特許第6726391号(P6726391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6726391
(24)【登録日】2020年7月1日
(45)【発行日】2020年7月22日
(54)【発明の名称】動力伝達チェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/18 20060101AFI20200713BHJP
【FI】
   F16G5/18 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-137827(P2016-137827)
(22)【出願日】2016年7月12日
(65)【公開番号】特開2018-9618(P2018-9618A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田代 崇
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−208926(JP,A)
【文献】 特開2013−245747(JP,A)
【文献】 特開2002−242994(JP,A)
【文献】 特開2009−168175(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0270504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン進行方向に並ぶ一対の貫通孔を含み、前記チェーン進行方向および前記チェーン進行方向と直交するチェーン幅方向に並ぶ複数のリンクと、
前記チェーン幅方向に延びて各前記リンクの前記一対の貫通孔に挿通され、前記複数のリンクを相互に連結するピンと、を備え、
前記複数のリンクは、前記チェーン幅方向の最も外側に配置され前記ピンに圧入保持された最外側リンクを含み、
前記ピンのチェーン幅方向の各端部は、前記最外側リンクの外面よりも前記チェーン幅方向の外側に配置された傾斜面を含む先細り形状に形成され、
前記最外側リンクは、前記一対の貫通孔の縁部から延設され、前記ピンの前記傾斜面に係合する爪部を含む動力伝達チェーン。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達チェーンにおいて、
前記爪部は、前記ピンの前記傾斜面とは逆向きに傾斜する傾斜面を含む動力伝達チェーン。
【請求項3】
請求項1または2に記載の動力伝達チェーンにおいて、
前記チェーン幅方向の反対側に配置される一対の最外側リンクよりも前記チェーン幅方向の外側に配置されピン挿通孔が形成された一対の壁部と、前記一対の壁部間を連結する連結部とを含み、前記ピンからの前記一対の最外側リンクの抜けを防止する抜止部材を備え、
前記一対の壁部の前記ピン挿通孔の縁部が、当該ピン挿通孔に挿通された前記ピンの前記傾斜面に対して逆向きの傾斜を有して係合する傾斜面を含む動力伝達チェーン。
【請求項4】
請求項3に記載の動力伝達チェーンにおいて、
前記抜止部材の各前記壁部は、前記ピン挿通孔の前記チェーン進行方向の両側に配置された一対の柱部を含み、前記一対の柱部によって前記チェーン進行方向に隣り合う一対の最外側リンクを抜け止めするように構成されている動力伝達チェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機(CVT)用の伝動用無端ベルトとして、多数のリンクプレートを連結ピンにより無端チェーン状に連結した形式のものがある。リンクプレートからの連結ピンの抜け止め構造が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
特許文献1では、抜け止め用の一対のリテーナが、ピンの両端に圧入嵌合される第1構造が提案されている。また、一対のリテーナが、ピンの両端の外周溝に凹凸嵌合される第2構造が提案されている。また、連結部を介して連結された一対のリテーナが、ピンの両端の外周に嵌合され、前記外周に設けられる外周段部に当接してピンの長手方向に位置決めされる第3構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO05/068874号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧入嵌合を用いる第1構造では、寸法精度を厳しく管理する必要がある。また、外周溝を設ける第2構造や外周段部を設ける第3構造では、ピンの強度が低下する。
