特許第6726104号(P6726104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6726104液体試料検査キット、及び液体試料検査キットの作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726104
(24)【登録日】2020年6月30日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】液体試料検査キット、及び液体試料検査キットの作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20200713BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20200713BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20200713BHJP
【FI】
   G01N35/02 A
   G01N33/543 521
   G01N33/543 525C
   G01N33/543 525U
   G01N37/00 101
【請求項の数】11
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-564847(P2016-564847)
(86)(22)【出願日】2015年12月14日
(86)【国際出願番号】JP2015084975
(87)【国際公開番号】WO2016098740
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-253075(P2014-253075)
(32)【優先日】2014年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】秋山 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】門田 健次
【審査官】 長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−113633(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0284110(US,A1)
【文献】 国際公開第2004/051228(WO,A1)
【文献】 特開平02−201163(JP,A)
【文献】 特開2007−064926(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0111197(US,A1)
【文献】 特表2012−524894(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0208975(US,A1)
【文献】 特開2005−257468(JP,A)
【文献】 特開平06−118000(JP,A)
【文献】 特表2001−526778(JP,A)
【文献】 特表2008−546997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00−37/00
G01N 33/543,33/553
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の被検出物質を検出する液体試料検査キットであって、
前記液体試料検査キットは、膜担体を用い、
前記膜担体中に、前記液体試料中の前記被検出物質を検出するための検知ゾーンを有し、
前記検知ゾーンにおいて前記被検出物質を検出した際に、検出されたことが目視で確認可能な色変化が生じ、
前記色変化が、検知前と検知後のRGB座標間距離で30以上の変化を示し、
前記膜担体には、前記液体試料を輸送できる少なくとも一つの流路が設けられ、
前記流路の底面に、前記液体試料を輸送するための毛細管作用を生じせしめる微細構造が設けられ
前記微細構造が、前記検知ゾーンにもあり、
前記微細構造の形状が錐体である、
液体試料検査キット
【請求項2】
前記膜担体が、ガラス転移点が80〜180℃である熱可塑性プラスチックからなる、請求項1に記載の液体試料検査キット
【請求項3】
前記膜担体が、融点が80〜180℃である熱可塑性プラスチックからなる、請求項1または2に記載の液体試料検査キット
【請求項4】
前記熱可塑性プラスチックの貯蔵弾性率が、ガラス転移点もしくは融点より20℃高い温度で1.0×10Pa以下となることを特徴とする、請求項2または3に記載の液体試料検査キット
【請求項5】
前記微細構造の底面の径が、10〜1000μmである、請求項1〜の何れか一項に記載の液体試料検査キット
【請求項6】
前記微細構造の高さが、10〜500μmである、請求項1〜の何れか一項に記載の液体試料検査キット
【請求項7】
前記微細構造のアスペクト比が、10:1〜1:2である、請求項1〜の何れか一項に記載の液体試料検査キット
【請求項8】
前記微細構造の底面の径と、前記微細構造同士の最近接中心間距離との比が、1より大きく5以下である、請求項1〜の何れか一項に記載の液体試料検査キット
【請求項9】
前記検知ゾーンにおいて前記被検出物質を検出した際に、検出されたことが目視で確認可能な色変化を生じせしめる検出物質が、前記検知ゾーンに固定されている、請求項1〜8の何れか一項に記載の液体試料検査キット。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項に記載された液体試料検査キットを作製する方法であって、
前記膜担体を、熱インプリントによって作製することを特徴とする、液体試料検査キットの作製方法。
【請求項11】
前記液体試料検査キットの前記検知ゾーンに、前記検知ゾーンにおいて前記被検出物質を検出した際に、検出されたことが目視で確認可能な前記色変化を生じせしめる検出物質を固定する、請求項10に記載の液体試料検査キットの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中の被検出物質を検出する検査キット用の膜担体、それを用いた液体試料検査キット、及び液体試料検査キットの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗原抗体反応などを用いることで、感染症への罹患や妊娠を検査したり、血糖値などを測定したりする、Point of Care Test(POCT)試薬が注目を集めている。POCT試薬を用いた検査・測定では、短時間での結果の判別が可能である。また、POCT試薬の使用方法は簡便であり、POCT試薬は安価である。POCT試薬は、これらの特徴を有するため、症状が軽度である段階での診察や定期診察などに多く使用されている。また今後増加することが予想される在宅医療においてもPOCT試薬は重要な診察ツールとなる。
【0003】
POCT試薬の一種である検査キットを用いた検査又は診断では、血液などの液体試料を検査キットに導入し、液体試料に含まれる特定の被検出物質を検出する。液体試料から特定の被検出物質を検出する方法として、イムノクロマトグラフィー法がよく用いられている。イムノクロマトグラフィー法では、検査キットが備える膜担体上に液体試料を滴下して、液体試料が膜担体上を移動する過程で、液体試料中の被検出物質が標識物質と結合する。さらに被検出物質が、検査キット中に固定された物質(以下、検出物質という)と特異的・選択的に結合する。その結果検査キットに生じた色や重量の変化などを検出する。検出物質は、試薬(reagant)と言い換えてもよい。
【0004】
液体試料を移動させるための膜担体としては、ニトロセルロース膜がよく用いられている(下記特許文献1参照。)。ニトロセルロース膜は、直径が数μm程度の微細な孔を多数有しており、その孔の中を液体試料が毛細管力によって移動する。
【0005】
しかしニトロセルロース膜は天然物由来であり、膜における孔径や孔同士のつながり方が一様ではないため、膜における液体試料の流速が膜によって異なる。流速に差異が生じると、被検出物質の検出にかかる時間も変化してしまう。その結果、被検出物質が標識物質又は試薬と結合する前に、被検出物質が検出されない、という誤った判断がなされてしまう可能性がある。
【0006】
