【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)「センサLSIによるバッテリレス・ワイヤレス非同期ストリーム通信を実現するマルチサブキャリア多元接続方式の研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Yuki Igarashi, Nitish Rajoria, Jin Mitsugi, Yusuke Kawakita, Haruhisa Ichikawa,A performance analysis of interference rejection technique in multi-subcarrier multiple access,RFID Technology and Applications (RFID-TA), 2015 IEEE International Conference on,2015年 9月,pp.33-38
【文献】
Yuki Igarashi, Yuki Sato, Yuusuke Kawakita, Jin Mitsugi, Haruhisa Ichikawa,A Feasibility Study on Simultaneous Data Collection from Multiple Sensor RF Tags with Multiple Subca,RFID (IEEE RFID), 2014 IEEE International Conference on,2014年 4月,pp.141-146
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バンドパスフィルタを、搬送波に対して基本帯域幅の整数倍だけ離調して2つ以上配置してチャネルを構成した場合に、搬送波に近いチャネルから数えて奇数チャネル群と偶数チャネル群に分割して、前記搬送波位相推定部、前記角度演算部、前記ヒルベルト変換処理部、及び前記干渉除去処理部を、前記奇数チャネル群と前記偶数チャネル群とでそれぞれ独立して処理する、
請求項4に記載の無線通信システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という)の概要を説明する。
本発明は、発明者が一部同じである、特願2014−207279(以下「先願」と略す。)に記載した実施形態の改良である。先願では、マルチサブキャリア多元接続方式(MSMA:Multiple Subcarrier Multiple Access)を用いた無線通信システムに関し、実験室レベルで検証を行い、発明を完成した。本実施形態は、より実用的な次元で検証を行い、先願の発明を実用レベルまで発展させて完成させたものである。本実施形態における先願発明との具体的な相違点は、ソフトウェア受信機を構成する逐次干渉除去部とその周辺部分にある。
【0013】
[無線通信システム101の全体構成]
図1は、本実施形態に係る無線通信システム101の全体構成を示す、概略ブロック図である。図示しない航空機の機体やトンネル等、大きな構造物等の測定対象に、第一センサー端末102a、第二センサー端末102b、…第nセンサー端末102nが貼り付けられている。なお、第一センサー端末102a、第二センサー端末102b、…第nセンサー端末102nを区別しない場合には、単にセンサー端末102と略す。
これらのセンサー端末102の近傍には、インテロゲーター(interrogator)103と、受信機104が設けられている。受信機104は、IQ変換部105とソフトウェア受信部107よりなる。インテロゲーター103はネットワーク106を通してソフトウェア受信部107に接続されている。
【0014】
センサー端末102は、周知のバックスキャッター(負荷変調)を用いる無線タグに、加速度センサーとアナログ変調回路が装備されたものである。アナログ変調回路は、例えばコイルとコンデンサに加えてバリキャップが並列接続される周知の位相変調器である。この位相変調器では、バリキャップに加速度センサーの出力電圧が印加されることで、搬送波に位相変調が施される仕組みになっている。
リーダライタとも呼ばれるインテロゲーター103は、センサー端末102と双方向無線データ通信を行う機能と、無変調波を発信する機能を有する。
【0015】
第一センサー端末102a、第二センサー端末102b、…第nセンサー端末102nは、それぞれインテロゲーター103と所定の通信を行った後、インテロゲーター103から送信される無変調波に対して、センサーが発する信号をバックスキャッターにて変調した電波を送信(反射)する。受信機104は、複数のセンサー端末102から送信された電波を受信して、演算処理により各々のセンサーの信号を復調する。
【0016】
インテロゲーター103は、複数のセンサー端末102に対し、一意な副搬送波周波数を割り当てるための双方向通信を行い、その結果として作成されるセンサー端末リストを、ネットワーク106を通じて受信機104に送信する。受信機104は、センサー端末リストに基づき、受信した受信データ210を解析して、復調処理を行う。
【0017】
[無線通信システム101における無線通信手順]
本実施形態に係る無線通信システム101は、大きく二つの無線通信手順を実行する。
第一の手順として、インテロゲーター103は、センサー端末102から同時に測定信号を受信するに先立ち、各々のセンサー端末102と個別に無線データ通信を実行する。この無線データ通信において、インテロゲーター103は各々のセンサー端末102に一意な副搬送波周波数を割り当てる。そしてインテロゲーター103は、センサー端末102と副搬送波周波数の関係を記したセンサー端末リストを作成して、受信機104に転送する。
次に第二の手順として、インテロゲーター103は無変調の搬送波を発する。各々のセンサー端末102はこの無変調波に、内蔵する加速度センサーの信号で変調した副搬送波を重畳して、バックスキャッターにて受信機104へ返信する。この時、インテロゲーター103は搬送波源として機能する。
