【文献】
神野 和人,セルロースナノファイバーの高機能化技術(増粘・ゲル化),BIO INDUSTRY,2013年,Vol.30, No.9,p.29-36
【文献】
原 一広,生分解性を有するカルボキシルメチルセルロースゲルの環境浄化への利用の試み,2004年(平成16年)春季 第51回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 第1分冊,2004年,p.474,31a-YK-9
【文献】
Materials Science and Engineering C,2009年,Vol.29, No.5,p.1635-1642
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、組織工学用足場材料やドラッグデリバリーシステム用担体などの医療用材料として使用可能な材料であって、グルタルアルデヒド等の化学的架橋剤を使用することなく、十分に生分解が抑制されて、組織再生の完了あるいは薬物の必要な徐放期間まで生体内で安定に存在可能な材料が、求められている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、組織工学用足場材料やドラッグデリバリーシステム用担体などの医療用材料として使用可能な材料であって、グルタルアルデヒド等の化学的架橋剤を使用することなく、十分に生分解が抑制されて、生体内で安定に存在可能な材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究の結果、セルロースナノファイバー懸濁液から、マイクロゲル、ゲル、及びシートを作成し、これに対して生分解性を付与した材料によって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0009】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
セルロースナノファイバー懸濁液を、強アルカリ水溶液中へ、撹拌しながら添加して、セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液を調製する工程、
セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液を、界面活性剤を含有する流動パラフィン中へ、撹拌しながら添加した後に撹拌して、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液を調製する工程、
セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液中へ、酸と有機溶媒を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液を中和し、流動パラフィンを除去する工程、
NaIO
4水溶液へ、セルロースナノファイバーマイクロゲルを浸漬して、生分解性を付与する工程、
を含む、生分解性セルロースナノファイバーマイクロゲルの製造方法。
(2)
セルロースナノファイバー懸濁液中へ、強アルカリ水溶液を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーゲルを形成する工程、
セルロースナノファイバーゲルへ、希酸水溶液を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーゲルを中和する工程、
NaIO
4水溶液へ、セルロースナノファイバーゲルを浸漬して、生分解性を付与する工程、
を含む、生分解性セルロースナノファイバーゲルの製造方法。
(3)
セルロースナノファイバー懸濁液を、ろ過膜上でろ過して、セルロースナノファイバー層を形成する工程、
セルロースナノファイバー層を、ホットプレスした後に乾燥させて、セルロースナノファイバーシートを形成する工程、
NaIO
4水溶液へ、セルロースナノファイバーシートを浸漬して、生分解性を付与する工程、
を含む、生分解性セルロースナノファイバーシートの製造方法。
(4)
(1)に記載の方法によって製造された生分解性セルロースナノファイバーマイクロゲル。
(5)
(2)に記載の方法によって製造された生分解性セルロースナノファイバーゲル。
(6)
(3)に記載の方法によって製造された生分解性セルロースナノファイバーシート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、組織工学用足場材料やドラッグデリバリーシステム用担体などの医療用材料として使用可能な材料であって、グルタルアルデヒド等の化学的架橋剤を使用することなく、十分に生分解が抑制されて、生体内で安定に存在可能な材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0013】