そこで、本発明の目的は、厳格な寸法精度が要求されず、且つピンの強度低下が抑制される動力伝達チェーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、チェーン進行方向(X)に並ぶ一対の貫通孔(5,6)を含み、前記チェーン進行方向および前記チェーン進行方向と直交するチェーン幅方向(W)に並ぶ複数のリンク(2)と、前記チェーン幅方向に延びて各前記リンクの前記一対の貫通孔に挿通され、前記複数のリンクを相互に連結するピン(3,4)と、を備え、前記複数のリンクは、前記チェーン幅方向の最も外側に配置され前記ピンに圧入保持された最外側リンク(21)を含み、前記ピンのチェーン幅方向の各端部(17,18)は、前記最外側リンクの外面(21a)よりも前記チェーン幅方向の外側に配置された傾斜面(31,32;41,42)を含む先細り形状に形成され、前記最外側リンクは、前記一対の貫通孔の縁部(5b,5c;6b,6c)から延設され、前記ピンの前記傾斜面に係合する爪部(51,52;61,62)を含む動力伝達チェーン(1)を提供する。
【0006】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
請求項2のように、前記爪部は、前記ピンの前記傾斜面とは逆向きに傾斜する傾斜面(51a,52a;61a,62a)を含んでいてもよい。
【0007】
請求項3のように、前記チェーン幅方向の反対側に配置される一対の最外側リンクよりも前記チェーン幅方向の外側に配置されピン挿通孔が形成された一対の壁部(91,92;91P,92P)と、前記一対の壁部間を連結する連結部(93)とを含み、前記ピンからの前記一対の最外側リンクの抜けを防止する抜止部材(90;90P)を備え、前記一対の壁部の前記ピン挿通孔(94)の縁部(95,96;95P,96P)が、当該ピン挿通孔に挿通された前記ピンの前記傾斜面に対して逆向きの傾斜を有して係合する傾斜面(95a,96a;111,121)を含んでいてもよい。
【0008】
請求項4のように、前記抜止部材の各前記壁部は、前記ピン挿通孔の前記チェーン進行方向の両側に配置された一対の柱部(97,98)を含み、前記一対の柱部によって前記チェーン進行方向に隣り合う一対の最外側リンクを抜け止めするように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明では、最外側リンクの貫通孔の縁部から延設された爪部が、ピンの端部の傾斜面に係合することで、最外側リンクからのピンの抜けが防止される。爪部を傾斜面に係合させる構造を用いるので、抜止用のリテーナが圧入嵌合される従来の場合のような厳しい寸法管理が不要である。また、ピンにリテーナ係合用の外周溝や外周段部が形成される従来の場合のようなピンの強度低下のおそれがない。
【0010】
請求項2の発明では、ピンと爪部とが、互いに逆向きの傾斜面で係合するので、ピンの抜け止め効果が高い。
請求項3の発明では、抜止部材の一対の壁部のピン挿通孔の縁部が、当該ピン挿通孔に挿通されたピンの端部の傾斜面に対して逆向きの傾斜面で係合する。このため、一対の壁部によって、リンク外れを防止しつつ、ピンの抜け止めを達成することができる。
【0011】
請求項4の発明では、抜止部材の一対の柱部によって、チェーン進行方向に隣り合う一対の最外側リンクが抜け止めされるので、構造を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機の要部構成を模式的に示す斜視図である。
図2図1のドライブプーリ(ドリブンプーリ)および動力伝達チェーンの部分的な拡大断面図である。
図3】第1実施形態の動力伝達チェーンの要部の部分断面平面図である。
図4】第1実施形態において、チェーン幅方向から見た動力伝達チェーンの概略正面図である。
図5図4の一部を拡大した動力伝達チェーンの要部の拡大正面図であり、最外側リンク周辺の構造を示している。
図6】第1実施形態において、最外側リンクと当該最外側リンクを貫通するピンの概略断面図である。
図7】第1実施形態において、抜止部材と当該抜止部材を貫通するピンの概略断面図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る抜止部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に従って説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る動力伝達チェーンを備える動力伝達装置としてのチェーン式無段変速機(以下では、単に無段変速機ともいう)の要部構成を模式的に示す斜視図である。