【0018】
受信機104は、各々のセンサー端末102から同時に受信する複数のバックスキャッターを含む受信信号を受信して、有限長のデータ列に変換する。この有限長データ列には、各々のセンサー端末102から同時に受信する受信信号が混在しているため、本来復調したい受信信号以外は干渉成分となる。そこで、後述するソフトウェア受信部107は有限長データ列から逐次的に干渉成分を除去しつつ、目的とする受信信号の復調処理を行うようにしている。
以下、本実施形態において、受信機104が実行する、受信した信号から逐次的に干渉成分を除去する処理を「逐次干渉除去」と呼ぶ。
【0019】
[センサー端末リスト]
センサー端末リストとは、各々のセンサー端末102に設定した変調方式、副搬送波周波数、そして受信機104が受信した電波の強度と副搬送波周波数にもとづいて決定した復調順が記されたリストである。このセンサー端末リストは、センサー端末102を一意に識別する端末IDが格納される端末IDフィールド、センサー端末102に設定した変調方式が格納される変調方式フィールド、センサー端末102に設定した副搬送波周波数が格納される副搬送波周波数フィールド、センサー端末102の復調順が格納される復調順フィールドよりなる。
【0020】
センサー端末102は、変調方式として任意のアナログ変調方式を採り得る。アナログ変調としては、振幅変調(AM)、周波数変調(FM)、位相変調(PM)、パルス幅変調(PWM)等が利用可能である。但し、AMは原理的には採用できるものの、空間内における様々な変動要因が直接ノイズとして電波の変調成分に混入するため、実用的でない。また、厳密にはパルス幅変調はアナログ変調のカテゴリからは外れるが、アナログ信号をA/D変換器でデジタルデータに変換することなくそのまま変調できるという観点で、本実施形態では利用可能な変調方式に含めている。
なお、センサー端末102が全て同じ変調方式である場合は、センサー端末リスト中の変調方式フィールドは不要になる。
【0021】
[センサー端末102]
図2は、センサー端末102のハードウェア構成を示すブロック図である。
センサー端末102は、電池等の独立した電源を持たない代わりに、アンテナ201から受信した電波の電力を回路駆動電力に変換する電源部202を有する。したがって、センサー端末102は受動型端末である。
アンテナ201には電源部202の他に、変調部203とSPDT(Single Pole Double Throw)スイッチ204と制御部205が接続されている。
【0022】
SPDTスイッチ204は、副搬送波源206が出力する矩形波信号(副搬送波)によって、アンテナ201に対し、開放端204aと短絡端204bとを切り替えて接続する。 このSPDTスイッチ204によって、アンテナ201のインピーダンスは副搬送波の周期で変化する。すると、アンテナ201から得られる無変調波の反射波に、副搬送波が重畳される。副搬送波源206によって生成される副搬送波の周波数は、制御部205が副搬送波源206を制御することによって決定される。
すなわち、制御部205は、第一の手順においてインテロゲーター103と通信を行う際に、インテロゲーター103から指示された周波数を記憶している。そして、第二の手順で、記憶していた周波数の副搬送波が生成されるように、副搬送波源206を制御する。
【0023】
変調部203には、信号源であるセンサー207が接続されている。センサー207は例えば加速度センサー等の、交流信号を出力するセンサーである。変調部203は副搬送波に対し、センサー207の信号によって位相変調(PM)、周波数変調(FM)、パルス幅変調等の変調を行う。
センサー端末102は、以上の構成によって、無変調波源であるインテロゲーター103から送信される無変調波に対し、副搬送波を重畳し、更にその副搬送波に対して周知のバックスキャッター(負荷変調)を施す。すると、センサー207の信号によって副搬送波に位相変調、周波数変調またはパルス幅変調が施された反射波が、アンテナ201から送信される。
【0024】
[インテロゲーター103]
図3は、インテロゲーター103のハードウェア構成を示すブロック図である。
アンテナ301から受信した電波は、局部発振器302とミキサー303とLPF304を通じて、低い周波数の信号に変換される。この信号が復調部305に供給され、復調された後、A/D変換器306によってデジタルデータに変換されて、マイコンよりなる制御部307に供給される。
制御部307はデジタルデータに含まれるセンサー端末102の情報を解釈して、センサー端末102に対する命令を生成する。この命令を構成するデジタルデータは、D/A変換器308によってアナログ信号に変換された後、変調部309によって搬送波源310が発する搬送波を変調する。
【0025】
制御部307は、センサー端末102との対話処理によって、通信可能な範囲内に存在する全てのセンサー端末102を把握した後、それらセンサー端末102に対し、一意な周波数の副搬送波の割り当てを行う。そして、制御部307は、センサー端末102と副搬送波との対応関係を列挙したセンサー端末リスト311を作成し、このセンサー端末リスト311を、ネットワーク106を介して受信機104に送信する。
すなわち、インテロゲーター103は、センサー端末102に一意な副搬送波を割り当てるための制御命令を、各々のセンサー端末102に対して送信する機能を有する。
【0026】
[IQ変換部105]
図4は、IQ変換部105のブロック図である。
IQ変換部105は、アンテナ401から受信した電波を同調回路402で抽出した後、RFアンプ403で増幅する。RFアンプ403で増幅された高周波信号は、第一ミキサー404と第二ミキサー405に入力される。第一ミキサー404には局部発振器406から出力される、電波の周波数より僅かに低い周波数の局発信号が入力される。第二ミキサー405には局発信号を90°移相器407で90°位相をずらされた信号が入力される。
【0027】
