特許第6725993号(P6725993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6725993
(24)【登録日】2020年6月30日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/18 20060101AFI20200713BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20200713BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20200713BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   F16C19/18
   F16C33/58
   F16C33/64
   B60B35/02 L
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-30508(P2016-30508)
(22)【出願日】2016年2月19日
(65)【公開番号】特開2017-145952(P2017-145952A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2019年1月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 一成
(72)【発明者】
【氏名】北仲 千浪
(72)【発明者】
【氏名】森田 峻介
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−347402(JP,A)
【文献】 特開2007−153051(JP,A)
【文献】 特開2014−101952(JP,A)
【文献】 実開昭63−87514(JP,U)
【文献】 特開2010−90982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00− 19/56
F16C 33/30− 33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にナックル取り付けフランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
一端部に車輪取り付けフランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の前記小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に介装された複列の転動体と、
前記車輪取り付けフランジに設けられた複数の貫通孔にそれぞれ挿通される車輪を固定するためのハブボルトと、を備えた車輪用軸受装置において、
前記外方部材の外周に前記内方部材の回転軸を中心とする略円環形状の肉厚部を設け、
前記肉厚部は、
前記外方部材のアウター側端面からインナー側に向かって前記回転軸方向に形成され、且つ
前記車輪取り付けフランジ側に形成された前記外側転走面における部位を含んでおり、
前記肉厚部に前記回転軸に対して並行に配置される前記ハブボルトの案内溝を少なくとも一つ形成した、
車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記案内溝は、前記ハブボルトを構成するネジ部分が前記貫通孔を通る際に、前記ハブボルトを構成するヘッド部分の外周面に周方向に沿い、かつ接するように形成されている、
請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記ハブボルトが前記回転軸を中心とする同心円上に互いに等しい位相で配置され、
前記案内溝は、前記ハブボルトと同数若しくは倍数で、かつ前記同心円上に互いに等しい位相で形成されている、
請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記肉厚部と前記案内溝は、鍛造工法によって形成されている、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。詳しくは全体重量の増加を最小限に抑制しつつ、転動疲労寿命の低下を防ぐとともに、整備性を向上させた車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、懸架装置を構成するナックルに外方部材が固定される。また、車輪用軸受装置は、外方部材の内側に転動体が介装され、この転動体によって内方部材を支持している。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としているのである。なお、車輪用軸受装置は、可能な限り軽量化が図られている。
【0003】
ところで、このような車輪用軸受装置は、剛性を確保する観点と燃費向上の観点とから複列アンギュラ玉軸受を構成している。車体が旋回している場合においては、旋回方向の反対側(右旋回の場合は車両の左側)の車輪に掛かるラジアル荷重やアキシアル荷重が増大する。これにより、外方部材の剛性が低ければ変形してしまうため、アウター側のボール列の剛性を高めて転動疲労寿命の低下を防ぐとした車輪用軸受装置が存在していた。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0004】