上記の課題を解決するため、液体試料の微細流路を人工的に作製する手法が考案されている(下記特許文献2、3参照。)。この手法を用いることで、均一な構造を有する膜担体を作製することができる。その結果、被検出物質が標識物質又は試薬と結合する前に、被検出物質が検出されない、という誤った判断がなされる可能性を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−062820号公報
【特許文献2】特許第4597664号
【特許文献3】特表2012−524894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
人工的に流路を作製する手法として、熱インプリントが挙げられる。熱インプリントとは、微細構造を有する金型(モールド)を基材(加工前の熱可塑性プラスチック)に押し当て、微細構造を、加熱により柔らかくした基材の表面に転写することで、微細構造を有する膜担体を作製するという手法である。この微細構造が、液体試料の流路として機能する。熱インプリントを用いれば、数十nm〜数百μmという広いオーダーの範囲で微細構造を作製することが可能である。さらに熱インプリントでは、真空装置などの大規模な機器が不要であるため、均一な構造を有する膜担体を安価かつ簡便に量産することができる。なお、金型が有する微細構造とは、基材に押し当てられる金型の表面に形成された無数の凹部である。膜担体が有する微細構造とは、膜担体の表面において突出する無数の凸部(突起)であり、金型の表面に形成された凹部に対応する形状を有する。つまり、基材のうち金型の凹部内に充填された部分が、膜担体の微細構造(凸部)になる。
【0009】
しかし上記の熱インプリントでは、微細構造のアスペクト比が1:2よりも高い構造を作製するのは困難である。つまり、水平方向の大きさをLhと垂直方向の大きさLvとの比Lv/Lhが2/1よりも高い微細構造を有する膜担体を、熱インプリントによって作製することは困難である。微細構造のアスペクト比が高いほど、膜担体をモールドから剥離する際に、膜担体の一部がモールド側に残留し易くなったり、膜担体の表面に形成された微細構造が容易に倒れたり変形したりする。したがって、微細構造のアスペクト比が高いほど、膜担体の生産性が低下してしまう。
【0010】
また、熱インプリントによって均一な微細構造を作製する場合、モールドの微細加工が精度よく均一に行われている必要がある。このような微細加工を行う手法としては、エッチング、フォトリソグラフィー、機械切削、レーザー加工等が挙げられる。しかし、いずれの手法も相当の加工費を要するものである。また、いずれの方法の場合も、金属部材からモールドを作製する際に金属部材の平坦面から削りだす金属の体積が大きいほど、加工費が増加する。したがって、金属部材から削りだす体積をできるだけ低減することで、モールドを安価に作製することができる。その結果、微細構造を有する膜担体を熱インプリントによって安価に作製することが可能となる。なお、金属部材の平坦面から削りだす金属の体積は、完成したモールドの表面に形成される凹部の容積と言い換えられる。また、モールドの表面に形成されている凹部の容積は、熱インプリントによって膜担体の表面に形成される個々の凸部(微細構造)の体積と言い換えてよい。
【0011】
ところで、膜担体における液体試料の流量が多いほど、液体試料中の被検出物質を検出し易い。したがって、液体試料の流量が多くなるような膜担体を用いることが被検出物質の検出には有利となる。膜担体における液体試料の流量を増やすためには、膜担体において液体試料が流れることのできる空隙が大きいことが必要である。したがって、空隙率の大きな微細構造が求められる。膜担体が有する微細構造における空隙の体積の合計を、Vvと表し、膜担体が有する微細構造自体(凸部自体)の体積の合計を、Vfと表すとき、微細構造の空隙率Rvは、100・Vv/(Vv+Vf)と表される。Vvは、凸部の間に位置する空間の体積の合計と言い換えてもよい。
【0012】
以上をまとめると、POCT試薬に供するための液体試料検査キット用の膜担体を作製する際には、毛細管作用による液体試料の流れを生じさせる流路として、アスペクト比が1:2(つまり、2/1)より小さく、さらに空隙率が大きい微細構造を形成することが求められる。微細構造の形成に用いるモールドの作製では、金属部材から削り出す金属の体積をできるだけ低減することが求められる。
【0013】
被検出物質を検出する手法として、着色ラテックス粒子、蛍光粒子、又は金属コロイド粒子などの標識物質と結合した被検出物質が、検知ゾーンに固定された試薬と結合することによって生じる検知ゾーンの色変化を、吸光度測定器などの光学測定機器によって検知する方法がよく知られている。
【0014】
しかし上記の手法では、判定を行うための光学測定機器を準備する必要があるため、POCT試薬の使用方法を複雑にしてしまう。さらに光学測定機器を用いることは、POCT試薬の製造コストを押し上げる要因となってしまう。
【0015】
したがって、短時間での結果の判別が可能あり、使用方法が簡便あり、安価である、というPOCT試薬(検査キット)の特徴を生かすためには、被検出物質を検知する際の色変化を目視で確認できるほど大きなものにする必要がある。
【0016】
以上をまとめると、POCT試薬に供するための液体試料検査キットを作製する際には、検知時の色変化を目視で確認できるほど大きくする必要がある。さらに、毛細管作用による液体試料の流れを生じさせる流路として、アスペクト比が1:2(つまり、2/1)より小さく、さらに空隙率が大きい微細構造を形成することが求められる。微細構造の形成に用いるモールドの作製では、金属部材から削り出す金属の体積をできるだけ低減することが求められる。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱インプリントによって安価に作製可能であり、液体試料を毛細管力によって移動させることができる流路を有し、液体試料中の被検出物質の検知時の色変化を肉眼で確認できる液体試料検査キット用の膜担体、それを用いた液体試料検査キット、および液体試料検査キットの作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1) 液体試料中の被検出物質を検出する検査キット用の膜担体であって、
液体試料を輸送できる少なくとも一つの流路が設けられ、
前記流路の底面に、液体試料を輸送するための毛細管作用を生じせしめる微細構造が設けられている液体試料検査キット用膜担体。
微細構造とは、毛細管作用を生じせしめる複数の凸部(突起)、又は複数の凸部の総体である。したがって、上記本発明は、次にように言い換えてよい。
本発明の一側面に係る液体試料検査キット用の膜担体は、流路の底面に相当する平坦部と、平坦部から突出する複数の凸部(突起)と、を備える。つまり、膜担体の表面は、平坦部と、平坦部から突出する複数の凸部(突起)と、を含む。微細構造が起こす毛細管作用により、微細構造における空隙(複数の凸部の間の空間)は、液体試料を膜担体の表面に沿って輸送する流路として機能する。

(2) ガラス転移点(Tg)が80〜180℃である熱可塑性プラスチックからなる、(1)に記載の液体試料検査キット用膜担体。

(3) 融点(Tm)が80〜180℃である熱可塑性プラスチックからなる、(1)または(2)に記載の液体試料検査キット用膜担体。

(4) 前記熱可塑性プラスチックの貯蔵弾性率が、ガラス転移点もしくは融点より20℃高い温度で1.0×10Pa以下となることを特徴とする、(2)又は(3)に記載の液体試料検査キット用膜担体。
「ガラス転移点もしくは融点より20℃高い温度」とは、ガラス転移点より20℃高い温度、又は融点より20℃高い温度、と言い換えてよい。

(5) 前記微細構造の形状が錐体である、(1)〜(4)の何れか一項に記載の液体試料検査キット用膜担体。
つまり、微細構造(凸部)は、錐体であってよい。

(6) 前記微細構造の底面の径が、10〜1000μmである、(1)〜(5)の何れか一項に記載の液体試料検査キット用膜担体。
例えば微細構造が錐体である場合、微細構造の底面の径とは、錐体の底面の直径と言い換えてよい。

(7) 前記微細構造の高さが、10〜500μmである、(1)〜(6)の何れか一項に記載の液体試料検査キット用膜担体。
微細構造の高さとは、膜担体の平坦部からの凸部(突起)の高さと言い換えてよい。

(8) 前記微細構造のアスペクト比が、10:1〜1:2である、(1)〜(7)の何れか一項に記載の液体試料検査キット用膜担体。