【0014】
図1に示すように、無段変速機100は、第1プーリとしての金属(構造用鋼等)製のドライブプーリ70と、第2プーリとしての金属(構造用鋼等)製のドリブンプーリ80と、両プーリ70,80間に巻き掛けられた無端状の動力伝達チェーン1とを備えている。無段変速機100は、自動車等の車両に搭載される。なお、図1中の動力伝達チェーン1は、理解を容易にするために一部断面を示してある。
【0015】
図2は、図1のドライブプーリ70(ドリブンプーリ80)およびチェーン1の部分的な拡大断面図である。図1および図2に示すように、ドライブプーリ70は、車両の駆動源に動力伝達可能に連なる入力軸71に取り付けられる。ドライブプーリ70は、固定シーブ72と可動シーブ73とを備えている。
固定シーブ72および可動シーブ73は、入力軸71の軸方向に対向する一対のシーブ面72a,73aをそれぞれ有している。一対のシーブ面72a,73aは、互いに逆向きに傾斜する円錐面状の傾斜面を含む。一対のシーブ面72a,73a間に、動力伝達チェーン1が嵌まる断面V字形形状の溝が区画される。動力伝達チェーン1は、一対のシーブ面72a,73aによって強圧に挟まれる。
【0016】
可動シーブ73には、溝幅を変更するための油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されている。変速時に、入力軸71の軸方向(図2の左右方向)に可動シーブ73を移動させることにより、溝幅が変化される。それにより、入力軸71の径方向(図2の上下方向)に動力伝達チェーン1が移動され、ドライブプーリ70に対する動力伝達チェーン1の巻き掛け半径(有効半径)が変化される。
【0017】
一方、ドリブンプーリ80は、図1および図2に示すように、駆動輪( 図示せず)に動力伝達可能に連なる出力軸81に一体回転可能に取り付けられている。ドリブンプーリ80は、固定シーブ82と可動シーブ83とを備えている。固定シーブ82および可動シーブ83は、出力軸81の軸方向に対向する一対のシーブ面82a,83aをそれぞれ有している。一対のシーブ面82a,83a間に、動力伝達チェーン1が嵌まる断面V字形形状の溝が区画される。動力伝達チェーン1は、一対のシーブ面82a,83aによって強圧に挟まれる。
【0018】
ドリブンプーリ80の可動シーブ83には、ドライブプーリ70の可動シーブ73と同様に油圧アクチュエータ(図示せず)が接続されている。変速時に、この可動シーブ83を移動されて溝幅が変化される。その結果、動力伝達チェーン1が、出力軸81の径方向に移動されて、ドリブンプーリ80に対するチェーン1の巻き掛け半径が変化される。
図3は、動力伝達チェーン1の要部の部分断面平面図である。図4は、チェーン幅方向Wから見た動力伝達チェーン1の概略正面図である。図5は、図4の一部を拡大した動力伝達チェーン1の要部の拡大正面図である。
【0019】
図1図3に示すように、動力伝達チェーン1のチェーン進行方向に沿う方向を「チェーン進行方向X」と言い、チェーン進行方向Xと直交し、且つ動力伝達チェーン1の幅方向に沿う方向を「チェーン幅方向W」と言う。チェーン進行方向X(図2において紙面と直交する方向)およびチェーン幅方向Wの双方に直交する方向を「直交方向V」と言う。直交方向Vの一方がチェーン内径側V1となり、直交方向Vの他方がチェーン外径側V2となる。
【0020】
図3および図4に示すように、動力伝達チェーン1は、チェーン進行方向Xおよびチェーン幅方向Wに並ぶ複数のリンク2と、これらのリンク2を屈曲可能に連結しチェーン幅方向Wに延びる第1連結部材11および第2連結部材12と、両連結部材11,12からのリンク2の抜け止めをする抜止部材90とを備える。
図5に示すように、各リンク2は、チェーン幅方向Wから見て概ね矩形状に形成された例えば鋼製の板状の部材からなる。各リンク2は、チェーン進行方向Xに並ぶ第1貫通孔5および第2貫通孔6を形成している。第1貫通孔5は、第2貫通孔6よりもチェーン進行方向X側に配置されている。
【0021】
各リンク2は、両貫通孔5,6をチェーン進行方向Xに挟んで配置された第1外柱部7および第2外柱部8と、第1貫通孔5および第2貫通孔6間を仕切る中間柱部9とを含む。第1外柱部7は、第2外柱部8よりもチェーン進行方向X側に配置されている。
第1連結部材11が第1貫通孔5に挿通され、第2連結部材12が第2貫通孔6に挿通されている。第1連結部材11および第2連結部材12のそれぞれは、対をなす動力伝達ピンとしての第1ピン3および第2ピン4を含んでいる。