[生分解性セルロースナノファイバーマイクロゲルの製造]
本発明の生分解性セルロースナノファイバーマイクロゲルは、セルロースナノファイバー懸濁液を、強アルカリ水溶液中へ、撹拌しながら添加して、セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液を調製する工程、セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液を、界面活性剤を含有する流動パラフィン中へ、撹拌しながら添加した後に撹拌して、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液を調製する工程、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液中へ、酸と有機溶媒を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液を中和し、流動パラフィンを除去する工程、NaIO
4水溶液へ、セルロースナノファイバーマイクロゲルを浸漬して、生分解性を付与する工程、を含む方法によって、製造することができる。
【0014】
[生分解性セルロースナノファイバーゲルの製造]
本発明の生分解性セルロースナノファイバーゲルは、セルロースナノファイバー懸濁液中へ、強アルカリ水溶液を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーゲルを形成する工程、セルロースナノファイバーゲルへ、希酸水溶液を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーゲルを中和する工程、NaIO
4水溶液へ、セルロースナノファイバーゲルを浸漬して、生分解性を付与する工程、を含む方法によって、製造することができる。
【0015】
[生分解性セルロースナノファイバーシートの製造]
本発明の生分解性セルロースナノファイバーシートは、セルロースナノファイバー懸濁液を、ろ過膜上でろ過して、セルロースナノファイバー層を形成する工程、セルロースナノファイバー層を、ホットプレスした後に乾燥させて、セルロースナノファイバーシートを形成する工程、NaIO
4水溶液へ、セルロースナノファイバーシートを浸漬して、生分解性を付与する工程、を含む方法によって、製造することができる。
【0016】
[セルロースナノファイバー]
セルロースナノファイバーは、セルロースを成分とするナノサイズのファイバーであって、例えば、特許文献2に記載の手段で製造されたセルロースナノファイバーを使用することができる。本発明において、ゲル、マイクロゲル、シートを作成可能なセルロースナノファイバーであって、生分解性を付与できるものであれば、特に制限はない。典型的には、ナノファイバーは、例えば、平均太さ5〜50nm、平均長さ0.1〜5.0μmのものを使用することができる。例えば、竹漂白パルプ由来、広葉樹漂白パルプ由来、針葉樹漂白パルプ由来の材料を、好適に使用することができる。市販のセルロースナノファイバーとしては、例えば、中越パルプ工業株式会社製の、CNF−1をあげることができる。
【0017】
[セルロースナノファイバー懸濁液]
典型的にはセルロースナノファイバーは、中性の水溶液、例えば純水へ、懸濁又は分散させた、スラリー、懸濁液、又はペーストとして取り扱うことができる。懸濁液中の固形物濃度は、例えば0.01質量%〜10質量%、好ましくは0.05質量%〜5質量%、0.1質量%〜2質量%の範囲とすることができる。
【0018】
[強アルカリ水溶液]
セルロースナノファイバー懸濁液(CNF懸濁液)と混合される強アルカリ水溶液としては、例えばアルカリ金属の水酸化物の水溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液をあげることができ、水酸化ナトリウム水溶液を好適に使用できる。好適な実施の態様において、ゲルの調製のためにCNF懸濁液を、例えば1〜10N、2〜8N、3〜6Nの強アルカリ水溶液と混合することができる。あるいは、好適な実施の態様において、ゲルの調製のために、CNF懸濁液を強アルカリ水溶液と、混合後に強アルカリの濃度が例えば5〜50wt%、10〜40wt%、20〜30wt%となるように、混合することができる。
【0019】
[セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液の調製]
