(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、航空機の飛行態様を説明するための説明図である。ここでは、航空機として、パイロットを搭乗させることなく、所定の航路を無人で飛行する無人機1を挙げて説明する。無人機1は、地上において、
図1(a)に示すような予定経路2や、その予定経路2における飛行態様(飛行位置、機体速度、機体姿勢、機首方向等)が予め設定されており、設定された予定経路2を設定された飛行態様で飛行する。無人機1では、パイロットが搭乗していないので、パイロットにかかる加速度(G)の負担を考慮する必要がなく、万が一、不慮の事故が生じた場合でも人命を損なうことがない。
【0013】
しかし、無人機1にはパイロットが搭乗していないので、設定された予定経路2が飛行環境の変化により追従不可能な経路となった場合に無人機1が失速することがある。例えば、無人機1の予定経路2およびその飛行態様は、無人機1の性能が許容する範囲で決定されているものの、
図1(b)のように、不測の悪天候中における上昇命令や降下命令に対し、性能が不足して速度超過や速度不足に陥る場合がある。
【0014】
また、
図1(c)のように、飛行経路が特定されていない他の航空機3や鳥、想定外の障害物が存在すると、それらと無人機1とが接触(衝突)するおそれもある。そこで、本実施形態では、無人機1の安全飛行を確保しつつ、適切な経路を選択することが可能な飛行制御システムを提供する。以下では、本実施形態の目的である飛行制御に必要な構成を説明し、本実施形態に関係のない構成については説明を省略する。
【0015】
(飛行制御システム10)
図2は、無人機1の制御系を説明するための機能ブロック図である。無人機1は、飛行保持部12と、飛行状態センサ14と、飛行機構16と、中央制御部18とを含んで構成されている。
【0016】
飛行保持部12は、無人機1が飛行する予定経路2や、その予定経路2のそれぞれの飛行位置における飛行態様を特定可能な飛行データ等、無人機1が飛行するのに必要な様々なデータを保持する。
【0017】
飛行状態センサ14は、無人機1に設けられた航法センサ等の様々なセンサを通じて、飛行位置(経度、緯度、高度を含む)、機体速度、機体姿勢、機体が受ける風力、風向き、天候、機体周囲の気圧、温度、湿度等の現在の飛行状態を検出する。
【0018】
飛行機構16は、翼が機体に固定されている固定翼と、推進力を得る内燃機関(例えば、ジェットエンジンやレシプロエンジン)とで構成され、推進力により翼周りに揚力を生じさせることで、機体が大気中に浮上した状態を維持する。ただし、揚力を生じさせる機構はかかる場合に限らず、回転可能に設けられた回転翼(ローター)により揚力を得たり、推進力を得ることも可能である。
【0019】
また、飛行機構16では、昇降舵や補助翼(エルロン)を通じてバンク角(ロール角)、機首角(ピッチ角)、内燃機関の出力等を調整することで、飛行方位(ヨー角)、高度、飛行速度を制御することも可能である。
【0020】
中央制御部18は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路で構成され、無人機1全体を管理および制御する。また、中央制御部18は、ROMやRAMと協働して飛行制御システム10として機能する、仮想経路設定部20、第1評価部22、第2評価部24、経路決定部26、飛行制御部28としても動作する。以下、飛行制御システム10による飛行制御処理について、当該中央制御部18の各機能部の動作も踏まえて詳述する。
【0021】
(飛行制御処理)
図3は、飛行制御処理の流れを示すフローチャートである。ここでは、所定時間(例えば0.5秒)経過毎の割込信号に応じて当該飛行制御処理が実行される。飛行制御処理では、仮想経路設定部20が複数の仮想経路を設定し(S200)、第1評価部22がエンベローププロテクションを評価し(S202)、第2評価部24がミッション達成度を評価し(S204)、経路決定部26が、エンベローププロテクションおよびミッション達成度の評価に基づいて経路を決定し(S206)、飛行制御部28が無人機1を飛行制御する(S208)。
【0022】
(仮想経路設定処理S200)
無人機1は、予め設定された予定経路2に追従するように制御され、その制御結果として所定の経路を飛行する。ここでは、予定経路2に対し、実際に飛行している経路を現行経路と言う。
【0023】
仮想経路設定部20は、所定の契機、例えば、所定時間(例えば0.5秒)毎に、無人機1が飛行している現行経路を参照し、現行経路以外の複数の仮想経路を設定する。
【0024】
図4は、仮想経路設定部20が設定する複数の仮想経路を説明するための説明図である。具体的に、仮想経路設定部20は、
