)、横軸は高圧シャフトの回転数である。
【0078】
図中、Gは、地上での始動及び自立運転において加減速も考慮したうえで必要とされる燃焼流量の範囲、Fは、空中での再始動(スタータによる回転アシストなし)において必要とされる燃焼流量の範囲である。
【0079】
ここで、燃料ポンプから吐出される燃料は、燃焼器のみならず、可変機構(圧縮機等の可変静翼、燃料計量ユニット内のバルブなど)を駆動するアクチュエータにも供給され、また、可変機構には内部リークも存在する。したがって、燃料ポンプが吐出すべき燃料の流量は、図中G及びFで示される範囲の流量に、アクチュエータへの供給分及び可変機構の内部リーク分を加えた流量となる。この燃料ポンプ吐出要求流量は、図中、曲線Wrで示されている。
【0080】
民間航空機用のターボファンエンジンにおいては、通常、燃料ポンプとして長寿命のギアポンプが用いられるが、ギアポンプの吐出流量は回転数にほぼ比例する。また、ギアポンプの設計は、ウィンドミル状態のターボファンエンジンの再始動を可能とすべく、スタータによる回転アシストなしの空中再始動条件を設計点として行われる。
【0081】
一般的なターボファンエンジンの燃料ポンプの設計点を、図中Dcで示す。この点Dcは、図中Scで示される空中再始動条件における高圧シャフトの回転数に対応する燃料ポンプ吐出要求流量に、燃料ポンプ自体の内部リークを加算して決定される点であり、この点Dcとグラフの原点Oを結ぶ直線Wdc0が、燃料ポンプの理想的な(即ち内部リークのない)吐出流量を示している。なお、図中の直線Wdcは、内部リークを考慮した燃料ポンプの吐出流量を示している。
【0082】
このようにして設計された燃料ポンプは、空中再始動条件においては過不足のない流量の燃料を吐出する一方、ターボファンエンジンが高いレーティングで運転している状態(即ち、高圧シャフトの回転数が高い状態)においては、図中に矢印Wecで示すように、曲線Wrで示される燃料ポンプ吐出要求流量を大きく上回る流量の燃料を吐出することになる。この余分な燃料は、燃料ポンプの入口側へ戻されるが、その際に通過する減圧弁において圧力エネルギが熱エネルギに変換されて散逸し、燃料の温度が上昇する。そのため、この温度上昇を補償すべく燃料システムに組み込まれる燃料冷却器には大きな冷却能力が要求され、そのサイズ及び重量が大きくなると共に、多量のファン出口空気をバイパス流路から冷却媒体として抽出する必要があるため、ターボファンエンジンの燃費が悪化してしまう。このように、上述した方法により設計された燃料ポンプは、それ自体が過大なサイズ及び重量を有するだけでなく、大きなサイズ及び重量の燃料冷却器を必要とし、さらに、ターボファンエンジンの燃費を悪化させてしまうという問題がある。
【0083】
これに対して、本開示の動力伝達装置30を備えるターボファンエンジン1においては、上述したとおり、ウィンドミル時の高圧シャフト20の回転数が、一般的なターボファンエンジンより高くなる。これにより、ターボファンエンジン1の空中再始動条件は、一般的なターボファンエンジンの空中再始動条件Scよりも図中右方に遷移した点Sとなり、燃料ポンプの設計点も、一般的なターボファンエンジンの設計点Dcよりも図中右方に遷移した点Dとなる。したがって、点Dとグラフの原点Oを結ぶ直線Wd0(燃料ポンプの理想的な吐出流量を示す直線)の傾きは、一般的なターボファンエンジンの場合の直線Wdc0の傾きより小さくなる。なお、図中の直線Wdは、内部リークを考慮した燃料ポンプの吐出流量を示している。
【0084】
その結果、ターボファンエンジンが高いレーティングで運転している状態において、曲線Wrで示される燃料ポンプ吐出要求流量を上回って吐出される余分な燃料の流量は、図中に矢印Weで示すように、一般的なターボファンエンジンの場合(Wec)と比較して大幅に減少することになる。これにより、一般的なターボファンエンジンの場合とは対照的に、燃料ポンプ及び燃料冷却器のサイズ及び重量を小さくすることができると共に、冷却媒体として抽出されるファン出口空気の流量及び燃料ポンプを駆動するためにメインシャフト(低圧シャフト10)から抽出される動力も小さくすることができるという、優れた効果を得ることができる。
【0085】
なお、低圧クラッチ及び高圧クラッチとしては、
図2に示したラチェット式のものに代えて、ローラ式のものを用いることもできる。
図3は、ローラ式の一方向クラッチとして構成された低圧クラッチ133及び高圧クラッチ135から成るクラッチ137を備える動力伝達装置130の軸方向に垂直な断面を示す図である。
【0086】
