【文献】
HAMASAKI T. et al.,PLOS ONE,7(8) (2012),e42655 [online]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
【0018】
1.TGF−β1遺伝子の発現抑制用核酸分子
本発明の核酸分子は、前述のように、TGF−β1遺伝子の発現抑制用であって、TGF−β1遺伝子の発現抑制配列として、下記のヌクレオチド配列を含むことを特徴とする。
(配列番号1) 5’- AUUUCGUUGUGGGUUUCCACC -3’
(配列番号2) 5’- UGUUAUCCCUGCUGUCACAGG -3’
【0019】
前記発現抑制配列は、例えば、前記ヌクレオチド配列からなる配列でもよいし、前記ヌクレオチド配列を含む配列でもよい。
【0020】
前記発現抑制配列の長さは、特に制限されず、例えば、18〜32塩基長であり、好ましくは19〜30塩基長であり、より好ましくは19、20、21塩基長である。本発明において、例えば、塩基数の数値範囲は、その範囲に属する正の整数を全て開示するものであり、例えば、「1〜4塩基」との記載は、「1、2、3、4塩基」の全ての開示を意味する(以下、同様)。
【0021】
本発明の一本鎖核酸分子は、例えば、さらに、前記発現抑制配列とアニーリング可能な相補配列を有することが好ましい。前記相補配列は、例えば、前記発現抑制配列と同じ鎖にあり、1つの一本鎖から構成される一本鎖核酸分子を形成する。
【0022】
前記相補配列は、例えば、前記発現抑制配列とアニーリング可能であればよい。前記相補配列は、例えば、前記発現抑制配列と、100%の相補性を示す配列でもよいし、アニーリング可能な範囲で100%未満の相補性を示す配列でもよい。前記相補性は、特に制限されず、例えば、90%〜100%、93%〜100%、95%〜100%、98%〜100%、99%〜100%等が例示できる。
【0023】
前記相補配列は、例えば、下記のヌクレオチド配列を含むものが例示できる。
(配列番号3)5’- UGGAAACCCACAACGAAAUCU-3’
(配列番号4)5’- UGUGACAGCAGGGAUAACACA-3’
【0024】
以下、前記配列番号3または4のヌクレオチド配列をsヌクレオチド配列という。
【0025】
前記相補配列は、例えば、前記sヌクレオチド配列からなる配列でもよいし、前記sヌクレオチド配列を含む配列でもよい。
【0026】
前記相補配列の長さは、特に制限されず、例えば、18〜32塩基長であり、好ましくは19〜30塩基長であり、より好ましくは19、20、21塩基長である。
【0027】
前記発現抑制配列と前記相補配列はそれぞれ、例えば、リボヌクレオチド残基のみからなるRNA分子でもよいし、リボヌクレオチド残基の他に、デオキシリボヌクレオチド残基を含むRNA分子でもよい。
【0028】
一本鎖核酸分子
前記核酸分子は、例えば、前記発現抑制配列と前記相補配列とが、直接的に連結している形態および間接的に連結している形態があげられる。前記直接的な連結は、例えば、ホスホジエステル結合による連結があげられる。前記間接的な連結は、例えば、リンカー領域を介した連結があげられる。前記発現抑制配列と前記相補配列との連結順序は、特に制限されず、例えば、前記発現抑制配列の3’末端と前記相補配列の5’末端とが連結してもよく、前記発現抑制配列の5’末端と前記相補配列の3’末端とが連結してもよく、好ましくは前者である。前記リンカー領域は、例えば、ヌクレオチド残基から構成されてもよいし、非ヌクレオチド残基から構成されてもよく、前記ヌクレオチド残基および非ヌクレオチド残基から構成されてもよい。前記ヌクレオチド残基は、例えば、リボヌクレオチド残基およびデオキシリボヌクレオチド残基があげられる。
【0029】
以下に、前記一本鎖核酸分子の具体例を例示するが、本発明は、これには制限されない。
【0030】
前記一本鎖核酸分子の第1形態として、5’側領域および3’側領域が、互いにアニーリングして二重鎖構造(ステム構造)を形成する分子があげられる。これは、shRNA(small hairpin RNAまたはshort hairpin RNA)の形態とも言える。shRNAは、ヘアピン構造をとっており、一般的に、一つのステム領域と一つのループ領域とを有する。
【0031】
本形態の核酸分子は、例えば、領域(X)、リンカー領域(Lx)および領域(Xc)を含み、前記領域(X)と前記領域(Xc)との間に、前記リンカー領域(Lx)が連結された構造をとる。そして、前記領域(Xc)が、前記領域(X)と相補的である構造が好ましく、具体的には、前記領域(X)および前記領域(Xc)のうち、一方が、前記発現抑制配列を含み、他方が、前記相補配列を含むことが好ましい。前記領域(X)と前記領域(Xc)は、それぞれ、前記発現抑制配列および前記相補配列のいずれかを有するため、例えば、分子内アニーリングにより、ステム構造を形成でき、前記リンカー領域(Lx)がループ構造となる。
【0032】
前記核酸分子は、例えば、5’側から3’側にかけて、前記領域(Xc)、前記リンカー領域(Lx)および前記領域(X)を、前記順序で有してもよいし、3’側から5’側にかけて、前記領域(Xc)、前記リンカー領域(Lx)および前記領域(X)を、前記順序で有してもよい。前記発現抑制配列は、例えば、前記領域(X)と前記領域(Xc)のいずれに配置してもよく、前記相補配列の上流側、すなわち、前記相補配列よりも5’側に配置することが好ましい。
【0033】
本形態の核酸分子の一例を、
図1の模式図に示す。
図1(A)は、各領域の順序の概略を示す模式図であり、
図1(B)は、前記核酸分子が、前記分子内において二重鎖を形成している状態を示す模式図である。
図1(B)に示すように、前記核酸分子は、前記領域(Xc)と前記領域(X)との間で、二重鎖が形成され、前記Lx領域が、その長さに応じてループ構造をとる。
図1は、あくまでも、前記領域の連結順序および二重鎖を形成する各領域の位置関係を示すものであり、例えば、各領域の長さ、前記リンカー領域(Lx)の形状等は、これに制限されない。
【0034】
前記核酸分子において、前記領域(Xc)および前記領域(X)の塩基数は、特に制限されない。以下に各領域の長さを例示するが、本発明は、これには制限されない。
【0035】
前記核酸分子において、前記領域(X)の塩基数(X)と前記領域(Xc)の塩基数(Xc)との関係は、例えば、下記(3)または(5)の条件を満たし、前者の場合、具体的には、例えば、下記(11)の条件を満たす。
X>Xc ・・・(3)
X−Xc=1〜10、好ましくは1、2または3、
より好ましくは1または2 ・・・(11)
X=Xc ・・・(5)
【0036】
前記領域(X)または前記領域(Xc)が前記発現抑制配列を含む場合、前記領域は、例えば、前記発現抑制配列のみから構成される領域でもよいし、前記発現抑制配列を含む領域でもよい。前記発現抑制配列の塩基数は、例えば、前述の通りである。前記発現抑制配列を含む領域は、例えば、前記発現抑制配列の5’側および/または3’側に、さらに付加配列を有してもよい。前記付加配列の塩基数は、例えば、1〜31塩基であり、好ましくは、1〜21塩基であり、より好ましくは、1〜11塩基である。
【0037】
前記領域(Xc)の塩基数は、特に制限されない。前記領域(X)が、前記発現抑制配列を含む場合、Xcの下限は、例えば、19塩基である。その上限は、例えば、50塩基であり、好ましくは30塩基であり、より好ましくは25塩基である。前記領域(Xc)の塩基数の具体例は、例えば、19塩基〜50塩基であり、好ましくは、19塩基〜30塩基、より好ましくは19塩基〜25塩基である。
【0038】
前記領域(X)の塩基数は、特に制限されない。その下限は、例えば、19塩基であり、好ましくは20塩基であり、より好ましくは21塩基である。その上限は、例えば、50塩基であり、より好ましくは40塩基であり、さらに好ましくは30塩基である。
【0039】
前記リンカー領域(Lx)は、それ自体の領域内部において、自己アニーリングを生じない構造であることが好ましい。
【0040】
前記リンカー領域(Lx)が、前述のようにヌクレオチド残基を含む場合、その長さは、特に制限されない。前記リンカー領域(Lx)は、例えば、前記領域(X)と前記領域(Xc)とが二重鎖を形成可能な長さであることが好ましい。前記リンカー領域(Lx)の塩基数は、その下限が、例えば、1塩基であり、好ましくは2塩基であり、より好ましくは3塩基であり、その上限が、例えば、100塩基であり、好ましくは80塩基であり、より好ましくは50塩基である。
【0041】
前記核酸分子の全長は、特に制限されない。前記核酸分子において、前記塩基数の合計(全長の塩基数)は、下限が、例えば、38塩基であり、好ましくは42塩基であり、より好ましくは50塩基であり、さらに好ましくは51塩基であり、特に好ましくは52塩基であり、その上限は、例えば、300塩基であり、好ましくは200塩基であり、より好ましくは150塩基であり、さらに好ましくは100塩基であり、特に好ましくは80塩基である。前記核酸分子において、前記リンカー領域(Lx)を除く塩基数の合計は、下限が、例えば、38塩基であり、好ましくは42塩基であり、より好ましくは50塩基であり、さらに好ましくは51塩基であり、特に好ましくは52塩基であり、上限が、例えば、300塩基であり、好ましくは200塩基であり、より好ましくは150塩基であり、さらに好ましくは100塩基であり、特に好ましくは80塩基である。
【0042】
前記一本鎖核酸分子の第2形態として、5’側領域および3’側領域が、それぞれ別個に分子内アニーリングして、2つの二重鎖構造(ステム構造)を形成する分子があげられる。
【0043】
本形態の核酸分子は、例えば、5’側から3’側にかけて、5’側領域(Xc)、内部領域(Z)および3’側領域(Yc)を、前記順序で含み、前記内部領域(Z)が、内部5’側領域(X)および内部3’側領域(Y)が連結して構成され、前記5’側領域(Xc)が、前記内部5’側領域(X)と相補的であり、前記3’側領域(Yc)が、前記内部3’側領域(Y)と相補的である構造が好ましい。そして、前記内部領域(Z)、前記5’側領域(Xc)および前記3’側領域(Yc)の少なくとも一つが、前記発現抑制配列を含むことが好ましい。具体的には、前記内部領域(Z)の前記内部5’側領域(X)が前記発現抑制配列を有する場合、前記5’側領域(Xc)が前記相補配列を有することが好ましく、前記内部領域(Z)の前記内部3’側領域(Y)が前記発現抑制配列を有する場合、前記3’側領域(Yc)が前記相補配列を有することが好ましい。また、前記5’側領域(Xc)が前記発現抑制配列を有する場合、前記内部領域(Z)の前記内部5’側領域(X)が前記相補配列を有することが好ましく、前記3’側領域(Yc)が前記発現抑制配列を有する場合、前記内部領域(Z)の前記内部3’側領域(Y)が前記相補配列を有することが好ましい。
【0044】
前記核酸分子において、前記5’側領域(Xc)は、前記内部5’側領域(X)と相補的であり、前記3’側領域(Yc)は、前記内部3’側領域(Y)と相補的である。このため、5’側において、前記領域(Xc)が前記領域(X)に向かって折り返し、前記領域(Xc)と前記領域(X)とが、自己アニーリングによって、二重鎖を形成可能であり、また、3’側において、前記領域(Yc)が前記領域(Y)に向かって折り返し、前記領域(Yc)と前記領域(Y)とが、自己アニーリングによって、二重鎖を形成可能である。
