(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面に摺動部を有するディスク板部と、前記ディスク板部の裏面に設けられ前記ディスク板部の半径方向に延びる形状の複数の縦フィンと、前記複数の縦フィンのうち隣接する各一対の縦フィンの間に設けられ前記ディスク板部の周方向に延びる形状の横リブとを有し、前記ディスク板部が鉄道車両の車輪に締結された状態で前記一対の縦フィンの間に前記ディスク板部の内周側から外周側へ通じる空気の流路が形成され、且つ前記横リブにより前記空気の流路が狭められている鉄道車両用ブレーキディスクにおいて、
前記横リブには、前記ディスク板部の半径方向に沿った側面に、前記一対の縦フィンの間を通過する気流の乱れを抑制するための緩勾配が設けられていることを特徴とする鉄道車両用ブレーキディスク。
前記緩勾配は、前記ディスク板部の半径方向に沿って内周側を向いた前記横リブの一方の側面、或いは、前記ディスク板部の半径方向に沿って内周側と外周側とをそれぞれ向いた前記横リブの両方の側面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ブレーキディスク。
前記横リブが前記一対の縦フィンを連結し、前記車輪と前記横リブとの間に空気の流路を有することを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の鉄道車両用ブレーキディスク。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるように、複数の縦フィンを有したブレーキディスクに横リブを設けることで、横リブがない場合と比較して騒音を低減できる。しかしながら、特許文献1記載のブレーキディスクでは、更なる高速化による空気流量の増加に伴う騒音を低減するためには、横リブと車輪との間の開口面積を更に低減することが必要となる。この様に開口面積を低減した場合、空気流量の低下に伴い、十分にブレーキディスクの放熱性能を確保できないという課題が生じる。
【0005】
本発明者らは、ブレーキディスクの放熱性能を低下させることなく、低騒音なブレーキディスクを開発するため、ブレーキディスクの音源を確認する試験を行った。
先ず、マイクロホンアレイ音源探査システムを用いて高速回転するブレーキディスクおよびその周囲の音源を探査した。その結果、音源はブレーキディスク近傍またはブレーキディスク内部にあることが判明した。次に、騒音源となる乱流を発生させると思われるブレーキディスクの各部を塞いで試験を行った。各部とは、具体的には、ディスク裏面の空気の流路の入口(ブレーキディスクの内周側の開口部)と出口(ブレーキディスクの外周側の開口部)及び、ブレーキディスクを車輪に締結するためにボルトが挿入される貫通孔のディスク表面(摺動部)側の開口端である。これらを全て塞いで騒音試験を行った結果、ブレーキディスクから発生する騒音は非常に低いレベルまで低減することを確認した。さらに、これらの内一箇所を塞がず、残りの二箇所を塞いで試験を行った。その結果、それぞれの部分で特定周波数の騒音が発生していることを確認した。
しかしながら、これらの騒音を全て足し合わせても、通常時すなわち全ての部位を開口した状態よりも騒音レベルが低いことが分かった。特に、800Hz以上の高い周波数範囲に大きな差があった。
【0006】
本発明者らは、これらの試験の結果を分析し、ブレーキディスク裏面の気流の乱れによる騒音が最も大きな要因と考え、この気流の乱れを与える横リブの形態を様々に変えた試験を行うことで、本発明を完成するに至った。
本発明は、鉄道車両用ブレーキディスクにおいて、ブレーキディスクの放熱性能を低下させることなく、車輪の高速回転時にブレーキディスクから生じる騒音を大幅に低減することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、表面に摺動部を有するディスク板部(ブレーキディスクのうち下記縦フィンおよび横リブ等を除いた板状の部分をディスク板部と称する。)と、前記ディスク板部の裏面に設けられ前記ディスク板部の半径方向に延びる形状の複数の縦フィンと、前記複数の縦フィンのうち隣接する各一対の縦フィンの間に設けられ前記ディスク板部の周方向に延びる形状の横リブとを有し、前記ディスク板部が鉄道車両の車輪に締結された状態で前記一対の縦フィンの間に前記ディスク板部の内周側から外周側へ通じる空気の流路が形成され、且つ前記横リブにより前記空気の流路が狭められている鉄道車両用ブレーキディスクにおいて、