特許文献1に記載の車輪用軸受装置は、アウター側のボール列のピッチ円直径をインナー側のボール列のピッチ円直径よりも大きくし、アウター側のボール列のボール数を増やすことで剛性を高めている。しかし、かかる車輪用軸受装置は、アウター側のボール列のピッチ円直径を大きくしたことにより、外方部材のアウター側開口部の直径も大きくなっている。更に、外方部材のアウター側開口部には、シール部材が嵌め込まれる拡径部、加工のための基準面等が形成されている。このため、車輪用軸受装置に掛かる荷重が増大した場合、肉厚が薄い外方部材のアウター側開口部が略楕円形状に変形し、ボール列に接する転走面の真円度が劣化することによって転動疲労寿命が低下してしまうという問題があった。また、このような問題を回避すべく外方部材の肉厚寸法を大きくすれば、全体重量の増加を招くとともに、車輪取り付けフランジに挿通されたハブボルトの交換が不可能となって整備性が低下してしまうという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−155837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、全体重量の増加を最小限に抑制しつつ、転動疲労寿命の低下を防ぐとともに、整備性を向上させた車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明は、外周にナックル取り付けフランジを一体に有し、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、一端部に車輪取り付けフランジを一体に有し、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、およびこのハブ輪の前記小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの転走面間に転動自在に介装された複列の転動体と、前記車輪取り付けフランジに設けられた複数の貫通孔にそれぞれ挿通される車輪を固定するためのハブボルトと、を備えた車輪用軸受装置において、前記外方部材の外周に前記内方部材の回転軸を中心とする略円環形状の肉厚部を設け、前記肉厚部が前記車輪取り付けフランジ側に形成された前記外側転走面における部位を含んでおり、前記肉厚部に前記回転軸に対して並行に配置される前記ハブボルトの案内溝を少なくとも一つ形成した、ものである。
【0008】
本発明は、前記案内溝は、前記ハブボルトを構成するネジ部分が前記貫通孔を通る際に、前記ハブボルトを構成するヘッド部分の外周面に周方向に沿い、かつ接するように形成されている、ものである。
【0009】
本発明は、前記ハブボルトが前記回転軸を中心とする同心円上に互いに等しい位相で配置され、前記案内溝は、前記ハブボルトと同数若しくは倍数で、かつ前記同心円上に互いに等しい位相で形成されている、ものである。
【0010】
本発明は、前記肉厚部と前記案内溝は、鍛造工法によって形成されている、ものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
即ち、本発明に係る車輪用軸受装置は、外方部材の外周に内方部材の回転軸を中心とする略円環形状の肉厚部が設けられている。また、肉厚部が車輪取り付けフランジ側に形成された外側転走面における部位を含んでいる。そして、この肉厚部に回転軸に対して並行に配置されるハブボルトの案内溝が少なくとも一つ形成されている。これにより、本車輪用軸受装置は、全体重量の増加を最小限に抑制しつつ外方部材の変形を低減させ、ボール列に接する転走面の真円度が劣化するのを抑えることにより、転動疲労寿命の低下を防ぐことができる。また、本車輪用軸受装置は、外方部材と内方部材を分解することなくハブボルトの交換作業が可能となるので、整備性の向上を実現することができる。
【0013】
本発明に係る車輪用軸受装置の案内溝は、ハブボルトを構成するネジ部分が貫通孔を通る際に、ハブボルトを構成するヘッド部分の外周面に周方向に沿い、かつ接するように形成されている。これにより、本車輪用軸受装置は、案内溝がハブボルトを真直ぐに支持するので、ハブボルトの交換作業が容易となり、更に整備性の向上を実現することができる。
【0014】
本発明に係る車輪用軸受装置の案内溝は、ハブボルトと同数若しくは倍数で、かつ同心円上に互いに等しい位相で形成されている。これにより、本車輪用軸受装置は、全ての案内溝に全てのハブボルトの位置を重ねることができるので、ハブボルトの交換作業が容易となり、更に整備性の向上を実現することができる。
【0015】
本発明に係る車輪用軸受装置の肉厚部と案内溝は、鍛造工法によって形成されている。これにより、本車輪用軸受装置は、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】車輪用軸受装置の全体構成を示す斜視図。
図2】車輪用軸受装置の全体構成を示す断面図。
図3】車輪用軸受装置の一部構造を示す拡大断面図。
図4】車輪用軸受装置の一部構造を示す拡大断面図。
図5】第一実施形態である車輪用軸受装置の要部構造を示す断面図。
図6】ハブボルトの交換作業を示す図。
図7】案内溝がハブボルトを真直に支持している状況を示す図。
図8】第二実施形態である車輪用軸受装置の要部構造を示す断面図。