【0045】
前記内部領域(Z)は、前述のように、前記内部5’領域(X)と前記内部3’領域(Y)が連結されている。前記領域(X)と前記領域(Y)は、例えば、直接的に連結され、その間に介在配列を有していない。前記内部領域(Z)は、前記5’側領域(Xc)および前記3’側領域(Yc)との配列関係を示すために、「前記内部5’側領域(X)と前記内部3’側領域(Y)が連結して構成される」と表わすものであって、前記内部領域(Z)において、前記5’側領域(Xc)と前記3’側領域(Yc)とが、例えば、前記核酸分子の使用において、別個の独立した領域であることを限定するものではない。すなわち、例えば、前記内部領域(Z)が、前記発現抑制配列を有する場合、前記内部領域(Z)において、前記領域(X)と前記領域(Y)とにわたって、前記発現抑制配列が配置されてもよい。
【0046】
前記核酸分子において、前記5’側領域(Xc)と前記内部5’側領域(X)とは、例えば、直接連結してもよいし、間接的に連結してもよい。前者の場合、直接的な連結は、例えば、ホスホジエステル結合による連結があげられる。後者の場合、例えば、前記領域(Xc)と前記領域(X)との間に、リンカー領域(Lx)を有し、前記リンカー領域(Lx)を介して、前記領域(Xc)と前記領域(X)とが連結している形態があげられる。
【0047】
前記核酸分子において、前記3’側領域(Yc)と前記内部3’側領域(Y)とは、例えば、直接連結してもよいし、間接的に連結してもよい。前者の場合、直接的な連結は、例えば、ホスホジエステル結合による連結があげられる。後者の場合、例えば、前記領域(Yc)と前記領域(Y)との間に、リンカー領域(Ly)を有し、前記リンカー領域(Ly)を介して、前記領域(Yc)と前記領域(Y)とが連結している形態があげられる。
【0048】
前記核酸分子は、例えば、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)の両方を有してもよいし、いずれか一方を有してもよい。後者の場合、例えば、前記5’側領域(Xc)と前記内部5’側領域(X)との間に前記リンカー領域(Lx)を有し、前記3’側領域(Yc)と前記内部3’側領域(Y)との間に前記リンカー領域(Ly)を有さない、つまり、前記領域(Yc)と前記領域(Y)とが直接連結された形態があげられる。また、後者の場合、例えば、前記3’側領域(Yc)と前記内部3’側領域(Y)との間に前記リンカー領域(Ly)を有し、前記5’側領域(Xc)と前記内部5’側領域(X)との間に前記リンカー領域(Lx)を有さない、つまり、前記領域(Xc)と前記領域(X)とが直接連結された形態があげられる。
【0049】
前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)は、それぞれ、それ自体の領域内部において、自己アニーリングを生じない構造であることが好ましい。
【0050】
本形態の核酸分子について、前記リンカー領域を有さない一例を、
図2の模式図に示す。
図2(A)は、前記核酸分子について、5’側から3’側に向かって、各領域の順序の概略を示す模式図であり、
図2(B)は、前記核酸分子が、前記分子内において二重鎖を形成している状態を示す模式図である。
図2(B)に示すように、前記核酸分子は、前記5’側領域(Xc)が折り返し、前記5’側領域(Xc)と前記内部5’側領域(X)との間で二重鎖が形成され、前記3’側領域(Yc)が折り返し、前記3’側領域(Yc)と前記内部3’側領域(Y)との間で二重鎖が形成される。
図2は、あくまでも、各領域の連結順番および二重鎖を形成する各領域の位置関係を示すものであり、例えば、各領域の長さ等は、これに制限されない。
【0051】
前記核酸分子について、前記リンカー領域を有する一例を、
図3の模式図に示す。
図3(A)は、一例として、前記核酸分子について、5’側から3’側に向かって、各領域の順序の概略を示す模式図であり、
図3(B)は、前記核酸分子が、前記分子内において二重鎖を形成している状態を示す模式図である。
図3(B)に示すように、前記核酸分子は、前記5’側領域(Xc)と前記内部5’側領域(X)との間、前記内部3’側領域(Y)と前記3’側領域(Yc)との間で、二重鎖が形成され、前記Lx領域および前記Ly領域が、ループ構造をとる。
図3は、あくまでも、各領域の連結順番および二重鎖を形成する各領域の位置関係を示すものであり、例えば、各領域の長さ等は、これに制限されない。
【0052】
前記核酸分子において、前記5’側領域(Xc)、前記内部5’側領域(X)、前記内部3’側領域(Y)および前記3’側領域(Yc)の塩基数は、特に制限されず、例えば、以下の通りである。
【0053】
前記5’側領域(Xc)は、前述のように、例えば、前記内部5’側領域(X)の全領域に相補的でもよい。この場合、前記領域(Xc)は、例えば、前記領域(X)と同じ塩基長であり、前記領域(X)の5’末端から3’末端の全領域に相補的な塩基配列からなることが好ましい。前記領域(Xc)は、より好ましくは、前記領域(X)と同じ塩基長であり、且つ、前記領域(Xc)の全ての塩基が、前記領域(X)の全ての塩基と相補的である、つまり、例えば、完全に相補的であることが好ましい。なお、これには制限されず、例えば、前述のように、1ないし数(2、3、4もしくは5)塩基が非相補的でもよい。
【0054】
また、前記5’側領域(Xc)は、前述のように、例えば、前記内部5’側領域(X)の部分領域に相補的でもよい。この場合、前記領域(Xc)は、例えば、前記領域(X)の部分領域と同じ塩基長であり、すなわち、前記領域(X)よりも、1塩基以上短い塩基長の塩基配列からなることが好ましい。前記領域(Xc)は、より好ましくは、前記領域(X)の前記部分領域と同じ塩基長であり、且つ、前記領域(Xc)の全ての塩基が、前記領域(X)の前記部分領域の全ての塩基と相補的である、つまり、例えば、完全に相補的であることが好ましい。前記領域(X)の前記部分領域は、例えば、前記領域(X)における、5’末端の塩基(1番目の塩基)から連続する塩基配列からなる領域(セグメント)であることが好ましい。
【0055】
前記3’側領域(Yc)は、前述のように、例えば、前記内部3’側領域(Y)の全領域に相補的でもよい。この場合、前記領域(Yc)は、例えば、前記領域(Y)と同じ塩基長であり、前記領域(Y)の5’末端から3’末端の全領域に相補的な塩基配列からなることが好ましい。前記領域(Yc)は、より好ましくは、前記領域(Y)と同じ塩基長であり、且つ、前記領域(Yc)の全ての塩基が、前記領域(Y)の全ての塩基と相補的である、つまり、例えば、完全に相補であることが好ましい。なお、これには制限されず、例えば、前述のように、1ないし数(2、3、4もしくは5)塩基が非相補的でもよい。
【0056】
また、前記3’側領域(Yc)は、前述のように、例えば、前記内部3’側領域(Y)の部分領域に相補的でもよい。この場合、前記領域(Yc)は、例えば、前記領域(Y)の部分領域と同じ塩基長であり、すなわち、前記領域(Y)よりも、1塩基以上短い塩基長の塩基配列からなることが好ましい。前記領域(Yc)は、より好ましくは、前記領域(Y)の前記部分領域と同じ塩基長であり、且つ、前記領域(Yc)の全ての塩基が、前記領域(Y)の前記部分領域の全ての塩基と相補的である、つまり、例えば、完全に相補であることが好ましい。前記領域(Y)の前記部分領域は、例えば、前記領域(Y)における、3’末端の塩基(1番目の塩基)から連続する塩基配列からなる領域(セグメント)であることが好ましい。
【0057】
前記核酸分子において、前記内部領域(Z)の塩基数(Z)と、前記内部5’側領域(X)の塩基数(X)および前記内部3’側領域(Y)の塩基数(Y)との関係、前記内部領域(Z)の塩基数(Z)と、前記5’側領域(Xc)の塩基数(Xc)および前記3’側領域(Yc)の塩基数(Yc)との関係は、例えば、下記式(1)および(2)の条件を満たす。
Z=X+Y ・・・(1)
Z≧Xc+Yc ・・・(2)
【0058】
本発明の核酸分子において、前記内部5’側領域(X)の塩基数(X)と前記内部3’側領域(Y)の塩基数(Y)の長さの関係は、特に制限されず、例えば、下記式のいずれの条件を満たしてもよい。
X=Y ・・・(19)
X<Y ・・・(20)
X>Y ・・・(21)
【0059】
前記核酸分子において、前記内部5’側領域(X)の塩基数(X)、前記5’側領域(Xc)の塩基数(Xc)、前記内部3’側領域(Y)の塩基数(Y)および前記3’側領域(Yc)の塩基数(Yc)の関係は、例えば、下記(a)〜(d)のいずれかの条件を満たす。
(a)下記式(3)および(4)の条件を満たす。
X>Xc ・・・(3)
Y=Yc ・・・(4)
(b)下記式(5)および(6)の条件を満たす。
X=Xc ・・・(5)
Y>Yc ・・・(6)
(c)下記式(7)および(8)の条件を満たす。
X>Xc ・・・(7)
Y>Yc ・・・(8)
(d)下記式(9)および(10)の条件を満たす。
X=Xc ・・・(9)
Y=Yc ・・・(10)
【0060】
前記(a)〜(d)において、前記内部5’側領域(X)の塩基数(X)と前記5’側領域(Xc)の塩基数(Xc)の差、前記内部3’側領域(Y)の塩基数(Y)と前記3’側領域(Yc)の塩基数(Yc)の差は、例えば、下記条件を満たすことが好ましい。
(a)下記式(11)および(12)の条件を満たす。
X−Xc=1〜10、好ましくは1、2、3または4、
より好ましくは1、2または3 ・・・(11)
Y−Yc=0 ・・・(12)
(b)下記式(13)および(14)の条件を満たす。
X−Xc=0 ・・・(13)
Y−Yc=1〜10、好ましくは1、2、3または4、
より好ましくは1、2または3 ・・・(14)
(c)下記式(15)および(16)の条件を満たす。
X−Xc=1〜10、好ましくは、1、2または3、
より好ましくは1または2 ・・・(15)
Y−Yc=1〜10、好ましくは、1、2または3、
より好ましくは1または2 ・・・(16)
(d)下記式(17)および(18)の条件を満たす。
X−Xc=0 ・・・(17)
Y−Yc=0 ・・・(18)
【0061】
前記(a)〜(d)の核酸分子について、それぞれの構造の一例を、
図4の模式図に示す。
図4は、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)を含む核酸分子であり、(A)は、前記(a)の核酸分子、(B)は、前記(b)の核酸分子、(C)は、前記(c)の核酸分子、(D)は、前記(d)の核酸分子の例である。
図4において、点線は、自己アニーリングにより二重鎖を形成している状態を示す。
図4の核酸分子は、前記内部5’側領域(X)の塩基数(X)と前記内部3’側領域(Y)の塩基数(Y)を、前記式(20)の「X<Y」として表わすが、これには制限されず、前述のように、前記式(19)の「X=Y」でも、前記式(21)の「X>Y」でもよい。また、
図4は、あくまでも、前記内部5’側領域(X)と前記5’側領域(Xc)との関係、前記内部3’側領域(Y)と前記3’側領域(Yc)との関係を示す模式図であり、例えば、各領域の長さ、形状等は、これには制限されず、また、リンカー領域(Lx)およびリンカー領域(Ly)の有無も、これには制限されない。