前記横リブには、前記ディスク板部の半径方向に沿った側面に、前記一対の縦フィンの間を通過する気流の乱れを抑制するための緩勾配が設けられていることを特徴としている。
この構成によれば、一対の縦フィンの間を通過する空気が横リブによって乱されて大きな騒音を発生させるという作用が抑制され、これにより、高速回転時にブレーキディスクから発生する騒音を大幅に低減できる。従って、放熱性能に影響がある横リブと車輪との間の開口部の面積を低減することなく、騒音を大幅に低減できる。
【0008】
好ましくは、前記緩勾配は、前記ディスク板部の半径方向に沿って内周側を向いた前記横リブの一方の側面、或いは、前記ディスク板部の半径方向に沿って内周側と外周側とをそれぞれ向いた前記横リブの両方の側面に設けられていてもよい。
この構成によれば、少なくともディスク板部の半径方向に沿って内周側を向いた横リブの一方の側面が緩勾配となっていることで、ここを通過する気流の乱れによって発生する騒音を低減することができる。
【0009】
より好ましくは、前記緩勾配は、少なくとも前記横リブの頭部に設けられた頭部緩勾配を含み、
前記頭部緩勾配は、前記ディスク板部の内周側を向いた側部、前記ディスク板部の半径方向における2mm以上の区間、且つ、前記横リブの頭頂点から前記ディスク板部の回転軸方向における2mm以上の区間に設けられる、曲率半径2mmの凸曲面又は前記凸曲面より緩い勾配面である構成としてもよい。
【0010】
より好ましくは、前記緩勾配は、少なくとも前記横リブの頭部に設けられた頭部緩勾配を有し、
前記頭部緩勾配は、前記ディスク板部の内周側を向いた側部、前記ディスク板部の半径方向における5mm以上の区間、且つ、前記横リブの頭頂点から前記ディスク板部の回転軸方向における5mm以上の区間に設けられる、曲率半径5mmの凸曲面又は前記凸曲面より緩い勾配面である構成としてもよい。
【0011】
このような構成によれば、横リブの体積を大きくせずに、横リブで発生する騒音を低減できる。ブレーキディスクが熱膨張、熱収縮したときに、ブレーキディスクを車輪に締結するボルトに応力変動が生じ、横リブの体積が大きくなると、ブレーキディスクの剛性が高くなるため、ボルトの応力範囲が大きくなる。上記構成によれば、横リブの体積が小さくできるので、騒音を低減しつつ、ボルトに生じる応力範囲を小さくできる。
【0012】
具体的には、前記横リブが前記一対の縦フィンを連結し、前記車輪と前記横リブとの間に空気の流路を有する構成が採用される。
この構成において、上述した緩勾配による騒音低減の効果がより奏される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄道車両用ブレーキディスクにおいて、ブレーキディスクの放熱性能を低下させることなく、車輪の高速回転時にブレーキディスクから生じる騒音を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施の形態)
図1は、鉄道車両におけるブレーキシステムの一例を示す斜視図である。
図2は、第1実施の形態のブレーキディスクの裏面を示す平面図である。
図3は、ブレーキディスクの各部の断面を示すもので、
図3Aは
図2の矢印A−A線断面図、
図3Bは
図2の矢印B−B線断面図、
図3Cは横リブの変形例を示す
図2の矢印B−B線断面図である。
以下、ブレーキディスク10の半径方向に沿って外周を向く方を「外周側」、内周を向く方を「内周側」と定義する。
本発明の第1実施の形態のブレーキシステムは、高速鉄道に搭載される。このブレーキシステムは、鉄道車両の車輪100の側部に締結されたブレーキディスク10と、ブレーキディスク10に接触して制動力を発生させる摺接部材200と、摺接部材200をブレーキディスク10に接触する方へ押し付け可能な可動部210とを備える。ブレーキディスク10と摺接部材200とは、特に制限されないが、1つの車輪100の両方の側面にそれぞれ設けられ、可動部210は2つの摺接部材200で車輪100を挟み込むように構成される。