【0022】
各連結部材11,12の第1ピン3および第2ピン4は、第2ピン4が前側(チェーン進行方向X側)に配置され、第1ピン3が後側(チェーン進行方向Xの反対側XB)に配置された状態で、互いに対向している。これら第1ピン3および第2ピン4は、対応するリンク2同士の屈曲に伴い互いに接触部Aで転がり摺動接触する。転がり摺動接触とは、転がり接触およびすべり接触の少なくとも一方を含む接触のことをいう。
【0023】
図3に示すように、第1ピン3および第2ピン4は、チェーン幅方向Wに延びる長尺(板状)の部材である。第1ピン3の長手方向(チェーン幅方向W)の一対の端部17および第2ピン4の長手方向(チェーン幅方向W)の一対の端部18が、チェーン幅方向Wに並ぶリンク2の列においてチェーン幅方向Wの一対の端部に配置される一対のリンク2からチェーン幅方向Wの外側へ、それぞれ突出している。
【0024】
第1ピン3および第2ピン4は、プーリ70,80と動力伝達する動力伝達ピンを構成している。すなわち、図2に示すように、動力伝達ピンとしての各ピン3,4のチェーン幅方向Wの一対の端部17,18の端面17a,18aが、各プーリ70,80に接触している。
具体的には、各ピン3,4の端面17a,18aの一部に設けられる接触領域Eが、各プーリ70,80のシーブ面72a,73a(82a,83a)に潤滑油膜を介して動力伝達可能に摩擦係合する。両ピン3,4は、シーブ面72a,73a(82a,83a)間に挟持され、これにより、両ピン3,4と各プーリ70,80との間で動力が伝達される。各ピン3,4は、その端面17a,18aによって直接動力伝達に寄与するため、例えば、軸受用鋼(SUJ2)等の高強度耐摩耗材料で形成されている。
【0025】
図2に示すようにチェーン進行方向Xから見たときに、第1ピン3の一対の端部17の外周面17bのそれぞれは、直交方向Vに対向する第1傾斜面31および第2傾斜面32を含む。第1傾斜面31および第2傾斜面32は、チェーン進行方向Xから見たときに、第1ピン3の端部17が先細り状となるように、互いに逆向きに傾斜している。
チェーン進行方向Xから見たときに、第2ピン4の一対の端部18の外周面18bのそれぞれは、直交方向Vに対向する第1傾斜面41および第2傾斜面42を含む。第1傾斜面41および第2傾斜面42は、チェーン進行方向Xから見たときに、第2ピン4の端部18が先細り状となるように、互いに逆向きに傾斜している。
【0026】
複数のリンク2は、チェーン幅方向Wの最も外側に配置される複数対の最外側リンク21を含む。第1ピン3の両傾斜面31,32および第2ピン4の両傾斜面41,42は、最外側リンク21の外面21aよりもチェーン幅方向Wの外側に配置されている。
各ピン3,4を先細り状とする傾斜面31,32;41,42は、各ピン3,4をリンク2に対して圧入するときの案内用として、通例、設けられるものである。
【0027】
図5に示すように、リンク2において、第1貫通孔5の内周5aは、直交方向Vに対向する第1縁部5bと第2縁部5cとを含む。第1縁部5bは、第2縁部5cよりもチェーン外径側V2側に配置されている。また、第2貫通孔6の内周6aは、直交方向Vに対向する第1縁部6bと第2縁部6cとを含む。第1縁部6bは、第2縁部6cよりも、チェーン外径側V2側に配置されている。
【0028】
最外側リンク21が、残りのリンク2と異なるのは、最外側リンク21が、第1貫通孔5の第1縁部5bおよび第2縁部5cからそれぞれ延設された第1爪部51および第2爪部52を含み、第2貫通孔6の第1縁部6bおよび第2縁部6cからそれぞれ延設された第1爪部61および第2爪部62を含む点である。
図6は、最外側リンク21とこれを貫通するピン3(4)の断面図である。図6に示すように、チェーン進行方向Xから見て、各爪部51,52;61,62は、対応する縁部5b,5c;6b,6cからチェーン幅方向Wに対して傾斜状に延設されている。
【0029】
図5および図6に示すように、最外側リンク21において、第1爪部51および第2爪部52は、直交方向Vに対向して配置されている。第1爪部51は、第2爪部52よりもチェーン外径側V2に配置されている。第1爪部61および第2爪部62は、直交方向Vに対向して配置されている。第1爪部61は、第2爪部62よりもチェーン外径側V2に配置されている。
【0030】
第1爪部51は、第1貫通孔5に挿通された第1ピン3の第1傾斜面31および第2ピン4の第1傾斜面41に係合している。図6に示すように、第1爪部51は、各ピン3,4の第1傾斜面31,41とは逆向きの傾斜で各ピン3,4の第1傾斜面31,41と係合する傾斜面51aを有している。