【0062】
前記(a)〜(c)の核酸分子は、例えば、前記5’側領域(Xc)と前記内部5’側領域(X)、および、前記3’側領域(Yc)と前記内部3’側領域(Y)が、それぞれ二重鎖を形成することによって、前記内部領域(Z)において、前記5’側領域(Xc)および前記3’側領域(Yc)のいずれともアライメントできない塩基を有する構造であり、二重鎖を形成しない塩基を有する構造ともいえる。前記内部領域(Z)において、前記アライメントできない塩基(二重鎖を形成しない塩基ともいう)を、以下、「フリー塩基」という。
図4において、前記フリー塩基の領域を、「F」で示す。前記領域(F)の塩基数は、特に制限されない。前記領域(F)の塩基数(F)は、例えば、前記(a)の核酸分子の場合、「X−Xc」の塩基数であり、前記(b)の核酸分子の場合、「Y−Yc」の塩基数であり、前記(c)の核酸分子の場合、「X−Xc」の塩基数と「Y−Yc」の塩基数との合計数である。
【0063】
他方、前記(d)の核酸分子は、例えば、前記内部領域(Z)の全領域が、前記5’側領域(Xc)および前記3’側領域(Yc)とアライメントする構造であり、前記内部領域(Z)の全領域が二重鎖を形成する構造ともいえる。なお、前記(d)の核酸分子において、前記5’側領域(Xc)の5’末端と前記3’側領域(Yc)の3’末端は、未連結である。
【0064】
前記核酸分子について、各領域の長さを以下に例示するが、本発明は、これには制限されない。
【0065】
前記5’側領域(Xc)、前記3’側領域(Yc)、および前記内部領域(Z)における前記フリー塩基(F)の塩基数の合計は、前記内部領域(Z)の塩基数となる。このため、前記5’側領域(Xc)および前記3’側領域(Yc)の長さは、例えば、前記内部領域(Z)の長さ、前記フリー塩基の数(F)およびその位置に応じて、適宜決定できる。
【0066】
前記内部領域(Z)の塩基数は、例えば、19塩基以上である。前記塩基数の下限は、例えば、19塩基であり、好ましくは20塩基であり、より好ましくは21塩基である。前記塩基数の上限は、例えば、50塩基であり、好ましくは40塩基であり、より好ましくは30塩基である。前記内部領域(Z)の塩基数の具体例は、例えば、19塩基、20塩基、21塩基、22塩基、23塩基、24塩基、25塩基、26塩基、27塩基、28塩基、29塩基、または、30塩基である。
【0067】
前記内部領域(Z)が前記発現抑制配列を含む場合、前記内部領域(Z)は、例えば、前記発現抑制配列のみから構成される領域でもよいし、前記発現抑制配列を含む領域でもよい。前記発現抑制配列の塩基数は、例えば、前述の通りである。前記内部領域(Z)が前記発現抑制配列を含む場合、前記発現抑制配列の5’側および/または3’側に、さらに付加配列を有してもよい。前記付加配列の塩基数は、例えば、1〜31塩基であり、好ましくは、1〜21塩基であり、より好ましくは、1〜11塩基であり、さらに好ましくは、1〜7塩基である。
【0068】
前記5’側領域(Xc)の塩基数は、例えば、1〜29塩基であり、好ましくは1〜11塩基であり、より好ましくは1〜7塩基であり、さらに好ましくは1〜4塩基であり、特に好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。前記内部領域(Z)または前記3’側領域(Yc)が前記発現抑制配列を含む場合、例えば、このような塩基数が好ましい。具体例として、前記内部領域(Z)の塩基数が、19〜30塩基(例えば、19塩基)の場合、前記5’側領域(Xc)の塩基数は、例えば、1〜11塩基であり、好ましくは1〜7塩基であり、より好ましくは1〜4塩基であり、さらに好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。
【0069】
前記5’側領域(Xc)が前記発現抑制配列を含む場合、前記5’側領域(Xc)は、例えば、前記発現抑制配列のみから構成される領域でもよいし、前記発現抑制配列を含む領域でもよい。前記発現抑制配列の長さは、例えば、前述の通りである。前記5’側領域(Xc)が前記発現抑制配列を含む場合、前記発現抑制配列の5’側および/または3’側に、さらに付加配列を有してもよい。前記付加配列の塩基数は、例えば、1〜11塩基であり、好ましくは、1〜7塩基である。
【0070】
前記3’側領域(Yc)の塩基数は、例えば、1〜29塩基であり、好ましくは1〜11塩基であり、より好ましくは1〜7塩基であり、さらに好ましくは1〜4塩基であり、特に好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。前記内部領域(Z)または前記5’側領域(Xc)が前記発現抑制配列を含む場合、例えば、このような塩基数が好ましい。具体例として、前記内部領域(Z)の塩基数が、19〜30塩基(例えば、19塩基)の場合、前記3’側領域(Yc)の塩基数は、例えば、1〜11塩基であり、好ましくは1〜7塩基であり、より好ましくは1〜4塩基であり、さらに好ましくは1塩基、2塩基、3塩基である。
【0071】
前記3’側領域(Yc)が前記発現抑制配列を含む場合、前記3’側領域(Yc)は、例えば、前記発現抑制配列のみから構成される領域でもよいし、前記発現抑制配列を含む領域でもよい。前記発現抑制配列の長さは、例えば、前述の通りである。前記3’側領域(Yc)が前記発現抑制配列を含む場合、前記発現抑制配列の5’側および/または3’側に、さらに付加配列を有してもよい。前記付加配列の塩基数は、例えば、1〜11塩基であり、好ましくは、1〜7塩基である。
【0072】
前述のように、前記内部領域(Z)、前記5’側領域(Xc)および前記3’側領域(Yc)の塩基数は、例えば、前記式(2)の「Z≧Xc+Yc」で表わすことができる。具体例として、「Xc+Yc」の塩基数は、例えば、前記内部領域(Z)と同じ、または、前記内部領域(Z)より小さい。後者の場合、「Z−(Xc+Yc)」は、例えば、1〜10、好ましくは1〜4、より好ましくは1、2または3である。前記「Z−(Xc+Yc)」は、前記内部領域(Z)における前記フリー塩基の領域(F)の塩基数(F)に相当する。
【0073】
前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)が、前述のようにヌクレオチド残基を含む場合、その長さは、特に制限されない。前記リンカー領域(Lx)は、例えば、前記内部5’側領域(X)と前記5’側領域(Xc)とが二重鎖を形成可能な長さであることが好ましく、前記リンカー領域(Ly)は、例えば、前記内部3’側領域(Y)と前記3’側領域(Yc)とが二重鎖を形成可能な長さであることが好ましい。前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)の長さは、例えば、同じでも異なってもよく、また、その塩基配列も、同じでも異なってもよい。前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)の塩基数は、その下限が、例えば、1塩基であり、好ましくは2塩基であり、より好ましくは3塩基であり、その上限が、例えば、100塩基であり、好ましくは80塩基であり、より好ましくは50塩基である。前記各リンカー領域の塩基数は、具体例として、例えば、1〜50塩基、1〜30塩基、1〜20塩基、1〜10塩基、1〜7塩基、1〜4塩基等が例示できるが、これには制限されない。
【0074】
前記核酸分子の全長は、特に制限されない。前記核酸分子において、前記塩基数の合計(全長の塩基数)は、下限が、例えば、38塩基であり、好ましくは42塩基であり、より好ましくは50塩基であり、さらに好ましくは51塩基であり、特に好ましくは52塩基であり、その上限は、例えば、300塩基であり、好ましくは200塩基であり、より好ましくは150塩基であり、さらに好ましくは100塩基であり、特に好ましくは80塩基である。前記核酸分子において、前記リンカー領域(Lx)およびリンカー領域(Ly)を除く塩基数の合計は、下限が、例えば、38塩基であり、好ましくは42塩基であり、より好ましくは50塩基であり、さらに好ましくは51塩基であり、特に好ましくは52塩基であり、上限が、例えば、300塩基であり、好ましくは200塩基であり、より好ましくは150塩基であり、さらに好ましくは100塩基であり、特に好ましくは80塩基である。
【0075】
本形態の核酸分子は、例えば、5’末端と3’末端とが、結合してもよいし、未結合でもよい。前者の場合、本形態の核酸分子は、環状の一本鎖核酸分子である。後者の場合、本形態の核酸分子は、例えば、両末端の未結合を維持できることから、5’末端が非リン酸基であることが好ましい。
【0076】
前記一本鎖核酸分子の第3形態として、前記リンカー領域が、非ヌクレオチド構造である分子があげられる。
【0077】
本形態は、前記第1形態および前記第2形態の核酸分子において、前記リンカー領域(Lx)および/または前記リンカー領域(Ly)が、非ヌクレオチド構造を有する以外は、前述の説明を援用できる。
【0078】
前記非ヌクレオチド構造は、特に制限されず、例えば、ポリアルキレングリコール、ピロリジン骨格、ピペリジン骨格等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコールがあげられる。
【0079】
前記ピロリジン骨格は、例えば、ピロリジンの5員環を構成する炭素が、1個以上、置換されたピロリジン誘導体の骨格でもよく、置換される場合、例えば、C−2の炭素以外の炭素原子であることが好ましい。前記炭素は、例えば、窒素、酸素または硫黄で置換されてもよい。前記ピロリジン骨格は、例えば、ピロリジンの5員環内に、例えば、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合を含んでもよい。前記ピロリジン骨格において、ピロリジンの5員環を構成する炭素および窒素は、例えば、水素が結合してもよいし、後述するような置換基が結合してもよい。前記リンカー領域(Lx)は、前記領域(X)および前記領域(Xc)と、前記リンカー領域(Ly)は、前記領域(Y)および前記領域(Yc)と、例えば、前記ピロリジン骨格のいずれの基を介して結合してもよく、好ましくは、前記5員環のいずれか1個の炭素原子と窒素であり、好ましくは、前記5員環の2位の炭素(C−2)と窒素である。前記ピロリジン骨格としては、例えば、プロリン骨格、プロリノール骨格等があげられる。前記プロリン骨格およびプロリノール骨格等は、例えば、生体内物質およびその還元体であるため、安全性にも優れる。
【0080】
前記ピペリジン骨格は、例えば、ピペリジンの6員環を構成する炭素が、1個以上、置換されたピペリジン誘導体の骨格でもよく、置換される場合、例えば、C−2の炭素以外の炭素原子であることが好ましい。前記炭素は、例えば、窒素、酸素または硫黄で置換されてもよい。前記ピペリジン骨格は、例えば、ピペリジンの6員環内に、例えば、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合を含んでもよい。前記ピペリジン骨格において、ピペリジンの6員環を構成する炭素および窒素は、例えば、水素基が結合してもよいし、後述するような置換基が結合してもよい。前記リンカー領域(Lx)は、前記領域(X)および前記領域(Xc)と、前記リンカー領域(Ly)は、前記領域(Y)および前記領域(Yc)と、例えば、前記ピペリジン骨格のいずれの基を介して結合してもよく、好ましくは、前記6員環のいずれか1個の炭素原子と窒素であり、より好ましくは、前記6員環の2位の炭素(C−2)と窒素である。