図9】ハブボルトの交換作業を示す図。
図10】案内溝がハブボルトを真直に支持している状況を示す図。
図11】他の実施形態である車輪用軸受装置の要部構造を示す断面図。
図12】他の実施形態である車輪用軸受装置の要部構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図1から図4を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。なお、図2は、図1におけるA−A断面図である。図3および図4は、図2における一部領域の拡大図である。
【0018】
車輪用軸受装置1は、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2、内方部材3(ハブ輪4と内輪5)、転動体6、シール部材7(以降「一側シール部材7」とする)、シール部材10(以降「他側シール部材10」とする)を具備する。なお、以下において、「一側」とは、車輪用軸受装置1の車体側、即ち、インナー側を表す。また、「他側」とは、車輪用軸受装置1の車輪側、即ち、アウター側を表す。
【0019】
外方部材2は、内方部材3(ハブ輪4と内輪5)を支持するものである。外方部材2は、略円筒形状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。外方部材2の一側端部には、拡径部2aが形成されている。外方部材2の他側端部には、拡径部2bが形成されている。外方部材2の内周には、環状に外側転走面2cと外側転走面2dとが互いに平行となるように形成されている。外側転走面2cと外側転走面2dには、高周波焼入れが施され、表面硬さが58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。なお、外方部材2の外周には、懸架装置を構成するナックルに取り付けるためのナックル取り付けフランジ2eが一体に形成されている。
【0020】
内方部材3は、図示しない車輪を回転自在に支持するものである。内方部材3は、ハブ輪4と内輪5で構成されている。
【0021】
ハブ輪4は、有底円筒形状に形成されたS53C等の炭素0.40〜0.80wt%を含む中高炭素鋼で構成されている。ハブ輪4の一側端部には、小径段部4aが形成されている。小径段部4aには、内輪5が圧入されている。ハブ輪4の他側端部には、車輪取り付けフランジ4bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ4bには、内方部材3の回転軸Cを中心とする同心円上に等間隔に貫通孔4dが設けられ、それぞれの貫通孔4dにハブボルト4eが挿通されている。また、ハブ輪4の外周には、環状に内側転走面4cが形成されている。ハブ輪4は、小径段部4aから内側転走面4cを経て、シールランド部(後述の軸面部4fと曲面部4gと側面部4hで構成される)まで高周波焼入れが施され、表面硬さが58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。これにより、ハブ輪4は、車輪取り付けフランジ4bに付加される回転曲げ荷重に対して十分な機械的強度と耐久性を有している。なお、内側転走面4cは、外方部材2の外側転走面2dに対向する。
【0022】
内輪5は、略円筒形状に形成されたSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。内輪5の外周には、環状に内側転走面5aが形成されている。つまり、内輪5は、ハブ輪4の小径段部4aに圧入嵌合され、小径段部4aの外周に内側転走面5aを構成している。内輪5は、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。これにより、内輪5は、車輪取り付けフランジ4bに付加される回転曲げ荷重に対して十分な機械的強度と耐久性を有している。なお、内側転走面5aは、外方部材2の外側転走面2cに対向する。
【0023】
転動体6は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪4と内輪5)の間に介装されるものである。転動体6は、インナー側のボール列(以降「一側ボール列6a」とする)とアウター側のボール列(以降「他側ボール列6b」とする)を有している。一側ボール列6aと他側ボール列6bは、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼で構成されている。一側ボール列6aと他側ボール列6bには、いわゆるズブ焼入れが施され、芯部まで58〜64HRCの範囲となるように硬化処理されている。一側ボール列6aは、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。一側ボール列6aは、内輪5に形成されている内側転走面5aと、それに対向する外方部材2の外側転走面2cとの間に転動自在に収容されている。他側ボール列6bは、複数のボールが保持器によって環状に保持されている。他側ボール列6bは、ハブ輪4に形成されている内側転走面4cと、それに対向する外方部材2の外側転走面2dとの間に転動自在に収容されている。このようにして、一側ボール列6aと他側ボール列6bは、外方部材2と内方部材3(ハブ輪4と内輪5)とで複列アンギュラ玉軸受を構成している。なお、車輪用軸受装置1は、複列アンギュラ玉軸受を構成したものであるが、これに限定するものではない。例えば、複列円錐ころ軸受等を構成したものであっても良い。また、車輪用軸受装置1は、ハブ輪4の外周に他側ボール列6bの内側転走面4cが直接形成されている第3世代構造の車輪用軸受装置であるがこれに限定するものではなく、ハブ輪4に一対の内輪5が圧入固定された第2世代構造であっても良い。