図5および図6に示すように、第2爪部52は、第1貫通孔5に挿通された第1ピン3の第2傾斜面32および第2ピン4の第2傾斜面42に係合している。図6に示すように、第2爪部52は、各ピン3,4の第2傾斜面32,42とは逆向きの傾斜で各ピン3,4の第2傾斜面32,42と係合する傾斜面52aを有している。
【0031】
図5および図6に示すように、第1爪部61は、第2貫通孔6に挿通された第1ピン3の第1傾斜面31および第2ピン4の第1傾斜面41に係合している。図6に示すように、第1爪部61は、各ピン3,4の第1傾斜面31,41とは逆向きの傾斜で各ピン3,4の第1傾斜面31,41と係合する傾斜面61aを有している。
図5および図6に示すように、第2爪部62は、第2貫通孔6に挿通された第1ピン3の第2傾斜面32および第2ピン4の第2傾斜面42に係合している。図6に示すように、第2爪部62は、各ピン3,4の第2傾斜面32,42とは逆向きの傾斜で各ピン3,4の第2傾斜面32,42と係合する傾斜面62aを有している。
【0032】
図3に示すように、動力伝達チェーン1は、チェーン進行方向Xに関する同位相でチェーン幅方向Wに並ぶ複数のリンク2でそれぞれ構成される第1リンク列201、第2リンク列202および第3リンク列203をこの順でチェーン進行方向Xに並べて1つのリンクモジュール200としている。リンクモジュール200をチェーン進行方向Xに複数連結して、無端状をなす動力伝達チェーン1が形成されている。
【0033】
第1リンク列201、第2リンク列202および第3リンク列203は、それぞれ1つしか図示されていないが、チェーン進行方向Xに沿って、第1リンク列201、第2リンク列202および第3リンク列203が繰り返すように配置されている。すなわち、リンクモジュール200が、チェーン進行方向Xに繰り返すように配置されている。そして、チェーン進行方向Xに互いに隣接する2つのリンク列のリンク2同士が、対応する連結部材11,12によって順次に連結され、無端状をなす動力伝達チェーン1が形成されている。
【0034】
第1リンク列201は、チェーン幅方向Wの最も外側に配置された一対の第1外側リンクである最外側リンク21を含む。また、第2リンク列202は、チェーン幅方向Wの最も外側に配置された一対の第2外側リンク22を含む。また、第3リンク列203は、チェーン幅方向Wの最も外側に配置された一対の第3外側リンク23を含む。
リンクモジュール200において、一対の第3外側リンク23は、一対の第2外側リンク22よりもチェーン幅方向Wの内側に配置されている。一対の第2外側リンク22は、一対の第1外側リンク(最外側リンク21)よりも、チェーン幅方向Wの内側に配置されている。このため、リンクモジュール200において、最外側リンク21(第1外側リンク)のピン3,4からの抜脱を抑制することにより、リンクモジュール200の全リンク2の抜脱の抑制が可能である。
【0035】
動力伝達チェーン1は、いわゆる圧入タイプのチェーンとされている。具体的には、図5に示すように、第1ピン3は、各リンク2の第1貫通孔5に相対移動可能に遊嵌されていると共に、各リンク2の第2貫通孔6に相対移動を規制されるようにして圧入嵌合されている。また、第2ピン4は、各リンク2の第1貫通孔5に相対移動を規制されるようにして圧入嵌合されていると共に、各リンク2の第2貫通孔6に相対移動可能に遊嵌されている。
【0036】
換言すれば、各リンク2の第1貫通孔5には、第1ピン3が相対移動可能に遊嵌されているとともに、この第1ピン3とは対をなす第2ピン4が相対移動を規制されるようにして圧入嵌合されている。また、各リンク2の第2貫通孔6には、第1ピン3が相対移動を規制されるように圧入嵌合されているとともに、この第1ピン3とは対をなす第2ピン4が相対移動可能に遊嵌されている。
【0037】
具体的には、リンク2の第1貫通孔5の内周5aは、第2ピン4が圧入固定される第2ピン固定部13を含む。第1貫通孔5において、第2ピン固定部13に圧入固定された第2ピン4によって占められている部分を除く空間が、第1ピン3が移動可能に嵌め合わされる第1ピン可動部14とされている。
第2貫通孔6の内周6aは、第1ピン3が圧入固定される第1ピン固定部15を含む。第2貫通孔6において、第1ピン固定部15に圧入固定された第1ピン3によって占められている部分を除く空間が、第2ピン4が移動可能に嵌め合わせられる第2ピン可動部16とされている。
【0038】