【0081】
前記リンカー領域は、例えば、前記非ヌクレオチド構造からなる非ヌクレオチド残基のみを含んでもよいし、前記非ヌクレオチド構造からなる非ヌクレオチド残基と、ヌクレオチド残基とを含んでもよい。
【0082】
前記リンカー領域は、例えば、下記式(I)で表わされる。
【0084】
前記式(I)中、例えば、
X
1およびX
2は、それぞれ独立して、H
2、O、SまたはNHであり;
Y
1およびY
2は、それぞれ独立して、単結合、CH
2、NH、OまたはSであり;
R
3は、環A上のC−3、C−4、C−5またはC−6に結合する水素原子または置換基であり、
L
1は、n個の原子からなるアルキレン鎖であり、ここで、アルキレン炭素原子上の水素原子は、OH、OR
a、NH
2、NHR
a、NR
aR
b、SH、もしくはSR
aで置換されても置換されていなくてもよく、または、
L
1は、前記アルキレン鎖の一つ以上の炭素原子が、酸素原子で置換されたポリエーテル鎖であり、
ただし、Y
1が、NH、OまたはSの場合、Y
1に結合するL
1の原子は炭素であり、OR
1に結合するL
1の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接せず;
L
2は、m個の原子からなるアルキレン鎖であり、ここで、アルキレン炭素原子上の水素原子は、OH、OR
c、NH
2、NHR
c、NR
cR
d、SHもしくはSR
cで置換されても置換されていなくてもよく、または、
L
2は、前記アルキレン鎖の一つ以上の炭素原子が、酸素原子で置換されたポリエーテル鎖であり、
ただし、Y
2が、NH、OまたはSの場合、Y
2に結合するL
2の原子は炭素であり、OR
2に結合するL
2の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接せず;
R
a、R
b、R
cおよびR
dは、それぞれ独立して、置換基または保護基であり;
lは、1または2であり;
mは、0〜30の範囲の整数であり;
nは、0〜30の範囲の整数であり;
環Aは、前記環A上のC−2以外の1個の炭素原子が、窒素、酸素、硫黄で置換されてもよく、
前記環A内に、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合を含んでもよく、
前記領域(Xc)および前記領域(X)は、それぞれ、−OR
1−または−OR
2−を介して、前記リンカー領域(Lx)に結合し、
前記領域(Yc)および前記領域(Y)は、それぞれ、−OR
1−または−OR
2−を介して、前記リンカー領域(Ly)に結合し、
ここで、R
1およびR
2は、存在しても存在しなくてもよく、存在する場合、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、ヌクレオチド残基または前記構造(I)である。
【0085】
前記式(I)中、X
1およびX
2は、例えば、それぞれ独立して、H
2、O、SまたはNHである。前記式(I)中において、X
1がH
2であるとは、X
1が、X
1の結合する炭素原子とともに、CH
2(メチレン基)を形成することを意味する。X
2についても同様である。
【0086】
前記式(I)中、Y
1およびY
2は、それぞれ独立して、単結合、CH
2、NH、OまたはSである。
【0087】
前記式(I)中、環Aにおいて、lは、1または2である。l=1の場合、環Aは、5員環であり、例えば、前記ピロリジン骨格である。前記ピロリジン骨格は、例えば、プロリン骨格、プロリノール骨格等があげられ、これらの二価の構造が例示できる。l=2の場合、環Aは、6員環であり、例えば、前記ピペリジン骨格である。環Aは、環A上のC−2以外の1個の炭素原子が、窒素、酸素または硫黄で置換されてもよい。また、環Aは、環A内に、炭素−炭素二重結合または炭素−窒素二重結合を含んでもよい。環Aは、例えば、L型およびD型のいずれでもよい。
【0088】
前記式(I)中、R
3は、環A上のC−3、C−4、C−5またはC−6に結合する水素原子または置換基である。R
3が前記置換基の場合、置換基R
3は、1でも複数でも、存在しなくてもよく、複数の場合、同一でも異なってもよい。
【0089】
置換基R
3は、例えば、ハロゲン、OH、OR
4、NH
2、NHR
4、NR
4R
5、SH、SR
4またはオキソ基(=O)等である。
【0090】
R
4およびR
5は、例えば、それぞれ独立して、置換基または保護基であり、同一でも異なってもよい。前記置換基は、例えば、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、シクロアルキルアルキル、シクリルアルキル、ヒドロキシアルキル、アルコキシアルキル、アミノアルキル、ヘテロシクリルアルケニル、ヘテロシクリルアルキル、ヘテロアリールアルキル、シリル、シリルオキシアルキル等があげられる。以下、同様である。置換基R
3は、これらの列挙する置換基でもよい。
【0091】
前記保護基は、例えば、反応性の高い官能基を不活性に変換する官能基であり、公知の保護基等があげられる。前記保護基は、例えば、文献(J. F. W. McOmie, 「Protecting Groups in Organic Chemistry」 Prenum Press, London and New York, 1973)の記載を援用できる。前記保護基は、特に制限されず、例えば、tert−ブチルジメチルシリル基(TBDMS)、ビス(2−アセトキシエチルオキシ)メチル基(ACE)、トリイソプロピルシリルオキシメチル基(TOM)、1−(2−シアノエトキシ)エチル基(CEE)、2−シアノエトキシメチル基(CEM)およびトリルスルフォニルエトキシメチル基(TEM)、ジメトキシトリチル基(DMTr)等があげられる。R
3がOR
4の場合、前記保護基は、特に制限されず、例えば、TBDMS基、ACE基、TOM基、CEE基、CEM基およびTEM基等があげられる。この他にも、後述する[化5]のシリル含有基もあげられる。以下、同様である。
【0092】
前記式(I)中、L
1は、n個の原子からなるアルキレン鎖である。前記アルキレン炭素原子上の水素原子は、例えば、OH、OR
a、NH
2、NHR
a、NR
aR
b、SH、もしくはSR
aで置換されてもよいし、置換されていなくてもよい。または、L
1は、前記アルキレン鎖の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されたポリエーテル鎖でもよい。前記ポリエーテル鎖は、例えば、ポリエチレングリコールである。なお、Y
1が、NH、OまたはSの場合、Y
1に結合するL
1の原子は炭素であり、OR
1に結合するL
1の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接しない。つまり、例えば、Y
1がOの場合、その酸素原子とL
1の酸素原子は隣接せず、OR
1の酸素原子とL
1の酸素原子は隣接しない。
【0093】
前記式(I)中、L
2は、m個の原子からなるアルキレン鎖である。前記アルキレン炭素原子上の水素原子は、例えば、OH、OR
c、NH
2、NHR
c、NR
cR
d、SHもしくはSR
cで置換されてもよいし、置換されていなくてもよい。または、L
2は、前記アルキレン鎖の1つ以上の炭素原子が酸素原子で置換されたポリエーテル鎖でもよい。なお、Y
2が、NH、OまたはSの場合、Y
2に結合するL
2の原子は炭素であり、OR
2に結合するL
2の原子は炭素であり、酸素原子同士は隣接しない。つまり、例えば、Y
2がOの場合、その酸素原子とL
2の酸素原子は隣接せず、OR
2の酸素原子とL
2の酸素原子は隣接しない。
【0094】
L
1のnおよびL
2のmは、特に制限されず、それぞれ、下限は、例えば、0であり、上限も、特に制限されない。nおよびmは、例えば、前記リンカー領域(Lx)または(Ly)の所望の長さに応じて、適宜設定できる。nおよびmは、例えば、製造コストおよび収率等の点から、それぞれ、0〜30が好ましく、より好ましくは0〜20であり、さらに好ましくは0〜15である。nとmは、同じでもよいし(n=m)、異なってもよい。n+mは、例えば、0〜30であり、好ましくは0〜20であり、より好ましくは0〜15である。
【0095】
R
a、R
b、R
cおよびR
dは、例えば、それぞれ独立して、置換基または保護基である。前記置換基および前記保護基は、例えば、前述と同様である。
【0096】
前記式(I)において、水素原子は、例えば、それぞれ独立して、Cl、Br、FおよびI等のハロゲンに置換されてもよい。
【0097】
前記領域(Xc)および前記領域(X)は、前記リンカー領域(Lx)に、前記領域(Yc)および前記領域(Y)は、前記リンカー領域(Ly)に、例えば、それぞれ、−OR
1−または−OR
2−を介して、結合する。ここで、R
1およびR
2は、存在しても存在しなくてもよい。R
1およびR
2が存在する場合、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、ヌクレオチド残基または前記式(I)の構造である。R
1および/またはR
2が前記ヌクレオチド残基の場合、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)は、例えば、ヌクレオチド残基R
1および/またはR
2を除く前記式(I)の構造からなる前記非ヌクレオチド残基と、前記ヌクレオチド残基とから形成される。R
1および/またはR
2が前記式(I)の構造の場合、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)は、例えば、前記式(I)の構造からなる前記非ヌクレオチド残基が、2つ以上連結された構造となる。前記式(I)の構造は、例えば、1個、2個、3個または4個含んでもよい。このように、前記構造を複数含む場合、前記(I)の構造は、例えば、直接連結されてもよいし、前記ヌクレオチド残基を介して結合してもよい。他方、R
1およびR
2が存在しない場合、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)は、例えば、前記式(I)の構造からなる前記非ヌクレオチド残基のみから形成される。
【0098】
前記領域(Xc)および前記領域(X)、ならびに、前記領域(Yc)および前記領域(Y)と、前記−OR
1−および−OR
2−との結合の組合せは、特に制限されず、例えば、以下のいずれかの条件があげられる。
条件(1)
前記領域(Xc)は、−OR
2−を介して、前記領域(X)は、−OR
1−を介して、前記式(I)の構造と結合し、
前記領域(Yc)は、−OR
1−を介して、前記領域(Y)は、−OR
2−を介して、前記式(I)の構造と結合する。
条件(2)
前記領域(Xc)は、−OR
2−を介して、前記領域(X)は、−OR
1−を介して、前記式(I)の構造と結合し、
前記領域(Yc)は、−OR
2−を介して、前記領域(Y)は、−OR