【0024】
一側シール部材7は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのインナー側端部に装着されるものである。一側シール部材7は、円環状のシールリング8と円環状のスリンガ9で構成されている。
【0025】
シールリング8は、外方部材2の拡径部2aに嵌合されて外方部材2と一体的に構成される。シールリング8は、芯金81と弾性部材であるシールゴム82とを有する。
【0026】
芯金81は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。芯金81は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面が略L字状に形成されている。これにより、芯金81は、円筒状の嵌合部81aと、その一端から内方部材3(内輪5)に向かって延びる円板状の側板部81bとが形成されている。嵌合部81aと側板部81bは、互いに略垂直に交わっており、嵌合部81aは、後述するスリンガ9の嵌合部9aに対向する。また、側板部81bは、後述するスリンガ9の側板部9bに対向する。なお、嵌合部81aと側板部81bには、弾性部材であるシールゴム82が加硫接着されている。
【0027】
シールゴム82は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム82には、シールリップであるラジアルリップ82a、内側アキシアルリップ82bおよび外側アキシアルリップ82cが形成されている。
【0028】
スリンガ9は、内方部材3の外周(内輪5の外周)に嵌合されて内方部材3と一体的に構成される。
【0029】
スリンガ9は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。スリンガ9は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面が略L字状に形成されている。これにより、スリンガ9は、円筒状の嵌合部9aと、その端部から外方部材2に向かって延びる円板状の側板部9bとが形成されている。嵌合部9aと側板部9bは、互いに垂直に交わっており、嵌合部9aは、前述したシールリング8の嵌合部81aに対向する。また、側板部9bは、前述したシールリング8の側板部81bに対向する。なお、側板部9bには、磁気エンコーダ9cが設けられている。
【0030】
一側シール部材7は、シールリング8とスリンガ9とが対向するように配置される。このとき、ラジアルリップ82aは、油膜を介してスリンガ9の嵌合部9aに接触する。また、アキシアルリップ82bは、油膜を介してスリンガ9の側板部9bに接触する。そして、外側アキシアルリップ82cも、油膜を介してスリンガ9の側板部9bに接触する。このようにして、一側シール部材7は、いわゆるパックシールを構成し、砂塵等の侵入を防止しているのである。
【0031】
他側シール部材10は、外方部材2と内方部材3の間に形成された環状空間Sのアウター側端部に装着されるものである。他側シール部材10は、円環状のシールリング11で構成されている。
【0032】
他側シール部材10は、外方部材2の拡径部2bに嵌合されて外方部材2と一体的に構成される。シールリング11は、芯金111と弾性部材であるシールゴム112とを有する。
【0033】
芯金111は、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)で構成されている。芯金111は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、軸方向断面視で略C字状に形成されている。これにより、芯金111は、円筒状の嵌合部111aと、その一端から内方部材3(ハブ輪4)に向かって延びる円板状の側板部111bとが形成されている。嵌合部111aと側板部111bは、互いに湾曲しながら交わっており、嵌合部111aは、ハブ輪4の軸面部4fに対向する。また、側板部111bは、ハブ輪4の曲面部4gおよび側面部4h(車輪取り付けフランジ4bの端面を指す)に対向する。なお、側板部111bには、弾性部材であるシールゴム112が加硫接着されている。
【0034】
シールゴム112は、NBR(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムで構成されている。シールゴム112には、シールリップであるラジアルリップ112a、内側アキシアルリップ112bおよび外側アキシアルリップ112cが形成されている。
【0035】
他側シール部材10は、シールリング11とハブ輪4とが対向するように配置される。このとき、ラジアルリップ112aは、油膜を介してハブ輪4の軸面部4fに接触する。また、アキシアルリップ112bは、油膜を介してハブ輪4の曲面部4gに接触する。そして、外側アキシアルリップ112cも、油膜を介してハブ輪4の側面部4hに接触する。このようにして、他側シール部材10は、砂塵等の侵入を防止しているのである。