CNFマイクロゲルを調製する場合には、セルロースナノファイバー懸濁液(CNF懸濁液)は、強アルカリ水溶液中へ、撹拌しながら添加して、セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液を調製する。この撹拌は、例えばマグネチックスターラー、プロペラ攪拌機によって行うことができる。
【0020】
[セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液の調製]
CNFマイクロゲルを調製する場合には、セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液を、界面活性剤を含有する流動パラフィン中へ、撹拌しながら添加した後に撹拌して、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液を調製する。この添加は、セルロースナノファイバー強アルカリ懸濁液を、界面活性剤を含有する流動パラフィン中へ、滴下して行うことができる。添加の際の撹拌は、例えばマグネチックスターラー、プロペラ攪拌機によって行うことができる。添加した後の撹拌は、例えば1〜24時間、6〜12時間、例えばマグネチックスターラー、プロペラ攪拌機によって行うことができる。流動パラフィンヌジョール (nujol)、ホワイト油、白色鉱油、水パラフィン、ミネラルオイル、ミネラルオイルホワイト、医療用パラフィン、パラフィンファックス、サクソール(saxol)、USPミネラルオイル、アデプシンオイル(adepsine oil)、アルボレン(Albolene)、グリモール(glymol)とも呼ばれる。流動パラフィンに代えて、同様の物性を有する化学的に不活性な水不溶性の液体を使用することも本発明の範囲内であり、このような液体として、例えばシリコンオイルをあげることができる。
【0021】
[界面活性剤]
上記流動パラフィンに含有される界面活性剤としては、オイルと水溶液を乳化させることが可能なものであれば特に制約はないが、好ましくはアトラス法によるHLB(Hydrophlic Lipophilic Balance)が例えば2〜18、4〜16のものを使用でき、好ましくは非イオン性の界面活性剤を使用できる。使用可能な界面活性剤として、例えばTween80、Span80、Tween20、Tween40、Tween60、Tween65、Tween85、Span20をあげることができる。流動パラフィン中に含有させる界面活性剤の濃度(重量%)は、例えば0.1〜5.0%、0.5〜2.0%とすることができる。
【0022】
[セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液の中和と流動パラフィン除去]
CNFマイクロゲルを調製する場合には、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液は、この中へ希酸水溶液と有機溶媒を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーマイクロゲル懸濁液を中和し、流動パラフィンを除去する。酸と有機溶媒の添加は、同時に行ってもよく、いずれかを先に添加してもよい。添加した後の静置は、中和と流動パラフィンの除去に十分な時間であればよく、例えば1〜12時間、3〜9時間の静置とすることができる。静置した後に、上澄み液が分離するので、この分離した上澄み液を取り除いて、再び有機溶媒を添加して、静置し、上澄み液を取り除く操作を、複数回繰り返して、流動パラフィンをより完全に除去することができる。中和された後の上澄み液中に存在する塩を除去するために、水洗する工程をさらに行ってもよい。
【0023】
[酸]
上記中和に使用する酸としては、水洗除去可能な塩を生じる酸であって水溶性の酸であれば特に制限はなく、これらを酸又は酸の水溶液として使用することができる。酸としては、例えばカルボン酸、塩酸、硫酸、硝酸をあげることができる。カルボン酸として、例えば酢酸、クエン酸をあげることができる。好適な実施の態様において、酢酸を使用することができる。酸の添加量は、強アルカリの中和に必要な量から、適宜求めることができる。
【0024】
[有機溶媒]
上記パラフィン除去に使用する有機溶媒としては、水溶液との分離が可能であって本発明の成分との相溶性と反応性が低い有機溶媒であれば特に制限無く使用でき、例えばヘキサン、シクロヘキサンを使用することができる。
【0025】
[NaIO
4水溶液への浸漬による生分解性付与]
上記得られたセルロースナノファイバーマイクロゲル(CNFマイクロゲル)は、NaIO
4水溶液へ浸漬して、生分解性を付与することができる。NaIO