第一ミキサー404は、RFアンプ403からのRF信号と局部発振器406からの局発信号を積算し、その周波数差の周波数信号を第一ローパスフィルタ(以下「LPF」)408に供給する。そして、第一LPF408から、アンテナ401が受信する電波の周波数から局部発振器406が発信する局発信号の周波数を減算したI信号が出力される。
同様に、第二ミキサー405は、RFアンプ403からのRF信号と、移相器407により局発信号を90°位相をずらした信号を積算し、その周波数差の周波数信号を第二LPF409に供給する。そして、第二LPF409から、アンテナ401が受信する電波の周波数から局発信号を90°移相した周波数を減算したQ信号が出力される。
すなわち、局部発振器406、第一ミキサー404、90°移相器407、第二ミキサー405、第一LPF408及び第二LPF409は、周知の直交検波回路(クワドラチャミキサー)を構成する。
I信号とQ信号は、A/D変換器410によってデジタルデータに変換されて、ソフトウェア受信部107に出力される。
IQ変換部105は、直交検波回路を用いたダウンコンバーターと、A/D変換器410によるA/D変換の機能を有する。
【0028】
[ソフトウェア受信部107のハードウェア構成]
図5は、ソフトウェア受信部107のハードウェア構成を示すブロック図である。
ソフトウェア受信部107は周知のパソコン等の計算機よりなり、バス507に接続されたCPU501、ROM502、RAM503、液晶ディスプレイ等の表示部504、キーボードやマウス等の操作部505及びハードディスク装置等の不揮発性ストレージ506を備える。バス507にはこの他に、インテロゲーター103やIQ変換部105と通信を行うためのNIC(Network Interface Card)508が接続されている。
すなわち、ソフトウェア受信部107の実体は一般的な計算機であり、不揮発性ストレージ506に格納されているプログラムを実行することで、計算機がソフトウェア受信部107としての機能を実現する。
【0029】
[ソフトウェア受信部107のソフトウェア機能]
図6は、ソフトウェア受信部107のソフトウェア機能を俯瞰的に示すブロック図である。
図7は、ソフトウェア受信部107のソフトウェア機能をより詳細に示す機能ブロック図である。
図6がソフトウェア機能を俯瞰的に示しているのに対して、
図7では、
図6の途中で生成されるデータの形態を明示的に示している。
IQ変換部105から受信した、IデータとQデータよりなる受信データは、処理対象となる有限長データ列601として区分けされ、一旦RAM503(
図5参照)に記憶される。
IデータとQデータよりなる有限長データ列601は、先ずハイパスフィルタ(以下「HPF」)602によって、DCオフセット成分が除去される。
【0030】
HPF602から出力される有限長データ列601は、次にバンドパスフィルタ(以下「BPF」)によって、目的とする副搬送波成分よりなるサブキャリアデータ列701aが取り出される。1次BPF603a(
図6中「BPF1」と略記)は有限長データ列601から副搬送波の1倍の周波数成分、3次BPF603b(
図6中「BPF3」と略記)は有限長データ列601から副搬送波の3倍の周波数成分、5次BPF603c(
図6中「BPF5」と略記)は有限長データ列601から副搬送波の5倍の周波数成分、7次BPF603d(
図6中「BPF7」と略記)は有限長データ列601から副搬送波の7倍の周波数成分、9次BPF603e(
図6中「BPF9」と略記)は有限長データ列601から副搬送波の9倍の周波数成分を通過させる。
【0031】
すなわち、副搬送波の奇数倍の高調波成分(スプリアス)を中心周波数とするBPFが、入出力制御部604によって設けられる。なおこれ以降、1次BPF603a、3次BPF603b、5次BPF603c、7次BPF603d、9次BPF603eを区別しない時はBPF603と略す。
【0032】
例えば、搬送波の周波数が915MHz、副搬送波の周波数が20kHzの場合、1次BPF603aの中心周波数は915.02MHz(=915+0.02×1)、3次BPF603bの中心周波数は915.06MHz(=915+0.02×3)、5次BPF603cの中心周波数は915.10MHz(=915+0.02×5)、7次BPF603dの中心周波数は915.14MHz(=915+0.02×7)、9次BPF603eの中心周波数は915.18MHz(=915+0.02×9)である。
紙面の都合上、
図6では記述を省略しているが、センサー端末102の数に応じて、BPF603の数も増える。
【0033】
入出力制御部604は、既に説明した、各センサー端末102に設定されている変調方式、副搬送波周波数、受信した電波強度と副搬送波周波数に基づいて決定される復調順序が記憶されているセンサー端末リスト311を読み込む。そして、入出力制御部604は、センサー端末リスト311に記述されているセンサー端末102の数と設定されている副搬送波周波数に対応したBPF603を設定する。
【0034】
ここで一旦、受信機104が受信する電波に含まれる干渉成分と、逐次干渉除去の動作原理について、
図8と
図9を参照して説明する。
センサー端末102は、第二の手順において無変調波源であるインテロゲーター103が送信する無変調波に対し、第一の手順においてインテロゲーター103によって予め設定された副搬送波を重畳する。ここで、複数のセンサー端末102に一意に割り当てられる副搬送波の周波数としては、最も低い周波数の副搬送波が設定されるセンサー端末102が、受信機104に最も近い位置に存在するように考慮される。何故ならば、最も低い周波数の副搬送波に基づく電波が、最初に除去されなければならない干渉電波だからである。
【0035】
図8は、センサー端末102から送信される電波にフーリエ解析を施した、周波数領域のグラフである。横軸は周波数であり、縦軸は信号成分の強度である。無変調波の周波数、すなわち搬送波の周波数は915MHz、副搬送波(サブキャリア)の周波数は20kHzである。なお、これ以降、センサー端末102で使用する副搬送波のうち最も低い周波数を、最低副搬送波周波数と呼ぶ。なお、本実施形態においては、最低副搬送波周波数を20kHzとして説明する。