【0036】
次に、図5から図7を用いて、第一実施形態である車輪用軸受装置1について詳細に説明する。図5は、図2におけるB−B断面図である。図6は、ハブボルト4eの交換作業を示している。また、図7は、案内溝2hがハブボルト4eを真直に支持している状況を示している。
【0037】
第一実施形態である車輪用軸受装置1は、外方部材2の形状が内方部材3の回転軸Cを中心とする略円筒形状となっている。また、本車輪用軸受装置1は、外方部材2の軸方向断面の形状がアウター側端部で外側へ膨らんでいる。つまり、外方部材2のアウター側端部には、径方向に突出した肉厚部2fが全周にわたって形成されている。なお、本車輪用軸受装置1において、肉厚部2fは、回転軸C方向に外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dを超えた位置まで形成されている。そのため、本車輪用軸受装置1は、アウター側に形成された外側転走面2dにおける肉厚寸法が全周にわたって大きくなっている。従って、外側転走面2dが形成されている部分の肉厚寸法は、周方向で大きく、かつ一定である。かかる特徴は、少なくとも外側転走面2dが形成されている部分を覆うように肉厚部2fを形成することで実現される。
【0038】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、従来の車輪用軸受装置と比較して簡素な形状の差異でありながらも、外方部材2におけるアウター側の剛性が向上している。従って、本車輪用軸受装置1は、全体重量の増加を最小限に抑制しつつ外方部材2のアウター側開口部の変形を低減させ、ボール列6bに接する外側転走面2dの真円度が劣化するのを抑えることにより、転動疲労寿命の低下を防ぐことができる。
【0039】
更に、本車輪用軸受装置1は、肉厚部2fに回転軸Cに対して並行に配置されるハブボルト4eの案内溝2hが形成されている。詳細に説明すると、本車輪用軸受装置1は、肉厚部2fの一部が内側へ窪んでおり、回転軸Cに対して並行に配置されるハブボルト4eの案内溝2hとなっている。
【0040】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2のアウター側端部に肉厚部2fが形成されていながら、案内溝2hを通じてハブボルト4eを脱着することができる(図6参照)。従って、本車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3を分解することなくハブボルト4eの交換作業が可能となるので、整備性の向上を実現することができる。
【0041】
加えて、案内溝2hは、所定の形状となるように設計されている。具体的に説明すると、案内溝2hは、貫通孔4dを中心とする円弧形状とされ、その半径dはハブボルト4eを構成するヘッド部分42eの半径とほぼ同様(同様若しくはやや大きい)となっている。そのため、案内溝2hは、ハブボルト4eを構成するネジ部分41eが貫通孔4dを通る際に、ハブボルト4eを構成するヘッド部分42eの外周面に周方向に沿い、かつ接することとなる。従って、ハブボルト4eを取り外す際には、ハブボルト4eのネジ部分41eをプレス機で押すと、案内溝2hに沿って真直に抜くことができる(図7参照)。また、ハブボルト4eを取り付ける際には、ハブボルト4eのネジ部分41eをナット等で締め込むと、案内溝2hに沿って真直に挿通することができる(図7参照)。
【0042】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、案内溝2hがハブボルト4eを真直に支持するので、ハブボルト4eの交換作業が容易となり、更に整備性の向上を実現することができる。
【0043】
なお、本車輪用軸受装置1は、ハブボルト4eが内方部材3の回転軸Cを中心とする同心円上に等間隔に設けられている。具体的に説明すると、本車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト4eを有しており、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が72°となる位置に設けられている。そのため、本車輪用軸受装置1は、五ヶ所の案内溝2hが、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が72°となる位置に形成されている。但し、倍数である10ヶ所に案内溝2hが設けられていても良い。このとき、案内溝2hは、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が36°となる位置に形成される。また、車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト4eを有しているが、四つのハブボルト4eを有して回転軸Cを中心とする位相角が90°となる位置に設けられているとしても良い。この場合、四ヶ所の案内溝2hが、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が90°となる位置に形成されている。但し、倍数である8ヶ所に案内溝2hが設けられるとしても良い。