低圧クラッチ133の内側部分を構成する低圧動力伝達シャフト132の外面132Fは円柱面として形成されているが、低圧クラッチ133の外側部分を構成するSG動力伝達シャフト134の内面は、周方向に等間隔で配置された複数の収容空間134Aを備えている。そして、各収容空間134Aには、ローラ組立体134Rが収容されている。
【0087】
各収容空間134Aの径方向外側の壁は、SG動力伝達シャフト134の回転方向に向かって径方向内側へ傾斜した平面壁部134Wsと、当該回転方向において平面壁部134Wsの前方に位置する凹面壁部134Wcとから成っている。これにより、低圧動力伝達シャフト132の外面132Fからの径方向距離は、上述した回転方向に向かって、平面壁部134Wsにおいては直線的に減少し、凹面壁部134Wcにおいては変化率が次第に増大するような態様で減少している。
【0088】
ローラ組立体134Rは、スプリング台座134RBと、スプリング台座134RBに取り付けられたスプリング134RSと、スプリング134RSの先端においてSG動力伝達シャフト134の中心軸の方向に延びる軸(図示省略)を中心として回転し得るように支持されたローラ134RRとから成っている。スプリング台座134RBは、上述した回転方向において収容空間134Aの後方端部に固定されており、スプリング134RS及びローラ134RRは、そこから上述した回転方向において前方へ延びている。スプリング134RSは、上述した回転方向において前向きの弾性力をローラ134RRに及ぼすようなものとして形成されている。そして、低圧動力伝達シャフト132の外面132Fからの径方向距離は、収容空間134Aの平面壁部134Wsにおいてはローラ134RRの外径より大きく、収容空間134Aの凹面壁部134Wcにおいてはローラ134RRの外径より小さく、両壁部の境界部においてはローラ134RRの外径と等しく、それぞれ設定されている。
【0089】
高圧クラッチ135の内側部分を構成するSG動力伝達シャフト134の外面134Fは円柱面として形成されているが、高圧クラッチ135の外側部分を構成する高圧動力伝達シャフト136の内面は、周方向に等間隔で配置された複数の収容空間136Aを備えている。そして、各収容空間136Aには、ローラ組立体136Rが収容されている。
【0090】
各収容空間136Aの径方向外側の壁は、高圧動力伝達シャフト136の回転方向に向かって径方向内側へ傾斜した平面壁部136Wsと、当該回転方向において平面壁部136Wsの前方に位置する凹面壁部136Wcとから成っている。これにより、SG動力伝達シャフト134の外面134Fからの径方向距離は、上述した回転方向に向かって、平面壁部136Wsにおいては直線的に減少し、凹面壁部136Wcにおいては変化率が次第に増大するような態様で減少している。
【0091】
ローラ組立体136Rは、スプリング台座136RBと、スプリング台座136RBに取り付けられたスプリング136RSと、スプリング136RSの先端において高圧動力伝達シャフト136の中心軸の方向に延びる軸(図示省略)を中心として回転し得るように支持されたローラ136RRとから成っている。スプリング台座136RBは、上述した回転方向において収容空間136Aの後方端部に固定されており、スプリング136RS及びローラ136RRは、そこから上述した回転方向において前方へ延びている。スプリング136RSは、上述した回転方向において前向きの弾性力をローラ136RRに及ぼすようなものとして形成されている。そして、SG動力伝達シャフト134の外面134Fからの径方向距離は、収容空間136Aの平面壁部136Wsにおいてはローラ136RRの外径より大きく、収容空間136Aの凹面壁部136Wcにおいてはローラ136RRの外径より小さく、両壁部の境界部においてはローラ136RRの外径と等しく、それぞれ設定されている。
【0092】
このように構成された低圧クラッチ133及び高圧クラッチ135においては、内側のシャフトが外側のシャフトに対して反時計回りに回転しようとすると、ローラ134RR,136RRが内側のシャフトに追従して回転して収容空間134A,136A内を前方へ移動し、その径方向外側の面が凹面壁部134Wc,136Wcに接触する。上述したように、内側のシャフトの外面132F,134Fから凹面壁部134Wc,136Wcまでの径方向距離は、ローラ134RR,136RRの外径より小さく設定されているので、この状態においてローラ134RR,136RRは、内側のシャフトの外面132F,134Fと凹面壁部134Wc,136Wcの間に挟まれて固定されることになる。これにより、外側のシャフトがローラ134RR,136RRとの摩擦力によって内側のシャフトと係合されることになり、両シャフトは等速で回転し、内側のシャフトから外側のシャフトへ動力が伝達される。