1−を介して、前記式(I)の構造と結合する。
条件(3)
前記領域(Xc)は、−OR
1−を介して、前記領域(X)は、−OR
2−を介して、前記式(I)の構造と結合し、
前記領域(Yc)は、−OR
1−を介して、前記領域(Y)は、−OR
2−を介して、前記式(I)の構造と結合する。
条件(4)
前記領域(Xc)は、−OR
1−を介して、前記領域(X)は、−OR
2−を介して、前記式(I)の構造と結合し、
前記領域(Yc)は、−OR
2−を介して、前記領域(Y)は、−OR
1−を介して、前記式(I)の構造と結合する。
【0099】
前記式(I)の構造は、例えば、下記式(I−1)〜式(I−9)が例示でき、下記式において、nおよびmは、前記式(I)と同じである。下記式において、qは、0〜10の整数である。
【0101】
前記式(I−1)〜(I−9)において、n、mおよびqは、特に制限されず、前述の通りである。具体例として、前記式(I−1)において、n=8、前記(I−2)において、n=3、前記式(I−3)において、n=4または8、前記(I−4)において、n=7または8、前記式(I−5)において、n=3およびm=4、前記(I−6)において、n=8およびm=4、前記式(I−7)において、n=8およびm=4、前記(I−8)において、n=5およびm=4、前記式(I−9)において、q=1およびm=4があげられる。前記式(I−4)の一例(n=8)を、下記式(I−4a)に、前記式(I−6)の一例(n=5、m=4)を、下記式(I−6a)に示す。
リンカー領域Lxが下記式(I−6a)に示す構造である第1形態の本発明の核酸分子の好ましい実施態様として、
(1)配列番号5
で表される塩基配列、下記式(I−6a)で表される構造、および配列番号13で表される塩基配列、または
(2)配列番号6で表される塩基配列
、下記式(I−6a)で表される構造、および配列番号14で表される塩基配列、からなる核酸分子を挙げることができる。また、リンカー領域LxおよびLyが下記式(I−6a)に示す構造である第2形態の本発明の核酸分子の好ましい実施態様として、
(1)配列番号11
で表される塩基配列、下記式(I−6a)で表される構造、配列番号15で表される塩基配列、下記式(I−6a)で表される構造、およびGまたは
(2)配列番号12で表される塩基配列
、下記式(I−6a)で表される構造、配列番号16で表される塩基配列、下記式(I−6a)で表される構造、およびG、からなる核酸分子を挙げることができる。
PHR−000
1
5’-UGGAAACCCACAACGAAAUCUCC
(配列番号5)-Lx-GGAG
AUUUCGUUGUGGGUUUCCACC(配列番号13)-3’
PHR−000
2
5’-UGUGACAGCAGGGAUAACACACC
(配列番号6)-Lx-GGUG
UGUUAUCCCUGCUGUCACAGG(配列番号14)-3’
PKR−000
1
5’-GUGGAAACCCACAACGAAAUCUCC
(配列番号11)-Lx-GGAG
AUUUCGUUGUGGGUUUCCACCC
(配列番号15)-Ly-G-3’
PKR−000
2
5’-CUGUGACAGCAGGGAUAACACACC
(配列番号12)-Lx-GGUG
UGUUAUCCCUGCUGUCACAGGC
(配列番号16)-Ly-G-3’
【0103】
本発明の核酸分子の構成単位は、特に制限されず、例えば、ヌクレオチド残基があげられる。前記ヌクレオチド残基は、例えば、リボヌクレオチド残基およびデオキシリボヌクレオチド残基があげられる。前記ヌクレオチド残基は、例えば、修飾されていない非修飾ヌクレオチド残基および修飾された修飾ヌクレオチド残基があげられる。本発明の核酸分子は、例えば、前記修飾ヌクレオチド残基を含むことによって、ヌクレアーゼ耐性を向上し、安定性を向上可能である。また、本発明の核酸分子は、例えば、前記ヌクレオチド残基の他に、さらに、非ヌクレオチド残基を含んでもよい。
【0104】
本発明の核酸分子において、前記リンカー以外の領域の構成単位は、それぞれ、前記ヌクレオチド残基が好ましい。前記各領域は、例えば、下記(1)〜(3)の残基で構成される。
(1)非修飾ヌクレオチド残基
(2)修飾ヌクレオチド残基
(3)非修飾ヌクレオチド残基および修飾ヌクレオチド残基
【0105】
本発明の核酸分子において、前記リンカー領域の構成単位は、特に制限されず、例えば、前記ヌクレオチド残基および前記非ヌクレオチド残基があげられる。前記リンカー領域は、例えば、前記ヌクレオチド残基のみから構成されてもよいし、前記非ヌクレオチド残基のみから構成されてもよいし、前記ヌクレオチド残基と前記非ヌクレオチド残基から構成されてもよい。前記リンカー領域は、例えば、下記(1)〜(7)の残基で構成される。
(1)非修飾ヌクレオチド残基
(2)修飾ヌクレオチド残基
(3)非修飾ヌクレオチド残基および修飾ヌクレオチド残基
(4)非ヌクレオチド残基
(5)非ヌクレオチド残基および非修飾ヌクレオチド残基
(6)非ヌクレオチド残基および修飾ヌクレオチド残基
(7)非ヌクレオチド残基、非修飾ヌクレオチド残基および修飾ヌクレオチド残基
【0106】
本発明の核酸分子が、前記リンカー領域(Lx)および前記リンカー領域(Ly)の両方を有する場合、例えば、両方の構成単位が同じでもよいし、異なってもよい。具体例として、例えば、両方のリンカー領域の構成単位が前記ヌクレオチド残基である形態、両方のリンカー領域の構成単位が前記非ヌクレオチド残基である形態、一方の領域の構成単位が前記ヌクレオチド残基であり、他方のリンカー領域の構成単位が非ヌクレオチド残基である形態等があげられる。
【0107】
本発明の核酸分子は、例えば、前記ヌクレオチド残基のみから構成される分子、前記ヌクレオチド残基の他に前記非ヌクレオチド残基を含む分子等があげられる。本発明の核酸分子において、前記ヌクレオチド残基は、前述のように、例えば、前記非修飾ヌクレオチド残基のみでもよいし、前記修飾ヌクレオチド残基のみでもよいし、前記非修飾ヌクレオチド残基および前記修飾ヌクレオチド残基の両方でもよい。前記核酸分子が、前記非修飾ヌクレオチド残基と前記修飾ヌクレオチド残基を含む場合、前記修飾ヌクレオチド残基の個数は、特に制限されず、例えば、「1もしくは数個」であり、具体的には、例えば、1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、最も好ましくは1または2個である。本発明の核酸分子が、前記非ヌクレオチド残基を含む場合、前記非ヌクレオチド残基の個数は、特に制限されず、例えば、「1もしくは数個」であり、具体的には、例えば、1〜8個、1〜6個、1〜4個、1、2または3個である。
【0108】
前記核酸分子が、例えば、前記非修飾リボヌクレオチド残基の他に前記修飾リボヌクレオチド残基を含む場合、前記修飾リボヌクレオチド残基の個数は、特に制限されず、例えば、「1もしくは数個」であり、具体的には、例えば、1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、最も好ましくは1または2個である。前記非修飾リボヌクレオチド残基に対する前記修飾リボヌクレオチド残基は、例えば、リボース残基がデオキシリボース残基に置換された前記デオキシリボヌクレオチド残基でもよい。前記核酸分子が、例えば、前記非修飾リボヌクレオチド残基の他に前記デオキシリボヌクレオチド残基を含む場合、前記デオキシリボヌクレオチド残基の個数は、特に制限されず、例えば、「1もしくは数個」であり、具体的には、例えば、1〜5個、好ましくは1〜4個、より好ましくは1〜3個、最も好ましくは1または2個である。
【0109】
本発明の核酸分子は、例えば、標識物質を含み、前記標識物質で標識化されてもよい。前記標識物質は、特に制限されず、例えば、蛍光物質、色素、同位体等があげられる。前記標識物質は、例えば、ピレン、TAMRA、フルオレセイン、Cy3色素、Cy5色素等の蛍光団があげられ、前記色素は、例えば、Alexa488等のAlexa色素等があげられる。前記同位体は、例えば、安定同位体および放射性同位体があげられ、好ましくは安定同位体である。前記安定同位体は、例えば、被ばくの危険性が少なく、専用の施設も不要であることから取り扱い性に優れ、また、コストも低減できる。また、前記安定同位体は、例えば、標識した化合物の物性変化がなく、トレーサーとしての性質にも優れる。前記安定同位体は、特に制限されず、例えば、
2H、
13C、
15N、
17O、
18O、
33S、
34Sおよび
36Sがあげられる。
【0110】
本発明の核酸分子は、前述のように、TGF−β1遺伝子の発現抑制ができる。このため、本発明の核酸分子は、例えば、TGF−β1遺伝子が原因となる疾患の治療剤として使用できる。本発明において、「治療」は、例えば、前記疾患の予防、疾患の改善、予後の改善の意味を含み、いずれでもよい。前記疾患は、急性肺傷害;間質性肺炎/肺線維症;COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患);気管支喘息等があげられる。
【0111】
本発明の核酸分子の使用方法は、特に制限されず、例えば、前記TGF−β1遺伝子を有する投与対象に、前記核酸分子を投与すればよい。
【0112】
前記投与対象は、例えば、細胞、組織または器官があげられる。前記投与対象は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト哺乳類等の非ヒト動物があげられる。前記投与は、例えば、in vivoでもin vitroでもよい。前記細胞は、特に制限されず、例えば、A549、HeLa、293、COS7等の各種培養細胞、ES細胞、iPS細胞等の多能性幹細胞、造血幹細胞等の体性幹細胞、前記多能性幹細胞もしくは体性幹細胞から分化誘導された各種培養細胞、初代培養細胞等の生体から単離した細胞等があげられる。
【0113】
本発明の核酸分子の使用に関しては、後述する本発明の組成物、発現抑制方法および治療方法等の記載を参照できる。
【0114】
本発明の核酸分子は、前述のように、TGF−β1遺伝子の発現を抑制可能であることから、例えば、医薬品、診断薬および農薬、ならびに、農薬、医学、生命科学等の研究ツールとして有用である。
【0115】
2.ヌクレオチド残基
前記ヌクレオチド残基は、例えば、構成要素として、糖、塩基およびリン酸を含む。前記ヌクレオチド残基は、前述のように、例えば、リボヌクレオチド残基およびデオキシリボヌクレオチド残基があげられる。前記リボヌクレオチド残基は、例えば、糖としてリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)およびU(ウラシル)を有し、前記デオキシリボース残基は、例えば、糖としてデオキシリボース残基を有し、塩基として、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)およびチミン(T)を有する。
【0116】
前記ヌクレオチド残基は、未修飾ヌクレオチド残基および修飾ヌクレオチド残基があげられる。前記未修飾ヌクレオチド残基は、前記各構成要素が、例えば、天然に存在するものと同一または実質的に同一であり、好ましくは、人体において天然に存在するものと同一または実質的に同一である。
【0117】