【0016】
ブレーキディスク10は、環状のディスクであり、ディスク板部の表面10fが摺動部である。ディスク板部の裏面10rには、複数の縦フィン11a、11b、および複数の横リブ13が設けられている。ブレーキディスク10のうち、縦フィン11a、11bおよび横リブ13を除いた板状の部分をディスク板部と称する。
また、ブレーキディスク10には、表面から裏面にボルトを通すための複数の貫通孔12が設けられている。
図2においては、煩雑を避けるため縦フィン11a、11b、貫通孔12、および横リブ13の符号を一部にのみ付している。
縦フィン11a、11bは、ディスク板部の半径方向に延びる形状で、ディスク板部裏面から車輪100の板部に向かって突出した部分である。複数の縦フィン11a、11bは、ディスク板部の周方向においてほぼ等間隔に設けられている。
【0017】
横リブ13は、ディスク板部の周方向に延びる形状であり、複数の縦フィン11a、11bのうち隣接する各一対の縦フィン11a、11bの間で、一対の縦フィン11a、11bを連結するように設けられている。
複数の貫通孔12は、ディスク板部の同一径上に設けられ、且つ、ディスク板部の周方向に等間隔に並んでいる。
図3Aに示すように、縦フィン11a、11bは、頭部が車輪100の側面に接触する。横リブ13は、頭部が車輪100のとの間に隙間を持つ高さを有する。このような構成により、ブレーキディスク10を車輪100に締結したときに、縦フィン11a、11b、ディスク板部の裏面10r、および車輪100の板部で囲まれた空気の流路が形成される。そして、車輪100とブレーキディスク10が回転した際に、この流路に内周側から外周側に空気が流れ、これによりブレーキディスク10の熱が放出される。
【0018】
本実施の形態においては、横リブ13の内周側の側面13aと、外周側の側面13bとには、緩勾配が形成されている。緩勾配は、傾斜角度が鋳造の抜き勾配よりも小さく、好ましくは平均傾斜角度が50°以下、より好ましくは平均傾斜角度が45°以下に形成されている。抜き勾配とは、ブレーキディスク10を鋳造したときに、アンダーカット処理を行わずに横リブ13を成型し、鋳型から抜き出すことのできる勾配の中で、最も90°に近い勾配を意味する。
図3B、
図3Cにおいて抜き勾配を仮想線で示している。横リブ13の緩勾配は、縦フィン11a、11bの側面の勾配より平均傾斜角度が小さい。ここで、平均傾斜角度とは、
図7に示すように、横リブ13の側面13aの付根側の丸み加工の終了点Aと先端側の丸み加工の終了点Bとを結ぶ直線A−Bと、ブレーキディスク10の板面と平行な直線A−Cとのなす角度αを意味する。
横リブ13の緩勾配を有する側面13a、13bは、膨らみを有する曲面状としても、凹みを有する曲面状としても、平面又は円錐面状としてもよい。
第1実施の形態のブレーキディスク10の作用については後述する。
【0019】
(第2実施の形態)
図4は、第2実施の形態のブレーキディスクを示すもので、
図4Aはブレーキディスクの表面側(摺動部側)の平面図、
図4Bは
図4Aの矢印C−C線断面図である。
本発明の第2実施の形態のブレーキシステムは、第1実施の形態と同様に高速鉄道に搭載される。このブレーキシステムは、ブレーキディスク10Aが鉄道車両の車輪100(
図1)の側部に締結され、摺接部材200(
図1)がブレーキディスク10Aの表面に押し付けられて制動力を発生する。
ブレーキディスク10Aには、表面10fから裏面に貫通する複数の貫通孔12と、表面10fで複数の貫通孔12を結ぶ溝15とが設けられている。
【0020】
複数の貫通孔12は、ブレーキディスク10Aの同一径上に設けられ、且つ、ブレーキディスク10Aの周方向に等間隔に設けられている。各貫通孔12は、