微細構造の水平方向(短手方向)における長さ(太さ)を、Lhと表し、微細構造の垂直方向(長手方向)における長さを、Lvと表すとき、アスペクト比は、Lv/Lhと表される。つまり、微細構造のアスペクト比Lv/Lhは、1/10以上2/1以下であってよい。例えば、微細構造が錐体である場合、Lhは、錐体の底面の直径であってよく、Lvは、膜担体の平坦部からの錐体の高さであってよい。

(9) 前記微細構造の底面の径と、前記微細構造同士の最近接中心間距離との比が、1より大きく5以下である、(1)〜(8)の何れか一項に記載の液体試料検査キット用膜担体。
「微細構造同士の最近接中心間距離」とは、隣り合う一対の微細構造(凸部)の中心間の距離と言い換えてよい。つまり、「微細構造同士の最近接中心間距離」とは、微細構造のピッチと言い換えてもよい。微細構造の底面の径とは、例えば、凸部の底面の直径と言い換えてよい。例えば、微細構造が錐体である場合、「微細構造同士の最近接中心間距離」とは、隣り合う錐体の頂点間の距離と言い換えてよい。

(10) (1)〜(9)の何れか一項に記載された液体試料検査キット用膜担体を用い、
前記膜担体中に液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーンを有し、
前記検知ゾーンにおいて被検出物質を検出した際に、検出されたことが目視で確認可能な色変化が生じる液体試料検査キット。
換言すると、本発明の一側面に係る液体試料検査キットは、上記本発明に係る膜担体を備え、膜担体の表面には、液体試料が滴下される滴下ゾーンと、液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーンと、少なくとも滴下ゾーンと検知ゾーンとの間に位置する上記微細構造と、がある。微細構造の毛細管作用により、液体試料が滴下ゾーンから検知ゾーンへ輸送される。液体試料中の被検出物質が検知ゾーンにおいて検出されると、検知ゾーンの色が変化する。

(11) 前記検知ゾーンにおいて被検出物質を検出した際に、検出されたことが目視で確認可能な色変化を生じせしめる検出物質が、前記検知ゾーンに固定されている、(10)に記載の液体試料検査キット。
検出物質とは、被検出物質と選択的に結合する試薬(reagant)、又は被検出物質と選択的に結合する標識物質(呈色物質)と言い換えてよい。

(12) 前記色変化が、検知前と検知後のRGB座標間距離で30以上の変化を示す、(10)または(11)に記載の液体試料検査キット。
つまり、被検出物質が検出される前の検知ゾーンの色のRGB系色空間における座標が、C1と表され、被検出物質が検出された後の検知ゾーンの色のRGB系色空間における座標が、C2と表されるとき、座標C1と座標C2との距離が30以上であってよい。

(13) (1)〜(9)の何れか一項に記載された液体試料検査キット用膜担体を、熱インプリントによって作製することを特徴とする液体試料検査キットの作製方法。
つまり、本実施形態に係る液体試料検査キットの製造方法は、複数の凹部が形成された金型(モールド)の表面を、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材に当てて、且つ基材を加熱することにより、凹部の形状に対応する微細構造(複数の凸部)と平坦部とを有する膜担体を作製する工程(熱インプリント工程)を備えてよい。

(14) (10)〜(12)の何れか一項に記載された液体試料検査キットの検知ゾーンに、検知ゾーンにおいて被検出物質を検出した際に、検出されたことが目視で確認可能な色変化を生じせしめる検出物質を固定する、(13)に記載の液体試料検査キットの作製方法。
つまり、本発明の一側面に係る液体試料検査キットの製造方法は、微細構造がある膜担体の表面に、液体試料中の被検出物質と選択的に結合する試薬を固定する工程をさらに備えてよい。
本発明の一側面に係る液体試料検査キットの製造方法は、微細構造がある膜担体の表面に、液体試料中の被検出物質と選択的に結合する試薬及び標識物質のうち少なくともいずれかを固定する工程をさらに備えてよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る膜担体、液体試料検査キット、及び液体試料検査キットの作製方法によれば、液体試料中の被検出物質の検知時の判定が目視で行えることから、検査キットの使用方法が容易である。また膜担体の微細構造を熱インプリントで作製可能であることから、膜担体が安価であり、この膜担体を備える検査キットは、使い捨て可能なPOCT試薬(検査キット)に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1中の(a)は、本発明の一実施形態に係る膜担体が備える微細構造の俯瞰図(上面図)であり、図1中の(b)は、図1中の(a)に記載の微細構造の斜視図である。
図2図2中の(a)は、本発明の一実施形態に係る膜担体が備える微細構造の俯瞰図(上面図)であり、図2中の(b)は、図2中の(a)に記載の微細構造の斜視図である。
図3図3中の(a)は、本発明の一実施形態に係る膜担体が備える微細構造の俯瞰図(上面図)であり、図3中の(b)は、図3中の(a)に記載の微細構造の斜視図である。
図4図4は、図1中の(a)及び(b)に記載の膜担体の断面図であり、膜担体の表面(平坦部)に垂直な断面図である。
図5図5中の(a)、(b)及び(c)は、本発明の一実施形態に係る膜担体を熱インプリントによって作製する工程を示す模式図である。
図6図6中の(a)は、参考例6の計算に用いたモールドの構造の俯瞰図(上面図)であり、図6中の(b)は、図6中の(a)に記載の構造のA‐A線における断面図である。
図7図7中の(a)は、参考例6の計算に用いたモールドの構造の俯瞰図(上面図)であり、図7中の(b)は、図7中の(a)に記載の構造のB‐B線における断面図である。
図8図8は、本発明の一実施形態に係る検査キットの模式的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下では、本発明の実施形態について説明する。本実施形態に係る検査キットは、液体試料中の被検出物質を検出する。例えば、図8に示すように、検査キット18は、膜担体3と、膜担体3を収容する筐体18aと、を備える。膜担体3の表面には、液体試料が滴下される滴下ゾーン3xと、液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーン3yと、がある。滴下ゾーン3xは、筐体18aの第一開口部18bにおいて露出している。検知ゾーン3yは、筐体18aの第二開口部18cにおいて露出している。膜担体3には、液体試料を輸送する少なくとも一つの流路が設けられ、流路の底面には、微細構造が設けられている。微細構造は、少なくとも滴下ゾーン3xと検知ゾーン3yとの間に位置する。膜担体3の表面全体にわたり、微細構造があってよい。膜担体3の表面全体が、液体試料の流路であってよい。微細構造は、毛細管作用を生じせしめる。微細構造の毛細管作用により、液体試料は、微細構造を介して、滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ輸送される。液体試料中の被検出物質が検知ゾーン3yにおいて検出されると、検知ゾーン3yの色が変化する。図1図2、又は図3に示すように、微細構造は、凸部(14,14a又は14b)、又は複数の凸部(14,14a又は14b)の総体である。つまり、膜担体(3,3a又は3b)は、液体試料の流路の底面に相当する平坦部(13,13a又は13b)と、平坦部(13,13a又は13b)から突出する複数の凸部(14,14a又は14c)と、を備える。毛細管作用により、複数の凸部(14,14a又は14c)の間の空間が、液体試料を膜担体3の表面に沿って輸送する流路として機能する。換言すれば、毛細管作用により、微細構造(14,14a又は14c)における空隙が、液体試料を膜担体3の表面に沿って輸送する流路として機能する。複数の凸部(14,14a又は14c)は、規則的に、又は並進対称的に、膜担体3の表面上に並んでいてよい。

本発明の一側面に係る液体試料の検査方法は、検査キット18を用いる検査方法であり、