4水溶液は、例えば0.1〜20%、0.3〜15%、0.5%〜10%の濃度の水溶液を使用できる。浸漬は、例えば20〜60℃、30〜60℃、40〜60℃の温度で、例えば10分〜180分、30分〜90分の時間、行うことができる。浸漬に際して、適宜撹拌又は振とうして、反応を進行させてもよい。このような浸漬によって、セルロースの構成単位が酸化変性して、CNFマイクロゲルは酸化CNFマイクロゲルとなり、DMEM培地等の通常の培地条件において分解性を備えたものとなるが、マイクロゲルとしての機械特性は失われずに維持されており、すなわち、生分解性だけを付与することができる。ここでいう生分解性とは、生体内と同様の条件下で分解する特性を指し、具体的には無血清培地(DMEM培地)中で、37℃24時間保持した場合に、セルロースの分解率が1%以上、好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上である性質をいう。好適な実施の態様において、酸化CNFゲルのアルデヒド含有量(アルデヒド/グルコース単位 %)を、例えば5〜95%、10%〜80%とすることができる。好適な実施の態様において、付加された生分解性は、DMEM培地で37℃24時間保持した場合のセルロースの分解率が、例えば10%以上、14%以上、39%以上、68%以上、75%以上とすることができる。
【0026】
[セルロースナノファイバーゲルの調製]
セルロースナノファイバーゲル(CNFゲル)を調製する場合には、セルロースナノファイバー懸濁液中へ、強アルカリ水溶液を添加した後に、静置して、セルロースナノファイバーゲルを形成する。撹拌することなく静置する点で、CNFマイクロゲルを調製する場合とは異なる。好適な実施の態様において、静置に先立つ強アルカリ水溶液の添加は、CNF懸濁液の形状が所望のゲルの形状となるように、注意深くゆっくりと行う。静置は、例えば1〜24時間、6〜12時間行うことができる。CNF懸濁液中へ添加する強アルカリ水溶液としては、CNF懸濁液と混合する強アルカリ水溶液として上記した強アルカリ水溶液を使用することができる。
【0027】
[セルロースナノファイバーゲルの中和]
強アルカリ水溶液の添加によって形成されたCNFゲルは、希酸水溶液を添加した後に、静置して、中和する。希酸水溶液の添加後の静置は、例えば1〜12時間、3〜9時間の静置とすることができる。希酸水溶液での静置中和後に、CNFゲルを水洗する工程を行ってもよい。水洗としては、例えば流水で2〜24時間洗う操作をあげることができる。
【0028】
[希酸水溶液]
上記CNFゲルの中和に使用する希酸水溶液としては、CNFマイクロゲル懸濁液の中和に使用する酸として記載した酸を希釈した水溶液を、使用することができる。酸の濃度として、例えば0.1〜10重量%、2〜8重量%の濃度を使用することができる。
【0029】
[NaIO
4水溶液への浸漬による生分解性付与]
上記得られたセルロースナノファイバーゲル(CNFゲル)は、セルロースナノファイバーマイクロゲル(CNFマイクロゲル)について上述した手順と同様の手順で、NaIO
4水溶液へ浸漬して、生分解性を付与することができる。
【0030】
[セルロースナノファイバー層の形成]
セルロースナノファイバーシート(CNFシート)を調製する場合には、いったん、セルロースナノファイバー懸濁液を、ろ過膜上でろ過して、セルロースナノファイバー層を形成する。ろ過膜は、セルロースナノファイバー懸濁液のうち、セルロースナノファイバーが透過されることなくろ過膜上に残って濃縮されつつ、懸濁液の液体が透過可能なろ過膜であれば使用することができる。このようなろ過膜として、例えばポアサイズが0.1〜5.0μm、好ましくは0.1〜1.0μmであるろ過膜をあげることができる。ろ過は、例えば吸引ろ過を好適に使用できる。
【0031】
[セルロースナノファイバーシートの形成]
CNFシートを調製する場合には、上記セルロースナノファイバー層(CNF層)を、ホットプレスした後に乾燥させて、セルロースナノファイバーシートを形成する。ホットプレスに先だって、CNF層に残る水分をろ紙などで除去してもよい。ホットプレスとしては、例えば金型で挟んで、例えば1〜8時間、2〜6時間の間、例えば40℃〜80℃、50℃〜70℃の温度で、例えば2〜20MPa、8〜16MPaの圧力で、ホットプレスすることができる。その後の乾燥は、公知の手段によって行うことができる。
【0032】
[NaIO
4水溶液への浸漬による生分解性付与]
上記得られたCNFシートは、セルロースナノファイバーマイクロゲル(CNFマイクロゲル)について上述した手順と同様の手順で、NaIO
4水溶液へ浸漬して、生分解性を付与することができる。
【0033】
[生分解性のCNFマイクロゲル、CNFゲル、CNFシート]