図4に実線で示した現行経路50、すなわち、無人機1のロール軸を中心に、ヨー方向に±10度、ピッチ方向に±10度の範囲を設定し、その範囲内において、ヨー方向およびピッチ方向に1度ずつずらした、
図4に破線で示す放射状の仮想経路52を設定する。なお、仮想経路52を設定する範囲は±10度に限らず、任意に設定することができる。
【0025】
ここで、複数の仮想経路52は、全て直線であり、ヨー方向およびピッチ方向の少なくとも一方における他の仮想経路52と1度の角度をなす。また、その仮想経路52の長さは、機体速度(m/s)×所定時間(例えば5秒)とする。なお、ここでは、説明の便宜上、仮想経路52を直線としているが、機体姿勢の変化等を踏まえた曲線で表してもよい。また、仮想経路52間の角度は1度に限らず、任意に設定することができる。
【0026】
なお、ここでは、無人機1に対し、複数の仮想経路52を設定する例を挙げて説明しているが、機体速度等、他の様々なパラメータも複数設定し、例えば、複数の仮想経路52それぞれに対し複数の機体速度を適用することもできる。
【0027】
(エンベローププロテクション評価処理S202)
第1評価部22は、現行経路50および複数の仮想経路52、具体的には、現行経路50や仮想経路52の最先端部位(例えば5秒後の機体位置)それぞれにおけるエンベローププロテクションを評価する。エンベローププロテクションは、運動荷重倍数(航空機が飛行中に受ける空気力を水平定常飛行時の荷重(機体重量)で除算した値)、機体姿勢、機体速度等について予め設定された飛行態様の許容範囲を超過しないように自動的に航空機を制御する機能である。ここでは、エンベローププロテクションとして、失速防止(機体速度)と墜落防止(機体高度)の2つを例示して説明する。
【0028】
図5は、エンベローププロテクションによる評価を説明するための説明図である。第1評価部22は、まず、
図5(a)を用いて失速防止を評価する。ここで、失速防止の評価値は、機体速度が100m/s未満で「0」、100〜150m/sの間で漸増し、150〜300m/sの間において「1」となり、300〜350m/sの間で漸減し、350m/s以上で再び「0」となる。したがって、機体速度を150〜300m/sに維持している間、失速防止の評価値として「1」を維持できる。なお、機体速度が100m/s未満であれば、飛行状態を維持できず、350m/s以上であれば、機体が破損するおそれがある。
【0029】
次に、第1評価部22は、
図5(b)を用いて墜落防止を評価する。ここで、墜落防止の評価値は、機体高度が0〜3kmの間で漸増し、3〜10kmの間において「1」となり、10〜11kmの間で漸減し、11km以上で「0」となる。したがって、機体高度を3〜10kmに維持している間、墜落防止の評価値として「1」を維持できる。
【0030】
続いて、第1評価部22は、失速防止の評価値と墜落防止の評価値とに基づいてエンベローププロテクションによる総合評価値を導出する。例えば、第1評価部22は、失速防止の評価値と墜落防止の評価値とを比較し、数値が低い方を総合評価値とする。これは、エンベローププロテクションによる評価をより厳密にするためである。したがって、失速防止の評価値および墜落防止の評価値のいずれもが「1」であれば、総合評価値も「1」となり、いずれか一方でも「1」未満となると、総合評価値も「1」未満となる。
【0031】
なお、ここでは、2つの評価値の低い方を総合評価値とする例を挙げて説明しているが、2つの評価値の平均値を総合評価値としたり、2つの評価値同士を乗じたものを総合評価値としてもよい。こうすることで、失速防止の評価値および墜落防止の評価値のいずれもが「1」であれば、総合評価値も「1」となり、いずれか一方でも「1」未満となると、総合評価値も「1」未満となる。
【0032】
また、ここでは、エンベローププロテクションとして、失速防止(機体速度)と墜落防止(機体高度)の2つを挙げて説明したが、かかる場合に限らず、機体にかかる荷重、角速度、ピッチ角等、設計上制限される様々なパラメータが所定の許容範囲に含まれているか否かで評価してもよい。この場合であっても、許容範囲に含まれていれば評価値を「1」とし、その範囲外であれば「1」より低い数値とする。
【0033】
(ミッション達成度評価処理S204)
第2評価部24は、現行経路50および複数の仮想経路52、具体的には、現行経路50や仮想経路52の最先端部位(例えば5秒後の機体位置)それぞれにおけるミッション達成度を評価する。ミッションとは、無人機1の安全飛行を確保しつつ、早期に達成すべき目的を言い、ミッション達成度は、その達成度合いを言う。ここでは、ミッション達成度として、予定経路2と、現行経路50や仮想経路52との偏差、具体的には、予定経路2と現行経路50や仮想経路52の最先端部位(例えば5秒後の機体位置)との距離を挙げて説明する。
【0034】
図6は、ミッション達成度による評価を説明するための説明図である。第2評価部24は、まず、