図4Bに示されるように、ボルトの軸部を通す径の小さい小径部12tと、ボルトの頭部またはナットが配置される径の大きい大径部12wとを有している。大径部12wは、ボルトの頭部又はナットが沈み込む深さを有していてもよいし、ボルトの頭部又はナットの高さより短い深さを有し、ボルトの頭部又はナットの一部が溝15内に突出する構成としてもよい。また、大径部12wの深さは、ボルトの頭部またはナットの高さと同一としてもよい。何れの場合でも、ボルトの頭部又はナットは、ブレーキディスク10の表面10fより外方へ突出することはない。
【0021】
溝15は、ブレーキディスク10Aの表面部において、複数の貫通孔12を結ぶように、環状に形成されている。溝15は、例えばブレーキディスク10Aの同心円に沿った形状に設けられている。
溝15により複数の貫通孔12を結んだ構造は、第1実施の形態の縦フィン11a、11bおよび横リブ13を有するブレーキディスク10に採用しても良いし、第1実施の形態と別構造を有するブレーキディスクに採用してもよい。
【0022】
<作用および効果>
図5は、縦フィンおよび横リブに関係する騒音の試験結果を示すグラフである。
図6はボルト用の貫通孔に関係する騒音の試験結果を示すグラフである。
図5および
図6は、従来のブレーキディスクについての試験結果を示している。従来のブレーキディスクとは、縦フィン、横リブ、およびボルト用の貫通孔を有し、横リブが
図3Bの2点鎖線に示した形状であり、ディスク板部の表面部に溝15が設けられていないブレーキディスクを意味している。
図5および
図6において、グラフ線Eは従来のブレーキディスクを車輪と共に高速回転させたときの騒音レベルを示している。グラフ線Lは、従来のブレーキディスクをボルト用の貫通孔のみを塞いで車輪と共に高速回転させたときの騒音レベルを示している。
図5のグラフ線Hは隣接する一対の縦フィン間の空気の流路における外周側の開口部以外を塞いで車輪と共に高速回転させたときの騒音レベルを示している。
図5のグラフ線Iは上記空気の流路の内周側の開口部以外を塞いで車輪と共に高速回転させたときの騒音レベルを示している。
図6のグラフ線Fは上記空気の流路の内周側および外周側の開口部とボルト用の貫通孔とを塞いで車輪と共に高速回転させたときの騒音レベルを、
図6のグラフ線Gはボルト用の貫通孔以外を塞いで車輪と共に高速回転させたときの騒音レベルを示している。
【0023】
試験の結果、従来のブレーキディスクの騒音には、上記空気の流路の外周側或いは内周側の開口部で縦フィンに起因して発生する騒音と、上記空気の流路内で横リブに起因して発生する騒音と、ボルト用の貫通孔によって発生する騒音とが含まれることが分かった。
図5のグラフ線Iの範囲W3の騒音は、内周側の開口部における縦フィンに起因した騒音であると推測される。また、
図5のグラフ線Hの範囲W2の騒音は、外周側の開口部における縦フィンに起因した騒音であると推測される。さらに、グラフ線H、Iに対してグラフ線E,Lの差が大きくなっている範囲W1の騒音は、流路内の気流が横リブで乱されて発生している騒音と推測される。また、
図6のグラフ線Gの範囲W4の騒音は、ボルト用の貫通孔に起因した騒音であると推測される。範囲W4においてボルト用の貫通孔のみを塞いだときのグラフ線Lの騒音レベルが、グラフ線Eより1〜2dB低下している。このことから、範囲W4においてはボルト用の貫通孔に起因した騒音はディスク裏面の流路を流れる気流に起因した騒音と同程度であると考えられる。
【0024】
図5に示されるように、第1実施の形態のブレーキディスク10においては、従来のブレーキディスクと比較して、範囲W1に示されている騒音レベルが大幅に低減される。これは、横リブ13の緩勾配により横リブ13を通過した気流の乱れが大幅に抑制されているためと考えられる。従って、第1実施の形態のブレーキディスク10によれば、ブレーキディスク10を放熱する空気の流量は大きく低下せずに、騒音が大幅に低減されることが分かる。
図6に示されるように、第2実施の形態のブレーキディスク10Aにおいては、ボルト穴のみ開口したグラフ線Gと比較して、貫通孔により生じていた範囲W4の騒音が大幅に低減される。これは、複数の貫通孔12を結ぶように環状の溝15が設けられていることによると考えられる。このように、第2実施の形態のブレーキディスク10Aによれば、貫通孔12に起因する騒音を低減することで、従来のブレーキディスクと比較して、大幅に騒音レベルが低減されることが分かる。但し、ディスク板部の裏面の流路を流れる気流など、その他の要因により発生している同じ周波数範囲の騒音が低減されていることが前提である。