【0036】
図8のグラフを見ると、周波数915MHzの搬送波の成分W801のすぐ右隣に、副搬送波が重畳された915.02MHzの成分W802が存在する。更に、この副搬送波成分の右側以降に、副搬送波20kHzを奇数倍した、余分な高調波成分(スプリアス)が、915.06MHz成分W803、915.10MHz成分W804、915.14MHz成分W805、915.18MHz成分W806・・・と続く。
【0037】
図9は、スプリアスを説明する模式図である。この模式図は、
図7に示した、センサー端末102から送信される電波にフーリエ解析を施した、周波数領域のグラフを、副搬送波の成分について模式的に示すものである。
横軸に記されている数字は、副搬送波周波数の逓倍数である。例えば、最も低い副搬送波周波数が20kHzの場合、逓倍数が1なら20kHz、逓倍数が2なら40kHz、逓倍数が3なら60kHz…である。つまり、センサー端末102に設定されている副搬送波の周波数は、最低副搬送波周波数を自然数で逓倍した数である。
また、各々の副搬送波周波数成分の頂点に記されている数字は、干渉を引き起こすスプリアスの数を示している。
本実施形態において使用されるセンサー端末102の変調部203には、主に位相変調または周波数変調が使用される。変調部203の変調方式は奇関数であるから、副搬送波周波数の奇数倍がスプリアス成分となって、受信した電波の信号に混入することになる。
【0038】
副搬送波周波数逓倍数が1の場合、干渉スプリアス数は0個である。すなわち、この周波数は副搬送波周波数そのものである。
副搬送波周波数逓倍数が2の場合、干渉スプリアス数は0個である。この周波数は副搬送波周波数の偶数倍なので、逐次干渉除去の対象外である。
副搬送波周波数逓倍数が3の場合、副搬送波周波数逓倍数1のスプリアス(=1×3)が干渉するので、干渉スプリアス数は1個である。この周波数は副搬送波周波数の奇数倍なので、逐次干渉除去の対象となる。
副搬送波周波数逓倍数が4の場合、干渉スプリアス数は0個である。この周波数は副搬送波周波数の偶数倍なので、逐次干渉除去の対象外である。
副搬送波周波数逓倍数が5の場合、副搬送波周波数逓倍数1のスプリアス(=1×5)が干渉するので、干渉スプリアス数は1個である。この周波数は副搬送波周波数の奇数倍なので、逐次干渉除去の対象となる。
【0039】
副搬送波周波数逓倍数が6の場合、副搬送波周波数逓倍数1のスプリアスが干渉するので、干渉スプリアス数は1個である。この周波数は2倍の副搬送波周波数の3倍である。しかし、この周波数は副搬送波周波数の偶数倍(6倍になる)なので、逐次干渉除去の対象外である。
副搬送波周波数逓倍数が7の場合、副搬送波周波数逓倍数1のスプリアス(=1×7)が干渉するので、干渉スプリアス数は1個である。この周波数は副搬送波周波数の奇数倍なので、逐次干渉除去の対象となる。
副搬送波周波数逓倍数が8の場合、干渉スプリアス数は0個である。この周波数は副搬送波周波数の偶数倍なので、逐次干渉除去の対象外である。
副搬送波周波数逓倍数が9の場合、副搬送波周波数逓倍数1のスプリアス(=1×9)と、副搬送波周波数逓倍数3のスプリアス(=3×3)が干渉するので、干渉スプリアス数は2個である。この周波数は副搬送波周波数の奇数倍なので、逐次干渉除去の対象となる。
【0040】
副搬送波周波数逓倍数が27の場合、副搬送波周波数逓倍数1のスプリアス(=1×27)と、副搬送波周波数逓倍数3のスプリアス(=3×9)と、副搬送波周波数逓倍数9のスプリアス(=9×3)が干渉するので、干渉スプリアス数は3個である。
副搬送波周波数逓倍数が45の場合、副搬送波周波数逓倍数1のスプリアス(=1×45)と、副搬送波周波数逓倍数3のスプリアス(=3×15)と、副搬送波周波数逓倍数5のスプリアス(=5×9)と、副搬送波周波数逓倍数9のスプリアス(=9×5)と、副搬送波周波数逓倍数15のスプリアス(=15×3)が干渉するので、干渉スプリアス数は5個である。
このように、最低副搬送波周波数の逓倍数が奇数倍である副搬送波が設定されているセンサー端末102が発する電波は、より小さい奇数逓倍の周波数に起因するスプリアスの干渉を受ける。
【0041】
逐次干渉除去とは、干渉成分を含む有限長データ列601から、その干渉成分を逐次的に除去する。以下、逐次干渉除去の手順の例を示す。
副搬送波周波数逓倍数が3、5及び7の場合、干渉スプリアス数が1個であるので、最低副搬送波周波数の信号からその周波数を3倍、5倍、7倍した干渉信号を擬似的に作成して、各々の基の信号からこれらを減算して除去する。
副搬送波周波数逓倍数が9の場合、干渉スプリアス数が2個であるので、先ず、最低副搬送波周波数の信号からその周波数を9倍した干渉信号を擬似的に作成して、これを基の信号から減算して除去し、中間干渉除去信号を作成する。次に、最低副搬送波周波数の3倍の信号からその周波数を3倍した干渉信号を擬似的に作成し、これを中間干渉除去信号から減算することで除去して、最終的な干渉除去信号を得る。
【0042】
副搬送波周波数低倍数が27の場合なら、最低副搬送波周波数からその周波数を27倍した干渉信号を擬似的に作成して、同様に基の信号から除去して、第一の干渉除去信号を作成する。次に、最低副搬送波周波数の3倍の信号からその周波数を9倍した干渉信号を擬似的に作成して、第一の干渉除去信号から除去して、第二の干渉除去信号を作成する。次に、最低副搬送波周波数の9倍の信号からその周波数を3倍した干渉信号を擬似的に作成して、第二の干渉除去信号から除去して、最終的な干渉除去信号を得る。
【0043】