図6を用いて予定経路2との偏差を評価する。ここで、予定経路2との偏差の評価値は、予定経路2との偏差が0mであれば「1」となり、0〜5000mの間で漸減し、5000m以上で「0」となる。したがって、予定経路2との偏差が0mに近ければ近い程、予定経路2との偏差の評価値を「1」に近づけることができる。
【0035】
かかるミッション達成度を評価することで、無人機1は、予定経路2との偏差が小さい経路を優先的に選択するので、予定経路2に従ったフィードバック制御と同等の効果を得ることができる。
【0036】
また、ここでは、ミッション達成度として、予定経路2との偏差を挙げて説明したが、かかる場合に限らず、予定経路2それぞれにおいて設定されている飛行態様と実際の飛行態様との偏差を評価してもよい。この場合であっても、設定されている飛行態様の評価値を「1」とし、それからの偏差が広がれば「1」より低い数値とする。
【0037】
(経路決定処理S206)
経路決定部26は、エンベローププロテクションおよびミッション達成度の評価に基づいて現行経路50または複数の仮想経路52のうちいずれか1の経路を決定する。
【0038】
ここでは、まず、無人機1が失速や墜落することなく、安全に飛行することを優先するために、エンベローププロテクションの評価値を優先する。具体的に、経路決定部26は、現行経路50および複数の仮想経路52のうち、エンベローププロテクションの評価が最大となる経路を決定する。例えば、現行経路50および複数の仮想経路52が全て「1」未満であった場合、その中でも最大値となる経路が決定される。
【0039】
そして、エンベローププロテクションが確保されている場合、すなわち、現行経路50および複数の仮想経路52のうちの複数の経路の評価値が最大値「1」であれば(エンベローププロテクションの評価が複数の経路で等しければ)、ミッション達成度の評価が最大となる経路を決定する。例えば、エンベローププロテクションの評価値が複数の経路で最大値「1」であれば、ミッション達成度の評価が高い、例えば、予定経路2との偏差が小さい経路が優先的に決定される。
【0040】
(飛行制御処理S208)
飛行制御部28は、経路決定部26が決定した経路に基づきフィードバック制御により無人機1を飛行制御する。このとき、決定された経路は、次回の飛行制御処理における現行経路50となる。
【0041】
以上、説明した構成により、所定時間未来の飛行を予測することで、エンベローブプロテクションにより無人機1の安全を最優先で確保しつつ、適切な経路を選択することが可能となる。
【0042】
例えば、飛行環境の変化により急上昇が難しい場合においても、無人機1は、その予定経路2の周囲を旋回しつつ、機体速度を維持して自律的に上昇することができる。また、無人機1が他の航空機との編隊飛行を行う場合であっても、他の航空機の変位に応じて追従することが可能となる。
【0043】
また、コンピュータを飛行制御システム10として機能させるプログラムや、当該プログラムを記録した、コンピュータで読み取り可能なフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD、DVD、BD等の記憶媒体も提供される。ここで、プログラムとは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理手段を言う。
【0044】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0045】
例えば、上述した実施形態においては、第1評価部22および第2評価部24がそれぞれ評価を行い、経路決定部26が両評価に基づいて1の経路を決定する例を挙げて説明したが、かかる場合に限らず、一方の評価にのみ基づいて経路を決定してもよい。例えば、第1評価部22が、複数の仮想経路52それぞれにおけるエンベローププロテクションを評価し、経路決定部26が、エンベローププロテクションの評価のみに基づいて現行経路50または複数の仮想経路52のうちいずれか1の経路を決定してもよい。
【0046】
また、上述した実施形態においては、航空機として無人機1を挙げて説明したが、かかる場合に限らず、パイロットが不在の航空機に適用することもできる。
【0047】
また、上述した実施形態においては、飛行制御システム10として機能する、仮想経路設定部20、第1評価部22、第2評価部24、経路決定部26、飛行制御部28が全て航空機(無人機1)に設けられている例を挙げて説明したが、かかる場合に限らず、その機能部の一部を航空機とは異なる、例えば、地上に位置する装置に設け、無線通信により情報交換がなされるとしてもよい。
【0048】
なお、本明細書の飛行制御処理の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。