例えば、上記検査キット18は、膜担体3と、膜担体3を収容する筐体18aと、を備え、膜担体3の表面には、液体試料が滴下される滴下ゾーン3xと、液体試料中の被検出物質を検出するための検知ゾーン3yと、少なくとも滴下ゾーン3xと検知ゾーン3yとの間に位置する微細構造(複数の凸部)と、があり、滴下ゾーン3xは、筐体18aの第一開口部18bにおいて露出しており、検知ゾーン3yは、筐体18aの第二開口部18cにおいて露出しており、微細構造(複数の凸部)を含む膜担体3の全体が、熱可塑性プラスチックからなり、
例えば、上記検査方法は、液体試料を、膜担体3の表面のうち滴下ゾーン3xに滴下する工程と、膜担体3の表面に形成されている微細構造14(複数の凸部)が奏する毛細管作用により、微細構造14を介して、液体試料を滴下ゾーン3xから検知ゾーン3yへ輸送する工程と、輸送過程において、液体試料中の被検出物質を、標識物質と結合させ、さらに、被検出物質を、検知ゾーン3yに固定された試薬と結合させて、検知ゾーン3yにおける色の変化(標識物質の呈色)の有無を目視して判定する工程と、を備えてよい。
【0022】
膜担体は、熱可塑性プラスチックからなっていてよい。換言すれば、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材を熱インプリントによって加工することにより、微細構造を有する膜担体を作製することができる。膜担体を構成する熱可塑性プラスチックは、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、およびアクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。具体的な熱可塑性プラスチックは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなる少なくとも一種であってよい。
【0023】
上記の熱可塑性プラスチックのガラス転移点Tg又は融点Tmは、80〜180℃であってよい。ガラス転移点Tgより20℃高い温度での熱可塑性プラスチックの貯蔵弾性率は、1.0Pa以上1.0×10Pa以下であってよい。融点Tmより20℃高い温度での熱可塑性プラスチックの貯蔵弾性率は、1.0Pa以上1.0×10Pa以下であってよい。熱可塑性プラスチックのガラス転移又は融解が80℃未満の温度で起こり、さらにガラス転移点又は融点よりも20℃高い温度での熱可塑性プラスチックの貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下である場合、熱可塑性プラスチックを、室温で固体として使用するのは実用上困難であり、熱インプリントによって膜担体を作製し難くなる。熱可塑性プラスチックのガラス転移又は融解が180℃より高い温度で起こる場合、熱インプリント時の成型温度が高くなり、膜担体の生産性が低下する。つまり、熱インプリント時に熱可塑性プラスチックを柔らかくするために要する温度が180℃より高い場合、膜担体の生産性が低下する。ガラス転移点又は融点よりも20℃高い温度での熱可塑性プラスチックの貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下である場合、微細構造を作製する際に必要な成型圧力を小さく抑えることができ、比較的温和な条件で微細構造を作製できるため、膜担体の生産効率が向上する。
【0024】
膜担体に設けられた微細構造は、例えば、錐体が規則的に整列した構造であってよい。つまり、微細構造は錐体であってよい。規則的に整列した錐体は、モールドを用いた熱インプリントによって形成することができる。モールドを用いて錐体を形成する場合、モールドを用いて溝状の流路(ラインandスペース構造)を形成する場合に比べて、モールドの作製時に金属部材の表面から削り出す金属の体積が大幅に低減され、モールドの加工費が低減する。対照的に、ラインandスペース構造を形成するためのモールドの作製では、多量の金属を金属部材から削り取らなくてはならない。
【0025】
また錐体の上部は、錐体の底面に比べて細い。したがって、モールドを用いて錐体を形成する場合、錐体と同じ底面を有する柱体をモールドで形成する場合に比べて、モールドの作製時に金属部材の表面から削り出す金属の体積が大幅に低減され、モールドの加工費が低減する。
【0026】
さらに錐体が規則的に整列した微細構造の空隙率は、ラインandスペース構造の空隙率よりも大きい。また、錐体が規則的に整列した微細構造の空隙率は、錐体と同じ底面を有する複数の柱体が規則的に整列した構造よりも空隙率が大きい。そのため、錐体が規則的に整列した微細構造よれば、液体試料の流量を増加させることが可能であり、被検出物質を検出に有利となる。
【0027】
錐体(微細構造)の底面の形状は自由に選択することができる。例えば、図1中の(a)及び(b)に示すように、微細構造は、円錐14であってよい。例えば、図2中の(a)及び(b)に示すように、微細構造は、四角錐14aであってもよい。例えば、図3中の(a)及び(b)に示すように、微細構造は、六角錐14bであってもよい。モールドの加工の容易さ、および加工費用の抑制のためには、錐体の底面は、円形、又は多角形(例えば、正方形、ひし形、長方形、三角形、若しくは六角形など)であることが望ましい。
【0028】
上記微細構造の底面の径は、10〜1000μmであってよい。微細構造の底面の径が10μmよりも小さい場合、モールドの微細加工費が高くなり、また面積の大きい膜担体の表面に無数の微細構造を均一に作製し難い。したがって、小さ過ぎる微細構造は、実用に向かない。また微細構造の底面の径が10μmよりも小さい場合、液体試料を移動させるのに必要な毛細管力が弱まる傾向がある。微細構造の底面の径が1000μmよりも大きい場合、モールドの作製時に金属部材から削りだす金属の体積が大きくなり、モールド及び膜担体の作製費用が高くなってしまう。また微細構造の底面の径が1000μmよりも大きい場合、膜担体における流路の面積も大きくしなければならず、液体試料検査キットが巨大化して、液体試料検査キット自体の輸送に不利となる。図1中の(a)又は図4に示すように、微細構造が円錐14である場合、微細構造の底面の径は、円錐14の底面(円)の直径4であってよい。
【0029】
上記微細構造の高さは、10〜500μmであってよい。微細構造の高さが10μmよりも小さい場合、液体試料を移動させるのに必要な毛細管力が弱まる傾向がある。微細構造の高さが500μmよりも大きい場合、熱インプリントの際に熱可塑性プラスチックを金型の凹部(微細構造の形状に対応する窪み)へ完全に充填し難い。図1中の(a)又は図4に示すように、微細構造が円錐14である場合、微細構造の高さは、平坦部13からの円錐14の高さ6であってよい。
膜担体3,3a又は3bの全体の形状は、特に限定されないが、例えば、四角形等の多角形、円形、又は楕円形であってよい。膜担体3,3a又は3bが四角形である場合、膜担体3,3a又は3bの縦幅は、例えば、2〜100mmであってよく、膜担体3,3a又は3bの横幅は、例えば、2〜100mmであってよい。微細構造の高さを除く膜担体3,3a又は3bの厚みは、例えば、0.1〜10mmであってよい。
【0030】
上記微細構造のアスペクト比は、10:1〜1:2であってよい。つまり、微細構造のアスペクト比Lv/Lhは、1/10以上2/1以下であってよい。アスペクト比が10:1(つまり1/10)よりも小さい場合、液体試料と流路との接触面積が小さく、毛細管力が減少するため、液体試料を移動させ難い傾向がある。アスペクト比が1:2(つまり2/1)よりも大きい場合、熱インプリントによる膜担体の生産性が低下してしまう。図1中の(a)又は図4に示すように、微細構造が錐体である場合、微細構造の水平方向における長さLhは、円錐14の底面の直径4であってよい。また、微細構造の垂直方向における長さLvは、膜担体3の平坦部13からの円錐14の高さ6であってよい。
【0031】
微細構造の底面の径(D1)と、微細構造同士の最近接中心間距離(D2)との比D2/D1は、1より大きく5以下であってよい。比D2/D1は1以下でありえない。比D2/D1が5より大きい場合、液体試料と流路との接触面積が減少し、毛細管力が減少し、液体試料を移動させ難い傾向がある。図1中の(a)又は図4に示すように、微細構造が円錐14である場合、微細構造の底面の径D1は、円錐14の底面の直径4であってよく、最近接中心間距離D2は、隣り合う一対の円錐14の頂点間の距離5であってよい。微細構造の底面の径D1は、上述した微細構造の水平方向における長さLhと一致してもよい。したがって、アスペクト比Lv/Lhは、Lv/D1と表されてもよい。