副搬送波周波数低倍数が45の場合なら、最低副搬送波周波数からその周波数を45倍した干渉信号を擬似的に作成して、基の信号から除去して、第一の干渉除去信号を作成する。次に、最低副搬送波周波数の3倍の信号からその周波数を15倍した干渉信号を擬似的に作成して、第一の干渉除去信号から除去して、第二の干渉除去信号を作成する。次に、最低副搬送波周波数の5倍の信号からその周波数を9倍した干渉信号を擬似的に作成して、第二の干渉除去信号から除去して、第三の干渉除去信号を得る。
【0044】
次に、最低副搬送波周波数の9倍の信号からその周波数を5倍した干渉信号を擬似的に作成して、第三の干渉除去信号から除去して、第四の干渉除去信号を得る。次に、最低副搬送波周波数の15倍の信号からその周波数を3倍した干渉信号を擬似的に作成して、第四の干渉除去信号から除去して、最終的な干渉除去信号を得る。
すなわち、逐次干渉除去とは、復調したい副搬送波のデータに対し、最低副搬送波周波数の奇数倍、最低副搬送波周波数の奇数倍の奇数倍、…というように、復調したい副搬送波の周波数より低い干渉成分のうち、最も低い周波数の成分から高い周波数の成分を、順次除去する。
【0045】
再び、
図6及び
図7に戻って、ブロック図の説明を続ける。なお、
図6はソフトウェア機能を俯瞰的に示した図であり、
図7は
図6における途中の信号形態を明示的に示したものであって、両者同じ機能を示すブロック図であるから、
図6、
図7を分けることなく、以下併せて説明することとする。
1次BPF603aは、前述の逐次干渉除去の第一段階として、有限長データ列601から目的となる副搬送波の成分のみ抽出したサブキャリアデータ列701aを得るために設けられる。
【0046】
図6及び
図7に示すように、1次BPF603aから出力されるサブキャリアデータ列701aは、ヒルベルト変換処理部605と搬送波位相推定部606よりなる解析データ変換部607に供給される。
図6では紙面の都合上、ヒルベルト変換処理部605は「H」と、搬送波位相推定部606は「Ψ」と略している。
ヒルベルト変換処理部605は、副搬送波成分のIデータとQデータであるサブキャリアデータ列701aに周知のヒルベルト変換演算処理を施して、IデータとQデータを有する解析データ列702aに変換する。
【0047】
搬送波位相推定部606は、副搬送波成分のIデータとQデータであるサブキャリアデータ列701aに周知の再帰的最小二乗法を用いた回帰分析を行い、搬送波の位相遅延であるキャリア位相差Ψ703を推定する。搬送波の位相遅延とは、インテロゲーター103から発信され、センサー端末102にて反射し、受信機104にて受信した電波の、搬送波成分において生じる位相遅延をいう。つまり、インテロゲーター103からセンサー端末102を経由して受信機104に到達する際の、電波の経路の長さに依存する位相遅延である。
【0048】
ヒルベルト変換処理部605から出力される、IデータとQデータを有する解析データ列702aは、復調処理部608aに供給される。
図6中、1次BPF603aに対応する復調処理が復調処理部608aで、3次BPF603bに対応する復調処理が復調処理部608bで、5次BPF603cに対応する復調処理が復調処理部608cで、7次BPF603dに対応する復調処理が復調処理部608dで、及び9次BPF603eに対応する復調処理が復調処理部608eでそれぞれ実施される。なおこれ以降、復調処理部608a、608b、608c、608d、608eを区別しない時は復調処理部608と称する。
【0049】
復調処理部608aは解析データ列702aに対し、その副搬送波に適用されている変調方式に対応した復調処理を行い、復調データ列609aを生成する。この復調データ列609aは、逐次干渉除去を行わない、最低副搬送波周波数に載ったセンサー信号成分である。
そして、解析データ列702aは、搬送波位相推定部606が出力するキャリア位相差Ψ703と共に、回転演算部704にも供給される。この回転演算部704以降のブロックが逐次干渉除去に供されるデータの流れを示す。
【0050】
ところで、
図6には復調処理部608bが出力する復調データ列609b、復調処理部608cが出力する復調データ列609c、復調処理部608dが出力する復調データ列609d、及び復調処理部608eが出力する復調データ列609eも存在する。復調データ列609a、復調データ列609b、復調データ列609c、復調データ列609d、及び復調データ列609eを特に区別しない時は復調データ列609と称する。
【0051】
回転演算部704は周知の回転行列よりなる行列演算として、解析データ列702aからキャリア位相差Ψ703だけ位相を戻す、行列演算を実行する。つまり、回転演算部704は、解析データ列702aに含まれているキャリア位相差Ψ703を戻すことで、解析データ列702aの位相遅れを解消した、I’データとQ’データよりなる回転解析データ列705を出力する。
回転解析データ列705は角度演算部706に供給される。角度演算部706は周知のアークタンジェントよりなる行列演算を行い、ω
st+φ
sよりなる角度データ列707を出力する。ω
sは角速度であり、φは副搬送波の位相ズレである。
以上説明した、
図7に示す回転演算部704と角度演算部706が、
図6のPLL処理部610に相当する。紙面の都合上、
図6中、PLL処理部610は「P」と略している。
【0052】
角度データ列707は角度乗算部708に供給される。角度乗算部708は、角度データ列707を奇数逓倍数k709で乗算する。この奇数逓倍数k709は逐次干渉除去を実行する逓倍数であり、3以上の奇数である。
角度乗算部708が出力するデータ列は、奇数逓倍数k709だけ振幅が逓倍されているので、振幅除算部710によってデータ列の振幅をこの奇数逓倍数k709で除算して、当該高調波に対する振幅の調整値を算出する。こうして、振幅除算部710はkω
st+kφ
sよりなる逓倍角度データ列711を出力する。
以上、
図7に示す角度乗算部708と振幅除算部710が、
図6の角度乗算処理部611a、611b、611c、611dに相当する。これら角度乗算処理部611a、611b、611c、611dは奇数逓倍数k709が異なるのみで、角度乗算部708と振幅除算部710の処理内容は等しい。