本発明による、生分解性のCNFマイクロゲル、CNFゲル、CNFシートは、植物由来のセルロースを使用した材料であるために、環境負荷や安全性の観点で安心でありながら、合成高分子由来の材料以上に制御された物性を有している。さらに、セルロースを使用した材料でありながら、生分解性を有しているために、従来はセルロースの使用が想定されていなかった組織工学用足場材料やドラッグデリバリーシステム用担体などの医療用材料として使用可能である。加えて、従来の医療用材料と対比した場合に、グルタルアルデヒド等の化学的架橋剤を使用することなく、十分に生分解が抑制されていて、組織再生の完了あるいは薬物の必要な徐放期間まで生体内で安定に存在可能である点で優れている。
【実施例】
【0034】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、特にことわりのない限り「%」及び「部」はそれぞれ重量%及び重量部を示す。また、特にことわりのない限り実験操作は室温において行った。
【0035】
[実施例1]
[CNFハイドロゲルの調製]
セルロースナノファイバー懸濁液(中越パルプ工業製:CeNF−1)(固形分濃度1重量%)10gをビーカーに入れた。次に、5mol/L水酸化ナトリウム(40g)を懸濁液の形が変形しないようにビーカーの中に注意深く、ゆっくりと注ぎ、12時間静置した。その後、4%希酢酸を加え6時間静置した後、流水で12時間洗うことによりCNFゲルを作製した。これらの操作は室温で行った。
【0036】
[CNFハイドロゲルの評価]
作製したCNFゲルはSEMで表面と断面の構造を観察した。
NaOH水溶液中のCNF(セルロースナノファイバー)懸濁液を
図1に示す。作製したCNF(セルロースナノファイバー)ゲルを
図2に示す。また、CNFゲルの表面と断面のSEM画像を
図3a及び
図3bに示す。CNFゲル表面は多孔質であり、ナノからマイクロのポアサイズのものが数多く見られた(
図3a)。CNFゲル断面は多層構造であった(
図3b)。
【0037】
[実施例2]
[CNFシートの調製]
セルロースナノファイバー懸濁液(中越パルプ工業製:CeNF−1)10gを、固形分濃度0.2%に希釈撹拌したものを出発材料として、これに対して、メンブレンフィルター(ミリポア製、製品名オムニポアメンブレンフィルター、ポアサイズ1.0μm)を用いて吸引濾過を行った。次に、濃縮シートの非吸引面をテフロンシートに押し当て、もう片面にメンブレンフィルターの上から濾紙を3枚程度重ねた。次に、金型で挟み3〜4時間ホットプレス(60℃、10〜15MPa)を行い、その後乾燥器で乾燥させて、CNFシートを得た(0.2%CNF10gシート)。
出発材料として、上記のようにCNF(セルロースナノファイバー)懸濁液10gを0.2%に希釈したものを使用した(通常作製)CNFシート(0.2%CNF10gシート)に加えて、CNF懸濁液10gを希釈することなく1%のままで使用したCNFシート(1%CNF10gシート)、CNF懸濁液20gを0.2%に希釈したものを使用した(作製量2倍)CNFシート(0.2%CNF20gシート)を、それぞれ作製して、この3つのサンプルに対して、膜厚を計測し、SEMで観察した。
【0038】
[CNFシートの評価]
各CNFシートの膜厚測定の結果を
図4に示す。膜厚測定はシートのランダムな場所において10回測定した。結果より、CNF量を増加させるとそれに伴い膜厚も増加していることがわかった。また、0.2%に希釈したもの(0.2%CNF10gシート)と希釈していないもの(1%CNF10gシート)を比較すると、希釈していないものの方は膜厚が高かったが、エラーバーにも表れているように厚さの均一さにやや劣るシートとなっていた。したがって、希釈して用いた方が厚さの均一なシートを作製できることがわかった。
【0039】
次に、通常作製のもの(0.2%CNF10gシート)と作製量2倍のもの(0.2%CNF20gシート)とのSEM画像を
図5a及び
図5bに示す。2つを比較すると、通常作製のもの(0.2%CNF20gシート)は、多孔質であり数多くのクラックが観察された(
図5a)。作製量2倍のもの(0.2%CNF20gシート)は、少し凹凸が観察されたが通常作製と比べると滑らかな表面をしており、クラックもほとんど観察されなかった(
図5b)。これより、使用するCNFの絶対量を増加させると表面が滑らかなシートができることがわかった。
【0040】
[実施例3]
[CNFマイクロゲルの調製]