【0032】
図5中の(a)、(b)及び(c)に示すように、本実施形態に係る液体試料検査キットの製造方法は、複数の凹部が形成された金型(モールド1)の表面を、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材2に当てて、且つ基材2を加熱することにより、凹部の形状に対応する微細構造(複数の凸部(14))と平坦部13とを有する膜担体3を作製する工程(熱インプリント工程)を備えてよい。液体試料検査キットの製造方法は、試薬又は標識物質を、微細構造がある膜担体の表面のうち検知ゾーンへ固定する工程をさらに備えてよい。液体試料中の被検出物質が標識物質と結合し、さらに被検出物質が、検知ゾーンの試薬と選択的に結合すると、検知ゾーンの色が変わる。したがって、検知ゾーンの色の変化を目視することにより、液体試料中の被検出物質が検出されたことを確認することができる。
熱インプリント工程で用いるモールドの微細加工法は、例えば、エッチング、フォトリソグラフィー、機械切削、又はレーザー加工等であってよい。加工サイズや加工範囲に適した微細加工法を選択することができる。
【0033】
熱インプリントを行う前に、モールドの離形処理を行うことが望ましい。離形処理では、例えば、モールド表面に単分子膜を作製し、表面エネルギーを小さくすればよい。その結果、熱インプリント後に、熱可塑性プラスチックからなる膜担体3をモールド1の表面から剥離し易くなる。
【0034】
熱インプリントの方式は、平板プレス式およびロール式のいずれであってもよい。図5に示す熱インプリントの方式は、平板プレス式である。平板プレス式では、平行に対面する上下のステージの間で、モールド1を、熱可塑性プラスチックからなる基材2と重ねて、これらをステージ間に挟む。そして、ステージを介して、モールド1及び基材2を加熱し、且つ加圧する。このような平板プレス式は、成型の精度が良い点において優れている。ロール式は、加熱したロール式モールドを用い、ロール同士の挟み圧によって成型を行う方式である。ロール式は、生産性に優れている。
【0035】
熱インプリントを行う際の成型温度、成型圧力、転写時間等の条件は、微細加工のサイズ、微細構造の形状、加工範囲の大きさなどに応じて、選択すればよい。例えば、平板プレス式の場合、成型温度は、ガラス転移点Tgよりも20〜50℃高い温度、又は融点Tmよりも20〜50℃高い温度であってよい。成型圧力は、1〜10MPaであってよい。転写時間(モールド1及び基材2を加圧しながら保持する時間)は、3〜10分であってよい。以上の諸条件下での熱インプレスにより、モールド1の微細構造を基材2の表面へ正確に転写し易くなる。
【0036】
膜担体3を構成する熱可塑性プラスチックの種類、及び試薬(検出物質)の種類によっては、検知の判定を目視で行えるほどの試薬(検出物質)を膜担体3の検知ゾーンに固定し難い。この場合、予め検知ゾーンのみに適当な表面処理を施すことにより、試薬(検出物質)を膜担体3の検知ゾーンに固定し易くなる。
【0037】
検知ゾーンの表面処理手法は、何ら限定されるものではなく、例えば、各種プラズマ処理、UV処理、UV/オゾン処理、又は、3−Aminopropyltriethoxysilane若しくはGlutaraldehydeによる表面修飾など種々の手法であってよい。
【0038】
検知ゾーンに固定される試薬(検出物質)は、例えば、抗体であってよい。抗体は、被検出物質との抗原抗体反応を起こす物質である。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。被検出物質は、何ら限定されるものではなく、各種病原体、各種臨床マーカー等、抗体との抗原抗体反応を起こすことが可能な如何なる物質であってもよい。具体例な被検出物質は、例えば、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、RSウイルス、HAV、HBs、HIV等のウイルス抗原であってよい。被検出物質は、MRSA、A群溶連菌、B群溶連菌、レジオネラ属菌等の細菌抗原、細菌等が産生する毒素であってもよい。被検出物質は、マイコプラズマ、クラミジア・トラコマティス、ヒト絨毛性ゴナドトロピン等のホルモンであってもよい。被検出物質は、C反応性タンパク質、ミオグロビン、心筋トロポニン、各種腫瘍マーカー、農薬、及び環境ホルモン等であってもよい。特に、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、C反応性タンパク質、ミオグロビン、及び心筋トロポニンのような被検出物質の検出と、これ等に起因する病気の治療措置に急を要する場合、本実施形態に係る検査キットの有用性が特に大きい。なお、被検出物質は、単独で免疫反応を誘起できる抗原であってもよい。被検出物質は、単独では免疫反応を誘起できないが、抗体と抗原抗体反応により抗体に結合することが可能なハプテンであってもよい。
【0039】
被検出物質が検出される前の検知ゾーンの色のRGB系色空間(RGB座標空間)における座標が、C1と表され、被検出物質が検出された後の検知ゾーンの色のRGB系色空間における座標が、C2と表されるとき、RGB系色空間における座標C1と座標C2との距離は、30以上であることが望ましい。座標C1は、検知前における検知ゾーンのR値(Red値),G値(Green値)及びB値(Blue値)の測定によって求められる。座標C2は、検知後における検知ゾーンのR値,G値、及びB値の測定によって求められる。RGB系色空間における座標C1と座標C2との距離は、計算によって求められる。このRGB座標間距離は、被検出物質の検出の前後における検知ゾーンの色度差と言い換えてよい。この色度差が30より小さい場合、色の違い・変化を目視で確認し難い傾向がある。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
<モールドの準備>
金属部材のレーザー加工によって、モールドを作製した。金属部材は、アルミ合金A5052製であった。レーザー加工では、複数の逆円錐型の凹部(つまり、微細構造)を、モールドの平坦な表面の中心部(3cm×3cmの正方形の範囲)に形成した。いずれの凹部も同じ形状であった。凹部の径は10μmであった。凹部の径は、最終的に得られる膜担体の微細構造(円錐)の底面の直径(D1又はLh)に等しい。隣接する一対の凹部の中心間の距離は、15μmであった。この凹部の中心間の距離は、膜担体の表面において隣り合う微細構造(円錐)の頂点間の距離(D2)に等しい。凹部の深さは、10μmであった。凹部の深さは、膜担体の微細構造(円錐)の高さ(hv)に等しい。複数の凹部は、図1に示す円錐14の配置(三角配列形式)と同じように、モールドの中心部において規則的に並んでいた。
凹部が形成されたモールドの表面(凹凸面)に対して、離型処理を施した。離型処理では、モールドの表面(凹凸面)を処理液中に約1分浸した後、モールドの表面を乾燥させた。乾燥したモールドを一晩静置した。以上の離型処理に用いた処理液には、ダイキン工業社製のオプツールHD−2100THを用いた。
【0042】
<熱インプリント工程(微細構造の転写)>
下記の熱インプリント工程によって、モールド表面の微細構造を、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材の表面に転写した。熱インプリント工程では、SCIVAX社製のX−300を用いた。熱インプリント工程では、微細構造(複数の凹部)が形成された上記モールドの表面を、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材に当てて、モールド及び基材を加熱しながら加圧した。成型温度は120℃であった。印加圧力は5.5MPaであった。転写時間は5分であった。微細構造の転写後、モールド及び基材へ圧力を印加した状態で、モールド及び基材を80℃まで冷却した。冷却後に圧力を除いた。以上の熱インプリント工程により、実施例1の膜担体を得た。この膜担体は、複数の円錐(微細構造)と平坦部とを含む表面を有していた。膜担体の表面にある凸部(円錐)の形状及びサイズは、モールドに形成された凹部(逆円錐)の形状及びサイズに一致していた。
熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材は、ポリスチレン(PS)からなる膜(電気化学工業社製のデンカスチレンシート)であった。基材の厚さは、188μmであった。基材(膜担体)は、四角形であった。基材(膜担体)の縦幅は、50mmであり、基材(膜担体)の横幅は、50mmであった。
ブルカー・エイエックスエス社製のDSC3100を用いて、基材(膜担体)を構成するポリスチレンのガラス転移点Tgを測定した。ガラス転移点Tgの測定では、基材を、窒素雰囲気下で、10℃/分の昇温速度で加熱した。ポリスチレンのガラス転移点Tgは、106℃であった。
基材(膜担体)を構成するポリスチレンの引張モードでの貯蔵弾性率を測定した。貯蔵弾性率の測定には、ティーエイ・インストゥルメンツ社製のRSAIIIを用いた。貯蔵弾性率の測定時の周波数は1Hzであった。126℃でのポリスチレンの貯蔵弾性率は、1.8×10Paであった。
【0043】
[実施例2]
実施例2のモールドの表面に形成された凹部の径は10μmであった。実施例2のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、50μmであった。実施例2のモールドの表面に形成された凹部の深さは、10μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例2の膜担体を作製した。
【0044】
[実施例3]
実施例3のモールドの表面に形成された凹部の径は10μmであった。実施例3のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、15μmであった。実施例3のモールドの表面に形成された凹部の深さは、20μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例3の膜担体を作製した。
【0045】
[実施例4]
実施例4のモールドの表面に形成された凹部の径は10μmであった。実施例4のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、50μmであった。実施例4のモールドの表面に形成された凹部の深さは、20μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例4の膜担体を作製した。
【0046】
[実施例5]
実施例5のモールドの表面に形成された凹部の径は100μmであった。実施例5のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、110μmであった。実施例5のモールドの表面に形成された凹部の深さは、10μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例5の膜担体を作製した。
【0047】
[実施例6]
実施例6のモールドの表面に形成された凹部の径は100μmであった。実施例6のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、500μmであった。実施例6のモールドの表面に形成された凹部の深さは、10μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例6の膜担体を作製した。
【0048】
[実施例7]
実施例7のモールドの表面に形成された凹部の径は1000μmであった。実施例7のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、1010μmであった。実施例7のモールドの表面に形成された凹部の深さは、100μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例7の膜担体を作製した。
【0049】
[実施例8]
実施例8のモールドの表面に形成された凹部の径は1000μmであった。実施例8のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、5000μmであった。実施例8のモールドの表面に形成された凹部の深さは、100μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例8の膜担体を作製した。
【0050】
[実施例9]
実施例9のモールドの表面に形成された凹部の径は250μmであった。実施例9のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、260μmであった。実施例9のモールドの表面に形成された凹部の深さは、500μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例9の膜担体を作製した。
【0051】
[実施例10]
実施例10のモールドの表面に形成された凹部の径は250μmであった。実施例10のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、1250μmであった。実施例10のモールドの表面に形成された凹部の深さは、500μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例10の膜担体を作製した。
【0052】
[実施例11]
実施例11のモールドの表面に形成された凹部の径は1000μmであった。実施例11のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、1010μmであった。実施例11のモールドの表面に形成された凹部の深さは、500μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例11の膜担体を作製した。
【0053】
[実施例12]
実施例12のモールドの表面に形成された凹部の径は1000μmであった。実施例12のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、5000μmであった。実施例12のモールドの表面に形成された凹部の深さは、500μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、実施例12の膜担体を作製した。
【0054】
[実施例13〜24]
実施例13〜24では、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材として、ポリスチレンからなる膜の代わりに、ポリカーボネート(PC)からなる膜を用いた。ポリカーボネートからなる膜としては、帝人株式会社製のパンライトを用いた。ポリカーボネートからなる基材の厚さは、200μmであった。基材(膜担体)は、四角形であった。基材(膜担体)の縦幅は、50mmであり、基材(膜担体)の横幅は、50mmであった。
ブルカー・エイエックスエス社製のDSC3100を用いて、基材(膜担体)を構成するポリカーボネートのガラス転移点Tgを測定した。ガラス転移点Tgの測定では、基材を、窒素雰囲気下で、10℃/分の昇温速度で加熱した。ポリカーボネートのガラス転移点Tgは、160℃であった。
基材(膜担体)を構成するポリカーボネートの引張モードでの貯蔵弾性率を測定した。貯蔵弾性率の測定には、ティーエイ・インストゥルメンツ社製のRSAIIIを用いた。貯蔵弾性率の測定時の周波数は1Hzであった。180℃でのポリカーボネートの貯蔵弾性率は、4.5×10Paであった。
膜状の基材が異なること以外は実施例1の同様の方法で、実施例13の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例2の同様の方法で、実施例14の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例3の同様の方法で、実施例15の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例4の同様の方法で、実施例16の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例5の同様の方法で、実施例17の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例6の同様の方法で、実施例18の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例7の同様の方法で、実施例19の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例8の同様の方法で、実施例20の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例9の同様の方法で、実施例21の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例10の同様の方法で、実施例22の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例11の同様の方法で、実施例23の膜担体を作製した。膜状の基材が異なること以外は実施例12の同様の方法で、実施例24の膜担体を作製した。