なお、角度乗算処理部611a、611b、611c、611dを区別しない時は角度乗算処理部611と称する。
【0053】
逓倍角度データ列711と、前述の搬送波のキャリア位相差Ψ703は、逆ヒルベルト変換処理部612に供給される。逆ヒルベルト変換処理部612は、振幅の調整値が適用された 逓倍角度データ列711からキャリア位相差Ψ703でゼロクロスする角度方向への射影変換を実行し 、奇数逓倍高調波データ列713を生成する。すなわち、逆ヒルベルト変換処理部612は、基のサブキャリアデータ列701aのk倍の周波数で、かつサブキャリアデータ列701aと同様に、搬送波がキャリア位相差Ψ703だけ遅れているデータ列を得る。この奇数逓倍高調波データ列713は、そのサブキャリアデータ列701aのk倍の周波数を副搬送波とするサブキャリアデータ列701から除去すべき干渉成分として、干渉除去処理部613に供給される。
【0054】
一方、3次BPF603bは、HPF602から出力される有限長データ列601から、目的とする副搬送波成分として、基のサブキャリアデータ列701aのk倍(
図7の場合では3倍)の周波数を副搬送波とするサブキャリアデータ列701bを出力する。但し、このサブキャリアデータ列701bは干渉成分を含んでいる。干渉除去処理部613は、このサブキャリアデータ列701bから先の逆ヒルベルト変換処理部612が出力した奇数逓倍高調波データ列713を干渉成分として減算することで除去し、干渉除去サブキャリアデータ列715を出力する。
【0055】
干渉除去サブキャリアデータ列715は、ヒルベルト変換処理部605に供給される。ヒルベルト変換処理部605は干渉除去サブキャリアデータ列715にヒルベルト変換演算を実行して、解析データ列702bを生成する。解析データ列702bは復調処理部608に供給される。復調処理部608は解析データ列702bに復調処理を施して、復調データ列609bを生成する。
一方、干渉除去サブキャリアデータ列715は搬送波位相推定部606にも供給される。また、解析データ列702bは回転演算部704にも供給される。
【0056】
回転演算部704と角度演算部706よりなるPLL処理部610、角度乗算部708と振幅除算部710よりなる角度乗算処理部611、逆ヒルベルト変換処理部612及び干渉除去処理部613は、干渉除去演算部614を構成する。
【0057】
紙面の都合上、
図6では図示を省略しているが、奇数逓倍数k709には奇数逓倍高調波データ列713を生成するための奇数が設定される。例えば、干渉除去を行いたいサブキャリアデータ列701の副搬送波周波数が基の副搬送波の3倍である場合は、奇数逓倍数k709には3が設定される。同様に、干渉除去を行いたいサブキャリアデータ列701の副搬送波周波数が基の副搬送波の5倍である場合は、奇数逓倍数k709には5が、干渉除去を行いたいサブキャリアデータ列701の副搬送波周波数が基の副搬送波の7倍である場合は、奇数逓倍数k709には7が、それぞれ設定される。
【0058】
先に説明したように、サブキャリアデータ列701に含まれる干渉成分は1種類だけとは限らない。例えば、副搬送波周波数が基の副搬送波の9倍のサブキャリアデータ列701の場合には、基の副搬送波の9倍の高調波よりなる干渉成分と、基の副搬送波の周波数の3倍の周波数の副搬送波の3倍の高調波よりなる干渉成分の、2種類が含まれている。
基の副搬送波が20kHzの場合、180kHz(=20kHz×9)の副搬送波のサブキャリアデータ列701には、20kHzの9倍の高調波よりなる干渉成分と、60kHz(=20kHz×3)の3倍の高調波よりなる干渉成分が含まれている。
【0059】
1回の干渉除去処理部613を通しても残る干渉成分は、2回、3回と、干渉除去演算部614を通すことで干渉成分を除去して、復調処理部608にて復調データ列を得る。
干渉成分を生成する必要があるサブキャリアデータ列701に対しては、ヒルベルト変換処理部605と搬送波位相推定部606が併設されており、サブキャリアデータ列701毎に、つまりセンサー端末102毎に異なるキャリア位相差Ψ703が推定されるようになっている。
【0060】
入出力制御部604はセンサー端末リスト311を読み込み、センサー端末リスト311に記述されているセンサー端末102の数と設定されている副搬送波周波数に対応したBPF603を設定する。そして、このBPF603に対応して、解析データ変換部607と干渉除去演算部614が構成される。特に、干渉除去演算部614に設定する奇数逓倍数k709は、BPF603の中心周波数と密接な関係を有する。
【0061】
紙面の都合上、
図6では図示を省略しているが、実際のソフトウェア受信部107は、副搬送波の偶数倍の周波数成分を選択的に通過するBPF603と、干渉除去演算部614も構成されている。
【0062】
図10はセンサー端末102から送信される電波の波形を模式的に示すグラフである。横軸は時間であり、縦軸は信号強度である。
図10に示すように、搬送波W1001には振幅の大きい時間帯と振幅の小さい時間帯が交互に発生しており、矩形波状のエンベロープを形成している。この矩形波状のエンベロープが副搬送波W1002である。すなわち、センサー端末102の副搬送波源206によってSPDTスイッチ204を周期的に切り替えることで、搬送波W1001の振幅に矩形波状のエンベロープが形成され、これが副搬送波W1002となる。
この矩形波状のエンベロープが、時間軸上、すなわち横軸方向に前後すると、位相変調となる。これが
図10中のφである。
インテロゲーター103から送信される搬送波W1001がセンサー端末102によって反射されて受信機104に到達する際に、この経路の長さに応じて生じる搬送波W1001の位相遅れが生じるが、この位相遅れが
図10のΨ、つまり
図7に示すキャリア位相差Ψ703である。
【0063】
図11Aは、受信機104が受信した電波、すなわちサブキャリアデータ列701のIQ平面図である。位相変調または周波数変調をIQ平面上に展開すると、