前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、前記未修飾ヌクレオチド残基を修飾したヌクレオチド残基である。前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、前記未修飾ヌクレオチド残基の構成要素のいずれが修飾されてもよい。本発明において、「修飾」は、例えば、前記構成要素の置換、付加および/または欠失、前記構成要素における原子および/または官能基の置換、付加および/または欠失であり、「改変」ということができる。前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、天然に存在するヌクレオチド残基、人工的に修飾したヌクレオチド残基等があげられる。前記天然由来の修飾ヌクレオチド残基は、例えば、リンバックら(Limbach et al.、1994、Summary:the modified nucleosides of RNA、Nucleic Acids Res.22:2183〜2196)を参照できる。また、前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、前記ヌクレオチドの代替物の残基でもよい。
【0118】
前記ヌクレオチド残基の修飾は、例えば、リボース−リン酸骨格(以下、リボリン酸骨格)の修飾があげられる。
【0119】
前記リボリン酸骨格において、例えば、リボース残基を修飾できる。前記リボース残基は、例えば、2’位炭素を修飾でき、具体的には、例えば、2’位炭素に結合する水酸基を、水素またはフルオロ等のハロゲンに置換できる。前記2’位炭素の水酸基を水素に置換することで、リボース残基をデオキシリボースに置換できる。前記リボース残基は、例えば、立体異性体に置換でき、例えば、アラビノース残基に置換してもよい。
【0120】
前記リボリン酸骨格は、例えば、非リボース残基および/または非リン酸を有する非リボリン酸骨格に置換してもよい。前記非リボリン酸骨格は、例えば、前記リボリン酸骨格の非荷電体があげられる。前記非リボリン酸骨格に置換された、前記ヌクレオチドの代替物は、例えば、モルホリノ、シクロブチル、ピロリジン等があげられる。前記代替物は、この他に、例えば、人工核酸モノマー残基があげられる。具体例として、例えば、PNA(ペプチド核酸)、LNA(Locked Nucleic Acid)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylenebridged Nucleic Acid)等があげられ、好ましくはPNAである。
【0121】
前記リボリン酸骨格において、例えば、リン酸基を修飾できる。前記リボリン酸骨格において、糖残基に最も隣接するリン酸基は、αリン酸基と呼ばれる。前記αリン酸基は、負に荷電し、その電荷は、糖残基に非結合の2つの酸素原子にわたって、均一に分布している。前記αリン酸基における4つの酸素原子のうち、ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と非結合である2つの酸素原子は、以下、「非結合(non−linking)酸素」ともいう。他方、前記ヌクレオチド残基間のホスホジエステル結合において、糖残基と結合している2つの酸素原子は、以下、「結合(linking)酸素」という。前記αリン酸基は、例えば、非荷電となる修飾、または、前記非結合酸素における電荷分布が非対称型となる修飾を行うことが好ましい。
【0122】
前記リン酸基は、例えば、前記非結合酸素を置換してもよい。前記酸素は、例えば、S(硫黄)、Se(セレン)、B(ホウ素)、C(炭素)、H(水素)、N(窒素)およびOR(Rは、アルキル基またはアリール基)のいずれかの原子で置換でき、好ましくは、Sで置換される。前記非結合酸素は、例えば、両方が置換されていることが好ましく、より好ましくは、両方がSで置換される。前記修飾リン酸基は、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、ボラノホスフェート、ボラノホスフェートエステル、ホスホネート水素、ホスホロアミデート、アルキルまたはアリールホスホネート、およびホスホトリエステル等があげられ、中でも、前記2つの非結合酸素が両方ともSで置換されているホスホロジチオエートが好ましい。
【0123】
前記リン酸基は、例えば、前記結合酸素を置換してもよい。前記酸素は、例えば、S(硫黄)、C(炭素)およびN(窒素)のいずれかの原子で置換でき、前記修飾リン酸基は、例えば、Nで置換した架橋ホスホロアミデート、Sで置換した架橋ホスホロチオエート、およびCで置換した架橋メチレンホスホネート等があげられる。前記結合酸素の置換は、例えば、本発明の核酸分子の5’末端ヌクレオチド残基および3’末端ヌクレオチド残基の少なくとも一方において行うことが好ましく、5’側の場合、Cによる置換が好ましく、3’側の場合、Nによる置換が好ましい。
【0124】
前記リン酸基は、例えば、前記リン非含有のリンカーに置換してもよい。前記リンカーは、例えば、シロキサン、カーボネート、カルボキシメチル、カルバメート、アミド、チオエーテル、エチレンオキサイドリンカー、スルホネート、スルホンアミド、チオホルムアセタール、ホルムアセタール、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾ、およびメチレンオキシメチルイミノ等を含み、好ましくは、メチレンカルボニルアミノ基およびメチレンメチルイミノ基を含む。
【0125】
本発明の核酸分子は、例えば、3’末端および5’末端の少なくとも一方のヌクレオチド残基が修飾されてもよい。前記修飾は、例えば、3’末端および5’末端のいずれか一方でもよいし、両方でもよい。前記修飾は、例えば、前述の通りであり、好ましくは、末端のリン酸基に行うことが好ましい。前記リン酸基は、例えば、全体を修飾してもよいし、前記リン酸基における1つ以上の原子を修飾してもよい。前者の場合、例えば、リン酸基全体の置換でもよいし、欠失でもよい。
【0126】
前記末端のヌクレオチド残基の修飾は、例えば、他の分子の付加があげられる。前記他の分子は、例えば、前述のような標識物質、保護基等の機能性分子があげられる。前記保護基は、例えば、S(硫黄)、Si(ケイ素)、B(ホウ素)、エステル含有基等があげられる。前記標識物質等の機能性分子は、例えば、本発明の核酸分子の検出等に利用できる。
【0127】
前記他の分子は、例えば、前記ヌクレオチド残基のリン酸基に付加してもよいし、スペーサーを介して、前記リン酸基または前記糖残基に付加してもよい。前記スペーサーの末端原子は、例えば、前記リン酸基の前記結合酸素、または、糖残基のO、N、SもしくはCに、付加または置換できる。前記糖残基の結合部位は、例えば、3’位のCもしくは5’位のC、またはこれらに結合する原子が好ましい。前記スペーサーは、例えば、前記PNA等のヌクレオチド代替物の末端原子に、付加または置換することもできる。
【0128】
前記スペーサーは、特に制限されず、例えば、−(CH
2)
n−、−(CH
2)
nN−、−(CH
2)
nO−、−(CH
2)
nS−、O(CH
2CH
2O)
nCH
2CH
2OH、無塩基糖、アミド、カルボキシ、アミン、オキシアミン、オキシイミン、チオエーテル、ジスルフィド、チオ尿素、スルホンアミド、およびモルホリノ等、ならびに、ビオチン試薬およびフルオレセイン試薬等を含んでもよい。前記式において、nは、正の整数であり、n=3または6が好ましい。
【0129】
前記末端に付加する分子は、これらの他に、例えば、色素、インターカレート剤(例えば、アクリジン)、架橋剤(例えば、ソラレン、マイトマイシンC)、ポルフィリン(TPPC4、テキサフィリン、サッフィリン)、多環式芳香族炭化水素(例えば、フェナジン、ジヒドロフェナジン)、人工エンドヌクレアーゼ(例えば、EDTA)、親油性担体(例えば、コレステロール、コール酸、アダマンタン酢酸、1−ピレン酪酸、ジヒドロテストステロン、1,3−ビス−O(ヘキサデシル)グリセロール、ゲラニルオキシヘキシル基、ヘキサデシルグリセロール、ボルネオール、メントール、1,3−プロパンジオール、ヘプタデシル基、パルミチン酸、ミリスチン酸、O3−(オレオイル)リトコール酸、O3−(オレオイル)コール酸、ジメトキシトリチル、またはフェノキサジン)およびペプチド複合体(例えば、アンテナペディアペプチド、Tatペプチド)、アルキル化剤、リン酸、アミノ、メルカプト、PEG(例えば、PEG−40K)、MPEG、[MPEG]
2、ポリアミノ、アルキル、置換アルキル、放射線標識マーカー、酵素、ハプテン(例えば、ビオチン)、輸送/吸収促進剤(例えば、アスピリン、ビタミンE、葉酸)、合成リボヌクレアーゼ(例えば、イミダゾール、ビスイミダゾール、ヒスタミン、イミダゾールクラスター、アクリジン−イミダゾール複合体、テトラアザマクロ環のEu
3+複合体)等があげられる。
【0130】
本発明の核酸分子は、前記5’末端が、例えば、リン酸基またはリン酸基アナログで修飾されてもよい。前記リン酸基は、例えば、5’一リン酸((HO)
2(O)P-O-5’)、5’二リン酸((HO)
2(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’三リン酸((HO)
2(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’−グアノシンキャップ(7−メチル化または非メチル化、7m-G-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’−アデノシンキャップ(Appp)、任意の修飾または非修飾ヌクレオチドキャップ構造(N-O-5’-(HO)(O)P-O-(HO)(O)P-O-P(HO)(O)-O-5’)、5’一チオリン酸(ホスホロチオエート:(HO)
2(S)P-O-5’)、5’一ジチオリン酸(ホスホロジチオエート:(HO)(HS)(S)P-O-5’)、5’−ホスホロチオール酸((HO)
2(O)P-S-5’)、硫黄置換の一リン酸、二リン酸および三リン酸(例えば、5’−α−チオ三リン酸、5’−γ−チオ三リン酸等)、5’−ホスホルアミデート((HO)
2(O)P-NH-5’、(HO)(NH
2)(O)P-O-5’)、5’−アルキルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、(OH)
2(O)P-5’-CH
2、Rはアルキル(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル等))、5’−アルキルエーテルホスホン酸(例えば、RP(OH)(O)-O-5’、Rはアルキルエーテル(例えば、メトキシメチル、エトキシメチル等))等があげられる。
【0131】
前記ヌクレオチド残基において、前記塩基は、特に制限されない。前記塩基は、例えば、天然の塩基でもよいし、非天然の塩基でもよい。前記塩基は、例えば、天然由来でもよいし、合成品でもよい。前記塩基は、例えば、一般的な塩基、その修飾アナログ等が使用できる。
【0132】