【0044】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、全ての案内溝2hに全てのハブボルト4eの位置を重ねることができるので、ハブボルト4eの交換作業が容易となり、更に整備性の向上を実現することができる。
【0045】
次に、図8から図10を用いて、第二実施形態である車輪用軸受装置1について詳細に説明する。図8は、図2におけるB−B断面に相当する断面図である。図9は、ハブボルト4eの交換作業を示している。また、図10は、案内溝2hがハブボルト4eを真直に支持している状況を示している。
【0046】
第二実施形態である車輪用軸受装置1についても、外方部材2の形状が内方部材3の回転軸Cを中心とする略円筒形状となっている。また、本車輪用軸受装置1は、外方部材2の軸方向断面の形状がアウター側端部で外側へ膨らんでいる。つまり、外方部材2のアウター側端部には、径方向に突出した肉厚部2fが全周にわたって形成されている。なお、本車輪用軸受装置1において、肉厚部2fは、回転軸C方向に外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dを超えた位置まで形成されている。そのため、本車輪用軸受装置1は、アウター側に形成された外側転走面2dにおける肉厚寸法が全周にわたって大きくなっている。従って、外側転走面2dが形成されている部分の肉厚寸法は、周方向で大きく、かつ一定である。かかる特徴は、少なくとも外側転走面2dが形成されている部分を覆うように肉厚部2fを形成することで実現される。
【0047】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、従来の車輪用軸受装置と比較して簡素な形状の差異でありながらも、外方部材2におけるアウター側の剛性が向上している。従って、本車輪用軸受装置1は、全体重量の増加を最小限に抑制しつつ外方部材2のアウター側開口部の変形を低減させ、ボール列6bに接する外側転走面2dの真円度が劣化するのを抑えることにより、転動疲労寿命の低下を防ぐことができる。
【0048】
更に、本車輪用軸受装置1は、肉厚部2fに回転軸Cに対して並行に配置されるハブボルト4eの案内溝2hが形成されている。詳細に説明すると、本車輪用軸受装置1は、肉厚部2fの一部が内側へ窪んでおり、回転軸Cに対して並行に配置されるハブボルト4eの案内溝2hとなっている。
【0049】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、外方部材2のアウター側端部に肉厚部2fが形成されていながら、案内溝2hを通じてハブボルト4eを脱着することができる(図9参照)。従って、本車輪用軸受装置1は、外方部材2と内方部材3を分解することなくハブボルト4eの交換作業が可能となるので、整備性の向上を実現することができる。
【0050】
加えて、案内溝2hは、所定の形状となるように設計されている。具体的に説明すると、案内溝2hは、貫通孔4dを中心とする円弧が接する切込形状若しくは多角形状とされ、その半径dはハブボルト4eを構成するヘッド部分42eの半径とほぼ同様(同様若しくはやや大きい)となっている。そのため、案内溝2hは、ハブボルト4eを構成するネジ部分41eが貫通孔4dを通る際に、ハブボルト4eを構成するヘッド部分42eの外周面に周方向に沿い、かつ接することとなる。従って、ハブボルト4eを取り外す際には、ハブボルト4eのネジ部分41eをプレス機で押すと、案内溝2hに沿って真直に抜くことができる(図10参照)。また、ハブボルト4eを取り付ける際には、ハブボルト4eのネジ部分41eをナット等で締め込むと、案内溝2hに沿って真直に挿通することができる(図10参照)。
【0051】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、案内溝2hがハブボルト4eを真直に支持するので、ハブボルト4eの交換作業が容易となり、更に整備性の向上を実現することができる。
【0052】
なお、本車輪用軸受装置1は、ハブボルト4eが内方部材3の回転軸Cを中心とする同心円上に等間隔に設けられている。具体的に説明すると、本車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト4eを有しており、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が72°となる位置に設けられている。そのため、本車輪用軸受装置1は、五ヶ所の案内溝2hが、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が72°となる位置に形成されている。但し、倍数である10ヶ所に案内溝2hが設けられていても良い。このとき、案内溝2hは、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が36°となる位置に形成される。また、車輪用軸受装置1は、五つのハブボルト4eを有しているが、四つのハブボルト4eを有して回転軸Cを中心とする位相角が90°となる位置に設けられているとしても良い。この場合、四ヶ所の案内溝2hが、それぞれ回転軸Cを中心とする位相角が90°となる位置に形成されている。但し、倍数である8ヶ所に案内溝2hが設けられるとしても良い。
【0053】