図11Aに示すように、円の直径のような、IQ平面の中心を通過する直線状の軌跡を描く。電波の信号は、時間の経過と共に、この直線を行ったり来たりする。この直線を行ったり来たりする位相角はω
st+φ
sであり、この直線の傾きが搬送波の位相遅れであるキャリア位相差Ψ703である。
【0064】
図11Bは、キャリア位相差Ψ703を考慮して、サブキャリアデータ列701にヒルベルト変換を施した解析データ列702のIQ平面図である。
図11Aのような直線状の軌跡では、角度を奇数逓倍する演算処理が困難である。そこで、直線状の軌跡に対して直角の成分を擬似的に設けて、直線状の軌跡を回転軌跡に変換する。これがヒルベルト変換である。
【0065】
図11Cは、
図11Bの解析データ列702の周波数を3倍した逓倍角度データ列711と、逓倍角度データ列711を逆ヒルベルト変換した奇数逓倍高調波データ列713を示すIQ平面図である。説明を簡単にするため、
図11Cでは奇数逓倍数k709を3と仮定している。
図11Bで、サブキャリアデータ列701を、回転軌跡を示す解析データ列702に変換すると、I成分とQ成分の存在により角度が明確に判明する。したがって、その角度を奇数逓倍すれば、逓倍角度データ列711を得ることができる。これが角度乗算部708の機能である。
【0066】
逓倍角度データ列711は、解析データ列702と同様のヒルベルト変換が基となったデータ列であり、本来のサブキャリアデータ列701には存在しなかった擬似的な直交成分を含んでいる(V1201)。そこで、逆ヒルベルト変換処理部612で、逓倍角度データ列711を直線上の写像に戻すことで、副搬送波の周波数が奇数逓倍された奇数逓倍高調波データ列713という干渉成分を作成することができる(V1202)。
【0067】
図12は、本実施形態に係る復調方法を、実験用センサー端末を製作し、復調処理を行い、原信号と比較した波形グラフである。実験は、空間の代わりにプリント基板で擬似的な電波伝搬環境を作成し、その基板にセンサー端末102を実装した。センサー端末102の変調方式は位相変調であり、縦軸は信号強度、横軸は時間である。
図12中、(A)に示す波形グラフは、CIR(carrier-to-interference ratio:搬送波対干渉波比)=0dBの場合のグラフであり、
図12(B)に示す波形グラフは、CIR=7dBの場合のグラフである。
【0068】
図12中、(A)に示す、干渉波と希望波の信号レベルが同じ場合では、受信信号波形がやや乱れているものの、概ね原波形に近い波形を得られていることが判る。
本来なら、位相変調及び周波数変調は、希望信号に対する干渉信号のレベルが近づくと、周知のマスキング現象で希望信号がかき消され、復調が不可能になってしまう。しかし、干渉信号によって全く復調ができない筈のCIR=0dBにおいて、概ね良好な復調が実現できているということは、本実施形態の逐次干渉除去処理が干渉成分の除去を正確に行っていることが判る。
図12中、(B)に示す、干渉波と希望波の信号レベルが7dBの場合では、受信信号波形には全く乱れが見受けられず、振幅の違い以外は原波形と殆ど同じ波形を得られていることが判る。
【0069】
図13は、本実施形態に係る復調方法を、
図12と同じ実験用センサー端末にて復調処理を行い、原信号と比較した際の、原信号と復調信号の自己相関係数を算出したグラフである。縦軸は自己相関係数であり、横軸はCIRである。
図12の(A)と同じ、CIR=0dBの場合でも、復調精度が0.982と高い値を示している。もし、復調した信号の乱れ成分が、加速度センサーが出力する信号の周波数より十分に高いのであれば、簡単なLPFで信号の乱れ成分を除去できるので、実用的な計測システムを実現できる。
【0070】
以上の説明で判るように、MSMAにおける高調波成分は基本波周波数の奇数倍の周波数に発生する。これは、数学的な特性に起因する。このことを踏まえて、高調波成分で構成される各チャネルの干渉成分を考察すると、奇数チャネル副搬送波の高調波は、奇数の奇数倍であることから、必ず奇数チャネルにのみ発生する。同様に、偶数チャネル副搬送波の高調波は、偶数の奇数倍であることから、必ず偶数チャネルにのみ発生する。この特性を利用すると、受信処理の並列化によりソフトウェア受信機の演算効率を向上させることが可能になる。
図14は、ソフトウェア受信機1401の変形例を示すブロック図である。
図14中、第一チャネル処理部1402aは、基本波(1次高調波)を搬送波として通過させるBPFを有し、1次高調波よりなる副搬送波に対する信号処理を行う。
第二チャネル処理部1402bは、基本波の2倍の周波数(2次高調波)を搬送波として通過させるBPFを有し、2次高調波よりなる副搬送波に対する信号処理を行う。
第三チャネル処理部1402cは、基本波の3倍の周波数(3次高調波)を搬送波として通過させるBPFを有し、3次高調波よりなる副搬送波に対する信号処理を行う。
以下同様に、第十六チャネル処理部1402pは、基本波の16倍の周波数(16次高調波)を搬送波として通過させるBPFを有し、16次高調波よりなる副搬送波に対する信号処理を行う。
各チャネルの信号処理は、
図6及び
図7にて説明した、搬送波位相推定部606、角度演算部706、ヒルベルト変換処理部605及び干渉除去処理部613を含む。
図14中、各チャネルのチャネル処理部から生成される干渉成分を、各チャネル処理部の右側から矢印を有する線で表している。
【0071】
図14を見て判るように、第一チャネル処理部1402aから発生する干渉成分は、1×3=3倍、1×5=5倍、1×7=7倍、1×9=9倍、1×11=11倍、1×13=13倍、1×15=15倍…である。
第二チャネル処理部1402bから発生する干渉成分は、2×3=6倍、2×5=10倍、2×7=14倍…である。
第三チャネル処理部1402cから発生する干渉成分は、3×3=9倍、3×5=15倍…である。
第四チャネル処理部1402dから発生する干渉成分は、4×3=12倍…である。