前記塩基は、例えば、アデニンおよびグアニン等のプリン塩基、シトシン、ウラシルおよびチミン等のピリミジン塩基があげられる。前記塩基は、この他に、イノシン、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン、ヌバラリン(nubularine)、イソグアニシン(isoguanisine)、ツベルシジン(tubercidine)等があげられる。前記塩基は、例えば、2−アミノアデニン、6−メチル化プリン等のアルキル誘導体;2−プロピル化プリン等のアルキル誘導体;5−ハロウラシルおよび5−ハロシトシン;5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシン;6−アゾウラシル、6−アゾシトシンおよび6−アゾチミン;5−ウラシル(プソイドウラシル)、4−チオウラシル、5−ハロウラシル、5−(2−アミノプロピル)ウラシル、5−アミノアリルウラシル;8−ハロ化、アミノ化、チオール化、チオアルキル化、ヒドロキシル化および他の8−置換プリン;5−トリフルオロメチル化および他の5−置換ピリミジン;7−メチルグアニン;5−置換ピリミジン;6−アザピリミジン;N−2、N−6、およびO−6置換プリン(2−アミノプロピルアデニンを含む);5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシン;ジヒドロウラシル;3−デアザ−5−アザシトシン;2−アミノプリン;5−アルキルウラシル;7−アルキルグアニン;5−アルキルシトシン;7−デアザアデニン;N6,N6−ジメチルアデニン;2,6−ジアミノプリン;5−アミノ−アリル−ウラシル;N3−メチルウラシル;置換1,2,4−トリアゾール;2−ピリジノン;5−ニトロインドール;3−ニトロピロール;5−メトキシウラシル;ウラシル−5−オキシ酢酸;5−メトキシカルボニルメチルウラシル;5−メチル−2−チオウラシル;5−メトキシカルボニルメチル−2−チオウラシル;5−メチルアミノメチル−2−チオウラシル;3−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)ウラシル;3−メチルシトシン;5−メチルシトシン;N4−アセチルシトシン;2−チオシトシン;N6−メチルアデニン;N6−イソペンチルアデニン;2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン;N−メチルグアニン;O−アルキル化塩基等があげられる。また、プリンおよびピリミジンは、例えば、米国特許第3,687,808号、「Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering」、858〜859頁、クロシュビッツ ジェー アイ(Kroschwitz J.I.)編、John Wiley & Sons、1990、およびイングリッシュら(Englischら)、Angewandte Chemie、International Edition、1991、30巻、p.613に開示されるものが含まれる。
【0133】
前記修飾ヌクレオチド残基は、これらの他に、例えば、塩基を欠失する残基、すなわち、無塩基のリボリン酸骨格を含んでもよい。また、前記修飾ヌクレオチド残基は、例えば、米国仮出願第60/465,665号(出願日:2003年4月25日)、および国際出願第PCT/US04/07070号(出願日:2004年3月8日)に記載される残基が使用でき、本発明は、これらの文献を援用できる。
【0134】
3.本発明の核酸分子の合成方法
本発明の核酸分子の合成方法は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。前記合成方法は、例えば、遺伝子工学的手法による合成法、化学合成法等があげられる。遺伝子工学的手法は、例えば、インビトロ転写合成法、ベクターを用いる方法、PCRカセットによる方法があげられる。前記ベクターは、特に制限されず、プラスミド等の非ウイルスベクター、ウイルスベクター等があげられる。前記化学合成法は、特に制限されず、例えば、ホスホロアミダイト法およびH−ホスホネート法等があげられる。前記化学合成法は、例えば、市販の自動核酸合成機を使用可能である。前記化学合成法は、一般に、アミダイトが使用される。前記アミダイトは、特に制限されず、市販のアミダイトとして、例えば、RNA Phosphoramidites(2’−O−TBDMSi、商品名、三千里製薬)、ACEアミダイトおよびTOMアミダイト、CEEアミダイト、CEMアミダイト、TEMアミダイト等があげられる。
【0135】
4.発現ベクター
本発明の発現ベクターは、前記本発明の核酸分子をコードするDNAを含むことを特徴とする。本発明の発現ベクターは、前記DNAを含むことが特徴であり、その他の構成は、何ら制限されない。本発明の発現ベクターは、例えば、ベクターに発現可能なように前記DNAが挿入されている。前記DNAを挿入するベクターは、特に制限されず、例えば、一般的なベクターが使用でき、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクター等があげられる。前記非ウイルスベクターは、例えば、プラスミドベクターがあげられる。
【0136】
5.TGF−β1発現抑制剤および医薬
本発明の発現抑制剤(または発現抑制用組成物)は、前述のように、TGF−β1遺伝子の発現を抑制するための製剤(または組成物)であり、前記本発明の核酸分子を含むことを特徴とする。本発明の発現抑制剤(または発現抑制組成物)は、前記本発明の核酸分子を含むことが特徴であり、その他の構成は、何ら制限されない。即ち、該核酸分子単独であってもよいし、使用目的に応じてそれぞれ許容される添加物をさらに含んでもよい。本発明の発現抑制剤(または発現抑制用組成物)は、例えば、発現抑制用試薬ということもできる。
【0137】
本発明によれば、例えば、前記TGF−β1遺伝子が存在する対象に投与することで、前記TGF−β1遺伝子の発現抑制を行うことができる。
【0138】
また、本発明の医薬(または薬学的組成物)は、前述のように、前記本発明の核酸分子を含むことを特徴とする。本発明の医薬(または薬学的組成物)は、前記本発明の核酸分子を含むことが特徴であり、その他の構成は何ら制限されない。即ち、該核酸分子単独であってもよいし、薬学上許容される添加物をさらに含んでもよい。
【0139】
本発明によれば、例えば、前記TGF−β1遺伝子が原因となる疾患の患者に投与することで、前記遺伝子の発現を抑制し、前記疾患を治療できる。前記疾患は、例えば、前述の通りであって、急性肺傷害、間質性肺炎/肺線維症等があげられる。本発明において、「治療」は、前述のように、例えば、前記疾患の予防、疾患の改善、予後の改善の意味を含み、いずれでもよい。
【0140】
本発明の発現抑制剤(または発現抑制用組成物)および医薬(または薬学的組成物)(以下、「本発明の剤/組成物」という)は、その使用方法は、特に制限されず、例えば、前記TGF−β1遺伝子を有する投与対象に、前記核酸分子を投与すればよい。
【0141】
前記投与対象は、例えば、細胞、組織または器官があげられる。前記投与対象は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト哺乳類等の非ヒト動物があげられる。前記投与は、例えば、in vivoでもin vitroでもよい。前記細胞は、特に制限されず、例えば、前述のような細胞等があげられる。
【0142】
前記投与方法は、特に制限されず、例えば、投与対象に応じて適宜決定できる。前記投与対象が培養細胞の場合、例えば、トランスフェクション試薬を使用する方法、エレクトロポレーション法等があげられる。
【0143】
本発明の剤/組成物は、上述のとおり、本発明の核酸分子のみを含んでもよいし、さらにその他の添加物を含んでもよい。前記添加物は、特に制限されず、例えば、薬学的に許容された添加物が好ましい。前記添加物の種類は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類に応じて適宜選択できる。
【0144】
本発明の組成物において、前記核酸分子は、例えば、前記添加物と複合体を形成してもよい。前記添加物は、例えば、複合化剤ということもできる。前記複合体形成により、例えば、前記核酸分子を効率よくデリバリーすることができる。前記核酸分子と前記複合化剤との結合は、特に制限されず、例えば、非共有結合があげられる。前記複合体は、例えば、包接複合体があげられる。
【0145】
前記複合化剤は、特に制限されず、ポリマー、シクロデキストリン、アダマンチン等があげられる。前記シクロデキストリンは、例えば、線状シクロデキストリンコポリマー、線状酸化シクロデキストリンコポリマー等があげられる。
【0146】
前記添加剤は、この他に、例えば、担体、標的細胞への結合物質、縮合剤、融合剤、賦形剤等があげられる。
【0147】
6.発現抑制方法
本発明の発現抑制方法は、前述のように、TGF−β1遺伝子の発現を抑制する方法であって、前記本発明の核酸分子を使用することを特徴とする。本発明の発現抑制方法は、前記本発明の核酸分子を使用することが特徴であって、その他の工程および条件は、何ら制限されない。
【0148】
本発明の発現抑制方法は、例えば、前記TGF−β1遺伝子が存在する対象に、前記核酸分子を投与する工程を含む。前記投与工程により、例えば、前記投与対象に前記核酸分子を接触させる。前記投与対象は、例えば、細胞、組織または器官があげられる。前記投与対象は、例えば、ヒト、ヒトを除く非ヒト哺乳類等の非ヒト動物があげられる。前記投与は、例えば、in vivoでもin vitroでもよい。
【0149】
本発明の発現抑制方法は、例えば、前記核酸分子を単独で投与してもよいし、前記核酸分子を含む前記本発明の組成物を投与してもよい。前記投与方法は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類に応じて適宜選択できる。
【0150】
7.治療方法
本発明の疾患の治療方法は、前述のように、前記本発明の核酸分子を、患者に投与する工程を含むことを特徴とする。本発明の治療方法は、前記本発明の核酸分子を使用することが特徴であって、その他の工程および条件は、何ら制限されない。本発明が対象とする疾患は、例えば、前述の通りであって、急性肺傷害、間質性肺炎/肺線維症等があげられる。
【0151】
本発明の治療方法は、例えば、前記本発明の発現抑制方法等を援用できる。前記投与方法は、特に制限されず、例えば、経口投与および非経口投与のいずれでもよい。
本発明の治療方法における本発明の核酸分子の投与量は、前記疾患の治療上有効な量であれば特に制限されず、疾患の種類、重症度、投与対象の動物種、齢、体重、薬物受容性、投与経路等によって異なるが、通常、成人1回あたり約0.0001〜約100mg/kg、例えば約0.001〜約10mg/kg、好ましくは約0.005〜約5mg/kgであり得る。当該量を、例えば、1日3回〜2週間に1回、好ましくは1日〜1週間に1回の間隔で投与することができる。
【0152】
8.核酸分子の使用
本発明の使用は、前記TGF−β1遺伝子の発現抑制のための、前記本発明の核酸分子の使用である。
本発明はまた、TGF−β1遺伝子の発現抑制、あるいは肺線維症または急性肺傷害の治療における使用のための、本発明の核酸分子を提供する。
本発明はまた、TGF−β1遺伝子の発現抑制剤、あるいは肺線維症または急性肺傷害の治療剤の製造のための、本発明の核酸分子の使用を提供する。