第1ピン3は、チェーン進行方向X側の前部3aと、チェーン進行方向Xの反対側XBの後部3bとを含む。第2ピン4は、チェーン進行方向X側の前部4aと、チェーン進行方向Xの反対側XBの後部4bとを含む。第1貫通孔5内に遊嵌された第1ピン3の後部3bおよび第2貫通孔6内に遊嵌された第2ピン4の前部4aが、それぞれ、中間柱部9に対向している。
【0039】
各連結部材11,12において、同じ貫通孔5(6)に挿通された第1ピン3の前部3aと第2ピン4の後部4bとが、チェーン進行方向Xに隣接するリンク2間の屈曲に伴って、互いに転がり摺動接触することにより、両ピン3,4の接触部Aは変位する。
各リンク2が動力伝達チェーン1の直線領域から曲線領域へまたは曲線領域から直線領域へと移行する際、第1貫通孔5においては、第1ピン3が固定状態の第2ピン4に対して接触部Aで転がり接触(若干のすべり接触を含む)しながら第1ピン可動部14内を移動し、第2貫通孔6においては、第2ピン4が第2ピン可動部16内を固定状態の第1ピン3に対して接触部Aで第1ピン3の接触面に転がり接触(若干のすべり接触を含む)しながら移動する。
【0040】
なお、各貫通孔5,6において、第1ピン3の前部3aと第2ピン4の後部4bとの接触部Aは、動力伝達チェーン1が、正側(プーリ70,80のシーブ面72a,73a;82a,83a間に進入するときの屈曲方向)に屈曲すると、チェーン外径側V2へ移動し、動力伝達チェーン1が負側に屈曲すると、チェーン内径側V1へ移動する。
次いで、図3図4および図7を参照して、抜止部材90を説明する。抜止部材90は、一対の壁部91,92と、一対の壁部91,92間を連結する連結部93とを含む。チェーン進行方向Xから見て、抜止部材90は、図7に示すように、溝形に形成されている。すなわち、一対の壁部91,92のチェーン外径側V2の端部どうしが、連結部93によって連結されている。
【0041】
図3および図7に示すように、一対の壁部91,92は、チェーン幅方向Wの反対側に配置される一対の最外側リンク21よりもチェーン幅方向Wの外側に配置される。図4および図7に示すように、各壁部91,92には、略矩形のピン挿通孔94が形成されている。ピン挿通孔94は、直交方向Vに対向する第1縁部95と第2縁部96とを含む。第1縁部95は、第2縁部96よりもチェーン外径側V2に配置されている。
【0042】
図4に示すように、第1縁部95は、チェーン進行方向Xに関して隣り合う一対の最外側リンク21間に配置される第1連結部材11(又は第2連結部材12)の第1ピン3および第2ピン4の第1傾斜面31,41に対して逆向きの傾斜を有して係合する傾斜面95a(図7参照)を含む。
図4に示すように、第2縁部96は、チェーン進行方向Xに関して隣り合う一対の最外側リンク21間に配置される第1連結部材11(又は第2連結部材12)の第1ピン3および第2ピン4の第2傾斜面32,42に対して逆向きの傾斜を有して係合する傾斜面96a(図7参照)を含む。
【0043】
図7に示すように、一対の壁部91,92の傾斜面95a,96aが、各ピン3,4の傾斜面31,41;32,42に係合することで、リンク2からの各ピン3,4の抜けが防止される。
図4に示すように、また、一対の壁部91,92のそれぞれは、ピン挿通孔94のチェーン進行方向Xの両側に配置された一対の柱部97,98を含む。一対の柱部97,98は、チェーン進行方向Xに隣り合う一対の最外側リンク21の対応する外柱部7,8のチェーン幅方向Wの外側に配置される。
【0044】
換言すると、図5に示すように、最外側リンク21の各外柱部7,8のチェーン幅方向W(図5において紙面と直交する方向)の外側に、当該最外側リンク21のチェーン進行方向Xの両側に配置される一対の抜止部材90の壁部91,91(92,92)の柱部97,98が配置される。これにより、両ピン3,4から最外側リンク21が抜けることが防止される。
【0045】
本実施形態では、図5に示すように、最外側リンク21の各貫通孔5,6の第1縁部5b,6bおよび第2縁部5b,5cから延設された第1爪部51,61および第2爪部52,62が、図6に示すように、各ピン3,4の端部17,18の第1傾斜面31,41および第2傾斜面32,42に係合することで、最外側リンク21からのピン3,4の抜けが防止される。
【0046】
第1爪部51,61および第2爪部52,62を、それぞれ、第1傾斜面31,41および第2傾斜面32,42に係合させる構造を用いるので、抜止用のリテーナが圧入嵌合される従来の場合のような厳しい寸法管理が不要である。また、各ピン3,4に、従来のようなリテーナ係合用の外周溝や外周段部を形成する必要がないので、各ピン3,4の強度低下のおそれがない。