CNF懸濁液を2.0g入れたときにNaOH水溶液のNaOH濃度が20wt%又は30wt%になるように各NaOH水溶液を調製し、1%CNF懸濁液(中越パルプ工業製:CeNF−1)を2.0g入れ、撹拌した。次に、100mLビーカーに界面活性剤1.0%含有の流動パラフィンを30mL入れ、撹拌しながらCNF懸濁液とNaOH水溶液の混合溶液をピペットで4mL入れ、12時間撹拌させた。次に、サンプルチューブに混合溶液を入れた後、ヘキサンと数滴の酢酸を加え混合し、6時間静置した。その後、分離した上澄みを取り除き、再びヘキサンを加えて上澄みを取り除くことによって複数回洗浄して、流動パラフィンを除去した。次に、NaOHと酢酸ナトリウムを取り除くために蒸留水を加え、何回か洗浄を行って、CNFマイクロゲルを分離した。
上記の界面活性剤として、HLB(Hydrophlic Lipophilic Balance)の異なるTween80(HBL:15.0)とSpan 80(HBL:4.3)を用いて実験を行った。
分離したCNFマイクロゲルをガラスプレート上に薄くのばし、凍結乾燥させたものをSEMで観察した。
【0041】
[CNFマイクロゲルの評価]
Tween80で作製したCNFマイクロゲルのSEM画像を
図6a及び
図6bに示す。NaOH濃度20wt%は、きれいな粒子状のものが見られ、数マイクロから数十マイクロ程度の粒子サイズのものが確認できた(
図6a)。NaOH濃度30wt%は、20wt%よりは粒子サイズが数多く確認できたものの歪んだ粒子状のものが多かった(
図6b)。
【0042】
次に、Span 80で作製したCNFマイクロゲルのSEM画像を
図7a及び
図7bに示す。NaOH濃度20wt%は、粒子数が少なく、きれいな粒子状のものがあまり見られなかった。粒子サイズは数マイクロから数十マイクロ程度であった(
図7a)。NaOH濃度30wt%は、20wt%より粒子数が数多く確認できた。粒子サイズは20wt%と同じくらいであった(
図7b)。
【0043】
これらのマイクロゲルの入った溶液を目視観察すると、Span 80で作製したCNFマイクロゲルの溶液は、液状というよりはややゲル状塊と思える部分も生じていたが、それは軽く振ると崩れる程度であった。Tween80で作製したCNFマイクロゲルの溶液は、ほとんど液状と見える状態であった。
【0044】
このように、界面活性剤にTween80、Span 80を使用した場合、NaOH濃度が20wt%、30wt%ともにマイクロ粒子が確認でき、CNFマイクロゲルを生成できることがわかった。
【0045】
[実施例4]
[CNFゲルのマラプラード反応処理]
20mL蒸留水に対して、1%、5%、10%、15%のNaIO
4溶液を調製し、そこへ上記実施例1で作製したCNFハイドロゲル(直径1cm)を入れ、50℃、1時間撹拌し反応させた。反応後、CNFゲルを蒸留水で24時間洗浄し、その後、乾燥器で乾燥させた。乾燥後、ヨウ素滴定法を用いてアルデヒド含有量を定量した。
【0046】
[酸化CNFゲルのアルデヒド含有量の評価]
各NaIO
4濃度における酸化CNFゲルのアルデヒド含有量の結果を次の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
上記の実験結果より、酸化剤の濃度の増加とともにグルコース1残基当たりのアルデヒド含有率が増加していることがわかった。これは、酸化されたアルデヒドセルロースを用いて行った実験と同様な結果が得られた。
【0049】
[実施例5]
[酸化CNFゲルの培地中での分解]
10mL蒸留水に対して、0%、0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%NaIO
4溶液を調製し、そこへ上記実施例1で作製したCNFゲル(直径1cm)を入れ、50℃、1時間撹拌し反応させた。反応後、CNFゲルを蒸留水で24時間洗浄した。次に、無血清培地(DMEM:Dulbecco’s Modied Eagle Medium)中に入れて24時間撹拌させた。反応後、DMEMをメンブレンフィルターを使い濾過し、これを乾燥させることにより、乾燥させたメンブレンフィルターの重さから溶け残ったセルロース量を求めた。
【0050】
[酸化CNFゲルの分解率の評価]
各NaIO
4濃度で酸化されたCNFゲルをDMEM中で24時間撹拌させた時に溶け残ったセルロース量とそこから算出した分解率の結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
この結果から、マラプラード反応後のCNFゲルはDMEM中で分解されることがわかった。また、マラプラード反応の酸化剤濃度増加と共に分解率が上昇しており、CNFゲルの分解率は酸化剤濃度によって変化することがわかった。
表1、表2の結果からCNFゲルのアルデヒド含有量が増大するほどDMEMでの分解率が増大することがわかった。