【0153】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0154】
(実施例1)A549細胞における一本鎖核酸分子のTGF−β1遺伝子発現抑制効果
(1)一本鎖核酸分子の合成
以下に示す一本鎖核酸分子を、ホスホロアミダイト法に基づき、ABI3900核酸合成機(商品名、アプライドバイオシステムス)により合成した。前記合成には、RNAアミダイトとして、EMMアミダイト(国際公開第2013/027843号)を用いた(以下、同様)。前記アミダイトの脱保護は、定法に従った。合成した一本鎖核酸分子は、HPLCによる精製後、それぞれ凍結乾燥した。
【0155】
一本鎖核酸分子として、前記配列番号1で表わされる発現抑制配列を有するPHR−0001およびPKR−0001、並びに前記配列番号2で表わされる発現抑制配列を有するPHR−0002およびPKR−0002を、それぞれ上記のように合成した。PHR−0001およびPHR−0002におけるLx、並びにPKR−0001およびPKR−0002におけるLxおよびLyは、それぞれリンカー領域であり、L−プロリンジアミドアミダイトを用いて下記構造式とした。各配列において、下線部は、ヒトTGF−β1遺伝子発現抑制配列である。
PHR−000
1
5’-UGGAAACCCACAACGAAAUCUCC
(配列番号5)-Lx-GGAG
AUUUCGUUGUGGGUUUCCACC(配列番号13)-3’
PHR−000
2
5’-UGUGACAGCAGGGAUAACACACC
(配列番号6)-Lx-GGUG
UGUUAUCCCUGCUGUCACAGG(配列番号14)-3’
PKR−000
1
5’-GUGGAAACCCACAACGAAAUCUCC
(配列番号11)-Lx-GGAG
AUUUCGUUGUGGGUUUCCACCC
(配列番号15)-Ly-G-3’
PKR−000
2
5’-CUGUGACAGCAGGGAUAACACACC
(配列番号12)-Lx-GGUG
UGUUAUCCCUGCUGUCACAGGC
(配列番号16)-Ly-G-3’
【0156】
【化4】
【0157】
(2)TGF−β1遺伝子発現量の測定
前記各一本鎖核酸分子を、20μmol/Lとなるように、注射用蒸留水(大塚製薬)に溶解した。
【0158】
細胞は、A549細胞(DSファーマバイオメディカル)を使用した。培地は、10%FBSを含むDMEM(Invitrogen)を使用した。培養条件は、37℃、5%CO
2下とした。
【0159】
まず、細胞を24穴プレートに、4×10
4細胞/400μL培地/ウェルとなるように播種した。その後、前記一本鎖核酸分子を(A)トランスフェクション試薬LipofectamineRNAiMAX(Invitrogen)を用い、前記トランスフェクション試薬の添付プロトコールに従って、トランスフェクションした。具体的には、前記ウェルあたりの組成を以下のように設定し、トランスフェクションを行った。下記組成において、(B)は、Opti−MEM(Invitrogen)、(C)は、20μmol/L 前記一本鎖核酸分子溶液であり、両者をあわせて98.5μL添加した。なお、前記ウェルにおいて、前記一本鎖核酸分子の最終濃度は、0.1、1nmol/Lとした。
【0160】
【表1】
【0161】
トランスフェクション後、前記ウェル中の細胞を24時間培養した後、RNeasy Mini Kit(Qiagen)を用い、添付のプロトコールに従って、RNAを回収した。次に、Transcription First Strand cDNA Synthesis Kit(Roche)を用い、添付のプロトコールに従って、前記RNAからcDNAを合成した。そして、以下に示すように、合成した前記cDNAを鋳型としてPCRを行い、TGF−β1遺伝子発現量および内部標準であるβ−アクチン遺伝子発現量を測定した。前記TGF−β1遺伝子発現量は、前記β−アクチン遺伝子発現量により補正した。
【0162】
前記PCRは、試薬としてLightCycler480 SYBR Green I Master(Roche)、機器としてLightCycler480(Roche)を用いた(以下、同様)。前記TGF−β1遺伝子およびβ−アクチン遺伝子の増幅には、それぞれ、以下のプライマーセットを使用した。
TGF−β1遺伝子用PCRプライマーセット
(配列番号7) 5’-TTGTGCGGCAGTGGTTGAGCCG-3’
(配列番号8) 5’-GAAGCAGGAAAGGCCGGTTCATGC-3’
β−アクチン遺伝子用プライマーセット
(配列番号9) 5’-GCCACGGCTGCTTCCAGCTCCTC-3’
(配列番号10) 5’-AGGTCTTTGCGGATGTCCACGTCAC-3’
【0163】
なお、コントロール1として、前記培養液に前記(B)液100μLのみを添加した細胞についても、遺伝子発現量を測定した(−)。また、コントロール2として、トランスフェクションにおいて、前記一本鎖核酸分子溶液を未添加とし、前記(A)1.5μLと前記(B)とを合計100μL添加した以外は、同様にして処理した細胞についても、遺伝子発現量を測定した(mock)。
【0164】
補正後のTGF−β1遺伝子の発現量について、コントロール(−)の細胞における発現量を1として、各一本鎖核酸分子を導入した細胞での発現量の相対値を求めた。
【0165】
(3)結果
図5に示すように、本発明の一本鎖核酸分子は、濃度依存的な強い遺伝子発現抑制活性を示した。
【0166】
(実施例2)肺線維症および急性肺傷害併発モデルマウスにおける急性肺傷害抑制効果
肺線維症自然発症モデルマウス(非特許文献6および7記載のヒトTGF−β1トランスジェニックマウス、以下TGマウスと呼ぶ)を用いて、肺線維症および急性肺傷害併発モデルを作製し、本発明の核酸分子の急性肺傷害抑制の効果を確認した。前記効果の確認は、気管支肺胞洗浄液(BALF: bronchoalveolar lavage fluid)中のタンパク量を指標として、BCA Protein Assay Kit(Thermo社製)のプロトコールに従って行った。
【0167】
(1)核酸分子溶液およびLPS溶液の調製
核酸分子として、前記実施例1で合成したPHR−0001およびPKR−0001を使用した。これらの核酸分子を、それぞれ20 μg/75 μLとなるように滅菌生理食塩水に溶解して、核酸分子溶液を調製した。
他方、リポ多糖(LPS)を、100 μg/75 μLとなるように滅菌生理食塩水に溶解して、LPS溶液を調製した。
【0168】
(2)肺線維症および急性肺傷害併発モデルマウスへの投与
まず、前記核酸分子溶液75μLを、MycroSprayer(MSA−250−M:PENNCENTURY社製)を用いてマウスに気管内投与をした。核酸分子の気管内投与の翌日に、前記マウスの気管内に、前記LPS溶液75μLを同様に気管内投与して、肺傷害を誘発させた。
【0169】
前記核酸分子溶液に対するネガティブコントロールとして、滅菌生理食塩水75 μLを用いた。
【0170】
以下に、各投与群を示す。各投与群において、5匹の雄マウスを使用した。
・投与群1
滅菌生理食塩水75 μL投与の翌日、LPS溶液75 μL投与
・投与群2
核酸分子溶液75 μLの投与の翌日、LPS溶液75 μL投与
【0171】
(3)気管支肺胞洗浄液(BALF)のサンプリングおよ
びタンパク量測定
前記LPS溶液または滅菌生理食塩水の気管内投与翌日、前記マウスに2%イソフルランにより麻酔をし、全採血・安楽死させたのち、頸部表皮切開・結合組織剥離して気管を露出させ、静脈留置用のカテーテルを挿入し、9mm程度進めたところで固定した。カテーテルと1mLシリンジと結合させ、滅菌生理食塩水2mLを3回に分けてゆっくり加え、BALFサンプルとして回収した。
前記BALFサンプルについて、遠心上清をBCA Protein Assay Kit(Thermo社製)のプロトコールに従ってタンパク量を測定した。
【0172】
(4)結果
その結果を
図6に示す。滅菌生理食塩水を投与した投与群1と比較して、本発明の一本鎖核酸分子PHR−0001(
図6A)またはPKR−0001(
図6B)を投与した投与群2では、いずれもBALFにおけるタンパク質量の増加が有意に抑制された。このことから、本発明の一本鎖核酸分子は急性肺傷害の発症を抑制することが示唆された。
【0173】
(実施例3)肺線維症自然発症モデルマウスにおける肺線維化抑制効果
前記肺線維症自然発症モデルマウスを用いて、本発明の核酸分子の肺線維化抑制効果を確認した。前記効果の確認は、肺組織中のハイドロキシプロリン量を指標として、非特許文献7記載の方法に従って行った。
【0174】
(1)核酸分子溶液の調製
実施例の核酸分子として、前記実施例1で合成したPHR−0001を使用した。
PHR−0001を、20μg/75μLとなるように滅菌生理食塩水に溶解して、核酸分子溶液を調製した。
【0175】
(2)肺線維症自然発症モデルマウスへの核酸分子の投与
前記核酸分子溶液を、MycroSprayer(R)(MSA−250−M:PENNCENTURY社製)を用いて1回/週、計4回マウスに気管内投与をした。
前記核酸分子溶液に対するネガティブコントロールとして、滅菌生理食塩水75μLを用いた。
【0176】
以下に、各投与群を示す。各投与群において、5匹の雄マウスを使用した。
・投与群1
TGマウスに、滅菌生理食塩水75 μL投与
・投与群2
TGマウスに、20 μg/75 μL核酸分子溶液75 μL(核酸投与量:1 mg/kgマウス体重)投与
【0177】
(3)肺組織のサンプリング
最初の投与から4週間後、前記マウスに、2%イソフルランにより麻酔をし、採血後肺右葉を摘出した。
【0178】
(4)肺組織中のハイドロキシプロリン量の測定
前記肺右葉を、ビーズ式細胞破砕装置(MS−100:トミー精工社製)を用いてホモジネートした。前記ホモジネートを110℃で一晩インキュベートして乾燥させたのち、再度ビーズ式細胞破砕装置を用いて粉砕した。その後、蒸留水100 mlにゆっくりかき混ぜながら濃塩酸100 mlを少しずつ注いで調製した6N HClを2mL加え、粉砕した肺右葉の懸濁液をあらかじめ重量を測定しておいたスクリュー管に移し、蓋をして110℃で一晩、ドラフト内でインキュベートした。その後、蓋を外し110℃で一晩、ドラフト内でインキュベートして乾燥させた。そこに2mLのPBSを加え60℃で1時間インキュベートし、フィルター濾過したものを、ハイドロキシプロリン量測定用サンプルとした。測定は、非特許文献7に記載の方法に従って行った。
【0179】
(5)結果
その結果を
図7に示す。滅菌生理食塩水を投与した投与群1と比較して、本発明の一本鎖核酸分子PHR−0001を投与した投与群2ではハイドロキシプロンリン量が有意に抑制された。このことから、本発明の一本鎖核酸分子PHR−0001はin vivoにおいて肺線維化を抑制することが示唆された。
【0180】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0181】
この出願は、2014年12月15日付で日本国出願された特願2014−253148および特願2014−253149、並びに、2015年6月17日付で日本国に出願された特願2015−121644および特願2015−121647を基礎としており、ここで言及することによりそれらの内容はすべて本明細書に包含される。