第五チャネル処理部1402eから発生する干渉成分は、5×3=15倍…である。
このことから、奇数チャネルのチャネル処理部と偶数チャネルのチャネル処理部は、完全に分離できることが判る。
【0072】
そこで、アンテナ401から受信した電波を分配器1403で2系統に分配し、一方を奇数チャネル用の信号路として第一IQ変換部105aに供給し、他方を偶数チャネル用の信号路として第二IQ変換部105bに供給する。第一IQ変換部105aと第二IQ変換部105bは、
図1のIQ変換部105と同一の構成であり、同一の機能を有する。
奇数チャネルのチャネル処理部と偶数チャネルのチャネル処理部は互いに独立しているので、2台のソフトウェア無線装置およびPCあるいはマルチCPU計算機において独立に処理させることが可能である。また、計算機を2台用意して、一方を奇数チャネルのチャネル処理部として、他方を偶数チャネルのチャネル処理部として稼働させることで、計算機負荷を分散し、計算速度を向上させることが可能になる。
このように、本発明の実施形態に係るソフトウェア受信機は、BPFを、搬送波に対して基本帯域幅の整数倍だけ離調して2つ以上配置してチャネルを校正した場合、搬送波に近いチャネルから数えて奇数チャネル群と偶数チャネル群に分割することが可能である。そして、搬送波位相推定部606、角度演算部706、ヒルベルト変換処理部605及び干渉除去処理部613を、奇数チャネル群、偶数チャネル群とでそれぞれ独立して処理することが可能である。
なお、奇数チャネル群、偶数チャネル群への信号の分配の方法は、分配器1403を用いる以外に、IQ変換部105の出力段にあるHPF602を2個並列に設ける方法も考えられる。
【0073】
本発明に係るMSMAの実証実験を行った。
実証実験は、本発明に係るMSMAの主要な応用例である構造物の故障診断への適用を想定し、MSMAの仕組みでデータをサブキャリアに重畳できるセンサーを用いた。このセンサーはバッテリ駆動型の既有品を改造したものである。
構造物に、振動試験器によって100Hzの強制振動を与える。この構造物に、センサーを3箇所貼付する。センサーから受信した3点の加速度データを、SMAケーブルによる有線接続および無線接続で同時ストリーミングする。無線接続においては、レシーバでMSMAにより相互干渉を除去して、各センサーの信号を再構成した。
この実証実験では、3つのセンサーが与干渉となるチャネル配置として、1ch、3ch、9chを選択した。
【0074】
図15Aは、3つのセンサーから無線接続で受信した信号の、本発明に係る干渉除去を行う前の波形を示す波形図である。
図15A中、信号S1501は1chであり、信号S1502は3chであり、信号S1503は9chである。信号S1502と信号S1503には、干渉に起因する波形の乱れが確認できる。
図15Bは、3つのセンサーから無線接続で受信した信号の、本発明に係る干渉除去を行った後の波形を示す波形図である。
図15B中、信号S1504は1chであり、信号S1505は3chであり、信号S1506は9chである。
図15Cは、3つのセンサーから有線接続で受信した信号の波形を示す波形図であり、デジタルオシロスコープの画面キャプチャである。
図15C中、信号S1507は1chであり、信号S1508は3chであり、信号S1509は9chである。
図15Cを見ると、信号S1507と信号S1508はほぼ同一位相、同一振幅の信号が出力されている。信号S1507と信号S1509とではほぼ逆位相でおよそ半分の振幅の信号が出力されている。これらの信号の状態が、
図15Bで概ね再現されていることが確認できる。
【0075】
本実施形態においては、無線通信システム101と、これに使用される受信機104の、ソフトウェア受信部107としての機能を開示した。
干渉成分を含む受信電波に基づく有限長データ列601に対し、正確な逐次干渉除去を遂行して、複数のセンサー端末102から同時に受信した複数の受信電波をそれぞれ正常に復調するために、最も低い周波数の副搬送波から、その周波数を奇数逓倍した干渉成分を作成する。
干渉成分を作成するために、有限長データ列601から目的の副搬送波成分を抽出したサブキャリアデータ列701に、ヒルベルト変換処理部605によるヒルベルト変換を施して解析データ列702を生成する。また、サブキャリアデータ列701から搬送波位相推定部606による回帰分析を用いてキャリア位相差Ψ703を推定する。
【0076】
角度演算部706は、解析データ列702を回転演算部704でキャリア位相差Ψ703だけ戻してから、角度データ列707を生成する。この角度データ列707は、角度乗算部708及び振幅除算部710にて奇数逓倍した逓倍角度データ列711に変換される。そして、逓倍角度データ列711を逆ヒルベルト変換処理部612で逆ヒルベルト変換処理を施して、干渉成分となる奇数逓倍高調波データ列713が生成される。この奇数逓倍高調波データ列713を、同じ周波数の副搬送波のサブキャリアデータ列701から除去することで、正確な干渉成分の除去を実現する。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
例えば、上記した実施形態は本発明をわかりやすく説明するために装置及びシステムの構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることは可能であり、更にはある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0078】
また、上記の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行するためのソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の揮発性あるいは不揮発性のストレージ、または、ICカード、光ディスク等の記録媒体に保持することができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。