【0093】
逆に、内側のシャフトが外側のシャフトに対して時計回りに回転(あるいは、外側のシャフトが内側のシャフトに対して反時計回りに回転)しようとすると、ローラ134RR,136RRが外側のシャフトの回転運動に起因してスプリング134RS,136RSの弾性力に抗して収容空間134A,136A内を後方へ移動し、その径方向外側の面が平面壁部134Ws,136Wsに接触する。上述したように、内側のシャフトの外面132F,134Fから平面壁部134Ws,136Wsまでの径方向距離は、ローラ134RR,136RRの外径より大きく設定されているので、この状態においてローラ134RR,136RRは、内側のシャフトの外面132F,134F及び平面壁部134Ws,136Wsのいずれによっても拘束されることなく自由に回転できる。したがって、外側のシャフトと内側のシャフトが係合することはなく(すなわち、両シャフトは互いに空転し)、動力も伝達されない。
【0094】
ところで、以上においては、クラッチ37,137を、同一の構造を有する2つのクラッチ(低圧クラッチ33,133及び高圧クラッチ35,135)から成るものとして説明したが、他の態様も採用可能である。以下では、遠心力を利用するクラッチ270について説明する。
【0095】
図5は、遠心力を利用するクラッチ270を採用した動力伝達装置230の、中心軸CLに垂直な断面図である。
【0096】
クラッチ270は、低圧動力伝達シャフト232の外面に周方向に等間隔で配置された複数のフック272(第1フック)と、高圧動力伝達シャフト236の内面に周方向に等間隔で配置された複数のフック276(第2フック)と、SG動力伝達シャフト234に周方向に等間隔で配置された複数の揺動体274と、から成っている。ここで、フック272と、フック276と、揺動体274とは、それぞれ同数ずつ設けられている。
【0097】
フック272は、低圧動力伝達シャフト232の外面から径方向外方へ突出して設けられている。低圧動力伝達シャフト232の回転方向(図中の矢印参照)において、フック272の後面は凸面状に形成される一方、前面には凹部272Rが形成されており、当該凹部272Rは、後述する揺動体274のローラ274Wが前方から嵌まり込めるような形状とされている。
【0098】
一方、フック276は、高圧動力伝達シャフト236の内面から径方向内方へ突出して設けられている。高圧動力伝達シャフト236の回転方向(図中の矢印参照)において、フック276の前面は凸面状に形成される一方、後面には凹部276Rが形成されており、当該凹部276Rは、後述する揺動体274のローラ274Wが後方から嵌まり込めるような形状とされている。
【0099】
揺動体274は、主な構成要素として、ロッド274Rと、ロッド274Rの先端に支持されたローラ274Wと、を備えている。
【0100】
ローラ274Wは、球または円柱として形成され、ロッド274Rの先端において、動力伝達装置230の中心軸CLの方向に延びる軸(図示省略)を中心として回転し得るように支持されている。
【0101】
SG動力伝達シャフト234には、周方向に延びるスリット234Sが形成されており、SG動力伝達シャフト234の回転方向(図中の矢印参照)におけるスリット234Sの前端部には、動力伝達装置230の中心軸CLの方向に延びるピボット軸274Pが支持されている。一方、SG動力伝達シャフト234の回転方向におけるスリット234Sの前方の、SG動力伝達シャフト234の外面には、径方向に延びる平面を有する突起部234Pが設けられている。なお、突起部234Pの高さ(SG動力伝達シャフト234の外面からの径方向の突出量)は、SG動力伝達シャフト234と高圧動力伝達シャフト236が相対的に回転したとき、フック276と干渉しないようなものとして設定されている。
【0102】
ロッド274Rは、上述したピボット軸274Pの周りを径方向に揺動し得るように支持されている。なお、上述したスリット234Sは、ロッド274Rがピボット軸274Pの周りを揺動する際、当該ロッド274R及びその先端に支持されたローラ274Wが全体として径方向に通過し得るような寸法(周方向長さ及び軸方向長さ)を有するものとして形成されている。
【0103】
ピボット軸274Pには、ねじりコイルばね274Sが取り付けられている。より具体的には、ピボット軸274Pは、ねじりコイルばね274Sのコイル部分の内側を通って延びている。そして、ねじりコイルばね274Sの第1の端部は、突起部234Pの径方向に延びる平面に固定され、第2の端部は、ロッド274Rの基端部に固定されている。これにより、ロッド274Rが径方向外方へ搖動すると、ねじりコイルばね274Sのコイルが巻き込まれることにより、これとは反対方向の反発力が作用し、ロッド274Rは径方向内向きの力を受ける。