【0047】
また、爪部51,52;61,62が最外側リンク21自体に設けられるので、製造コストを安くすることができる。各ピン3,4の傾斜面31,32;41,42も、各ピン3,4をリンク2に圧入するときの案内用として、通例、設けられるものであり、コスト上昇を招来するものではない。
また、最外側リンク21以外のリンク2や各ピン3,4の基本形状を変更する必要がなく、これらの部品の共通化を図ることができる。このため、製造コストを安くすることができるとともに、汎用性に優れる。
【0048】
また、各ピン3,4の第1傾斜面31,41および第2傾斜面32,42と、対応する第1爪部51,61の傾斜面51a,61aおよび第2爪部52,62の傾斜面52a,62aとが、互いに逆向きの傾斜で係合するので、ピン3,4の抜け止め効果が高い。
また、図5に示すように、抜止部材90の一対の壁部91,92のピン挿通孔94の第1縁部95および第2縁部96が、ピン挿通孔94に挿通されたピン3,4の対応する第1傾斜面31,41および第2傾斜面32,42対して逆向きの傾斜で係合する。このため、一対の壁部91,92によって、リンク2の外れを防止しつつ、ピン3,4の抜け止めを達成することができる。
【0049】
また、図4に示すように、抜止部材90の一対の柱部97,98によって、チェーン進行方向Xに隣り合う一対の最外側リンク21が抜け止めされるので、構造を簡素化することができる。また、溝形をなす抜止部材90は、動力伝達チェーン1の組立の最終行程で取り付ければよく、組立性がよい。
(第2実施形態)
図8は本発明の第2実施形態の抜止部材90Pの斜視図である。第2実施形態の抜止部材90Pが、図4の第1実施形態の抜止部材90と主に異なるのは、下記である。すなわち、抜止部材90Pの第1壁部91Pおよび第2壁部92Pのそれぞれの第1縁部95Pおよび第2縁部96Pが、それぞれが、ピン挿通孔94内へ直交方向Vに突出する第1内向突起110および第2内向突起120を含む。各内向突起110,120は弾性を有している。
【0050】
第1内向突起110の先端が、第1ピン3および第2ピン4の第1傾斜面31,41に対して逆向きの傾斜を有して係合する傾斜面111を含む。第2内向突起120の先端が、第1ピン3および第2ピン4の第2傾斜面32,42に対して逆向きの傾斜を有して係合する傾斜面121を含む。
本実施形態では、各内向突起110,120が弾性を有しているので、抜止部材90Pを両ピン3,4に取り付け易くなり、組立性が向上する。
【0051】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、図示してないが、抜止部材90;90Pの連結部93が、一対の壁部91,92;91P,92Pのチェーン内径側V1の端部どうしを連結するようにしてもよい。この場合、連結部93が、リンク2よりもチェーン内径側V1に配置されるので、遠心力を受けた抜止部材90;90Pが、動力伝達チェーン1から脱落することを抑制することができる。その他、本発明は、特許請求の範囲記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0052】
1…動力伝達チェーン、2…リンク、3…第1ピン、4…第2ピン、5…第1貫通孔、5b…第1縁部、5c…第2縁部、6…第2貫通孔、6b…第1縁部、6c…第2縁部、7…第1外柱部、8…第2外柱部、11…第1連結部材、12…第2連結部材、17,18…端部、17a,18b…端面、17b,18b…外周面、21…最外側リンク、21a…外面、31…第1傾斜面、32…第2傾斜面、41…第1傾斜面、42…第2傾斜面、51…第1爪部、51a…傾斜面、52…第2爪部、52a…傾斜面、61…第1爪部、61a…傾斜面、62…第2爪部、62a…傾斜面、90;90P…抜止部材、91,92;91P,92P…壁部、93…連結部、94…ピン挿通孔、95;95P…第1縁部、95a…傾斜面、96;96P…第2縁部、96a…傾斜面、97,98…柱部、100…無段変速機、110…第1内向突起、111…傾斜面、120…第2内向突起、121…傾斜面、200…リンクモジュール、201…第1リンク列、202…第2リンク列、203…第3リンク列、V…直交方向、V1…チェーン内径側、V2…チェーン外径側、W…チェーン幅方向、X…チェーン進行方向、XB…チェーン進行方向の反対側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8