このような設計とすることで、本車輪用軸受装置1は、全ての案内溝2hに全てのハブボルト4eの位置を重ねることができるので、ハブボルト4eの交換作業が容易となり、更に整備性の向上を実現することができる。
【0054】
次に、図11および図12を用いて、上述した各実施形態の車輪用軸受装置1に適用し得る構造について説明する。図11の(A)と(B)は、車輪用軸受装置1における要部構造を示す断面図である。同じく、図12の(A)と(B)も、車輪用軸受装置1における要部構造を示す断面図である。
【0055】
図11の(A)に示すように、肉厚部2fは、外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dの外周にかけて形成され、その幅寸法W1が外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dの最大外径Dの位置までの幅寸法Waよりも大きい値となるように形成されていれば良い(W1>Wa)。つまり、肉厚部2fは、外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dの最大外径Dの位置を覆うように形成されていれば良い。なお、肉厚部2fは、外方部材2の肉厚t1が基準値以上(例えば5mmから8mm)となるように突出量p1だけ径方向の外側に突出している。
【0056】
このような設計としても、本車輪用軸受装置1は、外方部材2におけるアウター側の剛性が向上する。このため、本車輪用軸受装置1は、各実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を奏する。
【0057】
また、図11の(B)に示すように、肉厚部2fは、外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dの外周にかけて形成され、その幅寸法W2が外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dのアウター側の縁までの幅寸法Wbよりも大きく、外側転走面2dの最大外径Dの位置までの幅寸法Waよりも小さい値となるように形成されていても良い(Wa>W2>Wb)。つまり、肉厚部2fは、外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dの外周における一部を覆うように形成されていれば良い。なお、肉厚部2fは、外方部材2の肉厚t1が基準値以上(例えば5mmから8mm)となるように突出量p1だけ径方向の外側に突出している。
【0058】
このような設計としても、本車輪用軸受装置1は、外方部材2におけるアウター側の剛性が向上する。このため、本車輪用軸受装置1は、各実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を奏する。
【0059】
更に、図12の(A)に示すように、肉厚部2fは、外側転走面2dの外周を取り巻くように形成され、その幅寸法W3が外側転走面2dのアウター側の縁からインナー側の縁までの幅寸法Wcよりも大きい値となるように形成されていれば良い(W3>Wc)。つまり、肉厚部2fは、外側転走面2dのアウター側の縁からインナー側の縁までの外周を覆うように形成されていれば良い。なお、肉厚部2fは、外方部材2の肉厚t1が基準値以上(例えば5mmから8mm)となるように突出量p1だけ径方向の外側に突出している。
【0060】
このような設計としても、本車輪用軸受装置1は、外方部材2におけるアウター側の剛性が向上する。このため、本車輪用軸受装置1は、各実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を奏する。
【0061】
加えて、図12の(B)に示すように、肉厚部2fは、外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dの外周に形成された傾斜部分にかけて形成され、その幅寸法W4が外方部材2のアウター側端面から外方部材2が最も薄い肉厚t1となる位置までの幅寸法Wdよりも大きく、外側転走面2dの最大外径Dの位置までの幅寸法Waよりも小さい値となるように形成されていても良い(Wa>W4>Wd)。つまり、肉厚部2fは、外方部材2のアウター側端面から外側転走面2dの外周に形成された傾斜部分における一部を覆うように形成されていれば良い。なお、肉厚部2fは、外方部材2の肉厚t1が基準値以上(例えば5mmから8mm)となるように突出量p1だけ径方向の外側に突出している。
【0062】
このような設計としても、本車輪用軸受装置1は、外方部材2におけるアウター側の剛性が向上する。このため、本車輪用軸受装置1は、各実施形態の車輪用軸受装置1と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0063】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
2f 肉厚部
2h 案内溝
3 内方部材
4 ハブ輪
4b 車輪取り付けフランジ
4d 貫通孔
4e ハブボルト
5 内輪
6 転動体
7 シール部材
8 シールリング
9 スリンガ
10 シール部材
11 シールリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12