【0104】
このねじりコイルばね274Sによる径方向内向きの力と揺動体274(ロッド274R及びローラ274W)に作用する遠心力とをバランスさせることにより、各シャフトの回転状態に応じてローラ274Wの径方向位置を変化させ、これにより、ローラ274Wとフック272が係合する状態と、ローラ274Wとフック276が係合する状態とを切り替えるよう、クラッチ270は構成されている。これについて、以下に詳述する。
【0105】
SG動力伝達シャフト234が回転すると、その回転数に応じて発生する遠心力の作用により、揺動体274は径方向外方へ搖動し、コイルばね274Sによる径方向内向きの反発力と遠心力が等しくなる位置で平衡状態に達する。したがって、SG動力伝達シャフト234の回転数と、揺動体274のローラ274Wの径方向位置とは、1対1の対応関係にあることになる。
【0106】
そこで、SG動力伝達シャフト234の回転数が低速側切替回転数以下のときは、揺動体274のローラ274Wがフック272の凹部272Rに嵌まり込める位置まで径方向内方へ搖動した状態となり、高速側切替回転数以上のときは、揺動体274のローラ274Wがフック276の凹部276Rに嵌まり込める位置まで径方向外方へ搖動した状態となるよう、揺動体274の質量やねじりコイルばね274Sのばね定数が設定されている。
【0107】
以上のように構成されたクラッチ270の作動について、
図6A〜
図6Dを参照しながら、以下に説明する。
【0108】
(1)SG動力伝達シャフト234が低速側切替回転数以下の低速で回転または停止しているとき
(1−1)SG動力伝達シャフト234の回転数が低圧動力伝達シャフト232の回転数より低いとき
揺動体274のローラ274Wは、後方から接近するフック272に追い付かれ、その凹部272Rに嵌まり込む(
図6A参照)。これにより、SG動力伝達シャフト234と低圧動力伝達シャフト232は係合して等速で回転し、低圧動力伝達シャフト232からSG動力伝達シャフト234へ動力が伝達される。
(1−2)SG動力伝達シャフト234の回転数が低圧動力伝達シャフト232の回転数より高いとき
揺動体274のローラ274Wは、後方からフック272に追い付くたびに、回転しながら凸面状に形成された後面に乗り上げ(
図6B参照)、最終的にはフック272を追い越すことを繰り返す。すなわち、SG動力伝達シャフト234と低圧動力伝達シャフト232が係合することはなく、両シャフトの間で動力が伝達されることもない。
【0109】
(2)SG動力伝達シャフト234が高速側切替回転数以下の高速で回転しているとき
(2−1)SG動力伝達シャフト234の回転数が高圧動力伝達シャフト236の回転数より低いとき
揺動体274のローラ274Wは、後方から接近するフック276に追い付かれるたびに、回転しながら凸面状に形成された後面に乗り上げ(
図6C参照)、最終的にはフック276に追い越されることを繰り返す。すなわち、SG動力伝達シャフト234と高圧動力伝達シャフト236が係合することはなく、両シャフトの間で動力が伝達されることもない。
(2−2)SG動力伝達シャフト234の回転数が高圧動力伝達シャフト236の回転数より高いとき
揺動体274のローラ274Wは、後方からフック276に追い付き、その凹部276Rに嵌まり込む(
図6D参照)。これにより、SG動力伝達シャフト234と高圧動力伝達シャフト236は係合して等速で回転し、SG動力伝達シャフト234から高圧動力伝達シャフト236へ動力が伝達される。
【0110】
これにより、動力伝達装置230を備えるターボファンエンジンの始動時(回転アシスト終了前)は、クラッチ270が上記(2−2)の作動状態となり、スタータ・ジェネレータ50からSG動力伝達シャフト234及び高圧動力伝達シャフト236を介して高圧シャフト20に動力が供給され、回転アシストが為される。
【0111】
また、始動時(回転アシスト終了後)に一旦上記(2−1)の作動状態となったクラッチ270は、スタータ・ジェネレータ50に対して回転負荷がかかることによりSG動力伝達シャフト234の回転数が低下し、エンジンがアイドルレーティングに接近するにつれて低圧シャフト10の回転数が上昇することにより、上記(1−1)の作動状態に遷移する。これにより、低圧シャフト10から低圧動力伝達シャフト232及びSG動力伝達シャフト234を介して動力が供給され、発電機として作動しているスタータ・ジェネレータ50により発電が行われる。