【0025】
以上、本発明の第1実施の形態および第2実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限られるものではない。例えば、横リブ13の配置は、ディスク板部の内周部、外周部、或いは内周部と外周部との中間など、様々に変更可能である。また、横リブにより一対の縦フィンの間の空気の流路を狭める構造は、上記の実施の形態で示したものに限られない。上記の実施の形態の横リブ13は、隣接する一対の縦フィンの間を連結し、且つ、ディスク板部の回転軸方向の高さが縦フィンより低い構造を有する。しかし、例えば、横リブは、縦フィンと同じ高さを有する一方、横リブの横方向の広がり(ディスク板部の周方向の広がり)を、一対の縦フィンの間の全域とせずに一部の領域を残して広がる構造としてもよい。すなわち、縦フィンと横リブとの間に空気の流路がある、或いは、片側の縦フィンに連結された横リブ間に空気の流路がある構造としてもよい。この場合には、横リブの頭頂部はディスク板部の回転軸方向の端部(空気の流路に面する端部)に相当する。さらに、この場合でも、横リブは、ディスク板部の内周部、外周部、或いは内周部と外周部との中間など、様々な位置に設けてもよい。また、上記実施の形態では、全ての縦フィンの頭部が車輪の一面に接触する構造としたが、一部の縦フィンの頭部と車輪の一面の間に僅かな隙間が生じる構造としてもよい。さらに、上記実施の形態では、縦フィンはディスク板部の半径方向の長さとほぼ同じ長さとしたが、縦フィンはディスク板部の半径方向の長さより短い構造としてもよい。また、溝15は、ディスク板部の同一径上に沿った構成でなくてもよい。この場合でも、騒音の低減効果は得られる。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0026】
(第3実施の形態)
図8は、横リブの体積とボルト応力範囲との関係を示すグラフである。ここで、ボルト応力範囲とは、ディスクが熱膨張しない状態でボルトに発生する応力から、ディスクが熱膨張した状態でボルトに発生する応力への変動範囲のことを呼ぶ。
図9は、
図8に示される横リブの第1形態L1から第5形態L5及び比較形態L6をそれぞれ説明する図表である。
以下、ブレーキディスク10の板面に沿った方向を水平方向、板面に垂直な方向を高低方向、ブレーキディスク10の周方向を各部の周方向と定義する。
鉄道車両の制動時においてブレーキディスク10は摩擦熱により熱膨張し、これによりボルトの引張応力および曲げ応力が変化する。
図8の縦軸は、ブレーキディスク10に一定の温度変化を加えたときにボルトに生じる引張応力と曲げ応力の応力範囲(最大値と最小値との差)を示す。
図8の横軸は横リブの体積を示す。
図8のグラフの各プロットは、
図9の第1形態L1から第5形態L5の横リブ13を採用したとき及び比較形態L6(横リブが無い場合)の横リブの体積に対する応力範囲を示す。
【0027】
図9の第1形態L1から第5形態L5の横リブ13は、高さが一定で、頭部水平部Ldの長さ、頭部緩勾配SL0の形状、および裾部緩勾配SL1の形状が
図9の表のように異なる。頭部水平部Ldは、横リブ13の頭頂部に設けられた水平な部位を指す。頭部緩勾配SL0は、横リブ13の頭頂部から裾部又は中断部にかけた勾配部分を指す。裾部緩勾配SL1は、横リブ13の裾部の勾配部分を指す。表中の「R」は曲率半径[mm]を示す。頭部緩勾配SL0と裾部緩勾配SL1とは、横リブ13の内周側に配置される。
【0028】
図8のグラフに示されるように、ボルトの応力範囲は、ボルトの近傍に位置する横リブ13の体積によって変化する。例えば、横リブ13が
図9の第1形態L1のような形態でその体積が大きければ、横リブ13の剛性が大きくなるため、ボルトの応力範囲が大きくなる。一方、横リブ13が
図9の第5形態L5のよう形態でその体積が小さければ、横リブ13の剛性が比較的小さくなるため、ボルトの応力範囲も小さくなる。