【0055】
<検知ゾーンへの試薬(抗体)の固定>
以下の方法により、各実施例の膜担体の表面(微細構造がある表面)のうち、下記の検知ゾーンA及び検知ゾーンBのみを露出させ、その他の部分をマスクで覆った。続いて、検知ゾーンA及び検知ゾーンBへUV処理を施した。
検知ゾーンA: 膜担体の下端からの距離が0.6cmであり、幅が約1mmである、ライン状の部分。
検知ゾーンB: 膜担体の下端からの距離が1.0cmであり、幅が約1mmである、ライン状の部分。
抗A型インフルエンザNP抗体(試薬A)の浮遊液Aを、検知ゾーンAへ塗布した。続いて、検知ゾーンAを温風下で良く乾燥させて、抗A型インフルエンザNP抗体を検知ゾーンAに固定した。浮遊液Aの塗布量は、18μLであった。検知ゾーンAにおいて浮遊液Aが塗布された部分の長さは、3cmであった。
抗B型インフルエンザNP抗体(試薬B)の浮遊液Bを、検知ゾーンBへ塗布した。続いて、検知ゾーンBを温風下で良く乾燥させて、抗B型インフルエンザNP抗体を検知ゾーンBに固定した。浮遊液Bの塗布量は、18μLであった。検知ゾーンBにおいて浮遊液Bが塗布された部分の長さは、3cmであった。
【0056】
<標識物質の調製>
上記の抗A型インフルエンザNP抗体(試薬A)とは異なる、精製された抗A型インフルエンザウイルスNP抗体(精製抗体A)を準備した。また、上記の抗B型インフルエンザNP抗体(試薬B)とは異なる、精製された抗B型インフルエンザウイルスNP抗体(精製抗体B)を準備した。
精製抗体Aと、青色ラテックス粒子(CM/BL セラダイン製)との共有結合により、精製抗体Aを標識した。青色ラテックス粒子の粒子径は0.394μmであった。糖、界面活性剤及びタンパク質を含むトリス緩衝液を準備した。トリス緩衝液中のラテックス粒子の濃度が0.025w/v%になるように、標識された精製抗体Aをトリス緩衝液に添加して、トリス緩衝液を懸濁した。続いて、トリス緩衝液のソニケーションを行って、トリス緩衝液中で充分に分散浮遊させた抗A型標識体を調製した。
精製抗体Aの代わりに精製抗体Bを用いたこと以外は抗A型標識体の場合と同じ方法で、トリス緩衝液中で充分に分散浮遊させた抗B型標識体を調製した。
【0057】
抗A型標識体及び抗B型標識体の混合液を調製した。この混合液をガラス繊維に塗布した。ガラス繊維の大きさは、3cm×1cmであった。ガラス繊維1平方センチメートルあたりの混合液の塗布量は、50μLであった。ガラス繊維としては、Schleicher&Schuell製の33GLASS NO.10539766を用いた。混合液が塗布されたガラス繊維を、温風下で良く乾燥させ、標識体パッドを作製した。実施例1〜24それぞれの膜担体の、検知ゾーンに近いほうの端部に、標識物質パッドを重ねた。標識物質パッドが重なる膜担体の端部の幅は2mmであった。標識物質パッドが重なる膜担体を、幅5mmの短冊状にカッターで裁断して、一体化された膜担体及び標識物質パッドから構成される液体試料検査キットを作製した。
【0058】
<検知性能の評価>
希釈溶液として、デンカ生研社製のクイックナビ―Fluに付属している検体浮遊液を準備した。検出物質として、A型インフルエンザウイルス A/Beijing/32/92(H3N2)を用いた。このA型インフルエンザウイルスを検体浮遊液で4×10倍に希釈して、液体試料Aを調製した。別の検出物質として、B型インフルエンザウイルス B/Shangdong/7/97を用いた。このB型インフルエンザウイルスを検体浮遊液で4×10倍に希釈して、液体試料Bを調製した。
実施例1〜24それぞれの液体試料検査キットの端部に、液体試料A及びBそれぞれを個別に100μLずつ滴下した。液体試料が滴下された検査キットの端部は、検出ゾーンA及び検出ゾーンBに近いほうの端部であった。滴下後の液体試料が検査キット上で移動する様子を、直上からデジタルカメラで録画した。この動画から、検査キット上を移動する液体試料の流速を算出した。実施例1〜24それぞれの検査キットにおける液体試料の流速の評価結果を、表1及び表2に示す。
各表中の二重丸印が付された実施例は、発明の効果において、丸印が付された実施例よりも優れている。各表中の丸印が付された実施例は、発明の効果において、三角印が付された実施例よりも優れている。各表中の三角印が付された実施例は、発明の効果において、X印が付された参考例よりも優れている。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
<検出の判定>
液体試料A及びBを、実施例1〜24それぞれの検査キットへ滴下してから5分後、各検査キットにおける検出ゾーンA及び検知ゾーンB其々のラインの着色の有無を目視により観察した。この観察により、A型インフルエンザウイルス及びB型インフルエンザウイルス其々の検出の有無を判定した。
【0062】
いずれの実施例の場合も、A型インフルエンザウイルスを含む液体試料Aの滴下により、抗A型インフルエンザNP抗体が固定された検知ゾーンAのみの色の変化が確認された。また、いずれの実施例の場合も、B型インフルエンザウイルスを含む液体試料Bの滴下により、抗B型インフルエンザNP抗体が固定された検知ゾーンBのみの色の変化が確認された。
【0063】
[実施例25]
実施例1の場合と全く同じ方法で、実施例25の4つの液体試料検査キットを作製した。次いで、A型インフルエンザウイルスの希釈倍率が1×10、2×10、4×10及び8×10である4種類の液体試料を調製した。これらの液体試料の調製方法は、希釈倍率以外は、上述した液体試料Aの調製方法と同じである。
実施例1〜24の場合と同様の方法で、実施例25の検査キット1つにつき、4種類の液体試料のうち1つのみを滴下して、各検査キットの検知ゾーンAにおいて、A型インフルエンザウイルスを検出した。表3に示す通り、希釈倍率が8×10である液体試料を滴下した検査キットの検知ゾーンAだけが、目視で確認できる色の変化を示さなかった。他の3種類の液体試料を滴下した検査キットの検知ゾーンAのいずれにおいても、目視で色の変化が確認された。
A型インフルエンザウイルスの検出前に、4つの検査キットの検知ゾーンAそれぞれのR値、G値及びB値を、レーザー顕微鏡で測定した。レーザー顕微鏡としては、レーザーテック社製のOPLETICS HYBRIDを用いた。また、A型インフルエンザウイルスの検出後に、4つの検査キットの検知ゾーンAそれぞれのR値、G値及びB値を、レーザー顕微鏡で測定した。これらの測定結果に基づき、4つの検査キットの検知ゾーンAそれぞれの検知前後におけるRGB座標間距離を計算した。計算結果を表3に示す。
【0064】
[実施例26]
実施例1の場合と全く同じ方法で、実施例26の4つの液体試料検査キットを作製した。次いで、B型インフルエンザウイルスの希釈倍率が1×10、2×10、4×10及び8×10である4種類の液体試料を調製した。これらの液体試料の調製方法は、希釈倍率以外は、上述した液体試料Bの調製方法と同じである。
実施例1〜24の場合と同様の方法で、実施例26の検査キット1つにつき、4種類の液体試料のうち1つのみを滴下して、各検査キットの検知ゾーンBにおいて、B型インフルエンザウイルスを検出した。表3に示す通り、希釈倍率が8×10である液体試料を滴下した検査キットの検知ゾーンBだけが、目視で確認できる色の変化を示さなかった。他の3種類の液体試料を滴下した検査キットの検知ゾーンBのいずれにおいても、目視で色の変化が確認された。
B型インフルエンザウイルスの検出前に、4つの検査キットの検知ゾーンBそれぞれのR値、G値及びB値を、上記のレーザー顕微鏡で測定した。また、B型インフルエンザウイルスの検出後に、4つの検査キットの検知ゾーンBそれぞれのR値、G値及びB値を、レーザー顕微鏡で測定した。これらの測定結果に基づき、4つの検査キットの検知ゾーンBそれぞれの検知前後におけるRGB座標間距離を計算した。計算結果を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