【0112】
なお、以上においては、隣り合う2つのシャフトの係合が、揺動体274のローラ274Wとシャフトのフック272,276との係合を通じて達成される例について説明したが、クラッチ270の態様は、これに限定されない。例えば、揺動体のローラに代えて摩擦シューを採用すると共にシャフトのフックを撤廃し、隣り合う2つのシャフトの係合が、摩擦シューとシャフトの表面との摩擦による係合を通じて達成されるように構成してもよい。この場合、摩擦シューとシャフトの表面とが適宜の角度を成して接触するよう摩擦シューを支持することにより、隣り合う2つのシャフトの回転数の大小に応じて、接触して摩擦が有効に作用し係合する状態と、接触しているが摩擦が有効に作用せず係合しない状態の2つの状態を実現し、上述したものと同様に作動させることが可能である。
【0113】
以上においては、本開示のターボファンエンジンが、2つのメインシャフト、すなわち低圧シャフトと高圧シャフトが互いに逆方向に回転するように構成されている場合について説明したが、本開示のターボファンエンジンは、2つのメインシャフトが同一の方向に回転するように構成されていてもよい。この場合には、
図7に示すように、低圧シャフト310上のベベルギア310Vを、低圧動力伝達シャフト332のベベルギア332Vの後方に位置するように、ファンシャフト316ではなくファンドライブシャフト312に取り付ければよい。
【0114】
以上においては、本開示のターボファンエンジンが2軸のターボファンエンジンであり、始動時には動力伝達装置の最も外側の動力伝達シャフトを介して高圧シャフトに動力を供給し、始動後は動力伝達装置の最も内側の動力伝達シャフトを介して低圧シャフトから動力を抽出する例について説明したが、本開示のターボファンエンジンは3またはそれ以上の軸を有するターボファンエンジンであってもよい。例えば、3軸のターボファンエンジンとする場合、始動時には動力伝達装置の最も外側の動力伝達シャフトを介して高圧シャフト(または中圧シャフト)に動力を供給し、始動後は動力伝達装置の最も内側の動力伝達シャフトを介して中圧シャフト(または低圧シャフト)から動力を抽出すればよい。
【0115】
(本開示の態様)
本開示の第1の態様のターボファンエンジンは、第1メインシャフトと、第2メインシャフトと、動力伝達装置と、スタータ・ジェネレータと、を備え、前記動力伝達装置は、同軸に配置された第1シャフト、中間シャフト及び第2シャフトと、クラッチと、を備え、前記第1シャフトは、前記第1メインシャフトにベベルギアの組を介して接続され、前記中間シャフトは、前記第1シャフトの外側に配置されると共に、前記スタータ・ジェネレータにベベルギアの組を介して接続され、前記第2シャフトは、前記中間シャフトの外側に配置されると共に、前記第2メインシャフトにベベルギアの組を介して接続されており、前記クラッチは、前記第1シャフト、前記中間シャフト及び前記第2シャフトのいずれか隣り合う2つのシャフトのうち内側のシャフトが外側のシャフトより高速で回転しようとすると、前記2つのシャフトを係合させて等速で回転させて動力を伝達する一方、外側のシャフトが内側のシャフトより高速で回転しようとすると、前記2つのシャフトの係合を解除し動力を伝達しないようにする。
【0116】
本開示の第2の態様のターボファンエンジンにおいて、前記クラッチは、前記第1シャフトと前記中間シャフトの間に配置された第1クラッチと、前記中間シャフトと前記第2シャフトの間に配置された第2クラッチと、から成る。
【0117】
本開示の第3の態様のターボファンエンジンにおいて、前記クラッチは、径方向内向きの弾性力を負荷された状態で前記中間シャフトにより支持され、遠心力の大小に応じて径方向に搖動可能な揺動体と、前記第1シャフトの外面に配置され、径方向内方へ搖動した前記揺動体と係合可能な第1フックと、前記第2シャフトの内面に配置され、径方向外方へ搖動した前記揺動体と係合可能な第2フックと、から成る。
【0118】
本開示の第4の態様のターボファンエンジンは、高圧シャフト及び低圧シャフトを備え、前記第1メインシャフトは低圧シャフトであり、前記第2メインシャフトは高圧シャフトである。
【0119】
本開示の第5の態様のターボファンエンジンは、高圧シャフト、中圧シャフト及び低圧シャフトを備え、前記第1メインシャフトは中圧シャフトであり、前記第2メインシャフトは高圧シャフトである。
【0120】
本開示の第6の態様のターボファンエンジンは、高圧シャフト、中圧シャフト及び低圧シャフトを備え、前記第1メインシャフトは低圧シャフトであり、前記第2メインシャフトは中圧シャフトである。