図8のグラフから、横リブ13の体積を第5形態L5以下にすることで、横リブ13がない比較形態L6の場合とボルトの応力範囲は同等になる。
以上説明したように、横リブ13の体積を増して騒音を低減した場合、ボルトの応力範囲が大きくなるという課題が発生する。そこで、第3実施の形態のブレーキディスクは、ボルトの応力範囲を余り大きくせずに、騒音を低減できる横リブ13A(
図10を参照)を有する。
【0029】
図10は、第3実施の形態の横リブを説明する図である。
図11は、第3実施の形態の横リブと従来の横リブとの騒音レベルの比較を示す周波数グラフである。
図12は、
図11で比較される横リブの形態を示す図表である。
第3実施の形態の横リブ13Aは、内周側に、頭部緩勾配SL0を含む。頭部緩勾配SL0は、横リブ13Aの内周側にディスク板部の半径方向の区間La1の範囲、且つ、横リブ13Aの頭頂点からディスクの回転軸方向の区間La2の範囲に設けられる。頭部緩勾配SL0は、少なくとも区間La1、La2が共に2mm以上の範囲に設けられ、R2mmの凸曲面或いはそれより緩い勾配面であるとよい。さらに望ましくは、頭部緩勾配SL0は、少なくとも区間La1、La2が共に5mm以上の範囲に設けられ、R5mmの凸曲面又はそれより緩い勾配面であるとよい。
【0030】
第3実施の形態の横リブ13Aには、さらに、内周側に、頭部緩勾配に連なる直線区間Lbと、裾部緩勾配SL1とが含まれる。直線区間Lbは、製造可能な範囲で垂直に近くすればよい。これにより、横リブ13Aの体積を小さくできる。また、直線区間Lbは、ボルト応力範囲に余裕があれば、傾斜が設けられていてもよい。また、直線区間Lbは、緩い曲率を有する曲面区間としてもよい。
裾部緩勾配SL1は、例えば、R5mmの凹曲面である。しかし、裾部緩勾配SL1は製造容易な勾配の平面又は曲面としてもよい。また、製造可能な範囲で裾部緩勾配SL1は無くてもよい。
【0031】
また、第3実施の形態の横リブ13Aは、頭部水平部Ldを含んでいてもよいし、含まなくてもよい。含む場合、頭部水平部Ldは、1mm〜20mm程度の範囲とするとよい。頭部水平部Ldが大きくなるほど、横リブ13Aの体積が増し、ボルトの応力範囲への影響が増す。従って、頭部水平部Ldの大きさは、ボルト応力範囲と横リブ13Aの必要な強度とを考慮して適宜設定すればよい。さらに、横リブ13Aの外周側は、製造可能な範囲で垂直な構成としてもよいし、緩い勾配を設けてもよい。横リブ13Aの外周側の勾配が緩くなると、横リブ13Aの体積が増して、ボルト応力範囲が大きくなる。従って、横リブ13Aの外周側は、ボルト応力範囲に余裕のある範囲で、適宜設定すればよい。また、横リブ13Aの高さは、直線区間Lbの長さにより適宜調整可能である。
【0032】
<作用及び効果>
図11は、第3実施の形態の横リブと従来の横リブとの騒音の比較を示す周波数グラフである。
図12は、
図11の横リブの形状を示す図表である。
図13は、400Hz〜5000Hzの範囲のオーバーオール騒音レベルを比較したグラフである。
ここでは、隣接する一対の縦フィン11a、11bの間の部分模型を作成し、そこに所定の風速で空気を流し、騒音を測定した。縦フィン11a、11bの間の空気の流路は、擬似的にディスク板部の一面と車輪100の板部の一面とで囲われた状態とした。また、横リブ13Aは流路の一部を遮るように配置した。
図11の縦軸は、各周波数バンドの騒音レベルを示し、
図11の横軸は1/3オクターブバンドの中心周波数を示す。また、横軸中の「O.A」はオーバーオールを、「P−O.A」は400Hz〜5000Hzの範囲のオーバーオールを示す。
【0033】
ここでは、
図12の第1形態P1から第7形態P7の横リブ13Aについて騒音を測定した。
図12の表中、「R」は、曲率半径[mm]を示し、「頭部緩勾配形状」は、頭部緩勾配SL0の凸曲面の曲率半径を示し、「裾部緩勾配形状」は
図10の裾部緩勾配SL1の凹曲面の曲率半径を示す。また、比較対象として、切削加工により断面矩形状に形成された現行形状の横リブも併せて試験した。
【0034】