[参考例1]
参考例1では、熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる膜を用いた。ポリテトラフルオロエチレンからなる膜としては、ダイキン工業社製のポリフロンF−104を用いた。ポリテトラフルオロエチレンからなる基材の厚さは、200μmであった。基材(膜担体)は、四角形であった。基材(膜担体)の縦幅は、50mmであり、基材(膜担体)の横幅は、50mmであった。ブルカー・エイエックスエス社製のDSC3100を用いて、基材(膜担体)を構成するポリテトラフルオロエチレンの融点Tmを測定した。融点Tmの測定では、基材を、窒素雰囲気下で、10℃/分の昇温速度で加熱した。ポリテトラフルオロエチレンの融点Tmは、327℃であった。参考例1の熱インプリント工程における成型温度は、装置限界値である250℃であった。以上の事項以外は実施例1の同様の方法で、参考例1の膜担体を作製した。参考例1の膜担体の諸特徴を下記表4に示す。
【0067】
[参考例2]
参考例2のモールドの表面に形成された凹部の径は10μmであった。参考例2のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、15μmであった。参考例2のモールドの表面に形成された凹部の深さは、30μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、参考例2の膜担体を作製した。参考例2の膜担体の諸特徴を下記表4に示す。
【0068】
[参考例3]
参考例3のモールドの表面に形成された凹部の径は1000μmであった。参考例3のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、1010μmであった。参考例3のモールドの表面に形成された凹部の深さは、2000μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、参考例3の膜担体を作製した。参考例3の膜担体の諸特徴を下記表4に示す。
【0069】
参考例1〜3の膜担体を観察した。参考例1の膜担体では、所望の微細構造が形成されていなかった。これは、PTFEの融点が180℃よりも高く、熱インプレス工程における成型温度を装置上限値に設定しても、PTFEの弾性率が高いままであったことに起因する。参考例2の膜担体では、微細構造の折れ及び変曲が見られた。これは、微細構造のアスペクト比が2よりも大きく、膜担体をモールドからスムーズに剥離できなかったことに起因する。参考例3の膜担体では、微細構造の高さが2000μmに達しなかった。これは、参考例3のモールドの表面に形成された凹部の深さが、500μmよりも大きく、PSがモールドの凹部内に十分充填されなかったことに起因する。
【0070】
【表4】
【0071】
[参考例4]
参考例4のモールドの表面に形成された凹部の径は100μmであった。参考例4のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、1000μmであった。参考例4のモールドの表面に形成された凹部の深さは、200μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、参考例4の膜担体を作製した。参考例4の膜担体の諸特徴を下記表5に示す。
【0072】
[参考例5]
参考例5のモールドの表面に形成された凹部の径は1000μmであった。参考例5のモールドの表面において隣接する一対の凹部の中心間の距離は、1010μmであった。参考例5のモールドの表面に形成された凹部の深さは、50μmであった。モールドが異なる以外は、実施例1の同様の方法で、参考例5の膜担体を作製した。参考例5の膜担体の諸特徴を下記表5に示す。
【0073】
実施例1〜24と同様の手法で、参考例4及び5其々の膜担体の微細構造へ滴下された液体試料の様子を、直上からデジタルカメラで観察した。参考例4及び5の膜担体のいずれにおいても、液体試料が移動しなかった。液体試料が移動しない要因は次の通りであった。参考例4では、微細構造の底面の径D1と微細構造同士の最近接中心間距離D2との比D2/D1が5より大きく、液体試料の移動のための十分な毛細管力が生じなかった。参考例5では、微細構造のアスペクト比が0.1未満であり、液体試料の移動のための十分な毛細管力が生じなかった。
【0074】
【表5】
【0075】
[参考例6]
ラインandスペース構造を膜担体の表面に形成するためのモールドを金属部材から作製する際に金属部材の表面から削り出される金属の体積を、計算した。ラインandスペース構造とは、平行に並ぶ複数の溝状の流路を有する構造である。ラインandスペース構造を形成するためのモールド自体も、図6中の(a)及び(b)に示すように、ラインandスペース構造を有する。計算に用いた溝15の幅7は、10μmであった。計算に用いた溝15の深さ8は、10μmであった。計算に用いた溝15のピッチ9は、15μmであった。計算では、加工されたモールド表面の範囲は、3cm×3cmの正方形である、と仮定した。また、図6のモールドを用いて形成されるラインandスペース構造の空隙率も計算した。計算結果を表6に示す。
また、複数の円柱が規則的に並んだ構造を膜担体の表面に形成するためのモールドを金属部材から作製する際に金属部材の表面から削り出される金属の体積を、計算した。このモールドは、図7中の(a)及び(b)に示すように、平坦部16と、複数の円筒状の凹部17を有する。計算に用いた凹部17の直径10は、10μmであった。計算に用いた凹部17の深さ12は、10μmであった。計算に用いた凹部17のピッチ11は、15μmであった。計算では、加工されたモールド表面の範囲は、3cm×3cmの正方形である、と仮定した。計算結果を表6に示す。また、図7のモールドを用いて形成される、複数の円柱が規則的に並んだ構造の空隙率も計算した。計算結果を表6に示す。
実施例1のモールドを作製する際に金属部材から削り出した金属の体積を、表6に示す。実施例1の膜担体の微細構造の空隙率を、表6に示す。
【0076】
【表6】
【0077】
表1〜5の結果から、本発明による液体試料検査キットは、熱インプリントによって作製することができ、滴下された液体試料を毛細管力によって移動させることができることが示された。また本発明によれば、検知ゾーンにおける色変化は、目視で確認できるほど大きなものであることも示された。さらに表6の結果から、微細構造を錐体とすることで、モールド作製時に削り出す金属の体積が低減され、膜担体の微細構造の空隙率が増加することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る膜担体及び液体試料検査キットによれば、液体試料中の被検出物質の検知時の判定が目視で行えることから、検査キットの使用方法が容易である。また膜担体の微細構造を熱インプリントで作製可能であることから、膜担体が安価であり、この膜担体を備える検査キットは、使い捨て可能なPOCT試薬(検査キット)に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1 微細構造を有するモールド
2 熱可塑性プラスチックからなる膜状の基材
3 微細構造が設けられた膜担体
3x 滴下ゾーン
3y 検知ゾーン
4 微細構造の底面の径
5 微細構造同士の最近接中心間距離
6 微細構造の高さ
7 ラインandスペース構造の溝の幅
8 ラインandスペース構造の溝の深さ
9 ラインandスペース構造の溝のピッチ
10 規則的に並んだ円筒状の凹部の直径
11 規則的に並んだ円筒状の凹部のピッチ
12 規則的に並んだ円筒状の凹部の深さ
13,13a,13b 平坦部
14 円錐(微細構造)
14a 四角錐(微細構造)
14b 六角錐(微細構造)
15 ラインandスペース構造の溝
16 円筒状の凹部の間にある平坦部
17 規則的に並んだ円筒状の凹部
18 液体試料用の検査キット
18a 筐体
18b 第一開口部
18c 第二開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8