図11に示すように、第1形態P1から第7形態P7の横リブ13Aを採用した場合、現行形状の横リブと比べて騒音レベルを低減できることを確認した。また、400Hz〜5000Hzの範囲のオーバーオール騒音レベルを比較すると、
図13に示すように第1形態P1から第7形態P7では、現行形状と比較して顕著に騒音レベルを低減できることを確認した。
なお、これらの騒音を測定した際、横リブ13Aの形状の違いにより、一対の縦フィン11a、11bの間を通過する空気量(流速)に僅かな違いが生じた。実際のブレーキディスク10では、適宜冷却効果が得られるように、横リブ13Aの高さの調整により、空気量は所定の値に設定される。また、流速は騒音レベルに影響を与える。このため、
図13のグラフの値については、流速のバラツキによる騒音レベルのバラツキを除去するように補正を行った。
【0035】
図13において、第3形態P3と第7形態P7との試験結果の比較から、直線区間Lbの勾配は騒音レベルに大きく影響しないことが分かる。また、第1形態P1から第3形態P3の試験結果の比較から、頭部緩勾配SL0の区間La2および形状が、騒音レベルに影響を与えることを確認した。
また、頭部緩勾配SL0が、区間La1、区間La2は共に2mmであり、曲率半径をR2mmの凸曲面とした第1形態P1であると、400Hz〜5000Hzのオーバーオール騒音レベルが現行形状よりも約10dB(A)低減できることを確認した。さらに、頭部緩勾配SL0が、区間La1、区間La2は共に5mmであり、曲率半径をR5mmの凸曲面とした第2形態P2であると、400〜5000Hzのオーバーオール騒音レベルが現行形状よりも約14dB低減できることが確認した。また、頭部緩勾配SL0が、区間La1、区間La2は共に5mmであり、曲率半径をR10mmの凸曲面とした第5形態P5であると、400〜5000Hzのオーバーオール騒音レベルを現行形状よりも18.5dB低減できることを確認した。
【0036】
このような試験の結果から、第3実施の形態の横リブ13Aによれば、騒音レベルを顕著に低減できることが分かる。
以上のように、第3実施の形態のブレーキディスク10によれば、ボルト応力範囲を余り大きくせずに、横リブ13Aの箇所で生じる騒音レベルを顕著に低減することができる。
【0037】
(第4実施の形態)
図14は、ディスク板部の表面に設けられる溝の形態を説明する図であり、
図14Aから
図14Eは溝の第1形態から第5形態をそれぞれ示す。なお、
図14は、溝15A、15Bの一区間において、ブレーキディスク10Aの周方向と半径方向とが互いに直交する直線方向となるように座標変換された図を示す。
第4実施の形態のブレーキディスク10Aにおいては、第2実施の形態の溝15の代わりに、小さな幅を有する溝15Aが採用される。溝15Aの幅は、貫通孔12のディスク板部の表面側(ブレーキディスク10Aの摺動面側)の開口部12Fの直径よりも小さく、具体的には、開口部12Fの直径は例えば36mm、溝15Aの幅は例えば5mm、10mm、20mmなどである。開口部12Fが円形でない場合には、溝15Aの幅は、開口部12Fのディスク板部の半径方向における幅よりも小さい。溝15Aの幅とは、溝15Aのディスク板部の半径方向における幅を意味する。
【0038】
ブレーキディスク10Aの表面は、制動力を発生させるために摺接部材200が接触する。このため、ブレーキディスク10Aの摺動面に設けられた溝15Aは、摺動面を小さくする。摺動面が小さくなると、摺接部材200の圧力が同じ場合、制動力を低下させる方向に作用する。また、溝15Aの幅又は深さが大きくなると、ブレーキディスク10Aの強度を低下させる方向に作用する。
第4実施の形態のブレーキディスク10Aは、上述のように幅の狭い溝15Aが採用される。従って、第4実施の形態では、溝15Aによりボルト用の貫通孔12で生じる騒音を低減しつつ、ブレーキディスク10Aの摺動面の面積の確保および強度の維持を図ることができる。
【0039】
幅の狭い溝15Aを採用した場合、隣接する一対の開口部12Fと溝15Aとの接続形態にバリエーションが生じる。バリエーションとしては、例えば、溝15Aが、隣接する一対の開口部12Fの内周部Riを接続するパターン(
図14A)、中央部Rcを接続するパターン(
図14B)、外周部Roを接続するパターン(
図14C)がある。さらに、溝15Aが隣接する一対の開口部12Fのうち、一方の外周部Roから他方の内周部Riへ斜めに接続するパターン(
図14D)がある。さらに、隣接する一対の開口部12Fを内周部Ri同士の接続と、外周部Ro同士の接続とを交互に繰り返すパターン(以下では「千鳥状」として示す。
図14E)などがある。内周部Ri、中央部Rc、外周部Roとは、開口部12Fをブレーキディスク10Aの半径方向に等間隔で3分割した各部を示す。
第4実施の形態の溝15Aの接続パターンには、上記のような複数のパターンのうち、
図14Bから
図14Dの接続パターンが含まれ、
図14Aと、
図14Eに示す溝15Bの接続パターンは除外される。
【0040】
すなわち、第4実施の形態においては、溝15Aの幅が開口部12Fの直径の半分以下の場合、溝15Aと開口部12Fとの接続箇所は、一対の開口部12F、12Fの少なくとも一方との接続において、開口部12Fの内周部Riを除く接続箇所が採用される。内周部Riを除く接続箇所とは、開口部12Fの中央部Rc、外周部Ro、或いは、中央部Rcと外周部Roとを跨ぐ部分を意味する。溝15Aの幅は、例えば5mm、又は10mmなどが該当する
【0041】
また、第4実施の形態において、溝15Aの幅が開口部12Fの直径の半分より大きい場合には、溝15Aと開口部12Fとの接続箇所は、一対の開口部12F、12Fの少なくとも一方の接続において、開口部12Fの内周端を含まない接続箇所が採用される。内周端とは、開口部12Fのブレーキディスク10Aの内周に最も近い開口部12Fの端部を意味する。溝15Aの幅が開口部12Fの直径の半分より大きい場合とは、例えば溝幅が20mmの場合などである。なお、溝15Aは、溝幅および接続箇所に拘らずに、溝の底がボルト又はナットの頭頂部と同等の高さになる深さを有するとよい。
【0042】
<作用及び効果>
図15は、溝の幅毎に騒音の周波数と騒音レベルとの関係を示したグラフである。
図16は、溝の接続箇所毎に騒音の周波数と騒音レベルとの関係を示したグラフである。
図17は、溝の接続形態毎に1250Hz帯域から5000Hz帯域の周波数範囲の騒音レベルを示したグラフである。これらの図において、対象となる複数の溝の形態が、「接続位置−溝幅」のフォーマットで示されている。但し、「中央部−20mm」の形態は、溝15Aが開口部12Fの直径の半分以上であるため、開口部12Fの外周部Roの一部と内周部Riの一部とにも接続されるが、溝15Aの中心が中央部Rcの中心と重なるように接続された形態を示す。
図15と
図16の縦軸は、1/3オクターブバンド毎の騒音レベルを示し、
図15と
図16の横軸は1/3オクターブバンド毎の中心周波数を示す。
図17の縦軸は、1250Hz〜5000Hzの周波数範囲の騒音レベルを示している。
【0043】
対象の形態のうち、「中央−5mm」、「中央−10mm」、「中央−20mm」、「外周−10mm」、「斜め−10mm」のパターンが、第4実施の形態で採用される形態の例である。「溝なし」、「内周−10mm」、「千鳥状−10mm」のパターンは、第4実施の形態で採用されない比較形態の例である。
図15の結果から、溝15Aの幅を狭くすると、騒音低減効果は次第に低下することが分かる。一方、
図15の結果から、溝無しの場合と比較すると、5mm程度の溝でも騒音低減効果が得られることが分かる。また、
図16の結果から、溝15Aの幅が狭い場合、隣接する一対の開口部12Fの接続箇所によって騒音低減効果が異なることが分かる。
【0044】
また、
図17の結果からは、「内周−10mm」のパターンと、「千鳥状−10mm」のパターンでは、騒音は低減されるものの、その効果が小さい一方、第4実施の形態で採用されるパターンでは、顕著な騒音低減効果が得られることが分かる。これらの結果から、上述した溝15Aと開口部12Fとの接続形態を採用することで、溝15Aの箇所で発生する騒音を顕著に低減できることが分かる。
以上のように、第4実施の形態のブレーキディスク10Aによれば、摺動面積を大きく低下させることなく、ボルト用の貫通孔12によって生じる騒音を顕著に低減することができる。